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シナリオ詳細

【落陽に堕つる】荒野の決闘

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ねえ
 みんなは『篤志の鴉』を知っている?
 篤志……えっと、そうだね。
 思いやりとか、仁に篤いとか、そんな意味。
 じゃあ、いい話なのかって?

 ……ううん。違うんだ、ぜんぜんそんなのじゃ……。

●はじまり
 すこし、遅くなってしまった。夜の気配が雨音にまつわりついていた。
 サンティール・リアン (p3p000050)たちは傘を閉じて教会へ入った。したたり落ちる雨は涙のよう。ガラス窓を叩いて「行かないで」と訴えているかに見える。
 けれどその人は棺の中、穏やかな顔で花に囲まれていた。
「眠っているようだな」
 アーマデル・アル・アマル (p3p008599)がぽつりとつぶやく。
「リアン様、皆様、よくぞお越しくださいました。主人も喜んでいる事でしょう」
 幽鬼じみた青い顔のまま、老婦人が型通りの礼を述べる。
「……こちらこそ遅れてすまなかった。故人へ最後の別れを告げても?」
 チック・シュテル (p3p000932)が控えめに申し出た。
「もちろんでございます。どうぞ前へ」
 喪主らしい息子が、棺の脇から一歩退く。
 小さな教会は哀しみであふれていた。そこここですすり泣きが聞こえ、故人がいかに慕われていたかを示していた。気のいい宝石商だった。出世払いだと言って旅の身のサンティールへたっぷりとごちそうを恵んでくれた。あの時の快活な笑い声は今も忘れられない。彼が天へ召されたと聞いたサンティールは、とるものもとりあえず葬儀へ急いだ。彼女と事情を共有した仲間たちと一緒に。
 サンティールに続いて天空寺 吹雪 (p3p008449)が献花をする。棺の中へ花を入れた時、故人の胸の上に見慣れないものを見つけてまばたきをした。美しい布に包まれたそれは……。
「もしかして、『斜陽の輝石』なの?」
 息子は何故か苦い顔をしてうなずいた。
「父が生前からとりわけ愛していた宝玉です。共に眠りたいと遺書にありましたし、私どももそれが一番だと考えました。きっと死後の旅路で父の慰めになってくれるでしょう」
「ああ、それがいいさ。親孝行になる」
 疑問に思いながらも、ブラッド・バートレット (p3p008661)は無表情の中へかすかにぬくもりをにじませた。
 牧師の説教を聞きながら、カーツ・アーディ (p3p007355)は故人の顔を覗き見た。
(なんの憂いもない、いい顔してやがる)
 それは自分の人生への自信の現れか、それとも胸に抱いた輝石のおかげか。どちらであれ、うらやましいとすら感じられた。
 式は粛々と進み、外は真っ暗になっていた。雨音だけが天井のあたりにたまっている。やがて出棺の時が来た。棺のふたが閉じられ、男たちが沈鬱な表情のまま棺を担ぎ上げた。
 埋葬の列へ、サンティールたちは静かについていった。
 雨が降っていた。
 雨が降っていた。その手には傘だけだった。だから、などと、サンティールたちは言い訳はすまい。
 鋭い羽ばたきが皆の耳を叩いた。次の瞬間、棺は遺体ごとまっぷたつに切り裂かれていた。敵襲だと気付いた瞬間、イレギュラーズは己の腰をまさぐり、葬式のために得物を置いてきたことを思い出した。
「くっ!」
 サンティールは傘を閉じ、槍のようにそれで影を突いた。だが、やみくもに突き出した傘は当然のように躱され、嘲笑が響いた。
「魂を失った者には過ぎる宝玉だわ。此れは慈悲。神には齎せぬ、生者にのみ与えられた愛のカタチよ。――ねェ、アナタ。違っていて?」
 カンテラのなよなよしい灯りが、黒い翼を背負い曲刀を手にしたおんなの体をでたらめに映した。その場にいた誰もが、おんなの手に『斜陽の輝石』が握られていることに気づいた。
「引くわよ、皆」
 突然の襲撃は、それと同じくらいの唐突さで終わった。人的被害はゼロ。だが。
「おお、お、あなた、あなた……」
 老婦人がよろよろと棺へ駆け寄る。夫の遺体は、二目とみられぬ姿になっていた。
 降り続く雨が、こぼれた血をじっとりと溶かしていった。

●依頼
 ローレットの扉を開けた老婆が、よたよたとカウンターへ向かう。
「母さん、無理はしないでください!」
 息子がその背を追い、体を支える。痩せさばらえ骨と皮ばかりになった老婆は、あの日の老婦人だった。今にも倒れそうな見た目とは裏腹に、哀しみと怒りで目だけが熾火のように燃えている。
「待っていたよ」
 サンティールが立ち上がり、老婆を抱きとめた。他のメンツも、それぞれに反応を返す。
「あの日の仇を、僕たちにとらせて」
「ああ、ああ、聞いてくださるというのですね、この哀れな婆の恨み言を……」
 老婆は悔しげに首を振り、サンティールをきつく抱きしめた。そうしなければ激情のあまり、憤死せんばかりだった。
「あれからわたしたち、調べたんだよ。あの晩の襲撃者が何者なのか」
 吹雪が資料を取り出す。
「盗賊団『篤志の鴉』。普段は屍、或いは墓所から金品を剥ぎ取ることを生業としている。こんな大胆な犯行は例がない」
 ブラッドが顔をしかめる。ただ輝石を奪うだけならば、いつものようにハイエナとして墓所をあさればよかっただけの話だ。式の最中、堂々と参列者を襲う墓荒らしなど聞いたことがない。
「魅せられたんじゃねえの。『斜陽の輝石』に。何せあいつには不吉な噂があるらしいからな」
 カーツがちらりと息子へ視線を流した。息子は鞭で打たれたように体をこわばらせる。
「……はい、もはや隠しても仕方がありませんね。『斜陽の輝石』は持ち主に不幸を呼ぶと裏で噂されていました。それでもあの宝玉を愛してしまった父は、不幸は自分の代で終わりにする。だから一緒に眠らせてほしいと生前から常々……」
「ところが噂を聞いた盗賊が好奇心から探りを入れ、そのまま心を奪われてしまった。だけど、その時はまだ宝石商が健在だったから手が出せなかった、というあたりかな」
 チックが唇を撫でながら推測を話す。
「宝玉へ横恋慕したそいつの名はヴァローナ・カシマール。鴉の飛行種。4人の部下も全員飛行種」
 アーマデルが地図を取り出す。
「アジトの場所も調べ上げた。いつでも殴りこめる」
「そこまでしてくださったのですね」
 泣き崩れる老婆。息子は母を椅子へ座らせ、あなたたちへ頭を下げた。
「母に代わり、お願い申し上げます。どうか父を貶めた盗賊団を成敗し、『斜陽の輝石』をとりもどしていただきたい」

GMコメント

みどりです。リクエストありがとうございます。
目の前で『斜陽の輝石』を奪われたみなさんは、リベンジとして依頼を受けることにしました。
荒野の決闘と参りましょう。

やること
1)盗賊団を殴って『斜陽の輝石』をとりかえす。生死不問。

●エネミー
盗賊団『篤志の鴉』
部下×4人
戦闘能力は皆さんよりやや下くらいです。
麻痺、暗闇、封印などのBSを使ってきますが、頻度は低く、どちらかというと近距離での肉弾戦をメインとします。
また飛行をもち、安易なマーク・ブロックは抜けられる可能性があります。

ヴァローナ・カシマール
鴉の飛行種
なかなかに根性の曲がった娘さんで、篤志の鴉のボスです。
強力な盗賊で曲刀の扱いにたけており、まれにR4万能攻撃もしてきます。
BSは使っていませんが一撃が重いタイプです。
二人以上でかからなければ抑えることも難しいでしょう。
部下と同じく飛行を所持します。
『斜陽の輝石』は彼女が隠し持っています。非常に注意深く身につけているため、戦闘中の奪還は困難です。代わりに戦いの余波を受けることもありません。
安心して殴ってください。

●戦場
荒野
足元ペナルティ特になし

  • 【落陽に堕つる】荒野の決闘完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月26日 22時10分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

サンティール・リアン(p3p000050)
雲雀
チック・シュテル(p3p000932)
燈囀の鳥
カーツ・アーディ(p3p007355)
血天碧落
天空寺 吹雪(p3p008449)
心はヒーロー
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ブラッド・バートレット(p3p008661)
0℃の博愛

リプレイ


 熱砂まじりの風が吹く。直射日光が陽炎を立ち昇らせている。あちらに見えるは逃げ水か。ナイフのような光、ぎらり。長い影を引きずり、一行は盗賊団のアジトを目指す。
「こっちでの『本番』は初めてだから気をつけないと。生身やグランセイバーを操縦するのとも、同族との共生ともなんか感覚が違うし」
 不安げにこぼす『心はヒーロー』天空寺 吹雪(p3p008449)の背中を、『雲雀』サンティール・リアン(p3p000050)が優しく叩いた。
「だいじょうぶ、みんながいっしょだよ。ね、チック!」
「うん……。背中は、任せて……。」
『埋れ翼』チック・シュテル(p3p000932)は、サンティールの言葉が空元気だと気付いていた。彼女も吹雪同様、自信があると言えばウソになるかもしれない。それでも、前を向き続けるその姿勢が眩しい。そんなサンティールが微笑ましくチックは目を細めた。吹雪がよし、と拳を握る。
「当たって砕け、だね」
「砕けろじゃなくて?」
「砕けたら帰ってこれないじゃない。おうちに帰るまでが依頼だもの」
「そうだね吹雪。目的を達成して、みんなで無事におうちに帰ろう」
 サンティールが片手をあげた。吹雪も心得顏で同じように。ハイタッチ、絶対、この依頼を成功させよう。口に出さずともふたりの瞳にはそう浮かんでいた。
「どんなに心奪う……輝石だとしても。それは、大切な……お別れの儀式に、手向けられた、もの。……それを、奪われる。許されること、違う。」
 チックも決意を新たにする。サーカスで縁をつないだサンティール、葬列を共にした皆がここにいる。仲間として。互いに強い絆を結び。
「……うん。きっと、一緒なら、乗り越えられる。よね。おばあさんや、家族の……助けになる『お手伝い』、する為に。……頑張ろう。」
「そうだな。死者の旅出を邪魔するヤツは、蛇に巻かれて呑まれてしまえ……と俺の故郷では言う」
 まあ、実際に始末をつけるのは、俺のような末端なんだがなと胸の内でつぶやく。思い出すのは遠い旧世界、死と復讐を司る神の御許に『新たな可能性』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は身を寄せていた。教団、と呼ぶところだったのだろう。表向きは冠婚葬祭と屍人退治を、裏では暗殺を請け負う光と闇とに分かれた教団。あの時かすかに抱いた疑念が、今アーマデルにヒトとしての確信を抱かせ、混沌での現在へ至る。
「どのような者であれ、行いを正す事ができれば神は許しを与えてくださる」
 アーマデルとは逆の信念を持って、『0℃の博愛』ブラッド・バートレット(p3p008661)は空を飛び行く鳥を眺めた。鳥はくるりと輪を描くと、来た道を戻っていく。一行の目的地、アジトのある方向だ。
「ただ懺悔の時間を与えようにも、まずは話を聞いていただかなければ」
 ブラッドのセリフにアーマデルが、がりがりと頭をかく。
「遺族の心情を慮ればどうするのが最良かはわからないが、裁く法があるのならそれを信じたい、とは俺も思うぞ」
「ええ、不殺を徹底し、官警にあとは任せる。それが今回はいい流れでしょうね。牢の中に入れば、自分たちのしてきたことの大きさに気づけるでしょう」
 その時、ふわりと『血天碧落』カーツ・アーディ(p3p007355)が宙に浮いた。
「ダンスの相手が来てるぜ」
 思わず足を止め、警戒する一同。
 陽炎の向こうから、5つの人影が現れた。曲刀を抜いた麗しい女を守るように4人の部下が立っている。
「何をしに来たのかしら。返答次第ではただでは済まさないわ」
 女はそう言った。
「気づいてたの。僕たちの事」
「ファミリアーって知ってるかしら、こちらだって警戒くらいはしているものよ」
 女はうっそりと笑った。赤い唇を舌が這う。その目は獲物を狙う鷹のそれだ。サンティールは勇気を振り絞り、声を大にした。
「ヴァローナ・カシマールだね。斜陽の輝石を返してもらう」
 女は合点がいったように胸元を押さえた。
「ふふふ、はははは、あっはははははは! いいわ、やれるものならやってごらんなさい。勇敢なお嬢ちゃんたち。あなたたちがどこまでやれるのか、見てあげるわ」
「尊大だな。元はただの墓荒らしのくせに」
 せせら笑うヴァローナ。だがカーツは余裕の態度を崩さない。
「大事な人とのおわかれを邪魔するのは野暮だって、教わらなかったか、小鳥ちゃん? なに、その石を持つと不幸になるって触れ込みなんだろ? だったらお前らにも不幸が訪れないとおかしいって訳だ」
「行くよ、成敗!」
 サンティールが気を吐き、戦いの幕が切って落とされた。



(きっと相手も飛行を使ってくる)
 そう考えたサンティールは対抗するべく宙へ躍り出た。素早さを活かしてヴァローナに接近する。そしてその愛くるしい瞳に浮かぶ眼力によってヴァローナの足を縫い留めた。
「そらは僕の領域でもある。行かせないよ、きみの自由は僕のものだ」
「いい着眼点ね、緑のお嬢ちゃん。でも私が空を舞うのは邪魔できないし、遠距離攻撃を封じられるわけでもないわ」
「そう。じゃあ、これならどう!?」
 サンティールが浮かびかけたヴァローナの頭を掴む。同時にその手へ神秘の力を込めると、淡い緑の燐光が舞いだした。勢いそのままに掌打を見舞う。
「ぐっ!」
 ヴァローナが大地へたたきつけられる。ショウ・ザ・インパクトによって大量の失調を植え付けられ、彼女の顔が不機嫌そうにゆがむ。
「アーマデル、お願い!」
「言われなくともわかってる」
 ヴァローナが息をのんだ。いつのまにそこへ居たのだろうか。死角からアーマデルが姿を現した。その褐色の肌が日を受けて煌めく。すばやく体勢を立て直したヴァローナに、アーマデルは躊躇せず襲い掛かった。蛇鞭剣ウヌクエルハイアが黒い炎に染まっていく。柄側から始まったそれは、やがて刃先へ至る。背後からヴァローナへ斬りかかった鞭剣は彼女へ重い火傷と毒をもたらした。前後からのマーク、上空からのショウ・ザ・インパクトの飛効果。ヴァローナは完全に囲われ、足止めされた。だが、彼女は哄笑する。
「反撃と行きましょうか。どちらから荒野に沈みたい?」
 銀光が走り、アーマデルは胸元を切り裂かれた。
「ぐっ!」
「これだけの力を持った手合いとの死合、忘れてたわこの死線を渡る感覚。高揚するの。さあ、もっと本気を出して」
 淫靡な笑みを口元に張り付けたまま、ヴァローナは血の滴る曲刀をぺろりとなめた。
「手加減、なんてしてられないね」
「……そうみたいだな」
 サンティールとアーマデルはごくりと生唾を飲み込んだ。
 一方その頃。
「天空寺吹雪、参上!」
 その掛け声とともに胸元の赤い宝石が輝きだした。手にした槍を一回転させ、吹雪は天へ掲げる。
「誰かを悲しい気持ちにさせる悪いやつはわたしがやっつけてやるんだから!」
「あら、それは私たちもだわ、お嬢ちゃん?」
 ヴァローナがいたずらっぽく笑う。それに対して吹雪は複雑そうな顔を返した。
「……ごめんね、『わたし』は『ひとでなし』だから。グランセイバー、発進!」
 槍、槍の鍔であろうそれの鋭い輪郭がふいにぐにゃりと崩れる。触手が伸び、吹雪の体を包みゆく。この瞬間が吹雪は嫌いだ。体が作り替えられていく感触。だが耐えなければ。全身が黒く染まった吹雪は、一転、青と白の幾何学模様が支配する騎士のごときロボット姿へ変じていた。黒い槍を羽のごとく動かし、虚空に十文字を描いて見得を切る。
「派手なご登場ね。思い知らせてやりなさい」
 ヴァローナが部下へ命令する。4人の部下は吹雪めがけて走っていく。
「わわっ、どいつから狙おう!」
「覚えておきなさいお嬢ちゃんだったもの。敵が必ずしも直線上を移動するとは限らないってこと。そして射線に仲間を巻き込まないよう注意すること。事故のもとよ?」
「へえ、御忠告ありがとう。ヴァローナ『お姉ちゃん』。それでもわたしはただ突撃するのみ、リッターブリッツ!」
 迎え撃つように前へ出た吹雪が槍を前方へ突き出した。わき腹をこそぎ取られた部下が苦痛の呻きを上げる。
 そこへブラッドが割り込んだ。
「先手必勝です」
 近づいてきた部下の一人を相手取り、拳を握りこむ。フォオオオン。高いノイズが聞こえ、ブラッドの拳が白い炎に包まれた。
「あまり暴れないでください。こちらも手加減する余裕がなくなる」
 姿勢を低くし、肘を下げた後ミサイルを打ち出すかのような勢いで突き。白炎はあやまたず相手の鳩尾を貫き、散り果てる。残り火があるかなきかの風に散っていき、ブラッドの前髪を揺らした。
「クソが、やりやがったな!」
 相手は釘だらけの棍棒でブラッドの頭を狙った。振り下ろされた棍棒がブラッドに撃ち込まれ視界に火花が飛ぶ。こめかみを、つうと血が流れ落ちた。
「白鳥よ……うるわしの鳥よ。……夜の静けさに舞う踊り子よ。……穢れなく華麗なデネブよ。」
 チックが利き手をゆっくりと上下に揺らめかせる。同時に白いオーラがチックを包み、星のごとき煌めきがいくつも彼の周りに生まれる。
「我は、求め訴えん……。ノーザンクロスの真白たるさやけき美の恩寵が我らに下賜されんことを……。」
 星の煌めきが降り注ぎ、ハイ・ヒールのぬくもりがブラッドを癒す。こめかみの血をぬぐいブラッドはチックを振り返った。
「すまん、感謝する」
「……いい。それより、前を……。」
「最後まで気ぃゆるめんなよ、っと」
 カーツが横から滑空してきた。その勢いを利用し回し蹴り、部下の側頭部へ綺麗に入った。ブラッドによって傷ついていた部下はそのまま昏倒した。
「さあ、これで4対3だな。次に『荒野へ沈みたいのは誰だ』?」
 不敵な笑みで敵を挑発しながらも、カーツの胸にあるのは老婆の涙だった。依頼を受けたあの日。もはや自分の口から説明することもできないほどに弱り果てていた老婆と、その背を支え、苦汁を飲んで依頼内容を伝えた息子。彼らが自分たちの帰りを待っている。勝利を信じている。
 ――お願いされたなら、応えないとな?
 熱砂が頬を叩く。カーツは声を張り上げた。
「俺達がお前らの不幸だ。わかってて盗んだ宝玉だろ。ありがたく受け取れよ!」

「いくよ、リッターブリッツ!」
 吹雪の気合が荒野へ響き渡る。ダン! 踏み出した足元、大地が割れ砕けた。槍に刺され、すさまじい衝撃でぐらついた敵へ、チックがいにしえの子守唄を聞かせる。
「満月の夜……金の枝に金糸雀、羽を休め謡う……。眠れ眠れ良い子よ……。夢の木の実咥えて遊びに行くから……。」
 くたくたと力なく倒れていく敵。残った相手へカーツとブラッドが向かっていく。
「命まで取るつもりはない。投降しませんか」
 ブラッドがそう呼びかけるも、敵はぎらついたまなこでブラッドを見据え、さながら野獣のごとく鬨の声をあげて襲ってくる。
「残念です」
 やや顔をうつむかせるブラッド。しかし次の瞬間には敵をまっすぐに見据え、弱点めがけてソウルブレイクを捻じ込む。
「気絶してな。俺たちの広い心に感謝しろよ」
 カーツが宙を滑り、弱った敵の背後からムーンサルトキック。後頭部をしたたかに蹴られた相手は白目をむき、前のめりにばったり倒れた。
 残ったひとり相手に吹雪が問う。
「ねえ、どうしてお頭を止めなかったの。大人しく墓荒らしのままでいればこんなことにはならなかったのに」
「……上がそうと決めたら従う。それがはみ出し者のルールだ」
「そうなんだね。見上げた忠誠心だ。だけど、斜陽の輝石は返してもらうよ」
 吹雪のリッターブリッツが、敵の腹を刺し貫いた。すかさずチックがいにしえの子守唄を歌い上げる。最後の部下が、どうと地に伏した。

「くっ!」
 ヴァローナを抑えていたサンティールは回復ループに陥っていた。ライフアクセラレーションでの回復はサンティールの強みだったが、ヴァローナの一撃はそれよりも重かった。そしてヴァローナは回避に優れるサンティールよりもアーマデルを執拗に狙っていた。アーマデルが傷つく、サンティールが回復する、ヴァローナがアーマデルを攻撃する、そのくりかえしだ。しかも傷が癒しきれないのでアーマデルは徐々に弱っていく。仲間は部下の対応に追われている。現時点では応援は望めない。
「このままじゃジリ貧だ」
「わかってる。だけど、見てろよ。やられっぱなしってわけじゃない」
 アーマデルの鞭剣に紫の輝きが宿った。そのまま鞭を操るように手首のスナップを利かせ、ヴァローナの全身へ鞭剣を絡ませる。剣を引っ張るとヴァローナの全身から血が飛び散った。
「やるわね。……ん?」
 ヴァローナの傷跡に沿って、紫の蛇紋が残っている。それは本物の蛇のようにヴァローナの肌でのたくり、傷を深くしていく。
「う、ぐ、これ、はあっ!」
「呪殺っていうんだ。覚えとけ」
 これまでの攻撃は布石。大量の失調がヴァローナには重なっていた。そこへ呪殺の一撃は重い。スリップダメージと合わせて相当な有効打だった。
「よし!」
 サンティールは気持ちを切り替えアーマデルのために、上空からのショウ・ザ・インパクトで不調が途切れないようにした。
「私をここまで追い込むなんて……。ああ、楽しい、楽しいわ。命が燃えるのを感じる!」
 ヴァローナが曲刀を振り回し、獣めいて笑った。もはやその瞳に理性はなく、全身に紅をまとって踊り狂う。狂奔する彼女の攻撃はさらに熾烈を極めた。
「おまえみたいなやつを終わらせるのが俺の役目だ」
 アーマデルはさらに右へ左へステップを踏みながら呪殺攻撃を叩き込んだ。
「あともう少し!」
 そう気づいたサンティールが威嚇術の構えに入る。
「偉大なる精霊は御業に宿り、かそけき英霊はいま蘇る、慈悲と善、両手に抱いて、眠れ、疾く、速やかに!」
 あふれだした赤い波。それはヴァローナに直撃し、意識を刈り取った。


「おばあさん! お兄さん! 斜陽の輝石だよ!」
 勢いよく飛び込んできたサンティールに、老婆と息子は目を丸くし、ついで輝かせた。彼女の手にあるのはたしかに夢にまで見た……。
「おおお、ああ、あなた。よかったよかった」
 泣き崩れる老婆。しかしその涙は温かい。
「篤志の鴉はどうなりましたか」
 息子の問いにチックが答える。
「全員……捕縛して、官警に、逮捕する、してもらった……。どうだろうか……。」
「ありがとうございます。立派な行いをなさいましたね。私はあなた方を誇りに思う」
「……こちらこそ、ありがとう。」
 ブラッドが口を開いた。
「死者への報告もかねて墓参りをしてもよいでしょうか。無念一つで、死者は現世に縛られますから」
 そして彼はすすりなく老婆を立たせてやった。
「悲しい時は今だけ存分に悲しみ、そして晴れた心で旅路の安寧を祈り、送りましょう」
「う、ぐすっ、ええ、おっしゃる、とおりです」
 一行は斜陽の輝石を抱いた老婆を先頭に墓地へ参った。老婆は安堵の涙を流しながら十字の前へ宝玉を備える。
(うーん……こういうときにどうすればいいかよくわからないや。戦争で周りの人が死ぬのはいつもの事だったし、わたしであったわたしは残して逝くことを選んだからね……)
 吹雪は物思いにふけった。どんなに「人」でいると思いこんだところで、自分は所詮人類の敵である奈落獣にすぎないのかと。だがここは混沌の世界、彼女の未来は彼女自身がつかみ取る日が来るだろう。
 アーマデルが息子へ囁きかけた。
「ここでの『送り方』を教えて貰えるか?」
 彼は教えて貰った通りに手を組み合わせると瞼を閉じた。宝玉の静かな光がその瞼に残っている。
(願いは近く、傍らに在り、自分の胸に抱くもの。祈りは遠く、仰ぎ見て、迷う足元を照らすもの。……この石は俺の故郷でいう所の『願い』に近いのかもしれない。離れ難くて『連れて』行こうとする)
 瞼を開き、十字を見つめ、彼はつぶやいた。
「逝く者も、見送る者も。その足元に、さやかな光の灯らん事を」
 それにあわせてチックが葬送の歌を小さく奏でる。短いメロディは、不思議と悲しくはなかった。聞く者の心に染み入り、穏やかな心地にさせる。
(どうか、彼の眠りが安らかであるように)
 チックの優しい想いそのままの旋律が墓地に響き渡る。
「天に在します慈しみ深き神よ。魔性の輝きに魅せられて尚不幸を断ち切らんとする彼の行いに免じ、罪を洗い慈愛で迎え賜え。この者の旅路が安らかでありますよう、その魂をお導き下さい」
 ブラッドの祈りにあわせて、サンティールも黙とうする。鼻の奥がつんとしてきて、乱暴に目元をぬぐった。隣ではカーツが雑談にまぎれて老婆を励ましていた。
「雨雲の精霊種が言って何の慰めになるかはわからないが、斜陽、落陽、綺麗な夕焼けが拝めた次の日は、ちゃんと晴れるらしいぜ」
 それを聞いてサンティールはピンときた。
(晴れた心で……、……雨雲……そうだ!)
「カーツ! きみのちからもかして!」
「呼んだかサンティール」
 両の掌を、天へ向けて、雲の多い空をきりっと見つめて、サンティールは胸いっぱいの願いを口にした。

 ――あした天気になあれ!

 やわらかな雲の端がゆるゆると風に流されていく。天使の梯子がさあっと降りてきた。願いは、きっと叶うだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!
斜陽の輝石をめぐる戦い、いかがでしたか?
またのご利用をお待ちしています。

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