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シナリオ詳細

<夏の夢の終わりに>狼と羊と女の子は幸せに暮らしました。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 封印に触れられた『冬の王』がむずがったから、生まれたの。

 庭園は静かだった。
 枯れ果てた枝に氷がまとわりつき、大輪の花を咲かせていた。
 氷色のネグリジェに氷色の思案帽。お昼寝枕を抱いて真っ白い髪を三つ編みにして胸に垂らした少女達は、飛沫一つ立てぬ噴水の淵に腰かけると、膝の上で本を開いた。

「――そして、みんな幸せに暮らしました」
 みんな幸せに暮らしました。だから心配しないでお眠りなさい。疲れたでしょう大変だったでしょう悲しいことも苦しいこともみんなおしまい眠っていれば誰もいじめたりしないからおやすみなさいおやすみなさい。

 鳥も寝ました。獣も寝ました。ヒトも妖精もみんな寝ましょう。
 眠ってしまえば、殺さなくてもいいでしょう。
 みんなで寝ましょう。冬の中にいましょう。だって、今更起きたところで世界が抱きしめてくれるわけじゃないでしょう?


「妖精郷には、遠い昔から『冬の王』と呼ばれる強大な邪妖精が眠っていた。
 冬の王を封印したのは、勇者アイオンと仲間達、そして妖精の英雄ロスローリエンとエレインであった」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、おとぎ話の本を持ってきて、読み聞かせを始めた。
 混沌では定番なれど、ウォーカーはそうではない。
 勇者王の足跡を大分かいつまんでのダイジェスト版、一巻の終わり。
「――という訳で、その『冬の王を封印していた力』と『冬の王の力』を持ち逃げされちゃったのよ」
 困ったね。では済まない。『冬の王』は何処かにされども、固定されていたパワーバランスが崩れて、妖精郷は、未曾有の災厄に見舞われている。
 木々や花は凍り付き、時折猛吹雪が襲ってくる有り様だ。
「常冬の国出身者にはそれが何か? だろうけど、ノウハウない年中お花畑では、いきなりナイトメアモードだからね? 手をこまねいてるわけじゃあない。今回は深緑の迷宮森林警備隊も、妖精郷に来て力を貸してくれるそうだ。つうか、明日は我が身だからね。ぼへっとしてられないよね」
 妖精城アヴァル=ケインに進撃し、魔種共をアルヴィオンから駆逐し、冬の力打ち払わなければならない。
 為損じることは許されない。そうなれば妖精郷は冬に飲まれて滅亡するだろうから……。

「で。みんなには、妖精城アヴァル=ケインに行ってもらいます。人間サイズで構築された壮麗なお城、今や魔種に占拠されたダンジョン。全部凍ってる」
 だよね。
「――その中でも、ここをスムーズに通れないと後ろが渋滞するなって所があるんだよ。戦力の逐次投入は避けたいのでここを通れるようにしたい」
 要害ですね、わかります。
「おねむねむスタイルの邪妖精の女の子たちが絵本を読んでくれるという報告がありまして、たいていそういう場合、おねむねむになります」
 攻城戦の話をしていたと思ったんだが。
「いや、寝たら死ぬぞの寒さの中で寝て、辺りを雪狼と雪羊がウロウロしてたら、温かい血を持ったものはおいしくいただかれるでしょ」
 攻城戦の話だった!
「先行部隊が、コンボきつくてこりゃあかん。と」
 という訳で。
「女の子に羊を数えられてもおねむになってはいけないよ。羊と狼と女の子が共存するなんて、解釈違いなんだから」

GMコメント

 田奈です。
 おねむねむにされたり、狼にがぶがぶされたり、羊に跳ね飛ばされたりするので、頑張って倒してください。

 成功条件
 敵をすべて倒してください。
 周囲の被害は問いません。


 冬の妖精・凍てついたアニー×5人
 *眠らせてきます。人数が多ければ多いほど効果は上がります。
 *被っているものが血で染まると、邪妖精「赤ずきん」に変貌を遂げます。
  赤ずきんは凶暴で武器で襲ってきます。

 冬の妖精・雪狼×3
 噛みついてきます。傷は凍てつき治りにくくなります。
 口を割り裂くように縦に切らなければ切ってもプラナリアのように増えるという伝承があります。
 きちんと狙って攻撃する必要があります。
 
冬の妖精・雪羊×3
 非常に大きな羊です。
 突進してきます。対策しなければ跳ね飛ばされることを想定してください。
 雪羊は草食なので直接食べはしませんが、地面が肥沃になっておいしい草が生えることを夢見て、倒れた者を執拗に踏みつぶして肥やしにします。

場所・妖精城アヴァル=ケイン城郭エリア・凍てついた噴水広場
*凍っています。足元は非常に滑りやすく、凍った鳥などがゴロゴロしています。
*20メートル四方の広場の奥に直径10メートルの噴水。高さ三メートル。水は凍って氷柱状になっています。
 凍てつくアニー達は、噴水の淵に座り、広場に狼と羊が散開しています。

 一歩でも近づいたら、アニー達の間合いというところからスタートです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <夏の夢の終わりに>狼と羊と女の子は幸せに暮らしました。完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月01日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
枢木 華鈴(p3p003336)
ゆるっと狐姫
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
レア・シルヴァスタ(p3p008663)
砂彩るシルヴァスタ槍術
シェプ(p3p008891)
子供じゃないヨ!

リプレイ


 噴水の飛沫は一粒までも凍り付き。
 真っ白い世界。でも、降り積もった雪の下、先行部隊の血と足跡のくぼみがかすかにうかがえる。寒さに隠された血の匂い。
 噴水の淵に腰かけて絵本を読み上げる女の子と狼さんとふかふか羊さん。
 よくよく見れば、狼の口元、羊の爪先、女の子達の爪の中に赤茶色が残っている。
 おやすみなさい。眠ってしまえば不幸にはならないからみんなで眠りましょう。ゆるゆるとお目目が覚めない程度に楽しいお話を読んであげるから、枕と毛布を持っていらっしゃい。


「あらあら、もう……妖精郷の冬の訪れに乗じて、色んな子たちが悪さしているのね……」
『儚花姫』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は、ほんの少し顔を曇らせた。真っ白い髪。噴水の塗血に腰かける五人のアニーとは違う垢と灰のオッドアイに白いまつ毛がけぶる。
「さて、話を聞くに随分と厄介な様子だな。かといって、この場所を放置する事も出来まい」
 ラサから来た『砂彩るシルヴァスタ槍術』レア・シルヴァスタ(p3p008663)にとっては、冬に取りつかれたこの状況は、知らないからこそきんちょうするのか、はたまた、気負わずいられるのかどちらになるのだろう。
「私達の行動の結果が戦果を左右する可能性は十分にある、負けられない戦いだな」
 少なくとも砂漠で熱せられた血のはやりが冷めることはないようだ。
「あの妖精郷がこんな風になっちゃうなんて……」
『 天義生まれの聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)にとっては、おとぎ話の舞台だ。
「力を奪われてなおこの力……冬の王っていうのは恐ろしいね」
 噴水広場にたむろする冬の妖精は「冬の王」のおむずがりの産物だ。
「ずっと冬なんて困っちゃうわね。暖かい春が来なきゃ木漏れ日妖精も本領発揮できないんだもの」
『木漏れ日妖精』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は、この世界の生まれではないけれど、どこのだって、太陽の友達。
「お話を聞きながらおねむねむは魅力的だけれど~、こんなひえひえな所で眠ってしまったら風邪をひいてしまうわ~」
『魔法仕掛けの旅行者』レスト・リゾート(p3p003959)は、もこもこ羊の着ぐるみを着ている。幸い、かわいらしくデフォルメされたデザインでスーパーリアルな冬の妖精羊と間違いことはないだろう。
「暖かいお家の中だったら大歓迎なのにね~」
 観光業者たるもの、備えあれば患いなし。ツアーコンダクターは健康でなくてはならない。寒いところでは防寒が基本である。かわいいは付加価値。
「ボクもよく人を眠らせちゃうケド――あ、ギフトがそういうのだから――今回はボクが……羊が一匹多くなっても夢の中には行っちゃダメ」
 シェプ(p3p008891)のとぎれとぎれの声。一生懸命紡ぐ言葉。だから、最後の「ダメ」の強さが余計に胸に響いた。
「そうね」
『「国の」盾を説く者』エト・ケトラ(p3p000814)は、頷いた。
「夢も見ない様な深い眠りは時にヒトの救いとなるでしょう」
 腰のあたりに名残を残す物語を集めに集めた大蝙蝠。
「けれどわたくし達は永遠の眠りに誘う様な『Happy ever after』を認めるわけにはいかないの」
 それでは、次の物語は望めない。世界のカーテンコールを迎えるにはまだ早い。
「絵本を読み聞かせて眠らせてくるとは、なかなか可愛い妨害手段じゃのぅ。眠ってる間に死んでしまうという点にさえ眼を瞑れば、なんじゃが!」
『ゆるっと狐姫』枢木 華鈴(p3p003336)がいう。あんたもかわいい。傾国にかわいい。
「わらわは枢木華鈴なのじゃ! 宜しくお願いするのじゃ」
 きゃらきゃらと言葉の端々から星がはじける。
 まずはアニー達から。ならば、狼と羊が邪魔だ。アニーと対峙している背中を襲われたらシャレにならない。だから。
(狼や羊が暴れまわるならそちらの引付もしようかのぅ)
 雪狼。白い毛皮、氷色に黄色がまだらに入っている瞳。つららのような牙に赤い舌。なめられただけで皮も肉もこそげそうだ。
 雪羊。中に何人もぐりこめるだろうと考えてしまうほどもこもこした毛皮から黒い顔とクルクル巻いた角が生えている。
 顔の横の長いまつ毛の下、赤い瞳孔は三日月型をしているのだ。黒い爪先はやっぱり赤黒く汚れている。
 雪狼はお肉を食べる。雪羊はお肉が食べられないから、雪狼が譲ってくれたお肉が残った骨をべきぼき踏みつぶす。何度も何度も踏みつぶす。この骨が肥やしになって、この土が肥沃になって、美味しい草が生えますように。美味しいご飯になりますように。雪羊たちがいる限り、ここに春は来ないのに。そもそもこの雪の下は石畳で、羊が食べる草なんて生えたりしないのに。そもそもお肉も草も食べなくたって平気なのに。
 でも雪狼はかみ殺してくるし、雪羊は踏みつぶしてくる。がぶがぶげしげし。物語の住人はそういうもの。合理性とは無縁の存在。
 だが桃色をちりばめた狐は、足元も軽やかにかわいらしくポーズを決めるのだ。世界は華鈴に贈り物をした。お前がかわいいことは世界中のありとあらゆる存在が分かってくれるでしょう。
「これで、敵はわらわの可愛さに釘付け…可愛さに釘付けなのに、【怒り】状態なのはどういう事なんじゃろな?」
 瞬間沸騰「こんなかわいい華鈴ちゃんが話しかけるなんて解釈違いです! せめて最後はボクの手で!」案件ではなかろうか。今後の研究、考察が待たれる。
 かわいい華鈴の犠牲――献身を無駄にしてはいけない。ローレット・イレギュラーズは五人のアニーに突進した。
「昔々あるところに――」
 かわいらしい声が重なり、柔らかく響く。
 もし、これが暖かなベッドの中だったなら、喜んでそのおとぎ話を聞いただろう。
 まぶたが重くなる。足元の白いやわやわが柔らかく受け止めて――。
 パッカーン! まぶたの裏に極彩色のはレーション。こんなのをぶっちぎって眠れる奴はきっと三徹以上した後だ。
「木漏れ日の中で寝るならともかく、今はまだ寝てる場合じゃないわよ!」
 オデットが鼓舞した。言い知れない不安は吹き飛び、迷いなく足が前に出るようになる。
 それでもアニー達のお話は、ローレット・イレギュラーを争い亡き永遠の眠りに誘う。
 それぞれの足元がふわふわとおぼつかなくなる。立ち止まれ打、狼が飛びついてくるだろう。転倒すれば上から羊が降ってくる。
「あら、寝るのには早いわよ。お城のぱ~ち~はまだ始まったばかりでしょ~?」
 レストは、状況を理解し、てきぱきと号令した。泥沼のような眠気は晴れ、急に進軍できる気がしてくる。
「貴方達に罪はないのかもしれない。生まれてきた、ただそれだけなのだから」
 体が軽くなったサクラは小さく呟いた。
「それでも故郷を奪われた妖精達の為……貴方達を倒して進ませて貰うよ!」
 妖精郷の妖精の安寧を祈りながら、聖刀に天義の神の祝福を。
「纏めて……斬る!」
 月の色を帯びた一閃がアニー達を切り裂いていく。
「頑張らせてもらうわよ!」
 オデットに無限の紋章が発現する。雪原に召喚する熱砂の精。震えあがるのを慰撫しながら、その助力を乞う。重圧を伴う砂嵐を巻き起こし、アニーを巻き込み、その視界と動きを奪い、皮膚を削り、凍り付いた噴水の飛沫を割り砕いて霧散させる。
「妖精と精霊の合わせ技、味わいなさいよね!」
 降り注ぐ透明と、舞い上がる血煙。
「眠らせられている場合じゃありませんのよ~」
 おっとりとした前置きをよそに、召喚魔方陣からあふれてくる、赤に白、黄色にピンク。白い雪の世界に春を思い出せと強制する薔薇の花びら。一泊おくれて暴力的な緑。地獄の番犬ももう少しおしとやかに飛びかかるだろう。
 威力は正直さほどでも。しかし、薔薇の棘は死に至る傷。流れる血はちょっとやそっとでは止まらない。
 氷色のふんわりした思案帽にぴしゃりと血がかかった。
 眠らされる方が脅威。ローレット・イレギュラーズはそう判断したのだ。平和な永眠より痛みを伴う闘争を。誰にも嫌われないために永遠に自分を殺すくらいなら、傷を伴う闘争の方がましだ。
 じわじわと赤が広がる。帽子が血を喜んでいる。トップからしみこみぶり無の先をレースの隅々まで。ほんの数滴かかっただけなのに、そんな量があったわけではないのに。0か100か。血の味を知ったアニーは、もうおやすみなさいを言ってあげられない。
「赤い帽子をかぶったりして、いけない子」
 アニーの一人が咎めるように言った。
「いいえ、私たち、みんな悪い子になるんだわ」」
 アニーの一人が諦めたように言った。
「みんなで眠ったら平和なのに」
 アニーの一人が呟いた。
「あなた達、自分たちが好きな妖精だけよければそれでいいのね?」
 アニーの一人が問いかけた。
 シェブの声は、フードの奥の暗闇からやってくる。闇の中の二つの灯火が五人のアニーに向けられた。
「ボクも眠るのは好き、夢の中は自由だかラ……」
 傷ついた仲間を癒す術式を展開させながら、シェブは一生懸命伝えようとした。
 自分が何か定かではない中、シェブに贈られたのは催眠と夢。誰かとみる楽しい夢は素敵だ。眠ることは悪いことじゃない。
「でもこの世界もたくさん楽しいコト嬉しいコトいっぱいあるノ……!」
 同じくらい、起きてることだって素敵だ。
「夢の中だけじゃできないことだってたくさん、美味しいものも食べたいシ……ボクずっと眠ってなんかいたくないヨ!」
 思案帽が赤く赤く染まる。白い髪まで赤く染まる。
 アニー達は、絵本の陰から目だけ出し、次の瞬間本を地面に叩きつけた。
「――レッドキャップ!」
 口々に叫び出す。かわいらしくご本を読んでいた妖精はもういない。
 手に握られた絵本は真っ赤にさびた鉈に持ち替えられる。
「レッドキャップ、レッドキャップ、レッドキャップ!」
 自分を鼓舞するようにゲラゲラ笑いながら、ローレット・イレギュラーズに突っ込んでくる。
「赤い帽子のいけない子は、誰かの血で帽子を染めなくてはならないの。だって、そういうものだから!」
 『冬』の眠りは、『冬』の脅威と背中合わせ。うっかり眠り込んだら死に直結だ。
「まずはアニー……レッドキャップになったのね。 頭を狙えばいいのかしら」
 ヴァイスは少しだけ迷った。
 どこかの次元では、その音は死者が渡る大河と同じ。聖教国ネメシス周辺で観測された暗黒物質を鍛えた危険極まりない近接武装を折れてしまいそうに細い人形の指が握っている。
 近接武器を間合いを外してチクチク攻撃してくるヴァイスを忌々しくしく思ったのだろう。一匹の雪狼が駆け込んでくる。まあ、なんて大きなお口。
「ちゃんと『めっ!』 てしてあげないといけないわね!」
 袖口から、華奢な首筋から、かわいらしく編まれた紙の束の内側から、細い細い茨がするすると伸びて、雪狼に向かって雪の上をはっていく。
「狼さんは、術式で攻撃するか……至近戦闘になったら迷わず頭を狙いましょう……」
 大きなお口を糸鋸でさらに大きなお口にするように。罰ント後頭部に抜けて、茨は空気に溶ける。
「あら、頭狙いが多いわ。もう、おいたはだめよ?大人しくできない子は……めっ! よ!」
 ヴァイスは雪狼に言い聞かせた。きっと、もう何も聞こえていない。
「必然的にわらわは血だらけじゃな。わかっていたとも」
 グレートウォールは、血まみれになってこそ、華。
 無防備に見える開いた手でかわいらしくポーズを決め、食いちぎろうと突っ込んできたところを斬り飛ばす、あるいは叩きのめす。
 雪羊が凍り付いた石畳を蹴る、上から頭羽踏みつぶすつもりだ。
 華鈴は深く息をついた。タイミングを合わせて、その力をそのまま雪羊にぶつけてくれる。
 いけるか? 今日の衣装は新緑で好まれる緑の法衣なのだが、浴びたのと自分が流した分がしみこんで大分茶色になっている。
「――しっかりなさい、白雪を寝床に出来るのは子供とお伽噺の中だけよ!」
 エトの精度と練度を整えた治癒術式がが華鈴を癒した。年齢不詳の少女のような大蝙蝠が年齢不詳の幼女のような空狐を叱咤する。世界は無限の可能性を秘めている。。
「それはそうじゃが、もう少し優しい言葉がほしいのじゃー!」
 泣き言を言いながらも、カウンターの一撃は雪羊の頭を見事に吹き飛ばした。
 鉈と剣では間合いが違う。
 小柄なレッドキャップに懐に入り込まれて打ち合いが長引けばじり貧になるのは目に見えていた。
 レアはそれまで背中を預けていたサクラに叫んだ。
「サクラ! 巻き込んでしまう。私から離れろ! 狼は任せた!」
「わかった! 任せて。増やしたりしない。確実に倒していくよ!」
 サクラの急な離脱はレッドキャップには逃走に見えた。見捨てられたように見えるレアに、ぎゃきゃきゃきゃと嘲笑が響く。
 レアは何も言わなかった。
 焦燥破刃を旋回させ、叩き込む小さな暴風域こそが答えだった。
 息もできない混乱の中思い知るがいい。見捨てられたのではない。一人で大丈夫と信頼されたのだ。
「悪いけど!」
 桜掘兄譲りの剣技は、雪狼の顎関節の強度を試していた。
「分身なんてさせて上げないよ!」
 気合とともに、上顎と下顎を切り開き、まとった冷気で血も凍りつく。後に残るのは、横倒しになって凍り付いた雪狼の死骸。
「最後は、羊!」
「は~い。これで終わりよ~」
 ぐしゃっと音がして、雪羊はそこ倒しに倒れた。レストの衝撃波の根幹である意志の強さがうかがい知れた。


 外の世界から来た子達は、お外の妖精さん達の味方でした。
 狐の女の子が、雪狼と雪羊をからかって、アニー達から遠ざけてしまいました。
 アニー達はその子たちを眠らせてしまおうと思いました、雪狼も雪羊も狐さんと遊ぶのに飽きたら戻ってくるでしょう。
 お話を始めると、外から来た子たちはお話を聞くどころか、花火を上げたりしながらアニー達に近づいてきて、アニー達に切りかかってきたのです。うとうとs手も、すぐお互いをぺちぺちしたり、魔法をかけたりして起こしてしまいます。
 やがて、アニー達はすっかりアニーじゃない別のものになってしまいました。そんなものになりたくなんかなかったのに。でも仕方ないのです。帽子が赤いのはレッドキャップなのです。
 アニー達がアニー達ではなくなったので、狼も羊も勝手に暴れ出してしまうようになりました。レッドキャップのことを狼も羊も好きではなかったからです。


「……あぁもう、本当なら御伽噺の中だけでも少女と狼と羊が仲いいのは歓迎するべきことだったはずなのに、これじゃどっちが悪役なんだか、だわ」
 オデットが光の羽をぱたつかせた。
 ああ、なんとも痛ましい。少女の惨殺死体が五つに狼と羊の死骸。広場に点在する瓦礫や小鳥の死骸と相まって、余りにも荒涼としていた。
 それらが急にぐしゃりと輪郭をなくし、霙のような塊になった、雪にしては水っぽく、水にしてはとろっとしている。
「春が来るわ」
 『冬』を殺せば『春』が来る。
 そろそろ凍った噴水も息を吹き返すだろう。狼と羊と女の子は春になるので、もう怖いことをしなくて済むようになりました。めでたしめでたし。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。冬の妖精は消え、春の気配がやってきました。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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