PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<夏の夢の終わりに>伸ばされた手は最期に何を掴むのか?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 何もかも凍っている。そこでは生きているのか、死んでいるのかさえ分からない。無数の身じろぎ。産み出される冬の精。彼らは互いを見つめ、深い息を吐きだした。
 ──分かっている。勿論、分かっているよ。
 もぞもぞと動き、沢山の足で抱擁を重ねる。居心地が良かった。永遠に此処にいたいと思った。
 ──でも、お腹がとても空いたんだ。君達もそうでしょう?
 弟が嗤った。温かな命を呑み込んでしまいたかった。
 ──そうだね、僕たちはまだ、赤ん坊だ。
 姉がにっこりと笑い、柔らかな涎を零した。
 ──うんうん、ねぇ、姉さん達はどういう子が好き? 僕はねぇ──
 末っ子が甘ったるい声を出し、トンと扉の前に立ち、目を細めた。凍った扉を蹴り飛ばすように何者かが転がってくる。
「動くな! 我らは迷宮森林警備隊だ!!! ルドラ・ヘス隊長の命を受け、貴様らを討伐する!!」
  細剣を末っ子の顔に向け、男は眉根を寄せる。目の前には氷の蜘蛛が十匹。
 ──わぁ、カッコいい!!! ね、その剣ってとっても硬い? 僕とどっちが強いかな?
 くすくすと笑う。
 ──そんなのどうでもいいよ。もう、殺してもいい? あ、私達は冬の精だよ。よろしくねぇ!!
 ──待って、焦っては駄目だよ。まずは数を数えないと。うーんと、1、2、3、4、5。え、5? え~、やだぁ。5人しかいないのかぁ。駄目だよぉ、喧嘩になってしまうもの。
 ──ああ、嫌だねぇ。足りないねぇ。どうして、5人なの? 何故、足りないのに来たの? 困った人達だ、本当に配慮が足りないなぁ。やだやだ!
「……何を言っている?」
「駄目です。化け物の言葉なんて聞かなくていいですよ!! 早く、攻撃を!!!」
「ああ、すまない。弓を撃て!! 蜘蛛の足を狙うんだ!!!」
 もぞもぞと動き、楽しそうにお喋りを繰り返す化け物。ああ。目が合った。ぞっとする。
「ああ、当たらない……もう、一回だ!! 互いをカバーしろ!!」 
 息が白い。早く、倒さなければ。ああ、寒い。どうしてこんなにも寒いのだろう。吹雪が視界を遮る。指が動かない。
「分かってる、絶対に倒すんだ……!」
 唇が震え、心さえ、凍ってしまいそうだった。ただ、状況を外に伝えねば。震える手で外に文を放った。首を傾げる化け物。
 ──あれれれ? 本当に狙ってるの? それとも、何かした?
「……んなこと、誰が言うかよ!!!」
 吼え、繰り出される攻撃。十匹の蜘蛛がうごめく。
 ──ねぇ、結局、どうするの? 
  妹が天井からぶら下がり、にっこりと嗤った。
 ──そうだね。もう、いいよ。足りないなら早い者勝ちにしようよ。それしかないんだもん。
 ──それはいい。恨みっこなしね?
 ──そうさ、それはそうさ。当たりまえだよ。
 ──よーし!!! 僕、この人にするー!!!
 ──じゃあ、いただきます。
 目を真っ赤に光らせ、飛び掛かる。
「……」
 動かない。迷宮森林警備隊は冷えた床に横たわり、血を凍らせていく。悲鳴さえ与えなかった。武器が瞬く間に凍り、雪が積もっていく。
 ──あーあ、僕、食べれなかった。兄さん、速すぎるよぉ。
 ──ああ、喰った。でも、足りないなぁ。
 ──また、来るでしょう、きっと。
 ──やったぁ、じゃあ、今度はバラバラに行動してもいい? 姉さん達と一緒だと私、食べれないしー!!!
 ──ええ、それはいいことね。とても賢いわ!!
 ──じゃあ、僕、この武器を持って行こうかなぁ!! この武器を見たら動揺するかもしれないしー! 楽しくない?
 ──戸締りは心配しなくていいかい?
 ──えー、どうだろう? 危ないかなぁ?
 彼らはふふと笑う。全ては一瞬で終わってしまった。見えるだろう? 生者は何処にもいない。


 夜。送り出した迷宮森林警備隊が戻ってくることはなかった。
「言いたくはないけどこれは全滅ってことだね」
 『ふらり、ふらりと』青馬 鶇(p3n000043)は神妙な顔でイレギュラーズ達を見つめる。魔種達は妖精城アヴァル=ケインへと撤退し、籠城の構えを見せている。
「で、この寒さの理由だけど……妖精郷には、遠い昔から『冬の王』と呼ばれる強大な邪妖精が眠っていたわけだ。まぁ、要するに魔種達が『冬の王を封印していた力』と『冬の王の力』を奪い、トンずらした結果がこれさ。まったく、迷惑なことをしてくれたもんだ。それによって、冬の王は妖精郷から消え、全てが氷に包まれてしまったわけだから!! やだねぇ、此処は真冬以上で身体がすぐに冷えちまう」
 鶇はぶるりと震え、すぐにウイスキーを飲み干す。
「で、魔種どもはフザケタことに引きこもってるわけだ。妖精郷が冬の力に屈し、滅亡するまでさ。一足先に深緑の迷宮森林警備隊が妖精城アヴァル=ケインの制圧に向かったんだが……」
 鶇は表情を曇らせ、息を大きく吐く。その手には文。文を開き、口を開く。手が悔しさで震えている。
「アヴァル=ケイン城内は宮殿のように広く、室内なのに吹雪が吹く。窓が開いているのだろうか? 分からない。ただ、そこには、蜘蛛の姿をした化け物が十匹。化け物は自らを冬の精と名乗った。自我や言葉を話し知性を持っているが、我々の思考回路と異なり、残酷非道である。言葉は通じないと思っていい。攻撃は飴細工のような氷の糸を吐き、我々の動きを封じ込める。動きは敏捷で身体は氷で覆われ硬く、炎で溶かすことは困難に近い。ただ、頭を落とせば勝算はあるような気がする……だとさ」
 ふぅと鶇は息を吐いた。文はそこで終わっていた。
「あんた達、やってくれるかい? 迷宮森林警備隊が遺した情報を元に。なあに、あんた達だったら、絶対にあんな化け物なんかに負けたりなんかしないさ。どんなに化け物が有利だったとしても!!!」
 怒りの表情を浮かべながら鶇はイレギュラーズ達を見た。

GMコメント

 皆様には妖精城アヴァル=ケインの制圧をお願いします。アヴァル=ケイン城内には冬の精、そう、蜘蛛の姿をした太古の怪物達が十匹おりますので。

●成功条件
 十匹の冬の精の討伐

●ロケーション
 夜のアヴァル=ケイン城内。場内は薄暗く、吹雪が宮殿内を支配する。沢山の部屋、螺旋階段、鎧や絵画、銅像、剥製などが無造作に置かれている。視界が悪く滑りやすい。カンテラがすぐに凍り付くほどの寒さ。

●冬の精
 十匹の怪物。アヴァル=ケイン城内を占拠している。自我や言葉を話し知性を持っているが、残酷非道で殺したがり。兄妹ごっこをしており、会話の最中に役割がコロコロ変わる。多くても三匹で行動する。蜘蛛の姿をし、能力は飴細工のような氷の糸を吐き、天井からぶら下がったり俊敏に移動する。足先が尖っており、迷宮森林警備隊は切り刻まれた。殺すことを彼らは食べるという。

●故迷宮森林警備隊
 深緑のハーモニアによる精強な部隊(と、その協力者達)。
 隊長はルドラ・ヘス(p3n000085)で今回、その中の5人がアヴァル=ケイン城内に踏み込み、命を落とした。
 
●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <夏の夢の終わりに>伸ばされた手は最期に何を掴むのか?完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年09月01日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
業壊掌
黒・白(p3p005407)
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
一条 佐里(p3p007118)
砂上に座す
アリア・テリア(p3p007129)
希望の紡ぎ手
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
博徒
一条 夢心地(p3p008344)
殿
ユン(p3p008676)
四季遊み

リプレイ


 人生なんて理不尽で不愉快だ。どんなに頑張ったって、どんなに良いことをしたって、どんなに慕われようと、そんなことは一ミリだって意味がない。結局、弱者はいつだって強者に踏みつけられる。ねぇ、教えてよ。英雄なんて何処にいたのだろう。

 手甲の光が白息を寒々と照らす。
「本当に全てが凍りついているのですねー」
 薄衣のような一対の翅、『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)がひよこちゃん(貸し出し用)を抱き締める。
「うん、雪がこんなにも降っているなんてね、驚いたよ」
 角に咲く花に雪が積もっていく。『四季遊み』ユン(p3p008676)は身を震わせながらメリルナートに続く。僅かに浮遊するメリルナートと異なり、ユンはゆっくりと歩き、目を凝らした。
「冬の精の姿は見えないね、隠れているのかな」
 ユンは息を吐く。何もなければ珍しい氷の宮殿、だった。
「真っ暗だね、やっぱり」
 月灯りの雫、目薬を差す『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)。闇の輪郭がうっすらと雪の合間に浮かぶ。
「聞いて! イイ防寒具を引っ張りダシテきたんだ、ミンナの分もあるよ!」
 イグナートは故郷、鉄帝の北部から取り寄せた防寒具を皆に手渡した。途端に聞こえる盛大なくしゃみ。
「た、助かったのう! こんなヒエッヒエの城は流石の麿も初・体・験じゃからのう!」
 『殿』一条 夢心地(p3p008344)は外套と手袋を幸せそうに纏う。
「ふはー! 温かいのう……そして、極めつけはこれじゃ。ああ、心までほーかーほーかじゃ!」
 飲み干したゼシュテル・スピリッツ、夢心地は耳を澄ます。
「嫌な寒さだな、おい。俺は冬の方が好きだがよ、限度ってものがあるわ」
 肩や頭に積もった雪を乱暴に払い、『博徒』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)が闇を睨む。
「見えねぇな、俺の目じゃ」
 舌を鳴らすニコラス。目が慣れれば、一体、どの程度見えるのだろう。
「……あれはなんだ?」
 サイバーゴーグルを付けた黒・白(p3p005407)が何かに気が付いた。足元の雪が不自然に盛り上がっている。屈み、雪を払う。そこには手甲が付いたままの右腕が剥製の様に凍っていた。白はゼシュテルスピリッツを手向け、すぐに立ち上がる。
「大丈夫、迷宮森林警備隊の名誉はオレ達が取り戻すさ」
「ええ……皆さん、絶対に倒しましょう。アリアさん、一番、広い部屋は南の方角ですよね?」
 空から右腕を見つめる『銀の腕』一条 佐里(p3p007118)。ゼシュテル・スピリッツを飲み終え、収集した情報に目を落とす。低空飛行と暗視を使い、彼女は動くつもりだ。
「うん、合ってるよ! タータリクスを相手した時に来てるからね!」
 シーフぴよちゃん(貸出用)を抱きしめ、ガチガチと歯を鳴らす『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)。
「蜘蛛に居場所がバレる前に移動しちゃおう!」
 テリアはメリルナートの腕にぴょんとしがみ付いた。

 礼拝堂に辿り着くイレギュラーズ。聞こえる音。
「ふむ、後方から音が聞こえるのう。それもうまく隠しておるが、数匹! 天井をはい回っておるのじゃ!」
 言いながら、夢心地は鼻をすすり上げた。
「そうだね。でも、まだ距離はあるようだよ」
 振り返り、闇を見つめるユン。
「此処なら良い感じに戦えるね! ね、もし、何か危ない気配がしたら教えてね?」
 天井を見上げ、精霊に願うテリア。
「じゃあ、俺は此処にいることにするぜ」
 扉の後ろに隠れ、気配を消すニコラス。その手には絶望の大剣。メリルナートはテリアとともに複数あった出入口を順々に塞いでいった。残ったのは中央の扉だけ、侵入経路を一つにしたのだ。これで不意な奇襲を防ぐことが出来る。
「では、そろそろ、招き入れますわー」
 メリルナートがイグナートに振り返った。音は反響し続けている。
「イグナートさま、バリケードの設置と窓は塞ぎ終えましたー?」
「うん、モチロン! キミも大丈夫かな?」
 イグナートの瞳にユンが映る。
「僕もいけるよ」
 大きな氷の塊を抱き抱えるユン。
「華麗なショーの始まりですわー」
 微笑み、星夜ボンバーを鳴らすメリルナート。イグナートがドラミングしながら雄たけびを上げ、ユンが氷の塊を放り投げた。けたたましい音にびっくりするテリア。ニコラスは微動だにせず得物を握り締め、白は闇を見据えた。訪れる、不思議な静寂。目を細める夢心地。鋭い殺気が瞬く間に紛れ込んだ。
 ──ああ、美味しい匂いがする。
 聞こえた。ぞっとするノイズ。
「皆さん! 天井に二匹、地上に一匹います!」
 冬の精を見つける佐里。蜘蛛は進んでいく。
 ──兄さん! ねぇ、七人しかいない。嘘だよね、もっといるよね! でも、すぐ死んじゃった人達より強いのかな?
 赤い瞳がチリチリと焼けるような気配を捉えた。
 ──ばかだなぁ。何人いたってそんなの早い者勝ちに決まってるじゃないか。
「……ほんとうに馬鹿だと思うね」
 後衛の白が呟いた。溢れていく嫌悪。顔を上げ、天井を這う二体を狙い、放った。
 ──なぁに? これ?
 簡易封印を浴び、それは転がるように落ちていった。一気に濁る視界。イレギュラーズ達は顔を歪ませる。風圧で髪が凍り、手足が鈍い痛みを訴える。呼吸すら苦しかった。
 ──ありがとう、兄さん達を攻撃してくれて。とても、らくになったよ。
 地上を這う蜘蛛が言い、混乱に回り込む。
 ──誰にしよう? ああ、そうだ。あなたがいいね、珍しそうだもの。
 蜘蛛は笑い、糸を吐いた。

 \殿! 後ろ! 後ろ!/

 後方から、注意喚起の声が飛ぶ。しかし悲しいかな、その声は本人に届くことはなかった。夢心地はぎょっとし、飛び上がる。
「──な、なんじゃこりゃあ!?」
 飴細工のような糸が夢心地の背にしっかりと絡みついている。
「ああああああ……ぞくぞくしてきたのう!」
 騒ぐ夢心地。ぶるぶると震えている。
「ぶっ飛ばす前に聞いておきたいんだけれど」
 ──誰? どうしたの?
 蜘蛛は見上げ、面白そうに回り始める。目の前に、イグナートが立っていた。
「警備隊の人たちはドコにいる? 本当に食べちゃったのかな?」
 ──何処って? それを聞いてどうするの?
「連れて帰ってあげたいかな。こんなところで寝ていてもサムイだけだからね」
 ──寒い? へへ、そっか。そんな考え方もあるんだね! 寒いって悲しいこと?
 蜘蛛は楽しかった。それに、イグナートの瞳はとても綺麗で、蜘蛛はその瞳に惹きつけられていた。
 ──あっちだよ、扉の先。私達が来た方向!
「ありがとう」
 イグナートは言い、編み髪を大きく揺らす。美しい動きに蜘蛛は笑った。避けることは出来なかった。鉄騎の彼の拳ががんと頭に響いた。
 ──ああ、消えていきそうだよ。でも、僕は……え?
 蜘蛛は口ごもり、ゆらゆらと揺れ始める。何を言いたかったか僕はもう、忘れていた。
 
 吹き付ける雪。移動するメリルナート。
「皆さま、存分になさいますようにー」
 見つけ──名も無き兵士を英雄に変える全軍銃帯の号令をかけた。傍にはイグナートとニコラス。
「何があっても動じやしねぇ。あいつらの意志は既に引き継いでんだ。あの程度の悪意で俺達を止められるなんて思うんじゃねぇ……」
 ニコラスは鋭利な瞳をより尖らせ、イグナートが攻撃した蜘蛛をねめつける。
「T.O.B.に沈め……」
 唸り、瞬時に振るう絶望の大剣。強風が雪を食らう。無数の魔弾はすぐに一条の光となり、蜘蛛と壁を傲慢に貫いた。蜘蛛は驚き、身体を大きく震わせた。無数の傷が頭部を中心に伸びていく。
「食らえ、切り返しの時間じゃ!」
 邪剣の一。夢心地が妖刀と隠密刀を蜘蛛の頭部に振るい、ううと顔をしかめる。
「そなた、かったいのう!」
 鈍い痛みに夢心地は項垂れる。
「さむ! さっむ!! 動き続けないと身体がどうにかなっちゃいそうだね。適応してる蜘蛛が羨ましいよ! あ~、さむ~!!」
 テリアが白い息を吐きだし、身を捻った。そこには、二体の蜘蛛が隠れていた。
 ──え? 
 驚く蜘蛛。得意げに魔光を与えるテリア。
「へへ、油断大敵! 精霊さんがこっそり、教えてくれたんだよ!」
 ──ああ、兄さん達。ごめんねぇ。
 けらけらと笑い、後退する蜘蛛。テリアの攻撃を浴びた蜘蛛達は恨めしそうに弟を見つめた。
 ──じゃあ、今度はぼくの番だからね?
 蜘蛛は壁を切り刻んだ。
「!!」
 イレギュラーズ達は蜘蛛の不可解な行動にびくりとした。仲間を呼んだ? それとも、何かのサインだろうか。佐里は辺りを見渡す。冷静に見極めなくてはならない。息を吐く、特に何の変化も。いや──音がした。氷が弾けるようなそんな音。ああ、見えた。
「イグナートさん、来てます!」
 佐里が叫んだ。彼は一直線にイグナートに向かう。それは本能のようだった。兄妹達は笑っている。無言で突き上げられる蜘蛛の足。狙われたのは眼球だった──咄嗟に伸びた右手が蜘蛛の足を掴んだ。軋む。ばたつかせる足、雪が落ちていく。イグナートは赤く光る彼女の目玉を見た。奇麗だった。でも、奪われるわけにはいかなかった。もがく度に足はひび割れ、やがて、砕け散った。後退し、欠損した足を見つめる。蜘蛛は何も信じられなかった。遠ざかる笑い声。
「食われる気持ちがようやく、分かってきた?」
 躊躇うことなく、踏み込んだのはユンだった。蜘蛛はユンを美しいと思った。
 ──どうだろう。私は生まれたばかりだから。でも、私はもう死んでしまう。それは仕方ないこと?
 気が付けば、太刀に切り伏せられていた。ゆっくりとずれていく頭部。一人はつまらない。蜘蛛は最期までユンと話したかった。
「そうだよ、それは平和とかけ離れているから」
 ユンは言った。手が痺れている。
 ──平和? 平和ってどういうもの?
「そなたたちがいない世界だよ」
 ユンの言葉に蜘蛛は頷き、その首をユンに捧げる。

「無駄ですよ、私にはちゃんと見えています!」
 佐里が壁際の蜘蛛目掛けて、指先から生体エネルギーで出来た糸を撃ち込んだ。鋼の驟雨に蝕まれ、蜘蛛は呻き声を上げた。
「佐里ちゃん、いいね! どんどん押していくよ! でも、やっぱり硬いね!」
 テリアが言い、動いた。蜘蛛は見た。連綿と村人に注がれる罵声、蔑み、暴力を。なんだろう、そう思うより先に──呪詛の歌は村を焼く紅蓮の蛇となって全てを呑み込んでいった。闇に吸い込まれていく。でも、きっと今度は──
「わっ、上に一匹いるよ!」
 イグナートが目を見開いた。
 ──姉さん達、死んでしまったんだね。
「誰のことかな?」
 反射的に答え、イグナートのバックパックが火を噴いた。
 ──何をする気?
「戦士を冒涜するコウイがどれだけ高くつくかその身に刻んでやろうじゃないか!」
 苦難を破り、栄光を掴み取るイグナート。そして、鉄騎の拳が蜘蛛の背を歪ませ、蜘蛛はぽろりと落ちていった。
 ──これなら、仕方ないかもね。
 入れ替わるように、地上から糸が吹いた。目を丸くするイグナート。絡んだ糸とともに壁に激突する。
「イグナートさんっ!」
 佐里は叫び、ぐっと前を向いた。
「皆さん、三匹です! 落ちた蜘蛛と地上に一匹、そして、左側に一匹ぶら下がっています!」
 佐里の言葉に即座に反応する。
「隠れようとしても無駄だから」
 白が氷の陰を見つめ、簡易封印を飛ばし、神聖なる救いの音色を奏でる。
「容赦しないよ」
 ユンが目を細めた。寒さをどうにか、押さえ付け、飛ぶ斬撃で蜘蛛を剥がしとる。
 ──凄いね、キミタチ。
「そうじゃ、凄いじゃろ! ぶ、ぶぇーーーーっきしっ!」
 ハッとする蜘蛛。そのまま、夢心地の剣撃に吹き飛ばされる。


 加速していく攻撃。イレギュラーズ達は塹壕やバリケードを利用し動き回っている。一方、蜘蛛達は自らの頭が誰かに乗っ取られているような感覚を味わう。
 ──ああ、どうして私は弟を食べてしまったの?
 首を傾げ、切断した足を眺めている。それに、イグナートがとても気になった。
「佐里さま、テリアさま!」
 メリルナートが接近し、神聖なる救いの音色を奏でる。その横を転がっていくユン。切り刻み、得意気な蜘蛛の顔が歪む。
 ──どうして?
 驚く。攻撃した足に亀裂が走っている。
「ニコラスさん、蜘蛛はメリルナートさんの後ろです!」
 佐里はずっと叫んでいる。頭が寒さでどうにかなりそうだった。緊張で心臓も痛い。でも、やり遂げたかった。
「おう、助かるぜ!」
 ニコラスが技を放った。うろたえ、蜘蛛は身を強張らせる。何故、此処に。気配がまるでしなかった。蜘蛛は震えた。天国への七光に何度も苦しめられている。
 ──ね、ボクもいるよ?
「──ッ!?」
 突然、ニコラスの背を刻む蜘蛛。別の蜘蛛だ。舌を鳴らすニコラス。防寒具が切り刻まれ、転倒する。痛みに呻いた。本当は手だって痛い。それに頭も。
「誰も俺に構うんじゃねぇ! 蜘蛛を仕留めろ!」
 ニコラスは吼え、夢心地が反射的に飛び出し、魔性の切っ先が蜘蛛をどうにか切断する。

「此処なら、安心だ」
 塹壕でユンが自身の傷を修復し、「お前の真似。楽しい楽しい?」
 白が満面の笑みで切断されたばかりの蜘蛛の足をカンカン蹴った後、神聖なる救いの音色を贈る。
 ──やれやれ、性格悪すぎじゃない?
 煽られ、蜘蛛が白に糸を伸ばした。操り糸が全身に触れる。白はじっと蜘蛛を見た。くつくつと蜘蛛は笑った。だが、希望は絶望だった。痛みに耐え、イグナートがその糸を断ち、白い息を吐き出しながら、ニコラスが二度、攻撃を仕掛けた。定まらぬ運命の輪の轍。飛んでいく、二つの悪。確実に仕留めている。そう感じつつ、テリアは顔を歪ませる。体力が奪われていく。この寒さは尋常ではないし蜘蛛の身体はとても、硬い。集中し、呪言。途切れることなく、刻み込む状態異常。もう一度、テリアは蜘蛛を見た。
「苦痛に歪んでね!」
 声とともに黒いキューブが蜘蛛を襲う。蜘蛛は笑っていた。子供を相手にしているようだった。
「好戦的なのが運の尽き、ですわよー。大人しくここで倒れてくださいなー」
 酷薄するメリルナート。自らの血を媒介に氷の槍が産まれ、抵抗なく突き立つ。
「避けることすら出来ないようですわねー」
 笑ってしまう、蜘蛛は動けずにそこにいた。
「……」
 佐里は見つめる。蜘蛛は一体。ならば、すぐにでも──
「ああ……」
 佐里は目を見開いた。やはり、来たのだ。
「今度は蜘蛛が二匹来ています! 大量の武器を背負った蜘蛛と、腕を持った蜘蛛が地上から!」
 声が震えている。
「兄さん、姉さん、ご馳走が一杯だよ!」
 テリアが叫んだ。蜘蛛を真似た声。
 ──ああ、わたしたちが見えていないとでも?
 ──そうだなぁ、ヨダレが溢れてしまうなぁ!
 蜘蛛がテリアに向かっていく。
「行かせませんよ!」
 佐里が素早く、死の凶弾で足止めし、白が動けない蜘蛛の頭部を簡易封印で奪う。転がっていく頭部。果敢に攻め込んでいくイレギュラーズ達。
「ぐっ!?」
 凶悪な攻撃を浴びるイグナート。だが、今度は──瞬時に自らを回復させ、審判の一撃を放った。勢いよく、地面を跳ねる蜘蛛。
 ──ね、これが見えるかな?
 蜘蛛は強気だった。傷だらけの身体から武器をおろし、切り刻んでいく。
 ──聞こえる? 彼らの武器だよ? 僕が壊してるの!
 くすくすと笑う。
「胸糞悪いな。だが、んなことで俺達の心が折れると思ってんじゃねぇよ! くだらねぇ」
 吐き捨て、蜘蛛をマークするニコラス。限界に近かった。眩暈がする。
 ──大丈夫? 顔色が悪いよ?
「ああ、くそ……ぶっ飛べよ、バケモン!」
 零距離の果て。無数の魔弾を突き付けると、蜘蛛は嬉しそうに朽ちていった。

 あと少しだった。蜘蛛は自らの死を悟りながら、食べることに執着した。ただ、何故だろう。最後の一体が見当たらない。
「あらあら、上手く隠れられてしまいましたわー。皆さま、念のため、最後の入口を塞ぎますわねー?」
 手甲でバリケードの裏を照らしながら、メリルナートが言う。
「手伝うよ、彼等が必死に遺した情報に従うのなら、敵は逃げてはいないはずさ。むしろ、喜んでいるだろうし。全員食べれるって」
 白がメリルナートとともに入口を塞ぐ。
「ふは! これぞ、密室というものじゃ! 此処で殺人が起きても文句は言えぬのう?」
 夢心地が背中を叩きながら、ちらりとサインを送る。
「えー、なら、私が犯人役をするね!」
 テリアは笑い、魔光を迷いなく放った。直撃する。蜘蛛は仲間の死体に擬態し、迷宮森林警備隊から奪った腕を使い、じっくり食べてしまおうと思っていた。焦ってしまう。だからだろう。こんな時に蜘蛛は転倒したのだ。一瞬の隙、ユンが近づいてくる。
 ──助けてください。
 蜘蛛は言った。ユンもまた、浅からぬ傷を持っていた。首を振る。
「駄目だよ。僕は自然が好きで、動物も好きだ。蜘蛛も例外ではない……だが、そなたたちはただの化け物。助けることは出来ない」
 ユンは言い、蜘蛛を殺す。最期まで蜘蛛は笑っていた。二度、斬られたことすら知らずに。

 それから、イレギュラーズ達はイグナートの提案の元、壊れた武器を拾い集め、迷宮森林警備隊全員の遺体を取り戻した。蜘蛛は嘘吐きではなかった。

成否

成功

MVP

一条 佐里(p3p007118)
砂上に座す

状態異常

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377) [重傷]
業壊掌
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576) [重傷]
博徒
一条 夢心地(p3p008344) [重傷]
殿
ユン(p3p008676) [重傷]
四季遊み

あとがき

 お疲れ様でした! いやぁ、至極、悔しい!! 全員で迎え撃つ形にしましたか。皆様がプレイングで予想した通り、戦力を分散させ、歩きまわっていれば、すぐに体力を奪われ、奇襲にも反応できなかったかと思います。実際、その為の三匹まででした! そして、MVPは状況把握に徹した貴女に贈ります。

 完敗です、本当に。では、ご参加いただき、ありがとうございました! 熱いシャワーを浴びて、ゆっくり休んでくださいね。

PAGETOPPAGEBOTTOM