シナリオ詳細
<夏の夢の終わりに>愛されぬ者たちへの反証
オープニング
●満たされることのないエピゴウネ
世界の話をしようじゃないか。
この広い広い無辜なる混沌(せかい)は今日も明日も誰かが心なく蹴落とされ、誰かが無意味に死んでいく。
彼らの人生は一体どれだけ満たされただろうか?
彼らの生涯にどれだけ意味があったろうか?
求めたものは、どれだけ手に入っただろうか。
スラム街で指をくわえて塔をみあげた子供。お姫様に憧れた煙突掃除夫。妖精を夢に見た少年。
「一体何人が、満たされて生きたことだろう。……君は満たされたかい?」
金色の椅子に腰掛けて、サングラスの伊達男は軽薄に笑った。
灰色の身体は既に過去のもの。黄金の輝きをもつ彼をキトリニタスと呼ぶ。アルベドの上位段階である。
豊かな、そしてどこか親しみを込めた笑みを浮かべた。
「なあ、オリジナル?」
対して、階段をあがったもう一人の伊達男はポケットに手を突っ込んだまま相手をにらみつけた。
「余計なお世話だ、エクストラ。俺の何を知っている……なんて」
ヴォルペ(p3p007135)は自嘲気味に頭を下げて、キトリニタス・タイプヴォルペもまた自嘲気味に顔を上げて、それぞれ笑った。
とんだ茶番だ。
誰が誰に向けて、こんな話をするというのか。
おとぎ話に語られるような、それは『向こう側』の国だった。
妖精郷アルヴィオン。この国が魔種タータリクス率いる軍勢に占領されたのは過去のこと。
ヴォルペたちイレギュラーズは妖精達からの依頼を受ける形で街の奪還に成功したのだった。
一方で伝説の勇者が封印したという『冬の王』の力とその封印を、錬金術師クオンとブルーベルが持ち去るという事件に対しイレギュラーズたちは奪還に失敗。
妖精郷は春を失い、深い冬の力に閉ざされてしまった。
冬を払うべく、そして占領された妖精城アヴァル=ケインを取り戻すべく、妖精とイレギュラーズは再び手を取り合い、進撃を開始したのだった。
……というのが、ここまでの話である。
「で、おいたんの部屋を抜ければ更に先に進めると?」
「そういうことだエクストラ。そのいけ好かないグラサンを外して、さっさと横にそれてくれ」
ぱたぱたと手をふるヴォルペ。
「どうせあんたも、タータリクスに思い入れなんてないだろう?」
悪の錬金術師。女王のストーカー。イレギュラーズの偽物を大量に作る嫌な奴。
タータリクスの悪名はここ妖精郷を中心に留まることを知らぬ勢いだ。
だが。
「本当に、そう思うかい」
ゴールデンヴォルペはサングラスを外して立ち上がり、羽織っていたシャツを脱ぎ捨てた。
しなやかに引き締まった肉体をさらけ出し、前髪をかき上げる。
「たとえ一億人殺した大悪党だって、きっと誰かに愛されたさ。
たとえ誰にも愛されなくなったって、それでも……俺がいる」
語らう暇などないとばかりに、武装した妖精達がゴールデンヴォルペへ襲いかかる。
常人ならば消し飛ぶほどの集中魔術砲撃を、しかしゴールデンヴォルペは両腕を広げるようにして受け、そして弾いていく。
「おいおいお嬢ちゃんたち。こんなモンじゃ楽しめないぜ?」
ハンサムに笑って、サングラスを放り投げる。なぜにと思ったときには、ゴールデンヴォルペの姿はかき消えていた。
そう気づいたときには妖精達の背後に立ち、繰り出す後ろ回し蹴り。
蹴りは暴風のごとき衝撃となって妖精達を吹き飛ばし、落ちてきたサングラスをキャッチする。
彼を倒さねば進めない。そう考えた残りの妖精や仲間達が構える……が。
「おっと、そう焦るな。『お前達』は行っていい」
部屋の端に寄って、ゴールデンヴォルペは恭しく頭を垂れ、手をかざして先の通路を指し示した。
「ただし『オリジナル』……ここに残ってくれるよな?」
●愛の証明
仲間達に先へ行くよう顎で示し、ヴォルペは上着にてをかけた。
「どういうつもりだ……?」
「どうもこうも。さっき言ったとおりさ」
ゴールデンヴォルペは再び両腕を広げ、しなやかな肉体を見せつけるように胸を張った。
「タータリクス。確かに外道だよね。誰からも愛されない。誰からも嫌われて、きっとひとりぼっちで死ぬんだろう。けど、そうはならない。俺がさせない。
この世に『愛されぬ者の味方』がいるってことを……オリジナル、君に刻みつけることで、証明することにする。
この世に俺みたいな奴がいるなら……世の中捨てたモンじゃあないだろう?」
「チッ……」
ヴォルペは顔をしかめ、そして上着を脱ぎ捨てた。
「ああ、ああ、そういう奴だろうさ。『おまえ』は!」
「ああそういう奴だとも、なら『君』はどうだ!?」
走り出す。
互いに拳を引き絞り、たがいの顔面へと打ち込んだ。
妖精郷のまんなかで、男と男が、愛を証明するための戦いを、はじめた。
- <夏の夢の終わりに>愛されぬ者たちへの反証完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年09月01日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●誤った二分法
「キトリニタス・ヴォルペ……。ここまでしっかりした自我を持った存在になるなんて思いもしなかったよ」
ぶつかり合うゴールデンヴォルペとヴォルペを見つめ、『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は手にした鞘から水平に剣を抜き始めた。
刀身が陽光を照り返し、きらりと目元を照らし出す。
「その一個の生命が命を賭して立ちふさがるなら、私も全力で応えるよ」
地面と水平に吹き飛ばされてくるヴォルペをひらりとかわし、右方向に一回転。その末に踏み込んだかかとでフロアタイルを蹴ると、サクラはこする刃の切っ先で火花を散らしながらゴルペへと急接近をかけた。
近づく。いや、大きくなっていくゴルペの姿。
「聖奠聖騎士、サクラ・ロウライト。推して参る!」
「ああ、いいとも。狙うならココだよ」
ゴルペは自らの胸元を親指で指し示すともう一方の手でクイクイと手招きした。
ざくり。
と真正面から突き刺さるサクラの剣。
「誰からも愛されない相手の為に、世界でたった1人の味方であろうとするその気持は否定しない。その気持ち、断じて称賛はしないけど……」
しかしサクラの剣が刺さったのはほんの五ミリ程度。そこから先へ通ることはなく、バチバチと刀身から火花が散るのみである。
「その愛を認めるよ」
「ありがとう。返せるお礼はないけれど、痛みでよければ刻んであげられるよ」
首をがしりと掴むゴルペ。サクラはあえて抵抗せずにそれをうけると、ゴルペの手首を片手で握ってはねた。両足の靴底にオーラを纏い、ゴルペの胸めがけて至近距離から両足揃えのキックを繰り出す。ゴルペがそれによって蹴飛ばされることはなく、逆にサクラがゴルペから飛び退く形になった。
「ヘイパス! ナイシュー!」
『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は飛んできたサクラを片手でキャッチし、くるんと回りながら着地させると復帰動作のついでに刀を抜いた。
「前回剣を止められた。生きては返せない」
抜刀とほぼ同時に投擲。
ゴルペは回転してとんでいった刀の刀身部分を素手でキャッチすると、くるりと回して秋奈へと放り返した。
「落とし物だよ」
「なめんな『ぺ』のくせに!」
ナイフホルダーを全展開。指の間に何本もはさんで連続投擲すると、飛んできた刀をキャッチし二刀流へシフト。スラスターを起動させてゴルペの横を強引に切り抜けていった。
「記憶に刻み込まれてたまるもんですか。(色々な意味で)被害者をこれ以上増やさないためにも! しんどけゴルペ!」
切り裂かれた部位から激しく出血するも、ゴルペはまるで熱いシャワーでも浴びているかのように目を瞑って両手で髪をかき上げる。
「うーん、カイカン」
「やりづれえええええええええ!」
「さあ、君らの『愛』も教えて貰おうか。刻み合おう。彫り込み合おう。そして忘れられない夜になればいい」
「教えろだと?」
『妖精の守り手』サイズ(p3p000319)は手にした鎌に力を込め謎ユニットを装着すると、力のかぎり『魔砲』を連射した。
「俺がどういうやつか? そんなの決まってる! 俺は妖精の刃……妖精を守り、妖精の敵を斬る武器だ!
そして……キトリニタス。もう妖精として救えない段階まで来ているのならば……せめて介錯するのが俺の情けだ!
愛……? 俺は愛をまだ理解できないが……俺に告白した子がいた! だから俺はその告白の返答を見つけるまで倒れるつもりはない!! それに妖精郷を救い……妖精を救うまで……俺は死にたく……破壊されたくない!!!」
サイズの放った魔法にくるりと身体ごと振り返り、両手を広げ相手を抱きしめようとするかのように砲撃を受け止めていく。
ゴルペの胸板にぶつかったエネルギー光線が水をぶちまけたように弾けて散っていった。
その上で、一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。
「下がれ、どんだけ強くても相手はひとりだぜ! 囲んで撃ちまくれば隙ができる筈だぜー!」
『ガトリングだぜ!』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)はおなかスライド走法でついーっとゴルペの斜め後方へ回り込むとガトリングガンの固定脚をおろしてブレーキ、身体ごと回頭すると、ブゥンという音と共に銃身の回転を開始した。
「ガトリングMADACO弾! ふぁいやー!」
撃ちながら叫ぶワモン。
「オイラはタータリクスってやつとあったことねーからよくわかんねーけどよぉ、
そいつの事が好きだってんなら悪い事をした時に止めたり正したりした方がよかったんじゃねーか?
誰にも愛されないっていうのはわりーことしてるから嫌われてるだけだろ?
わりーことしたならごめんなさいって謝るのはオイラでも知ってる事だぜ!
そうやって愛されキャラに導くのが本当の味方だったんじゃねーのか?
オイラはそう思うぜー」
「優しい味方だ。けどどうだろう。タータリクスは本当に『悪いこと』をしたんだろうか? 悪いことをすれば嫌われるか? 答えは否だと俺は思う」
今度はワモンのほうへと向き直り、ぶち当たる大量のマダコとその爆発を両手を腰に当ててキャットウォークをしてみせることで防御した。
「善悪、好き嫌いは立場で変わる。英雄もテロリストも、愛も恋も。
そして俺の主義と立場は一貫してこうだ。……『愛されぬ者の味方』」
「そんなの意味がわかんねーぜ!」
「ソレハ、プリンカ!? プリン以外カ!?」
『甘い筋肉』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)は(・w・)めいた顔の描かれたプリン型巨大ヘルメットの内側から叫んだ。
握りしめた拳を地面に打ち付け、その衝撃で跳躍。
豪快な宙返りをかけながら、組んだ両手のダブルハンマーをゴルペへとたたき込んだ。
「──オマエ、強イヤツダナ?」
自分の肩と腰をそれぞれ抱く姿勢で小首をかしげたゴルペ。その頭部に『直撃させたはず』の拳をそのままにして、マッチョプリンはカシャンと開いたヘルメット下部の排気口から熱い吐息を排出した。
「オマエ倒セバ、オレモット強イヤツ! アイアム! ベスト! プリン!」
両腕を引き絞るように構え、手首部分のヒーターから高速発熱。真っ赤に燃え上がった拳でパンチラッシュを仕掛けていく。
「プリン! オレハプリンガ好キダ! ソレ以外、無イ!」
猛攻。そのさなかにふらりと立ち上がった『雪中花蝶』斉賀・京司(p3p004491)は、治療を終えたヴォルペを引っ張り立たせながら振り返った。
「僕がどんな奴か? ……臆病で卑屈な奴さ。
臆病者だから、真っ正直からぶつかるのが怖くて仕方ない。
卑屈だから、正面きって愛されると疑いたくなるよ。
きっと愛されて満たされることは幸福だろうね。
たとえそれが上面でも。たとえそれの後が虚しくても。
なあ、手前。愛の証明って悪魔の証明と同じじゃないか?
嗚呼、ほら。もうこんなにも疑り深い」
「京司くん……」
ひどく饒舌に語る京司。何かを言おうとしたヴォルペにそっと手をかざし、小さく首を振った。
「あなたは、いい。ヴォルペさん」
そう語る京司に対してゴルペは左右非対称に笑った。突き出した手の平だけでマッチョプリンを派手に弾き飛ばす。
「愛されるのが怖いのは、愛に滅ぶ未来が怖いからかい? それとも、愛に溺れることが怖い?」
「そんな話は、していない」
表情こそ穏やかなれど、どこかにらみ合うような雰囲気を交わす二人。
その様子を見て、マッチョプリンの回復をはかっていたグリーフはずきりと頭の痛みをおぼえた。
(誰かを模して生み出され、その誰かになり切れなかったアルベド。いえ、今はその誰かから個を確立したキトリニタス。ワタシは……?)
(――誰にも愛されない?
――ひとりぼっち?)
(うるさい。望んで作ったくせに。
あんなにも愛の言葉を、記憶を刷り込んだくせに。
貴方の愛がなければ、貴方を愛さなければ生きられぬように、そう作ったくせに)
「……これは、一体」
無表情のまま頭をおさえ、なぞるように頬へ手をやる。
柔らかくも冷たい手に、透明な液体が付着していた。
「おや? そこにもいたようだ。愛を恐れ、満たされない人形が」
「うるさい」
立ち上がり、ぎりぎりと拳を握る。
シリコン樹脂による作り物の肉。科学的に製造された偽物の皮。それらが不意に裂けて、拳から赤い循環液がしたり落ちた。
(ワタシもまた誰かに愛されることがあるのか。
私も、愛する側になれるのか……)
「なぜ、アナタが愛について語るのです。作り物のアナタが」
「生まれた経緯や魂の有無に、愛が依存するという根拠が?」
わざと小難しい言い方をしてゴルペは肩をすくめた。
「たとえブリキの人形でも、架空のお姫様でも、なんでも構わない。
ひとはいつも愛を求め、しかし疑わしいがゆえに証明を求める。指輪。誓い。肉体を混合する行為。住居の共有。言語化した確認。暦を周回させるだけの確認。それでもなお満たされずに歪んでは、裏切りを恐れる。
だから『刻む』のさ。君たちに、忘れられないほどに、深く痛ましく、醜いほどに。『彼もまた愛された』という証め――」
拳が。
ゴルペの側頭部から頬にかけてえぐりこむように打ち込まれた。
ぐわんと上半身をゆらし、振り返るゴルペ。
ヴォルペは拳に血をつけたまま、両目を大きく見開いた。
「何が愛だ。何が刻み込むだ。誰にも愛されない存在を愛するのは楽だろう。
裏切られることも愛し返されることもないんだからな。
けれど知ってるはずだ。いくら『俺』たちに刻みこんだところで届きはしない。認知すらされない。
お前は愛を恐れてるんじゃない。『忘れられる』のを恐れてるんだろう?」
頬に手を当て、なぞるように血を拭うゴルペ。
「『分かった風な口をきくな』って目だ。そうさ分かるさ。『俺』は『おまえ』だから。そしてもはや疑いようもないだろうさ。この場に居る全員がお前という存在が焼き付いていく。だから」
「だから?」
「だから、ああ――そうさ、本当に!」
ぎり、と二人のヴォルペは拳を握りしめ。
「お前なんて大っ嫌いだ!」
「それはお互い様だろう? 忘れられることから逃げたくせにな!」
拳が、互いの顔面へと打ち込まれた。
●ストローマン
激しい縦回転をかけながら吹き飛び、彫像を破壊しながら壁へと激突するヴォルペ。京司とグリーフが急いで彼の回復に向かう一方で、ゴルペめがけて秋奈、サクラ、サイズが三方向から同時に斬りかかる。
死角のない斬撃――が、ゴルペの表皮で止められた。
両手を高く掲げ、手首を交差させた姿勢のゴルペが目を瞑り、身体に感じる刃の冷たさにスウッと目を開いた。
「この程度じゃ、まだ刻めないな」
瞬間、ゴルペの姿がその場からかき消え、突如として三人に分裂したゴルペがサイズたちの背後へと現れた。
否、あまりに高速で動きすぎたせいでそう錯覚したのである。
蹴りが、手刀が、パンチがそれぞれ命中し、三人は中央で衝突。
ウオーと叫んで同時に跳躍したマッチョプリンとワモンが両サイドからきりもみヘッドバッドを仕掛けた。
あらゆる物体をねじり潰すかの如き勢いでゴルペをサンド――したが、ゴルペはそれを両手それぞれでがしりと受け止めて強制的に停止させた。
マッチョプリンのヘルメットに指がばきりと食い込み、ワモンのガトリング銃身がばきんと音を立てて歪んだ。
「んなっ――!」
ぐるんと世界が歪んだかと思うと、風景がミキサーにかけられたかのようにシェイクされた。そう見えたのは、二人がゴルペによって超高速で振り回されたがゆえだろう。
気づいたときには彼らは柱や壁にめり込む形で突き刺さっていた。
さらなる攻撃をさけるために彼らとの間に割り込み手を広げるグリーフ。
だがワモンは『かまわねーぜ』といって立ち上がった(?)。
「このにーちゃんはぶっ飛ばすぜ。本気のアザラシパワーでな!」
ドンとヒレで血を叩いて跳躍。回転。
と同時に海豹力を噴出してミサイルのごとくゴルペへと突っ込んだ。
今度も手のひらでキャッチしようとしたゴルペだが急速にカーブし回り込んだワモンがゴルペの背後から激突。
ぐらついたゴルペへ、サイズとマッチョプリンが同時に襲いかかった。
『アイススフィア』や追加装甲によって防御力を増したサイズの『シードスティール』が繰り出される。
フェアリーシードを安全に回収するためにと編み出した技を、いまゴルペに対する必殺の刃として繰り出したのだ。
その一方で、腕の装置を展開し拳にプリン型のナックルダスターを装着したマッチョプリンが頭頂部にチェリーオブジェを飛び出させ、サイレンカーのごとく発光させた。
鳴り響くテーマソング。
高速回転し火花を散らすプリンダスターが防御の崩れたゴルペへと豪速でたたき込まれる。
「マダ、倒レテナイゾ! 光ルクライ、オレモ出来ル!」
猛攻。更なる猛攻。
秋奈はリミッターを解除すると超高速の連続斬撃を繰り出した。
「これは前回攻撃を止められた私の分!
これは散っていった妖精さんたちの分!
これはこの前ナンパされてた豊穣の幻想の深緑の海洋の鉄帝の練達の傭兵の天義の乙女たちの分!
これはたぶん将来被害者になるアルテミアさんの分!
そしてこれは昨日炒飯を食べてたら新田Pにメシテロされた私の分だー!
あとゼファーさんとなにでいていの分もだー!」
最後に握りしめた拳をたたき込み、ゴルペを吹き飛ばす秋奈。
吹き飛ばされたゴルペは幾度かのバウンドの後、フロアタイルに手を突いてくるりと逆立ち、身をひねって再び直立姿勢へとかえった。
「今のは、だいぶ効いたかな……」
「ゴルペ!」
びしりと指を指すマッチョプリン。
「──オ前ノ好キナ物ハ、何ダ!?」
あまりに単純で、きっと誰にでも応えられるような質問に。
しかしゴルペはびしりと固まった。
「……好、き? 俺の……? 俺は、なぜ……どうして、今……」
顔に手を当て、震え始めるゴルペ。
今が攻撃チャンスとみたサイズたちが一斉攻撃を仕掛ける――が。
その瞬間、フロアが黄金の光によって焼き尽くされた。
●愛のねつ造
焼け焦げたフロアタイル。砕け散ったステンドガラス。
落下し醜くひしゃげたシャンデリア。
その中心に立ち、『もうひとりのヴォルペ』は両目からだくだくと赤い液体を流し続けていた。
「どうして、気づかなかった。満たされていた、筈だったのに」
そんな彼に、剣を突きつけるサクラ。
「私は聖奠聖騎士! 全ての人が正義を為しても良いと指し示す為の、希望の道標になる者!
愛ある者、キトリニタス・タイプヴォルペ!私は私の正義に賭けて、妖精郷を救う!」
剣に纏った氷の力が突風となってサクラの周囲を渦巻いた。
突撃。
振り向くゴルペ。
「そうか。今、俺の役割は」
繰り出されるサクラの剣を拳を打ち付けることによって防ごうとするも、それを先読みしていたサクラは剣の軌道にフェイントをかけてゴルペの腕を肩からスパンと切断していった。
回転して飛んでいく腕。
反撃を繰り出そうとするゴルペの腕を、グリーフが素早く掴む。
「アナタは望まれた。望んで『そう』設計されたのでしょう。『彼』もまた、忘れられることから逃げたのです。『あの人』のように」
自分でも、何を言っているのかよくわからなかった。
言葉が口を突いて出た。人間めいた表現をするなら、そうなのだろう。
バキンと音をたて腕に線が入り、広がった肘から手首にかけてグリーンのレイラインが走る。
「いまのワタシでは、あなたに望む生と死を与えることは叶いません。だからせめて、死だけは」
至近距離から猛烈な速度で殴り合うグリーフとゴルペ。
その決着がつくまでの間、京司はただ丁寧にヴォルペの回復を行っていた。
赤いキャンディドロップを取り出して、開いたヴォルペの口へと押し込む。
「手前の言う『アイツ』は作られた悪だ。嫌われているというのも、手前の思い込みかもしれないよ。本当に、まるで、可愛くないよ」
ゴルペへと話しかけているようだ。
京司は立ち上がり、眼鏡にてをかけながら振り返る。
「ヴォルペさんはこう見えて、可愛いから好きなんだがね」
「それは、うん。ありがと」
苦笑して立ち上がるヴォルぺ。
京司を後ろへ下げると、倒れたグリーフをよそに歩き出すゴルペと向き合った。
「誰よりも死を渇望してるくせに」
「誰よりも生きた証が欲しいくせに」
「ハイスペックきめて死にづらい生き様晒しやがって」
「パブリックエネミー気取って生きづらい人生晒しやがって」
「そういうところが」
「おまえみたいなのが」
一歩、一歩。
殆ど衣服など剥がれ落ちたまま、互いの額をぶつけにらみ合った。
食いしばった歯のまま唸る。
「「大嫌いだ!!」」
死闘、と呼ぶべきなのだろうか。
最後に残ったのは血塗れで倒れたヴォルペ。
立っていたのは腕を血塗れにしたゴルペだった。
しかしゴルペはえずくように血を吐き、膝から崩れ落ちていく。
「『そういうところ』だぞ、君は、まったく……」
「ああ。もしも『おまえ』が『俺』の探し求めるものだったなら……お前を殺して俺も死ぬが出来たのにな、残念だ」
「本当にな」
ぼろぼろと崩壊し、砂のように散っていく『もう一人のヴォルペ』。
「先に行ってるぜ。それまでに君も、『見つけられれば』いいよな」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
――依頼達成
――キトリニタス・タイプヴォルペを撃破しました
GMコメント
■オーダー
キトリニタス・タイプヴォルペの撃破、それのみ!
■シナリオデータ
皆さんは妖精城アヴァル=ケイン進撃中、キトリニタスと遭遇しました。
彼は自分の戦いをヴォルペたちに刻み込むことで、『誰にも愛されぬタータリクスを愛した存在がいた』ことを証明するつもりのようです。
つまりこの戦いは愛のための戦いであり、同時に戦いに参加したイレギュラーズ立ちに『お前はどういう奴だ?』と問いかけるための戦いでもあるのです。
・アヴァル=ケイン城内、氷のダンスホール
ステンドガラスに囲まれた冷たいダンスホールです。
神様が飽きるまで踊り続けることができるでしょう。
・キトリニタス・タイプヴォルペ
通称ゴールデンヴォルペ(ゴルペ)。
圧倒的な耐久力を持ち、防御、抵抗、EXAやCT、機動力といったステータスが非常に高い固体です。
ブレイクや必殺といった高等バトル向けのスキルは一通り備えており、来る者拒まず去る者地の果てまで追いかけるねっとりした構成になっております。
また、地味にゴルペは『複数回見たスキル攻撃の対処法を学習する』という性質があるため、目安としては前半と後半で使うスキルを切り替えていくとよいでしょう。
とっておきの大技を後にとっておくのも有効です。
■■■アドリブ度■■■
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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