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シナリオ詳細

<夏の夢の終わりに>醒めないで、わたしのゆめ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ココロころころ、イミうみうまれ
 戦ってチリチリ散るだけの、他に意味なんてなかったコピーの捨て駒。
 なのに、ずるい、羨ましい!
 ありがとうなんて、満足して死ねるなんて!
 私だってやりたいように生きたかった、満足したかった!
 最高のダジャレを作る事に、残りの命を賭けたかった!!

『時間内とか、時間無いのよ……』
 溢れる魔力に満ちたこの体なら、多少は長持ちすると思ったのに。
 『多少』程度では、ダジャレを極めるには時間が足りないと知ってしまった。
 戦うよりも意味のある事を、せっかく見つけられたのに!
 コピーじゃない、私だけの、オリジナルの意味だったのに!!
 結局白いお人形でしかない私が時間内でできる事は――『こんな事』しか。
『ダジャレと死闘。どっちもできない中途半端になるくらいなら……せめて、できる方を確実にする。待ってなさいオリジナル!』

●それもまたアイの形
 深緑の常春の国『妖精郷アルヴィオン』にて、魔種達からエウィンの町を開放したイレギュラーズ達。
 妖精城アヴァル=ケインへと撤退、籠城する魔種達をアルヴィオンから駆逐すべく、イレギュラーズ達はエウィンを拠点に更なる進撃をする手筈であった――が。
 常春のアルヴィオンは、常冬の災厄に襲われていた。世界全てが凍り付き、空が晴れる事はなく、猛吹雪が凍った草花や切り株の家ごと打ち砕いていく。

 そして、悪い状況とは得てして望まぬ形で重なるものである。

「どうしたの!?」
 待機していたイレギュラーズの一人が、転がり込んできた一人に気付く。『千殺万愛』チャンドラ・カトリ (p3n000142)だ。
「ああ……戻って来れたのですね、我(わたし)は。ふふふ」
 満身創痍としか言いようのない状態であるにも拘わらず、彼は恍惚の笑みを浮かべていた。
「流石に今回は、死んでしまっても已む無しと思っておりましたよ。それほどの強烈な……アイでした」
「愛? 何があったの?」
「『夢』<アイ>ですよ。見つけた光を、諦めるしかない。絶望しても本当は夢を見たい。そんな……儚くも狂おしい姿。愛さずにいられましょうか」
 夢見るように語って、彼は己に回復魔法をかけると告げた。
「セリア。貴女の形をしたアルベドが、妖精城の攻略を阻んでいるようですよ」
 アルベド。
 妖精郷の妖精を核に取り込み、イレギュラーズの姿をしている白い人型。『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)の姿をした個体は以前にもイレギュラーズ達と交戦したが、当時はその後逃走していたのだ。その彼女が、戦線に戻ってきたという。
「以前は別のアルベドと共に現れたようですが、今回は冬の精を多く連れていましたね。確実に殺しに来ていますよ。それしかできなくなってしまった……と、思っているようで」
 冬の精達は、鋼の嘴を持つ氷の烏の姿をしているという。
 その嘴は鉄の鎧を貫き、響き渡る鳴き声は絶望の狂気を誘い、戦士を死へ追いやる。
 何より、セリアのアルベド自身も強力な必殺魔法を使ってくる。
 常冬の災厄も手伝っているのか、彼女達の力はより増しているように見受けられた。
「冬の精は邪妖精ですよ。アルベド諸共、打ち倒すのが愛でしょう。……それとも」

 戦いの他に意味を見出した、生まれたばかりの白い子を。
 それができないと知ってしまった子の絶望を。
 救う言葉がありますか?

GMコメント

旭吉です。初のHARDにして初の決戦シナリオ。
震えるどころか凍り付いてしまいそうです。
なるべく容赦はしないよう善処します。押忍。

●目標
 アルベドの討伐

●状況
 深緑の妖精郷アルヴィオン。
 妖精城アヴァル=ケインの広間に陣取って行く手を阻むアルベドと冬の精を討伐しましょう。
 昼間ですが薄暗いです。

●敵情報
 妖精城内ということで、敵全体に『BS付与判定の成功率が大幅に上がる』バフがかかっています。

 アルベド(S型)
  セリア=ファンベル(p3p004040)を模したアルベド。
  フェアリーシードの位置は『胸元』。
  (フェアリーシードを壊さずにアルベドを倒せば、核となった妖精の救出が可能。
   なお、破壊すればアルベドに大ダメージを与えられます)
  単体に鋭い魔力を放ち、凍り付いた敵を容赦なく一体一体砕きます。放置しておくとダジャレで周囲の温度が徐々に低下します。

  『現在AP』に依存した高CT・必殺の単体攻撃を使用。広範囲を凍結させる能力や普通に殴りあうと敗北必至とも言える程のHPをも保有します。
  また、毎ターンの終わりに大量のHPを犠牲にAPを回復する能力を持ちます。

  本当は戦闘から離れた所で残りの生を過ごしたかったのですが……。

 冬の精×8体
  鋭い嘴と、狂気を誘う鳴き声を全体に放つ氷の烏達。
  常に飛んでおり、見た目の割りにタフでもあります。

●NPC
 チャンドラ
  壁にはなれませんが、範囲回復は可能です。
  特に言及が無ければ足手纏いにならない程度に動きます。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <夏の夢の終わりに>醒めないで、わたしのゆめLv:15以上完了
  • GM名旭吉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年09月01日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
ニャムリ(p3p008365)
繋げる夢
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
月錆 牧(p3p008765)
Dramaturgy

リプレイ

●錯誤錯綜
 アルベドは、イレギュラーズの『細胞』と妖精郷に住まう妖精の『魂』を材料に生み出された偽りの白き命。元となったイレギュラーズや妖精の影響をある程度は受けているものの、そのどちらでもない。ただ戦うために生を受け、力を得ただけの存在だ。
 そのアルベドのひとつ――否。『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)の姿を写したアルベドを、彼らの多くは『一人』と考え、作戦の都合上とはいえ人のような名まで与えていた。
 『アル』ベドの『セリア』。略して『アルセリア』――奇しくも『宝物(Arcelia)』を意味する名となっていたのは、彼らの意図にあったのかどうか。

 凍り付いた街を妖精城へ向かう最中、『いつもすやすや』ニャムリ(p3p008365)は考えていた。彼女は以前にも『アルセリア』と対峙した一人だ。そのダジャレがあまり面白くなかった事も、それを「つまらない」と貶した事も覚えている。
 その『アルセリア』の、今の様子を。『千殺万愛』チャンドラ・カトリ(p3p004040)は夢見るように、『夢』<アイ>だと語った。夢を力とし、夢に生き、夢に求めるニャムリとしては見過ごせない状態だ。
 今日ばかりは、寝ている場合ではない。この目と耳で、直に確かめねば。
 また、『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)もアルベドに物思う一人であった。あるいは、今の彼女の場合は――アルベドに『さえ』、という表現が相応しいのか。
(アルベドは皆、生きるために……自分の中の何かを叶えるために一生懸命に戦う。その戦う魂の美しさに、私は嫉妬してしまうのだわ……)
 イレギュラーズ達との戦闘という形ではあるが、その中に垣間見えるアルベド達の個性と執着が、限られた命が燃やす激しい煌めきが、華蓮には妬ましかった。それがただの嫉妬とわかっていても、羨ましくて、妬まずにはいられない。
 だからこそ。
「彼女のため……依頼のため……それ以前に。私自身が、彼女との対話が欲しい」
 『アルセリア』は強敵だとわかっている。その攻撃の手を減らすために、言葉をかける事で気を逸らす事は合理的ではあるのだろう。
 だが、その理由以上に。迷える存在としての『アルセリア』との対話を望む者もまた、ニャムリや華蓮の他にも少なからずいた。
「向こうがゆめを捨てて死闘に専念するなら、ゆめも勝利も強欲に掴むのがローレットよ」
「できるなら……ボクは彼女を救いたい、です」
 不敵に笑む『劫掠のバアル・ペオル』岩倉・鈴音(p3p006119)の傍ら、『黒鉄波濤』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)はその瞳の赤に悲しみと決意を湛える。戦いを望まない相手ならば、戦い以外の道もあるいは残されているかもしれない。そう、願って。
「今のままだと、きっと後悔がたくさん残ると思うのよ。わかるもの、私」
 面白い、つまらない、に関係なく。『木漏れ日妖精』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)はそこまでダジャレに拘る『アルセリア』の言葉を聞いてみたかった。
「あれからどこまで修行積んだか知らないけど……あいつに言ってやんなきゃなんない事があんのよ。待ってなさいアルベド!」
 目指す妖精城が間もなく見えてくる。吹雪の中でも真っ直ぐに見据えて、セリアは宣戦布告の如く告げた。

「……」
 気運高まるイレギュラーズ達とは一線を画す『群鱗』只野・黒子(p3p008597)。彼はそこまで『アルセリア』に特別な思いはない。あくまで、安定的で効率的な依頼の達成を目的とするのみだ。
(……ただ。何がアル・セリア嬢を突然戦闘に走らせたのかは気になりますが)
 そして。
「…………」
 イレギュラーズとして活動を開始して日の浅い『光る砂に舞う』月錆 牧(p3p008765)。
 皆の背を追う彼女には、たった一つ心に決めている事があった――。

●錯乱混乱
 街と同じく、全てが凍り漬けになった妖精城アヴァル=ケイン。氷像となって凍てつき煌めく城内を進んでいくと、程なくして複数の烏の鳴き声が響き渡る。
 威嚇するように喧しく鳴きながら頭上を飛び交うのは、黒ではなく氷の羽を持つ烏達――冬の精だ。
 そして、それらを従えるのは。
「来たわね、オリジナル! 今日の私は闘争しにきたのよ。今度は逃走なんてしないから、他の奴らも覚悟する事ね!」
 白きアルベド。セリアの姿を写しながら、ダジャレへの強い執着を見せる『アルセリア』が宣戦布告する。
「……また、会ったね」
 常ならば半分降ろされている目蓋を上げ切って、ニャムリは真正面から彼女と対峙した。
「白猫ちゃん、あの時はさんざんつまらないってバカにしてくれたわね。そのもふもふも惜しいけど、今日は悪夢みたいにニャムらせてあげるんだから」
 やはり、彼女は根に持っていたようだ。下がり始めた温度に、彼女の能力の発露を知る。
「アルベド・セリア、いやアルベド・S型……ううん、それじゃ味気ないよね」
 以前に対峙した時は、彼女の呼び名など考えていなかった。だから、彼女を『呼ぶ』のはニャムリもこれが初めてだ。
「アルセリア。うん、それがいいね。それともそんなの、ないセリア?」
 作戦の都合でつけていた仮の名を、オリジナルの名として呼んでみる。呼ばれた当人はそれが何を意味する言葉なのかすらもわかっていないようで、些か混乱しているようだった。
「名前よ、あなたの名前! しっくり来なければ、ニクスとかはどう? 嫌なら前の通り呼ぶけど」
「名前……私は、オリジナルの……セリアのコピーで……」
 セリアによって更に名前の候補が増える。自分がただ倒されるだけの存在でなく、一個の存在として『名』を与えられるという事が余程響いたのか、彼女の動きは完全に止まっていた。

 ――それは、『彼女』にとっては千載一遇の好機でしかない。

 瞬間、『アルセリア』へ向けて眩い光柱が襲い掛かった。轟音を立てて爆ぜた光柱は『アルセリア』の姿を覆い隠し、その衝撃が周囲の冬の精達を大いに騒がせる。
 牧が放ったオーラキャノンだ。
「牧、どうして!」
「そのアルベドにも思う事はあるようですが、私にもある。甘えた希望は捨てなさい、アルベド。合理的に勝ちを得るなら、私達も必要以上の情けをかける必要は無いと思いますが」
 『アルセリア』の答えを待っていたニャムリに加え、セリアも牧に振り向く。
 牧の言葉は、極めて合理的だ。そしてこの奇襲は、他の仲間と比べどうしても実力で劣る牧が仲間に最大限貢献できると考えた策だ。
 例え友好的に話していようと、攻撃してくる存在がいる。アルベドがイレギュラーズへの希望を捨て、警戒を抱き出足を挫けるなら。それこそが彼女の狙いだったのだ。
「…………それでも」
 痛みを堪えるような苦しい声が、光柱が爆ぜた跡から聞こえる。
 男の声だ。
「それが、アルセリア様の望みでないなら。それ以外の道が、あるのなら……ボクは、アルセリア様と……まだ、話がしたい」
 牧の全力のオーラキャノンから、あろう事か『アルセリア』を庇ったのは――ヴィクトールだった。
「何……どうなってんの? 仲間割れなの? わらわらと割れるの? なのに名前を……庇ったりなんか……何で? わらわら、わらえない……」
 彼女の混乱に同調するように、広間に散っていた冬の精達が集まってくる。不安定な精神状態が表れているのか、周囲の温度も一気に冷え込んでくる。
「アラステア様!」
 その異様な状態を観察しつつ、黒子は冬の精達の襲来に備えてヴィクトールを呼ぶ。呼ばれたヴィクトールもすぐさまイレギュラーズ側の配置に戻った。
「アル・セリア嬢、明らかに様子が変わってきましたね。やはり何者かの洗脳でしょうか」
「わかりません……本当に、理解が追い付いていないだけかもしれませんが……」
 黒子とヴィクトールの結論を、氷の烏達は待ってはくれない。我先にと襲い掛かってくる冬の精達がめいめいに鳴き声をあげると、広間の壁に反響して頭を内側から揺らすような感覚に陥る。
「ええい、覇気のないダジャレだネ! それも冬のせいカナ!」
 さりげなくダジャレを織り込みつつ、仲間達を己の能力が及ぶ範囲に捕捉できるよう気を配る鈴音。今の鈴音は烏の鳴き声も凍気も物ともしない。万全の状態で、彼女は更に熱砂の嵐を巻き起こす。
「本気モードでいくヨー! シムーンケイジ!」
 冬の精達の動きが僅かに鈍る。仕掛けるなら今だ。
「アラステア様、盾は任せますよ。奪静<アバレロ>――!」
「邪魔なのよあなた達! 纏めて総攻撃よ!」
 黒子のスキルで平静を奪われた氷の精達が、一斉に彼を目がけて鋭い嘴を向け急降下してくる。そこへセリアが割って入り、フェアリーズゲイムの小妖精達を放った。小妖精達は悉くが嘴に破壊されたが、黒子とセリアが直接嘴を受ける事だけは免れた。
「鳴き声にやられてしまった人はいる? 皆大丈夫?」
 一方、華蓮が皆に声をかける。回復役として後衛に控える彼女への攻撃は今の所ないが、『アルセリア』の放つ凍気がじわりと身を蝕み始めていた。
 彼女の問いにほとんどのイレギュラーズ達がしっかりと無事を伝えたが、二人ほどが頭を抱えていた。
「あた、まが……ですが、これ……し、き……!」
 一人は牧。かなりの苦痛に苛まれているようだが、まだ踏みとどまっているようだ。
 もう一人は。
「オデットさん!」
「烏の、声が……烏の……消えない……」
 オデットはうなされるままに堕天の杖を抱き締め、その先端に光弾を収束させつつある。このままでは自爆してしまう。
「私の声を聞いて! 烏は『もう鳴いていない』のだわ!」
 華蓮の超分析を大声で伝えると、オデットは正気を取り戻した。
「助かったわ……私の心残りが増えちゃうところだった。アルベド・セリア!」
 敢えて名では呼ばず、オデットは冬の精達の向こう側にいる『アルセリア』に問う。彼女がまだどの名前がいいか答えていないからだ。
「後悔を公開せずに、心残りにして死ぬのは勿体ないんじゃないかしら? 抱えてる事全部、吐き出しちゃいなさい! 今のあなたの迷いも悩みも、ダジャレも全部!」
 その全てを、こんな氷の城から陽光の元へ曝け出して。そうすれば、自分の光できっと暖められるから。
「少なくとも私は聞いてみたいわよ、あなたのダジャレ」
 その意志を伝えるように、コンセントレーションで集中した魔曲の四重奏を烏の1体へ放つ。魔曲を浴びた1体は片翼の自由を失ったものの、落ちるに任せて黒子へ嘴を突き立てようとしてくる。
「誰も……傷付けさせませんよ」
 その嘴を、ヴィクトールが受け止める。既に他の冬の精からも嘴を受けている彼の肉体は、鉄騎種の頑健さを以てしても傷だらけだ。
「教えてください、アルセリア様。貴方が何をしたいのか、どんな願いを持っているのか。それは本当に、叶えられない願いなのでしょうか。なにか……ボク達にできる事はないのでしょうか?」
 その傷だらけの身体で、ヴィクトールもまた問う。
 その問いがまた、『アルセリア』を混乱させていた。
「願い……? 私は今、戦わなきゃ……あなた達にできる事なんて、私にコロコロ、こころころして、殺されるくらい……」
「それは、自ら戦う意志を……私達を殺す意志を持ってこの場にいる、という事ですよね。それがあなたの願い。違いますか」
 未だ烏の鳴き声に苛まれる頭を抑えながら、牧が尋ねる。
「その時点で、決まっているのですよ。戦うと決めた以上、生を全うする事はできない。あなたもそれを望んでいない。……決めたなら、それ以外を望むのは甘えです」
 ――彼女自身も、そうだったのだから。
 牧は『鬼』である事を決めたのだから。希望とは、残酷なものなのだから。
 牧はそれだけ言うと『アルセリア』の反応を見る事も無く、気合一閃、氷の精の1体へオーラキャノンを撃ち込んだ。
「そう……私は、決めたのよ。せめて、確実にできる事をしようって! ネガネガと叶わない事を願っても仕方ないのよ!」
 牧の言葉に迷いを捨てたのか、凍てつく風が『アルセリア』の魔導書の頁を激しく繰ると、黒子を庇い続けるヴィクトールへと魔力の塊を叩きつけようとした。
「にゃあああっ!!」
 その直撃はしかし、男へと向かわなかった。彼女と向き合っていたニャムリが、悪夢を現実に見せる事で未然に防いだのだ。
「叶わない、なんて……諦めちゃいけない……だって!」
 これだけは、伝えなければいけないと思ったから。

 ――夢は……絶えず繋がるんだから!

●混乱絢爛
 氷の精達の猛攻は続く。傷付こうと、数を減らそうと、イレギュラーズを狂気へ陥れるべく鳴き声を響かせ、それらに耐えても鋼の嘴で貫かんとする。
 烏の攻撃の全てを凌いでも、『アルセリア』が言葉を発するだけで下がり続ける気温は一瞬でも立ち止まれば氷漬けにしようと体温を奪ってくる。
「食え、さあ! 奈良漬け!」
 もはや原型があんまり残っていないクェーサーアナライズを皆に施す鈴音。
「皆立ち止まらないようにネー。しかし割り切ったあいつやっばい……」
「あら、苦戦してる?」
 ふと、聞き覚えのある声が聞こえて鈴音が振り向く。姿に見覚えもあるその声の主はいるみな蛇だった。彼女は戦闘を好まない巫女だが、元の世界での『仲間』という事で手を貸しに来てくれたのだ。
「こっちもやばいし、向こうも体力削って戦ってるから苦しいと思うんだヨ。何か閃きか、気付きがあればいいんだけど」
「ふぅん……それなら手伝えると思うんだよね、わたし。あのアルベドさんのココロ……未練とか、覗いてあげる」
 言うが早いか、彼女はすぐに目を閉じる。次元を跳躍した魂は遙かなる高みより事象を俯瞰し、鈴音に情報を伝えた。
「……アイ、ねぇ。確かに、今のなりふり構わないあの子なら何だって殺せるんだろうけど。『割り切り』とは絶対に違うよ」
「ほほぅ。というと?」
 周囲の気温が更に下がる。これ以上はここにいたくないとばかりに一歩引いたいるみな蛇が、一度だけ『アルセリア』を見遣った。
「『自分である意味』が欲しいんだ、あの子は。名前を付けられた時、動揺してたんだろう? それは今も変わらないよ」

 『自分である意味』。
 それを与えるなら、牧が与えた言葉は的確だっただろう。彼女自身でさえ理解できていない事を、「それがあなたの願い」だと断言してみせたのだから。その『願い』――イレギュラーズと戦って彼らを殺す事こそ、『自分の意味』だと一度は定めたのだ。
 だというのに、ニャムリはそれを否定した。
「前に会った時は、貶してごめんね。ダジャレって、思っていたよりもずっと難しいんだね」
「そ……そうよ! すっごく難しいんだから! いくら時間があったって極められないんだから! アルベドの寿命、なんかじゃ……時間、ない……」
「それは、すごく苦しいよね。悔しいよね。一人でずっと、悩んでたんだよね」
 渦巻いていた風が収まる。『アルセリア』の精神が再び迷い始めた事で魔法に集中できなくなったのだ。
「あなたのダジャレに絶対に足りてないもの、教えてあげようか」
 そこへ、誰よりも彼女の気を引くオリジナルの声がする。
「ダジャレってね、ネタをいくら練ったところで、分かりにくくてインパクトが薄くなってくだけなのよ。大事なのはタイミング。あなたの考えたダジャレ、誰か聞いてくれた人はいた?」
「聞いてくれる訳ないじゃない! 私は妖精を取り込んでるんだから! ここじゃ向こうが先に逃げてくわよ!」
 妖精が取り込まれたフェアリーシードがある胸元を押さえながら、『アルセリア』は叫ぶ。彼女は生まれてこのかた妖精郷を出た事が無く、妖精郷において彼女は恐怖の対象だ。ダジャレどころではないだろう。
「じゃあ、ここを出ればいいじゃない? 前の戦闘で私達の魔力で延命できたなら、同じ方法が使えるんじゃないかしら」
 もしそれが駄目でも、一人でなければ。皆で考えれば、フェアリーシードに頼らない方法が何か。何も無くても、いざとなれば自分が毎日魔力を渡してもいい――そこまでして、セリアは『アルセリア』を生かそうと、『生きていい』と考えていたのだ。
「……なんで……あなたが、オリジナルが私に、それを望むのよ。おかしいでしょ。色ありセリアと色なしセリアが一緒にいたら、どんなダジャレより笑っちゃうし、ホラーでしょ」
「あら、あなたのダジャレはその程度? 魔力が貯まりょく方法を一緒に考えてください、とか言えば一発よ」
 ダジャレが出ても温度が下がらない。オリジナルのダジャレは暖かいのだ。
「シードの中の妖精も、貴女も、両方を救う……そんな手段を探したい。私も諦めたくないのだわ」
「ダジャレを極めたいなら、極めればいいじゃあないですか。貴方が極めたそれをボクは聞きますよ。聞いて、笑って、忘れないようにします。他の人にも話しましょう。洒落た話になるでしょう」
「時間が足りないのは一人だからじゃない? みんなで構成して校正して後世に残したっていいじゃない」
 華蓮もヴィクトールも、オデットも。冬の精を撃ち落としながら、その攻撃を受けながら、『アルセリア』に言葉をかける。
 これで本当に彼女を永らえさせる手段があれば良かったのだが、その希望は――セリアの眼前に投げ込まれたナハン=カンナのカードによって絶たれていた。
 フェアリーシードの代用となる魔力炉心は、少なくとも今はこの混沌世界に存在しない。何より、『アルベド』という脆い器がもたない、と。
「ひとつ、事実があるんだよ。アルセリア。キミがいなければ、私はこんなにダジャレの事を考えなかった。キミがいたから、私に繋がったんだよ」
 一番近くにいたニャムリが『事実』を告げると、『アルセリア』は目を見開く。
 自分がいたから。それは、間違いなく『自分である意味』だ。
「もし、アルベドとして生き永らえる事が無理でも。キミを生かす心臓であり、お互いに影響し合う物……キミの後に必ず残り続ける物が、あるよね」
 あの絶望の青で、ニャムリは身を以て学んだのだ。イレギュラーズもそうして、自らの死をも恐れず超えて、次に託すのだと。
「貴方が本当に死闘をしたいならば、叶えます。貴方の思いを、願いを、絶対に受け止めます。ボクは決して死にません、貴方を忘れません。貴方を――願いを、背負い続けます」
 最後の氷の精が黒子の砂縛によって落ちると、ヴィクトールはイモータリティで回復し立ち上がる。彼は8体いた氷の精の攻撃を一身に受け切ったのだ。
「……戦いからは、逃げられない。そこの鬼女の言う通りよ」
 でも、と。『アルセリア』は魔導書を手にセリアと向き合う。
「オリジナル。手加減すると死ぬわよ」
 再び空気が凍てつき、渦巻いて魔力の塊を形成していく。
 彼女を生かしたい。生きたっていいじゃない。どうして、こんな――
「アルセリア――!!」
 『アルセリア』と同じく渦巻いた魔力の塊が、彼女に向けて叩きつけられた。

 彼女がいた場所には、一人の妖精が封じられたフェアリーシードが残されていた。
 目覚めた妖精はほとんど何も覚えていなかったが、唯一つだけ願いを持っていた。

「ダジャレ……好きなんだ。難しいんだよ、あれ」

成否

大成功

MVP

セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補

状態異常

ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)[重傷]
懐中時計は動き出す

あとがき

皆さんの説得、戦いへの意気込み、意志のぶつかり。
全てを満足いく形で描写できているかが私にとってHARDでした。
皆さん優しくて、悲しくて、哀しくて。全てが愛おしく。
お手元に届いたものは、彼女のささやかな気持ちです。

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