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シナリオ詳細

<夏の夢の終わりに>幸せがどんな味か知っていた

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●ふれあう肌が希望をくれた
 ――私は、生まれた意味を知りました。
 ――私は、恐怖のかたちを知りました。
 ――私は、戦わなくてもいいのです。
 ――異能だけを手にして、何もないまま生まれた私に、やるべきことができました。
 ――私は。
 ――私は、もうひとりじゃありません。

 スキップでもするように、鼻歌でもうたうように、刀がヒュンヒュンと風を切る。
 氷と茨でできた『心の迷宮』が次々と切り裂かれ、『それ』は中心へと軽やかに歩いて行く。
 声も無く足取りも一定に、しかしその行いになんの躊躇も迷いもないかのように。
 そうすることがあまりにも自然であるかのように。
 長い神と和服と――。
「これで、二人目」
 キトリニタス・タイプ小夜は、迷宮に閉じこもっていたアルベド・タイプフィーネγの胸を刀で貫いた。

●望みと対価
 妖精郷には伝説の勇者アイオンたちによって封印された『冬の王』があった。それは魔種なる錬金術師タータリクスの襲撃による混乱のさなか、クオンとブルーベルによって力と封印が持ち去られ、抜け殻と力の残滓は妖精郷へと解き放たれた。
 『常春の楽園』は冬に閉ざされ、花園で踊る妖精達もきらめく湖も美しい城も、いまや凍てつくのみである。
 震える妖精達や、抵抗しようと剣を取る妖精達。依頼を受けるという形で、ローレット・イレギュラーズもその抵抗勢力に加わっていた。
 目指すは妖精城アヴァル=ケイン。魔種たちを倒し、冬の力を打ち払い、再びこの国に春を取り戻すために。
 これはそんな戦いのなかでの、おはなしである。

 様々なルートから突入計画を立て、味方の力を借りて着々と城へ近づくイレギュラーズたちは、あるポイントでひどい足止めをくっていた。
 複雑に増殖を続ける『氷と茨の迷宮』が、壊しても壊しても広がり行く手を阻むのだ。
「これはきっと、私をもとにしたアルベドのしわざだと思います……」
 フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)は茨のひとつに手を近づけて、拒絶と恐怖の感情を読み取っていた。
「なぜ、わかるの?」
 すぐそばで、フィーネを守るように立つ白薊 小夜(p3p006668)。
「なぜかは、わかりません。私の遺伝子から作られたからかもしれませんし、いや……もしかしたら、私に直接訴えたかったからかもしれません」
 『訴えたかった』という発言に、小夜はぴくりと眉を動かした。
 ひとつまえの戦い。つまり妖精街エウィン奪還作戦の折、鏡の迷宮を利用してアルベド・タイプフィーネが作り出した迷宮での出来事を思い出したからである。
 あのときフィーネはアルベドたちが抱く恐怖や迷いを読み取って、優しく手を差し伸べた。
 アルベドはしかし手を取らず『先にやらなければならないことがあるから』といって姿を消してしまったのだった。
 やらなければいけないこととは何だろう。
 それが、この茨と氷の迷宮に関係しているのだろうか。
 小夜がおそるおそる茨に触れようとした――その時。
 まるでガラスの窓が砕け散るかのように、茨の壁が内側から突き破られた。

 壁の向こうから現れたのはアルベド・タイプフィーネβだった。
 身体のあちこちに酷い傷がつき、自らを治癒する能力すら枯渇しているように見える。
「…………」
 小夜はそっとかがみ込み、そして察した。
 フィーネが迷宮の構造から『迷宮主』の感情を読み取ったように。
 小夜は対象についた刀の傷から、その意図と『加害者』を読み取った。
「これは……私、なのね?」
 あまりにも強力な。出会ったが最後有無を言わさず斬り殺し、あらゆる傷害を突破して対象を殺害するという、まるで刀自体に意思があるかのような迷いのない太刀筋。
 小夜がもっとも得意とし、そして恐れた出来事が、目の前に横たわったように見えた。
 アルベドは薄目を開き、胸に手を当てて小夜を見た。
「おねがい。あの子をたすけて。わたしを、あげるから」
 自らの胸が開き、フェアリーシードが露出する。
 アルベド・タイプフィーネβは、伝えるべきことを伝え、そして息絶えたのだった。

●心の壁を壊すすべ
 アルベド・タイプフィーネのうち残った三体は、前回フィーネたちと心を交わすことで自分たちの自我と可能性を自覚した。
 そして自覚なく利用され、やがては打ち棄てられるであろう同胞達の存在を考えたのだった。
 フィーネが彼女たちに手を差し伸べたのと同じように、アルベド・タイプフィーネもまた、アルベドたちに手を差し伸べ、救い出すために動き出したのだ。
 計画は途中まで上手くいっていた。
 いくつかのフェアリーシードを奪取し、妖精城アヴァル=ケインの脱出をはかったまではよかったが……途中で『彼女』に発見されてしまった。
 キトリニタス・タイプ小夜。
 おそらくはフィーネの遺伝子から抽出され『フィーネにとっての小夜』という形で完成した、アルベドの上位互換。いや、進化存在である。
 アルベド・タイプフィーネたちは精一杯に抵抗したが、それもむなしくγとβは敗北。αもいまこうして迷宮を次々に増殖拡大することでキトリニタスを遠ざけているが、強引に突破されるのも時間の問題だった。
「わかりました……」
 力尽き、灰のようにさらさらと崩れていくアルベドを地に寝かせ、フィーネはフェアリーシードを大事に胸に抱えた。
「その依頼、引き受けます」
 振り返り、小夜へと手を伸ばす。
 『一緒に』と目が語り、小夜はその手を握った。
 もう間違わない。
 そして、間違わせない。
「殺させないわ。他ならぬ、『あなた』には」

GMコメント

■オーダー
・成功条件:アルベド・タイプフィーネαの保護と獲得。

 迷宮を突破し、アルベド・タイプフィーネαのもとへキトリニタス・タイプ小夜よりも早くたどり着き、そしてすぐにでも到着するであろうキトリニタスを撃退する必要があります。
 迷宮の突破方法から順に解説していきましょう。

■心の迷宮
 アルベド・タイプフィーネは戦闘力の一切を持ちませんが、その代わりに心の迷宮を作り出す異能をもちます。
 今回目の前に広がっている『氷と茨の迷宮』はこの異能によって作り出された特殊空間です。
 外から見た広さは通路をがっつり塞ぐ程度の言ってしまえば小規模なものですが、中に入ると空間が異常に拡張されており、中心からの距離はどんどん広がっています。
 キトリニタス・タイプ小夜はこの迷宮をいちいちうろうろせず、中心に向かって壁を切り裂き続けることで突破を試みています。
 皆さんはキトリニタスとは反対側から攻略を始めることになるでしょう。
 もちろんキトリニタス側が攻略をだいぶ先に進めているので、これに追いつき追い越すためにはこちらも相手以上の速度で壁を破壊し、中心へむけて突き進まねばなりません。

・壁の破壊方法
 壁に対して『攻撃』か『治癒』を行うことで破壊ゲージが溜まっていき、一定に達すると破壊できる仕組みになっています。
 攻撃はともかく治療(ヒール)で破壊できるのは、この壁が心の痛みや恐怖によってできているためです。
 そして破壊の効果を早める鍵もここにあります。

 恐怖をやわらげる方法を語りかける。怖がっている相手をなぐさめるように呼びかける。など主にアルベド・タイプフィーネの恐怖を和らげるように呼びかけながら破壊を行うことで、壁の破壊が早まります。

■迷宮内の妨害者
 この迷宮の内部には邪妖精(アンシーリーコート)がはびこっており、オーガタイプやレッドキャップ、グレムリンといったこちらの行動を妨害しようとする悪い妖精が現れます。
 これと戦闘し、排除することも壁破壊にとっては重要になるでしょう。
 戦闘能力はあえて書くほどでもないので、得意分野でがんがんやってください。
 主には『壁を破壊する係』と『邪妖精を排除する係』を後退しながら進むと効率がいいでしょう。

■キトリニタスとの対決
 キトリニタス側よりも早く迷宮の中心(アルベドの居場所)までたどり着けなければ依頼は失敗になってしまいますが、もし先にたどり着けた場合次はキトリニタスとの対決が待ています。
 キトリニタスの性能は小夜の純粋なパワーアップバージョンです。
 命中回避値の単純な倍化はもちろん、HPやAP、攻撃力、防御、抵抗、反応といった値がいきなり倍くらいになっています。
 また精神と崩しを無効化し、パッシブで【反】をもちます。
 弱点があるとすればファンブル値が30くらいあることですが、クリティカルもやっぱり30くらいあるのでかなり油断なりません。
(余談になりますが、これらのデータはちょっとだけ前の小夜さんを参考にしているので依頼出発時にHPを1にして実質弱体化するといったメタ対策はできません。逆に言うと今から急速に強化したり『自分用メタビルド』にいきなり転属するといったプレイは可能です)

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

  • <夏の夢の終わりに>幸せがどんな味か知っていた完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年09月01日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

白薊 小夜(p3p006668)
乱れ梅花
フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)
支える者
庚(p3p007370)
宙狐
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ゼファー(p3p007625)
never miss you
紅迅 斬華(p3p008460)
首神(首刈りお姉さん)
ヨル・ラ・ハウゼン(p3p008642)
通りすがりの外法使い
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
深緑の狩人

リプレイ

●茨のラビリンス
 手の中に残ったフェアリーシードを握りしめ、イレギュラーズたちは茨の迷宮へと足を踏み入れた。
「氷と茨の迷宮、ですか。
 美しゅうございますが、どこかもの悲しくもあるものですね。
 大丈夫、大丈夫です。かわゆくて元気でふわふわモコモコのカノエが今すぐ駆けつけて差し上げますから、ね!」
 『宙狐』庚(p3p007370)は渦巻く魔力を纏うとふわりと宙に浮かび上がった。
 黄金の妖炎が尾を引いていく。
 その横で、『通りすがりの外法使い』ヨル・ラ・ハウゼン(p3p008642)は読んでいた妖精郷伝説の本をぱたんと閉じた。
「妖精の城に立ち入るだけでなく、こんな迷宮に出会えるとは」
 立ち入る前と後では空気の流れが明らかに違う。空間を圧縮し、さほど広くもない通路に巨大な迷宮をまるごとひとつ作り出してしまったらしい。足止めという意味においてこれほど有効な手もないだろう。
「いや、すっごいよネェ!力の使い方次第できっと色々素敵な事が出来ると思う、故に余は彼女を……アルベド・フィーネ殿を助けたい!
 小夜殿のキトリニタスがすっごいヤバそうではあるが…だからと言って足を止めたくない。うむ、余は悲しい結末は大っ嫌いだからネ!」

「あぁ。貴女達は私と似ていますね……。本物ではない。けれど偽者でもない。だからこそ私は、貴女達の可能性を見てみたい……」
 『首神(首刈りお姉さん)』紅迅 斬華(p3p008460)は抜いた刀にそっと頬をあて、迷宮に閉じこもったというアルベド・タイプフィーネαのことを想った。
「えぇ♪ 守りきって見せましょうとも♪」
「ああ、そうだな。自我の芽生えたアルベドと聞いたら、なんとしても助けたいよな……」
 『弓使い』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)は肩にかけていた弓をとり、筒から矢を抜いた。
「だけどこういう呼び掛けは苦手なんだ、俺……余計怖がらせそうでさ。他に何か出来ることがあれば……」
 それぞれの想い。
 それぞれの試み。
 『never miss you』ゼファー(p3p007625)はそのなかにあって、一段階むこうを見ていた。
「どうにもこうにも、悪趣味な巡り合わせねえ。此れが洒落を利かせたつもりだってんなら、黒幕の性根を叩き直してやりませんとね?」
 フィーネのアルベドを小夜のキトリニタスが殺していく。そんな悪趣味なとりあわせを聞いたとき、真っ先にこれを指さして笑う錬金術師の姿を想像した。
 渦中にある、『彼女たち』はどう想うのだろうか……。
「……」
 『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)は迷宮内部の冷たい空気を肌にあび、深く呼吸を整えた。
(アルベドでもフィーネの願いなら、例え何者だろうと斬ってみせましょう。
 それにキトリニタスだかなんだか知らないけれど、それが『私』ならきっと殺すまで止まりはしない)
「なら斬り捨てる、わかりやすくていいわね」
 歩いて行く小夜の背中を、『支える者』フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)はじっと見つめていた。
「フィーネちゃん。平気?」
 横に立ち、振り返る『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)。
 フィーネはむすんだ手を胸に当て、一度目を瞑った。
「頼れる、皆さんが。手を貸して、くれていますから。
 だから……怖くは、ありません。私も、全力を尽くします」
 不思議と、フィーネの到来を求めているかのように迷宮の壁がぼんやりと光った。この先にいるのだと、教えているかのように。
「気負わず行こ。大丈夫、小夜もいる。
 皆、心はひとつだよ。勿論私もね。
 フィーネちゃんも、アルベドも、どちらも守る」
 そして彼女たちは歩き出した。
 進むべき道を、自分たちで切り開くために。

●手が届くまで
 迷宮は冷気と痛みに包まれていた。
 凍てつく茨は近づく者を拒み、熱を奪っていつまでも白いもやがかかり続ける。
 それはまるで、世界への恐怖を顕現しているかのようだった。
 だが、フィーネにはわかる。
「あのときの鏡の迷宮とは、違います」
 自分が何者かわからなくて、世界が怖くて、一人になりたくなくて、いつまでも心の殻に閉じこもろうとしていたあの迷宮とは、違う。
 意思をもって抗う、『戦うための迷宮』だった。
 強固な壁を円形に切り裂き、駆け抜けていく小夜。
 彼女の美しい太刀筋が、自分を……ないしはアルベド・タイプフィーネαを慰めるための舞であることを、フィーネは察していた。
 自分が世界を歩いて行けるのも。
 暗闇を進めるのも。
 彼女の背中があったから。
「怖がらないで、良いんです。私が傍に、います。貴女を、一人にはしません……!
 例えこの手が傷つこうとも、何度でも、何度だって、その手を取ります。
 未来を見せると、あの時。約束しましたから――!」
 世界は決して怖くない。
 誰しも本当はひとりじゃない。
 フィーネが、小夜が、これまで証明してきたことだ。

 邪妖精(アンシーリーコート)が地面からはえるように現れ、鉤爪をむき出しにして威嚇する。
「ごめんな。構ってる余裕なんかないんだ」
 ミヅハはつがえた矢に輝きをもたせると、アンシーリーコートめがけて発射した。
 防御すらさせずに胸へ直撃。そのまま攫うように背後の壁へと激突させた。
 広がる光が爆発を起こし、壁を更に崩壊させる。
「キトリニタスがだいぶ先行してる筈だ。急ごう」
「壁は首♪」
 斬華は茨をこわばらせる壁に刃を突き立て、更にがりがりと手刀でもって削っていった。
 脆くなった壁を蹴りつけ、崩壊させる斬華。
 狭いスペースをくぐり抜けた庚を、さらなる複数のアンシーリーコートが阻んだ。
 風や炎を纏ってふわふわと浮かぶ邪妖精の笑みが、庚を炎で包んでいく。
 ……が、庚がこぉんと高く鳴き声をあげることで炎がふき払われ、逆に庚の吸い込んだ息吹が黄金の炎となって吐き出された。
「乙女の心に押し入るのに力技一辺倒だなんて、余りにもよろしくありませんし……」
 咄嗟に左右へとかわすアンシーリーコートたち。背後の壁に炎が吹き付けられ、広がった炎がアンシーリーコートへと引火していった。
「カノエが今ゆきますよ。深い刀傷を負わされて尚、自らの命を差し出してあなたの心配をしていた優しいアルベド・タイプフィーネ様に報いるために」
 炎は茨を焼き、氷を溶かしていく。
「あなた様に似合うのは恐怖でも、氷でも、茨でもなく、笑顔と陽だまりと、柔らかなつぼみでございますでしょう。
 カノエが抱きしめて、髪を、頬を撫でて差し上げますから、今行きますから。声が届くのなら1人ではないと知ってくださいまし」
 フッと最後のいきを吹き付けると、広く焼けた壁がまるで門のように彼女たちを迎え入れる。
 その先に待ち構えていたのは虎のような手足や尻尾をもったアンシーリーコートだった。
 バチバチと火花を散らし、こちらをにらみつける。
 対してゼファーは唇に人差し指をたて、ぱちんとウィンク。
「ハローハロー。聞こえるかしら?
 皆の声も聞こえてる?
 聞こえているのなら、屹度もう大丈夫。
 貴女の為に、貴女の為だけに、皆必死になっちゃってるわ?
 もうすぐ。直に傍へ行くから、どうか笑って頂戴?」
 ゼファーたちの優しい呼びかけが、迷宮の氷を少しずつ溶かしているのがわかる。
 したたる水にゼファーは頷き、そして槍を突き出した状態でアンシーリーコートへと突撃。
 その衝撃を殺さぬまま壁へと槍を突き立てた。
「大丈夫、必ずそこに皆を送り届けるだから信じて待っていて欲しい」
 吹き飛んだ壁を一緒に駆け抜け、ヨルはすかさず斬撃霊子網を投射。
 編み込まれた魔方陣から呼び出された無数の怨霊が、待ち受けていたアンシーリーコートをとり殺しながら壁への道を開く。
「近い、ね。もう一息だ」
 ヨルがそう察したのは、壁がよりいっそう固く高く、そしてどこかデリケートにざわざわと動いていたからだ。
 心に触れる、その一瞬。
 誰かとわかり合う、その寸前。
 ウィズィニャラァムは強い既視感の中で、言うべき言葉を叫んだ。
「助けに来たよ、“フィーネちゃん”!
 あなたを助けたいって、皆が集まったよ!本物の小夜もいる!
 “フィーネちゃん”の強さに、優しさに、寄り添いに来たんだ! もう、一人で頑張らなくてもいい、だから……!」
 ハーロヴィット・トゥユーを壁に突き立て、そしてあえて素手で茨の壁へと手を突いた。
「だから! 早く会いたいよ、“フィーネちゃん”!」
 血の流れたウィズィニャラァムの手を、開いた茨が受け入れる。

 まるで蚊帳をひらいたように、膝を突いて両手を組んだアルベド・タイプフィーネαがこちらを振り返った。
「みんな……よかった」
 彼女の足下には植物で編んだ袋。中いっぱいに詰まっているのは、きっと奪ってきたフェアリーシードたちだろう。
「早くここを離れましょう」
 伸ばしたフィーネの手を、アルベドがぎゅっと握った。
 その時。
「招かれざる人間が――八つ。いいでしょう」
 向かい側の壁に無数の線が走ったかと思うと、まるでジグソーパズルのように細切れになって散った。
「全て、もれなく、斬り捨てるのみ」
 キトリニタス・タイプ小夜が――真っ白な目を見開いた。

●ひとりきりなら
 小夜という『戦士』にとって、斬ると決めた対象はいかなる防御をはかろうとも強引に斬り捨てるべきものである。
 その純粋さ、ひたむきさ、日本刀のような鋭さを、『そのまま』高めた存在が、キトリニタス・タイプ小夜であった。
「その力はおそろしゅうございますから……」
 庚は獣面人身形態へとチェンジすると、封印の術式を発射。
 同時にミヅハも飛び退いて距離をとりながらキトリニタスめがけて矢を放った。
「正直、格上相手にどこまで出来るかはわかんねぇ。けど、やれる限りは全力を尽くすよっ」
 飛来する魔術の炎と光の矢。
 それらを、キトリニタスはまるで歩みを止めることなく切り払い、アルベド・タイプフィーネαへと距離をつめにかかった。
「まさか、こんな形で向き合うことになるとはね?」
 アルベドの前へと割り込み、ゼファーが防御の構えをと――
「壁があるなら、壁もろともに」
 ヒュンという風切り音ひとつきりで、ゼファーの手首足首脇腹に胸元にと無数の斬撃が一斉に開いた。
「とても、単純なこと」
「――っつぅ!」
 槍を咄嗟にかざしたことで、首筋だけを守ることができた。
 ゼファーの顔が、流石にぴくりと歪んだ。内在するパンドラを解放していなければ死んでいただろう。たったの一呼吸をするうちに。
「助けに来たお姫様の前で、無様晒す訳にも行きませんからねぇ!」
 即座にアクアヴィタエを投与して回復。
 ヨルはアルベドを後ろに下がらせると、歪みの魔術を行使してキトリニタス周辺の空間を掌握。
 開いた手をぎゅっと握ることで空間ごと握りつぶした。
 ――が、キトリニタスは歪曲した空間を次元ごと切り裂いて強制離脱。
 ひび割れた空間のふちに手をがしりとかけ、一歩ずつ這い出てきた。
「いくらなんでも強すぎないか?」
「生半可な攻撃では通用すらしないようにも……」
 ミヅハと庚が再び構え――ようとした時にはキトリニタスの姿が消え、彼らの間を突風が吹き抜けていった。
 それだけ。
 それだけのことで、庚たちがその場に崩れ落ちる。
「ごきげんよう♪ なんて素敵な方でしょう♪ お手合わせ願えないかしら?」
 斬華はいつものように笑って手刀を構え――た途端に手首が飛んでいった。
「あは♪」
 知ったことではないという風にキトリニタスの首めがけて足刀を繰り出した。
 鋭いハイキックが、回避動作をとったキトリニタスの髪を切っていく。
(不思議ね……小夜ちゃんの姿をしているせいかしら?
 とても……やり辛い。こんなこと今までなかったのに……)
 スローになる一瞬の中で、目を細める。
「私に出来るのは首を刈り取ることだけです♪ ですが、それならば負けはしません。
 私の刃が通った後には……何も残らなければいい。そういう想いを込めて……今から貴女を斬ります♪」
 キトリニタスの剣が更に斬華を分割していくが、散った血を楽しく浴びるかのようにして斬華は歯をむき出しにしてキトリニタスへと襲いかかった。
「いい加減、逃がさないわよ」
 と、そこで。
 ゼファーがキトリニタスの背後に回って肩を掴んだ。
 振り向きもせず、刀をついっとあげるキトリニタス。
 あまりに早すぎる斬撃がゼファーの手首をもっていったが、ウィズィニャラァムはそうして生まれた隙を見逃さなかった。
 キトリニタス・タイプ小夜は一見無敵のバーサーカーだが、決定的な弱点がある。
 それは小夜があえて捨ててきたものであり、そばに『彼女たち』がいたから実現できた姿勢だった。
「私を超えられるものなら超えてみろよ。真実の愛は、生き汚ぇぞ!」
 仲間達の攻撃によって無視できないほどに蓄積した隙。そしてゼファーが稼いだ決定的な時間。そうして生まれた穴を縫うようにして、ウィズィニャラァムは巨大テーブルナイフを大上段からたたき込んだ。
「喰らえよ……お前の為だけの、取っておきだッ!」
 素早くかざされたキトリニタスの剣……が、ばきりと折れてウィズィニャラァムのナイフが肩へと食い込んでいく。
 そこへ急速に距離をつめる小夜。
「これ以上、私の剣で勝手は許しはしない、疾く、逝ね」
 暴風のように吹き抜けた小夜の剣が、キトリニタスの纏う凶悪なオーラを吹き払い、そこから更に小夜は高速化した。
「その私の友人を、大切な人をよりによって私の剣で傷付けたことの意味を知るがいい」
 空間に走った二十二本の光の全てが、キトリニタスを解体していく。
 崩れ落ちるキトリニタスにかけより、フィーネはそっと倒れ行く彼女を受け止めた。
「私は、『貴女』と戦いたくも、ありません。それでも戦うしか、無かったのですよね。
 『貴女』が、『私』を斬るというなら……そうするしか、無いのでしょうから。
 でも。それは今では無く、ここででも無いお話です」
「…………ぁ」
 真っ白な目でまばたきをして、キトリニタス・タイプ小夜は、視界の中に重なる小夜とフィーネの姿に何かを感じ……それを言葉にできぬまま、ざらざらと塩になって散った。
 小夜はその様子を見届けると、やっと刀を鞘へと収めた。
 深く、深く、息をつく。

●選択と決断
 迷宮が消失した後、そこは美しい絨毯のしかれた城の通路であった。
 アルベド・タイプフィーネαが差し出した袋をウィズィニャラァムが受け取ってみると、中身は大量のフェアリーシード。
「このままにはしておけなかったから。タータリクスのところから、盗み出してきたの。他の子達のぶんは?」
 小夜が塩の山に手を突っ込み、一個のフェアリーシードを掴みあげる。
 おそらく逃げる最中に追いつかれ、キトリニタスによって回収されたアルベド・タイプフィーネγのものだろう。
 庚が手を開き、アルベド・タイプフィーネβのフェアリーシードを差し出す。
「うん。これで、ぜんぶだね。家族のもとに、かえしてあげよう」
「はい……」
 フィーネは頷き、再び手を伸ばした。
 その手をアルベド・タイプフィーネαはとろうとして……しかし、宙を握って小さく首を振った。
「『この子』も、返してあげなくちゃ」
 胸に手を当てて言うアルベド。その意図を察して、ゼファーは短く息を吸い込んだ。
 おなじ目を、同じ決意を、見たことがあるから。
 彼女たちの意図を遅れて察したミヅハやヨルだが、だからといって口を挟むことはしなかった。
 斬華もまた、ほっとしたかのように肩を落としている。
「えっと、こんな言い方ヘンだけどさ。他の動力源を見つけて両方助けるとか、そんな……」
 ウィズィニャラァムが早口に述べようとしたことを、アルベドは微笑みだけで止めた。
「私に心があるのは、『この子』のおかげ。同じ命をもうひとつだなんて、そんな方法、きっとないよ。もしあっても……」
 アルベドの口ぶりに、イレギュラーズたちは少しばかり過去の出来事を思い返していた。
 死者が帰ってくるという月光人形。いつまでも死にゆくことを認めなかった女。失った姉を取り戻そうとした錬金術師。だれもかれもが『ありもしない命』にあがいて、そして行き着くべきでない場所へと行き着いた。
 アルベドもまた、その成果のひとつだ。
「けれど、いいの。あなたは教えてくれた」
 灰色のフィーネは、フィーネの片手を、そして小夜の片手をそれぞれ掴んで笑った。
「とっても素敵な、『未来』」

成否

成功

MVP

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

状態異常

庚(p3p007370) [重傷]
宙狐
紅迅 斬華(p3p008460) [重傷]
首神(首刈りお姉さん)
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648) [重傷]
深緑の狩人

あとがき

 ――mission complete
 ――good end

 ――妖精アドプレッサ、フランチェティイ、コリアケウスの救出に成功しました

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