PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<巫蠱の劫>或いは、猛火の火猫。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●駆ける火槍
 カムイグラのとある街。
 武家屋敷の立ち並ぶある区画に、それは姿を顕した。
 見回りの武士たちは、はじめそれを「燃え盛る人力車」だと思ったという。
 何者かに放火されたのか、それとも行灯を落としてしまったのか。
 だが、近づくにつれて武士たちはその異変に気付いた。
 たしかにそれは燃えている。
 たしかにそれは、左右に1対の車輪を備えてはいる。
 けれど、しかし……。
「あれは……何だ、あれは!?」
 しなやかに弧を描く身体。細い脚の左右には、燃える車輪。
 だが、それは人ではない。
 2本の脚で地に立った、黒い体毛の猫である。
 その前肢と両の瞳は失われていた。グルルとうなり声を零し、猫は武士たちの方を向く。
「もしや、あれは……噂に聞く〝火車〟ではないのか? ほら、件の人の死体を攫って喰うという化け猫の噂。聞いたことがあるだろう?」
「聞いたことはあるが、それは腕や目のない怪異であったか?」
「……いや、そんな話は聞いておらん。手負い、ということか?」
 それぞれの武器を構え、囁くように言葉を交わす。
 彼らに油断はなかった。数の上では有利だろうと、怪異相手に油断をすれば命を失うのは自分たちだと知っているから。
 けれど、しかし……。

 地面が爆ぜた。
 否、火車が大地を蹴って跳んだのだ。
 炎の軌跡。
 2本の轍が地面に走る。
 瞬間、武士の1人が燃え上がる。
 既に事切れているのか、重たい音を立ててその体は地面に倒れた。
「な……!?」
 ほんの一瞬で10メートル近い距離を詰め、鎧を纏った武士を絶命せしめたのである。
 残る2人の武士たちは、慌てて背後を振り返る。
 火炎を纏った、巨大な猫が1匹。
 その口には、武士の頭部が咥えられていた。
「死体を盗む……のではなく、まさか死体を作るつもりか?」
 刀を握る手に力を込めて、武士は警戒を強くする。
 ごとり、と火車の口から頭が落ちた。
 にぃ、と。
 火車は確かに笑って見せた。

●死体を運ぶ
「結局、生き残りは某1人。仲間の死体も持ち去られてしまった……依頼数日、夜ごとの見廻りも一時中止となっておる」
 武家屋敷通りだけでなく、周辺の町も夜になれば人通りが絶える始末と。
 唸るように武士は言う。
 それでも、屋敷の中から通りを駆ける火車の姿を見たという者は後を立たない。
 新たな死体を……食料を探して駆けているのだ。
「前肢と眼を失っていたこと以外にも、何やら不気味な力というか気配を感じたな」
 武士の話を聞いたイレギュラーズたちの脳裏に「呪獣」という言葉が過った。
 呪獣。それは呪詛の媒介として切り刻まれた妖を指す言葉である。
 強大な力を手に入れ、狂気に駆られ、人を襲う。
 火車の前肢と瞳は、呪詛の媒介として奪われたのだ。
 失った身体……血肉を回復させるため、火車は人を襲い死体を貪っているのだろう。
「奴は移動しながらの攻撃を行う。付与される効果は【業火】や【飛】といったところだな」
 火車の移動速度は速く、また武家屋敷のある区画はそれなりに広いとはいえ、火車の身体は火炎に包まれている。
 そのため、一度発見してしまえば追跡は比較的容易だ。
「武家屋敷の通りは、どこも直線で形成されている。碁盤の目……といって分かるだろうか?」
 幅の狭い通りが縦横に直線が描かれ、それらは直角に交わっている。
 格子状、といい変えても良いだろう。
「今はまだ通りで見かけた者ばかりを狙っているようだが、いずれ屋敷に入って来ないとも限らない。申し訳ないが、貴殿らの力を貸してほしい」
 と、そう言って。
 武士はゆっくり、頭を下げた。

GMコメント

●ターゲット
火車(呪獣)×1
呪詛の媒介として前肢と瞳を奪われた妖。
巨大な猫のような姿をしている。
鋭い聴覚と、強い脚力を備えており一瞬で10メートルほどの距離を詰めることも可能。
動きは直線的ではあるが、武家屋敷通りではさほど問題とならない。
人の死体を攫う妖であるが、今現在は人の死体を〝作って〟〝喰らう〟妖に成り果てている。


火車:物中単に中ダメージ、移、業火
 火炎を纏った急加速

火槍:物遠貫に小ダメージ、移、飛
 火炎を脚部に集中させての急加速



●場所
夜の武家屋敷通り。
幅の狭い通りが縦横に直線が描かれ、それらは直角に交わっている。
道の左右には高い塀。その向こうには、武士たちの住む屋敷が並ぶ。
視界は良好。
けれど、直線であるため曲がり角の先などを地上から確認することはできない。
 

  • <巫蠱の劫>或いは、猛火の火猫。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月23日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
アシェン・ディチェット(p3p008621)
玩具の輪舞
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
goodman(p3p008898)
グッドルッキングガイ

リプレイ

●怪異疾走
 カムイグラのとある街。
 武家屋敷の立ち並ぶある区画に、それは姿を顕した。
 両の前肢と眼を失くした巨大な猫……後肢の左右に燃え盛る車輪を備えた“火車”と呼ばれる妖である。
 格子状に退かれた通りを、それは夜ごとに疾駆する。
 火車は人を探しているのだ。本来であれば死体を盗む怪異であるはずの火車は、しかし呪獣と化したことでその在り方を変えてしまった。
 人を見つけ、殺し、喰らう。
 そうなってしまえば、イレギュラーズとて放置しておくわけにもいかず……。
「話を聞くだけで嫌な気分になる。こんな話は欠片も“良く”ない。しかし、見当たらないな……」
武家屋敷の屋根の上。goodman(p3p008898)は暗がりへと視線を向けて、そう呟いた。
「夜にあんな目立つ姿をしているなら見逃すって事は早々ない筈だよっ!」
goodmanと同じく、屋根の上から通りを見やる『不屈の壁』笹木 花丸(p3p008689)は、帽子の鍔に手を添え言った。
 その目を覆うサイバーゴーグルが、暗闇の中、ぼんやりと青く光っている。
そんな花丸の隣では、『玩具の輪舞』アシェン・ディチェット(p3p008621)が銀の髪を掻き揚げて、構えたライフルのスコープを覗く。
「車輪で動く猫さんでしたかしら? 言葉だけならなんだか可愛らしい姿を想像してしまうわ」
「言葉だけならな。実際のところ欲望、野望の為に前脚と両目を抉られた妖だ……どっちが妖だかわからんな。まったく呆れ返る」
アシェンの台詞に言葉を返し『章姫と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)はそっと片手に抱いた人形……章姫をしかと抱え直す。
艶やかな金の巻髪に、豪奢な意匠の朱のドレス。章姫は人形であり、そして鬼灯の妻である。彼女は悲し気に視線を落とし、囁くように呟いた。
「火車さんきっと痛かったのだわ……きっと今も……」
「ああ、安らかに眠らせてあげようね。章殿」

 暗がりの中、それはゆっくり身を起こした。
 喪失した眼と2本の前肢。黒い血が零れ地面を濡らす。
 武家屋敷通りの端、とある廃屋の軒下から這い出すと暗い眼窩を周囲に巡らした。
 その鋭敏な嗅覚と、研ぎ澄まされた聴覚が、何かの気配を察知したのだ。
「……ぅぅるるる」
 牙を剥き、火車は後肢に火炎を灯した。後肢の左右に浮く車輪は火炎を巻き込み、回転数を上昇させる。 
 哀れな得物を食い殺し、傷を癒す糧とするべく地面を蹴って駆け出した。

通りに残る焦げた轍に指を這わせて『翼片の残滓』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は蒼い瞳を細くする。
「痕跡を見つけて辿って来たけど……この辺りはとくに轍が多いわね。見たところ、随分古い痕跡もあるようだし」
 この辺りに火車は潜んでいるかもしれない、と。
 そう判断し剣を抜く。青い刀身を持つ細剣に、ぼうと蒼炎が巻き付いた。
 頭上へ向け、剣を一閃……仲間へ位置を知らせるための行動だが、直後彼女の視界は衝撃と共に上下する。
「くふっ!?」
 腹部に走る激痛と、骨の軋む不吉な音。地面を転がり、空を仰いだアルテミアの視界の隅を業火が駆けた。
「ぐ……あれが火車? 比較的無害な妖も、こうも変貌してしまうと危険極まりないわね」
 痛む身体を無理に動かし、アルテミアは剣を一閃。
 頭上へ向けて、燃える斬撃を撃ち放つ。

 滑るように通りへ駆け込む『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)は、茶の髪を激しくなびかせながら咄嗟に上体を仰け反らせた。
 その胸部から顎にかけてを、燃える車輪が轢いていく。裂けた衣服の切れ端と赤い血がぱっと空へと舞った。
「……っと!」
 手にした槍を旋回させると、その切っ先が地面に半円の傷を刻む。風牙はその切っ先を、跳ね上げるように上方へと弾いた。
 着地と同時に急転回し、再び風牙へ襲い掛かった火車であったが、風牙のカウンターを受け悲鳴と共に地面に倒れた。
「〝人の世に仇為す『魔』を討ち、人々の平穏を護る“。使命を、果たすぜ」
 姿勢と正し、腰の位置で槍を構える。
「えぇ、犠牲者が増えてしまわないうちに、何としてでも討伐しないと」
 風牙から見て、火車を挟んだ直線上。
 剣を構えたアルテミアがそう告げた。

 狭く、そして長く伸びた通り。左右に背の高い土の塀。
 高速で駆ける火車の突撃を、アルテミアと風牙はその身を挺して阻んでいた。
 風牙の到着から遅れること数十秒。
 次に通りへ到着したのは『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)と『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)の2人である。
「っと、速いな!  逃げられる前に、迅速に抑えなければ!」
 火炎の軌跡を引きながら、疾駆する火車を一瞥しリゲルは銀の剣を引き抜く。
 直後、放たれるのは飛ぶ斬刃。それはアルテミアの真横を通過し、火車の右側頭部を深く抉る。 今まさに突進を放つべく地面を蹴った火車であったが、スタートダッシュを潰されて、一瞬その場で蹈鞴を踏んだ。
 その隙を突き、アランは火車の懐へと潜り込む。
「効果があるか分からねーが、今は足や車輪を狙え! 少しでも機動力を削ぐぞ!」
 地面を引き摺るようにして振り抜かれた大剣。脈動する肉塊に、牙や眼球、骨に口などの器官が付いた異形の武器だ。
 明確な殺意を乗せて放たれる大上段からの斬り降ろし。
 火車は咄嗟に後退し、その一撃を回避した。
 直後、アランの額に青筋が浮く。後退の間際、火車が蹴上げた土くれが、彼の頬に細かな傷を付けたのだ。
「逃げんなボケ! 2本の足も切り裂いてやるから止まれ!」
 罵倒と共に異形の大剣“Code:Demon”から手を離す。瞬間、その左手には月を想起させる1本の剣が顕現した。
 追撃を放つべく、アランは地面を這うようにして火車の懐へと跳んだ。

●火車葬送
 火車の脚部で車輪が吠えた。
 業火はますます勢いを増し、それに応じて回転数も上がっていく。地面を削り、土砂と炎を撒き散らし、発進の時に備えて力を溜める。

 弾丸のごとく疾駆する。
 地面に刻む火炎の轍。
 進路の先には武器を構えた風牙とリゲルの姿があった。
「動き回るのが得手のようだが、させねえよ。ここがお前の袋小路だ!」
「あぁ。これ以上殺戮を行わせるわけにはいかない」
 火車の軌道は直線的だ。ここまで、方向転換を行う際以外はまっすぐに駆けることしかしていない。
 火車の突進は、おそらく囲まれた現状を打破するための試みなのだ。そう判断し、風牙は槍を構えて腰を落とした。
 リゲルもまた、剣を斜めに構えることで盾とする。

 闇夜に散るは血と火炎。
 弾き飛ばされたリゲルの手前で火車は止まった。横を抜かれた風牙が、舌打ちと共に追っていくが間に合わない。
 火車が再度、足の車輪に火炎を灯し力を溜める……その直後。
「こんなことしちゃいけないのだわ、もうおやすみなさいしましょうね」 
 悲しむような、慈しむような、そんな声がポツリと降って、火車の身体を砂塵が包む。
「おぉ、来たか!」
 風牙の声に首肯を返し、鬼灯はその手に苦無を握った。覆面から露出した目元には【インフィニティバーン】の紋様が浮かび上がっている。
「人の死体を攫っていた貴殿を擁護するつもりはないが……さぞ痛かっただろう」
 鬼灯の言葉は火車へ向けられたものだ。
 人の死体を攫う妖である火車は、たしかに人々から恐れられていたのだろう。忌避されてもいたのだろう。けれど、決して生きた人間を襲うことはなかったはずだ。
 それなのに、人の欲望が彼をおぞましい怪物へと変えてしまった。
 今だって、砂塵の中から獲物を狙う獣の殺気を鬼灯へと向けている。鬼灯はそんな火車の殺意から、章を守るよう抱き締めた。
 砂塵が消えて、火車は駆け出す。
 身に纏う業火が夜の闇を朱に照らす。
 暗い闇を切り裂いて、1発の弾丸が火車を襲った。それは塀の上に身を伏せたアシェンの放ったものである。
「あまり可愛らしくはない猫さんなのだわ」
 銃弾を回避し、火車は駆けた。きょろきょろと周囲へ首を振っているのは、鬼灯やアシェンの位置を探しているからだろう。
 けれど、しかし気配を殺した鬼灯と、身を伏せたアシェンの位置を上手く見つけられないらしい。
「でも、その方が心が痛まないかしら?」
 アシェンは再度、引き金を引く。
 ゆっくりと、息を殺して。
 攻撃の意志は指先にそっと乗せるだけ。射出された弾丸は、火車の脚部……右の車輪を撃ち抜いた。
 
 姿勢を崩した火車の眼前、拳を構えた少女が迫る。
「貴方の相手は花丸ちゃんだよ!」
 鋭い拳打が火車の鼻先を打ち抜いた。握りしめられた小さな拳には、細かな傷や痣が無数に刻まれている。
 口の端から血と唾液を吐きながら、火車は雄々しく吠え猛た。牙を剥き、花丸の肩へ食らいつくが、彼女はこれ幸いにと火車の首と鼻先に手を置き、その巨体を押し倒す。
 傷だらけになり、土に塗れながら1人と1匹は地面を転がった。
 空転する車輪が、花丸の脚に傷を刻み、血が飛び散る。
 その様を見て、花丸はギリと歯を食いしめた。
 前肢を失い、眼を失い、痛みに狂う火車に対して彼女のできることは少ない。
 終わらせることでしか、救うことはできないのだ。そのことが酷く、悔しくて、歯がゆくて仕方がない。
「噛まれても、轢かれても……花丸ちゃんのやる事は決まってる!」
 少しでも長く、この場に火車を押し留めるため。
 身体中から血を流しながら、花丸は火車のブロックを続ける。
 
 不安定な姿勢のまま、火車は車輪を回転させる。。
 車輪が回り、火車が進む。蹴った地面で業火が爆ぜた。
 地面から僅かに浮いた花丸の身体。その背後には武家屋敷の土塀がそびえる。
「くっ……」
 衝撃に備え、歯を食いしばる花丸。
 けれど、彼女の身体が土塀に叩きつけられる寸前、goodmanが間に割り込み花丸の身体を受け止めた。
「ぐっ……無理して敵う相手じゃない。大事なのは確実性だ」
 Goodmanの背が土塀に衝突。衝撃が地面を揺らし、土塀からはパラパラと土くれが零れた。
 痛みに呻く花丸の手が火車の首と顔から外れる。開放された火車は車輪を回し、ゆっくりと後退。
 Goodmanは火車へと向けて手を翳した。彼の手元で白金の指輪が煌めきと共に氷雪を散らす。
「ぎゃうっ!?」
 直後、火車は悲鳴をあげて身を仰け反らせた。その胸部を、goodmanの放った悪意が貫いたのだ。
「まだ戦えるか?」
「とーぜん!」
「では、今のうちに陣形を立て直すぞ。火車をこの場から逃がさないことが最優先だ」
 花丸の手を取り立ち上がらせながら、goodmanはそう告げた。
 彼女1人に負担がかかることがないよう、十二分に気を配りつつ火車の進路を封鎖するよう移動を開始する。
 
 花丸の拳が火車の胸部を激しく打った。よろけた火車の真横から、槍を構えた風牙が迫る。
「機動力を封じ、敏捷性を封じ、動きを封じ……存在を、封ず!!」
 駆ける勢いを乗せた渾身の突きが、その右脚部を貫いた。砕けた車輪が木っ端を散らし、地面に落ちる。
 残る左の車輪を回し、火車は風牙へと体当たりを慣行。業火の弾丸と化した火車のタックルを受け、風牙の身体が宙へと浮いた。弾かれながらも槍を振るうが当たらない。火炎に包まれ、地面を転がる風牙の横を、剣を構えたリゲルが駆けた。
「逃がさない。お前はここで、終わらせる!」
 風牙を弾いた勢いのまま、さらに駆ける火車の進路を封鎖してリゲルは剣を振り抜いた。火車の突進を受け止めたリゲルは、地面を削りながら数メートルも後退したが、どうにか転倒は堪えてみせた。
 その代償か、衝撃により臓腑に負荷がかかったらしく、口元からは血が伝う。
 一度は動きの止まった火車だが、即座に車輪を回し始めた。再度の突撃により、リゲルを弾くつもりなのだろう。
 もっとも、それだけの隙をイレギュラーズが与えてくれれば……だが。
「上出来だぜ、リゲルよ。それじゃ次は俺の番だ。兄貴として、かっこいいところ見せつけねェとな」
 まず動き出したのはアランであった。大剣を振るい、カウンター気味の一撃を火車の顔面に叩き込む。
 ミシャ、と骨の砕ける音が響いた。
 その音に顔をしかめつつもアルテミアが火車の落下地点へと移動。
「長期戦は圧倒的に不利……機動力を削がせてもらうわ」
 剣に宿る蒼炎が、ごうと一際勢いを増す。腰だめの位置から、落下する火車の左足へと向けた一閃。
 宙に火炎の軌跡を引いた斬撃が、火車の火炎とせめぎ合う。
 赤と青、2色の火炎がぶつかり爆ぜた。狭い通りに熱波が吹き荒れ、ライフルを構えたアシェンの銀髪を躍らせる。
「きゃっ!」
「おっと、危ない」
 熱波に背を向け鬼灯は、その胸の内に章姫を強く抱き締めた。
 
●火猫終焉
 乾いた音を立てながら、火車の車輪が通りに落ちた。
 左右の脚から血を零しつつ、火車はよろりと立ち上がる。その本領たる加速力は既に失われ、傷ついた身体に残る力はごく僅か。
 けれど、その殺意は未だ濃く……身を低くし、地面を踏みしめる後ろの脚に力を込める。筋肉が収縮し、傷口から血が零れた。
 火車が地面を蹴った、その瞬間。
「もう、止まって!」
 その下半身目掛け、花丸が跳んだ。
 花丸の身体を引き離すべく、火車は傷ついた足でその顔を、腹を蹴りつける。帽子が外れ、血だまりに落ちた。鼻から口から血を零しながら、けれど花丸は決して腕を離さない。
「ここで止まって。貴方の恨みと苦しみは花丸ちゃんが受け止めてあげる。そして、きっと……きっといつか、君達が受けた痛みを、犯人に届けてみせるから」
 花丸の声が、狂気に落ちた火車に届くことはない。
 彼女とてそれは理解しているが、それでも告げずにはいられなかった。
 暴れまわる火車の牙が、花丸の首筋に刺さる。
 直後……。
 トス、と軽い音。風牙の構えた槍が、火車の首を刺し貫いた。
 
 塀の上に控えた鬼灯、そしてアシェンは戦いの様子を見守っていた。
 鬼灯は苦無を手にしたまま、アシェンはライフルの引き金に指をかけたままの姿勢で、火車の逃走に備えているのだ。
 もしも火車が花丸を振り切り、逃走を開始した場合、遠距離からの攻撃手段を持つ自分たちがすぐに抑えに回れるように。
 2人の視線のその先で、槍を構えた風牙が駆けた。
「閉幕だな」
 と、その様子を見て鬼灯はそう言葉を零す。

 地面に倒れる猫の遺体を見下ろして、風牙は静かに目を閉じた。
「人間の恩讐の巻き添えにしちまって悪かったな。本来なら、普通に動物らしく生きられただろうに……」
 節が白くなるほどに、強い力で拳を握る。
 妖を切り刻み、呪詛の媒介とする何者か。火車もまた、その被害者と言えるだろう。
 抑えられないほどの怒りが風牙の身体を震わせる。
「夏祭り以降、今回の様な呪詛絡みの事案が一気に増えたわね」
「うん。可哀想に……不幸を背負ってしまったな」
 地面に残る焼けた轍を一瞥し、アルテミアとリゲルは言葉を交わす。
 傷つき、血を流しながらも火車は最後まで暴れ続けた。血を吐き、傷が広がることも構わずに、ただ人の命を奪うため。
 視線を伏せ、2人は肩を震わせる。
 人に害なす存在とはいえ、火車がそう成った原因もまた人なのだろう。利用され、狂わされ、命を失っていった1匹の妖。その気持ちを思えば、勝利を素直に喜ぶことはできないでいた。
 そんな2人の背後に寄って、アランはそっとその肩に手を置き、静かに告げる。
「リゲル、やれるだけのことはやったんだ。もう呪いに苦しむ必要がないようにここで仕留めてやる……今の俺たちに出来ることは、それだけだった」
 その言葉は果たして救いとなっただろうか。
 聞く者によっては、己の力不足を突きつけられているように感じたかもしれない。
「この国に、呪い、憎しみ、恨み、そんなのをまき散らしてる奴がいる。見つけ出して、必ず斬り伏せてやる!」
 悔しさを飲み込み、怒りを滾らせ、風牙は決意の言葉を口にした。
 それはきっと、苦しみ、狂い、死んでいった火車へ向けた風牙なりの手向けの言葉。

 燃える黒猫の死体から、goodmanは目を離さない。
 火車の死体に火を着けたのは彼だった。火炎を使う自分こそが、火車を送る役にふさわしいとそう感じたのだ。
「次生まれ変わったなら幸せになっておくれ」
 瞼を閉じ、祈りを捧げる。
「くるくる回す、車輪を回す。車輪はくるくるから回り」
 輪廻は巡る。
 それはきっと鎮魂歌。彼女なりの葬送か、空へ向けて1発の空砲を撃ち鳴らす。
 静かに歌うアシェンの声を聞きながら、goodmanは考える。
 死者の魂は巡り巡っていずれどこかで生まれるだろう。
 禍福は糾える縄のごとく……不幸の後には幸福が訪れるだろう。
 苦しみ、死んだ火車の魂が……もしも再び、この世界に生れ落ちるとするならば。
 きっと、幸福な生を得られるはずとそう願わずにはいられない。

 帽子を深く被り直して、花丸は数度深呼吸を繰り返す。
 大きく息を吸い込むと、彼女は空へ向けて叫んだ。
「今は切り替えて一つ一つの事件を解決して花丸ちゃん達の地盤を固める時だよね……頑張るぞーっ!」
 笑顔を浮かべ、元気な声で。
 悔しさや悲しみは、胸の奥にしまい込む。
 少なくとも、すべてが終わるその日まで……。

成否

成功

MVP

笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
火車は無事に討伐されて、武家屋敷通りには平和が取り戻されました。
また、火車の遺体もまた人々の目に触れることなく灰と化してどこかへ吹かれて消えました。
ようやく火車は、何もかもから解放されたのだと思います。
依頼は成功となります。

この度はご参加ありがとうございました。
お楽しみいただけたでしょうか。
お楽しみいただけたのなら幸いです。
またの機会があれば、皆さまのご参加をお待ちしております。

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