PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<夏の夢の終わりに>或いは、氷雪舞い散る氷茨の塔…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●冷めた風が吹きすさぶ
 おとぎ話の国『妖精郷アルヴィオン』にある古代遺跡。
 妖精城アヴァル=ケイン。
 此度の舞台は、凍えついた庭園である。
 本来であれば色とりどりの花々が咲き誇るであろうその場所だが、しかし今現在そこに残る色は“白”ばかり。
 その原因となる存在は、遠い昔に眠りについた『冬の王』と呼ばれる邪妖精たちに他ならない。
 魔種とその協力者達の手により眠りから覚めた邪妖精たちにより、アヴァル=ケインは今や終わらぬ冬の最中に捕らわれている。
 
 場所は庭園。その一角。
 氷の茨で形成された、全長10メートルほどの塔からは、絶えず冷気が溢れ出す。
 よくよく目を凝らしてみれば、冷気の中には人の影。
 否、それは氷の甲冑を纏った騎士たちであった。
 どうやら騎士たちは、〝氷茨の塔〟から断続的に湧き出ているらしい。
 種別としては「冬の精」ということになるだろうか。
 彼らは『冬の王』により生み出された存在だ。
 現在確認できる〝氷の騎士〟の数は5体ほど。けれど、氷茨の塔を破壊しない限り永久に増え続けるだろう。
 その存在を無視できるものではない。
 余りにも数が増え続ければ、アヴァル=ケインを攻略するうえで妨げとなる。
 氷の盾に弾かれれば【乱れ】の異常を、氷の剣に斬り付けられれば【氷結】を付与されることになるだろう。
 硬質な鋼のような足音を鳴らし、騎士たちは凍り付いた庭園を闊歩する。
 侵入者を排除するために。
 氷茨の塔の守護するために。

●氷茨の塔
「作戦をスムーズに進めるためだ。お前さん方には〝氷茨の塔〟の破壊を頼みたい」
 氷茨の塔の高さはおよそ10メートルほど。大量の茨が絡み合うことで形成されている。
 強度自体は、さほど硬いものではないが、特筆すべきは噴き出す冷気や氷の騎士の存在だろうか。
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は集まったイレギュラーズたちの顔を見回し、ふむ、と小さく呟いた。
「氷茨の塔は『冬の王』により作られたものらしい。自分たちを守らせるためか……破壊しない限り、次々と氷の騎士を排出し続けるようだ」
 現在、塔の周辺に配置されている騎士の数は5。
 けれど、およそ5分に1体ほどのペースで騎士は増え続ける。
「氷茨の塔にも最低限の自衛手段が備わっている。攻撃を受けると【棘】を伴う自衛を行うようだ」
 塔を形成する茨をほどき、対象を薙ぎ払う……或いは、締め上げるという攻撃である。
 ある程度の距離まで攻撃が届くことと、吹雪のせいで視界が効き辛い点には注意が必要となるだろう。
「また【痺れ】の効果を伴う吹雪を発生させることもある。こちらは、氷の騎士を排出する際に行われるようだ」
 そう言ってショウは、3本の指を立ててみせた。
 そのうち1本を折り、彼は告げる。
「まず1つ。氷茨の塔を破壊しない限り、定期的に氷の騎士が増え続ける」
 2本目の指をショウは折る。
「氷の騎士はおよそ5分に1度、排出される。その際、塔を形成する茨がほどけ極寒の吹雪を発生させる」
 発生した吹雪は、その後約5分ほど吹き荒れ続けることになる。
 発生直後を除いてダメージを受ける心配はないが、視界には問題が残るだろう。
 そして、3本目。
「塔には自衛能力というか、迎撃機能が備わっている。さほど頑丈ではないが、その点は少々厄介だな」
 騎士を抑えて、その隙に塔を破壊する。
 それがセオリーだろうが、塔そのものが反撃して来るとなれば少々話は変わってくる。
「吹雪の中での戦闘に不慣れな者も多いだろう? 今回、3名の妖精がお前さんらに協力してくれることになっている」
 協力を申し出てくれた妖精たちは、皆吹雪の中での活動を得意とする者たちであるらしい。
 彼ら彼女らは吹雪の中でも問題なく遠方を見通し、またAPを渡すことで【朧火の盾】を形成してくれるそうだ。
 渡すAPは多ければ多いほどに、強固で長持ちするらしい。
 だが、APを渡せるのは妖精が〝憑いている〟者だけとなる。
「妖精たちと上手く協力しながら、塔を破壊して来てほしい」
 よろしく頼むよ、と。
 そう告げたショウの背後に、淡い炎が浮かび上がった。
 その数は3つ。
 それは小さな、炎を纏う妖精だった。

GMコメント

●ターゲット
・氷茨の塔×1
『冬の王』により形成された塔。
氷の茨が絡み合うことで形を成している。
全長はおよそ10メートルほど。さほど頑丈ではないが、攻撃の気配を感じると茨をほどいて迎撃を行う性質を持つ。
また、5分に1体ほどのペースで〝氷の騎士〟を発生させる。

氷茨:攻撃して来た対象に【棘】
 氷の茨による迎撃。

吹雪:神中範に小ダメージ、痺れ
 視界を白く染めるほどの極寒の吹雪を発生させる。



・氷の騎士(冬の精)×5~
氷茨の塔より発生する騎士たち。
動きは遅いが、それなりに頑丈。

氷の盾:物近単に小ダメージ、乱れ
 シールドバッシュ。

氷の剣:物近単に中ダメージ、氷結
 氷の剣による斬撃。





●場所
妖精城アヴァル=ケインの庭園の一角。
氷茨の塔周辺。
遮蔽物などは特に存在しないが、絶えず吹雪いているため視界は不良。
塔を囲むように5体の騎士が配置されている。
騎士は5分に1体増える。また、塔に近づけば近づくほどに吹雪の勢いは強くなる。


・朧火の妖精×3
氷茨の塔破壊に強力してくれる妖精たち。
吹雪の中でも遠くを見渡す能力と、火炎の盾を形成する能力を持つ。
イレギュラーズに〝憑く〟ことでその本領を発揮。
とくに盾の形成には任意の量、APを渡す必要がある。

  • <夏の夢の終わりに>或いは、氷雪舞い散る氷茨の塔…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月30日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
矢都花 リリー(p3p006541)
ゴールデンラバール
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
真鶴・紬希(p3p008844)
特異運命座標
真鶴・美織(p3p008845)
千入一閃

リプレイ

●氷茨の塔
 おとぎ話の国『妖精郷アルヴィオン』にある古代遺跡。
 妖精城アヴァル=ケインの庭園は、氷雪に覆われ真白く染まる。
 その周囲には5体の氷の騎士がいた。
「無限に敵を生み出す塔。落としてしまわねば他戦場にすら悪影響を及ぼしかねませんね」
 白紙の頁を周囲に浮かせ『妖精譚の記録者』リンディス=クァドラータ(p3p007979)はそう告げる。
「ん、おけ……あの塔壊そ……あれ、絶対パリピの根城だし……」
 リンディスの言葉に即答し『帰って寝たい』矢都花 リリー(p3p006541)は自身の肩に炎を纏う1匹の妖精をとまらせた。
 ゆらり、と塔へ向けて歩き始めたリリーの手にはバールが握られている。
「妖精達も辛いだろうによく名乗りを上げてくれたもんだ、有り難い限りだね」
 リリーの肩に座る妖精を一瞥し『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は銃を構えた。
 銃口付近に1匹の妖精が舞い降りる。妖精の纏う火炎が、ごうと音を立て勢いを増した。飛び散る熱波が吹雪を溶かし、ルーキスの視界を確保する。
「おとぎ話だと『あの中にお姫様がいて、それを救出するんだ…』なんてありそうですが、今回の塔はそういった類のものではなさそうですね」
 自身の胸に手を添えて『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)がそう告げた。【ミスティックロア】による自己強化をかけ、クラリーチェはさらに言葉を続ける。
「皆さんが十全に戦闘できるよう、今回は補助を務めさせていただきます」
「流石、助かります。さぁ、冬の寒さを吹き飛ばすくらいアツいビートを響かせてやって、妖精郷を取り戻しますよ!」
 バイクに跨る『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)は、にやりと笑いそう言った。
 ドルン、と鳴ったエンジンの音。熱を孕んだ車体が唸る。発進の準備は万全だ。
 そんなアルプスの眼前を、朧火の精霊が飛び回る。吹雪を散らし、視界を開く。

 静かに、まっすぐ『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)は前へ出る。
「氷で閉ざされた世界よりも、花が咲き乱れる鮮やかな世界の方が良いわ」
 彼女の役割は氷の騎士の足止めだ。
「……吹雪の音が煩いわね」
 と、そう告げてエンヴィは小さく首を振る。強化された彼女の聴力を持ってしても、氷の騎士が歩く音は聞き取れない。
「頑張るぞー、おー!!」
「おー‼ ですわ!」
 エンヴィの横を駆けて行くのは『特異運命座標』真鶴・紬希(p3p008844)と『特異運命座標』真鶴・美織(p3p008845)の姉妹であった。
 紬希の手には1本の杖、美織の手には大太刀がそれぞれ握りしめられている。初の実戦に浮足立った様子の双子を視界の端に捉えたエンヴィは、くすりと小さな笑みを零した。
 
●春を取り戻せ
 積もった雪と氷を削り車輪が回る。
 削る、削る。
 それは雪華の軌跡を描く最高速の突攻だった。
 轟音を響かせバイクが走る。ハンドルの間に座った妖精が、火を吹きアルプスの視界を開く。
 轟音に気付いた氷の騎士が剣を構えて動き出したが、けれどそれでは間に合わない。フルスロットルで駆けるアルプスへ追い縋るには、騎士たちはあまりに重すぎたのだ。
「お前を粉々に砕くには、この1撃で十分だ!」
 駆ける姿はまさに流星。
 アクセルを開き、イグニッションに拳を打ち付け、アルプスはさらに加速をかけた。ドルン、と1度エンジンが鳴る。車体に座った妖精が、慌てて宙へと飛び去って行く。
 妖精の退避を確認し、桃の髪を靡かせ笑うアルプスは「頼みましたよ」と小さな声で呟いた。その背を見送る妖精へ向け、サムズアップのサインを送る。
「うぅぅぅらぁぁっ!!」
 景気付けの一環か。声高らかにアルプスは叫ぶ。
 そして、次の瞬間……ノンブレーキの最高速度で、アルプスは塔へぶつかった。
 轟音と共に地面が揺れる。
 激しく吹き荒れる衝撃。氷の塔が砕ける音が鳴り響く。

 衝撃波により雪が舞う。
 空をうねる氷の茨が、アルプスの身体を打ちのめす。砕け散る氷の塔を視界に捉え、アルプスは薄い笑みを浮かべた。命こそ失ってはいないが、戦闘不能に陥るほどの反射ダメージを受けている。
 さもありなん。最大火力の1撃を、捨て身で塔へと叩き込んだのだ。
 たった1撃。その身を犠牲にしてアルプスは塔を崩してみせた。
 その本体であるバイクには大きな亀裂。砕けた部品が、地面に落ちる。ジュウと音を立て雪が溶け、立ち昇る蒸気が周囲を白に染め上げた。
 パンドラによる復活。よろりとアルプスは身を起こす。
 アルプスの身を案じてか、バタバタと妖精が飛び回る。
「目的の1つは達成ですね。ですが、騎士を殲滅せしめるまでは、油断せず戦闘を続けましょう」
 と、そう呟いたクラリーチェ。まっすぐにその目はアルプスを見据えていた。
 壮絶な覚悟を伴う突撃。脳の奥が痺れるような不思議な感覚。それはある種の興奮だろうか。
「ですが、まずは……」
 傷ついた仲間を癒すため……。
 リィン、と澄んだ鐘が鳴る。
 クラリーチェの鳴らす鐘の音に乗り、淡い燐光が舞い散った。降り注ぐ光が、アルプスの身体を優しく包み、失われた体力を回復させる。
 けれど、直後。
 崩落した塔の残骸により、クラリーチェの視界は白に包まれる。そうしてアルプスの姿は雪と氷片の中へと消えた。
 
 降りしきる氷の欠片。それは砕けた塔だった。
 衝撃に舞い散る氷雪がリリーの顔に吹き付ける。ぽかん、と口を開けたままリリーはその光景を眺め続けた。
 一体何が起きたのか……理解はできる。妖精により開かれた視界の中で、リリーはたしかにその瞬間を目にしたのだから。
 我が身を顧みぬ1撃が、氷茨の塔を打ち砕いた。
「……は、あはは」
 乾いた笑いが零れて止まぬ。
 カチカチと、無意識のうちに打ち鳴らされる鋏の音が雪庭に響いた。
「まあパリピタワーは爆破解体って決まってるからねぇ……塔ごと大崩落の刑だよぉ……マジざまぁ」
 手にしたバールを振り上げながら、リリーはくっくと肩を揺らす。
 抑えきれない興奮と、爽快感が胸のうちで静かに燃えた。

 氷の騎士が動き出す。
 右手に剣を、左手に盾を構えた騎士の数は5体。自身の生みの親である塔を砕かれたことに怒っているのか、それともそういう指示を受けていたからか。
 その狙いはアルプス1人に向いている。
 けれど、しかし……。
「そうはさせないよ。硬い装甲がご自慢らしいからね、少しばかりささやかな嫌がらせだ」
 鳴り響く銃声。
 放たれるは不可視の斬撃。
 ルーキスの放ったそれは、氷の騎士の側頭部を穿つ。砕けたヘルムの欠片が散って、氷の騎士は僅かによろける。
 そうして彼女は、銃を片手に氷の騎士を追い越してアルプスのもとへと駆け寄った。
 横転した車体を引き起こし、周囲へぐるりと視線を巡らす。
「さぁ、この場を切り抜けようか」
 そう言って彼女は、トリガーをそっと引き絞る。

 どこか興奮した面持ちで、紬希と美織は戦場を駆けた。
「姉様とご一緒に依頼を受けられるだなんて美織はとても嬉しいです!」
「最初の依頼がみーちゃんと一緒で良かった!」
 一瞬、2人は視線を交わし意志の疎通を済ませると紬希は右へ、美織は左へと向かう。

「成程、これが氷の騎士でございますか。ですが──私達の障害となるのであれば、只切り伏せるだけの事。真鶴の剣術、とくとご覧あれ!」
 美織の振るう大太刀が、雪華を散らし氷の騎士の身を削る。頑丈な身体を持つ氷の騎士は、けれどそれだけでは倒れない。
 掲げた盾で美織の太刀を受け止めて、力任せに横に薙ぐ。盾に弾かれ、美織は数歩蹈鞴を踏んだ。よろけた彼女の頭部に向けて、右手の剣を振り下ろす。
「っわわ!?」
 防御は到底間に合わない。ダメージを覚悟し、美織はきつく目をつむる。
 けれど、覚悟していた衝撃が彼女を襲うことはなかった。
「みーちゃん、平気?」
 おそるおそる瞳を開けた美織の視界いっぱいに、見慣れた姉の背が映る。掲げた杖で剣を受け止めた姉は、けれどその額からとろりと赤い血を流していた。
「へ、平気ですわ」
「よし、それじゃあ立って。息を合わせて頑張ろう! ここが踏ん張りどころだよ!」
 そう言って紬希はがくんと膝の力を抜いた。
 受け流された氷の剣が、深く地面に突き刺さる。低い位置に下がった騎士の頭部へと向けて、立ち上がる勢いを乗せた殴打を叩き込む。
 ガツン、と衝撃が騎士の頭部を激しく揺らした。
 “アイアンメイデン”の効果が乗った彼女の殴打は、騎士に不可視の出血を強いる。
 そうして2人は、騎士が動きを止めるまで一気呵成に攻め立てた。

 塔が破壊されたことにより、吹雪も次第に弱くなる。
 けれど依然、視界は白に染まったままだ。塔の崩落と共にまき散らされた氷雪もあり、リンディスは仲間の位置を見失ったまま孤立していた。
 そんな折、白に染まった視界の中でぼんやりとした火が見える。
 さらには激しい剣戟の音。
「これは……すぐに援護に参ります!」
 声をかけつつ、リンディスは駆けた。周囲に舞い散る白紙に向けて、彼女は疾く物語を記す。それは癒し手達の記録。物語に宿る快癒の力は、燐光と化して仲間の身体に降り注ぐ。
「リンディスか。ありがとう、貴方のおかげで楽ができそうだよ」
「助かりました。僕が本当に死ぬところでしたよ」
 吹雪の中、2体の騎士に襲われていたのはルーキスとアルプスの2人であった。
 傷つき、血を流す2人を目にしリンディスははっと息を飲む。けれど、即座に彼女は己の取るべき戦略を脳裏に描き、白紙の頁へ手を伸ばした。
「この場を立て直す戦略を立てます!」
 と、そう告げて。
 彼女は白紙に文字を刻んだ。
 それはあまねく軍師たちの残した戦略。書かれた文字の一部……今、この現状を立て直すための戦略が淡く光り、3人の周囲を取り囲むよう溢れ出す。

 空間が歪む。
 それは思念による現象。
「…少しでも早く、敵の数を減らしていきましょう。氷で閉ざされた世界を終わらせ、花が咲き乱れる鮮やかな世界を取り戻すために」
 と、そう告げてエンヴィはその手に銃を構えた。
 親指でハンマーを落とし、シリンダーを回転させる。次弾を装填したエンヴィは、瞳を細めて氷の騎士の様子を観察。
 先に放った【不可視の渦】では、大きくダメージを与えられてはいないことを確認した。ならば、と彼女は引き金を引く。
 落とされたハンマーが薬莢の尻を叩くと同時、火炎が爆ぜて鉛の弾丸が撃ち出される。
 弾丸に乗った悪意は不可視。
 たとえ騎士が盾で弾を弾いても、不可視の悪意は正しくその胸部を穿つ。一瞬、氷の騎士は激しく身体を震わせて……次の瞬間、砕けて散った。
 
 鐘の音が鳴り響く。
「棘で自己防御しつつ、騎士で襲撃者を撃退する塔。上手くできていますが、塔が破壊されてしまえば、その脅威も半減ですね」
 仲間たちの支援を行うクラリーチェは、戦場を見渡しそう言った。
 残る騎士は後3体。
 終幕の時まで、あと少し。

●砕け散る騎士
 妬ましいわ、とそう呟いてエンヴィは銃の引き金を引く。
 放たれた銃弾に纏わりつくは不吉なオーラ。それは顕現した怨霊だった。怨嗟の声を響かせながら、銃弾は氷の騎士の眉間を穿つ。
 その身を縛る不吉な気配。ギリギリと黒い靄が氷の騎士を締め上げる。
 どこかじっとりとした眼差しで、その様子を見つめつつ、エンヴィーはぼそりと呟いた。
 妬ましいわ、妬ましいわ……。
「なんて速く、そして見事なのかしら」
 砕けた氷茨の塔を見て、彼女はそんなことを言う。
 そう語る彼女の口元には、嬉しそうな笑みが浮いている。
「ところで、アルプスさんは無事なのかしら?」
 なんて、言って。
 顎に手をあて、小首を傾げる彼女の視界の端っこで、氷の騎士が砕けて地面に散らばった。

 バールが宙を舞っていた。
「ぬぁりゃ……覚悟……」
 空気を切り裂き、跳んだバールが騎士の頭部に突き刺さる。砕けた鎧の破片が散って、騎士の注意がリリーへ向いた。
 その隙に、2体の騎士に囲まれていたリンディス、ルーキス、アルプスの3名は体制を立て直すべく一時後退。舞い踊る頁に視線を走らせながら、リンディスが指揮を執っているのが良く分かる。
 リリーの攻撃を受けた騎士が、地面を蹴って駆け出した。接近する騎士の眼前に、リリーに憑いた妖精が躍り出る。
「一番いい盾を頼むだよぉ……」
 リリーの渡したAPを妖精は己の力へ変える。その身に纏う朧火が、ごうと音を立て勢いを増した。展開されるは業火の盾だ。振り下ろされた騎士の剣をしかと受け止め、どろりと溶かしてみせる。
「ないすぅ……」
 いひっ、と笑い声を零してリリーはバールを振り上げる。妖精の作った隙を突き、フルスイングの一撃を騎士の頭部へ打ち付けた。
 ガコン、と硬質な音が鳴り響く。
 蹈鞴を踏んでよろける騎士が、盾を振り上げ薙ぎ払う。それはリリーの左腕を強く打ち、ミシと外殻を軋ませる。
「……ってぇ」
 騎士は1歩、前に出た。火炎を纏った妖精がリリーを庇うべく腕を広げる。
 突き出された氷の盾は、けれどリリーに届かない。
「この国に春を齎すために……消えてください」
 静かな声と鐘の音。
 薄れた吹雪の向こう側、ベルを手にしたクラリーチェは胸の前で手を組み祈る。
 瞬間、騎士の身体を闇の帳が覆い尽くした。
『みぃつけた……』
 闇の中で何かが嗤う。
 そして、やがて闇が消え、後に残るは地面に散らばる氷の鎧の残骸ばかり。
 果たして闇のただ中で、何が起きていたのだろうか。
 誰も知らない……知らないままの方が良い。

 ルーキスの放つ、毒の魔石が氷の騎士の胸部を穿つ。
 鋭い斬撃を繰り返す騎士に生じた一瞬の隙。リンディスの眼は正しくそれを好機と捉えた。舞い散る頁を手に取ってリンディスはそれに視線を這わせる。
「アルプスさんは騎士の脚へ1撃入れてください。ルーキスさんは射撃の準備を!」
「任せてください!」
 リンディスの指示に、アルプスは即答。アクセルを開き、タイヤを回す。雪が飛び散り、煌めいた。ごう、と駆けるその様はまるで1条の流れ星。
 ズドン、と地面が揺れるほどの衝撃と共にアルプスの車体が騎士の身体を打ち上げた。
 砕けた盾が宙を舞う。
「ルーキスさん!」
「うん。妖精たちのために頑張るよ……さあ、走れ我が眷属達!」
 肩にストックを押し付けて、ルーキスは黒銃の銃口を騎士へと向けた。引き金を絞る。指先にかかる僅かな力が、ハンマーを落とす。ガチン、と弾丸の底を叩く音。
 マズルフラッシュ。白い火花がぱっと散る。
 放たれた弾丸を起点として、展開される不吉な陣は悪霊の軍勢を顕現させるためのもの。
 怨嗟の声を轟かせ、溢れた悪霊の軍勢が鋭い爪で騎士の身体を無惨に刻む。削れた氷片がはらりはらりと宙を散る。氷の雨が降るかのようで。その様子は幻想的でさえあった。
 思わず見惚れるほどの光景。
 騎士の身体が地面に伏して、それっきり動き出すことはない。

 砕けた氷の鎧が散らばっている。
 雪の上に座り込み、紬希は大きなため息を零す。
「何とか無事に終わったかな……うー、過酷な環境には慣れてるつもりだったけど寒かったなあ」
 いつの間にか、吹雪も止んでいる。
 額に滲んだ汗を拭う紬希の隣に美織がぽてんと座り込む。
「寒かったですね、姉様!」
「わわっ、そんなに抱きつかれたら動けないってば~」
 紬希に抱き着いて、美織はその腹部へと額を擦り付けていた。子猫が親猫に甘えるように。或いは、暖を取っているのか。
 とにもかくにも、氷茨の塔は砕け散り、5体の騎士も停止した。
 かくして妖精城アヴァル=ケインの庭園の一角に、一時の平穏が訪れる。
「本来なら四季折々の花が咲く、素晴らしい庭園なのでしょうが……」
 と、クラリーチェはそう呟いた。
 彼女の言葉に同意を示す妖精たちが、ひらりはらりと周囲を舞って地面に積もる雪を溶かした。
 溶けた雪の真ん中に、赤い花が咲いていた。

成否

大成功

MVP

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
氷茨の塔は早期に破壊されました。
依頼は大成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
こちらの想定を超えた良いプレイングだったと思います。
此度の物語、お楽しみいただけましたでしょうか。
お楽しみいただけたのなら幸いです。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

PAGETOPPAGEBOTTOM