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シナリオ詳細

再現性東京2010:十字路の行き止まり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 噂というのは、良くない話というのは、黙っていても伝わってしまうものだ。忌避するほどに何を忌避しているのかバレてしまう。故に、誰もが口をつぐんだとて誰かに伝わっていく。
 そのようにして忌避されている十字路が、希望ヶ浜の片隅に存在していた。ただの変哲も無い十字路で、夜には近くを等間隔に電灯が照らしている。変質者が出たという話もなく、治安はどちらかといえば良い方だろう。それでも忌避される理由は──。

「──は? 行き止まりだから?」

 ポロリと紙パックを落としかけた章子に「らしいよー」と友人が言う。
「えーやだやだ、なんでそんな話あんの。ホラーじゃん」
「通らなきゃいい話でしょ」
「でもさあ」
 嫌なものは嫌である。そう言いかけて章子は口をつぐんだ。友人の言う通り、通らなければ気にもならない話。そして言ったところでなくなるものでも無いのである。
「ね、それより聞いてよ彼氏がさー──」
 女子高生の話題など、流れる水の如く変化する。そして話が終わる頃にはすっかり忘れているのだ。

 では──その忘れた記憶は、いつ思い出すか?

 ぴたり、と章子は足を止めた。止めてしまった。思い出して、思わず止まってしまったのだ。
(なんで!? なんで今思い出した!?)
 自らに悪態をついてももう遅い。信じたくもなかった、けれど今は信じるしかない怪異がすぐそこまで迫ろうとしている。どこかへ逃げなくてはと思うものの、竦んだ足はどこにも踏み出せない。
(だって、どこへ逃げようって言うの)

 この十字路は、立ち止まってはならない。立ち止まったが最後──『十字路は行き止まりになる』のだ。



「カムイグラから一旦戻ってきてみれば……何? 百物語でも詰まってるワケ?」
 『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は呆れたように呟いた。彼女がこの再現性東京を訪れるのは初めてのこと。怪異を信じない者たちの街はどこか歪にも思えた。
 まあいいや、とシャルルは慣れない手元の機器、aPhone(アデプト・フォン)を操作して此度の依頼を読み返す。
「ええと、タイトルは──」

『Title:十字路の怪
 希望ヶ浜には立ち止まってはならないとされる十字路がある
 立ち止まれば出てくることができず、帰ってもこれない
 十字路の中心で立ち止まり、怪異を討伐せよ』

 その下には詳しい地図やヨルの能力と思しきものが書き連ねてあるが、これは後々読み返せば良いだろう。
「怪異に囚われた人が生きているのかはわからない。……ま、確かめようと思ったら罠にかからないといけないもんね」
 自ら捕まって体感するか、ヨルを倒して戻ってくるか。少なからずこのような噂が立っているのは、敢えて人間を誘き寄せるために姿を見せたりしているのかもしれない。
「さあ、行ってみようか。どんなものが出てくるかわからないけど」
 依頼を受けた以上、オーダークリアを目指すのみである。

GMコメント

●成功条件
 悪性怪異ヨルの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●十字路の怪
 該当の十字路で立ち止まることにより起こる怪異。見たと言う者の証言だと、一瞬怪物が現れた後にそれごと人が消えたのだそうです。
 怪物は歪な人間の形をしており、全長は3mにもなるでしょう。

メタ(PL)情報:
 怪異に襲われると、四方に壁が発生します。これは一種の結界であり、上記の『人が消えた』はこれに囲まれたためです。
 壁は遠くから少しずつ迫り、壁同士が触れることで結界が完成します。こうなると依頼失敗ですのでお気をつけ下さい。
 PC情報へ落とせるのは壁出現時になります。

●フィールド
 十字路です。そこまで横幅はありませんが、縦幅はそこそこあるでしょう。前述の壁が場所を狭めてきます。

●友軍
『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
 旅人の少女。神秘アタッカーで、そこそこ戦えます。皆様の指示にはなるべく従います。

●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
 希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
 練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
 そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
 それも『学園の生徒や職員』という形で……。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●ご挨拶
 愁と申します。
 たまに十字路で立ち止まってみると、怖くなりませんか。風も吹き抜けるはずなのに、どこか閉塞感を感じるような。そんな怪異です。
 ご参加をお待ちしております。

  • 再現性東京2010:十字路の行き止まり完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月26日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
蔓崎 紅葉(p3p001349)
目指せ!正義の味方
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
エル・エ・ルーエ(p3p008216)
小さな願い
ロト(p3p008480)
精霊教師
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ


 非日常などあるわけがない。
『ねえ、知ってる?』
 そう信じていても、非日常はすぐ隣に在る。
『あの十字路、行き止まりなんだって──』
 非日常に触れたくなるのもまた、人間だ。


「HAHAHA、いやいや懐かしい光景じゃねえか」
 『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)は周りを見渡しながら笑う。東京の再現とはよく言ったもので実によくできている。異なる点があるとすれば──。
「再現性東京ということは、東京という場所の不思議な事も再現したのでしょうか?」
 本当の東京を知らない『ふゆのいろ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)の問いに貴道はさてと肩を竦める。
「少なくともミーの居た地球には、こんな妖怪みたいのは居なかったぜ」
 別の世界、別の東京であればまた異なるのかもしれない。何せ混沌は無数の世界から特異運命座標を召喚しているのだから。
「東京を知る方が懐かしいと言うのであれば、相当似ているのですね」
 貴道の言葉で同じように視線を向けた『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は天義──この混沌を出身地としている。故に、見るもの全てが新鮮だ。スーツも着こなしてはいるが、やはり騎士服の方が落ち着く。
 それでもこの街に溶け込もうとしているのは、そうしなければいけないからだ。非日常を許容しないこの再現性東京において、混沌の姿で赴くとコスプレだと思われることもある、という。思われることもあるという事は、そう思われないこともあるという事だ。不審者として捕まらないためにも、無難にこの街の日常へ合わせたのである。
「シャルルも、来てくれてありがとう」
「まあ……ほら。見て見ぬ振りもなんか、ね」
 普段とはあまりにも違う世界に落ち着かなさそうな『Blue Rose』シャルル(p3n000032)はリゲルへ視線を巡らせる。その服装もまた再現性東京に適したものであるが、体へまとわりつく蔓薔薇を隠すのも一苦労──というか、やはりそれも落ち着かないのだろう。
「貴道は社会……? 歴史……? の教師なんだっけ。もっと運動って感じに見えるけど……」
「ミーが教えたら反則だろうHAHAHA!」
 豪快に笑う貴道の体は一般人以上に鍛えられている。彼が受け持つ体育の授業というものを予想してか、シャルルはなるほどと頷くに留めたのだった。
「現象系の怪異か、興味深い怪異だね」
 『特異運命座標』ロト(p3p008480)はaPhoneで共有された情報を時折、信号で立ち止まった時などに見返す。歩きながら操作しないように気をつけながら、文字を追うその瞳は興味津々だ。今こうして歩いているといかにも平和であるが、こうした情報を見るとそれが偽りの上である事を知らしめる。
 それでも、真実から目を背けることこそが希望ヶ浜の日常だ。
「希望ヶ浜の日常、守らないとね!」
 『不屈の壁』笹木 花丸(p3p008689)はパシリと自らの手のひらへ拳を打ち付ける。そこで人が幸せになれるのなら、花丸は拳を振るうことを厭わない。『目指せ!正義の味方』蔓崎 紅葉(p3p001349)もまた然り。
「まぁとりあえず、十字路に居るっていう変なのぶっ飛ばせば全部解決っしょ!」
 十字路の変なもの──夜妖<ヨル>を倒せば今後怪異が起こることはないだろう。行方不明者も帰ってくるかもしれない。『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)はカフェ・ローレットで働く知人から情報を得て、それから行方不明者のリストを作成していた。これで全員ではないだろうが、それでも照合は捗るはずだ。
「あ、見えた。あそこだね」
 ロトが前方に見えてきた十字路を指す。立ち止まってはいけない十字路に人気はない。ここで立ち止まった後、何が起こっているのかは被害者しかわからないからイレギュラーズたちも未知の空間だ。
(大丈夫だ、これまでの危機を乗り越えてきた俺達ならやれる)
 未知への恐怖を押さえつけ、リゲルはまっすぐ十字路へ向かう。覚悟は十分。あとは自分と仲間を信じて立ち向かうしかない。
「花丸ちゃんはいつでもっ」
「ボクも同じく」
「今後のためにも頑張らないとね」
 気合いを入れる仲間たちとともに、一同は十字路の中心で立ち止まった。

「……あ、」
 誰かが呟く。誰もが、だったのかもしれない。
 一同は気づく。気づいてしまう。気づいてしまった。『ここは行き止まりだ』と。
 道は四方に伸びているはずなのに、どこも行き止まりであるようにしか思えない。視覚と脳が矛盾した答えを吐き出す。
「お、おい、そこのあんたら──」
 不意に聞こえたのは一般人の声。新田はそちらを見るが、たまたま通りかかったであろう男性はひゅっと息を飲む。
 瞬間、イレギュラーズの目の前へ巨大な何かが出現した。見上げると同時に四方を今度こそ壁が阻み、男性の姿は見えなくなった。
「成程。この壁は結界の境界ということですか」
 男の声がまるっきり聞こえなくなったことに新田はそう判断を下す。今イレギュラーズたちは結界という特異な空間に連れ込まれたのだ。
(しかし、彼は『見えていた』ようだった)
 顔を引きつらせのは明らかに目の前の化け物を見てだろう。結界ができる直前だったからだと思われるが、そうであるならイレギュラーズは化け物と一緒に消えたと思われているのか。
「来たな」
 マントで包んでいた武器を露わにするリゲル。シャルルもようやくと蔓薔薇を広げ、その身に纏わせる。
「これが夜妖って奴か」
 リゲルの隣に立った『神威の星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は巨大な人を模した化け物を見上げた。夜が魔の蔓延る時間帯であることを考えれば、夜の名を持つにはふさわしい存在だ。
(なら、それを照らし祓うのは星の役目だ)
「シャルルさんはあちらへ」
「わかった」
 新田の言葉に頷き、シャルルは大きく手を振る貴道の方へ駆ける。その後ろではエルが素早く懐から出した小石を撒いていた。
(丁寧に置く暇はありませんが)
 何となく、嫌な予感がしたのだ。この壁がただ『阻むだけ』なのか、と。その疑問はすぐさま花丸が解明する。
「音……? 皆、これ動いてるかもしれませんっ!」
 微かに響く引きずるような音に花丸が背後を振り返る。まだまだ距離は離れているが、それも時間の問題かもしれない。そしてよく見えるのその瞳が壁を映して、大きく見開かれた。
「あれは……人?」
「……まだ僕には見えないけれど、想像通りだったということかな」
 花丸と同じように視線を向けて、ロトはすぐさまヨルへと戻す。まずはこの怪異を倒さねばならない。けれども失踪者のことだって気にかけているのだ。
 彼らはどこへ行ったのか。怪異の体は巨大であれど想定より細身で、寛治の出してくれたリストの人数を腹に収めるようなことは出来なさそうだった。もちろんその腹が見た目通りの体積とは限らないが、不明なものをいつまでも怪しんでいてはキリがない。
 であれば、次はどこを疑うべきか。ロトが怪しんだのは、丁度花丸が見た壁だったのだ。
「助けるためにも! ぶっ飛ばします!」
 誰よりも早く、速く、地を蹴った紅葉。両脇にある塀を使って高く飛び上がり、鋭角からの蹴りは蒼き彗星の如くヨルへ落ちる。その足元へ着地した紅葉はすぐさま後方へ跳躍すると後衛へ下がった。それを追うように下を向いたヨルを激しい光の瞬きが襲う。
「星の魔術師ウィリアム、怪異退治に参戦──ってな」
 魔法陣を煌めかせるウィリアムの隣、リゲルの放つ断罪の斬刃がヨルを挑発する。その巨体から回避は不得手のようだが、思っているより頑丈そうだ。
(早々に決着を着けられるだろうか?)
 前後左右から迫ってくる壁を遠目に見て、リゲルは小さく眉根を寄せる。恐らくはあの壁こそ怪異に囚われるギミックなのだろう。決着がつかなければヨルの粘り勝ち、イレギュラーズも壁に吸い込まれて逝ってしまうのかもしれない。
「消えた人たちは全員壁の中か? まだ生きているのだろうな」
 リゲルの問いかけにヨルは答えを返さない。いや、のっぺらぼうのような顔からして喋らないのかもしれない。それでも何か、一挙一動で伝わるものがありやしないかとリゲルは全神経を集中させる。敵の背後から向かってくるのは自らのリミッターを外した貴道だ。本来ならば後ろから殴るより、真っ向から殴りかかる彼である──が、ここはチームプレイ。これが私闘ではなく依頼故の戦闘である事は理解している。
「攻撃を当てやすくしていきましょう」
「下手な鉄砲も……なんだっけ?」
 数撃ちゃ当たるですね、と寛治が魔弾を放ち、その強靭な体をものともせずヨルを貫かせる。続くシャルルは彼と近い位置から神秘の力を放った。その攻撃が命中するのを視線で追いつつ、寛治は続けて地面へ目を向ける。
(壁に人は埋まっているようですが、地面は至って普通のようですね)
 結界の中、何がどう変わっているかわからない。怪異のトリガーが十字路で立ち止まる──地面に触れていることから、行方不明者が地面に埋まっている可能性も考えていたが外れのようだ。
 しかし外れたから悪いわけではない。当たれど外れど不明点が解消されることに変わりないのだから。
 紅葉と花丸について敵の側面から相対していたロトは、2人へ祝福のささやきを贈る。その間にも気にするのは壁に埋まった人の存在だ。
(気を失っている……?)
 先ほどより近づいていてもまだまだ遠目に見える程度。花丸のような視力を持っていても状態を事細かに把握することは難しいかもしれない。けれども怪異を倒さねばならない今、あちらへ駆け寄るわけにもいかなかった。
(助けられるなら助けたい。出来るなら、生きた状態で)
 それが叶うのかもわからない。そして何よりイレギュラーズが勝たなければ助けに行くことすらできないだろう。そんな状態に似たこともあったようなと交戦しつつ考えていた花丸はようやくピンときたようで、
「あーーっ!?」
 大声を上げて一同の注目を集めた。何でもないと叫べば再びその視線たちはヨルへ向かう。花丸も拳を握りながら、しかし心の中では先ほど気づいたことにテンションが上がっている。
(これってアレだよね? ゲームとかでよくある制限時間内に倒さないといけない奴だっ!)
 倒せなければゲームオーバーになる戦いというのはゲーム内によく登場する。リミットが設けられることでプレイヤーが燃えて盛り上がるからだろう。現実世界ではゲームオーバーなどというものはなく、死かそれに近いものとなるだろうが──速攻で倒してしまえば関係ない。
「倒せば捕まった人たちも助け出せる! 私は絶対諦めないよっ!」
 花丸の拳がヨルの身体へ衝撃を響かせ、次いでエルが簡易封印の術式を放つ。その視線は一瞬後方へ、自らが撒いた小石へと向けられる。まだ大丈夫そうだ。
 その時、一方的にやられてばかりだったヨルが動き出す。ゆらりと揺れた巨人はその腕を思いきり振り回した。
「……っ、皆、無事か!?」
 受け流したリゲルが辺りを見渡す。確実に自身へ注意は向いているが、ヨル自身が器用な性質ではないのだろう。周りをも巻き込んでの攻撃が側面、そして背面から攻撃していた仲間たちにも及んでいた。
 けれども花丸がすぐさま紅葉を庇うために動き、ウィリアムが天へ向かって陣を描き、味方をなるべく範囲に入れて加護を贈る。
「倒れさせやしないさ」
「ああ、頼りにしているよ!」
 その光を見たリゲルは笑みを浮かべて銀剣を握る。仲間の力があるからこそ、リゲルもまた仲間の為に最善を尽くさねばならない。
 エルが執拗にかけた簡易封印によりそこそこ攻勢は削がれているのだろうが、それでもヨルの一撃は重い。周りへ被害を及ぼすのならそれは尚更、ある者はパンドラを燃やし、ある者は後方へ下がりながらも皆で全力の攻撃をぶつけていく。
「そろそろ壁が……気を付けてください!」
 エルが飲み込まれていった小石との距離に声を上げる。けれどもあともう少し、頑張れば間に合う。ロトは最期の力を振り絞って花丸を支援し、それへ応えるように花丸は肉薄する。
「君が奪ったモノ、全部マルっと返してもらうよ?」
 もう奪わせなどしない。奪われたものは取り返して──守ってみせる。そんな確固たる意志と共に拳が巨体へめり込む。
「雪だるまさん、もう少し……力を貸してください!」
 エルの呼び出した雪だるまが攻撃を仕掛け、それを追随するように寛治とシャルルの攻撃が放たれた。
「あと一息」
「間に合うといい……いや、間に合わせる」
 2人は視線を交わして頷き。ヨルが最後まで足掻き続けるのだと言うように腕を振り回すも、仲間を後押しするようにウィリアムの放つ光が味方を癒していった。
「貴道さん!」
 抜き身の斬刃を放ったリゲルがすかさず叫ぶ。ヨルを挟み込む形で戦う彼の声は、貴道に良く聞こえて。
「HAHAHA! これで終わりだ!!」
 貴道の良く響く声量と共に、魔槍の如き鋭い拳圧がヨルへ迫りくる。自らの身をも顧みぬその攻撃は、ヨルの身体を突き破ったのだった。



 倒れゆく怪異を睨みつけながら、イレギュラーズたちは警戒を解かない。
(怪物を倒して終わり、で本当に終わりなら良いけど)
 ロトは尚も怪物を睨みつける。再び動き出さないか、与えた傷が回復し始めないか、と。
 もしもこの怪物が本体でなかった場合──分体としていくらでも再生する、あるいは発生する場合、イレギュラーズたちはこいつの相手ではなく本体探しをしなければならない。かなり壁も迫ってきた状態で間に合うのかはわからないが、まずは今後の展開を伺うしかないだろう。
 起き上がらない怪異、進み続ける壁。まさかこの壁を壊さないと出られないのか、と視線がそちらさ集中した瞬間、小さくひび割れる音が響いた。
 音の出所を探す間にもその音は大きくなり、やがて目に見える形で現れる。四方の壁に走ったそれは亀裂を深め、次の瞬間粉々に砕け散った。
「結界が解けたようですね」
「閉じ込められていた人たちは……」
 空の色が正常な時の流れを感じさせる。空を見上げた寛治に続き、顔を上げたリゲルは倒れ伏している人々に声を上げた。
 一同が何人かの体を起こし、その状態を確かめる。いずれも外傷はなく、ただ気を失っているようにも見えた。
「救急車を呼びましょう。その間にこちらのリストと照合をお願いします」
 しかし油断は禁物と寛治はaPhoneを手にする。連絡すれば間も無くやってくるはずだ。その間に『怪異に関わった者』であるか照らし合わせなければ、以降チャンスはなくなるだろう。
 救急車を待つ間、エルはくるりと今しがた立っていた場所で周囲を見渡す。戦闘前にいた男は逃げてしまったのか、もう姿はない。そして交わるその中心に立とうとも、怪異を倒した今は何も起こらない。
(どうして道が交わると不思議なことが起こるのでしょうか?)
 どうせ起きるなら怖い不思議ではなくて、楽しい不思議だったら良いのに。エルはそう思いつつ、交差点を外れて仲間の方へ向かった。

 のちにニュースでは何らかの事件として報道されることになる。大量に見つかった行方不明者は誰も何も覚えておらず、『交差点で気を失い、気づけば病院にいた』と話していると。
 しかし怪異を許容しない社会にいる以上、その『事件』の迷宮入りは想像に難くないことであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ!
 本日も再現性東京は偽りの安寧を享受しています。怪異など存在しなかった。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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