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シナリオ詳細

フィジカルバースト。或いは、獅子奮迅の女騎士…

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●不幸の星の下に生まれて
 彼女は生まれついて不運であった。
 道を歩けば石に躓き、部屋に籠もれば火事に遭い、あげく故郷は戦火に焼けた。
 行く先々で不幸に見舞われ、時には大きな怪我を負い、やがて彼女は思い至った。
 どこへ行っても不幸に見舞われるのならば、自分はその不幸を全て踏破してみせようと。

 外跳ねの癖がついた金の髪。
 意志の強そうな太い眉に、鋭く細められた琥珀の瞳。
 女性としては高い身長。鍛え抜かれた肉体を白金色の鎧に包む。
 腰に下げたメイスと背におう巨大な十字の盾が彼女の武器だ。
 故郷が滅んでから早10年。
 彼女……リーオ=ワイルド=サバンナハートは放浪の騎士となっていた。
 
 あまねく不幸を打ち砕く。
 それが彼女の目的であった。
 ある村を襲う盗賊団をたった1人で壊滅させたこともある。
 街道を塞ぐ怪物相手に死闘を繰り広げたこともある。
 炎に包まれた民家から、子どもを救ったこともある。
 そのたびに大怪我を負い、何度も死の淵を彷徨い、けれど彼女は生き延びた。
 そして、今……。
「うん、癒えた!」
 血塗れの包帯を引き千切り、リーオはベッドから降りる。
 リーオの腹部には深い裂傷。縫い合わされてはいるものの、じわりと血が滲んでいる。
 リーオは鎧を身につけると、しっかりとした足取りで部屋を出た。
 そこは鉄帝国の小さな村。
 活気に乏しく、視界に映る家々はどれも粗末なものばかり。
 空いていた一軒をリーオが借り受けたのは一週間前のことだったろうか。
 一週間の間で彼女が大怪我を負った回数は3回。
 1度など、危うく死ぬ寸前だったという。
「待っていろよ、黒獅子め。今日こそ引導をわたしてやろう」
 獣の如き笑みを浮かべ、彼女は今日も荒地へ向かう。
 黒獅子。
 それは、つい数ヵ月前から荒地に住まう巨大な獅子の名であった。
 黒獅子は周辺の獣を食い荒らし、今では村人さえもを餌とする。
 一週間前にリーオが村を訪れていなければ、今頃この村は滅んでいたことだろう。
 黒獅子が居る限り、村人たちは狩りにも農作業にも出られない。
 おかげで、誰も彼も……子どもでさえ、骨と皮ばかりという有様だった。
「何度打ち倒されようと、最後には必ず私が勝つぞ!」
 勝つまで戦えば、絶対に負けることはない。
 不幸でさえも、悲劇でさえも、いずれ打ち砕けるはずと。
 数多の不幸を目にした彼女はそう告げる。

●凶星粉砕
「とまぁ、この手紙にはそんなことが書かれてる」
 そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)は薄汚れた紙束を揺らしてみせた。
 鉄帝国のとある街に住む若者が、川で拾ったものらしい。
 ガラス瓶に収められていたそうで、おそらく村の誰かが一縷の望みをかけて流したのであろう。
 瓶に詰めた手紙を、どこかの誰かが拾ってくれることを信じて。
「リーオを止めてくれ……だそうだ。このままだと、彼女が死んでしまうから」
 毎日のように朝から晩まで黒獅子と戦い、その度に大きな傷を負う。
 リーオが黒獅子と戦っている間は、村が襲われることはないのだという。
「見ず知らずの他人のために命を賭けて戦う騎士を、どうかどなたか救って欲しい」
 ショウは手紙に書かれた最後の一文を読み上げる。
 村人からの依頼は「リーオを救うこと」
 自分たちを苦しめる「黒獅子の討伐」ではない。
 村人たちはリーオに感謝しているのだ。
 そして、そんな優しい騎士が自分たちのために傷つき、死ぬところを見たくはないのだ。
「かといって、俺にはこのリーオって女がそう簡単に止まる性質には思えない」
 村の安全が確認されるまで、リーオは何度だって立ち上がり、戦いの場へ赴くだろうことが予想される。
 村人からの依頼を達成するためには、ついでに黒獅子も打ち倒す必要があるだろう。
「問題はリーオのフィジカルか……あっさりと気絶してくれるんなら楽なんだがね」
 厄介だ、とショウは呟く。
「十字架型の盾とメイスによる攻撃には【飛】の効果が付与されている。だが、問題はそのフィジカルだな」
 リーオに戦意か或いは命がある限り、彼女が歩みを止めることはない。
 たとえ戦闘を継続することが出来なくなっても、リーオは黒獅子のもとへ向かうだろう。
「それと、黒獅子だが【火炎】や【出血】を伴う攻撃を行う。獣ゆえの俊敏さと、巨体に起因する破壊力には目を見張るものがあるな」
 黒獅子は、村から1キロほど離れた位置にある荒地を拠点としているようだ。
 村と荒地の間には、ごく小規模な森があった。
「ターゲットは黒獅子とリーオということになるか。やり方は任せるが、リーオを死なせることがないようにな」
 と、そう言って。
 ショウはイレギュラーズを送り出す。

GMコメント

●ターゲット
・リーオ=ワイルド=サバンナハート
白金色の鎧を纏った放浪の騎士。
メイスと十字架型の盾を武器とする。
生来運が悪く、行く先々で散々な目に逢ってきた。
そんな運命を回避することは不可能だ、と判断した彼女はそうした不運を打ち壊しつつ前へ進むことに決めた。

フィジカルバースト:物至単に大ダメージ、飛
十字架型の盾、あるいはメイスによる渾身の一撃。


・黒獅子×1
体長5メートルを超える黒いライオン。
雄々しいたてがみをはやしているため、頭部や首への攻撃はダメージが通り辛い。
また、爪に火炎を宿す能力を持つようだ。

業火爪:物近貫に中ダメージ、火炎、出血
火炎を纏った爪による飛ぶ斬撃。



●場所
村から荒地までの間の森。
或いは、荒地。
森の中は木々が生い茂っており、視界が悪い。
荒地には障害物となるものがほぼない。所々に大岩が転がっている程度だ。
現在、リーオは森の中を進んでいる。

  • フィジカルバースト。或いは、獅子奮迅の女騎士…完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
海淵の騎士
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
銀城 黒羽(p3p000505)
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
三國・誠司(p3p008563)
一般人

リプレイ

●勇往邁進
 外跳ねの癖がついた金の髪。
 意志の強そうな太い眉に、鋭く細められた琥珀の瞳。
 女性としては高い身長。鍛え抜かれた肉体を白金色の鎧に包む。
 腰にメイスを、背には巨大な十字の盾を携えて、彼女は森の中を進む。
 彼女の名はリーオ=ワイルド=サバンナハート。あまねく不幸を打ち砕くことを胸に誓った、放浪の女騎士である。
「む……誰だ、貴方たちは?」
 そんなリーオの眼前に、数名の男女が現れた。一瞬、野盗の類かと腰のメイスに手を伸ばしたリーオだが、彼ら彼女らの佇まいを見て止めた。
 装いも年齢も様々ではあるが、その身なりからして野盗のようには思えなかったというのが理由だ。
「すまない。武器に手を伸ばしかけたことを謝罪しよう。生来、運が悪くてな。およそ森で出会う相手など、飢えた獣か野盗の類ばかりなもので……あぁ、名乗り遅れた」
 姿勢を正し、リーオは自身の名を告げる。
 それから彼女は困ったような顔をして、傷だらけの頬を指で擦った。
「貴方たちが何者かは知らないけれど、ここを立ち去った方がいい。この森を抜けた先には飢えた黒獅子が住んでいるんだ。そうだな……今日の日暮れまでに、私がやつを討ち取って安全を確保してみせるから、森に入るならその後がいい」
 それではな、と。
 言いたいことだけ言い残し、先へ進もうとするリーオだが……。
「絶望に抗う事を信念とするこの身に通ずる物もある……故に放ってはおけぬな」
その腕を掴み『戦神凱歌』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)はそう告げた。強い意志の籠った瞳。金の髪が風に揺らいだ。

 青い空に響き渡るは獣の咆哮。
 目を覚ました黒獅子が、空に向かって吠えたのだ。その雄叫びを耳にして、リーオはベルフラウの手を振りほどく。
「聞いたか? 飢えた獅子が目を覚ました。貴方たちの気持ちは嬉しいが私1人で行かせてほしい」
 あくまでリーオは、たった1人で黒獅子を相手にするつもりらしい。それは、不運の星のもとに生まれた彼女の決めたルールであった。彼女の行く先々では不幸が起きる。
 それに他者を巻き込まないよう、彼女は1人で戦うことに決めているのだ。
ベルフラウを押しのけて、立ち去っていくその背中に『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)が言葉を投げる。
「黒獅子は、もともと貴方の不運ではなかったでしょう? あれはもともと、村人に訪れた不運でした。その村人が今恐れているのは、黒獅子ではなく貴方の死ですよ?」
「なんだ。村の者から頼まれたのか? なら、帰って伝えてくれ。私なら平気だと」
 瑠璃の言葉もリーオの耳には届かない。
困ったような顔をして『Ende-r-Kindheit』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は、そっと小さなため息を零す。
「不幸を踏破する。その考えは賛成だけれど、1人っきりで進める距離なんて、たかが知れてるよ」
「あぁ、一見タフネスにみえるけど……その行きつく先は悲しい結末じゃないかな」
ミルヴィの呟きに賛同したのは『砲使い』三國・誠司(p3p008563)だ。黒獅子の待つ荒地へ向かうリーオの背に視線を送り、彼は自身の得物を担ぐ。
「とにもかくにも、ケリつけますか!」
 
 血走った瞳に、剥き出しの牙。口の端から唾液が零れる。
 数日もの間、食事を取れていないがゆえに黒獅子の苛立ちは既に限界を迎えていた。
 そして今日も奴は来た……黒獅子の前に、1人の騎士が姿を顕す。
 
 地面を蹴って、黒獅子は跳んだ。鋭い爪に太陽の光が反射する。
 駆ける勢いのまま、一閃。
 十字の盾を構えたリーオは、衝撃に備え歯を食いしばる。
 けれど、しかし……。
「これを相手に一週間か……よく折れねぇもんだ」
輝く鎧を身に纏い、銀城 黒羽(p3p000505)がリーオを庇う。顏の前で両の腕を交差して、鋭い爪を受け止めた。
 衝撃が黒羽の身を貫く。
ギシ、と骨の軋む音。
 一瞬、黒獅子は驚いたように動きを止める。けれど、すぐに黒獅子は理解した。一週間もの間、自身の食事を邪魔した人間……最悪なことに、今日は1人ではないらしい。

 振り抜かれた太い前肢が黒羽の身体を後ろへ弾く。
「おい、来るなと言っただろう!」
慌てたように叫ぶリーオのその隣。剣を構えた『放浪の騎士』フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)が並び立つ。
「貴方は心身ともに精強な騎士であられるようだ。散らすには、あまりにも惜しい……この身を賭して、お護りするとしよう」
「だからっ! 危険だから下がっていろと言っている!」
 黒獅子の追撃に備え、リーオはフェルディンの胸を押す。少しでも彼を黒獅子の爪から遠ざけるためだ。
 唾を飛ばして怒鳴りつけるリーオを見やり、フェルディンは薄く笑みを浮かべる。彼女の優しさと、そして強さに触れたからだ。
 リーオとともに黒獅子を討伐したい。そう思ったのはフェルディンだけではないようで……。
「運が悪かったと思って諦めて共に戦っていただきます! それでは突撃!!」
「苦難も手を取れば半分に、歓びは倍になると言います、お手伝いさせてくれませんか?」
「なっ……!? おいっ!」
2つの影がリーオの左右を駆け抜ける。
それは『何事も一歩から』日車・迅(p3p007500)と『魅惑のダンサー』津久見・弥恵(p3p005208)。それぞれがリーオに声をかけ、笑みを浮かべて黒獅子の元へと突っ込んでいく。
 
●力戦奮闘
 黒羽の身体から伸びた鎖……それは、彼が闘気で編み出したものだ……が、黒獅子の首に枷となって巻き付いた。
「おい、それは何だ」
 枷の存在に気付いたリーオが、表情を強張らせ問いかける。黒獅子の怒りの矛先が、自分ではなく黒羽に向いていることに気付いたのだ。
 黒羽は肩を竦めて笑みを零した。
「アンタがどうしようが俺には関係ないし、俺がどうしようとアンタには関係ないし、とやかく言う資格もないはずだ」
「それは……」
 譲らない、という点だけに焦点を当てるのであれば黒羽もリーオも似た者同士。関係ない、と言われてしまえばリーオには言い返す言葉もないのだ。
 彼女とて他者の不幸を見かければ、頼まれてもいないのに介入するのだから。
 そんな彼女の在り方は、黒羽の目には盲目的……不幸を打破することに囚われて自分の幸せが見えていないようにも見えていた。
「俺は村人たちの依頼を受けたんだ。『あまねく不幸を打ち砕く』はずのアンタが自分を頼ってくれている、慕ってくれている奴を不幸にするなんて笑えるからな」
 そんな黒羽の言葉を聞いて、リーオは歯を食いしばる。メイスを手に、彼女は黒羽の前にでた。「勝手にせよ!」と、そう告げて。

 静かに。
 けれど、時に激しく。
 踏むステップに合わせ、流麗に跳ねる黒い髪。その身に纏う衣はまるで薔薇のよう。
 時に炎が、時に氷が、或いは闇が舞い散った。果たしてそれは幻想だろうか? 否、弥恵の踊りは、たしかにそれらをこの世界に顕現せしめる。
 身を襲う異変に唸る黒獅子を一瞥し、弥恵は汗を散らして笑んだ。
 するり、と彼女はリーオの傍へと歩み寄り、その耳元へと言葉を落とす。
「困難に立ち向かう事を止めはしませんが、無謀な戦いをする必要は無いはずです」
 リーオは、自身よりも体躯に優れる獅子を相手に、真正面から立ち向かっていた。それが悪いとは言わないが、たとえば共に戦ってくれる仲間がいるのであるならば、頼ることも悪くないのだ、と弥恵は言外にそう告げる。
 
 黒獅子の視線が黒羽へ向いている隙に、迅は加速しその足元へと潜り込む。速度を乗せて振るった拳が、黒獅子の爪をその半ばほどでへし折った。
 爪が砕けた痛みに吠える黒獅子は、そこで初めて迅の接近を察知する。牙を剥いて食らいつこうとする牙を、迅は素早いステップで回避。牙が掠めた迅の背から朱が飛沫く。
 迅は背に走る痛みを堪え、さらに数歩前へと進んだ。握った拳に鈍痛が走る。肉体の限界を超えて攻撃を放つ関係上、戦うほどに彼の身体は傷ついていく。 
「打たれ弱い身ですが、リーオ殿がトドメを刺す姿を見られるよう頑張りますね!」
 けれど、彼は痛みを堪え笑って見せた。
 思い描く理想の未来へ至るため、覚悟を決めた男の笑みだ。
 とはいえ、しかし……。
 目の前で傷つく他人の姿を、リーオは看過することができない。

 迅を地面に薙ぎ倒し、黒獅子は一気に加速する。鋭い爪の向かう先には黒羽の姿。
 そんな黒羽を庇うべく、リーオは十字の盾を構えて前にでた。
「逃げろと言っているのだ! 私の近くにいると、貴方たちも不幸に巻き込まれることになる! 最悪死ぬぞ!」
「うむ。まったくもって不運よな! 卿1人が抱え続けて来た不幸、今この場所だけでも共に抱えよう!」
「違う! そうじゃない!」
 盾を構えるリーオに並ぶベルフラウ。リーオの怒鳴り声など聞こえていないかのように、満足そうな笑みを浮かべて彼女に向けて手を翳した。
 リーオの身を光が覆う。
 自身は短槍を手に、リーオと共に黒獅子の突進を受け止めた。

 黒獅子の爪に火炎が灯る。叩きつけられたその一撃は、周囲に熱波を撒き散らす。けれど、火炎はリーオの身体を焼く直前で、光の鎧に弾かれた。
 火炎の効果が薄いとみて、黒獅子はがむしゃらに爪を振るい続ける。その度に熱波が散って、地面が揺れた。リーオは盾で、ベルフラウは槍でその攻撃を捌き続ける。
 頬が裂かれ、内臓や筋肉、骨が軋んだ悲鳴をあげる。
 黒羽も防御に加わるが、黒獅子の巨体から繰り出される攻撃は流石に重い。
「今回は優秀な盾役が多くいる……リーオ卿の援護は皆に任せ、ボクは全力で剣を振るおう!」
「アタシは他人の為に1人で戦おうとするアンタを否定しない! だけど、アンタを放っても置けない! だから、一緒に戦おう!」
 黒獅子の右側面からはフェルディンが、左側面からはミルヴィが、得物を手にして斬り込んだ。
 黒獅子が攻撃を放った瞬間に、フェルディンはその胴へ向け刀を振り抜く。鋭い一閃が黒獅子の胴を深く抉った。
 姿勢を崩した黒獅子の前肢の付け根へ、フェルディンは刺突を放つ。噴き出した血が、白銀の鎧を朱に染めた。
「さあ……アタシの沢山の剣……嵐となって舞い踊れっ!」
 瞳を見開きミルヴィはそう囁いた。
 直後、展開される無数の剣と嵐の幻影。それと同時に、ミルヴィ自身も曲刀を振るう。
黒獅子は素早く地面を蹴って後退し、鋭い視線をフェルディンへ向けた。
 そんな黒獅子の眼前で、蒼い火炎の砲弾が爆ぜる。
 それは誠司の放ったものだ。
「よし、命中。どうかな?  この世界はあんたが思ってるよりも案外独りじゃないし、ラッキーも落ちてるもんだよ」
 次弾を装填しながら、誠司はそう呟いた。
 姿勢を崩した黒獅子は、苦し気にその場に蹲る。
 頭を振って鬣を焼く炎を振り払う黒獅子。
 直後、その右目から血が溢れた。
「さあお膳立ては十分、とどめはお任せしましたよ」
 後方に控えた瑠璃が告げる。
 顔に手を添えた彼女の瞳が、妖しく不気味に光って見えた。その瞳を通じて送り込まれた悪意の波動が、黒獅子の瞳を潰したのだ。
 いかに頑丈な身体を持ち、刃を阻む鬣を蓄えていようとも、眼球だけは鍛えようがないのだから。
 黒獅子の視線が自身を捉えるより先に、瑠璃は素早くその場を移動。狙いをつけられないためのアクションだ。
 戦場を駆ける瑠璃の視線は、ベルフラウへと向いていた。
 黒獅子の瞳は潰した。
 次に彼女が取るべきは、決戦に向け仲間の傷を癒すことだ。

●威風堂々
 炎を纏った剛爪が、乾いた大地を深く抉った。飛び散る土砂を避けながら、迅は黒獅子の懐へと潜り込む。
 迅の接近に気付いた黒獅子は、牙を剥いて食らいつく。地面を蹴って、迅は自ら黒獅子の口腔へ向けて跳びかかった。
 鋭い牙の中央へ向け、握った拳を叩きつける。
 それは、防御を捨てた渾身の一撃。
「ぉおっ!!」
 硬質な音が鳴り響く。黒獅子の牙がへし折れ、迅の身体は地面に叩きつけられた。痛みに吠えながらも、黒獅子は迅へ向けて爪を振るう。
 回避は間に合わない。防御に回せる余力もない。
「だから退けと言ったのだ!」
 迅を庇いに駆けるリーオ。その後には、朱の旗を掲げたベルフラウが続く。
 ベルフラウによるバフを受け、強化されたリーオの状態はまさにベストコンディション。不意打ち気味に振られたメイスが、黒獅子の鼻先を打ち据える。
 よろけた黒獅子の視界に、瑠璃の姿が映った。口元に浮く酷薄な笑みと、妖しく光る瞳の色。それが黒獅子の見た最後の光景。
 直後、左の眼に激痛が走り黒獅子は空へ向けて咆哮をあげた。否、それは悲鳴であっただろうか。瑠璃の放った【ファントムチェイサー】によって黒獅子は両の瞳を潰された。
 その隙を突き、リーオはメイスを振りかぶるが……。
「今少し待つがいい」
 それを止めたのはベルフラウだ。
 直後、黒獅子が振り回す右前肢の付け根で業火が弾けた。
 誠司による援護射撃が、黒獅子の武器を1つ奪い取る。
「もう少し周囲からもたらされる、ラッキーにも目を向けていいんじゃない?」
 爪を折られ、歯を折られ、けれどまだまだ戦意は折れない。否、怒りと空腹で既に冷静さを失っているのだろう。
 姿勢を崩した黒獅子は、状態を地面に寝かせるようにして残る左の腕を振るった。振るわれた爪の真下を掻い潜り、弥恵が黒獅子へと迫る。
「困難に打ち勝つ姿を誇るよりも貴女が守った村人こそを誇ってください」
「アナタは他人と手を取り合うのは弱さだと思っているのかもしんないケド……他人の手を取れないってのはもっと弱いのサ」
 リーオの目的を叶えるために、指し伸ばされた助けの手。リーオはそれを拒むけれど、それは彼女の〝優しさ〟によるものだ。自分に関わると不幸になるという諦めが、リーオに孤高の道を選ばせた。
ならば、しかし。
彼女が助けの手を取らないのなら、強引にその手を掴めばいいと。
 ミルヴィの展開した幻影の剣が、弥恵の周囲に舞い散る薔薇が、黒獅子の体力を削っていく。最後の力を振り絞り、黒獅子は左の腕を掲げた。
 黒獅子の手に火炎が宿る。黒獅子の最後の攻撃が、まっすぐリーオに向けられたのは獣の勘によるものか。長い間、自身を苦しめた女騎士をせめて道連れにしたかったのかもしれない。

 振り下ろされた火炎の爪は、けれどリーオに届かない。
 ベルフラウの掲げた槍が、黒羽の交差させた腕が、その一撃を受け止めたのだ。
 2人の背後で、地面に倒れた姿勢のままリーオは瞳を見開いている。真正面から黒獅子の爪を打ち砕くべく駆け出したリーオを、ベルフラウが地面に引き倒したのだ。
 黒獅子の爪に罅が走った。ベルフラウが自身に付与した【聖躰降臨】による反射ダメージによるものだ。
「さぁ、トドメを刺しに行こう。道はボクが切り開くよ。幸い、防技にはそれなりの自信があるからね」
 倒れたリーオに、フェルディンの手が差し伸べられる。
「まぁ、決めるのはアンタだ。好きにしな」
 黒獅子の爪を両の腕で抑え込み、黒羽は告げた。
 一瞬の躊躇の後、リーオは自力で立ち上がる。差し伸べられたフェルディンの手を払い退け、黒獅子へと視線を向ける。
「終わらせるぞ! 奴の口を開かせるな!」
 フェルディンにそう言葉を投げて、リーオは地面を蹴って跳ぶ。
 フェルディンもまた、黒羽の抑えた前肢を辿り黒獅子の頭部へと駆け寄っていく。
 大上段に掲げた刀を、渾身の力を込めてその鼻先へと叩き込む。鼻から口元にかけて刻まれる深い裂傷。
 衝撃で、黒獅子の顎が地面に打ち付けられた。
 地面が揺れる。
 リーオが吠える。
 落下の勢いを乗せて叩き込まれた一撃が、黒獅子の眉間を砕き割る。

 額から零れるおびただしい量の鮮血。
 息絶えた黒獅子を見つめながら、リーオは荒い息を吐く。
 視線をイレギュラーズたちへ向け、口を開くが言葉は出ない。感謝の言葉か、それとも文句のひとつでも言うべきか。
 ベルフラウはそんなリーオに笑いかけ、満足そうに言葉を告げる。
「確かに生きていれば不幸もあろう、悲劇もあろう。だが、それを一人で受ける事はない。我々『人』は個であり、群である! それが人の営みなれば、私は卿の友である!!」
 乾いた空に響くほどの大音声。
 一瞬の間、ぽかんとした顔をしていたリーオだが、やがて小さく口元に笑みを浮かべた。
「たしかに、貴方たちのような人となら、共に戦うのも悪くない。もしも、今後私と同じ思いを抱き、同じ方向も向いて歩けるのなら、その時は……」
 仲間を得るのもいいかもしれない、と。
 握手の手を差し出しながら、リーオはそう告げたのだった。

成否

成功

MVP

ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
無事にリーオと共に黒獅子の討伐を終えましたした。
依頼は成功です。

皆さまの言葉は、リーオの生き方に多少の変化を与えられたと思います。
この度はご参加ありがとうございました。
また機会があれば、別の依頼でお会いしましょう。

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