シナリオ詳細
再現性東京2010:いないいないばあ
オープニング
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グラウンドは整備され、静けさを漂わせている。夏期休暇に入れば教室の喧噪は消え去り、学校に訪れるのも部活動の生徒か夏期講習や補習の為の者ばかりであろう。
その夜――ともなれば、こんな場所に好き好んで訪れる者は居ないだろう。
人気のない廊下をずんずんと進む。窓の外に見える校庭には人っ子一人居ない。冴えた夏の月だけが此方を覗いているだけだ。肝試しなんて時代錯誤な事をする自分はこの空間では異質なものとして取り残されている感覚さえ感じる。
aPhoneの履歴を見返した立花・昭吾は小さく笑った。メッセージアプリには応援メッセージ今日の段取りについての文字列が並んでいる。
この一週間、部活動は何処も合宿で出払っている。その頃合いを見計らって夜中3時に学校に1日1人ずつ忍び込むのだ。裏門から入り込み、補習の時にこっそりと開けておいた一階の理科室の窓から中へと入る。その後は校舎内至る所にこっそりと設置したチェックポイントをぐるっと巡ってから最後、屋上前に設置した空の水筒に黒い髪ゴムを通してくる。それが肝試しだ。
こんなことをしようとなったのも退屈が祟ったからに他ならない。新作映画を見に行くことは他の再現性東京<アデプト・トーキョー>に観光することも考えたが慣れない内の外出はちょっと、と両親が止めた事で夏の予定がからっきしになった。平坦な日常に飽き飽きしていたのかも知れない。
昭吾は三階の階段を上る。次のチェックポイントは図書室前だ。その次は家庭科室を通ってから最後、屋上に続く階段を上れば良い。
こう言う時、aPhoneがあれば怖さも半減する。慣れた校舎内を歩きながら昭吾は「全然怖くねーわ」と送った。
> ケータイ見てるからだよ。
> ホントは怖いくせに!
送られてくるメッセージを見てからくつくつと笑う。そこまで言うならとポケットの中にaPhoneを滑り込ませてから昭吾は図書室前のチェックポイントに輪ゴムを引っかけた。
手首につけた髪ゴムを最後は屋上の水筒に引っかければ良いだけだ。ゆっくりと立ち上がったとき、上からだらりと何かが垂れていることに気付いた。後頭部と肩に何かが触れている。
「は――」
誰かがこっそり後をつけてきたのか。仲間達のやりそうなことだ。
「おいおい、そんな」
ゆっくりと振り返った昭吾の耳に直に囁くような声が降る。
いないいない―――
振り向いたとき、昭吾は息を飲んだ。ひゅ、と音を立てた喉奥からは今にも声が飛び出しそうになったのを飲み込んで。
――ばあ。
●
立花・昭吾という少年が学校での肝試し中にいなくなった、という噂はaPhoneを通して様々な場所に広がっていた。それは学園では一応『普通の可愛い女子校生』を気取っている音呂気・ひよのにも、だ。
「と言うわけで、夜妖<ヨル>です」
その言葉に奥から嘆息が聞こえる。よくよく見ればカウンターの向こう側で『掃除屋』がグラスを布巾で磨いている。カフェ・ローレットは何時ものように『二面性』を宿して客の来店を待っているようだ。
「夏というのは怪異に盛り上がる季節ですからね。積極的にこなしましょう。
さて、此度は『肝試し』に向かった少年が夜妖<ヨル>に攫われた――と言う事件のようです。うーん、実にありきたり」
饒舌なひよのはそう言った。曰く、立花・昭吾は肝試しの途中にその姿を消したのは確かである。それは同じグループの少年達が肝試しのルールを証言したからだそうだ。三階――ゴールの一歩手前の図書館前――に彼が通った痕跡が残されている。そこで怖じ気づいて帰ったのではないかという意見も合ったが残念ながらメッセージは既読にならないままだ。
「生きてると思う?」
「ええ。生きてるでしょうね。話を聞くにこの夜妖<ヨル>はまだまだ初級から中級程度でしょう」
どうしてそんなことが分かるのか――
「勘です」
プロフェッショナルですから、とにっこりと微笑んだひよのはそれ以上は言わない。
情を集めてきたという彼女はアイスティーをストローで吸い込んでから「では簡単にオーダーを説明します」と告げた。
「今回の夜妖<ヨル>、名前を『いないいないばあ』としましょう。
どうやら彼女は自分の顔を見たものを攫う怪異のようですね。殺さないだけマシでしょうか。
長い黒髪を持ち天井に張り付いています。その四肢はおかしな方向に曲がっているようですがさしたる者では――まあ、ちょっと外見がセンシティブなだけですね」
そう告げたひよのは「ソレでは皆さんにお任せします」と微笑んだ。夜妖<ヨル>は未だ不思議な存在も多い。
日常の隙間に現れたソレを至急倒さねばならないのだ――
- 再現性東京2010:いないいないばあ完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年08月23日 22時16分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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非常灯だけがぼんやりと緑色の光を放っている。まるで踊るような足取りで『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は楽しげに暗がりの校舎を歩む。まるで日中、学生がそうするように楽しげな茄子子は「はあ」とたっぷりの喜色を滲ませる息を吐き出した。
「肝試し、いいなぁ!ㅤ青春って感じがする!
ㅤ会長もやりたいからヨルとかいう迷惑な連中は即刻退治しないとね!」
「心霊スポットではないのだけれど。学校っていうのは、本当に怪異の話に事欠かない場所だわね……」
人一人も存在しない昏い廊下には月明りが差し込んでいる。楽しげな茄子子とは対照的に『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は重いため息を吐き出した。
(夜の学校……いつまでも嫉妬に沈んで暗くなっている私には、お似合いの場所なのだわぁ……)
苛立ちは未だ拭えず、大海に存在した不安の様に淀んでいる。そうした『心』の隙間に差し込むようにその存在を誇張するのが夜妖なのだろうかと、現代社会の闇に紛れるそれらを思えば不安げに周囲を見回す『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)がぎゅうとaPhoneを握りしめる。
「……真っ暗、ですね……」
昼間は学生達の騒がしい声が響くその場所も夜になれば姿を変える。希望ヶ浜では学生としての日々を謳歌することが出来るという情報より様々な学びを得られるのだろうと期待してた『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)にとって夜の学舎に蠢く闇はどうにも邪魔な存在だ。
「色んな物を学べる場所だって言うから、依頼以外で寄るのも楽しみにしてたんだが、奇っ怪な化け物が集まる場所なのか……?」
設備整った学園を喪いたくはない。それ以上に犠牲者が出たという曰く付きになるのも困ると溜息つくアオイに化け物、と唇に音乗せて『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は「はあ」とげんなりとした雰囲気で溜息を吐き出した。吐く息は三者三様、うっとりと楽しげな茄子子にどんよりとした華蓮――それから困惑を乗せたウィズィ。
「はー、私ホラーって苦手なんですよねぇ……。
特にこう、人間の体が捩じくれ曲がってるようなのって、うええ……って……」
それは霊障を畏れる訳ではないのだろう。只、簡単に言えば――そう、人体には有り得ないグロテスクな外見をした『存在』が意気揚々と凄惨なその身を見せつけてくる何とも言えない気色の悪さが苦手なのだ。
「気持ち悪いかね?」と緒形(p3p008043)は問いかけた。怪異と称せば自身も同類であると彼は云う。
「話を聞けば可愛い子じゃないか。綺麗な黒髪で、ちょっと手足の向きとか違うくらいさな」
「それがダメなんですよ……」
がくりと肩を落としたウィズィに緒形はからからと笑った。「なら殺してしまおうか」とさらりと告げた緒形は同類であろうがそうでなかろうが倒すべきは倒すという割り切りがはっきりとしていたのだろう。
「……いないいないばあって……元々小さな子を笑わせるもの……のはずだよね……。
……それが生徒に襲い掛かるって……目的から逸脱してるような……」
悩ましげにそう呟く『青混じる氷狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)に『戦気昂揚』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)も「そうだな。子供をあやすときにやるんだろ?」と頬を掻いた。
「それで相手の行動を阻害なんぞさせちまったら喜んでくれる奴がいなくなっちまうだろうが。
怖がらせるのが目的なら井戸の底から出てくるとか、そういった感じの演出をお勧めしておこう」
「……井戸の底……?」
フェリシアが首を傾げればエイヴァンは「そっちの方が恐ろしいだろう」とジョークを交えた。
「……向こうは笑わせようとしてるだけ……とか……襲おうと思って……動いてるわけじゃない……とか……?
……んー……そこまでの邪推は不要か……倒せばこの学園を脅かす者が減るんだ……」
グレイルの言葉にエイヴァンは頷いた。そうだ、倒せば良い――どうしてその怪異が生まれたのかは考えても栓もない。華蓮がぼんやりと考えたように『心の隙間』より其処に存在すると考え願えば現れる異形なのだ。
「さ、行ってくるか」とエイヴァンは呟いた。向かうは図書室。怪異を丁重に『もてなす』準備だ。
●
背を向け一人、俯いた。三階の廊下はしん、と静まり夜の冷たい空気が頬を撫でるエイヴァンは肝試しを行う少年のように身を丸め、夜妖の出現を待ち続ける。
背筋に僅か何かの気配が走る。獣としての感覚がエイヴァンに嫌というほどにその出現を知らせていた。
いないいない―――
声が聞こえる。顔を上げたウィズィは夜妖の出現をその耳で感知して直ぐに立ち上がった。然し、焦る必要はない。何故ならば、囮役を担ったエイヴァンは。
――ばあ。
「よお」
夜妖による『いないいないばあ』など畏れる事もしないからである。aPhoneの通話音声を確認し緒形は直ぐ様にその身を躍らせた。エイヴァンのみを狙った夜妖の隙を突くように特異運命座標達は踊り出す。
「ほら、可愛い子じゃないか。清楚な黒髪に恥ずかしがり屋で顔を隠している。
ちょっと手足の向きが違うさな、それ位しか変わりがなさそうだ」
「うーん、それでも結構変わりそうですけどね! 少なくとも四肢の向き的には会長の方がきゅーとです」
茄子子は真っ直ぐに『夜妖いないいないばぁ』をその双眸に捉えた。予備動作を有する夜妖を観察しながら仲間の支援を行うことこそが羽衣教会会長としての本日の仕事だ。免罪符(天解)を手にした茄子子の隣からそうと顔を出したフェリシアは願うように仲間達へと『英雄』としての鎧を授ける。己の生命力を削りながらも仲間の戦闘能力恒常を祈り踊れば手にした指揮棒は堂々と『戦いの五線譜』をなぞる。
「……あれが……夜妖<ヨル>……ですか。
いないいないばぁ……の予備動作が見えたら……直ぐ、お知らせします……」
「会長にも任せておいてね!」
フェリシアと茄子子のその言葉に頷きグレイルは後衛位置よりゆっくりと天井を見上げた。だらりと垂れ下がった黒髪に雲の如く折り曲がった四肢は異様な方向を向き天地を逆転させたかのような安定感でひっついている。
「……ふと思ったんだけど……なんだか…出現条件とか能力とか……
学校の七不思議みたいだね……僕の方の学園では……どんなのだったかな……?」
古今東西どこでだってそうした階段は存在している。「うげ」と言う声を漏らしたウィズィは天井を蜘蛛のようにごそりと動いた夜妖にあからさまな嫌悪を覗かせた。
「さあ、Step on it!! 早く片付けちゃいましょう!」
気味が悪いと言っている場合でもないかと地上を蜘蛛が如くごそりごそりと動く分離体を呼び寄せる。
片手で握りやすくなった獲物の切っ先をぐん、と向ける。冒険者として生きるならば様々な出会いと別れがあるとは言うが――『コレ』は些か気持ちの悪い存在だ。出会いたくはない。だからこそ心霊現象、ホラーとして語られ畏れられるとでも言うのだろうか。堂々と戦意を高めれば分離体の攻撃が真っ直ぐにウィズィへ向けて飛び付いてくる。
「夜妖<ヨル>と呼ぶのね。……確かに少し気持ち悪いかも知れないのだわ」
盾を手に、成功を願うように指揮棒を振るう華連はその心の中にささくれ立った小さな棘をつきりと分離体へと突き刺した。純粋な魔力の一撃は、心の中より消えることのない嫉妬(とげ)として分離体へと突き刺さる。
(これはいつまでもいつまでも、心にあり続ける嫉妬の棘……
こんな『嫉妬』じゃ、夜妖<ヨル>本体は倒せない。きっと私なんかでは荷が重いのだわ……)
回復手でもあるオールラウンダーの華連の傍らで、分離帯と夜妖のその何方もをしかと見据えたアオイは夜想曲の名を冠するライフルを真っ直ぐに夜妖へと向ける。
「いないいないばぁって顔を隠して~って奴だったなあ……。まあ、アイツもそうやって顔を隠してるか」
その脚に力を込める。ライフルの弾丸が天井這いつくばる夜妖へと飛込んだ刹那――狙いを定めたと言わんばかりに歯車がぎゅるりと音を立て飛込んでゆく。機工技師はその回転エネルギーを自身へと還元し、能率上げて攻撃を重ねて行く。
「まあ、そうだろうな。顔に手を当てて『いないいない』と声を掛けてから――『ばぁ』
分かりやすいと言えば分かりやすい。それなら其れで実に『見極めやすい』じゃないか」
おっさんは嫌いじゃないよと緒形が小さく笑い、聖なる光を放つ中、ウィズィは「夢に出そう」と溜息をついた。
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夜妖が発生する条件とは何か。人々の噂が原因か。それとも――
都会の闇に潜み、人々を蝕む毒が如く存在するそれをグレイルは知的好奇心として見詰めていた。
ふと、フェリシアと茄子子が「目を瞑って」と声を発する。真っ直ぐに夜妖を見ていたエイヴァンは「ご丁寧に顔を手で隠すんだな」と揶揄うような声音でそう言った。
その合図を聞き漏らすことはしない。ウィズィは「了解です! 皆、顔を伏せて!」と仲間へと通達する。天井眺めて居たアオイと緒形は直ぐに顔を伏せる。
いないいない――ばぁ。
「はいはい」とエイヴァンは軽くあしらうようにそう言った。落下を狙うように、幾度となく攻撃を重ね続ける。自身の巨躯を盾として『いないいないばぁ』の顔を見なくて済むようにと気を配るエイヴァンへと「どんな顔してるのかな?」と茄子子は問いかける。
「美人――と言うと思ったか?」
「いいえ」
きっぱりとウィズィは言い切った。エイヴァン曰く『これは夢に見る』そうだ。そう聞けば、怪異らしく捻じ曲がった四肢を器用に動かしでぐにゃりぐにゃりと動く分離体を前にしたウィズィの口元が僅かに引きつる。分離体が顔を黒髪で覆い隠しているからこそまだ『マシ』だったと――言えるはずもなく。
「あーもうこいつらも気色悪いなあもう!」
自身の『必殺技』――つまり、通常攻撃だ。自身の鍛え上げた力を武器にして、攻撃を重ねるウィズィは分離体めがけて攻撃重ね、仲間苛む者より解き放つ茄子子は「こういうのが出てくるのも青春なのかな?」と楽しげに問いかける。
「随分死と隣り合わせの青春だ」
「あはは! 確かに!」
肩竦めたアオイは歯車の稼働を聞きながら、ギアスタッフをぐるりと持ち替えた。その脚に力を込める。その身に宿すは『可能性の自分』――アバター・カレイド・アクセラレーション。力を宿し、歯車がぎゅるりと音立てる。いないいないばぁの動作を終えたばかりの夜妖が地面に叩き付けられた刹那を逃すべからずとエイヴァンは斧砲で吹雪が如く砲火を浴びせ続ける。
「しかし、外見はホラーテイストなのは高評価なんだけどな……。
いまいち、『いないいないばぁ』と言われると拍子抜けするな。一気にホラー感が薄れる。演出にはもう少し気を配った方が良い」
淡々と夜妖にアドバイスを行うエイヴァンにフェリシアはこてりと首を傾げる。ぽっかりと空いた過去を見詰め、揺蕩うセイレーンの物憂げな歌声は沈み行く船を誘うが如く静やかに。
「……確かに……あんまり……怖くはないかも……」
グレイルの周囲から巻き起こったは絶対零度。氷像たらしめんとする魔術が夜妖をつつみこむ。摂理を知りし賢き者は地でのた打つ夜妖を逃しはしない。
「此の儘、倒すのだわ」
華蓮は堂々とそう言った。こうした成功体験をひとつふたつと積み上げる。そうすることで少しは自身を持てるかも知れないと、その心の安寧が為に押し通す。
天使の福音がウィズィの身を包み込めば、彼女は間合いを詰、一気にハーロヴィットを振り下ろす。片手で自由に動かせる、それだけその掌に馴染んだ獲物がぐしゃりと分離体を切り離す。
ぴくり、とウィズィの肩が跳ねる。聞こえる、音を逃すことはしない。
「目を開けて! 分離体の追加来ましたよ!」
「全く。千客万来さね。都市伝説(かみさま)を甘く見るでないよ」
緒形は小さく笑みを零す。自身もまだまだ発展途上の都市伝説(かみさま)だ。攻撃重ね分離体を打ち払えば、夜妖が再度『動き』を見せる。天井へと登らんとしたそれを抑えるようにエイヴァンが叩き付けた斧砲が五月雨が如く降り注ぐ。
「……中々、しぶとい……ね……」
「ああ、だが、そろそろ終いのようだぜ」
エイヴァンの揶揄う声音がグレイルに降る。歌うフェリシアはがくりと腕の力が抜ける夜妖を見下ろした。
地を這いごそりごそりと動く怪異。華蓮は今はそれを倒す側で『呼び出す』側ではない。自身の心の隙間に差し込む闇が何かを呼び寄せてしまうのだろうかと、そう考えながら指先より踊らせたは小さな棘。
その棘がつきり、つきりと分離体に突き刺さる。押し込むように緒形の魔砲が飛び込めば焦げ付く音立て怪異は消し飛んだ。
ザリザリと爪先が廊下を削る奇妙な音を立てる。アオイは「確かに見てる限りは気持ち悪いか」と小さく呟いた。
「けど――そろそろ、体力も尽きるだろ? そろそろ終わりにしようぜ」
歯車が駆動する音立てた。がちり、がちり。その音と共にギアが噛み合い踊り出す。決して逃しはしないと地に這いつくばった夜妖のその身を害する。
「ッ――とに!」
気色悪い、と苦情を一つウィズィが振り下ろしたハーロヴィット・トゥユー。きっと、魔法の力を籠めて、迷うことなくその切っ先が夜妖の頭へと叩き付けられる。大仰な音立てて、その顔面が堅い老化に打ち付けられる。奇妙な方向を向いた関節の腕がばたりと揺れ動き、それでも許しはしないというように顔を隠したその仕草にエイヴァンは揶揄う声音で一つ、口にした。
「いいぜ」
『彼女』の唇が奏でる音を。赤子を慈しむようなその声音で告げるだろう仕草を。
「いないいない――」
ただ、そう口を開けば、女は顔を隠す予備動作の後はない。
グレイルの放った絶対零度が女を包み込みその腕は、もう二度とは動かなかった。
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「おや、ここに居たのか」
緒形がゆっくりとしゃがみ込めば「昭吾君?」と茄子子はそっと倒れた少年の顔を見下ろした。探し当てた彼はどうやら気を失った儘だ。恐怖体験は一夏の『異質な経験』として彼が語ろうとも驚いて気を失っただけと茶化されて終わりなのだろう。
「怪我とかはしてないのかな? んー、こう言う時希望ヶ浜は『後片付け』専門の……そう、『掃除屋』さんとかが居るんだよね」
「ああ、らしいね。掃除屋が痕跡全てを消して日常の一幕にしてくれる。
……そう思うと凄い技能だよな。なかった物にして日常にしちゃうんだからさ」
アオイが暗がりを眺めれば、夜妖討伐の知らせを受けてか掃除屋が此方に向かって来ている気配がする。
「それじゃあ……その、彼は任せれば……いんでしょうか?」
首傾いだフェリシアに「ええ。そうしましょう。きっと夢を見ていた程度で終わってしまうのだわ」と華蓮はくすりと笑った。日常の中に埋没していく――恐ろしい経験だって、何もなかったかのように、知らない顔をして過ごしていける。
肝試しは中途半端に終わってしまって、気を失っていたと病院に連絡が行き彼は日常に戻っていくのだろうとフェリシアは茫と考えた。
「……どうかした……?」
「……いいえ……」
希望ヶ浜の日常は、他の地域と少し違う。特異運命座標の事を『異能者』と称する特異な地域。異世界を受け入れられなかったその場所でエイヴァンは「さ、帰ろう」と一つ伸びをした。
「あー夢に出そ……今日は恋人と一緒に寝ます……」
げんなりとしたウィズィがふと、廊下より外を見遣る。美しい夏の月は魔的な光を帯び、その存在を主張していた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
いないいない――ばぁ!
それではまた、希望ヶ浜でお会い致しましょう。
GMコメント
最近我が子が私にいないいないばあをしてくれるんですよね。うふふ。
●成功条件
夜妖<ヨル>の討伐
●夜妖<ヨル>:いないいないばぁ
いないいないばぁ、と声を掛けてくる夜妖です。
振り向いてその顔を見たならば異界に攫ってしまうと言う能力を所有しています。
四肢は歪な方向を向いており、長い黒髪をだらりと足らしたいかにもな化け物です。
彼女は三階の図書室前に背を向けて立っている存在の背後より忍び寄るようです。
その為、『彼女を呼び出す』為には囮を立てる必要があるでしょう。
基本的ステータス
・遠距離攻撃/BSを主体に使用
・常に天井に張り付いています(至近攻撃不可)
ですが、遠距離攻撃をクリーンヒット(またはBSで行動阻害)を行った場合は地面に落ちてきます。
・特殊行動:いないいないばぁ
いないいないばぁを行うことで何処からか自身の分離体を呼び出すことができます。
顔に手を当てたのが合図です。また、その顔を直視した場合、強制的に石化が付与されます(事前動作があるため気をつければ回避することは可能です)
●分離体 *初期3体
いないいないばぁの夜妖<ヨル>の分離体です。地を蜘蛛のように這いずります。とても怖い。
攻撃方法は単調そのもの。近接攻撃が中心ですが、ダメージを与える能力に特化しているようです(その分、耐久は低いようです)
●現場情報
ある学校の3階廊下。図書室前。
夜妖<ヨル>は図書館前でしゃがみ込むことで上からやってきて「いないいないばあ」をします。
その際は一人でなくては行けないため、他教室内などでの待機が必要です。
光源などは特に必要はありません。今日は月が明るいですから。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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