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シナリオ詳細

セイクリッドダンジョンズ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「この国には『聖窟』と呼ばれる不可侵領域がいくつかある。
 といっても、かつてエルベルト政権時代に彼らが魔の力を内密に醸造するための隠し施設だがな」
 円形のテーブルの一角。顔に無数の傷跡を刻んだスナーフ神父は天義の概略図を指でしめしながら言った。
 ここは異端審問官の砦ことスナーフ教会。重厚かつ質素というふしぎな作りをしたこの教会は、かつておこった王宮執政官エルベルトや枢機卿アストリアや上級異端審問官たちの起こした腐敗を、こうして明らかになったいまになってから後始末に追われるという非常につらい立場にあった。
「信じたものに裏切られたショックは大きい。脱退する者や過激化する者も多く、デリケートな『後始末』には人手が不足しがちだ。王からも依頼が布告されていると思うが、改めて私から――。
 エルベルトたちによる負の遺産。『聖窟』の攻略を、依頼する」


 スナーフ神父が指定したのは『聖窟』の中でも緊急性の高い、魔物製造施設ロブレタであった。
「ロブレタは聖都西部に位置する地下施設で、戦争にも使われた様々なアンデッドモンスターが製造されていた。いや、厳密に述べるなら、製造されていた施設のひとつ、だ。
 今は通常の出入り方法が破壊され、大魔術によって迷宮化したルートを攻略しなければ内部へ到達できない。にも関わらず、不定期に排出されたモンスターが今でも近隣住民に被害を出している。一刻も早く、この迷宮を攻略し、破壊しなければならない」

 ロブレタはその性質も相まってアンデッドモンスターに溢れており、迷宮化したルートには様々な罠が仕掛けられている。
「とはいえ、こと『ダンジョン攻略』においてはローレットはかなりのエキスパートだろう?
 専門外の私が言うのもおかしな話だが、この迷宮はかなり複雑怪奇だ。役割分担や、同じ技術をもつメンバーごとの協力や分担も必要になるだろう。よく話し合って準備をしてくれ」
 次に、スナーフは黒板を用意し、ロブレタの概略図を描き出した。

 入り口は天義の兵士たちによる民間人やモンスターの出入りがないように監視するポイント。
 その先は複雑化した迷宮。
 そして迷宮を攻略した先にあるのが、『中枢』である。

「『製造室』……これを破壊するのが、この依頼の最重要ポイントだ」
 スナーフはドンとテーブルに弁当箱サイズの物体を置いてみせた。
 それが爆弾であることは、注意書きやマークですぐにわかる。
「設計者もそこ最重要だと理解しているのだろう。ガーディアンを配置し、簡単には破壊できないように守らせている。
 つまりは、このガーディアンを倒すことが実質的な最終ミッションとなるだろうな」
 ガーディアンの名は『フルスクラッチ』。
 無数のアンデッドモンスターを融合、合体、接続、交配して作られたというおぞましい巨大怪物である。
「これは同種のモンスターとの交戦記録からになるが……全長はおよそ5m強。すさまじい怪力と魔術を行使する能力を持ち、特殊な結界をはることや自己再生能力も確認されている」
 結界というのはおそらく【物無】【神無】付与効果のことだろう。
 ブレイク能力を用いるか、BSによって再生能力を阻害しながらバリアのエネルギー切れを待つか、ないしはエネルギーそのものを刈り取っていくか……戦い方をこのモンスター用に考えねばならないだろう。
「また侵入を嗅ぎつけたアンデッドモンスターが部屋に集まってくることも考えられる。
 そう極端に多くはならないだろうが、集まってくるモンスターの対処も必要になるだろうな」
 スナーフはそこまで説明してから、一連の資料を爆弾の隣に置いた。
「私から説明できるのは以上だ。民のため平和のため、とまでは言わん。金のため自分のためでもかまわない。私は等しく、健闘を祈る」

GMコメント

■オーダー
 聖窟ロブレタを攻略する。

■探索判定について
 ダンジョン攻略には特殊な判定方法を用います。

 ダンジョン内では様々なアクシデントがおこり、そのたびにPCたちが能力や道具を駆使して対抗していきます。
 これを一括化するため、『アクシデントカード判定』を用います。
 各自プレイングで非戦スキルやアイテムの使用を宣言し、ダンジョン内で発生するであろう【アクシデントカード】に『一能力につき一枚だけ』対抗していきます。
 宣言するスキルやアイテムを分担することで、多様な状況に対抗していく状態を再現しています。

 例えばアクシデントカードに『罠×2』とあった場合、1人の『罠対処』だけでは足りないのでもう一人に持ってきてもらうか、いっそのこと罠をライフで受けたりアイテムや『こんなこともあろうかと』で平たく対処するといったやりくりが必要になります。
 メンバー同士で相談して、カードのやりくりをしてみてください。

 プレイング上では罠カード1枚に対して罠対処スキル一回きりで対抗したように見えますが、実際は沢山の罠に一人の罠対処で次々と対抗していく扱いになっています。
 こうした各人の役割分担によって、ダンジョンが攻略されていく扱いとしてリプレイに描写されます。

●アクシデントカード
・罠×4:戦力低下の罠。発動すると以降全員の戦闘時にペナルティがつき続ける。罠対処なら確実に対抗可能。ハイセンスなどの探索系カードなら一定確率で対抗が可能。
・落とし穴×2:深すぎる落とし穴。全員が一斉に危険フロアに落下してしまう。『ロープ』や『こんなこともあろうかと』などがあると飛行できないメンバーを救出可能。全員が簡易飛行or媒体飛行or飛行を可能としていた場合アクシデントカードが自動消滅する。
・暗所×4:暗い場所でモンスターが襲ってくる。対処できないとペナルティが発生。発行やランタン系アイテムを使うか、暗視能力者が率先して戦うなどして対処しよう。
・奇襲×4:モンスターが奇襲を仕掛けてくる。エネミーサーチや他探索系能力で対抗可能。
・安全地帯×2:料理や呈茶などのスキルがあると全員のペナルティを一つ解除できる

●フルスクラッチ
 最深部で施設を守っているモンスターです。
 自付与効果として【物無】【神無】。
 パッシブ効果に『精神無効』『怒り無効』『致命無効』をもちます。
 強力な範囲攻撃や自己再生能力で戦闘を行います。

 また、戦闘中は雑魚モンスターが次々と集まってくるので、これに対応しながら戦うことになるでしょう。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

  • セイクリッドダンジョンズ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月19日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ランデルブルク・クルーガー(p3p008748)
遍歴の

リプレイ


 安い紙巻き煙草にマジックライトで火をつけて、『特異運命座標』ランデルブルク・クルーガー(p3p008748)は一昨日のことを思い出していた。
 ――『この国には『聖窟』と呼ばれる不可侵領域がいくつかある』
 円卓越しにそう語るスナーフ神父の話を、ランデルブルクは極端に言えば面倒くさそうに聞いていた。
 これがかつての騎士時代のことで、仕えた土地の危機であったなら、矢も楯もたまらず飛び出した………………だろうか?
「ま、放っておけば被害が出るってんならな。放置もな……」
 未だなじみのないことだが、ローレットという冒険者ギルドに就労義務はない。世界的に有名な冒険者レオンが興した(?)らしいこのギルドの最低義務は『生きていること』でしかないのだ。
 イレギュラーズとして召喚をうけたランデルブルクに求められたのはそれだけで、極端に言えば無利子無担保で半永久的に金を貸すくらいのことはしてくれると聞く。
 金もないし寮にも戻れない身なので助かるが、だからといってニートに身をやつせるほどねじくれてもいなければ……できれば誰かの役に立ちたいという気持ちが無くなるほど冷めてもいなかった。
 それゆえ。いくつかの仕事を受けることにした次第だが……。
「魔物製造とか頭アデプトか? 全くロクなことを考えんな腐敗政権どもは」
 『策士』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)はだいぶ前に駆逐した天義の腐敗ことエルベルト執政官たちのことを思い出していた。なんなら当時いきなり数百匹駆逐されて泣いたという聖獣とやらのことも思い出していた。
 冷静に考えてそんな数のモンスターが羽虫の如く沸くはずもなく、今回のような『聖窟』を天義各地にひっそりと作っては量産していたとするほうが自然ではあった。
「こんな所、放ってはおけないよね。今も外にモンスターが出ていくみたいだし……」
 『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は魔道書を胸に抱き、聖窟の入り口を見つめていた。
 ここは天義、首都から大きく離れた街はずれ。
 腐敗の爪痕が残る、聖窟前。
「近隣住民が安心して暮らせるようにするためにも頑張ろう!」

「ところで……誰? そのエルサイズベルトみたい名前のひと」
 『不屈の壁』笹木 花丸(p3p008689)は移動用の馬車からすとんと飛び降りると、馬車を御していた『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)へ振り返った。
「この国の政権に深く潜り込み、魔種と通じて横領や着服を続けていた悪しき執政官だ。
 彼のみならず、この国は長い間魔種による侵入を許し続けてきた過去がある。
 歴史はゆがめられ、政治は悪用され、民は人知れず犠牲になった。『俺たち』はそれを、変えなくちゃならない」
「ふーん」
 リゲルと花丸の違いは、当事者と完全な他人という点である。
 ローレットが思想や宗教や倫理を問わないがゆえ、時折こうした人々が協力し合う状況が生まれるものである。
 リゲルは馬車をおり、かたわらの剣をとった。
「今回も同じ依頼を受けたローレット・イレギュラーズどうし。負の遺産を破壊しよう」

「今日のボクは魔法探検家セララ! 隙は無いのだー!」
 リュックサックを背負い直した『魔法騎士』セララ(p3p000273)がオシャレ眼鏡をかけて意気揚々と歩き出す。
「本当に楽しそうですね。迷宮探検…………は、ともかく、このような傍迷惑な場所は早々に埋めるに限りますね」
 同じようにリュックサックを背負って歩き出す『放浪の剣士?』蓮杖 綾姫(p3p008658)。
「うーん……一つ思ったことがあるんですが」
 大きな光線銃を背中に担ぎ、二人のあとを追って歩き出す『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)。
「聖窟というより、魔窟では?」
 ぴたりと足を止める綾姫とセララ。
 そのうちセララがゆっくりと振り返って。
「うん、それは皆思ってる」
 そして実際、そう扱われているのである。

●欺瞞の窟
 エルベルトはもちろんその下にあった政治家や癒着関係にあったあらゆる者たちが異端審問の名の下に駆逐された今、聖窟ももはや正常に機能していない。
 そしてそれ故に施設における止まらないモンスターの生産や流出という事態が起きているのだが、簡単に生産機能を停止できないのもまた理由があった。
「見て、あそこ! 壁の裏を透視するといっぱい槍が隠してある!」
 セララがオシャレ眼鏡をきらりと光らせ、肖像画が並ぶ通路を指さした。
 よく見ればひどく古い血痕もあり、槍が飛び出して殺傷するという罠が仕掛けられていることがわかる。
「本当だ。床におかしな所はないが……どういう仕組みで槍を飛び出させるつもりなんだ」
 リゲルは同じように壁の裏を透視しながら、ためしに丸めたロープと麻袋を投げてみた。
 すると肖像画の目がぎょろりと動き、絵画を突き破るかたちで槍が無数に飛び出し、そしてもどっていったかと思えば絵画がひとりでに修復された。
「ア――アンデッドアート!?」
 アンデッド化した人間の反射や肉体構造をたくみに利用したきわめて悪趣味な『機械』である。鍵盤を押すと悲鳴を上げる楽器や座ると自動でオットマンがはねあがる椅子などに用いられる、当然だが皆ひどくグロテスクだ。
 リゲルはこの場所を作った人間の意地の悪さに顔をしかめ、セララと協力しオイルとマッチで絵画を燃やすなどして慎重に進んでいった。

 内部に仕掛けられた罠はこれだけではない。
 シンプルな重量感知識床パネルや透明なワイヤー、ものをとると作動するカラクリなど様々だったが、特に感知に苦労したのはやはりアンデッドアートであった。
 視覚や聴覚、敵意や警戒心、とにかくありとあらゆるものがトラップのフックになりえる。そして攻撃手段は毒ガスのこぎり溶解液なんでもありだ。
「うーん……良くないことがおきるって出てるけど」
 スティアは青い花のはなびらを千切って、その形を観察しながらそういった。
「良くないこととは?」
「……さあ?」
 ひどく漠然とした発言に、まあそういうものだろうと頷くランデルブルク。
「まあ、警戒するに越したことはないな」
 ランデルブルクは鞄から道具を取り出すと、ワイヤーフックをぐるぐると回して遠い通路の先にあるレバーへひっかけた。
 うまく引っ張り、レバーを操作。すると天井からガコンという音がした。
「ビンゴだ。これ以外にも罠が複数仕掛けられてるかもしれないから、最悪オジサンが……」
 剣に手をかけ構えよう……として、リゲルたちを振り返った。
「オジサンを庇ってもらえるか?」

 そうこうして、ランデルブルクたちによる様々なテクニックで罠を突破していたイレギュラーズ。
 しかしそんな彼らでも感知できない巧妙な罠がしかけれられいた。
「これって……」
「ああ……」
 網。棒。漫画肉。あとロープ。
 小動物すらまともにひっかからないような罠がそこにはあった。
 周りを見てもおかしなところはない。ロープを引っ張ろうとこちらを観察している奴がいるということのほうが、今はむしろ重要だ。
 イレギュラーズたちはあえてそれをおびき出すべく罠へ近づ――いた途端、フロアもろとも床が抜けた。
「わっ、と!?」
 ステラはあらかじめ服用しておいた魔術薬によってふわりと飛行。セララも魔法の翼で、リゲルもウィングシューズによって落下をこらえたが、残る仲間のほとんどは転落していった。
「あぶないっ、これにつかまってー!」
 といって巧みに飛行する花丸が放ったもの……は、特になかった。
 とりま手を出してみたのみである。
「……」
「……」
 届かんがな、という顔をするリアナルたちと目が合ったが、綾姫が素早く放ったロープが花丸によってキャッチされた。
 同時に転落するランデルブルクをキャッチする形でぶら下げる綾姫。
 二人をロープでぶらさげ、花丸はふぬぬと唸りながらフロアまで戻っていった。
 見ると、セララやリゲルたちも似たような手段でスティアやリアナルたちを救出。上へと引っ張り上げていった。
 フロアの端に確保された小さな足場へと着地し、胸をなで下ろすステラ。
「これが『トラップだけ』でよかったですね。もしモンスターの追撃があったりしたら、万一仲間をキャッチできていても撃墜される所でした」
「これ、飛べずに落ちてたらどうなるの?」
 花丸が足場にたどり着いた状態でロープを引っ張りあげ、綾姫を足場へと導いていく。 なんとかよじ登った綾姫は、汗を拭ってはるか眼下を振り返った。
「ちらっと見えただけですが……かなり痛い目にあっていたと思います。助かりました」

 なんとかトラップ地帯を抜けたイレギュラーズたち。
 彼らがたどり着いたのは不気味なほど広い空間だった。
 円柱状の水槽らしきものがいくつも並んでいるが、その全ては破壊されている。
 いざ探索しようと花丸が歩き出すと、突如として部屋の照明が消失した。
 元々魔力によって供給されていた炎が一斉に消えたのだ。
「おっとぉ?」
 花丸は素早くゴーグルを装着。暗視モードを起動した。
「誰か灯りもってない?」
「ああ、それなら……」
 リゲルは剣に銀色の光を纏わせかざし――た途端、真横に顔の溶けたアンデッドがいることを視認した。
「うお――!?」
 のけぞるリゲル。セララはランタンに火を灯して振り向くと、すぐ近くまで音もなく忍び寄っていたアンデッドから飛び退いた。
「いつのまにこんな近くに!? リゲル、エネミーサーチは――」
「バイオマータだ。感情もなく忍び寄って抹殺する警備アンデッドのたぐいだが……こんなものまで導入してるのか、ここは!」
 セララたちは剣を抜き、花丸もまた視界を巡らせた。
 広く障害物の多い部屋である。照明器具があったところですべてを照らし出すのは難しい。
「よっしゃ、花丸ちゃんは北側担当。リゲルは東でセララは西ね! はい、南できるひと挙手!」
「あいよ」
 ランデルブルクは追尾式の魔法光を宙に放り投げると腰から剣を抜く。
 ばちばちと走る雷光のエンチャントがマントをはうように発光し、周囲を淡く照らし出した。
「いっとくが、オジサンに達人級の戦闘力を求めるなよ? 現役離れて長いんだ」
 部屋を隅々まで照らしたことで、バイオマータたちは伏せていた敵意をむき出しにし、どこかへ隠していた味方を呼び寄せた。
「そこです」
 綾姫はランデルブルクの背後へ回り、天井の穴から突如として落ちてきた球状のアンデッドモンスターを剣で真っ二つにした。
「お、やるねえ」
 花丸はフロア北側で視界を巡らせ、さらには鋭敏にとがらせた五感で周囲をサーチした。
 カサリというわずかな音と共に壁から飛び出してくる巨大な虫モンスターを後ろ回し蹴りで迎撃する。
 一方でセララがつま先立ちして両手でかざしたランタンのそばにリアナルとスティア。
「私に不意打ちは無駄。そこ、だ――!」
 振り向くと同時に扇子を叩きつけ、発動した術式でもってモンスターを弾き飛ばす。そこへスティアたちの集中砲火が浴びせられた。
 奇襲をかけてくるアンデッドモンスターたちを次々に切り払い、輝く剣でゆっくりと円を描くように周囲を観察するリゲル。
「バイオマータも全て倒した。奇襲をしかけるモンスターはもういないようだ。そっちはどう?」
「北側クリア」
「南クリア」
「西側も大丈夫じゃ。先へ進もう」

 しばらく進んだ先、クリアリングを済ませたリゲルは扉をしめて椅子へと腰掛けた。
 元々この施設の職員が使っていたであろう小さな食堂スペースだったのだろうか。
 もとある食品類は使い物にならないが、安全地帯としては利用価値のある場所だった。
「今日はお弁当とハーブティーを持ってきたんです。良かった一緒に」
 鞄の中身を広げるリゲルの横で、スティアもまた紅茶セットを広げていった。
 四角い缶にはいったお気に入りの茶葉とティーポット。
「美味しいお茶だよ。これで皆の疲れもとれるはず」
「いいですねえ」
 ステラはここぞとばかりに腕まくりをしてティーポットをスティアたちから借りた。
「ここまでかなり皆さんの力を借りてきましたからね。ここはひとつ、拙が振る舞わせていただきます」
 プロ顔負けの丁寧で美しい手際でもって、ステラは皆にお茶を振る舞い始めた。
「ありがとー! いただきまーす!」
 自分のおやつを取り出してお茶と一緒に食べ始めるセララ。
 ステラは普段の豪快なバトルスタイルとはうってかわって、静かで穏やかなティータイムを演出してみせた。

●フルスクラッチ
 やがてイレギュラーズたちは目的の『製造室』へとたどり着くことが出来た。
「うわあ、見るからにだね……」
 手のひらをかざしてみる花丸。
 部屋の中央にはかろうじて人型を保った巨大なモンスターが両手を地に着けてうずくまるような姿勢をとっていた。
 こちらの侵入に気づくと、大きな咆哮をあげて両腕を地面に叩きつけながら迫ってくる。
 おそらくはこれ自体警報の役割をもっているのだろう。
 音におびき寄せられる形で、これまで現れた様々なアンデッドモンスターたちが壁の小窓や天井ダクト穴から飛び出してきた。
「こっちは私が引きつける」
「手伝うよ」
 きびすを返し、両腕を十字にクロスするように構えるスティア。
 キュキュンという薄氷の割れるような音が彼女の周囲で響き、氷の華が無数に生まれる。
 またリゲルは剣から燃え上がった蒼い炎で大きくRの文字を描くと迫るアンデッド兵たちへと突撃した。
「俺の名はシリウスの息子、リゲル=アークライト! 異端審問会の命により、この施設を破壊する!」
 えっそういう流れなのと思って二度見するスティアだが、自分の場合アシュレイの娘を名乗ることになるのでやめておくスティアだった。
 あらかじめアンデッド達に氷結爆発を起こし、更にリゲルの後方に陣取って魔力を月の光へ変換し始める。
 一方でリゲルは群がるアンデッドたちを剣で次々に切り払っていった。
「そっちは任せた!」
「任されておこう。花丸殿、綾姫殿。そばへ」
 リアナルは持ち前の手際の良さで二人の首筋に手を当て、二人同時に最適化術式を付与。
 更に自分にも同じ術式を付与すると、大容量の治癒フィールドを贅沢に連続発動させ始めた。
「さて、突っ込むとしようか」
 二人を両脇に据える形で『フルスクラッチ』へと突撃。
 花丸は拳に炎を纏わせると、勢いよく跳躍して殴りかかった。
 同時に横一文字の斬撃を繰り出す綾姫。
 フルスクラッチの顔面と腹にそれぞれ衝撃が走り、元々張り巡らされていた結界がガラス細工のように砕けて散った。
「今です!」
 振り返る綾姫にこたえ、ステラは担いだレーザーガンのレバを握り込んだ。
 ほぼ至近距離から激しい熱光線がフルスクラッチへ浴びせられ、肉体の一部が焼き切られていく。
 一方でランデルブルクはフルスクラッチを守ろうと集まってくるモンスターたちの間に割り込み、剣を抜いて突きつけた。
「こちとらしがないオジサンだが、殺すにゃ多少は手間だぞ?」
 時間稼ぎ。しかし勝利への10秒という重要な時間稼ぎだ。
 セララは二本の剣にそれぞれ魔法の力を素早くため込むと――。
「アンデッドになった上に合体とか改造とか……きっと、辛かったよね。
 せめて、天国へ行けますように。
 ――ツインギガセララブレイクッ!」
 流星のように繰り出された雷の力が、フルスクラッチを突き破っていった。

 その後、施設を出たイレギュラーズたちの後ろで激しい爆発がおき、燃え上がる炎の柱を振り返った。
 これでもう、この土地にいすわる負の遺産が市民達を脅かすことはないだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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