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シナリオ詳細

Sabotage

完了

参加者 : 6 人

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オープニング


「――困ったな」
 天義のとある地方の領主――ハウバーグは頭を抱えていた。
 見ている資料は近隣……にして。『国向こう』の領土の情報であった。
 それは鉄帝。
 ハウバーグ領は鉄帝との国境に比較的近い場所にあり、定期的に向こうの情報は仕入れる様にしていたのだ――いつ向こうがこちらの領土へと強襲を仕掛けてくるのか分かったものではない故に。
 いや、別に今はかの国と全面的に戦争をしている訳ではないが……近隣の情報を入手しておくのは、統治者としての責務でもある。
 そして困った事になっていた。国境線を跨いだ先、そこに鉄帝の軍事施設の一つがあるのだが。
「鋼鉄艦が配備されるとはな。さて、これは何の予兆か……」
 鉄帝海軍の鋼鉄艦。それが近い内、やって来る事になっていたのだ。
 海での戦いでは随一である海洋とも戦える鉄帝自慢の艦隊の船……強靭なる防壁と砲撃能力を兼ね揃えたかの船は正に脅威。それが近くに一隻配備されるとあっては『意図』を探りたくもなるものだ。

 今までそこには無かったものが、増える。

 それは只の気紛れか、軍事再編の影響か、それともこちらを威圧する意味でもあるのか。
 いずれにしてもハウバーグにとって良い話ではない。そんな船が近くにやって来るのだとすれば、領民も多少不安がろう。実際に争いが起きるか否かは重要ではない。そんな船が『ある』事が最大の問題なのだ。
「ふむ――可能ならば工作隊を編成し、破壊に向かわせたい所だが」
「僭越ながら旦那様、流石にリスクが大きいかと……小規模とはいえ敵の軍事施設です」
 隣。控える様に佇んでいる己の執事と声を交わす。
 一番いい解決方法は鋼鉄艦が何らかの事故に遭う事だ。
 沈む必要はない。ハウバーグからすれば鋼鉄艦などポンコツと領民に宣伝出来ればそれでいいのだ。恐れるに値するものではない――と。むしろ沈んだなら鉄帝の被害が大きく、向こうが報復行動に出てこないとも限らないので危険だ。
 適当にダメージだけ与えて撤退する……しかし万が一でも工作隊が捕縛されれば非常に『面倒』な事になるだろう。あえて口にはせぬが――そう『色々』な意味で。
「――やはりこういう時はローレットしかあるまいな」
「はい旦那様、私もそれが最善かと」
 故に辿り着いた思考は『ローレットへの依頼』へと。
 なんでも屋たるかの者達ならば引き受けてくれよう。彼らは実力もあり、成功の見込みも十分ある……そして万が一捕えられようと、ハウバーグとは直接の関係はないのだ。『知らぬ』『存ぜぬ』で最悪の場合は押し通せる。

「よし。至急連絡を取ってくれ――軍事施設への侵入と破壊。やってくれる者もいるだろう」


 オーダーは一つ。鉄帝軍事施設にある『鋼鉄艦への破壊工作』だ。
 決して重大な破壊でなくて構わない。というよりも重大ではないほうが良い。
 あくまで傷をつける為で構わないと……ハウバーグから破壊の為の爆薬も貰っている。
 これを内部で起爆すれば多少の損壊というのは十分果たせるだろう。

 問題は軍事施設への侵入と脱出だ。

 情報によると小規模な軍事施設らしいが、事の途中で見つかってしまえば流石に勝てないだろう。非戦の技術などを駆使する必要がありそうだが――軍事施設となれば、例えばファミリアーなどの動物を介した偵察にも気を付ける必要がある。
 『そういう技術』があるとは向こうも分かっている事だからだ。
 極力戦闘の類は避けた上で、奥へ奥へと進み――そして最終的には脱出する。

 ……中々簡単に、とはいかないだろう。
 外からの援軍は望めないし、あまり大人数で行動と言う訳にもいかない。

 それでも向かう先は大規模な軍事施設と言う訳では無いのだ。
 やりようは必ずある――さぁ、作戦を練ってみるとしよう。

GMコメント

■依頼達成条件
 鉄帝軍事施設内に侵入し、鋼鉄艦への破壊工作を施し、脱出する。

■フィールド
 鉄帝軍事施設(小規模)。時刻は夜。月明かりは並程度です。

 鉄帝の僻地に存在する小規模な軍事施設です。
 小規模ながら港を兼ね揃えており、そこに一隻鋼鉄艦が配備されました。
 配備の理由は不明ですが……これへの工作が今回の依頼となります。

 施設周辺には森が広がっており、近寄る事はまではまず問題ないでしょう。しかし周辺には当然金属製の柵があり、定期的な巡回なども行われています。海の方から直接港に近寄る事も出来ますが、当然そちらも灯りを照らされるなど警戒されています。

 施設の内部構造は軍事機密につき詳細は分かりません。ただし小規模故か船がどの辺りにあるのか方角は分かります。そちらに向かうという形をとるならルートに迷う事はないでしょう。(ただし見つからない安全なルートなのか? と言うのは別の話です)

■鋼鉄艦
 グレイス・ヌレ海戦などにも使用された鋼鉄艦隊――の一隻です。
 つい最近港に着いたようです。船の警備は巡回が時折いる程度の並程度。

■鉄帝兵×??
 鉄帝所属の戦闘員です。小規模施設とはいえ、かなりの人数がいます。
 少数ならともかく取り囲まれれば成す術はないでしょう……

■その他
・皆さんは一人ずつ、依頼人ハウバーグ氏から爆薬を支給されています。(計六つ)
・二個までなら一人が持っても重くないですが、三個以上持とうとすると重いです。
・四つ同箇所で起爆させると船への工作として十分な威力があります。

・ただしこの爆薬、使わなくてもいいです。攻撃スキルなどを何度も打ち込めば同じような効果は出せるでしょう。

・本依頼は顔がバレたら鉄帝の悪名が入る可能性があります。
・フードなどを被ってれば防げます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • Sabotage完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月22日 23時40分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ボルカノ=マルゴット(p3p001688)
ぽやぽや竜人
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
イスナーン(p3p008498)
不可視の

リプレイ


 ――国家の間に友情はない。

 そんな言葉を言ったのは、さてどこの誰だったか。
 鉄帝と天義は――少なくとも今戦争を行っている様な間柄ではない。だがそれは必ずしも友好的である事を意味する訳では無く、時と場合が合えばいつだって争うだろう。以前に幻想と鉄帝が。鉄帝と海洋が争ったように。
「……全く、出来れば協力し合いたいものだが、そう簡単にもいかないか」
 故郷。天義の事を考え『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は思わず苦笑う。
 仲が良ければそれに越したことはない。彼らと握手できる間柄であればどれだけ気が楽だったろうか――だが、現実として『そう』いかぬのであれば仕方がない。
 ならば後は依頼として。そして何より祖国の為にも。
 極力穏便に事を成していくとしよう。

 見据える先にあるのは――件の鉄帝基地。

 これよりは鉄帝領内。見つかれば侵入者として捕らえられるが必至の領域。
「……軍事基地にあるお船を程々に壊すってちょーっと。いやちょーっと以上に物騒なお仕事の気がするけど、わたしちゃんとやれるかしら……」
「ハハハ。まぁここを全部破壊しろ、ていう依頼じゃないであるからな。やりようはあるというものである!」
 中々に緊張というか心臓の鼓動を止めれぬというか……不安に満ちる『揺蕩』タイム(p3p007854)であるが、ここまで来た以上もはや退けるようなタイミングではないと『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)は思考する。
 破壊工作。ああバレればきっとただでは済むまい。
 故に正体が分からぬ様にフードを深くかぶり直し、常に影の中へ。
 様子をまずは伺う――侵入は慎重に、だ。
「……ったく、また面倒事か。天義も鉄帝も部外者から見りゃどっちもどっちだがな」
 ま、雇われた方の意向にゃ沿おう――と。『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)はサイバーゴーグルを用いて闇夜の視界を確保しながら進む。
 部外者であるからこそ政治的信条はどちらでも良い。雇われたならそれに従うまで。
「ああ全くその通りです。これは仕事。これは依頼……それだけの話」
 イスナーン(p3p008498)もレイチェルと同様に。
 天義だの鉄帝だのと言った枠組みはどうでも良いのだ――依頼主が『そう』望むのであれば『そう』するのが吉。
 頭巾をかぶり顔を隠して。忍ぶ足取りは音を掻き消す。
 段々と近付いてくる鉄帝基地――思わず誰かが固唾を呑んだ、その時。

「おほほほほ。さ、腹を括って参りましょうかね!
 なぁにこの私――革命仮面の力をもってすれば船の一隻や二隻、酒代へと変えてみせますわ!」

 その、時。
 恐らくこの中でも最も意気揚々と依頼に挑んでいるのは一人の女性。
 怪しい仮面で顔を隠し、高笑い。と言っても声は静めているが……とにかく。怪しさ満点の雰囲気を醸し出している彼女が名乗るは『革命仮面』たる名。おのれ革命仮面……! 一体何『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)なんだ!! アル中仮面の間違いじゃないのか!
「ちょっと。なんですの今の天の声は! アル中仮面って酷すぎません事!!?
 それに私はヴァレ、ごにょごにょじゃなくて革命仮面ですわよ!」
 ついに本物のテロリストになる革命仮面はどこぞへ抗議しつつも、いつもの赤い十字架などは服の中に仕舞いこんでいる為、一見してはヴァレごにょごにょさんには見えない事だろう。夜の視界をゴーグルにて確保しながら……サイバーゴーグルも付けるとガチモンのテロリストみたいですね。
 ともかく、往く。此処から先は気配厳禁。
 目標は鉄帝鋼鉄船――その、一部の破壊である。


 今回の目的において重要なのは直接の戦闘能力ではない。
 武に頼ろうとするならばむしろ敵の数にどうしても抗えぬ事だろう……小さいとはいえここも軍事施設。故にイレギュラーズ達は発見されぬ事、哨戒中の敵を発見する事。そしてその中を進む事――それらに特化した策を練っていた。
 到達しさえすれば提供された爆薬が十分な威力は成す。
「――ま、それまで話すのも控える必要があるのは、これまた面倒だがな」
 言うはレイチェルだ。内部へと侵入した彼女は忍ぶ足で足音を消し、眼前の壁を見通す目を持って敵を索敵する。共に行動するはボルカノと革命仮面で、二人はそんなレイチェルの後に付くように立ち回る。
 無論これは隠密が大事であれば言葉も厳禁だ。足の音を消しても気配を悟られれば意味がない。
 故に予め決めておいたハンドサインを頼りに無音を心掛ける。
(あまり複雑な意図まで伝えるのは難しいであるが、敵がいるかいないか、安全かぐらいならハンドサインでも十分であるな……!)
(ええ! ハンドサインはシスターの嗜み! これぐらい余裕ですわよ!)
 本当であるか~? ともあれハンドサインによる意思疎通は問題なく。
 レイチェルが前方を索敵し、ボルカノ達が周囲を警戒。目視、物音、敵の声……気を付けるべき要素は幾らでもあるのだ。鉄帝兵達の警備は勿論いるが、まさかイレギュラーズが侵入しているとは夢にも思っていないのか、付け入る隙は必ずあり。
(勿論証拠品って言うか、持ち物を落としたりするなよ。後でどんな追及があるか分かったもんじゃねぇからな)
(勿論合点である!)
 段々と船の方へと近付いていく。コンテナの影に隠れ、小声でレイチェルが二人に意思を。
 さればボルカノは懐に大事そうに抱えている――爆薬を一度確認。
 彼が持つのは一個ではない。二個だ。一度班を別けたリゲルから爆弾を託され、それをボルカノが持っているのである。二個までなら一人が持ってもそこまでの重さを感じる物ではない……これを船に仕掛ける事が出来れば……
(うっかり落とすのも無しですわよ! 私達纏めて爆死しちゃいますからね!!
 ……おっと。ちょっとお待ちを。警報装置がありますわ――それを解除していきますわね)
 そしてヴァレーリヤ、あ。革命仮面さんが少し先に警報装置を発見。
 うむ、シンプルなタイプの様だ。鍵無しで扉を開けようとすると一気に鈴か何かが鳴り響く様で……しかしこうもあろうかと罠には注意していたのだ。素早く感知し、解除しようと……ん、あれ。結構難しいな……こう……くっ……
(――ゼシュテル式解除術の出番ですかね。あッ、せーのっ!!)
(わー!! 待って待って待つのである!! 拳はマスターキーじゃないのである!!)
(どこぞの旅人の国じゃあ斧がマスターキーとかいう逸話を聞いた事あるな……とにかく、向こう側の班は無事な事かね……)
 冗談ですわ! 解除! 解除できましたから! と思わず止めたボルカノにヴァレーリヤは紡ぎ。別方向から侵入している――彼らは順調かと、レイチェルは空を見上げる。

 空は月が出ていた。

 満月ではないが、美しい。
 落ち着ける環境下であったならもっとじっくり味わいたい所だったが。
「そうもいかない依頼ですね、これは」
 やれやれと、頭巾を被り直してイスナーンは基地の中を進む。
 工作者たる才知を持つ彼は闇夜の移動に適している。彼の耳は周囲の音を鮮明に。足音は聞こえず、素早き移動を可能として。
 目指すは船の指令室――そこの一室を吹っ飛ばしてやれば十分に依頼達成と言えるだろうと。
「なんとか、ここまでは来れましたね……船まではもうちょっと先でしょうか?」
「ええ。恐らくそう遠くはないかと……おっと少しお待ちを。鉄帝兵が通ります」
 そしてタイムは比較的後方の位置に居ながら、林の中を進んでいた時に拾った木の棒で簡易の飛行と成す。戦闘をするには適さぬが、薄く飛んで足音を消すには十分だ。タイムは後方からの気配に注意しつつ――リゲルは透視の力を持って前へと進む。
 こちらにある爆薬は二個。ボルカノ達に一個託し、向こうは四個。
 最悪こちらが発見されても向こうの班が事を成せば――破壊工作としては十分。
 ああ勿論こちらも発見されず辿り着ければ最上だし、見つかってやるつもりなどない。今の所は順調に進めている……だが内部に行くにつれて基地内部を歩いている敵の数は多く、警戒するべき要素は増え続けているが。
「……こっちは大分隅の方だと思うんだけれど、兵士さんが多いですね」
「大分中に入ってきた、という事でもあるのでしょう。ここからが本番ですね」
 まだ見つかっていないが自分たち以外の足音が聞こえる度にタイムは冷や冷や。イスハーンは周囲を警戒しつつ、彼女の言に応えて。
 しかし……侵入前から今の今まで、やはり緊張の糸は解けないものだ。それはタイムの気質故か――どうしても慣れるものではない。汗が出る訳では無いが喉の奥が渇く様な感覚がいつまでも付きまとい、見つからぬかと心の臓の鼓動は段々早く。
 少々慣れぬ場所に来てしまっただろうか――そう思う度に頭を振る。
 それでも共に来た皆の為に少しでもと。思考を止めず、施設の『隙間』が無いかと知恵を振り絞る。記憶したルートをもう一度思考しながら――こちらは警備が薄い方なのでは、と。
「むっ……流石に動きづらくなってきましたが……これ以上ここに留まっている訳にもいきませんね。ある程度はリスクを承知の上で動くべきですか」
 それでも、やはりずっと潜んで動き続けるのにも限界があるものだ。
 イスハーンの目に映るのは途切れぬ鉄帝兵達……まぁここは彼らの庭でもあるのだ。巡回目的でなくても基地をうろつく者もいたりする、か。
 しかし予測していた事でもある。『敵を事前に見つける』だけでは突破できぬ、と。
 故にイスハーンは林の中の折に確保していた小石を取り出す――その手中に収まる程度の石を、しかし地を這う様に腕を回して。
 投擲。
 高速にして足元を進むソレを、警戒していない者が気に掛けられようか。兵達の間を通り過ぎて、彼方で音を鳴らす。一つ、二つ。さすれば。
「目が逸れましたね……今だッ」
 何事かとそちらに向かう鉄帝兵――さればリゲルの小さな声と共に影を駆け抜ける。
 あちら側のコンテナの影へ。さすれば段々と近くに見えてくる、目標の船。
 ある意味でこの任務は『戦う』よりも遥かに難しい。緊張の連続は体力ではなく精神を削り。
 それでも。
「……父上」
 空を見上げてリゲルは呟く。
 彼の父――シリウス・アークライト。どのような状況下であれ知力と武力をもって任務を成し遂げてきたと聞いている。もしかすれば……父上もこのような任務に従事した事があっただろうか?
 天義の為。仲間の為。民の為。
 国の業を呑み込んだ――あの人は。
「……」
 もうその口から語られる事はないけれど。
 それでも……俺は父上の背を追いかけると決めた。
 母国を護るべく。人々の剣と成り、盾となるべく死力を尽くす。
 ――それに迷いがあろうものか。
 天義は俺の祖国だ。生まれ育ち、冠位の悪意すら跳ねのけた自慢の故郷だ。

 足に込めた力がより強靭に。意思を奮い立たせて前を向かせる。

 あと少し。あと少しだ。こんな所で立ち止まってなどいられない。
「必ず」
 依頼を果たす。天義の領主から出された、願いを。
 想いを胸に。研ぎ澄まされた精神は自然と息を整え――彼の目に闘志を抱かせる。
 雑念を払い思考を清浄に。

 さぁ行こう。

 何が在ろうと必ず乗り越え――成し遂げてみせるから。


 あらゆる警戒と技術を駆使して彼らは進む。
 これが大規模な基地であれば望んでもそうは進めなかっただろうが――ここは小規模にして僻地ともいえる場所に存在している。故に警戒の目には穴があり、それを彼らは見つけ進むのだ。
 そして、船の方に先に付いたのはボルカノ達。
 レイチェルの透視による索敵や――場合によっては物質透過による身隠し、迂回。革命仮面もまた簡易飛行の術を持って時にコンテナの上などの『死角』に陣取って。
 それらをもって時に敵を背後から昏倒させる。
 ハンドサインの術も駆使していた彼らは静かに、確かに船へと進んで。
「――さぁ革命のお時間ですわね」
 そして仕掛けられていた罠――警報装置の数々を巧みに解除したアル中仮面は意気揚々と目を輝かせる。船の出入り口付近も警戒していたが……この辺りには無いようだ。中心部と言っても良い場所であるが故、不要としているのだろうか。
「しかしここからが重要であるな……爆破も順調だったとしても、そこからの脱出もしっかりとしないといけないである!」
「捕まっちまってどこの誰だと尋問されるのは御免だしな――さて、と」
 ボルカノとレイチェルが警戒を怠らず船へと侵入する……
 甲板上へと目を走らせるが、人影はない、か?
 それなりに広い船だし反対側まで見れている訳では無い。慎重に、慎重に進むとしよう。
 暗き場所すら見通す目と共に。
 目指す指令室は――どこだ?

「ぬぁ、貴様ら一体何者――」

 その時だ。内部に入ろうとして鉢合わせたのは敵の兵士。
 警戒の目から漏れたか――ッ!? 故に動いたのは神速ともいえる速度。
 レイチェルの右半身の術式が解除される。膨大な負荷が彼女の身に掛かるが、代わりに得るのは瞬間的な超常域。自らの血液を媒介に顕現した魔術の一端が、敵の腹部を射抜く。
 されば出すはずの声は思わず吸い込まれ、そこへボルカノの赤き爪もまた。
 防御を貫く一閃を共に。即座に昏倒させれば見つかろうとも些事である!
「あっ、どッせ――いッ!」
 トドメとばかりにヴァレーリヤのメイスの一撃が大天上より振るわれる。
 頭部一撃。頭の上に浮かぶ星が、兵士の意識を奪って。
「――ふっー。危ない所であるな……!」
「船にも最低限の人員がいます、か。ぼやぼやしている暇はありませんわね……!」
 とはいえ見た限り警戒態勢万全と言う程の人の気配は感じない。
 恐らくそう多くはない……夜勤か何か程度の人員だろう。近くの部屋に気絶した者を運び込み、周囲に先程の騒ぎが伝わってない事を確認すれば――再開する。
 後は分かれたタイム達とも合流出来れば幸いだが……

「――よし。辿り着きましたね……!
 扉は任せてください。鍵を一秒で開けるなんて、女の子の嗜みだから……!」


 噂をすればなんとやら。ヴァレーリヤ達が内部を進んでいる頃、タイムたちも船へと到達していた。流石に各所の扉は閉まっている所も多く、さてどうやって中を的確に進んだものかと頭を悩ませる所だったが……なんと手際の良い事か。一瞬目を話した隙に既にタイムの手により扉は開いていた。うそぉん。
「……え、なんですその顔? え、女の子の嗜み……違うの?」
「…………いえひとまずこれで指令室まで順調に進めそうですね……!」
 え、えっ? という困惑の顔をするタイムへ意図的に返答はせず、イスナーンは内部に耳を立てる。
 人の気配がないか――足音がないか――
 ここまで来たのだ。あともう少し。
「――おっと。なんだリゲル達かよ。鉄帝の兵かと思ったぜ」
「ああレイチェルさん、そちらもご無事で」
 そしてついに向こう側の班と合流出来た。
 どうやら既に爆薬を設置している真っ最中の様だ……ならばと持ち込んだ爆薬をリゲル達も設置。これを起爆させれば――流石にもう隠密がどうだのと言っていられる状況ではないだろう。
 後はどれだけ迅速に逃げれるか、だ。
 破壊工作は家に帰るまでが破壊工作です。と言う訳で――

「たーまや――ッ!!」

 距離を取った革命仮面が――革命の狼煙を挙げた。
 遠距離から放たれた一撃が爆薬に直撃する。一発だけではない。タイムの放った炎の魔術も加わればより強力に。であれば生じる結果はただ一つ。
 ――爆発だ。巨大すぎる訳では無いが、かといって小さい訳でもなく。
 確かに灯っている爆炎の渦。
 基地がいきなり慌ただしくなる。急速に灯りが船に向けられ、走る気配はああ幾つも。
「さー! 海の方から脱出しますわよ、急いで!! 囲まれたら終わりです!!」
「うう。海神様……どうかご加護、を……!」
 もはや陸地の方から逃げるのは無理だろう。先程までとは状況が違う。
 故に海へ。ヴァレーリヤは飛行の術を用いながら敵の包囲が無い方へとにかく全力。
 タイムは――一度、夜の海を見据える。
 暗き、闇の如き海。夜の此処はまるでどこまでも引きずり込みそうな『圧』があって。
「――!!」
 それでも一滴の勇気と共に。
 彼女は跳び込む。不気味なりし夜の海に――
 泳ぐ。泳ぐ。只管に。
「ぬぁ――! もっと深く! もっと深く往くであるよ――!! 見つかってるである――!!」
「チッ、流石にそう簡単に逃がしてはくれねぇか……!!」
 それでも侵入者たちが逃げるとすれば海の方だと既に目算が付いているのか。
 陸の上から船の上から投じられる射撃の数々が彼らを襲う――
 流石に見えてはいないだろう。しかし勘とはいえ『物量』があれば関係ない。一発でも二発でも侵入者に当てて、その痕跡を探す。息継ぎに顔を出したならその時が集中攻撃の時だ――とばかりに。
「だが、させるか――ふッ!!」
 瞬間。海面近くのリゲルが一息と共に放つのは抜き身の一撃だ。
 黒き星が如き断罪の斬刃。敵の攻撃に合わせて放つようなソレが、闇夜の射撃を妨害する。
 必ず全員で脱出するのだ。一人たりとも欠けさせてなるものか!
 きっと父上なら諦めていない。
 仲間を見捨てる様な事があろうか。騎士とはきっと――そういうものなのだから!
「このまままっすぐ……! 沖の方へ出れます! 急ぎましょう!!」
 水中での呼吸の術を宿すポーションを飲み干したイスハーンはとにかく海の底へ。
 敵の手が届かねばなんとでもなるのだ。海面の方を振り向けば――そこにあるのは成した成果。
 水の影響で揺らめく様に見える赤き光景。

 船が燃えているのだろう。指令室を吹っ飛ばしたのだ……
 まぁやはり全力で用いても船全域に影響を及ぼす様なモノではない。きっと鎮火され、暫くの後には戦域に復帰するのだろう。あの船は。

「それでもやりましたわ……! おほほほほ! これで明日の酒代ゲット! いやぁ鉄帝の船を吹っ飛ばして飲むお酒はきっと美酒で――あっ! 痛い痛い痛い! 回り込まれますわ急いで――!!」
 簡易飛行と優れた行動力で距離を取っていたヴァレーリヤだが、辛うじて敵の攻撃が届く範囲だったようだ。簡易の飛行は飛行と違う故、すぐに落とされそうになって……泳げないのですわー! 故にそれでも諦めぬ。
 激しい追撃。全力の逃亡。

 そしてついに鉄帝は侵入者たちを捉える事――叶わず。

「ぬうう……おのれぃ!」
 基地の指揮官は地団太を踏む。一体どこの輩なのかと。
 逃げられた以上正体は掴めないものだ。

 警備に気付かせず鮮やかに事を成した――彼らの事は。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れさまでしたイレギュラーズ!

 オーダー通りダメージを与える事に成功しました。
 これで依頼人の目的通りの効果は得られたことでしょう……
 様々な非戦の活用、素晴らしかったと思います!

 それではありがとうございました!

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