PandoraPartyProject

シナリオ詳細

備えよ、常に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●廃砦の夜盗は夜の霧と消える
「まったく、神使サマとやらが来てからっていうもの、コッチの商売がやりづらくなったもんだ……」
 ここはカムイグラ。
 交易路の途中にある砦のひとつ。
 昔は国の警備などがいたものだが、人が減るにつれ手入れが及ばず、今はうち捨てられた砦であった。
 旅人や、ときに夜盗のねぐらとなっている。
 そして、今日は夜盗のものであった。
「あんまり派手にやるとお上に目をつけられるからなぁ、ほどほどがいいってもんよ」
 酒をあおって手をついた男。
 右手に、なにかべとべとしたものが付着した。
「げえっ、なんだこれ。おい、蜘蛛の巣か? ……掃除サボってんじゃねぇのか? ええ?」
「すみません、ボス!」
「くっそ、酔いが冷めちまったぜぇ……」
 ふらふらと立ち上がって外へと至る。
 だが、妙に静かだった。
「おい、見張りはどうした? おい?」
 いつもなら、酒を飲みながら外で見張りをしているはずなのだが。仲間が居るはずのところにはただ暗闇があるばかり。
 なにかが、おかしい。いや。
 夜盗は違和感を握りつぶす。酔っているせいだ、と。
 砦の中から、悲鳴が上がった。
「ぼ、ボスう!!!」
 仲間の声は、ずいぶんと頭上から聞こえた。
「何?」
 なんと、仲間が糸でつられているではないか。
 暗闇から覗いたのは、いくつもの赤い目だ。
「ひいっ、蜘蛛だ!」
「「う、うわあああーーー!」」

●護衛の依頼
「この交易路の護衛をお願いしたく」
 曰く、この交易路は夜盗が出ることで避けられていたのだが、何らかの原因で夜盗が消えたというのである。
「ちょうど高天京と村々を結ぶ地点のまんなかでして、補給には都合のよい場所です。コッチを通れるならば3日早い。
時は金なり、安全が確保されたってんなら通りたいって言うのが本音です。
平和なのはいいんですがね。おそらく何らか、……夜盗が消えた理由がありそうです。
実入りがなくなって、あそこを捨てた、というならまだいいんですが。
何か脅威があるとみたほうがいいでしょう。
そこで、皆さんを頼らせていただいたわけです」
「わたくしたちにおまかせくださいませ!」
 御天道・タント (p3p006204)が指を鳴らす。
  \きらめけ!/
  \ぼくらの!/
\\\タント様!///
 すかさずの唱和は一糸乱れず、拍手喝采が降り注ぐ。
「うおっまぶしっ」
 割れんばかりの拍手喝采に商人は目を白黒させている。
「護衛って8人じゃありませんでしたっけ?」
「多い分には良いのでは?」
「いやでも8人ですよね?」
「ふふ~ん♪ お仕事はきっちりしますよ♪」
 紅迅 斬華 (p3p008460)は、巨大な首刈り用の鉈をくるくると回して微笑んだ。ポニーテールがふわりと揺れる。
 只野・黒子 (p3p008597)は知っている。念入りな準備の大切さというものを。
 何かある。そう思って行動するのが最善だ。
 この依頼についてだってそうだ。
 依頼に裏がないかどうか、信頼できる相手かどうか、素性すら調べ上げ、確としてある。
 だからこそ、この依頼の情報精度は高い。
「何もなければいいんだけどな」
 三國・誠司 (p3p008563)は、そう言いつつも、なんとなくいやな予感はしていたと思う。何もなく終わるだろうとは思えない。
「……」
 R.R. (p3p000021)は、色濃く漂う破滅の気配を感じ取っていた。

「そちらの方々もよろしく頼……」
 一瞬、商人は絶句した。
 アシェン・ディチェット (p3p008621)、グリーフ・ロス (p3p008615)が佇んでいる。
 ラムダ・アイリス (p3p008609)もまた、およそ欠点の一つもない少女に思えた。
 狂いなく、まるで絵のような光景。
「ご安心ください、護衛を務めます」
 アシェンが小首を傾げ、グリーフが口を開く。流暢に流れる言葉に、人間味を感じ取ってほっとした。
「うん、まかせて」
 まるで人形のように美しい。完璧な調和だった。
 だが、その受け答えは人間のもの。
 人形に見えるなどと。
 なんと愚かな思い違いをしたものだろう。商人は汗を拭いた。
 神使というのはこういうものなのだろうか。
 ただの商人は、イレギュラーズたちの本当の姿を知らない。

GMコメント

ご指名ありがとうございます。布川です。
蜘蛛がわらわら湧いてきますのでなんとかする依頼です。
よろしくお願いします。

●目標
・女王蜘蛛の退治
・商人の生命・財産の保護
 建物内にいることもあり、普通に戦っている分には問題がなさそうです。
 馬が外にいるのが心配です。

 品物は普通の補給品であり、日用品のようです。燃えやすかったり、取り扱いに困るものなどはありません。
 売買用ではない、旅支度のためのものも一式あります。

●状況
 夜明け前、何事も起こらないかと思えばそんなことはなく、砦の外からやってくる蜘蛛の襲撃を受けます(でも、備えてますよね!)。
 砦から先制攻撃も可能です。
 ちょっと視界は暗めです。

●敵
 女王蜘蛛
  蜘蛛たちを束ねる女王蜘蛛。どうやら固有種が異様な凶暴化をしたもののようだ。
  子蜘蛛を生み出して、子を補助し、回復する補助的な役割をもつ。
  動きは鈍く、体がでかい。
  ゆっくりと巨体を進めて近づいてくる。
  女王は、巨体ゆえに砦の壁を登る事はできない。
  女王を倒すと子は無力化される。
  耐久力が高い。

 子蜘蛛×たくさん
  小さな兵隊たち。
  女王を守るように戦う。
  壁を伝って登り、砦内に侵入してくる。
  中距離から糸を吐いたり、噛みつくなどの蜘蛛らしい行動を行う。
  獲物は生き物全般。食べ物もあれば狙うかもしれないが、生き餌<一般的な食べ物のようだ。
  知能は乏しく、動いて生きているものを何でも狙う、という動きをする。耐久力は低め、火力が高めの突撃系。

  いずれにせよ光、熱には弱いようで、観察すれば若干避けるような動きを見せていることが分かる(弱体化する程度です)。

●砦
 少し高い見張り塔があり、ぐるりと囲むような塀がある。塀に登ることも可能だろう。内側に屋根のある建物があり、商人たちはそこに避難している。
 屋外の近くには馬。
 正門、裏門があるが、裏手の出口は小さく、女王が出入りできるものではないので実質気にしなくても大丈夫。
 女王蜘蛛は正門をあけようと体当たりを繰り返している。
 子蜘蛛たちは塀から壁をよじ登って侵入できる。動きと移動力は遅め。

・夜盗の残骸
 人がわりと最近までいた気配があるのに蜘蛛の巣が張っていたり、調べればそれらしい痕跡が見つかります。
 たき火のあとには蜘蛛があまり近寄ってないこともわかるかもしれません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 備えよ、常に完了
  • GM名布川
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
紅迅 斬華(p3p008460)
首神(首刈りお姉さん)
三國・誠司(p3p008563)
一般人
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
アシェン・ディチェット(p3p008621)
玩具の輪舞

リプレイ

●PHASE1.事前準備
「暫しお待ちください。安全を確認して参ります」
『その色の矛先は』グリーフ・ロス(p3p008615)は、武器を構えて砦の中へと進んでいった。
「給金分のお仕事をこなすのは当然だよね~」
「いったん、ここで待っていてくださいね♪」
『流離の旅人』ラムダ・アイリス(p3p008609)と、『首神(首刈りお姉さん)』紅迅 斬華(p3p008460)がそれに続いた。
(みなさん慣れているのね。ちょっと安心かもだわ)
 護衛に回る『玩具の輪舞』アシェン・ディチェット(p3p008621)はほっと胸を撫で下ろす。
「ふーむむ。何事も無いと良いのですが……。嫌な予感がぴかぴかしますわね!」
『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)が輝きながら思案していると、暫し黙っていた『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)が口を開いた。
「……聴こえた、破滅が来る」
 R.R.のギフトは、R.R.に破滅の予兆を知らせていた。
「備えが必要だ。来たるべき破滅に飲み込まれぬ為に」

 砦の中は、想像した以上に静かだった。
 暗闇を難なく見通すグリーフ。
「……生活痕はありますが、火の元を離れると、ずいぶんと蜘蛛の巣が多いですね。それも、新しいもの……でしょうか? 人が出入りするでしょう砦に、こんなに?」
「ふ~ん、明らかに何かあった後みたいだけど……はてさて?」
 少なくとも、今、目立った危険はなさそうだ。
 しかし、違和感は強く残る。
「う~ん? 静かすぎるね……普通は獣也虫也の気配みたいなものが感じられるものなんだけど……気付いてる? この砦の周囲だけ妙に静かだと思うのだけど?」
「いやー、なんもないわきゃないよね」
『砲使い』三國・誠司(p3p008563)はがれきをどかし、傍らにあった竹箒で、黙々と砦内の掃除をするのだった。

「いきますわよー!」
 \\\タント様!///
 コール&レスポンスをしながら、タントとアイリスが門の開閉を確かめている。二人でも十分そうだ。
「うん、問題なさそうだね」
「タント様に不可能はありませんわー!」
「一つのミスで大きく歪むから、神経使うんだよねぇ」
 あらかた砦内の掃除を終えた誠司は、その過程で出たゴミやがれきでバリケードを築いていった。
「っと、こんなところかな。あとは馬か……」
「夜に襲撃……やはり危険があるとお考えですか」
 商人の言葉に、誠司は頷く。襲撃は、「外から」というのが結論である。
「それで、合図がこの……」
 誠司は星夜ボンバーを炸裂させる。爆発音と同時にきらきらと星が飛び出すパーティーグッズである。夏にはぴったりだ。
「呼びましたわね!?」
 きらきらに惹かれてやってきたタントだった。じゃん、と指し示す見張り台には見事にボンバーが設置されていた。
「いい感じだね。この音が聞こえたら、僕らが呼ぶまで外に出ないでほしい」
 わかりました、と神妙に頷く商人であった。

 この場所で、一番空に近い場所。
「気持ちいいわね。食事もここで取るのはお行儀が悪くないかしら!」
 見張り塔の上でディチェットは風に目を細める。ふわりとしたドレスと、ウェーブのかかった髪が揺れる。
 グリード・ラプターを携えていたR.R.は朽ち果てたマスケットを構えた。
『群鱗』只野・黒子(p3p008597)が手をあげる。合図に従って、地上へと発射する。
「んー、結構届きそうね。死角はあるけれど……」
「あそこまでか」
「ありがとうございます、把握できました」
 黒子は射線を確認し地面に印をつけてゆく。

●PHASE2.静寂
「いくよ、せーの」
「オーッホッホッホッ! 迎え撃つ準備は万端ですわー!」
 アイリスとタントはせーので門を閉め、かんぬきをかけた。
「古い設備ですが、まだ十分に使えそうですね。頼り切ると心許ないのですが」
 黒子が、門の強度を確認している。
 夜襲に備え、塀の傍に篝火が配置されていた。
「お姉さんは、商人の人たちの護衛だよ♪」
 斬華の立ち振る舞いは「優しいお姉さん」といったところではあるが、その身のこなしはただ者ではなく、腕が立つのは十分に察せられることだろう。
「ちょっと狭いけど、我慢してね」
 作ったスペースに馬を繋ぐ誠司。
「お気持ちはわかりますが、少しばかり辛抱をお願いします」
 少々不満そうな馬を、グリーフが優しくなだめた。

 手早く動いたおかげで、準備が全て整うのは、思いのほか早かった。
「それでは、休憩ですね」
 本命の時間は、夜襲の常道である夜明け手前。
 一同は見張りを残して、しっかりと休息をとることになった。
「掃除だけでも大分良い汗かいたよ」
「睡眠不足はお肌の敵ですわー! 輝ける太陽が必要になりましたら、呼んでくださいませ!」
「望遠こそ出来ないが……夜警ぐらいは出来る」
「私も夜目が効くわ」
「俺も、大丈夫だ」
 R.R.とディチェット、そして誠司が見張りの順を確認する。
「ボクは寝なくても平気」
「同じく。ご一緒いたします」
 アイリスとグリーフがたき火を囲む。
「本当に交代しなくても大丈夫?」
「ええ」
 グリーフが無感情にも見える表情のまま、少しだけ首をかしげて、アイリスもどこか面白がる視線を交わす。
「どうぞ」
 温かい茶を入れた黒子が、ついでにと皆にも振る舞ってくれた。
「あったかいね」
「ええ……これはあたたかい。人は、温度が適度に高い飲み物を飲むと……よく眠れるのですね」
 仲間たちの早い者たちはすでに寝入っている。
「これが終わったら、美味しいものでも食べたいなあ」
「京についたら、どこかお店を紹介いただきましょうか」

●PHASE3.迎撃
「んん……。交代、ですね」
 夜を徹していたディチェットが、誠司を起こす。
「ん、おはよう。交代しようか。君も?」
「ううん、ボクは本当に大丈夫だよ」
 ディチェットが起きたとき、アイリスとグリーフはまだ起きていた。
 というよりも、ほんとうに寝ていないのだろう。R.R.が交代で寝るはずだったのだが、彼はそのまま立ち上がって、周りを起こすと、「来る」と一言。見張り塔へと去って行った。
「夜襲のようですね」
 黒子が配置につく。
 ディチェットアイリスがふわりとマントを翻し、掘の上へ。夜に溶けるように一瞬、見えなくなる。
 何かしたのだ、と端から見ていてわかったのは、小さな影がのけぞってはじけとんだからだ。
 蛇腹剣 "咎喰"の変則攻撃だ。
 ぱあ、とあたりが明るくなった。
 闇夜にこそこそと動く盗人を、正義の味方が照らすがごとく。
「オーッホッホッホッ!
まるで蜘蛛の子を散らしたような騒ぎですわね!」
 輝けるタントが塀の上にいた。
 パチン、と指を鳴らせば、いつもの三唱。
「良いでしょう! このわたくし!」
  \きらめけ!/
  \ぼくらの!/
\\\タント様!///
「──が! 蹴散らして差し上げますわー!」
 グライダースパイダークルセイダーポーズでの着地を決めれば、割れんばかりの拍手があたりを包み込む。
 太陽を父に持ち、太陽の血を継ぐタント様が齎す光。
 現れたのは蜘蛛の大群だ。
 とろけるような黄金色に、蜘蛛程度の知能が理解できたはずはないが、それでも。まばゆい光に蜘蛛はおののき、進路を変える。
「どうやら、明かりが苦手なのですわね! いいでしょう、相手になりますわ!」
 ようやくわかる敵の輪郭。
 無数の子蜘蛛に……親玉とおぼしき、巨大女王蜘蛛の姿だ。
 扉に体当たりをかます巨大な塊。
(子蜘蛛を多少蹴散らした所でキリが無い、であれば頭(かしら)を狙う他にあるまい)
 R.R.は朽ち果てたマスケットに包帯を巻き付けた。
 無数の破滅。鎮魂礼装【エコー】が、破滅を帯びて手になじみ、禍々しい気配を増した。
「俺は俺の役割を果たそう……来い、破滅。そして滅びを知れ」
 呪われきった魔弾が、一直線に女王へと至る。苦痛にもだえる女王蜘蛛は苦痛にもだえて声を上げた。
「よし、上手くいってる……」
 誠司は、耳を澄ませる。
 四方八方からの襲撃。
 バリケードの目的は、「突破されないこと」ではない。敵を分散させ、そして、並べ。少人数でも対処できるようにすることだ。
 勝負は、準備から始まっていたのだ。
 たいまつを片手に火をともして回れば、津波のように押し寄せる蜘蛛の動きに偏りが生まれる。上手くいっている。
「ボスが12時方向、あと、3時と10時から来る! 4時方向に少しずれてく……誘導できるかな?」
「承知いたしました」
 グリーフは、魔晶式信号弾に魔力を込めて放った。馬は幸い、おとなしい。
 黒子の砂縛。
 空間がゆがみ、子蜘蛛が不自然な落下をする。重力以外の力が働いている。
「進路をそろえました。10時方向、処理をお願いします。1匹があきらめ、迂回しています」
「はい!」
 ディチェットが聖夜ボンバーを起動する。
 派手な爆音に追い立てられる子蜘蛛。
「そっちは、袋小路」
 狙いを外すはずもない。ディチェットが、子蜘蛛に陳腐なバラッドを叩き込んだ。

●PHASE4.抗戦
 アイリスの動きは鋭い。小柄な少女から繰り出されるとは思えないほどの力で、子蜘蛛が払いのけられ、たたきつけられる。
 数が多いとみるや、一振り。刃の軌道を変えた。
 蛇腹剣が炎上する。刀身に、発火性のある猛毒が塗られているのだ。……ほんのわずか操作を変えることで、発火の条件を満たしたのだ。
 そんなことが可能なのだろうか?
 可能だ。アイリス型魔導機巧人形11號であれば。
 周りの子蜘蛛は逃れようとあがいたが、食らった者はふらふらと、むしろ、まるで灼熱を受け入れるがごとく呆然として、そしてそのまま。2倍の火力で焼き切れた。
 暗闇に浮かび上がった炎のムチ。
 燎原之焔と、人は呼ぶ。
 光を厭う子蜘蛛が、そのまま闇に飲まれて消えた。黒子の奪希が、ほんのわずかな光と熱を奪った。
 R.R.の砲身の先、うごめく女王の姿があった。
「捕らえた……」
 R.R.のナイトメアバレットが、夜明けのわずかな暗がりを、黒く塗りつぶして飛んでゆく。ありとあらゆる厄を与える。
 災厄を。
 それを皮切りに、毒を、窒息を、苦鳴を。女王の大きく振りかぶるような攻撃は、明らかに勢いを弱めていく。空振り。
「蜘蛛の糸ごときが、このわたくしの動きを止めることなどできるはずがありませんわー!」
 きらめきポンポンがはじけるように揺れる。タントの太陽の系譜が、蜘蛛の糸を焼き切る。大声は朗々と響き渡る。
 ハイ・ウォールで守りを固めるグリーフが、一瞬、見張り台を見て後退する。
 ディチェットが頷いたのが見えた。
 間隙に、なだれる子蜘蛛。
 だが、そこは射線の上だった。ディチェットのプラチナムインベルタが降り注ぐ。あっという間に子蜘蛛が消えた。グリーフは蜘蛛に立ちはだかる。
「大分減ったけど、ちょっと数が多い、か」
 蜘蛛が糸を吐き、雪崩るように隅のたいまつがひとつ、消えた。
 代わりに。
 誠司は暗闇で大筒を構えた。
 砲身がずいと伸び、一瞬にして蒼き炎の弾丸が一直線に飛んでいった。
 御国式砲術伍の型・炎獄発破。
 文字通り子蜘蛛を消し飛ばした。
 運良く逃れた2匹の蜘蛛も、何もなすすべもなく、燃え尽きていくことしかできなかった。たいまつに灯った炎は蒼である。

 焼かれた先陣を追った子蜘蛛は、目標をとらえきれずにとどまる。
 塀の上からアイリスが消えた。
「……このサイズは流石にドン引き……」
 そして、暗がりから、彗星のごとくアイリスが現れた。尋常ならざる加速。その全てを威力に変えての、ブルーコメット・ツインストライク。
 不意打ちを食らった女王は怒りの声を上げた。
 だがその牙は、アイリスの装甲を貫けない。薄く、ひらり、ひらりと舞うはずの、少女の装甲は威力を殺す。
「10時方向、お願いします」
 黒子の奪希が、蜘蛛をはじき落とした。それと同時に、素早く指示を出す。
 範囲に獲物が見当たらなくなったディチェットが、塀へとひらりと舞い降り、そのさなかでカルネージカノンを放った。大火力により放たれた一撃は、一片も残さず蜘蛛を焼き尽くす。這い出る女王蜘蛛のかけらを、R.R.のさらなるナイトメアバレットが射貫いた。
 灰色の破滅が動きを鈍らせる。
「オーッホッホッホッ! 効いているみたいですわね! まだ、まだわたくしは輝けますわ!」
 タントの光が、仲間を癒やす。
「せーの」
 誠司の大筒が再び火を噴いた。後方に群がる蜘蛛を蹴散らす。
「加勢いたしましょう」
 グリーフの弾が、進路を穿ち、アイリスのソニックエッジが鋭く女王を刻んでゆく。
「ありがとう」
 2度目、空中で姿勢を変えて、軌道を変えて、今度はブルーコメットだ。
 漏れた子蜘蛛を黒子の砂縛が塀から突き落としてゆく。R.R.の呪いが、禍々しさを増していた。
 今や破滅が向けられているのは女王の方だ。
「ロス様」
「はい、こちらは対処可能です」
「紅迅様は……」
「え?」
 聞くまでもない。砦へ這い寄った蜘蛛が両断されていた。斬華にとって、呼吸するがごとくに、それは日常の一動作に過ぎない。
「アシェン様、かまいません、女王の対処が可能です」
「わかったわ」
 蜘蛛は生み出され続けている。
 しかし、一時的にでも良い。
 大切なのは、今、敵の数が減ったということ。グリーフが後方の戦線を維持し、戦況は次第に縮小し、苛烈を極めているが、こちらが優勢だ。
 ディチェットが、銃身の向きを変える。
 ディチェットの鋼の驟雨が、敵をなぎ払い降り注いだ。
 プラチナムインベルタであった。

●PHASE5.決着
「はっ」
 アイリスの蛇腹剣が、蜘蛛をまっすぐに串刺しにした。首をもたげる女王蜘蛛を、砂嵐が覆い尽くした。
 黒子の砂縛が、領域一帯を埋め尽くす。3体の蜘蛛が、空間から転げ落ちる。
「ふふーん♪」
 斬華の一撃は”一撃”である。一体を狙った、狙い澄ました両断。だが、その動きはすさまじく早く、それが次々と繰り出されるとなるとどうだろうか。屍累々、そのどれも、胴体と首が見事に真っ二つだ。
 ……。蜘蛛では、ちょっと手応えがないところだろうが。
「はい! そこ! タント様の目を逃れられると思ったら、大間違いですわー!」
「見張り台を、数匹蜘蛛が這い上っています」
 ディチェットは、R.R.に背中を任せたまま、女王蜘蛛から狙いを外さない。
「大丈夫かしら」
「ああ。問題ない」
 R.R.のエーテルガトリングが、無数の敵をなぎ払った。
 任せた、とR.R.が言外に言う。
「もう一発、どかんと!」
 暗闇を凪ぐような誠司の大筒が放った蒼い炎が、一直線に派手な咆哮をあげる。
 蒼。その色に、グリーフは少しだけ目を伏せた。ほんの少しだけ。だが、その動きには迷いなどはなく。動きはあくまでも正確だ。
 落ちた蜘蛛を、グリーフが撃ち落とす。
 R.R.に背後を任せたディチェットが、ひらりと見張り台から空へと舞った。ドレスがふわりと、場違いに可憐に揺れて。
 最後には、陳腐なバラッドのあげる銃声が鳴り響いた。
 女王蜘蛛はどうと倒れた。

●PHASE.終幕
「終わったかな?」
 こうして、夜が明けていった。
 硝煙の匂いが夜の風に紛れてゆく。
 残った子蜘蛛は行き場を失い、物陰に隠れようと惑っている。アイリスの蛇腹剣が、最後の一匹を切り払った。蜘蛛の体は、ぼろぼろと崩れていくだけだった。
「終わり良ければ総て良しだね。んー」
 アイリスは蛇腹剣を手元に戻すと、ぐんと空に向かって伸びる。
「こっちも無事ですよ♪」
「馬も無事です。幸いでした」
「目立った被害はありませんね」
 グリーフと黒子が被害を確かめ、砦を開く。
 砦から這い出た商人たちは、激闘の跡に目を見開く。
「うわ、すごい数だったな……」
「なまんだぶ、なまんだぶ……。中で縮こまってるだけしかできなかったわけですが、これは……あんた方を頼って、正解だったみたいだな。しかし、一体どうやったんだ?」
 安堵しつつも、戦いを見れなかったことを残念に思っているような商人だった。
「破滅は去った。……後は本来の任務をこなすだけだ」
「気を抜かずに最後まで仕事だね」

 そうして、簡単な休息と食事をとって、砦をたった一行である。
「おや?」
 馬に乗っていたディチェットはタントにもたれてかくりと揺れる。すうすうと寝息を立てている。
「まあ! 苦しゅうありませんわ!」
「疲れたんだな。何かあったら起こせばいいか」
「護衛は、私たちで足りるかと思います。いかがでしょう」
 あとの道のりは、平坦なものだ。R.R.は、静けさに満足し、古びたマスケットから包帯を戻した。
 今はただ、ひとときの平穏を得て。

成否

成功

MVP

ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華

状態異常

なし

あとがき

というわけで、護衛依頼はつつがなく成功いたしました。お疲れ様でした!
ご参加、ありがとうございました。
MVPは、ボスに大きなダメージを与えた魔導機巧人形様に。
それではまた、ご縁がありましたら一緒に冒険いたしましょうね!

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