PandoraPartyProject

シナリオ詳細

入学式にハイ・プレッシャー!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ヴィランになろうぜ
 とある貴族からの依頼が舞い込んだのは、春の日差しも大分あたたかくなった頃のこと。
 依頼はその貴族の所有する山の奥、放置していた古い屋敷に人相の悪い輩が集まっているので何とかして欲しい、とのことだった。
「はあ、調べたところによると実はそこで、どうやらヴィランたちの『学校』が作られているみたいなんですよねー」
 依頼の説明をしに来た貴族の使いという商人はそう言って、難しい顔をした。
「ヴィラン養成学校、って感じなんですが──よくよく調べてみると、これもまた詐欺のようで」
 なんと、山奥につくられたヴィラン養成学校はヴィランによるヴィランを志す荒くれ者向けの詐欺だったのだ……。
 とは言え、集められた荒くれ者たちは、今ぞくぞくとその山奥の建物に集まっている。
 これが詐欺であって幾日か後に学校そのものが解散したとしても、集まったヴィラン(見習い)たちがそこを根城に何かやらかす可能性も、または帰り際に近隣の街や村で暴れる可能性も皆無ではない。むしろ、その可能性はかなり高いように思えた。
 そもそも、詐欺だと解った直後にそこで争いが起きて血で血を洗うような殺人事件など起こって欲しくない、というのも依頼主の願いだった。
「お館様は、できれば何事もなく穏便に済ませたいんですよねー」
 ……数日後、そのヴィラン養成学校で『入学式』があると言う。
 当日は館の周囲を貴族の抱える私兵たちがぐるりと取り囲み、集まった荒くれ者たちを一網打尽にするという計画はすでに立っている。
 しかし、生徒としてヴィラン養成学校などというモノに入学希望してきた荒くれ者たちはそれでいいとしても、どさくさに紛れて首謀者である詐欺師のヴィランたちを取り逃がす危険性があるのだと言う。
「首謀者は三名。ほぼ荒事に慣れないヴィランたちのようですが、それでも、一名だけ戦士がいますし、なんらかの逃亡策を用意していると考えてもいいでしょう。
 そこで、あなた方には当日『入学希望者』を装って潜入し、彼らに近づいて直接三名を取り押さえて欲しいのです」


●ヴィラン入学試験
 ──『入学式』当日、イレギュラーズたちは何故か激しい突風が吹き上げる切り立った崖の端に立っていた。
 目の前には十メートルほどの長さと大人一人がやっと通れるくらいの幅を持つ簡素な吊り橋がある。
 足元からの風は激しく、時折、吊り橋が大きく揺れる。
 目を凝らせばかなり下に大きな谷川が流れているのが見える。
「入学希望者の皆さま、はるばる我が『ブルー・ブレス』へヨウコソ。これから一年をかけて我がブルー・ブレスは貴方達を一人前のヴィランに教育致しますワ」
 そう言うのはなまめかしい色香漂う、肌面積の多い服を着た褐色の肌の美女だ。
「しかーし、解っておろうが我々ブルー・ブレスは金を払っただけで入れる甘っちょろい組織ではない!」
 立派な髭を蓄えた老人が杖で力強く吊り橋を叩いた。当然、吊り橋は激しく揺れる。
「私は君たちの教官になるであろう、バーニンだ。私とミーティア様とインヘリット様に続け!」
 最後のごつい男がそう言うと三人は入学希望者たちを置いて、さっさと突風に吹かれながら吊り橋を渡り始めた。
 そして、唐突に色っぽい女性が立ち止まると、くるりと入学希望者の方を振り返りくねっとしなをつくって髪をかき上げた。
「ワタクシこそは風光る愛のカタルシス、ミーティア!」
 そう言って、ミーティアは強風吹き荒れる吊り橋の上で両手を掲げてポーズを取った。
 見えない薔薇が彼女の周囲に咲き誇った──気がした。
「ふん! まだまだじゃな! 次はワシの番じゃ!
 見よ、この無限の叡智! ワシこそは風火木金の魔術師、インヘリット!」
 老人が……吊り橋の細い板の綱の上でカッコイイポーズを取った。
 一瞬、ピッカーン! と後光が差した気がした。
「はっはっはっは! では入学志望者の諸君よ! それぞれこれこそがヴィランとして己の決めポーズだと思われるポーズと口上をこの激しい風に揺れる吊り橋の上でキメて見せよ! その勇気のある者こそ我らブルー・ブレスに入るにふさわしい!」
 最後に渡り切ったバーニンが大きな声で告げる。
 そして、ミーティアが橋のロープを揺らしながら声を張った。
「学生番号一番から五番までの方──!」
「待ってください! 五人ずつは試験をするつもりですかー? 見てくださいよ、入学希望者は三十人以上は居ますよ、せめて八人にしてくださいよー!」
 同じく入学希望者に扮した商人がすかさず大声で抗議すると、ミーティアは一瞬、顔をしかめた後に言い直した。
「では、まず学生番号一番から八番までの方、お願いシマスー!」
 頑張ってください、と商人はイレギュラーズたちに囁いた。
 ──なにをどう頑張れと言うのか。

GMコメント

●目的:詐欺師ヴィラン三名を捕まえろ
1.強風吹きすさぶ吊り橋の上でヴィランっぽい決めポーズを一つしてみせ、渡り切る
2.館で詐欺師ヴィランたちと戦って捕縛
※重症などもOKだが、できればターゲットたちは死亡より捕縛が望ましい
※参加者(イレギュラーズ)が八名に満たない場合、
 残りの入学希望者たち(荒くれ者)は諸事情で橋を渡れなかったものとする
※九番目以降の入学希望者たちはイレギュラーズたちが館内部に案内された後、貴族の私兵たちに捕縛される
※カッコイイポーズに対して、他の入学希望者や三人の詐欺師たちから感想や反応が入る事があります
※貴族の私兵たちと使いの商人も見ている可能性があり、反応が入る場合があります

吊り橋:ロープと板で作られており、無理をすると谷川へ落ちます
崖まで復帰するには相当の時間がかかるでしょうし、相応のダメージを受けますのでご注意を
浮遊のスキルはあからさまに使うと注意を受けますが、こっそり使うのは可


●イレギュラーズ達
ヴィラン養成学校(ブルー・ブレス)に申し込みをした一番から八番までの入学志望者たちから
貴族が買取した学生番号を持っている
橋を渡り切ると、まず館のホールに案内されるので、そこでターゲットたちの戦闘・捕縛を試みてください
ただし、橋を渡る際にカッコイイ決めポーズをしないと怪しまれて館に入れてもらえません
※使いの商人も九番目の学生番号を持って紛れ込んでいる


PL情報
●ターゲット
詐欺師たち※そんなに強くない
・バーニン(獣種/ストライカー)
 マッチョな人面ゴリラ男
 決めポーズに関しては「だって、恥ずかしいし」としなかった

・ミーティア(人間種/スナイパー)
 お色気担当、背の高い年齢不詳のナイスバディな女性。金髪、キャラメル色の瞳
 荒事はネイルが痛むのでしたくない

・インヘリット(人間種?/???)※非戦闘員
 お髭の立派な老人。思慮深そうな瞳とつるつるに反り上げた頭はまるで僧侶や仙人を思わせる
 インヘリットのクラスはマジシャンを装った役者

館に入ったところで、詐欺師たちは本性を現し、イレギュラーズたちへ襲い掛かってきます。
不意打ちを狙いますが、用心していた場合、この不意打ちは失敗します。
彼らは最初の八名を倒し、すでに回収済みの入学金を持って逃げるつもりなのです。
勝てないと解った瞬間に窓や裏口から逃げようとするのでお気をつけて。

※NG行為がありましたら、明記お願い致します

厨二フレーバー満載の決めポーズから恥ずかしがってうまく言えないRPまで何でもOKです。
とにかく橋を渡り切って、敵の懐に飛び込みましょう。

  • 入学式にハイ・プレッシャー!完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月04日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
レオン・カルラ(p3p000250)
名無しの人形師と
Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
マリア(p3p001199)
悪辣なる癒し手
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
桜小路・公麿(p3p001365)
幻想アイドル
スタニスラウス(p3p005111)
楽園創造装置
リュゼ(p3p005117)
まねー・いず・じゃすてぃす

リプレイ

●悪役学校
 依頼内容に『楽園創造装置』スタニスラウス(p3p005111)は目を丸くする。
「悪い事について勉強する為に学校いくの? 変なの。僕なんて好奇心を満たすために行動してたら世界滅ぼしかけたよ」
「なるほど! なるほど! ヴィラン養成学校ねー。悪事なんて人から教わることじゃないと思うんだけどねっ! なんていうかー、生きているうちに自然と身につくっていうかね?」
 スタニスラウスと『まねー・いず・じゃすてぃす』リュゼ(p3p005117)の物騒なくだりを商人は敢えて聞き流した。
 『人形使われ』レオン・カルラ(p3p000250)の抱えた人形たち、レオンとカルラがやはり前半だけに反応して「入学式……!」「ドキドキでワクワク?」と囁き合った。
 『星を追う者』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)はため息を吐いた。
「ヴィランって確か『悪役』って意味だったか? その養成学校とか……しかも志願者が割と居るとか世も末だなあ」
 『悪辣なる癒し手』マリア(p3p001199)が小さく首肯すると『白き旅人』Lumilia=Sherwood(p3p000381)と『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)も頷く。
「ヴィランを志すものがそれより狡猾な詐欺師に騙されることに関しては、お好きにしていただいて結構ですが、それで周囲に被害を及ぼす可能性があると言うのは確かに見過ごせませんね」
「ええ、ヴィランだなんてアウトローを気取ってるのに養成学校だなんて型に嵌りに来る方がいるとは世も末なのです。そんな体たらくですから騙されるのですよ。詐欺師の方々は目の付け所は中々だったみたいですが、それ故に逃がす訳にはいかないのです」
 「詐欺は悪いこと」「悪い子は叱ってあげないと」とレオン・カルラの人形たちも皆に倣って頷き合う。
「あー……」
 ぽんとリュゼが手を打つ。
「そういう意味ではこのヴィラン養成学校はヴィラン養成学校として正しいことしてるのかな。騙される方が悪いってのを身を以て学べる機会だもんね♪」
 一同は納得した。
「まー、真面目に悪事に取り組む方々も、それを騙す詐欺師もほっとく訳にはいかないねぇ。ずばばーんと事件解決しちゃいましょー!」
 スタニスラウスが締めると、『ジャミーズJr.』桜小路・公麿(p3p001365)はキラッと輝いた。
「さあ、僕の輝きを必要とするオシゴトならばどこへでもいこうじゃあないか!」
「潜入捜査ですので輝きはどうなんでしょう」
 そう、まさか悪役として輝くなんて。



●ハイプレッシャー!
 入学式当日。
「アイドルとは即ち! 偶像崇拝! それは例えヴィランであろうとも変わらない!」
 燦然と輝く公麿は言い放った。
「ならば僕は今このひと時のみ! ヴィランの輝く一番星になろうじゃあないか! だって僕はスーパーアイドル! 桜小路☆公麿だからネ!」
 ヴィランじゃなくてアイドルとは。
 それより、戸惑いを隠せないのは公麿以外のイレギュラーズたちである。
(戦いよりもポーズの方が難題に見えますのー……!)
 苦悩するマリアへ商人が声をかけた。
「では、頑張ってくださいねー、マリアさん」
「え」
 いつの間にか他の仲間たちが下がっていたため、彼女は必然的に一番前に立っていた。
「……」
 聖女は穏やかな笑顔で仲間を一瞥し、公麿以外の仲間たちは目を反らした。
(うぅ、悪役らしいポーズってなんでしょうー……? いえ、なんだか聞いた事がありますのー……。そう、確かー……えっとー……悪女、悪女でしたのー……!)
「頑張って悪女になり切ってみせましょうー……!」
 閃いたマリアは吊り橋で精一杯の雌豹のポーズを取ろうとした。
 だが、何しろここは強風吹きすさぶ場所。
「わ、私はー……身体を癒し、心を奪ってきた癒し手。悪の華であるマリアと申しま……きゃああああ!?」
 雌豹は危うく悩殺ポーズになりかけた。
 深いスリットと太腿が強調され、なおかつ、せめて下着は見えないようにと押える矛盾の仕草が見る者の一部に刺さった。トドメは【儚き花】によって強化された上目遣い。距離を越えてハートを射貫いていく。
 無い色気を出そうと精一杯頑張りましたとはのちの彼女の弁。
 男性陣の多くから歓声と拍手が起こった。
「質問なんですけどなんでロープなんて持ってるんですか? 試験に関係あるんですか!」
 いきなり口調の変わったミーティアが詰問する。
「えっ……このロープ、ですのー……? え、えっとー、それは、そのー……し、縛る商売道具ですのー……!」
 縛る商売道具。
 なぜか周囲がザワつく。


 スチャッと取り出したるはサングラス。
 ヘイゼルはそれを『ヴィランらしく』かけて視線を隠す。そして、悠然と見えるように気をつけながら渡り始めた。
(私は私らしくやりましょう。失敗しないようにしないと)
 吊り橋の真ん中で立ち止まると、ヘイゼルは見せつけるように外したサングラスを真上へと放り投げる。
「!?」
 強風によって空高く舞うサングラス。
 驚く人々の反応を楽しみながら、優雅に右手を身体に沿え右足を引くヘイゼル。
 そこから、左手を差し出し、bow and scrape。
「ドーモ、皆々様。ヘイゼル・ゴルトブーツと申します」
 頭上に手を伸ばすと自然な仕草でサングラスを掴み取り、それをもう一度かけ直した。
(無理などしなくても格好つけることは出来るのです)
 見事な挨拶にわあっと上がる歓声。
 実は、ヘイゼルはサングラスをもう一つ隠し持っていた。放り投げたサングラスは落下したのだがそれに気付いた者は居なかったようだ。
(拾うのは無理ですね)
 谷底は遠い。


 次はリュゼだ。
「人前でカッコイイポーズとか、リュゼ、恥ずかしくて死んじゃうかもー」
 こわーいとかきゃーとか言いながらぽんぽんと揺れる吊り橋を歩いていく。
 このイベントを楽しみ始めた観衆が大丈夫か等と下品に笑い合う中でハイテンションガールはぴたりと立ち止まった。
 スチャッと取り出したるは──ナイフとリボルバー。
 雰囲気を一転させて、少女の手でスピンしたリボルバーが踊りナイフが風を裂く。
 ゴウと一際強い風が少女の顔面に吹き付けたが、同時に軽く見得を切ったリュゼが武器を持った両手を眼前にクロスさせた。
 腕の下から鋭い眼光のリュゼがチロリと舌なめずりして詐欺師たちを睨みつけた。
 ひ、と声を漏らしたバーニンが慌てて咳払いで誤魔化した。


「……さて。ポーズの自信はありませんし、せめて見た目だけでも」
 こっそり着替えを済ませたLumiliaはワインレッドのドレスの裾を翻す。
 ──本来は寝間着や部屋着に使うナイトドレスだが、慌てて引っ張り出してそれらしく見える様に整えたのだ。
 凛と背筋を伸ばし橋を渡り、上品にしかし妖艶に微笑むと裾を摘まみ上げて会釈をした。
(……これだけでも、結構それらしく見えます。……よね?)
 透き通るような美しい白い髪と肌、金の瞳と翼を持つスカイウェザーの少女は、不安を隠して妖しく大人びた雰囲気を。
 唐突に、対岸のマリアが何かに思い至り「あら」と唇を押さえた。だが、その助言は間に合わない。
 ぶふぁあっと突風が吹き抜けた。
 薄いドレスが、派手にはためく。


「あ、危なかったです……」
 Lumiliaの腰の翼が、まさかあんな形で役に立つとは。その後も【マジックロープ】を試したりしながらなんとか橋を無事に渡り切ったのだった。
 両手をついて息を整えるLumilia。
 続くスタニスラウスも覚悟を決め、強風に揺れる橋へ飛び出した。
 ホップ・ステップ・ジャンプ!
「!?」
 息を飲む観衆の視線を感じながら、くるっと回ると決めポーズをして啖呵を切る。
「奇跡を謳う異端の箱。楽園創造装置、スタニスラウス!」
 ここへ来る前に用意した虫の死骸を振りまく。すると、それらは強風によって空へと噴き上げられ、スタニスラウスのギフト『楽園創造』の力によって次々に発芽していく。
「おぉ!」
 あちこちから感嘆の声があがる。
(待っているうちにたくさん用意しておいてよかったよ。流石に他の参加者を潰したらまずいし!)
 まずいどころではない。


 今度は子供が足を踏み出す。レオン・カルラだ。
 両手に二つの人形を抱えた状態で辛うじて橋を掴む様子は、悪人を目指す人々の心にさえ不安を与えた。
「あっ!」
 脚を滑らせても子供は人形たちを離さず、そのまま中央まで辿り着く。その両手の中で人形たちが動いた。
「世界は皆みんな」
 一方の人形が話す。
「私たちの玩具」
 もう一方が話す。
『パペットマスター、レオン・カルラ』
 少年人形のレオンと少女人形のカルラの『声』が重なり、子供は手を前に突き出した。
 ── 子供と二体の人形、「三人」でひとつ、それがレオン・カルラ(ボクタチ)。
 迸るレオン・カルラのギフト『終わりなき生命の糸』。
「岩をゴーレムみたい動かしたり、水を龍みたいに動かしたりできると良いな」
「できるかな? それより、皆の持ち物を動かしちゃおうよ」
 きゃっとミーティアが悲鳴を上げる。
 「学校」の庭先に設置された小さなモニュメントたちがレオン・カルラの周囲を衛星のようにぐるぐると周りゴトリと落ちた。
 それは不思議で恐ろしい劇のようで、釘付けになっていた人々は思わず手を叩いた。
「どう? ボクらの糸は」
「素敵でしょう、私たちのちから」
 レオンとカルラが大きめの声でそう言った後、小声で囁き合う。
「【演技】なら任せてほしいね、カルラ」
「ええ、レオン。【大道芸】や【ステージ技術】の知識を活用して、ボスっぽくね」


 ついに自分の番になったウィリアムは、フードを深く被り直して顔を隠した。
(落ちてもアレだし、あまり無理な動きの無いポーズが良いよな)
 吊り橋を進むと、指定の場所で止まる。
(……脚は揃えて、腕を組むようにして。体の向きはやや斜に)
 ポーズを付けると、彼は見下すようにフードの下から人々を見回した。
「俺は悪の流星アステリズム。闇夜に輝くのは俺一人だけで良い……!」
 風をはらんだマントが雰囲気を増す。堂に入ったポーズは非常にヴィランっぽかった。
(……こんなとこか)
 安堵したその時だった。
「……あ」
 強風は無情にもウィリアムのフードを吹き上げ外した。
 陽光に素顔を晒され、ぷるぷると震える悪の流星アステリズム。
(……我に返るな、俺。素に戻ったら負けだ……!)


 最後は一番ノリ気であった公麿だ。
「さぁまずはヴィランステキカッコイイポーズからだ。強風吹き荒ぶ吊り橋だろうと恐れる事なく邁進しよう」
 彼は観衆へ軽く振り向いた。
「だって、僕はアイドルだから」
 輝く公麿の横顔。……八人目? いや、彼は大トリなのだ。
 ──ららら~♪
 唐突に歌い出す公麿を固唾を飲んで見守る群衆。
 【ステージ技術】によって軽やかに吊り橋の綱の上に立つ公麿。
 ──吊り橋効果って知ってるかい? 僕ぁ知らないヨ~♪
 美シィッとキメた瞬間、彼のギフト『究極的薔薇幻想(すごいばらいっぱいでる)』が発動。
(そして、カリスマ的アイドルスマイル僕! ~ずきゅんと皆の心を鷲掴み~)
「ハアアアアン!! 桜小路☆公麿!! 見★参!!」
 美カァン!
 偶然だろうか。
 背後の太陽がひときわ輝き……強風によって薔薇と公麿は吹き飛ばされた。


 しばらくののち。
「昨今のヴィランはタダ悪そうというだけではダメだと僕ぁ思うんだよ、キッズ達も憧れる位じゃあないとネ! これでどうだいボーイズ&ガールズ?」
 復帰した公麿の渾身のポーズにミーティアが胸を押さえる。
「ハアアン! 公麿さまぁん!」
 こうして、この意味のない試験は終わった。



●襲撃
「濃い新入生が揃って、先が楽しみじゃ」
 呵呵と笑うインヘリットと複雑な思いを抱えたイレギュラーズたちは、そのまま館へ案内された。
 警戒したヘイゼル、スタニスラウス、リュゼがアイコンタクトを交わす。
 玄関、そして、広間へ。
 ドアが閉まると同時に仕掛けたミーティアの銃弾をヘイゼルが転がり避け、次いで雄叫びを上げたバーニンの一撃を公麿が華麗に避けた。
「はてさて、人数を増やしたときに渋い顔をしていたのは何故でせうか? その読みが当たるとは嬉しい事です」
 にんまりと笑って構えるヘイゼル。
 一方、驚愕を隠せないバーニンに攻撃を避けた公麿はスマイルを浮かべた。
「せっかくのヴィラン役も名残惜しいけどね、オシゴトを始めようか」
 インヘリットが叫ぶ。
「イレギュラーズ……そうか、ローレットの仕事か!?」
 答える代わりにLumiliaが【剣の英雄のバラッド】を発動させ、公麿が【名乗り口上】を上げる。
「この美しき薔薇から逃げ出そうだなんて勿体ないぞぅ!」
 喰らったバーニンの後ろをレオン・カルラが走る。
 ──本当に悪い子だったんだ。
「それならお仕置きしないとね」
「そうね。仕方ないけど……」
 彼らの退路を断つために。
 ドア前へと陣取るウィリアムは【星剣召喚】で呼び出した剣先をミーティアへと向けた。
「スナイパー、テメエの相手は俺だ」
「ワタクシ!? なんで!」
 <星>を墜とさんとする魔術師は理不尽な理由を突きつけた。
「テメエの名前が気に入らねー」
(……偶然なんだろうが、その【落星(meteor)】の名は譲れねーんだ)
「詐欺師相手とか絶対絶対なんかあるじゃん? と思ったらやっぱり──なんっつってねぇ!」
「そうそう、人数限定の時点であからさまに怪しいよねー、用心しておいて良かった!」
 マジックロープを振り回すスタニスラウスと、逃がすものかと窓へと駆け寄ったリュゼが頷き合う。
「逃げちゃダメなのですのー……!」
 マリアが礼装武具を握りしめた。
「……予想に反して自信家ですね。……はじめから逃げ出さなかった、判断の甘さを後悔していただきましょう」
 Lumiliaの言う通り、完全に退路を断たれた詐欺師たちはすでに後悔していた。
 そもそも、自分たちが集めた、自力で荒くれ者にもなれない『生徒』たちなど容易く御せると油断していた。
「逃げられない、なんて聞いてませんワ!」
「考えておくべきでしたね」
 ヘイゼルにブロックされたミーティアが止むなく銃を構えた。だが、Lumiliaの【フロストチェイン】がミーティアに炸裂する。
「実力としては難しい相手ではありません! むしろ、逃さないようにすることに務めさせていただきますね」
 一方、スキルによって怒りを抱えたバーニンへ公麿が語り掛ける。
「フフ、君案外イイ身体してるじゃあないか。僕とねっとりじっくりオハナシしないかい? フフ、フフフ」
 印象とは違う公麿の実力に動揺を隠せないバーニン。
「攻撃は死なせない様に組技さ。この美の化身とくんずほぐれつ組技出来るんだよ? 君達は喜ぶべきだよHAHAHAHA!」
 ともに拳を振るうリュゼも叫ぶ。
「生かさず、殺さず! 可能な限りダメージコントロールを頑張るよ!」
「詐欺師達の死体からは綺麗なお花が咲きそうにはないしねぇ……」
 スタニスラウスがマジックロープを振り回しながらにじり寄る。
「何、このアイドルたち、こわい!」
 与えられた怒りというより恐怖でバーニンは叫んだ。


 詐欺師たちの実力は予想通り大したことはなかった。咄嗟の対応と布陣が完璧だったこともあり戦闘はすぐに済んだ。
「殺しまではしねえよ。寝とけ」
 剣を収めたウィリアムの前でミーティアが力尽きた。
 それを後目にこっそり逃げようとしたインヘリットの前にぬっとレオン・カルラの人形たちが現れる。
「うわっ!」
 震えるインヘリット。
「彼ったら、少し怒ってるみたい」
「そうだね、彼女ってば少し苛立っているみたい」
 人形たちがインヘリットの目の前で訴える。
「ゴメンね、嘘つきさん」
「悪いね、嘘つきさん」
 バーニンが倒れた大きな音がした。
「悪巧みはここまで」
 終幕の宣言に、詐欺師はよろよろと座り込んだ。
 マリアがインヘリットを支える。
「つ、使いたくないですがー……ごめんなさいですのー……!」
 インヘリットはマリアのロープをむしろ粛々と受け入れた。



●終幕
「賞金稼ぎでもあるからねー。リュゼって結構こういうのには慣れてるのかも!」
 マリアが縛りあげた詐欺師たちのロープをギュッと締め上げるリュゼ。彼らはマリアとウィリアムによって治療を受けた為、まだ逃亡の可能性があるのだ。
「あ、折角治したけど、逃げるならビシバシやるよー? 温情で生かしてるわけじゃないことをちゃんと体に教えてあげないとね」
 ミーティアがぎょっとしたように動きを止めた。
「外も終わったみたいです」
 窓から外の入学希望者たちの様子を伺っていたLumiliaが声をかける。
「包囲されていたとは」
 呻くインヘリットの前にちょこんと子供が座った。
「詐欺しちゃダメ」
「がっこーやるなら健全に」
 始まる人形たちからの説教。
 縛り上げられた彼が逃れる術はない。
 がみがみ、がみがみ。
 それにしても、とバーニンがイレギュラーズたちを見回してぼやいた。
「お前ら……仕事のためとは言え、よくあんな恥ずかしいポーズができるな。信じられない」
「お前らにだけは言われたくないぞ!?」
 ウィリアムが叫んだ。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加、ありがとうございます!
強風によるトラブルもありましたが、
ハイプレッシャー、大変楽しく執筆させて頂きました。
戦闘の対処は流石でした。
またよろしくお願い致します。

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