シナリオ詳細
再現性歌舞伎町1980:いと狭き百億円戦争
オープニング
●弾けたことを知らぬ街
再現性東京1980歌舞伎歓楽街。そこは雨のように舞い散る一万円札と毎夜開くシャンパンとダンスクラブに彩られた高度経済成長の絶頂期を摸した街。
この町に住み着いた人々は誰もがうかれ、毎夜毎夜と踊り狂う。
ピンクチラシだらけの電話ボックスに寄りかかり、高級そうなスーツから札束を取り出してはボディコン衣装の美女たちへとあおぐ日々。
しかしその全ては、あるひとつの『大いなる嘘』によって支えられていた。
その嘘とは――。
「おぉ~およく来たなあ。ま、座れや。茶ぁくらい出すで」
ソファに座り、ガラスの灰皿に煙草を押しつける眼帯の男。
――九美上興和会二次団体鮫島組組長
――鮫島五浪
彼は練達再現性歌舞伎町に組事務所をもつ極道組織のリーダーである。
それを示すかのように彼の後ろには金色の代紋が、そして部屋の左右には軍隊の如くビシッと背筋を伸ばして立つアロハシャツの男達があった。
「ま、いきなり呼ばれてなんやここって思うとる奴もおるやろ。まずはそっから説明したるわ」
イレギュラーズたちをソファに座らせ、それぞれの前に日本茶を運ばせる鮫島。
「ここは『再現性歌舞伎町』……練達の一地区再現性東京(アデプト・トーキョー)の中で更に区切られたせまぁーい楽園や。
似たような世界から来た奴らが流れ流れてここへ居着いて、でもって出られなくなったのが大半やな……。
作ったんはもっと別の奴や。ウォーカーから聞いたバブルの歓楽街ってやつに惚れ込んで、その『享楽』だけを再現しよった。
そこが今回のミソやねん。
イレギュラーズちゃん、あんたらは今回の依頼内容、先にきいとるか?」
顔を一通り見てから、鮫島はニヤリと笑った。
「この町をワイのもんにするための、『お手伝い』や」
●からの
「鮫島建設、社歌ァ! サンハイ!」
安全ヘルメットを被ったアロハたちが両手を腰の後ろに組み、一斉に歌い始める。
途中途中で無駄にラブリーな振り付けをしながら体操を交える彼らの様子を、イレギュラーズたちは軽く見せつけられていた。
さっきのシリアスな極道社会っぽい顔はなんだったのか。
鮫島は野球のバットを肩に担ぐと、ぐねぐねと腰をひねるような体操をしながら話し始めた。
「おぉスマンスマン。今からこいつら仕事の時間やねん。
ワシら極道ゆーても荒事ンなるまで暇やからのぉ。こうして建設会社やって東京再現に一役買っとるちゅうわけや」
鮫島はそう語ってから、おもむろに懐から裸の札束を取り出しあなたの前にドンと出して見せた。
一万円札が軽く100枚はある。
「これ、なんだかわかるか? 万札っちゅう……まあ東京ちゅう場所で使われてた紙製の貨幣やな。再現性歌舞伎町ンなかだけで使える貨幣で、これが大体一枚1G以下で取引されとる。最近どんどん価値が下がって三百万円で250Gってとこやったかなあ。
ま、そんなもんやからここの連中は山ほど札束もってばらまきながら暮らしとるんや。
生活には困らへんで? この街の建設に携わったっちゅう大魔術師チャンが、街の中に居る間だけは幻を見せてくれんねん。
ホンマはぺらっぺらの土みたいな食いもんと水しか飲んどらんのに、百万のステーキだのシャンパンだのを浴びてる気持ちになっとるちゅうわけや。
その辺歩いとる成金のオッサン見てみい。金ぴかの時計だのブランドスーツだの着とるけど、街から出た途端葉っぱとぼろきれになるで」
そう。ここは弾けないバブルの街であると同時に『弾けたことに気づかない街』なのだ。
本当は皆うすうす気づいてはいるのだろうが、騙され続けていれば幸せだとして、この町から出ずに暮らしているという。
「せやから、この万札製造の権利を握ったモンが、この街の支配者になれる。
でもって、ワイはこの街を支配したい。
なんでかわかるか?」
札束の封をきり、空へとぶちまけてみせる。
「夢見てハッピーな連中が、いつまでもハッピーなまんまで一生涯過ごしたらえんやん!
ワシは守りたいんや、あのアホんだらたちの夢を」
さて、前置きがだいぶ長くなってしまったが、今回やるべきことと障害について述べよう。
この街には三つの勢力があり、それぞれが街の覇権を争って日々ぶつかり合っている。
まず一つ目は鮫島組。
街の夢を維持することを目的として、歌舞伎町支配をもくろむ鮫島率いる陽気なアロハたちだ。
二つ目は玉串神道会。
敏腕エージェントのココノ・ナインテイルを先鋒とした巫女たちの組織。彼女たちの目的は再現性歌舞伎町の『清浄化』である。万札通貨を廃止しバブルマジック幻術を停止することで、毎日ほぼ遊んでくらしていた人々を労働へと戻そうとしている。
三つ目がコアストック・カルト。
バブルマジックが洗脳技術として優秀であることに目をつけ技術の奪取をもくろむカルト宗教団体だ。教団員はみな過激な終末思想を持っており、教祖の教えに従い世界から目を閉ざすことを他に強要している。
三組織ともトップはみなウォーカー。組員たちは事情により様々だが、多くはウォーカーで構成されているらしい。
「で、今日の仕事はコアストック・カルトの拠点を一個潰すことや。
でもって、『泡の書』ちゅう魔道書の断片を奪取してくるんや」
拠点にしているのは四階建てのビルだ。
飛行種たちへの対策として窓や屋上への対策はしているだろうから、突入するなら一階から堂々とカチコミをかけることになるだろう。
「コアストック・カルトの連中はまあ、その土地の連中になじんだような格好をすんねん。
せやからその辺のホストだのサラリーマンだのに見えるかもしれへん。けど油断したらあかんで。やつらもしっかり武装した兵隊やからな」
一階から四階までを順に制圧し、最後に『社長室』というなの断片保管室へ突入。教団員たちを倒し金庫に入った断片をゲットすればOKだ。
「まあ、どっかで玉串ンとこの邪魔が入るかもしれへんけど、あそこは非道なことはせん主義や。場合によっちゃ話し合いでカタがつくかもわからんな。
なんにせよ、断片を持ち帰ってこなきゃハナシんならん」
鮫島はニイッと笑うと、バットを地面に突き立てた。
「よく言うやろ? 『帰るまでが遠足』やって」
- 再現性歌舞伎町1980:いと狭き百億円戦争完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年08月09日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●解けない夢と溶けきった泡
点滅するネオンサイン。客引きのボーイが手をひらひらとさせながら近寄ってくるのを、『灰火の徒』セルウス(p3p000419)は手をかざして遠ざけた。
すれ違うのは金ぴかの時計をしてナンパする男たちとボディコン姿を見せびらかす女たち。
「まあ、欺瞞だよねえ……この再現性東京も、歌舞伎町もさ」
セルウスのつぶやきも最もだ。この町は嘘でできている。
「さぁて、馬鹿げた夢を……えっ、終わらせる側じゃない?」
「らしいよ。今回は守る側」
ローレットが世界の中立と言われるのは、たとえ鉄帝幻想間の戦争であろうとも両側に味方するという立ち回りが世界的に許容されているところにある。この街――再現性歌舞伎町へのスタンスもあくまで『依頼人次第』なのだった。
「まぁどうせ練達だからどっちに向かっても頭おかしな奴しかいないし大差ないか」
「そうでしょうか? あは、わたくしはねえ……あはは」
『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)はおかしくてたまらないという様子で腹を抱えていた。
「おっ、大いなる、あははは! 『大いなる嘘』ね……ぷっ……あはははは!
成程、成程。ええ、ええ、ええ、ええ、ええ、嫌いではありませんよ、そういう嘘は
あっははは!」
これだけ大声で笑っていても、札束をひらひらさせながら女をナンパする男たちやダンスクラブへ入っていく男女は意にも介さない。
日本には古来、神のもたらした酒を飲むと古い栄光を見るようになり、やがて英知はおろか知能すら忘れ永遠に沸き続ける酒を飲むだけの猿と化す……という物語がある。
彼らはなにもせずなにも得ぬまま寿命が尽きるまで宴を続けるが、それが『望んでやったこと』であるなら……。
「人間、どこの世界に行っても夢は見続けたいものなんだよな。
……わかる気もするがね、私も元人間だし」
トントンと棒状のもので自分の肩を叩く『天駆ける神算鬼謀』天之空・ミーナ(p3p005003)。
『バブルマジック』はひとによって感じ方は様々だ。こんな嘘は大嫌いだとつばを吐く者もいれば、これが唯一幸せになるすべだとしてありがたがる者もいるだろう。利用すれば多大な利益が得られると考える者もまたいて、それが街の派遣を争って三つ巴の戦いをしているという。
「で、俺たちの立場は鮫島組……ってことか。
三つどもえの乱戦はなるべく避けたいとこだな。
ややこしい事になる前にさっさと泡の書確保しちまおうぜ」
『吸血鬼を狩る吸血鬼』サイモン レクター(p3p006329)はソードオフライフルのセーフティーを外しながら、マガジンを改めてはめ込んだ。
「乱戦になったらどうなるの?」
両手を腰の後ろでくんで、どこかるんるんとした調子で歩いて行く『不屈の壁』笹木 花丸(p3p008689)。
対照的に『どこまでも』砂蕨 茉莉(p3p008570)は両手を広げてくるりと反転、後ろ歩きをしながらサイモンに問いかけた。
「流石に両方相手にしたらマズイですもんねー。
なにせカチコミですから。私の初めてのお仕事がこんな荒事だって元いた世界のお父様たち知られたらー、ひっくり返っちゃいそうですー」
頬に手を当ててにこにことする茉莉。
「…………」
『シュピーゲル』DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)は装着した黒いアーマーを操作すると、単分子ブレイドだけをアクティブにすると、ずっしりと防御の固い形態へと装甲をシフトさせていった。
ゴーグルの内側にグリーンの文字が走る。
『SpiegelⅡ限定起動――白兵戦モード。依頼内容:泡の書の奪取』
透明な両開き扉の前に立ち、こちらをいぶかしげに見るサラリーマンたちへ挨拶でもするようにブレードの先端でノックした。
「――木っ端喰らわします」
●コアストック・カルト
再現性歌舞伎町へ潜入し『泡の書』のコンプリートを目指す三大組織のひとつ『コアストック・カルト』。
バブルマジックが宗教活動で利益を得るのに非常に有効であることから泡の書を求める彼らが断片のひとつを手に入れたという事態を、当然保守派の鮫島組と改革派の玉串神道会が黙って見ているわけがなかった。
そんな折りに投げ込まれた大一石が――。
「――木っ端喰らわします」
扉をガラスごと崩壊させるSpiegelⅡのワンショットである。
それがサラリーマンの腹部に着弾。派手にひっくり返ったサラリーマンめがけ、茉莉が猛烈な勢いで接近。握りこぶしを倒れた相手の顔面にたたき込んだ。
「鮫島さんに出していただいたあのお茶も、私の目にはカンヤム・カンニャムに見えてい ても、魔法の補正ナシで街の外で見れば雨水だったりして、ねえ?
いーえー、私そういうの、好きですよー。クレイジー上等です」
ニッと笑って顔を上げる茉莉。
「人間、狂ってる方が生きてる感じ、しません? 真人間なんてクソ喰らえですよお」
「狂人どもめ。鮫島の差し金か!」
ホスト風の男が壁に立てかけていた鉄パイプを手に取るが、その頃には既に花丸が距離を詰め、おもむろに殴りつけていた。
拳に紅蓮の炎が宿り、男を吹き飛ばす。
「カチコミだー! のりこめー!」
転がってきた鉄パイプを拾い上げ、横から繰り出された木刀をガード。
つばぜり合いへとシフト――するとみせかけ、サイモンの蹴りが男を突き飛ばした。
思わずフロアタイルの上をころがった男めがけ、サイモンはライフルを三点バースト三セットで発砲。
木刀で防御しそこねた男はそのばにぐったりと横たわった。
「応援を呼べ! 鮫島組の鉄砲玉だ!」
壁に備え付けた電話機をとって叫ぶ男、それめがけてサイモンがさらなる連射をかけ、銃弾を受けながらも懐から拳銃を抜いたその男へ――。
「良いですね良いですね、この町。
大して好きでもありませんでしたが急にこの街が大好きになりました。あはははは♪」 ライの銃口が額に押しつけられていた。
目一杯の演技で、清らかな笑顔を作ってみせるライ。
と同時に引き金に指がかかり、発砲音の後に男は壁をこするように倒れていった。
ぶら下がる電話機。
セルウスはそれを手に取って、メーヴィンへと振り返った。
『言いたいことある?』というジェスチャーに対して、メーヴィンは扇子を広げて口元を隠すジェスチャーで応えた。
「リアナル君はてっきり宣戦布告がしたいものかと」
「冗談」
肩をすくめるセルウス。
受話器を耳に当てると、向こうから誰かの名を呼ぶ声に応えてやった。
「今からそっちに行くよ。キミ達もお仕事なんだろーし、手加減いらないよね」
「先行くぞ」
階段を上るミーナ。
上階から早くもやってきた男の跳び蹴りを紙一重で交わすと、炎を起こして相手に点火。悲鳴をあげながら階段を転げ落ちていく男を尻目に二階へと到達した。
いくつもある扉が開き、通路上にサラリーマン風の男やホスト風の男たちが並ぶ。
ぱっと見はバブル社会の一般市民のようだが、彼らの目つきや立ち振る舞いにはどことない胡散臭さがあるように見えた。
「とりあえず、どけ。殺すなとは言われてないんだよ」
ミーナは手をかざし、『魔砲』を通路へとぶっ放した。
●鉛110グラムより軽い命
壁に伸びる弾痕の波線。部屋中を引き裂かんばかりに鳴り響く機関銃の音をよそに、ミーナは花丸と茉莉を抱えてソファの裏へと飛び込んだ。
舞い散るバネと綿。茉莉からヒールオーダーをうけると、ミーナは花丸に指でサインを出した。
黙って頷く花丸。
いちにのさんでソファーから飛び出すミーナ。
機関銃のレバーに手をかける男。発射までのわずかな時間に焦りが凝縮され、ミーナが距離をつめていく。しかし至近距離に届くよりも早く弾が吐き出され、ミーナは盾でそれを防御――した次の瞬間、ソファーの反対側から花丸が転がり出た。テーブルの上に置かれたガラスの灰皿をキャッチ。身体ごと回転させたハンマー投げ方式で男めがけて灰皿を投げつけると、よろめいたところへミーナと同時に蹴りを入れた。
勢いよく蹴り飛ばされ、割れた窓から野外へと転がり落ちていく男。
隣の部屋では青竜刀二刀流で雑技団顔負けの手さばきで剣を繰り出す熟年ホスト風の男がいた。
斬撃から飛び退き、カンテラから光りの球をいくつも沸き立たせるセルウス。
彼が『頼むよ』と囁いた途端、スタスターからエネルギー噴射をかけながらSpiegelⅡが突撃。
連続斬撃を自らのボディで受けると、受けたまま強引に押し切り相手を壁へとプレスした。
咄嗟に奥から拳銃を装備した男が数名一気に現れ射撃を浴びせてくるが、こちらもメーヴィンが現れ天使の歌を連発。絨毯を靴で思い切り踏みつけるようなモーションで抵抗領域を形成すると、飛来する銃弾のダメージがその場で消失していく。
その間にエネルギーチャージを済ませていたセルウスは男立ちめがけて光の球を乱射。
更に現れたサイモンとライが銃を構え、それを乱射しながら早足で奥の扉へと迫った。
デスダンスをおどりながら壁や扉に押しつけられていく男たち。
最後の一人を蹴りつけ、扉もろとも吹き飛ばす。
「よう。ここが社長室ってことでいいのか?」
「イメージしていたより、だいぶ質素ですね。夜逃げの準備でも?」
不気味なくらい整った笑顔で銃を水平に構えるライ。
メッシュのワーキングチェアにこしかけてた灰色スーツの男が、となりに立てかけていた帽子をゆっくりと被る。
「歓迎パーティーの準備をしていたら……フン。どうやら鮫島に『してやられた』らしいな」
ライたちがローレット・イレギュラーズであることを察したのだろうか。男が立ち上がると、部屋のあちこちで待機していた男たちが構えた。
刀を抜く者。呪われた杖を握る者。全身に彫り込まれた入れ墨から霊力を引き出す者。ガラケーを開いて高速でボタンを押す者。スマートグラスをかけて青白いコードを流す者。
この街いてもおかしくないような格好をした彼らはしかし、明らかに外部から持ち込まれたであろう技術と装備を揃えていた。
「大人しくしなよ、抵抗したら余計痛いだけじゃん?」
皮肉げに笑ってみせるセルウス。
ライは銃を構えたまま、サイモンにアイコンタクトをとった。
一方で茉莉はきょろきょろとしていた。その様子に首をかしげる花丸。
「なにかあった?」
「このタイミングでも『連中』の気配がしないの、変じゃないです? ミーナさんは?」
「こいつら以外には『敵意』の存在を感じないな」
ミーナは油断なく剣を突き出した状態で、そっとメーヴィンを庇える位置どりをした。
「…………」
SpiegelⅡはしばらく様子を見た後で、剣を突き出すようにして一歩前に出た。
「ここの組はタイマンも張れないイモばかりですか?」
周りの男立ちがわずかにざわめく。
「ヤクザに雇われた連中もヤクザくずれってわけかい。旦那ぁ、こいつは俺がやる」
日本刀をぬいたホスト風の男がゆっくりと前に出た。
じりじりと間合いを互いにはかりあい、緊張した一秒間の中――壁にかかった絵画が床に落ちたその瞬間同時に動き出した。
繰り出された刀がSpiegelⅡの腕部装甲を貫通。しかしSpiegelⅡはそのまま刀身をがっちりと固定すると、相手の首を掴んで強引に近くのテーブルに側頭部を叩きつけた。
そこからは一斉。乱戦。
全員が全員思った相手に襲いかかり、血が吹きソファやテーブルは砕け窓ガラスを染めた鮮血が窓一枚を埋めたかと思った直後、男の一人が窓ガラスを突き破って外へと転げ落ちていった。
「んんー……思ったよりバイオレンスな集団なんですねえ。ええと、なんて言いましたっけ? アーク? は悪い方です? パンドラ? まあどっちでもいいんですよ私には」
くわえた煙草が上下し、灰が足下に落ちた。
双眼鏡を外し、後ろへ放り投げる。
紫を基調にした巫女服を着た少女が、それをキャッチした。
「姉様からの命令」
「わーかってますわかってますよー」
青い巫女服の女は取り出した赤淵眼鏡を開いて装着。
煙草を手に取ると、煙を吐き出してからぽいっと煙草を捨てた。
回転しながら飛んだ煙草が足下のコンクリートをはずみ、そのまま五階建てビルの隙間へと落ちていく。
数歩下がり、巫女はは助走をつけて――ビルの屋上から跳躍した。
「個人的には好きじゃあないんだよね、現実から目を反らすのも、過去の夢にすがるのもさ」
セルウスはここぞとばかりにエクスプロードの魔術を行使。そこらの家具やら敵やらを吹き飛ばす。
同時にサイモンはライフルで乱射をかけながら突撃。男たちの間を転がるように抜けると、金庫にダンと手をかけた。
「てめぇ!」
掴みかかろうとする男の目の前で金庫のダイヤルが素早く回り、扉が開く。
すさまじい早業で中身の桐箱をつかみ取ったサイモンは『悪いな』といってシニカルに笑って見せた。
あまりに早業に驚く男。それでも取り替えさねばと襲いかかろうとした――その矢先。
窓ガラスが窓のフレームごと吹き飛んだ。
くの字に曲がったフレームが転げ落ち、フレームの間を両腕を抱くような姿勢ですり抜けた女がきりもみ回転をかけたドロップキックでサイモンの顔面に両足をつけた。
いや、つけたというより爆破したという表現が正しかったのかもしれない。
一瞬でサイモンは吹き飛ばされ、反対側の壁に身体の半分をめり込ませた。
回転しながら飛んだ桐箱。
それをキャッチしよう――とした寸前。ミーナとメーヴィンが素早く動いていた。
メーヴィンは桐箱をキャッチして胸に抱え、彼女と女の間に割り込むようにして盾を構えた。
「玉串神道会だな? 争う気は無い。
あんたらにも立場ってもんがあるのはわかってるがね、今回は私らに任せてくんねーかな」
「ま、夢見るのは悪くないと思うし、いつかは醒めないといけないのも理解している。それでも、まだ悪どい馬鹿や生真面目な奴に任せるよりも、多少阿呆な夢見者に任せるのが……マシかなとは」
それぞれの主張を受けて、ドロップキック後に謎のひねりで綺麗に着地した女は伸ばした手を……桐箱を掴み損ねた手をグーパーした。
「やっ、どうもどうも! 出会いたくなかったけど出会ったんだからしょうがないっ!
花丸ちゃん達はローレットに所属するイレギュラーズ。 で、ココに居るって事の意味は分かるよね?」
花丸が両手をあげながら笑顔で言った。
ちらりと周りの様子をうかがう茉莉。
動き出そうとする彼女を、SpiegelⅡが腕を掴んで止めた。
「よせ。狙われている」
「あ、わかりますー?」
巫女はニッコリ笑って指を鳴らした。
次の瞬間、全ての窓ガラスが割れてコアストック・カルトの男たち全員が頭から血を吹いて倒れた。
ミーナが振り返ると、向かいのビル屋上に人影が八人かそこら……。
「こいつら……殺気を殺して狙っていやがったのか……?」
「やーですねー。私がそんな物騒な美少女に見えますー? きゃぴきゃぴ☆」
両手を頭の上にのっけてラビットジェスチャーをしてみせる女……から、メーヴィンは半歩退いた。
「自分で『きゃぴきゃぴ』って言う女にロクなやつはおらんのじゃ」
「あと出会い頭にドロップキックかます女にもな」
サイモンが壁から自分の肩を抜いた。
「キミ達はこの街区の清浄化が目的なんだっけ」
警戒しながら、セルウスは手をかざした。
「それって再現性東京の理念は受け入れても歌舞伎町の理念はダメって事? それともどっちもダメなのかな?」
「えー? わたしわかんないですーぅ。新人なんですぅー」
対して巫女は口を尖らせてみえみえの嘘をついた。
ライは手を後ろに回してイカサマコインを握りしめた。
「正直な話、君達とはココで戦いたくないんだ。
互いに無事に済まないし、何より此処で互いに下手を打てばカルトが残ってしまう。
だから、今回は手を組まない?
そして今の仕事を達成させたら今度は君達が依頼すればいい」
花丸がそれを察して話を進めた。
「えー? すっごーい! ローレットさんってどこからても依頼をうけてくれるんですね! それにすっごく頼もしいですーぅ!」
巫女は言ってから……くわえた煙草にフィンガースナップだけで火をつけた。
「で、今すぐ全員死んでって頼んだら死んでくれるんです?」
「まあ、まあ」
ライは美しく清らかな笑顔で三歩近づいた。
「コイントスで決めましょうよ。お互い傷つかずに済みますよ?」
「……」
「……」
「……ククッ」
緊迫した空気の中、巫女は顔左半分を引きつらせるように一瞬笑った。
ライに近づき、肩をポンと叩いてから通り過ぎていく。
すれ違いざま。
「私、あなたみたいなクソ女大好き」
と囁いた。
「今日は負けでいいです。だーってローレットさんすっごーく強いんだもの。今度よかったら私のお願い聞いてくださいねー?」
ライはふと手に違和感を感じ、開いてみると……。
イカサマコインと一緒にくしゃくしゃの名刺を握りしめていた。
名刺には、『玉串神道会 ココノ・ナインテイル』と書いてあった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――依頼を完遂しました
隠しフラグ達成――ココノ・ナインテイルとコネクションを結びました
GMコメント
大変OP文章が長くなりましたので、ここで手短にまとめます
■オーダー
・成功条件:『泡の書』断片を手に入れる
鮫島組からの依頼で泡の書断片を手に入れるべくあるビルにカチコミを書けます。
●手段とパート
シナリオ内容は主に『カチコミ』です。
目的のビルに一階正面玄関から堂々と突入し、四階まで階段を使って駆け上がりながら各フロアで迎え撃ってくる敵を殲滅、制圧していきます。
この制圧パートが休憩なしの『長期戦』になるため、最低でも40ターンは戦闘が継続するつもりで準備を整えておくといいでしょう。
現れるであろう敵は『コアストック・カルト』というカルト宗教団体の教団員たちです。
といってもバブル歓楽街に溶け込むべくホストやサラリーマンに扮しており、バタフライナイフや木刀やヌンチャク、ないしは拳銃といった武器で武装しています。
戦闘力は一山いくらの雑兵とそれなりに実力のあるネームドで構成されています。
対多戦闘をメインとし、ときたま出てくるネームドへはタイマンでの戦闘が得意な仲間に任せるというスタイルがお勧めです。
四階社長室にはネームドが6~8人ほど詰めているそうです。
彼らとバチバチに戦い、勝利することで泡の書断片を手に入れることができます。
断片は金庫に収まっていますが、多少時間をかければ特別な技術を使わずとも開けることが可能です。
ですのでパート分けとしては『カチコミ開始パート』『ネームド登場時パート』『社長室制圧パート』の三つに分かれます。
●玉串神道会について
彼女たちはいわゆる第三勢力です。
そして彼女たちもまた泡の書断片を欲しています。
襲撃の様子をなにかしらの方法で観察しているらしく、どこかのタイミングで介入するかもしれません。
彼女たちの保有戦力が全くの不明なので、ぶっちゃけ武力によるはねのけは危険です。
●泡の書について
再現性歌舞伎町におけるバブルマジックについて記された書物。
バブルマジックとは『永遠に弾けないバブル経済』の幻影を見せ続けるという大魔術。作成者は書を断片ごとに分けて街に散らしたのちに街を離れており、支配者の席は空席になっている。
そのため断片を全て集めると実質的に街を支配できる。
●再現性東京(アデプト・トーキョー)とは
練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
その内部は複数のエリアに分けられ、例えば古き良き昭和をモチーフとする『1970街』、高度成長とバブルの象徴たる『1980街』、次なる時代への道を模索し続ける『2000街』などが存在している。イレギュラーズは練達首脳からの要請で再現性東京内で起きるトラブル解決を請け負う事になった。
■■■アドリブ度■■■
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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