PandoraPartyProject

シナリオ詳細

あんなことあるといいねとリズムをつけて

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 ラサの特産と言えばまずなんといっても「サンド・バザール」の闇市が挙げられるだろう。
 数々のキャラバンが品を持ち込み、白布のテントを張って開かれる闇市はラサを代表するものだ。極上のレリックからおっさんのくつしたまで、売ってないものはないと言っていい。買い物に飽きたら首都「ネフェルスト」を観光してみるのもいい。オアシスの芳醇な清水から生まれたこの街は、熱砂を旅してきた人々を迎えてくれる夢の都で、通りはいつでも盛況だ。盛況なのはストリートファイトが盛んだからでもある。腕に覚えがある一般人から、名声が欲しい木っ端傭兵まで、様々なカードが見られる。一定のルールに則っているなら、いつでも始められるストリートファイトは、闘技場にはない泥臭さ素人臭さがあり、そこが受けている。ただ、観戦するなら巻き込まれないよう注意が必要だ。彼らは平気で相手を投げ飛ばしてくるから。そこも含めて臨場感があってよいと、荒事を好むラサの民には好意的に受け止められている。
 おっと、酒場の盛り上がりも忘れてはいけない。ラサには各国から様々な酒が流れ込んでくる。珍品美酒に素人の作ったどぶろく、ラサの酒場は質と量、両方を備える。もとはといえば貴重な真水の代わりにアルコールを持ち歩く風習がそのまま根付いたからだが、いまでもラサの景気を占いたければ酒場の隆盛を見ろというのが定説だ。表通りの立派な門構えはもちろん非合法な葉っぱさんが渦巻く場末の小さな店にいたるまで、ラサに来た以上酒場を楽しまなくては大人の男と言えないだろう。かように酒場はラサの景気のバロメーターになっている。
 この酒場と切っても切り離せないのがギャンブルだ。カード、コイン、ダイス、時に腕相撲、あるいはじゃんけんまで。街ではそこかしこでギャンブルが行われている。明日をも知れぬ我が身なればこそ、ひと時の享楽に身を投じるのかは知らねど、統計学の始祖でもある賭け事はラサ住民の日常に浸透している。まあなにせ、最大の目玉が闇市な国だから、一期一会の精神と、スカをつかまされたところで笑って済ませられる大人の余裕を身に着ける社交の場としてもギャンブルは身近な存在だ。
 大きな声では言い難いが、娼館のレベルの高さも各国随一だ。美姫をはべらせ、食べきれないほど豪勢な料理と美酒に酔うのはラサではステータスになっている。昨晩は何人の美姫を宴に招いたか。どれだけの楽団を呼んだか。どれほどの珍味を並べたか。いかなる秘め事を交わしたか。こと娼館は自慢の種に事欠かない。


「というわけでー」
「何か足りないと思わない?」
 今日も今日とてErstine・Winstein (p3p007325)のお店にやってきたリートとオーデーは同時に唸った。不機嫌そうに尻尾をひこひこ動かす。ふだんなら閉店前にやってきて片付けの手伝いなどする殊勝な子たちなのだが、今日は相談事があるようだ。
「なにか?」
 Erstineはきょとんと目を丸くして、それから首をかしげてみせた。
「ラサらしくていいじゃない?」
「その子たちが言いたいのは、まさしくそこのような気がする」
 羽住・利一 (p3p007934)がグラスに口をつける。からリと氷が崩れた。
「まさにそこなのよ!」
「さすが、にい……ねえちゃん!」
「うん、まあどちらでもいいけどね」
 と言って利一はあいまいな笑みを浮かべた。
「姉ちゃん、ソーダ水をこっちに一つ!」
「この龍井茶ってのを頼むよ! アイスでね!」
「はーい! ただいま!」
 Erstineは営業スマイルで茶館の客たちの相手に戻った。スティーブン・スロウ (p3p002157)がシシカバブをふりふり、椅子へ逆向きに座ってリートとオーデーに向き合う。
「まわりくどいのはやめときな。Erstineはおめえらの子守じゃねえんだからな」
 しょんと尻尾を垂らしてしまったふたりにスティーブンは喉を鳴らした。
「代わりにおにーさんが相手をしてやろうじゃねえの。何かおもしろいことを思いついたんだろう? 言ってみろよ、つまんなかったら逆さ吊りの刑な」
「ちょっとスティーブンさん、こんな小さな子を相手になんてことを!」
 ウィズィ ニャ ラァム (p3p007371)が驚いて止めに入る。
「ジョークだよジョーク、本気にすんなよ」
(いいや、今のは本気だった)
 警戒してふたりの子どもを抱きかかえるウィズィニャラァム。ヴァイオレット・ホロウウォーカー (p3p007470)はそんな様子に小さく笑った。
「……スティーブンさんがいると、小さな依頼人の頼みが別の事件に発展しそうですねえ」
「そんなことはしねえよ。ちゃんと相手の了解は得るぞ、特に”仕事”の時はな」
「何の仕事ですかねえ、ヒヒヒッ……」
「話が脱線しているようだが」
 ラダ・ジグリ (p3p000271)がいつものペースで話題を元に戻した。
「行商と交易がラサの本分だ。オーデーとリートはそこに不満があるというのか?」
「そう」
「うん」
 同時にうなずかれてラダは口の端を上げた。
「言ってみろ」
「この間、Erstineたちがラサライブをやったでしょ? あれを聞いてあたしたちがケチな盗みから足を洗ったのは知ってる?」
「あれは本当にすてきなひと時だったな。あれ以来ずっと思ってるんだ、ラサには癒しが足りないって!」
「癒し、か」
 オーデーとリートがまくしたてるのにあわせて恋屍・愛無 (p3p007296)はぽつんとつぶやいた。さっそく記憶の小棚を開けてみる。
「癒し……治癒。全人的治療。心身を安らがせる行為。宗教的・霊的体験とともに語られることが多い」
「うん、そこまで難しく考えなくていいんじゃないか愛無」
 ニコラス・コルゥ・ハイド (p3p007576)が声をかける。
「ようするに、ラサの娯楽は過激なもんが多くて腹いっぱいってことだろ?」
「「そうそう」」
「ここらで何か新しい風が欲しい、と」
「「そうそう!」」
 無邪気に笑う子ども二人。
 ほんの先日まで、濁った眼でスリやかっぱらいを働いていたとは思えない。このまま放っておけば、またラサのよくない意味で男らしい風に呑まれ、もとのストリートチルドレンに戻ってしまうかもしれない。Erstineたちが成功させたライブにはまだまだ続きがあるのだ。
「たしかに女性や子供でも安心して楽しめる、そんな名物があってもいいわな」
 ニコラスは人差し指を唇へあてて答えた。
「なるほど、そういうこと。それってうちの店でも提供できるものだとなお素敵ね」
 一仕事終えて戻ってきたErstineが輪に入った。
「それじゃ、みんなでアイデア出して行こうか。お菓子でもつまみながら」
 そういいながらErstineは皿いっぱいのバクラヴァを出してきた。ローズウォーターの香りがふんわりとひろがった。

GMコメント

みどりです。リクエストありがとうございました。

バクラヴァはご存じの方もいらっしゃると思われますが、中東で広く愛されている歯が溶けるよ!ってくらい甘い焼き菓子です。ドリンクはお好みでErstineさんへオーダーしてください。アルコールは20歳から。アンノウンは自己申告。

●やること
1)くっちゃべりながら、ラサの新しい名物・娯楽を考える

とはいえ完全に投げっぱなしだと考えるネタがないと思われますので、いくつか磨けば光るであろう点を。

A)ラサには深緑から輸入された新鮮な食材、特に野菜・果物があふれています。
B)ラサには湯屋が多く女性の社交場になっています。また、その多くが蒸し風呂です。
C)ラサライブ(黒筆SD著)が国の威信をかけたイベントであったように、ラサには音楽を愛好する文化があります。
D)オーデーとリートがかつてそうであったようにストリートチルドレンが多く、治安は良いとは言えません。彼らは基本的に自分の食い扶持を稼ぐために仕方なく悪事に手を染めており、ほとんどはチンピラか傭兵になります。

これらを踏まえてもいいですし、まったく忘れて独自路線を走ってもかまいません。

  • あんなことあるといいねとリズムをつけて完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月09日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
剣砕きの
スティーブン・スロウ(p3p002157)
こわいひと
恋屍・愛無(p3p007296)
赤と黒の狭間で
エルス・ティーネ(p3p007325)
砂食む想い
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
終焉に至る泡沫の夢
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
博徒
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標

リプレイ


「まず掃除からかしら!?」
 エルスは風呂場をひと目見てそう言った。
 一同は元は湯屋だった建物にいた。今は連れ合いを亡くしたじいさんが経営を諦め一人で住んでいる。じいさんひとりにこの家は大きすぎるようで、浴場部分は最低限の手入れがされていたが、埃が積もっていた。
「ちょうどいいじゃねえか。適当なガキどもを捕まえてくる口実ができたぜ。そんじゃ俺はちょい外回り行ってくるかね」
「といいつつサボる気ではないだろうな」
 出ていこうとしたスティーブンの服の裾を愛無がひっぱる。
「いやいや、さすがの俺もそこまでじゃねーわ」
「そうか。とはいえ、スティーブンくんはこわいひと故、子どもに声をかけると逃げられてしまうかもしれん。そこで提案だが僕は露店でめぼしいものを見つけておきたい、だがニンゲンが喜びそうなものとやらに自信がない故、目利きに不安を覚えていたところだ。お互いに協力しようではないか」
「おう、いいんじゃねーの、俺も市場には用事があるわ。一緒に行こうぜ」
 スティーブンと愛無はすぐに戻ってくると出ていった。そこへ、さっそく箒と塵取りを二刀流し、三角巾とマスクとエプロンで完全防備したラダが現れる。
「湯屋は裸になる場所だからな。掃除するからには徹底的にやらないと衛生面が怖い」
「そうだな。せっかく模擬店を出すんだ。やるからには成功を目指そう」
 利一も納得してエプロンを身につけ、バケツに真新しい雑巾を放り込む。
「湯や水は問題なく使えるんだろうな」
 ニコラスが肝心な点に言及して自分の目で確認する。
「おう、OKだな。掃除して消毒さえ終えりゃ、すぐにでも開店できるぜ」
「ならばワタクシは皆々様のために、開店の知らせを触れて参りましょう……。一日限りのオーケストラ(ゆめのくに)には、人が集まらねば意味がありませんから」
 ニコラスの快活な声に、ヴァイオレットはそう答えた。エルスはさっそくモップがけをしながらウィズィへ声をかける。
「模擬店で売上や各種活動の成果を数値化してお偉いさんへ提出。これでラサの催しが増えるのなら、これ以上ないわね!」
「そうそう。説得力=データ力! まずはデータを集めないと、お偉いさんも納得してくれないって!」
 この日のための大判メモ帳を高々とあげ、ウィズィは任せろと胸をどんと叩いた。


「さぁさぁ、今日限りの湯屋が開店だ! ラサの美人の秘密を知りたくないかい? そこのきれいなお姉さんもどうだい、ここの風呂でもっと美人になってみないかい?」
 朝、スティーブンが呼び込みをかけている。景気のいい声を張り上げたと思ったら、小さな声で周りの子ども達へ命令する。白い上下のお仕着せを来た少年少女たちは、見た目にも涼しげでかつ清潔感があった。
「これが客引きだ。お前らも見てるだけじゃなくて覚えとけよ。ほら、いけ。おまえらの今日の晩飯代が出るかは自分の腕にかかってるからな!」
 発破をかけられた子どもたちが走っていく。
 湯屋の隣に急ごしらえした屋台から、美味しそうな匂いが漂ってきた。
「魔物料理はいかが? ゲテモノと思うなかれ。新鮮な砂鮫に砂鯨にラサのスパイス! 私エルスが腕をふるいます!」
 自ら笑顔を振りまきながらキッチンに立つエルス。食べるのが簡単で手に取りやすい串焼きをメインに量産だ。火の番くらいならば子どもでもできる。その他にも深緑の野菜をたっぷり添えた砂亀のスープ、容器は片手で持ち運べるようカップ型に。包丁を使える子どもたちに、みじん切りや千切り棒切りを教え、付け合せの野菜を作らせるのも忘れない。
(将来この子達の中から料理人が出るかも。そしたらうちの店で働いてもらおうかな、なんて)
 楽しい想像にエルスは胸を弾ませる。
 その奥で愛無がどんと3つめの木箱をおろした。子どもたちが群がり、蓋を開ける。中から出てきたのは深緑からの果物、のB級品。市場に出しても捨て値のそれを大量に買い付けてきたのだ。
「ひとまずこれで腹をふくらませるなり喉を潤すなりするといい。君たちにはこれから炎天下の長丁場を耐え忍んでもらう故。ただし、これから届く箱のものには手を付けないこと、まずは売り物と私物の区別をつけてもらおう」
 話を聞きながらも、子どもたちが喜んで果物を食べている。なかには久しぶりの食事なのか、夢中になってがっついている子も。
 愛無は全員の腹がくちたのを確認すると、湯屋の裏、事前に作ってあった簡易かまどの前に子どもたちを連れて行った。そこには追加で届けられた果物と大量の砂糖があった。
「それでは君らにはジャムの大量生産に入ってもらう。何度も言うがこれは売り物なので、手を付けないように。約束できるか?」
「「はーい」」
「うむ、いい返事だ。比較的安価かつ普段から気楽に楽しめる娯楽めいた物といえば、これはもう「食」だろう。ラサの大多数は老若男女、貧困層から富裕層まで食わねば死ぬ故に」
 でだな、と愛無は一呼吸置いた。
「それには矢張り加工品がよいと思う。一寸した物でも、日々の暮らしに変化や潤いを与えたりもできるしな。火の管理には気をつけるように。火事でも起こしたら目も当て有られない故」
 加工の手間は煮込んで瓶詰め。果物を煮込むも、瓶を煮沸消毒するも同じ手順だ。難しくはない。難しくはないためにライバルも多い。だからそこでもうひと工夫。愛無はひとまわり小さな木箱を開けた。
「容器はこの豊穣風のを使うこと。商売にさといラサの民であれば、流行には敏感だろう。珍しいものも好きそうではあるし」
 愛無はジャム作りの手順を詳しく説明し、要点を描いた絵図を皆から見える位置に貼った。字が読めなくても大丈夫なようにだ。
 反対側ではウィズィがアイスの作り方を教えている。
「はーい、みんな注目ー! ラサの暑い夏を乗り切る新定番を作っちゃいましょう!」
 こっちは果物を使ったアイスやジュースだ。簡単に作った氷室にどんと重ねられた大量の氷、それにかけられた筵を剥ぎ、ウィズィは真面目な顔をした。
「とにかくこれは速さが命! 溶けちゃったら商品価値が下がります! だから手早くやること。それじゃ手順はわかったかな?」
「「はーい」」
「よしっ! 元気なお返事、信じてるからね! アイスのコツは塩を多めにすること、OK?」
「「おっけー!」」
「作ったら小売の子にどんどん渡して行ってくださいね。できる?」
「「はーい!」」
「キャッチコピーは!?」
「「風呂上りのいっぱいをどうぞー!」」
「うーん、完璧! よくできました! それじゃ、実際に作ってみましょうか。もうお客さんどんどん入ってきてますからね。美味しいもの作ってバンバンお金稼ぎましょう!」
 はいっ! 子どもたちが今日一番の声を出した。
 ラダも木箱の間から顔を出した。
「ジュースは種類が多い分、手順が複雑だからな。簡略化できるところはすること、ウィズィも言ったように時間との勝負だから、いい方法を思いついたらいつでも私に言ってくれ。では、まずこっちは果汁と蜂蜜を合わせて、よくかき混ぜる。こっちは仕上げにミルクを入れてクリーミーにする。こっちは……」
 言いながら実演してみせる。
(百聞は一見にしかずだからな)
 ラダは子どもたちに指導をしながらも忙しく頭を働かせた。このアイスやジュースは風呂上がりの客がターゲットだ。定着すれば子どもでもできるいい仕事になるだろう。
(ただ、変な輩が元締めになってしまわないようにしなければいけないな。風呂屋か、まっとうな商人が主導する必要がある。培ってきたコネを活かす時が来たか)
 走り回りせっせと作業する子どもたちを眺めながらにんまり笑う。
(しっかり働けよ、そして金勘定を覚えるんだ。何も悪いことじゃないし、恥ずかしいことでもない。身を助く第一歩だ。ここで商売や接客の経験を積めば、商人の下働きなりもできるようになるだろう)
 危険な仕事にばかり就かずとも良くなる。それが一番だ。

 湯屋は繁盛していた。イレギュラーズのテコ入れが入っているとヴァイオレットから聞き、集まってきた客人たちは、その想像以上の接待に胸を高鳴らせた。清潔な浴場で体を清めたら、隣の部屋へ。
「いらっしゃいませ。マッサージはいかが?」
 刻んだハーブと塩を混ぜたシンプルな垢すりだ。台ヘ横になると、スティーブンからコツを伝授された子どもたちが寄ってきて、全身を揉みほぐしてくれる。塩の粒を転がすような優しいマッサージは湯上がりの火照った肌によく効いた。
 喉が渇いたら小箱を抱えた子どもを手招きすればいい。そこには見た目にもきらびやかでおいしそうなジュースやアイスが並んでいる。浴場で体を温め、マッサージで血行をよくし、お肌もつややかに、そして冷たいおやつで体を落ち着かせれば気分はもう極楽。……ここまでは湯屋の範囲内。そこからがまたすばらしい。広い休憩室は利一が気を利かせ、ダンスホールと化していた。一定時間ごとに曲が変わり、ラサ風をメインに幻想風、海洋風、練達風などなど、各国のダンスが楽しめる。貸衣装もあれば、リードしてくれる踊り子をさがすこともできる。もちろん自分が踊りの輪へ入っていくこともできる。
「老若男女問わず、みんなで音楽に合わせて歌ったり踊ったりできると楽しいんじゃないかなと思ったけれど、予想通りいい笑顔だな。あれが見れただけでも試してよかったよ。私のいた世界でも民族衣装を纏って情熱的に踊る『オリエンタルダンス』っていうのが砂漠地域発祥であったんだ」
 なつかしそうに目を細める利一。このダンスホールは利一も思いもよらなかった効果を生み出した。踊りで汗をかいた客たちは、また風呂を利用するのだ。そこでまたマッサージや数々の売り物を試し、小銭がチャリンと音を立てる。まいどあり、の声が飛ぶ。
(小さいとは言え経済が回っているな。俺も取材がてら一踊りして客の感想を集めようか)
 その時、大広間からぞろぞろと客が現れた。その中にニコラスの姿を見つけ、利一は近寄った。
「そっちの景気はどうだい?」
「なかなかだぜ。屋台の料理だけじゃ注文がさばけなくて、急遽出前を頼んだりしてたさ」
「重畳重畳。ところで、やはり出前を頼むと高く付くかい?」
「そうだな。やっぱりそこは仕方がないか。ま、今回はお試しだし、こういう問題点もあるってのがわかっただけでもうけもんだろ。客は開演の時間に合わせて集まるから、それまでに作り置きのできる品を……というかもうレストランを併設しても面白いかもしんねぇな」
 そう、隣の大広間ではニコラスの提案したミュージカルが催されていたのだ。
「踊りや歌だけじゃラサの気質に乗っかっちまってるだけだ。ならよ、そこからもう一歩踏み出してみねぇか? 歌と踊り、そこに芝居って要素を掛け合わせたもんを出す劇団ってのに、アンタら、なってみねぇか?」
 そう口説き落とした楽団員たちは、彼が見込んだとおりだった。演技が棒気味なのはこれが初回だからなのと、新しい試みに楽団員たちがまだ慣れてないせいだ。回数を重ねればすぐに解決するだろう。
「ラサには色んなものが集まる。当然、世界にあった伝承や物語も同じように集まってくる。ならそれを使わなきゃ勿体ねぇだろ」
 というわけで、彼は徹夜してミュージカルの台本を書き上げ、この日のために楽団員たちも練習を重ねてきた。今日がそのお披露目だ。結果は上の上。風呂上がりで体力を使った客はのんびりと大広間に集まり、そこで血湧き肉躍る音楽と歌に魅了され、時に悲しく時に心を打つシナリオに思いを馳せた。
 その一方で、ニコラスは大広間を飲食自由にした。飲んだり食べたりしながらミュージカルを楽しめる寸法だ。酒やツマミが飛ぶように売れ、最初は屋台から皿を引っ張ってきていたがとうとう足りなくなって、利一へ話したように出前と相成った。
 給仕をするのは勿論子どもたちだ。年重の彼彼女らによーく礼儀を教え込み、とにかく目立たないことを意識させる。年下の子どもたちには子どもたちで大事な仕事がある。チラシ配りや舞台の道具作り。今は埋もれているが子役の才能を持つ子もいるかもしれない。
 ヴァイオレットが影のようにニコラスと利一へ付きそう。
「お、帰ってきてたのか。営業おつかれさん」
「ありがとうございます利一様。外を歩くのも飽きてきたので、占いのコーナーでも作りましょうかね。神秘は女子の最大の関心事でございますから」
「ああ、そいつも面白そうだな。ヴァイオレットなら座ってるだけで他の客もひっかかりそうだ」
「からかうのはおよしくださいませ、ニコラス様」
 そう答えっつもヴァイオレットはまんざらでもない風だ。事実、ダンスホールのソファでくつろぐ彼女へ、ちらちらと悩ましげな視線が送られている。
「あれが全部お客になったらすごい売上になるだろうね」
「ええ、占いとは究極の接客業ですので、ああいう連中をいなすのも占い師の業でございます。ところで、この施設は子どもたちの良い働き口になりそうですか?」
「なるだろうね」
 利一が首を縦に振った。ニコラスも続ける。
「ストリートチルドレンってぇのはよ。色々と理由はあるが根本にあんのは安心できる居場所がねぇんだよ。だから外に救いを求めて外で生活し始める。すぐにそこにも求めてるもんはないって気づけるんだがな」
 だからここをその安心できる場所にするんだよ、ニコラスはぶっきらぼうに断言した。照れているようだった。


 一日だけの湯屋は盛況に終わり、一同は後片付けをするとエルスの店へ戻った。
「あー、それじゃ反省会するか。ガラじゃねえけどよ」
 スティーブンがウィズィを眺める。
「どうだった? 書紀さん」
「そうですね、まず湯屋の使用料、これは少しでも多くの層に利用してもらうために安く抑えたので大赤字。ショバ代も結構奮発しましたね。次にダンスとミュージカル、意外と費用がかかるのでトントン。でも受けてましたし今後の伸びしろに期待です。マッサージ屋はほぼ人件費だけで、そこに安い子どもを使ってるから黒字。屋台は一番の黒。客単価も一番でしたね。ただこれはエルスちゃんの料理が大きかったです。ので、そこが今後の課題かな、と。最後に風呂上がりの一杯、これもいい感じ。やっぱり喉が渇きますから。子どもたちに接客や礼儀作法をしっかり学ばせればさらに売れるかも。というわけで全体として……」
 ウィズィが溜める。期待に満ちた視線が集まったところでウィズィは小さくガッツポーズを取った。
「本日の営業は、黒字です! やったね!」
「「イエス!」」
 それぞれ自分の飲み物で乾杯した。エルスは占い師の珈琲を胸元に抱き、万感の溜息を零した。
「はー、夢が広がるわ! 今回は湯屋だけだったけれど、まだ腹案があるのよね」
「ほうほう、たとえば?」
「サンド・バザールをイベントで活性化するとか、春なら桜のあるオアシスを推すとか、夏なら砂上サーフィンを楽しめるようにするとか、あとはー、ラサの中でも攻略を終えた遺跡を迷路のように楽しむのはどう? 涼めるし、迷わないように工夫すればと思うの!」
 ぱやぱやの笑顔でまくしたてるエルスにウィズィも微笑みを誘われた。
「ほい、エルスちゃん。今のもメモ帳に纏めておいたよ。ふふふ、直談判しに行く理由ができたね!」
「えっ、ええ! そうね! ……それに、これがラサのためになるならば……っ!」
 ニコラスが頬杖をついてつぶやく。
「普段は鉄火場に居るがこういうのも悪かねぇ。安らぎってのは必要だってのがこうしてるとよぉく分かるってもんだ。かはは。……このバクラヴァの甘さに俺もやられちまったみてぇだが、そういうのも偶にはいいだろ」
「ああ、子どもたちが自分の国の将来を真面目に考えるなんて、素晴らしい話だ。そんな前向きな気持に、少しは応えられたかな」
 酒を片手にまったりと利一も言う。
「熱砂の砂漠の中にある、傭兵と商人、そして享楽の国。ワタクシのように人の欲を好む者にとっては大層居心地の良い空気でございます。しかしその一方で力も財も持たぬ者は恩恵に与れるどころか虐げられることもある……」
 ヴァイオレットはちらりとオーデーとリートを眺めた。
「ワタクシにとって人の不幸は蜜の味ですが、善人の不幸や理不尽な境遇は嗤えません」
 珈琲を一口のんだ彼女はベールを弄んだ。愛無がオーデーとリートへ体を向ける。
「時にふたりは、何か希望があるだろうか。身も蓋もない話、座標は生活が保証されている。君等があったらいいなと思う物のほうがラサの実情により即しているのかもしれないとは思う故」
「それより今日一日働いて汗だく! おなかも減ったよー」
「バクラヴァもらっていい?」
「ふむ、次は生活の保護という観点が必要そうだ。いつまでも路上で寝かせるわけにもいかない故」
 一朝一夕では行かないだろうなこの問題は、と愛無は思考した。
 ソーダ水を飲んだラダが天井を見上げる。
(「何か足りない」なんて思ったこともなかった。ここはこういう国なんだと、そう思っていて……)
 そして軽く顔を伏せ、ラダは満足げにまぶたを閉じた。
「ずっと変わらないと思っていた故郷が、今日一日で、少しだけ良い方向に舵を切った。そんな気がする」
 グラスの中で氷が溶け崩れる。夏蜜柑の爽やかな香りが漂った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

リクエストありがとうございましたー!
どれも素敵だったのとやっぱりお風呂に関する意見が多かったので、じゃあもうやっちゃえ、と皆さんにテストケースとして模擬店を出していただくことにしました。
このデータをどう使うのかは皆さんにお任せです。
ラサの希望、お偉いさんに届け! がんばれ! 応援してます!

それではまたのご利用をお待ちしてます。

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