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シナリオ詳細

【今昔百鬼夜行】貉の仇討ち

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●野槌
 目の無く、ずんぐりとした胴体。それはヘビかナマズの出来損ないにカビみたいな体毛がびっしりと生え揃えた見た目で、体長はヒト種の大男を一人か二人は丸呑み出来るような巨大さである。
 それがまだ息のある瀕死の動物達を、しらすの躍り食いが如く口で器用に呑み込んでいくのである。呑み込まれているのは犬くらいの……アナグマともタヌキとも、ハクビシンとも形容がつかぬ動物である。
 きゅーん。と、それらの鳴き声がした……ような気がした。
 おそらくは聞き手の幻聴であろう。呑み込まれた動物は既に声を出せる体力も無いはずである。
 聞き手というのは、これまた同じく犬くらいの、何にしてもその子供である。
 その子供は体躯が小さい為、夏の生い茂った草場にどうにか隠れ潜む事が出来た。
 それが幸か不幸かなどは分からぬ。野生で生きていく厳しさについてもそうであるが、あのように貪欲な化け物が山中に蔓延っていては自分はおろか、他の動物達もいつか丸呑みにされてしまうだろう。
 丸呑みにされて、ゆっくり溶かされるのは嫌である。
 親達のずる賢さを引き継いでいるこの子供は、その小さな頭でどうにか彼奴めを打ち倒す打開策を考えようとした。

●貉
 恋屍・愛無 (p3p007296)はギルドローレットで依頼人に対面して大いに悩んでいた。祭りや妖怪退治の一件からか、カムイグラの役人から直接相談事をもらったまでは別に良い。
 だが役人から受けた相談事は「怪しい輩が敵討ちをしてくれとせがんでくる。面倒事が起こる前に斬ってはくれまいか」という珍妙な話であった。
 とりあえず、敵討ちを断って逆上されて役人に危害を加えられても困る。そう判断してひとまず依頼人本人にはローレットにお越しいただいた。
「あのぅ、ボク……いえ、ワタシのカオになにかついていますカ?」
 たどたどしい喋り口調。その話し方は礼儀正しく振る舞おうとする子供のソレだが、頭や顔は黒髪に白が混じった老婆のものである。しかし体は不自然なほど若々しく、豊満で服装もそれに似合って艶やかだ。その魅力的に肥えた臀部には、狸か狐かのその類の尻尾が……。

 …………。明らかに、動物系の妖怪が変化した類であろう。変化の練習にヒトを化かしに来たか。カムイグラの事情にそこまで知識が多くない愛無ですら、そんな事が思い浮かぶ。
 しかし「穴の貉の直をする」という諺もあるらしい。食べる前に話くらいは聞いてやろう。
 彼(女?)が言うには、山中に『野槌』という妖怪が現れたとの事である。
 野槌というのは、本能のまま見つけたものを食い漁る悪食の妖怪。普通は兎とか、鼠とかそういうのを標的にするらしい。
 その正体は零落した――「おちぶれた」の意――神サマだとか、口が達者な僧侶様が化けて出た姿だとかいう噂もあるが、それはこの際どうでもいい。
 問題はその個体が異様な巨体であり、中型の動物はおろか、ヒトも呑み込まんばかりの大きさであるとの事だ。それを聞いて、最近巷の猟師が「大蛇が鹿を呑み込んでいた」と噂し合っている事を思い出した。
 そういう噂と彼(女)の話も合わせて、巨大な野槌が出たというのは真実味がある。いや、確証が出てからでは遅かろう。何せその大きさならば、ヒトも当然呑み込める。そうしてヒトの無力さとその味を覚えた怪物は、『人食い』へと化けるのだ。
 愛無は自分の経験則からそう導きだし、相手を依頼人として扱うと了承を伝える。
 老婆の顔がパァ、と明るくなる。嬉々として、愛無達に出現場所や野槌の特徴を伝え始めた。

GMコメント

 稗田ケロ子です。蛙はおいしくないよ。

●環境情報
 草木生い茂る山林地帯。中距離以遠の攻撃を阻む遮蔽物は多く、多少どうにかする必要がある。
 遠距離が攻撃手段に混じっている場合はその辺り地元の猟師に知恵を貰うか、あるいは道具やスキルでどうにか出来るかもしれない。
 討伐時間は選べる。各々の得意な手段を考えて、時間の事も作戦に組み込むのが良い。時間帯によってメリットデメリットもあるので慎重に。

●エネミー情報
野槌:【精神耐性】(BS【混乱】【狂気】【魅了】の効果を受けない)持ち。
 ステータスはその体躯通りに体力と防御技術が高い。耐久力の化け物。BS抵抗は低い。
 回避能力は非常に低く、反応が高い。避ける能力は酷く鈍いが、飛びかかる為の瞬発力が高い形である。
 命中に自信があるイレギュラーズならクリーンヒット以上が出やすいので、それも作戦に組み込むといいかもしれない。

『体当たり』近距離・単体・【飛】付与の大ダメージ
『暴れ回る』中距離・域・【体勢不利】付与の中ダメージ。

『丸呑み』至近距離・単体・【防無】。判定が特殊。クリーンヒット以上で下記の通り。
・この攻撃のヒット判定時にはダメージが無い。
・呑み込まれた者は次のターンから1ターン毎に【致命】と【窒息】と『特大ダメージ』を受け続ける。これはどうにか脱出しない限り、解除されない。
・呑み込まれた者はイレギュラーズからの回復や範囲攻撃の対象とならない。
・呑み込まれた者は戦闘不能にならない限り『至近距離』のまま攻撃に参加出来る。エネミーはその攻撃に対して回避や防御判定を出来ない。
・エネミーの体力が0になると必ず脱出出来る。

●NPC情報
依頼人の妖怪?:
 明らかに、妖怪の類だが「あくまで自分はヒトである」と振る舞っている。
 おそらく山林に住んでいたタヌキか何かであろう。山林の環境にはこの上なく詳しいと思われるが、それを詳細に話す事は自分の正体を明かす事に等しい。
 かなり口の上手いものが交渉内容(プレイング)でどうにかするしかないだろう。

  • 【今昔百鬼夜行】貉の仇討ち完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月15日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
ニャムリ(p3p008365)
繋げる夢
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き

リプレイ

●不信
「ねえ、依頼人さん。もし他に知ってることがあれば詳しく話して欲しいな。情報を話すことはもしかしたら依頼人さんにとっては不都合かも知れない」
 出発準備を整えている合間、『魔法騎士』セララ(p3p000273)は依頼人へ言葉を向けた。他のイレギュラーズもそれに併せて質問を投げかけ始める。
「ここでしっかりと教えてくれると、俺達の成功率が上がるからなあ。頼むよ……」
「直接その野槌、だっけ。を見たという事は、森の中に入った事くらいはあるって事だと思うのだけど……、たまたまそういう場所を目にしたりしなかったかな……?」
 相手が妖怪であるのは承知の上である。だがしかし、化けの皮を剥がしてやろうというわけではない。この妖魔がイレギュラーズを仕掛けて仇を討ってもらおうという算段なのだろうが、それ以上に謀ろうという気概は微塵も感じない。
 むしろ巨大な野槌は放っておけば後々厄介になりそうだ。ゆえに「こやつの正体を暴かずに討伐依頼に乗ってやろう」というのがイレギュラーズ達の考えであるのだが……。
 突然「ぐう」という音が鳴った。どうやら依頼人が腹をすかせていたらしい。
「……待ってる間に食べてて良いから、この金平糖」
「その素振りは、ぼくたち流では『只では教えられない』って意味なのだけど……こっちでは違ったかな?」
 事前情報を聞き出していた『精霊の旅人』伏見 行人(p3p000858)や『いつもすやすや』ニャムリ(p3p008365)が、各々持ち寄った食事を取りだした。
 依頼人はそれを見て物欲しそうな目したものの、しばらくして首を振る。
 きっと「毒を仕込んでいる」とでもたわいもない誤解したのだろう。されどこの妖魔からしてみれば人間というのは「頼れる大人」ではなく、「殺される可能性のある相手」だ。
 セララはそれを理解して、ニャムリから一つおにぎりを毒味してみせて相手に説得を試みる。
「言いたい事は分かる。ボク達を信じて欲しいんだ。ボク達は貴方の不都合な事実が何であれ、絶対に貴方を裏切らない。約束するよ。だからどうか、知ってることを話してくれないかな。そうしてボク達を信じてくれたら、『イレギュラーズ』の僕達が絶対に化け物を退治してみせるから!」

 言うか言うまいかいくぶんか迷ってから、依頼人はセララの言葉に顔を伏せた。
「仇討ちを望む理由は、やはり親族が犠牲になったのか」
 横で話を聞いていた『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)が依頼人にそう尋ねる。
 依頼人は目を伏せたままでそれには答えなかったが、肩を震わせたその様子が何事かを物語っている。
 ジョージはそれ以上は追求せず、山林への出立準備を進めながら依頼人へと呟いた。
「……ならば、わずかばかりの黙祷と、お前が何者であろうと、仇討ちを望むなら、手を貸そう」

●不許
 猟師や現地調査への複数人が宛てられたのは僥倖だったろうか。
「あんたらあそこに出る大蛇の退治いってくださるんか?」
「そうじゃ、その為にあの山林で役立つ事を知ってるならば教えてほしい」
 猟師の言葉を肯定する『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)。妖怪退治とあらば猟師側にとっても協力を拒む理由はない。
 討伐対象に関しての情報は猟師からほとんど得られなかったが、その代わりに立地について有益な事を話してくれた。
「ワシらあそこでは普段は獣なんか狩るんですがな、場所を選ばにゃ木々が邪魔な場所が多くて、普通なら矢弾が届かんのですわ」
「つまりは場所を選べば届くと?」
 瑞鬼の問いに猟師はゆっくり頷いた。曰く、矢弾を射かけやすい開けた場所が何カ所かあるらしい。
 普通の獣ならばそこにおびき出す手段はいくらかあるが、今回に限っては未知の存在に近しい相手だ。
 何人か中距離以遠の戦いをする者が居る手前、その辺りは仲間に相談してみるか。

「ちょっと大変だけど、お願いね♪」
 現地に住まう精霊を使役して、山林の入り口地点からそれらへ探りを入れる『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)。
「おぞましい妖怪もいたものです。呑み込まれてしまったら、一体どうなってしまうのでしょうか……」
 討伐対象の話を思い返して身震いする『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)。人間も呑み込めそうなほど巨大で、眼が無く体毛の生えた蛇。生理的にも気味が悪いというのに、食べられる苦痛を想像するとたまったものではない。
「中は案外居心地がいいかもしれんぞ」
 ……仲間の愛無が、そう言って手元の袋を抱き締めるジェスチャーをしている。冗談で言ってるのか本気で言ってるのか分からない。
「たとえ居心地が良くても、食べられるのは勘弁願いたいものです」
「ならば藻掻く事だな。経験論だが、喉に引っかかると存外上手く飲み込めないものだ」
 愛無が用意した袋の中には革靴の他に、生きた鶏が精一杯藻掻いているのだが……どうやらそれを囮に野槌をおびき出す算段のようだ。
 ユーリエは鶏の末路を想像して、残酷な事をしているような気分に陥って思わず額を抑える。
「なに、食って己の糧にするのとそう大差無い。つまりは、そういう事だろう」
 愛無から放たれた言葉が自分達に向けてでない節があって、ユーリエやアリアは後ろを向いた。
 どうやらギルドで依頼人から聴取していた者達がやってきたようだ。依頼人もジョージの後ろに隠れるように着いてきている。
 この妖魔からしたら今現在の我々はそういう認識だ。何せ、妖怪退治で名を馳せつつある『イレギュラーズ』。
 ジョージも愛無もそのような眼で依頼人を見やってから、これ以上ついてこないように諭した。
 仇討ちをその目で見たいという気持ちもあるのだろうが、残念ながら足手まといになる想像は容易い。
 周囲のイレギュラーズ達も依頼人に対しては彼ら以上の慰めも思い浮かばず、瑞鬼との合流を経て山林へ発ったのであった。

●不運(ファンブル)
「うーん。あれ、どう考えても人じゃないよねえ……。まあ、害ある妖怪討伐なのは間違いないからあまり深くは聞かなかったけど……」
「隠し事をされるのは気に食わぬがそれはそれじゃ。おおかた彼奴には我らが悪鬼羅刹に映ったのであろう」
 いくらかの痕跡が見受けられた場所に鶏やら食べ物やらを設置してから、そう話を交わすアリアと瑞鬼。
 依頼人が野槌について更なる弱点を知っていたかどうかは気になるところであるが、無理矢理脅して聞いても嘘で化かされていては埒があかない。
 それならいっその事、期待していた成果を得られたアリアと瑞鬼の情報に頼った方が予定通りに動きやすいというものだ。
「…………」
 そうは思えど、依頼人から信頼されなかったという事実に頭が重たくなるセララ。
 彼女にとっては情報を出し渋られた事よりも、信頼を築けなかった事にこそ後悔が残っていた。
「いやぁ、もうちょっと豪勢なお菓子を用意しておくべきだったかな」
 セララを気遣って、自分の責任だとでも言いたげに苦笑する行人。しばらくして、彼は苦笑を強めて頭を掻いた。
「たとえば精霊と疎通出来る心得があっても、彼らに拒絶される事はある。だから、そう気を落とさ……」
 精霊達が騒ぎ始めた。抗議ではない。討伐対象を察知したのだ。
 この山林環境において、行人が使役する精霊達からの恩恵は十全であったろう。
「……血生臭いな」
 何処だ。敵を察知した行人や愛無は周囲へ目を走らせながら、仲間に警戒を促そうとした。

 ――――。

 何か巨大な物体が数十先メートル先から飛んできたとまでは理解出来た。隊列も仮組みしてあって、精霊達の騒ぎから完全な不意打ちでなかった事も幸いであったろう。
 最悪の不幸だったのはその速度に対して先行出来る者が居なかった事ではない、

                          「あ」

 回避姿勢を取ろうとしたアリアが、不運にも生い茂る葦に踵を滑らせてしまった事だ。
 普段の彼女なら避け切れたはずのそれが、嗚呼無情にも彼女の全身を呑み込んだ。

●不随
 もぞり。もぞり。
 戦線を構築する刹那の時間、不細工な芋虫か何かがアリアに覆い被さっているように映った。
 他の妖怪かと一瞬錯覚したが、眼もなく、耳もなく……苔むした肌はまぎれもなく件の『野槌』。
 野槌はその体をゆっくりと上向きに起こし――アリアを嚥下しようとしている。そう理解したイレギュラーズ達へ戦慄が走った。
「この鎖で動きを阻害する……サイレンスチェーン!!!」
 ユーリエは咄嗟に野槌へ向けて沈黙の詠唱を放つ。鎖は化け物の肌に纏わり付く、分厚い装甲に鎖の方が悲鳴をあげる状態だが……いや、しかし。通っている。その証左に鎖は青白く変色しながら縛り続けている。野槌は中距離以遠の彼女達へ一時的にどうしようも出来ない状態でいる。
 ――絡め手は十全に通る。それを認知したイレギュラーズ達は各々作戦通りに攻撃を加えるべく武器を構える。
「零落した神さまだって聞いてたけど、それが本当だったらこの様子じゃ理性の欠片もないな……」
「なぁに、それを大人しくさせるのはわしの得意分野じゃ」
 瑞鬼はそういって野槌に向けて両腕を翳す。常世と幽世。その道筋を示す鬼の技。神や僧侶に使うとは皮肉だが、暴れ回る気力を削ぐにこれほど適切な技は無い。
 思惑通り、その効力は分厚い装甲を素通りした。
「かっかっか、存分にわしの手で踊るがよい」
 作戦通りなら、仲間と連携を取って絡め手でがんじがらめにするのがもっとも効果的か。
 野槌にとって、この中距離以遠の敵らは厄介極まりなし。一人ずつ捉えるべく距離を縮めようとするが。
「ジョージ・キングマン。ここは通さんぞ」
 やはり前衛、ジョージが名乗り口上をあげながら立ち塞がる。獣は獲物と戦う知恵はあっても、戦術を使う相手への対処を知らぬ。誘われるがままにジョージへ攻撃を見舞う。
 ジョージは痛みもおそれず相手の攻撃と同時に肘を突き出す。相手の勢いと併せて、野槌の腹部を突き刺した。
「む、ぅ……っ!!」
 ジョージの腕の骨がイヤな音を立てる。だが今のは、お互いに効いた。野槌は悶えていた。ジョージは絡め手は得意な方とは言い切れないが、こういう手合いと戦う術は心得ている。
「夢観るように、みんなに気持ちよく戦って貰うのが……今のぼくのお仕事だから。遠慮、しないでね……」
 仲間達の体力や魔力が続くかが問題であるが、ニャムリがそれを支える。
「君には、ちょっと悪夢かもしれないけど……」
 これは容易く崩れぬ。ユーリエが効果的な先手を打ってくれたのが大きく影響して、戦線維持の面では安定していた。
 しかし、消極的な戦い方をしていればアリアが重傷を負うのは必須。
「うまく化ける坊さんだったら会って話でもしてみたかったが……!!」
 行人は焦る心を抑え、蔦纏う刀で野槌の装甲を徐々に削いでいった。

●不感
 アリアは野槌の腹の中、未だ意識を保っていた。いや、強制的に保たれていたという方が正しいか。
 ヒトは、痛みで気絶出来ても死ぬ事はないらしい。ショック症状による死というのはいわば出血死だ。
 苦痛だけが与えられる状況ならばどうなるか。体力が許す限り痛みで意識が沈みかけて痛みで目覚めるのを繰り返す。
 アリアは喉元の筋肉で絞め殺されようという形で、そういう状況にあった。
 腐臭が鼻に入り込んでくる。胸を締め付けられて呼吸も出来ない。
 このまま意識を手放せればどれほど楽だろうか。そう思いかけて一瞬、ふわりと体が宙に浮いた感覚を覚える。
「セララスペシャール!!」
 セララが打ち上げる形で野槌を切り上げ、完全に無防備な状態にある。加えて、野槌の体内は外側と違って無装甲……。

『ならば藻掻く事だな。経験論だが、喉に引っかかると存外上手く飲み込めないものだ』


 仲間の言葉が脳裏を掠めた。……自分達はどういう戦術を取るはずだった? 朦朧とした頭で思い出す。苦い木の実? 毒薬? ――いや、もっと確実な方法もある。
 そう感じて、魔力によってその右手に虚無の剣を練り上げた。

 !!!

 外部から見て、野槌の体が硬直した。心の臓をわしづかみにされた。そのような表現が似付かわしい。
 今までの攻撃は耐えていた野槌だが、セララの打ち上げた瞬間怯んでいたのもあってその一撃は野槌にとって最悪であった。
 野槌は呼吸を乱して盛大に嘔吐いている。ヒトが喉に刺さったトゲを吐き出すように、喉の筋肉を萎縮させるのを繰り返して無理矢理それを吐き出す。
「っげほ……げほっ……!」
 吐き出されたアリアが咳き込んでいる。
 それを確認したニャムリが回復を即座に詠唱する。野槌は吐き出した直後にジョージやアリアごと踏み潰す為に暴れ回ろうとしていた。
 ジョージは十全に受け切れるとしてもアリアがそれで事切れぬか微妙な瞬間。
「成る程、それがお前の弱点か。ならばその穴を広げさせてもらおう」
 野槌が動きを止める。一瞬何事が起こったか仲間達も把握が遅れたが、仲間達が剣で削いだ装甲部分から一気に大量の血が噴出して、愛無が魔術的な呪いか何かを与えたのだと瞬時に分かった。
 今効いている絡め手はいくつだ。
 何にしても――それらの弱点を突ける攻撃があと二つ三つで仕留めるに事足りる。
 行人がそれを察知して、先行で蔦纏う刀を野槌へ飛び乗ってその背に突き立てる。これで確実に致死圏内。
「是非とも朝顔の種も馳走したかったが、まぁよい。……いけるか?」
 体力を消耗したアリアの方を心配そうにチラりと見た。しかし、魔力の方は十全だ。いける。
「瑞鬼さん、タイミング合わせてみよっか? 1、2のさーん!」
 蛇骨の調――呼吸を取り戻したアリアが呪詛の歌を紡ぐ。音と共に常夜が野槌の周囲を包んでいく。
 眼の無い、耳の無い。それでも、その呪詛は感じ取る事は出来た。零落しようと神威がゆえに感じ取ってしまった。
 そうして、ついに何も感知する事が出来なくなって、心の臓すらもその音を途絶えてしまった。

●不易
 ニャムリのアリアの治療を完了する事が出来た。どうやら、現状の敵対生物は野槌一匹に間違いはないようだ。依頼人の謀りでもない。
「一仕事したら眠くなっちゃって……一緒に、どう?」
「悪いが、もう一仕事頼みたい事がある」
 ニャムリが眠ろうとしていたところで、ジョージが話を始める。どうやら、移動中の際に文を持たされていたらしい。それらはセララへの謝罪と依頼金の受け渡し場所の旨であった。受け渡し場所は同じく山林地帯である。それを効いて大いに納得したように頷いてみせる愛無。
「随分と信頼されたようだな」
「……不易だ。妖精妖怪といえばこれしかないだろう」
 なんだか二人は察しがついているようだが、仲間達は激戦の後だっただけに罠の可能性も若干疑っている。
 ともかくとして、全員でその場所に赴いてみる事にした。(ニャムリは眠りにたえかねて、仲間におんぶされた)
 ついてみると、そこは自然的に出来たであろう洞窟だ。妖怪だとは思っていたが、ますます支払いをここで渡す必要があるとも思えぬ。
 瑞鬼は木の葉を振る舞われる事も覚悟したが、洞穴の奥を照らして「あぁ」と彼女も納得したように苦笑した。汚らしい字でこう書かれていた
『ぼく貉です だましてごめんなさい』
 それと共に置かれていたのは、出所不明の金銀財宝や武器防具。この件とは無関係に彼ら貉が貯蓄していた物で支払おうというオチか。
 命がけの仕事には相応の金額である事を確かめながら、仲間達と精算を始める事にした。

 行人が洞窟の遠方に何かしらの気配を感じて、そっと呟く。
「……なかなかやるもんだろう、俺達」
 それを肯定するように、小さく動物の鳴き声がした。ような気がした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

――化かすと云う事と化かすと信ぜられるという事との間には、果してどれほどの違いがあるのであろう。

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