PandoraPartyProject

シナリオ詳細

【天牢】白の融点

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あるいは独白のような
「黒を白に変えるのにだってペンキが要るんだ。悪人を善人として扱う為に免罪符が要るのに何か問題でも?」
 ――とある聖職者の発言より

●憂いの先
「皆さんに来て頂いたのはほかでもありません。私が語るまでもなく、この国……そしてかの聖堂は清廉潔白ではないことを皆様はご存知でしょう」
 天義某所――依頼人の都合上場所は伏せるが、情報屋の仲介により訪れたイレギュラーズ達は、その依頼人ことナーベンリーベ聖堂司祭、キリムと机を挟んで対峙していた。両者の前で湯気を立てる茶の価値は、果たしてどれほどの浄財に匹敵する価値があるものか。
「でも、さきの戦いである程度身綺麗になったんだろ? 自分の国をそう悪くいうもんじゃ」
「違うんです……違う! 国がいかに息を吹き返し、正常性を主張してもあの聖堂には未だに下卑た感情を持つ輩とそれを提供される者との間で経済を回している! その犠牲者が……孤児院の子供達の中にいたなんてことも、私はあの日まで知らなかったッ!」
 激昂したキリムをやんわりと宥めると、イレギュラーズは詳細な話を彼から聞き出す。
 結論から言うと、ナーベンリーベ聖堂を騒がせた『天使事件』で現れたのはとある孤児の姿だったのだという。信心深いが貧乏、神職を志せど相応の知恵をつけられぬばかりに孤児院から聖堂に入ることは終ぞなかったのだ、と。
「知識を積むにはタダでは済みますまい。ですが知恵をつけられるかは本人の資質次第です。その意味では、あの子は愚図であったのでしょう」
「おい、仮にも同胞の死人にそんな」
「愚図ではありましたが、『慰み者』として命を落とす謂れはなかった」
 流石に口を挟みかけたイレギュラーズに対し、今度はキリムがやんわりと言葉の刃物を突きつける番だった。流石に聞き捨てならない言葉だ。鸚鵡返しにした相手に頷き、キリムは続ける。
「既にお察しのことと存じますが、我が聖堂の孤児院は男しかおりません。そして、孤児院の子らは大別して『側仕え』『囲い者』そして『慰み者』の三種がおります。
 委細省きますが、死の可能性があるのが『慰み者』、先日同伴した助祭は『囲い者』に当たります。私は外部よりの異動組ですので、力関係の外にあります。ですから、情報も降りてきておりませんでした。大司教猊下は……幾人か『囲い者』を連れておりますが、『慰み者』に関しては存じ上げぬと見えます。頭というのは軽い方が歩き易いのですよ」
 大司教の反応が今ひとつだったのはこれで合点がいった。となると、死んだ司教から内部の司祭、ないし助祭程度までが本質的にナーベンリーベ聖堂の問題の中枢にあるということか。
「話は分かった。それで、アンタはどうしたいんだ? ……文字通り『何だって』やってやれないことはない」
「前置きが長くて申し訳ない。今回の依頼は『慰み者の救出』と『囲い者の排除』です。ですから、『依頼が終われば孤児院には誰も生きていない』ことになります」
「……『側仕え』は仕えている聖職者の部屋か。『囲い者』を殺す理由は?」
 何でもやるとは言ったが、思いの外恐ろしいことを言う。念のために聞いておくか、と問うた1人に、キリムは目を細くして応じた。
「『囲い者』は上に立つ聖職者に使われ、『慰み者』を使う立場にあります。『側仕え』は汚れ事情から離され、事情は半分程度しか知りません。命を奪う必要はない……何れナーベンリーベを背負うであろう者達が揃って贖罪を求む羊を食い殺す様など、下品でしかありますまい」
 私も当日同行します、と彼は告げ、依頼料の前払いにかかる書類を一同に渡して席を立った。
 ……当日、彼は訪れた。
 まあ、『彼の足で』ではなかったが――。

GMコメント

※本シナリオは『【天牢】平和の価値はただ地に堕ちて』の続編(2/2話)に当たりますが、前話を読んでいなくても大体問題ありません。

 聖堂の暗部をこう、ばさーっと。ね。やっちゃうわけですよ。
 あとは外から人が入って解けt…………おっと雲行きが怪しいぞ?

●依頼達成条件
・『慰み者』の孤児を救出し、状況開始前~終了後まで2/3以上を生存させる
・『囲い者』の孤児及び聖職者の全員の殺害
・(オプション)聖堂騎士(汚職者)の殺害ないし無力化

●『慰み者』の孤児×8
 救出対象。栄養状態はよろしくなく、筋力も衰え気味。結構あっさり死ぬ。なお馬車や『運搬性能』持ちのPCなら結構まとめて運べる。孤児院からレンジ13程度引き離せば達成。

●『囲い者』×10
 下位聖職者、ないしは将来を約束された孤児達。1話に登場した助祭もこれに当たるし、殺害対象。
 囲い者の救出開始から1ターン後に出現。
 囲われてる上位聖職者に薫陶を受けているためか、神秘攻撃力が高めでバフや回復をほぼ全員が使える。前衛兼務が3名ほど。
 基本戦術としては前衛にバフをあつめて凄い勢いで殴る系統の戦い方。総じてAPが高く、前衛は防御技術と物理攻撃力も高いし、後衛は抵抗がなかなか高い。

●聖堂騎士(汚職)×5
 救出開始から3ターン後(囲い者出現の2ターン後)に出現。ナーベンリーベ聖堂と通じており、囲い者や慰み者とは関係が深い(意味深)。
 夜間のため騎馬を用いないが、長槍による簡易のファランクス陣形を組んで向かってくるため堅くしぶとい。相互庇いなども併用し粘り強く戦ってくる。
 槍は標準2レンジ。物理的にあり得ない射程なのは『神の御力』による気っぽい何かの射程伸張。

●キリム(聖堂司祭)
 外部からナーベンリーベ聖堂への異動組。前回「同行した為に」今回の事情を調べて依頼を上げることに。
 同行すると公言していたが、出現は聖堂騎士と同時。
 なお、PL情報となるが『生存しての登場ではない』。

●戦場
 ナーベンリーベ聖堂外部の孤児院。深夜。
 比較的閑静な場所にあるためそこまで戦闘音は気にせずともよい。
(そんなところに急遽駆けつける騎士がまともなはずがない、のだが……)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『天義』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

  • 【天牢】白の融点完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月13日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
黒・白(p3p005407)
高槻 夕子(p3p007252)
クノイチジェイケイ
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
緒形(p3p008043)
異界の怪異
鏡(p3p008705)

リプレイ

●翼をもがれた子ら
「一口に天義っつっても、やっぱ中身はピンからキリまであるよーで! まァ、オレは金が貰えりゃ良いや」
「ほー、ほ~? 随分とお楽しみだったみたいだなあ? んで、これで全員って訳でもないんだろう?」
 『悪徳の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)と黒・白(p3p005407)はキリムから受け取った資料の束をめくりながら楽しげに会話を交わす。片や、己の利益と悪徳の為に。片や、自らに伸ばされた魂の為に。
 こと、白はキリムと会話を交わしていた時点で影響を受けていたのだろう、聖職者達に対する強い敵意を隠すつもりもない様子だった。それ以上に、『慰み者』に対して思うところある様子だが。
「聖職者は弱き者を助けるためにいるのではないでしょうか……?」
「仰る通りです……聖職者の立場を利用して、こんな事……! 絶対に……許しません!」
 『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)の疑念を、『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は素直に肯定した。だからこそ、立場を悪用する者達に強い憤りを隠さない。正義を信じる彼女にとって、『天義の標榜する正義』が真実、正しいものへと向かい始めた矢先に起きたこの事件。怒りの念が強くなるのも致し方あるまい。
「なるほど、裏側はそういう事情ですか。
長い物に巻かれていた方が楽でしたでしょうに……勇気があるのですね、彼は」
「報告書は軽く覗きましたけどぉ。結局まだ核心には遠いって感じですよねぇ」
 『気は心、優しさは風』風巻・威降(p3p004719)は以前の戦いで“天使”の光輪を受けた腕をさすり、苦々しい表情でうつむく。鏡(p3p008705)の言葉には、返す言葉もない。仲間の機転が奏功して情報を掴めたが、それすらも底なし沼の縁のような話ではないか――そう、思えてならぬのだ。
「もう少し探れれば偉い司教の人をいじめる手札に……んっ、ふぅ……イイ顔してくれそうですぅ」
「よくわかんないけど、てんぎはドロドロしてるのねー。ややこしくてわからんちん!」
「なんでもいいさ。おっさんは先ず、子供達を孤児院から連れ出して、それからだ」
 鏡があらぬ想像に舌なめずりをする傍ら、『クノイチジェイケイ』高槻 夕子(p3p007252)は何事か分からぬといったふうに首を傾げた。ひとまずの危機を乗り越えたかの国であるが、世の悪徳は尽きることがなく。仲間がそれをも味わう奇癖があることは、まあ……今驚くほどでもない。
 緒形(p3p008043)はもっと単純で、『かみさま』を自称するその身は子供に対し友好的であることを意義としている。子供を虐げる、子供ではないものにたいして友好的である理由もない。ただ、それだけ。非常にシンプルで、この依頼にお誂え向きだ。
「……ま、天義のマトモな方に顔が売れるならオレは文句なしだぜ。とっとと人助け、終わらせちまおうぜ?」
 ことほぎにとって、この依頼はその程度の認識だ。そして、『その程度の認識で構わない依頼』でもある。
 この後なにが起きるかより、今救える命を。今まさに求められることを為す。イレギュラーズにできるのは、その程度なのだ。
「ボク達はあの子達を死なせたくない。考える前に、動こうと思う」
「それで構わないと思うけどねー。あーしはJKだから細かいことはノーサンキューってゆーか」
 白は己のギフトが拾い上げた魂の求めるままに。夕子はただ、自分らしく為すために。……そして不徳を許せぬ者達は、罪を重ねた者達に制裁を与えるために。
 一同は、闇に紛れて孤児院に忍び込むと、少年少女へと手を差し伸べる――。

●黒き片翼の斉唱
 イレギュラーズが作戦にかかる少し前、聖堂よりやや離れた路地裏。騎士然とした格好の男数名が、ぼろぼろになった男――の、死骸を蹴り転がした。仰向けになったその顔には、生前の面影は残されていない。無惨なものだ。得物で一息に殺さず、丹念に嬲り殺しにしたのだろう。
「はッ、案外しぶとかったな、こいつ。最後まで口を割らねえでやがるのな」
「コイツがそろそろ為出来すだろうと思ってたらしいが、猊下もあのボウズも空恐ろしいモンだよなぁ、ええ? ……って、答えらんねえか」
 騎士の1人はつま先でその人物を小突くと、おもむろに腰の剣を引き抜き、死体の首に添えた。
「お前は使えなかったが餌にはなる。お前のザマが依頼した連中を死なせるんだよ、楽しいだろ?」
 そして、騎士はその首を……。

「ガキ共、ここから逃がしてやる。早く出な。オレは気が短いんだ」
「…………?」
「立てますか? なら立って下さい。無理なら、手を」
 呆然とする『慰み者』達に対し、ことほぎと威降は声をかけ、動きが鈍い者は素早く抱え上げて馬車へと放り込んでいく。
「騒いだり暴れたりしないでくださいねぇ」
「君らのお願いは叶えてあげなきゃな。……そんなものが思いつく限りは、だけれど」
 鏡と緒形もそれぞれ『慰み者』達を抱え上げ、白の用意した馬車へと押し込んでいく。傍目には明らかに人さらいの類いだが、イレギュラーズの辛辣さの混じった気遣いの言葉を耳にし、少年達は思いのほか素直に馬車へと積み込まれていく。が、当然10秒そこらで準備が整うわけもなし。
「この……ッ、不信心者がッ!」
 怒気を孕んだ声とともに振り下ろされたのは、鎖に繋がれた棘付きの鉄球――モーニングスターだ。無心に馬車へと取り付こうとしたその者の一撃はしかし、サクラが正面からいなし、あらぬ方向へと弾く。いきおい、聖刀と生家の紋章とを掲げたサクラの姿に、『囲い者』達の視線が集まった。
「我が名は『聖奠聖騎士』サクラ・ロウライト! 聖職にも関わらず不正義を行う者よ! 我が刃に慈悲は無きものと知れ!」
「ロウライト……?! クソ、なんでそんな大御所がこんなところに!」
「構うな、今更家の名に惑わされている場合か!」
 彼女が家名を露わにすることは、決してありふれたことではない。それだけに衝撃は大きく、『囲い者』達の間にはにわかに動揺が見て取れた。が、裏を返せば『ロウライト家ほどの名家が介入した事実が露わになる=聖堂の破滅』という等式が成立する。然るに、彼女の存在は敵の殺意を惹き付けるに十分すぎたのである。
「はーい。キミタチ、あーしと遊んでかない? スキにしていいわよ♪」
「……そこの女は好きにしろ。どちらにしろ、殺す相手だ」
「ちょっとぉ! サクラっちとの態度違いすぎない!?」
 夕子の挑発は、一見すれば全く効果がなかった様に見えた。少なくとも、彼らは『そういう』癖がある以上、女ひとりに気をとられるような質ではないのである、が……それでも、襲い来る魔力と鈍器の猛攻を見れば、多少の敵を引きつける役には立った様子。
「力なき者を食い物に生き存える気分はどうですか? 下衆め」
「生きる価値のない者に一時の価値と暇を与えてやっただけでも我らは褒められるべきだ。無論、その子らの命はその死の瞬間までも有効活用されるべき……価値を貶めているのは貴様等の方ではないか」
「“天使”の姿に怯えるばかりだったのに、ずいぶんと舌が回りますね。それが本性ですか?」
 リュティスの挑発とともに発された魔砲は、後方に控えていた『囲い者』数名を巻き込み、貫いた。それでも倒れぬ魔力と耐久力は流石というべきか、返ってきたのは自己保身甚だしい身勝手な理論だった。……威降からすればなんと滑稽な光景であっただろう。あのとき、『慰み者』の末路にああも取り乱した助祭がこのザマとは。
「全員積み終えたよ。御者は任せていいんだね、ことほぎさん?」
「ははッ、逃げ足なら早い方だぜ? 任せときな!」
 最後の1人を幌に引っ張り上げた白は、御者台に乗ったことほぎに合図を送る。すかさず、ことほぎは鞭を振るって一目散に戦場からの撤退を試みる。
「体の水が足りなければ何も出来ない。まずはこの実を食べるといい」
 事前に千針覇王樹の果実を手に入れていた白は、虚ろな目を向けてくる『慰み者』にそれを与えると、物欲しそうに自分を見る者達に、手にした食べ物を細かく分けて与えていく。
 速度を重視したことほぎのあらっぽい操縦だけは気がかりだが、今は一刻も早く戦場から離れたい。彼女が全力で離脱だけを考えれば――それも容易い。
 ――ガンッ、と馬車の幌を削るように振るわれた『なにか』に気をとられていれば、たちまちのうちにそれも失敗したかもしれないが。
「――白ォ!」
「分かったよ!」
 言い捨てて御者台から飛び降りたことほぎと入れ替わるようにして、白が馬車の手綱を握る。背後では、馬車から落下する慣性を利用し、追いすがる騎士を衝術で弾き飛ばしたことほぎの姿があった。

●崩壊する善意
「……なんか、増えてね? っつーか、お前、そいつ……!」
「フン、小癪な小娘めが。彼の子らは神からの賜り物だぞ。横取りとは不遜の極み」
「素敵なことをするんですねぇ。最高に最低な悪趣味の塊でゾクゾクしますぅ」
 ことほぎの口調に何を感じ取ったか、馬車を襲撃した騎士は自慢げに槍の穂先をふるって見せた。見ればわかる。それは――キリムの生首だ。鏡はもとより『そっち側』の心理であるが故に驚きより喜びの念が強いが、何れにせよ自分以外の行いには不快感しか覚えない。追撃を諦めた騎士は当然、ことほぎに狙いを定める。が、彼女とて無謀な質ではない。即座に転身し、仲間達の許へと騎士を誘導する。
「おっさんは長期戦とか苦手なんだけどなぁ……先に君達を皆殺しにするさね」
「貴方達は……ここまで腐りきっていましたか……!」
 半ば以上まで『囲い者』を蹴散らし、魔力の消耗が顕著な緒形にとって新手の出現は歓迎できない。出来る限り被害を減らし、依頼を達成して去りたい。が、サクラの気性を思えばそうも言ってはいられまい。
「……遅かったですね。助けるべき彼らも、取り返すべき彼らももう、生殺与奪の権利は此方にあります。キリムさんを殺した分、貴方達の命も頂きますが」
「チョイ悪おじさんは嫌いじゃないのよね。サクラっちもあんなだし? オフとか言わず相手したげる♪」
 威降はモーニングスター使いの首筋に妖刀を滑らせ絶命させると、鬼気迫る目でキリムの成れの果てと、不気味に笑う騎士達を見た。夕子も敵意を引き受けただけあって消耗は激しいが、逃げ切れるかと言えば疑問だ。それに、自分だけ逃げれば……仲間が、より危機に瀕するだろう。
「貴方達、懺悔はすませてきましたか?」
「この国の礼を知らぬ者を討つのに、懺悔など要るまい。貴様達は神の御許で為すがいい」
「黙りなさい、聖堂騎士……騎士たる誇りを失った貴様らに、ロウライトが背を見せるものか!」
 浅からぬ傷と返り血に塗れたサクラは、それでも退くという選択肢を持たなかった。聖堂騎士達が軽々に見逃す筈が無いというのも事実だが、彼女自身が彼らを許せないのだから当然か。
「あーあ。依頼主に口止め料請求しようとしたのに殺しやがって。どうせお前ら生き延びたら面倒ごとになるんだろ? なら殺さなくっちゃな」
 騎士達がファランクス陣形を整え、突っ込んできた鼻先へと、ことほぎが魔力を注ぎ込む。病と紛う毒に冒された騎士は呻きつつも構えを解かない。狙うはやはり、サクラと夕子。守りを固めたサクラならいざ知らず、夕子がそれ以上傷を重ねれば待っているのは厳しい結果だが……『慰み者』を避難させて駆けつけた白の治療が、ギリギリのところで彼女の意識を繋ぎ止めた。
「あの子達の仇は討てないけど、犠牲を増やそうとした連中の手の者は放っておけないね。ぶちのめしたいから、手伝ってよ」
「痛たた……助かったよ、ありがとちゃん! あーしも好き勝手サレてばっかりでそろそろムカっ腹きてたからね!」
 白は聖堂騎士をひと目見て、正面からぶつかるのに苦労する相手であることを察した。なれば、治癒を駆使して仲間の力を高め、以て彼等を倒すことを選ぶしか無い。夕子は、白の声に応じて構えを正し、仲間のために――そしてキリムの為に、少しだけ無理をしようと決意した。
「何人増えようが構うものか……くたばれッ!」
「おそいっつーの! JKきーーっく!」
 槍の穂先から伸びる神秘の力に足先を沿わせるように、夕子は右踵を振り下ろす。そのまま、速度の乗った一撃を騎士の胸元にたたき込むと、槍の持ち手とけり足を軸に、折り畳んでいた左足を鞭のようにしならせ、頭部目がけて回し蹴りを叩き込む。
 不安定な状態での連撃を決め、蹈鞴を踏んだ彼女はいかにも無防備。姿勢を戻す前に、別の騎士の槍が迫る。
「主の御前で悔い改めよ!」
 槍を払ったのは、サクラの聖刀。緩く払われた柔の動きから、緩急をつけて翻った雪花の太刀筋は騎士の手甲の隙を縫って振り上げられ、その両手をたたき切る。それでも、と吼えた彼はしかし、眼前にちらついた黒い翅に目を見開いた。
「美しい蝶に魅入られた気分はどうですか? ……それでは、さようなら」
 リュティスの声が聞こえたかは定かではない。が、膝から崩れ落ちたその姿に、命の鼓動は残されていなかった。
「貴方達の鎧は頑丈そうですねぇ、この刀……大丈夫でしょうか」
「心許ない得物しか持てぬとは、嘆かわしき話よな? 貴様の如き不埒者には相応しいか」
 鏡は手にした刀に不安そうな視線を落とした。が、迫る騎士の不遜さを見ればその悩みこそが馬鹿馬鹿しいのでは、とすら思ってしまう。
 事実として、己に迫った槍の穂先は確かにその身を貫いたが、さりとて鏡が振るった刃も、甲冑の隙を縫ってその身を裂いたのだから何ら懸念することもなく。
「俺の仲間は、貴方を許せない。俺も、『あんなもの』を生み出した事が許せない」
「貴様等、分かっているのだろうな……? 聖堂の者達と我々に手を出した事実、隠し立て出来るものでは無いぞ」
「ですが、貴方たちは『慰み者』の死を隠してきたのでしょう? 下らない問答だとは思いませんか」
 槍の穂先を手刀でいなし、踏み込みつつ威降は騎士に問う。怒りを露わにした騎士の言葉に、どれほどの説得力があろうものか……虐げてきた命と天秤にかければ、彼等の命ひとつの軽さなど裁きの羽根にすら劣る。だから、彼が生み出した妖刀はその胴を確かに貫くに足るのである。
「おっさんは戦い慣れてないけどね、子供達を好き勝手して殺しちゃう大人は許せないし、仲間が殺すって言ってるからね。少しくらい、無理するさ」
 緒形は、残された騎士の兜へと連続して打撃を叩き込む。魔力の乗ったそれは衝撃音ほどの威力はないにせよ、騎士の足を止めるには十分だった。逃げようとしたのだろう。戦意は残っていないのだろう。だが、ならば余計に。覚悟なく子供を虐げてきたそれは死ななければ、と緒形は感じた。
 ――事実として、降参もせず逃げ果せようとしたその騎士が生き延びる理由などあろうはずもなかったが。

「あとは、悪事の証拠を……」
 サクラは、言い残して崩れ落ちた。無理が祟ったのもあるだろうが、流石に15人もの敵対者をなで切りにする負担は精神的にも軽いものではないだろう。
 イレギュラーズ達は倒れた仲間と、そしてキリムの首を抱えて聖堂から去って行く。

 ……この不祥事は隠し立て出来まい。
 ナーベンリーベ聖堂の崩壊は、静かに始まろうとしていた。

成否

成功

MVP

サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

状態異常

サクラ(p3p005004)[重傷]
聖奠聖騎士
高槻 夕子(p3p007252)[重傷]
クノイチジェイケイ
緒形(p3p008043)[重傷]
異界の怪異

あとがき

 お疲れ様でした。
 滅茶苦茶重い殺意がフッと入ってきたので色々重い結果がついてきていますが……まあ成果としては想定以上というかなんというか死屍累々です。
 続けるつもりはなかったんですが、続くのかな聖堂編……。

PAGETOPPAGEBOTTOM