シナリオ詳細
SUSHI WAR
オープニング
●食に至る原点は狩りである
君は寿司がどうやって作られるか知っているだろうか。
寿司そのものをしらなくはないだろう。天ぷら、すき焼き、しゃぶしゃぶと並ぶ、ご存知豊穣高級料理四天王の一角である。
しかし、高級料理でありながらグレードの違いによって庶民の口にも届きやすいことでも有名だ。
食べる前に価格を知らせないという人様の財布事情完全無視のハイエンドクラスはもちろんのこと、20年ほど前から定着したミドルクラスのローリング寿司、米の代わりにパスタを、ネタの代わりに薄切りハムを使用したボトムクラスまで、それぞれの経済状況に合わせたバリエーションが存在している。
では、なぜクラスの違いなど存在しているのか。それは先程のボトムクラスが物語るように、ネタそのものに違いがあるためだ。
ボトムクラスでは薄切りハムだったネタが、ミドルクラスになれば魚介類が使用される。ミドルクラスでも十二分に美味しく、何かのお祝い事に選んでも問題はないのだが、無論、その上には一部の選ばれたものだけが口にできるハイエンドクラスが存在する。
ハイエンドクラスで使用されるものは、超魚介類である。超魚介類の存在は一般には秘匿されている。これは密猟を防ぎ、超魚介類の市場価格を守るためだとされているが、ハイエンド寿司料理店の権益を確保するためではないかという噂も実しやかに囁かれている。
まあそれは問題ではない。
問題なのは、その超魚介類が最近、凶暴化しつつあること。それにより、今まで一子相伝で受け継がれてきた伝統的超魚介類漁師では対処しきれなくなってきているのである。
超魚介類とは、魚介類にカオスシードの脚が生えたような見た目をしており、その健脚は平均的アスリートを凌ぐものだ。
高い戦闘力を持つが、囲んで棒で叩く(専門用語で『タタキにする』)と叫んで爆発四散し、後にはきちんと皿に乗ったスシネタが残る。
これがハイエンドクラス寿司料理店で使用される超魚介類のスシネタである。通常の魚介類の遥か上をいく旨味、一匹を叩いて得られるネタの少なさ、超魚介類の戦闘力から、ミドルクラス以下では使用することが出来ない。
スシネタの神として有名な『大トロ』に至っては、時価次第で城が建つとすら言われている。
さてここで、存在を秘匿してきたが故の弊害が発生した。超魚介類の凶暴化に対し、秘密裏の解決が難しくなっているのだ。
しかし、この『スシネタ海岸』のことを公にすれば、密猟を行うものが現れ、結果的に多くの密猟者が命を落とすだろう。
生命は尊いので、密猟者と言えど安易に散らすわけにはいかないのだ。
「このっ……喰らえっ」
「グワーッ!!」
漁師の振るった棒で叩かれたアジが悲鳴をあげ、爆発四散する。その後には皿に乗ったアジのスシネタが一切れ残るばかりだ。
「ハァ、ハァ……やったか」
「日に日に凶暴になっていきやがる。これは王侯級が現れたんじゃないのか?」
超魚介類には階級が存在する。経験の浅い漁師でも対処できる兵隊級や騎士級、ベテランでも手こずる侯爵級や公爵級など、基本的には強い階級ほど数が少なく、非情に美味だ。
そして、頂点に存在する王侯級。これだけは事情が異なる。王侯級が存在するだけで超魚介類達は鼓舞され、全体的な戦闘力が軒並み向上されるからだ。
「王侯級。そうかもしれないな。子爵級でさえ、手間取るようになっちまった」
「どうするんだ。多少は大掛かりに間引きしないと、明日の朝市に間に合うかも怪しいじゃないか」
「……仕方ない。外部に依頼を出そう」
「そんな、それじゃあスシネタ海岸の秘匿性が……!!」
「大丈夫だ。ローレットに依頼を出そう。あそこなら、きっと機密情報を守ってくれるさ」
- SUSHI WAR完了
- GM名yakigote
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年08月12日 22時05分
- 参加人数11/11人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 11 人
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参加者一覧(11人)
リプレイ
●鳶飛魚躍
どうして寿司の価格に違いがあるのか、考えたことはあるだろうか。魚の種類による違いだろうか。いいや、そうではない。ミドルクラスであっても、少々お高くはなるが大トロだって並んでいる。本当の高級寿司というのはその成り立ちから異なっているものなのだ。高いのはなぜか。純粋に、獲得が困難であるからだ。
白い砂浜、青い空、夏の暑い日差しとくれば、することなど決まっている。
そう、水着に着替えて超魚介類狩りである。冬の荒れた海での超魚介類も身が引き締まっていて美味であるが、夏のこの時期に燦々と輝く太陽の下で行う漁業もまた乙なものだ。
今年は、そこにローレットが加わる。彼らの戦力を持ってすれば、今年もハイエンドクラスの高級寿司が店頭に並ぶことだろう。
「わたしなんて、どうやって、食べられないようにするかで、悩んでましたのに……自分から、食べ物になるだなんて、この超魚介類とやら、正気ですの!?」
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は驚愕しているが、そういう生態なので仕方がない。
「でも、これは、チャンスですの……何故なら、今回は、アナゴの天敵であるタコを、やりこめるのですから……えっ、ほかにも、天敵だらけ? それは、言わない、約束ですの!」
「寿司……寿司絶対美味いよな。戦う奴らの見た目やべぇけど」
『出張パン屋さん』上谷・零(p3p000277)の向いた視線の先では、足の生えた魚介類が跳梁跋扈していた。
「まぁ、この際だからぶっちゃけるけどさ。俺パンより米の方が好きなんだよ……」
食料チートがなんか贅沢なことを言い出した。しかしそこは飽食の国出身ということなのだろう。ひとはパンのみに生きるにあらずということなのだ。意味違ってた気がするけど。
「戦わなきゃいけないのは兎も角、切り身になって更にお皿に乗ってるなんて、便利ねー」
『羽休め』嶺渡・蘇芳(p3p000520)は超魚介類の生態に感心している。
お皿まで用意してくれるとはどういう進化をたどったのだろうか。やはり、切り身のまま砂の上にぼとんは悲しかったのだろう。
「でも、油断しないで、捌いていきましょー。時季的に鯵、鰯、鯖……は、胡麻鯖ならいるかしらー?」
「ここが豊穣の特級ネタの原産地、スシネタ海岸……!」
『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は猛烈に感動している。ここは本来、存在すら秘匿されているのだ。
「いやぁ、よもやここに入らせてもらえる日が来るたぁねぇ!」
歩き回る超魚介類。どれから手を出したものか悩むところだ。
「一先ずは焼きハラスや今が旬の魚、イワシにカンパチ、キス、スズキに太刀魚ら辺かな?」
いるんだろうか。『焼き』ハラス。鮭をうまく処理するんだろうか。
「寿司……魚を焼いたのとはまた別な料理なの?」
『お姉チャン』ジェック・アーロン(p3p004755)は寿司の詳細を聞いて首を傾げている。
生食という文化がない国も多いものだ。保存性に優れず、気をつけていなければ身体に害を及ぼすこともあるため、肉とは火を通してから口にするものなのだから。
そのためか、ジェックには寿司が想像し辛いのだろう。
「よく分かんないけど……タントが楽しそうだから、いいか」
「観光釣り堀かってくらいに超魚介類がいますけど、これ本当に秘匿できてるんですかね」
探すまでもなく、見渡す限り歩いている超魚介類達に、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)はこの地方の情報セキュリティ度合いが心配になった。
そのあたり、一過性のシナリオは便利だ。秘匿されてるって書いたら秘匿されているのだ。
「ともあれ本格的な寿司は久しぶりです。報酬が約束されているなら、張り切らない理由は無いですね」
「オーッホッホッホッ! さあ! おいしいお寿司を食べるため! この! わたくし!」
皆々様方、お口を拝借。
\きらめけ!/
\ぼくらの!/
\\\タント様!///
「──が! やって参りましたわよー!」
はい、『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)に拍手。惜しみなく惜しみなく。
「今回の目的は! お寿司初体験のジェック様に! おいしいお寿司を食べていただくことですわ!」
「ローレットでお仕事していると沢山の不思議に出会えるから好きなんだけど……これはちょっと予想外だったなぁ」
流石に、こんな生き物がいるとは『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)も予想していなかったのだろう。大丈夫だ、書く側もこんなもん出てくると思っていなかった。多分半魚人の親戚なんだと思う、このナマモノ。
「全ては美味しい寿司のために。超魚介類覚悟ー!!」
「うっしゃー! 美味い寿司を腹いっぱい食べるために寿司ネタ狩りがんばるぜー!」
『受け継がれるアザラシ伝説』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)は張り切っている。そういや、アザラシだったな。本体ガトリングだと思ってたよ。
「みんな、丸太はもったな! いくぞ!」
なんだか吸血鬼を狩るような物言いで棒を抱えるワモンだが、今から狩りに行くのはあくまで寿司である。
けして孤島の化け物ではない。
「スシネタ海岸? 超魚介類? なんじゃそれは。そんなものわしも知らんぞ?」
『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)も、超魚介類のことは知らなかったようだ。やはり存在は秘匿されている。これで悠々と闊歩しているように見えても一般に存在は隠されているのだ。お店で大将が出してくれるアレらがどのように作られているのか誰も知りはしないのだ。
「まぁいい、味も変わらぬというのならささっと〆て寿司にありつくとしよう」
●魚塩之利
海の男というのは、総じて屈強なイメージが強い。当然だ。超魚介類を単独撃破して得られる称号こそが海の男なのだから。その中でも、対騎士級から対王侯決戦級までランクが分かれており、そのランクを上げるためには年2回開催される昇給試験を突破する必要がある。彼らはそのために、日々己を鍛えることに余念がないのだ。
「ぶはははっ、本場豊穣のマグロの強者っぷり、是非とも拝ませてもらうぜぇッ!」
ゴリョウの狙いはスシネタの主役と言ってもいい、マグロであった。昨今、子供人気はサーモンに奪われつつあるものの、今だ根強い人気を誇る超魚介類である。
しかし、それだけにマグロは戦闘力も高い。巨大な体、格闘家のように無駄なく鍛えられた脚。そこから繰り出されるローリングソバットを正面から受け止め、力を殺さぬまま流し、その勢いのまま、マグロを返す棒で殴りつけた。
爆発四散するマグロ。後には皿に光り輝く寿司が残る。
「まさしく貴様も好敵手(ともって読む)だった……ッ!」
しかし、その時だ。
「ご、ゴリョウさーん!!」
彼に助けを求める声が聞こえたのは。
振り向くと、何やらノリアが大変なことになっていた。
今日こそ天敵のタコを打ち倒すのだと息を巻いていた筈だが、そのタコに思い切り絡みつかれている。生えた脚でカニバサミを受け、身動きが取れなくなったしっぽにさらにタコのそれが這っているのだ。
「あっあっ、そんなに、激しく吸いつかれたら、いけませんの……わたしには、ゴリョウさんという、思い人が、いますのに……」
吸盤がひっつくたびに、びくんと体を震わせて悶えるノリア。あれ、いつものしっぽネタってこっち系?
ともあれノリアを救うべく、ゴリョウもまたタコ超魚介類に立ち向かうのだった。
「……なんじゃこれは」
それを前にして、瑞鬼は思わず声をあげた。
「……玉子、じゃないのか、な?」
隣に立つ零もまた、どこか呆然とした面持ちでそれを見ていた。
超魚介類。魚に脚があるのはまあ、もういい。見慣れてきたのもあるし、ここは混沌だ。そういう生物もいるのだろう。いてもいい、のだろう。
でも、これは。
「これは、違うじゃろう……」
それは、だし巻きであった。だし巻きに足が生えているのだ。なんだこれは、どういう生物なのだ。
「ふふ、超魚介類には色々いるのねー」
「……いや、魚介類ですらないんだよなあ」
この分だと生ハムの超魚介類とか、探せば居るのではなかろうか。
「包丁が使えるなら、ここはキッチンでこれは料理よー♪」
放心というか、いいのかこれ、という心持ちのふたりよりいち早く、蘇芳は玉子の超魚介類に向けて包丁を振り下ろす。
さすがは玉子。その身は柔らかく、包丁がすんなりと通ると、爆発四散し、後には玉子の寿司が残っていた。
どうして魚介類中心の寿司に玉子があるのか、これでおわかりいただけただろう。古来より玉子寿司はこうして生まれたのだ。
「……いや、ないじゃろ」
次に標的にしたのは秋刀魚であった。秋の味覚の代表格であるが、超魚介類には季節の概念が存在しない。
「だからと言って光る秋刀魚がいるか?」
その秋刀魚は光っていた。光り輝いていた。
影でシルエットが見えなければ、本当に秋刀魚かも視認できないくらいにまばゆく輝いている。
「……光り物だもんな」
「やかましいわ」
相槌代わりにボケてみせた零に裏手でツッコミをいれて、あまりの眩しさにサングラスをかけた。
気持ちを切り替えるとしよう。あんなであっても倒すことが依頼であり、後には美味しくいただけるのだ。少しの疑問は置いておこう。ほら、脚があるんだから光っていたっていいじゃないか。
不思議度合いで言うとどっちもどっちだと思い直し、二人もまた、蘇芳の様に獲物を構えた。
「狙うなら、確実に〆ないとねー」
「うひー、スゲー数の寿司ネタがいるな! こりゃよりどりみどりだぜ!」
跳梁跋扈する超魚介類達を前に、思わず舌なめずりをするワモン。
「えーっとアジアジ……お?」
アジを探していたワモンは、岩陰から何やら様子をうかがっているタントとジェックを発見した。
「よー、何狙ってんだ?」
二人は振り向くと、ワモンも岩陰に入れるように、そろって詰めてくれる。
「シマアジってやつを狙うんだったかな」
「お、アジ狙ってるのか。オイラと一緒だな」
ジェックの答えに納得したワモン。しかし、タントはちっちっちと人差し指を振ってみせた。
「アジはアジでも……シマアジッ!!」
「ジマアジ?」
タントは腰に手を当て、胸を張って説明する。それは高級魚なのだと。イチオシのスシネタなのだと。
しかしワモンが想像したのは島程の大きさのアジであった。
「すなわち強敵ですわ!」
強敵と聞いてワモンの中で更に大きくなるシマアジ。想定でグリーンランドくらい。
「スゲー強そうで美味そうだな! オイラもそいつを狙うの手伝うぜ! シマアジシマアジー!」
二人と同じ様に、岩陰から向こうを覗き見るワモン。そこにいたのは、通常のアジよりも丸みを帯びたフォルムで、黄色のラインが見事なシマアジであった。
スラリと伸びた曲線美。ハイヒールまで履いたその姿から、超魚介類の中でも高位の存在であることを伺わせる。
おそらくは、伯爵級。いや、侯爵級もありうるか。
「ところでこのフォルムで走られたら滅茶苦茶怖いんだけど、突進してきたりしないよね? よね?」
海の生き物が知的生物であるということには、皆慣れている。ワモンなどそれそのものであるのだから、慣れる以前の話だろう。
しかし、魚介類に直接脚が生えているのは誰しも未体験であるわけで。
脚がある=たぶん走ったり跳んだり蹴ったりする。
若干怯えた様子のジェックに、二人は何も言えなかった。
「ねえ、大丈夫だよね? ね?」
「そ、そうですわね。ハイヒール履いてますし、走りにくいと思いますわよ」
「お、オイラもそう思うぜ!!」
獲物を抜いたのは、誤魔化すためか気持ちを戦闘に切り替えるためか。
「ジェック様! ワモン様! 準備は宜しいですかしらー! 参りますわよー!」
「まずはエンガワかな」
ウィリアムの言葉に、寛治が頷いた。
エンガワというのは、ヒラメやカレイのヒレの付け根の部位を指すもので、今回はヒラメを狙うようだった。
「ヒラメは寿司ネタには欠かせない白身ですね。刺身と昆布締めで二種類の味が楽しめる上に、エンガワのコリコリとした食感も楽しめる。一匹倒せば3種類の寿司ネタです」
ところで、ヒラメのイメージってこう、のぺーっと砂地に横倒しになっているものではなかろうか。
それがしかし今回は超魚介類。脚が生えているのである。
平向きのまま、脚が生えているのである。
「……」
「……」
ウィリアムが無言のまま、雷を放った。痙攣したので二人で囲んでタタキにした。
ちょっと気持ち悪かったのだ。
次のターゲットはウニだ。高級品だが、子供には好まれない。大人の味である。
「ウニは生殖腺、つまりオスなら精巣、メスなら卵巣を食べるのですが、雌雄は顕微鏡使わないと分からないそうです。どちらも同様に美味しいという事ですね。軍艦でヨシ、ウニ丼もヨシ」
「ところでウニって初めて見るんだけどあんなにトゲトゲしているのか……あれタックルされたら死ぬのでは?」
あの棘はきっと、外敵から身を守るためのものだろう。おとなしく叩かれてはくれなさそうだ。これは苦戦させられるかも知れない。
でも雷を放った。痙攣をしたので、二人で囲んでタタキにした。
動けない棘は、ただの棘だった。
砂浜の、少し離れたところで、ひっくり返って頭から突き刺さる緑色の脚が見えた。
『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)である。
いつの間にやら超魚介類に蹴り飛ばされ、こんなところでドッグゴッドハウス気味に埋まってしまったのだ。
キドーが出会ったものは、ひょっとしたら王侯級であったのかもしれない。しかし真実は不明である。
その真偽を明かさぬことで、量子的に判明していないことにしよう。シュレディンガーの超魚介類である。
新しいタイプ日光浴中であるキドーだが、仲間たちはしばらく超魚介類狩りに忙しくて、気づく様子はない。
結局、彼が救出されたのは、このしばらく後だった。
●水魚之交
同一の超魚介類では、品質の見極めは比較的容易である。脚の綺麗な超魚介類ほど美味であるからだ。スラリと伸びた脚線美を誇示する超魚介類は非情に美味であり、なんか爪とかきったないたるんだ脚だとそこそこの味に落ち着く。それでも高級寿司であるため、ミドルクラスとは一線を画すのだが。
さて、所変わって屋内である。
皆の前では鉢巻を巻いた職人がカウンター越しに立っていて、彼らが倒した超魚介類を握ってくれるというのだ。
この、握るという行為こそ、職人の技である。寿司職人は既に完成された美味さである超魚介類の寿司を『握る』という特殊スキルでより高みへと進化させるのだ。
●臨淵羨魚
という設定まででっち上げていたが、披露する余裕がなかった。
ノリアは自分で倒したタコの寿司を皆に配っていた。あの後、なんとかしてタコを討伐したノリアは天敵をこの手でやっつけたという事実に自信をつけたようである。あの状態から、どうやってかは描写しない、描写しないぞ。
零と蘇芳、ゴリョウの三名は、寿司職人の手元にじっと集中している。先程、自分が倒したネタを握ってもらったが、思わず唸るほどの味であった。これは確かに、普段食べているボトムクラス、ミドルクラスの寿司とは全く違うもの。価格の差にも頷けるというものだ。
だからこそ、職人の『握り』と呼ばれるスキルが気になって仕方がない。どうにかして見て盗めぬものかとその手を凝視していたが、ただ両手でギュッとしているようにしか見えないのだ。
しかし、「ヘイお待ち」という掛け声と共に出された木製の皿の上で輝く寿司。これを口にすれば頬が落ちるかと錯覚する程である。職人の技に、下を巻くばかりであった。
寛治は用意してもらった日本酒にも舌鼓を打っていた。
寿司を食うにも、作法というものが存在する。味の薄いものから、なんて言いはするが、好きなネタだけ楽しむというのも、乙なものだった。
美味い食い方をする。これを贅沢と言うのだろう。
寛治に注いでもらった酒。その小さなグラスに、瑞鬼が口をつけた。
舌で味わい、喉を通し、ほふ、と息をつく。
暑い中で存分に働いたのだ。その後の一杯は格別である。
「んふふ、初めてのお寿司は如何ですかしらジェック様ー!」
タントがにこにこしながらジェックの前に寿司の皿を並べていた。
寿司を知らぬという彼女。ならば最高を味わって欲しいものだ。一口目がきっと、忘れられなるくらいに。
「これは手掴みで食べても……あ、皆箸使ってる?」
ジェックは困ったと首を傾げた。この2本の棒を使って食べるという方法が、まだ上手くいかない。そもそも、どうやって使うのかもよくわからない。だから。
「タント、食べさせてくれる……?」
そんな言葉をかけられて、目を輝かせながら頷いたものだった。
ハイエンドクラスの寿司を、さらに自分好みに調理してくれる。その喜びをウィリアムは噛み締めていた。
エンガワをそのまま頂き、次は炙りで頂き、味比べを楽しんでいる。
「ウニも濃厚で最高だね!」
「うへへ、シマアジシマアジ♪ 普通のアジと食べ比べもしちゃうんだぜー!」
ワモンはアザラシの尻尾をフリフリしながら、職人が握ってくれるのを待ち構えている。
「あ、考えただけでよだれがとまらねー! うおおお! 寿司三昧ー!」
結構ギリギリの発現だな。そこ、一本締めしないように。
食べ終わったら箸を置いて、手を合わせて。
その一言は、合わせてもいないのに、皆、不思議と揃っていた。
「ごちそうさま」
了。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
秋になったら生物を食べに行こう。
GMコメント
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
豊穣にあるスシネタ海岸という場所で、最近超魚介類達が凶暴化しています。
そこで、ローレットにこれらを間引きするよう依頼が届きました。
倒して得られるスシネタの権利は依頼人にありますが、達成した暁には、報酬とは別に超魚介類を使用した寿司をごちそうしてくれるそうです。
美味しい寿司の安定的な供給の為にも、超魚介類達を一定数、倒してください。
【エネミーデータ】
■超魚介類
・魚介類にカオスシードの脚が生えたような見た目の生き物。囲んで棒で叩くと叫びながら爆発四散し、後にはスシネタが残る。これが非情に美味。
・反面、戦闘力が高く、訓練を積んだ者でないと狩ることは難しい。
・高級な魚介類(クエ、クロマグロなど)ほど強く、階級が上位である。
・倒した超魚介類は後で食べられるので、どんなのと戦うか書いてね。
【シチュエーションデータ】
■スシネタ海岸
・豊穣にある、秘匿された海岸。
・昼。晴れ。白い砂浜。
・超魚介類は夏の観光客くらい居る。
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