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シナリオ詳細

金銀財宝の残滓

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 運べ。運べ金銀を。
 運べ。運べ財宝を。
 
 かの宝は砂漠の中に生まれし泉の如く。
 喉から欲す宝の如く。

 運べ。運べ金銀を。
 運べ。運べ財宝を。

 奪わんとする輩は打ち倒し、宝を護れ。
 人の命より重き宝を護れ。

 その財宝の、名は――


「カプロシーって言うらしいんだけどね。
 まぁ貴重な香辛料で非常に高額なモノ……『だった』んだよ。かつてはね」
 言うはギルオス・ホリスである。場所はラサの首都、ネフェルスト――
 砂漠の中の一大オアシスに集いしイレギュラーズ達を前に説明をするのは、遥か過去。
 流通経路が未熟であった時代の名残。『カプロシー』なる、とある香辛料にまつわる話である。
「遠い昔はまだ発見されていない香辛料の類も多かった。カプロシーはかつてラサの北西部の更に限定された地域でしか獲れない超貴重物であったらしくてね……黄金と同価値とも言われたモノだったんだ。たださっきから言ってる通りそれも昔の話」
 今は一般の家庭にも容易く流通しているポピュラーな香辛料として親しまれているのだとか。
 香辛料とはいわゆる植物から採取され、調理に使用されるモノの事を指すが……それらの価値は時代によって大きく変動する。とある旅人の世界では、海を越え長旅をしてでも貴重なる香辛料を手に入れるべく行動していた時代があったらしい。
 それらは一重に採取量が限定的だから。転じて、量を確保できれば価値は下がる。
 混沌なる世界でもそれは同様の事象である。
 カプロシーはかつてはともあれ、今は食卓に並ぶ一つのスパイスにしか過ぎないモノだ――
「だけど――それは『今』を生きる者達の話だ。『昔』の者達にとっては違う」
「……と言うと?」
「その『昔』の時代を生きた亡霊達の存在が、最近この周囲で確認されていてね」
 ギルオスが言うには、その亡霊達はカプロシーがまだ貴重であった時代の者達らしい。
 いやむしろ正に渦中の者達。カプロシーを都市へと運ぶ『商隊』の残滓共。
 それが亡霊達の正体であるとのだとか。
「色々調べたんだけど……どうもね、数百年以上前に巨大な砂嵐に遭って壊滅した商隊の記録があったんだ。服装、商隊の紋章が一致しているからまず間違いない。で、この亡霊達は夜な夜なあるルートで出現が確認されて……近寄る者達へと襲い掛かって来る」
 なぜ。と思うが、恐らく亡霊達からしてみるとカプロシーを護ろうとしているのだろう。
 もはや今は価値が高くないなど彼らは知らぬ。
 いや知ったとしても最早亡霊となり彷徨っている者らにそんな理屈は通じない。
 彼らは生前の行動をずっとなぞっているのだろう。
 貴重なる財産を奪おうとする者らを排除せよ――と。
「さて、となればいつラサの商隊に被害が出るのか分かったものじゃないからね。
 この亡霊商隊を倒す依頼が出た訳なんだけど、ちょっとした問題がある」
 ギルオスが言うには、ラサの傭兵達が一度既に交戦をしているらしい。結果、激戦の末にほとんどの亡霊達を打ち倒したのだが……数日後、全快している亡霊達が再びルートに現れたのだとか。
「不死身かと思われたけどそうではない。トリックは商隊の隊長兼商売人の奴でね。
 こいつが亡霊商隊を発生させている『軸』と成っているんだ」
「つまり――その隊長とやらを逃がさずに倒さないといけない訳か?」
「その通り。そして厄介なのは、こいつが相当な臆病であるという事」
 劣勢を感じ取れば脇目も振らずに逃げる事が確認されている。
 その所為で亡霊商隊が中々壊滅しない。数日もすれば奴を起点に再び商隊が復活し。
「元の木阿弥さ。だからどういう戦いをするかは任せるが、こいつの撃破を最優先してくれ」
 記録上だと生前、商才は優れていたが弱者には傲慢で強者には臆病。
 人望の無い人物であった様だ。
 はてさて、如何に攻略したものか……

GMコメント

■依頼達成条件
 亡霊商隊隊長の撃破。
 逃亡された場合失敗となりますのでお気を付けください。

■戦場
 ラサの砂漠地帯。

 時刻は夜。月明かりは時々雲がかかって暗くなったり、逆に晴れたりする時間があります。
 暗い時は相当暗くなり、明るい時は視界に全く問題ないレベルです。
 利用できるかもしれませんし、そうでないかもしれません。

 この光量以外では特に障害となるようなモノは存在しません。
 ……なのでもし奇襲したいのならばなにがしかの工夫は必要になるでしょう。そうでなければ真正面からぶつかる事に一切の問題はありません。

■敵戦力
・亡霊商隊隊長×1
 かつてラサに存在していた商隊の長。
 かなり古びているが、煌びやかそうに見える衣装に身を包んだ骸骨状の人物。
 劣勢になると部下や宝にも目をくれず逃げ出す臆病な男であった。それは死後も変わらない。

 この亡霊商隊は成仏しない彼の怨念が元となって存在しています。
 故に彼を倒すと以下全ての敵戦力が同時に消滅します。
 逆を言えば彼を倒せなければ、商隊はいずれまた復活します。必ず撃破してください。

 戦闘時は魔力による中距離攻撃と回復支援を行ってきます。
 そしてなんと自身のR2範囲内にいる亡霊達の命中・回避を【下げる】効果があります。
 上げません。下げます。弱くします。自身は例外です。

・亡霊傭兵×8
 かつてラサに存在していた商隊の傭兵。
 古びた剣・槍・弓などを持つ傭兵団。全て骸骨状の者達。
 それなりの戦闘力を持ち、死後ながらコンビネーションには未だ優れている様です。

 正直隊長の性格には辟易している様ですがそれとこれとは話が別と、仕事には真面目。
 襲撃者達を撃退せんと応戦してくる事でしょう。

■『宝』
 亡霊商隊隊長が身に着けている。その正体は香辛料『カプロシー』
 この商隊が生きていた当時には黄金に匹敵するモノだったが……当然今の時代には価値などないモノである。その上に数百年の歳月を経てもはや形すら留めていないのだが、亡霊となっている者に理解は出来ていない。

  • 金銀財宝の残滓完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月31日 22時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一

リプレイ


 あちらでは珍しいが、こちらでは珍しくないもの。
 昔は珍しかったが、今ではめずらしくないもの。
 所変われば品変わるというが――
「時代によっても変わるものだな。こんなありふれたものが、かつての貴重品とは」
 『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は言う。目にしたことは幾度もある、ラサにとってポピュラーな香辛料の一つにそんな歴史があったとは。
 思ってみれば成程、そういう事もあるのだろう。そして逆も然りだ。
 いつか私達が当たり前に使っている者が、未来では希少になる日が来るかもしれない。
 百年か、千年か。さてそこまでの未来は分からぬが――
「――まぁ今はもう価値がないモノですよ。ああ、勿論食卓の一調味料としては、ええ。価値があるのでしょうけどね。黄金に匹敵するような価値はとてもとても」
「悲しいわね。時代の流れから取り残され、過去に縛られた亡霊と言うのは……」
 それでも件の亡霊達は、もう価値がない者に執着しているのだと『果てのなき欲望』カイロ・コールド(p3p008306)は吐息一つ。思わず『狐です』長月・イナリ(p3p008096)も彼らに憐れみの様な感情を抱いてしまうものだ。
 誰かがなんとかしなければ、彼らはこれからも彷徨い続けるのであろう。
 そして今を生きる者達の害悪となるのであれば……放ってもおけない。

「……ギャウ」

 空を見た。月光が隠れる空を『煌雷竜』アルペストゥス(p3p000029)は。
 砂漠は昼は灼熱であるが、夜は一転して急速に温度が下がるものだ。故に些かの肌寒さを彼は感じている。
 だが耐える時ももう終わりだ。潜む彼らの目に映るのは、亡霊商隊。
 異質なりし雰囲気を纏っている者達だ――遠目に見ても生者とは違うと感じられる。
「やれ、いましたね――ああ。あの身なりの者が隊長ですか。
 なんでも過去にはお金持ちだったそうですが……見る影もありませんね」
 『冥刻の翡翠』チェレンチィ(p3p008318)はその中でも隊長である件の元凶を見据える。その服は確かに事前情報通り煌びやかな残滓を宿しているが――永き時を経れば随分と古ぼけた様子を伺わせるものだ。過去に固執する様のようで、なんとも言い難い。
 まぁいい。過去の栄光に縋り付く迷惑な亡霊を追い払うのが今回の役目だ。
 イレギュラーズ達は二班に分かれる。月光が隠れた隙に回り込む者達と――
「ォォォ……アレか。アレが件の……プリンを持つ者達か!!」
 『マッスルプリン☆バーサーカー』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)の様に真正面から誘導の為に挑む者達――待って? 今なんて? プリン? え、何? あの糖分の塊のプリンの事? おかしい……亡霊達が護っているのは、香辛料の筈……
 しかしマッチョ☆プリンは考える。よく分からなかったがとても貴重なものを、彼らは死後も守っているのだと。つまりそれは――貴重なプリンの話だったのだろう、と。そしてそれを独り占めしているヤツがいる、と。今回の話はそういう事だ。なんで?
「ウオオオオオオオッ! オレノプリンダァ! プリンヲヨコセェッ!!」
 神々しく光を街切らすマッチョ☆プリン。
 雄叫びも共に揚げれば亡霊達の注意――というか困惑――も発生させるものである。そのまま突撃。されば目立つ光も相まってか、回り込もうとするイレギュラーズにはまだ気付いていない様子だ。
「よし。今の内じゃ……逃げられぬ様にこっそりと回り込むとしようかの」
 そして急ぎ足、しかし忍び足で『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)は後方へと。
 今回の依頼では隊長を決して逃してはならぬという。
 故に真正面からの総力戦ではなく……このように迂回して、逃走ルートを潰すのだ。
 この地の障害物が少ない。故に、敵の引き付け役である正面組の活動は重要であり。
「嘗ての黄金。今では風化し、形すら残していない……か。そしてもう雫すら残っていないというのに護り続けるとは――どうしようもないほどに残酷ね。」
 故に『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)も前へと進むのだ。
 纏うサイバーゴーグルで暗所の視界を確保。盛大に敵の眼を引くべく、敵陣に斬り込む。
 ああ哀れなる者達だ。護るべきモノはないのに、必死になって何かを護ろうとするとは。

「――せめて今夜で、終わらせてあげましょう」

 地を駆け跳躍。接敵と共に――その身を一閃した。


 マッチョ☆プリンは知らぬ。カプロシーがプリンではないと。
 マッチョ☆プリンは思う。だがプリンではない筈がないと。
 なぜならば――プリン以上に価値のあるものがこの世界にあるか――?
「ナァァァァイッ!! オ前ガカプロシー、持ッテル!?」
 読みは『プリン』である。身体を光らせ目を光らせ、見据える先は隊長である。
 脳内を巡るプリン信号――プ・リ・ン♪ プ・リ・ン♪ プリンの砲撃で制圧する♪
 圧倒的制圧攻勢でご挨拶。圧倒的困惑、しかし傭兵達がなんとかプリンを押しとどめ。
「やれやれ……まぁ随分と派手には行けてるな。もう暫く暴れさせてもらうとしようか」
 その後方からラダの一撃が彼らへと襲うのだ。
 彼女もまたカンテラを付け、視界と注意をこちらへと引き付ける。迂回班が十分な位置につくまであと少しばかりこちらに目を付けてもらうしよう。気取られぬ様に、位置を教えてやるかの如く派手に。
「しかし元はまがりなりにも商売人であったはずなのに――死後は生きている者を襲うとは、まるで盗賊の真似事か。商品を守るべき立場の者の筈が、なんて皮肉なものだ!」
「もはや分別の道理も分からないのでしょうね。悲しい事だわ」
 射撃を続ける。更にそれに続く形で、イナリもまた前へ。
 纏うは物理も神秘も遮断する極意――これにて剥がされぬ限りは直接の傷はない。
 態勢を整えた上で彼らに齎すのは、熱だ。
 広大な範囲を纏めて焼き払わんとする。迂回班が合流して来れば、流石に巻き込まぬ様に撃つのは無理だろうが、まだ序盤の今であれば傭兵達にだけ撒き散らせるとばかりに。神の熱をもって彼らを浄化せん。
「グルルル……グラァアアアウッ!!」
 同時。空より襲い掛かるのはアルペストゥスだ。
 闇夜を駆け抜け蒼雷を揺蕩わせ、強襲せんとする。その在り様もまた――陽動の為に。
 空に輝く一閃は演出としてより目立つ。無論、演出だけにとどまらず放つ雷撃は地へと。迸る一条の雷撃が亡霊達を穿ち、特にその隊長の身を狙うのだ。必要に応じて高度を調整し、 なるべく多くの人数を巻き込まんとして。
『ぬ――ぐ、ぐ――!』
 それでも隊長はともかく配下の傭兵達の動きは良い。
 数の有利と連携を持ってイナリ達を押し返さんとしているのだ。その刃は後方のラダすら襲い、その肉を抉らんとしている。古い装備でありながら、よくもまぁここまで戦えるものだ――
「――なるほど。死して尚、悪くない連携ね。
 けれど亡霊に負ける心算は無いのよ、私は」
 されど二班に分かれた以上数の不利は分かっていた事だと、竜胆は恐れずに前へと。
 止まっても事態は好転しない。攻める事だけがこの状況に活路を齎す。
 進む。進む。二振りの刃を交互に。二人の死者を相手取り、刃が交差すれば金属音が鳴り響く。敵が纏まれば得物を回転させ、鬼の暴風が如き――怒涛の攻勢を。
 さればその時、雲に遮られた月光が再び地を照らす。
 明るくなる周囲。その時、見えたのは――
「さぁ参りましょう。かの御仁に終わりを」
 背後より迫りしイレギュラーズ達だ。真っ先に飛び出てくるのは、カイロ。
 狙うはやはり隊長である。奴を逃す訳には決していかないから、ブロックを。押さえつける様に。
 ああ。ああ、なんでも人望が無くて邪魔な指揮で味方を弱くするとか――? 奇遇ですねぇ。逆に私は味方陣営の能力を上げる力があるのですよ。ついでに言うと、私は神官ではありますが商売人でもありまして――
「……なんでしょう? よく分からない所でシンパシーを感じます」
 口端を吊り上げ、接敵。
 似た存在、しかし確かに違う存在に対して何がしかの想いがあった故か――
 尤も。カイロは思う。
 ――私は心中では誰に対しても傲慢なのですよ。そこが違いますねぇ。
「さ、て。折角機を伺ったんです――ここで一気に趨勢を持っていきたい所ですね」
 直後。更に強襲してくるのはチェレンチィだ。
 気配消失からの移動は突然の存在の感知で、まるで亡霊が如く。
 思わぬ所からの一撃は邪魔な亡霊の首筋へ一閃。対象を瞬時に死へと誘う様に。
「隊長を逃がさぬ様に……ここからは数もほぼ互角。いつ怯えられる事か」
「あぁ逃がさんよ。今を生きぬ亡霊達には退場してもらうとしよう――
 ぬしらも、ぬしらの生きていた時代へと還るがよいぞ」
 チェレンチィの言に次いで続いたのはアカツキの一撃だ。
 カイロが駆け抜けたのを合図に彼女もまた戦域へと一気に近付く。紡ぐ魔法陣が起動し、魔力を収束させれば――その一撃は、もはや脅威の一言である。今や爆発せんとする程の『圧』は、彼女の指差しと同時に射出され。

「さぁ――現世を渡り黄泉へと続く、派手な送り火と行こうではないか!!」

 周囲を照らさんとする程の熱が――商人の隊長へと直撃した。
 妾の炎で導いてやろう。ぬしらも、ぬしらが守るお宝とやらもな!


 死を感じた、と。死人が思うのはおかしい事だろうか。
 アカツキの放った業火は凄まじく、丁度隊長の顔面に直撃していた。
 思わずその身が大きく揺らぐ。と、なればその隙を逃す訳にはいかない。
 死んでも一応傭兵である者らは主人の危機に流石に慌てるのだから。
「現世に揺蕩う亡霊よ。この辺りで、往くべき所へ往きなさい……!」
 一気に傭兵の防衛網を突破せんとイナリの剣が彼らに斬撃を。
 その剣は贋作なれど魔を払う一撃を確かに秘めている。敵の防具を穿ち、その身に届かせる強靭なる一撃――先の一撃と違って多くを巻き込む訳では無いが、それ故にこそ一体一体を確実に穿ちて。
「ォォォオォオオ!! カプロシー! カプロシーハドコダァ!! カプロシー!
 オマエ、カプロシー持ッテルダロウ!! ダセ! サモナクバ、死ネ!!」
 更にマッチョ☆プリンの業打が敵へと振るわれる――あっ。引き続きルビは『プリン』です。
 プリン欠乏症なのか、殴っても殴ってもプリンが出てこない現状に怒りをためている様だ……カプロシーが只の香辛料であると知った時、彼の激怒たるや如何に……? 驚異的な生命体であるその体は敵の攻撃をものともせず、むしろ反射的に次なる一手を紡ぐほどだ。こわい。
「隊長は逃げないようにこのまま抑えます。押し潰しましょうかね」
 逃げぬ様にぐるりと囲めれば最善なのだが――とチェレンチィは呟きながら。
 華麗な得物捌きで更に傷を増やしていく。
 隊長は悶える様に。しかしそれでも、体の一部分を護るかのように身を捩っている。ああ、恐らくそこに『カプロシー』があったのだろうか? 見てもそこにあるのは服の穴だけであり、香辛料はおろか何かが入っている様子すらないが。
「昔はさぞや高値で取引されていたんでしょうねぇ……そんなに必死になって護りたくなるぐらいに」
 もし意思というか、現代では普通の食卓に並ぶ程度のモノだと伝えられたなら。
 その時の衝撃たるや如何なるものを抱くだろうか――
 まぁ魔物と化していればどの道討伐する他ないのだが。剣を彼へ、闇夜を斬り裂く様に。
「ところで、いい服を着ていますね? 昔の、それなりに価値のある服だったとするなら、古代的な価値が付加としてつくやも……あぁ貴方が消えた後に売り払おうと思いますので、そこを動かないように。ほら、動かないようにと言ってるでしょう」
 同時にカイロもまた隊長へ攻撃――いや、ブロックだ。
 只管に奴を動かさんとする。傷ついた身は自らの治癒魔術により即座に癒して。
 攻撃はしない。抑える。動かさない。逃さない。服置いてけ。服置いてけェ!!
「ふふふ、逃しませんよぉ! 私の報酬の為、大人しく消え去りなさい!!」
 顔は笑顔のままだが、なんだか段々彼も魔物の様に見えて来たぞ……? 気のせいか……?
 ともあれ戦況は段々とイレギュラーズ側に傾きつつあった。
 隊長は常にブロックとマーク。逃がさぬようにしながら、傭兵達は正面班が削る。
 プリンやイナリの攻撃は苛烈で、ラダの射撃は後方から精密な程に。
「ま。流石にこうまで至ればこちらの作戦にはとうに勘付かれているだろうがね!
 だが関係ない。結局、逃さずに討つだけなのだから――さぁ滅びるといい」
 行うのは包囲戦だ。イレギュラーズ側の数が有利となれば、それも十分に可能。
 無論唐突な逃げの一手が撃たれないように優れし五感にて隊長の様子は常に伺っている。もし万が一、強行突破しそうな雰囲気でもあれば即座に警告を皆に発するつもりだ。尤も、抑え側はしかと役目を果たせており、現状必要は無さそうだが。
「それにしても――全く、死してなお契約に従うとは見上げた傭兵達だ」
 それよりも思わず気になるのは傭兵達の奮闘か。
 彼らの剣は折れない。包囲戦に至っても状況を打開しようと全力な様子を。
 中々の気概だ。ラサにも、過去からこんな傭兵がいたとは――ある意味、誇らしくもなる。
「だが、既に契約期間は満了しているだろう。幾年か、どれだけの星を跨いだか知らないが……残業代でも奴からふんだくって、いい加減お帰り願えるか!」
 それでも今を生きているの間違っているから。
 ラダの射撃が紡がれる。奴らの頭蓋を――撃ち砕く程に。
「奮戦結構。でも、申し訳ないけれど、私達の狙いは最初からただ一つよ」
 更に竜胆が一体の傭兵を切り伏せる。弱った個体を、頭から一刀両断し。
「――その怨念、今日此処で断たせてもらうわ」
 今を生きている間違った因果は、ここで終わらせる。
 向ける剣先は隊長へと。空を薙ぐように神速の抜刀を行えば、斬撃が飛翔し奴を斬り。
 皆で畳みかける。包囲の輪を縮め、敵を追い詰めるのだ。
 されば隊長の無謀たる指揮が傭兵達にいきわたり、その動きを緩慢とさせる――
 怒号。悪態。つくは悪しき上官としての鏡そのもの。ああ……
「聞いてた通りとは言え、こうまで仲間の動きを妨げるとわね。台無しよ、本当に」
「故にか、隊長を庇うようなそぶりを見せる傭兵まではおらぬの。
 全く。人望と言うものの大事さを教えてくれよるわ」
 思わずアカツキは吐息一つ。放つ業火は二度焼き尽くす悪夢が如く。
 滅びた筈の過去で朽ちる事無く、今にまで生き縋った結果がこれか――
 愚かとしか言いようがない。それでも、まぁ。これで仕舞いであるのならば導くと述べたかの言葉に相違なし。
「亡霊として迷い出ることなく、あの世へ還るがよいぞ……!」
 燃やし尽くしてやろう。何もかも。
 彼らの総てを焼き尽くす――武具も服も、無きカプロシーも、執念も。
 ならば。このまま送ってやろうとアルペストゥスは思考する。
 元より彼らは間違って現代にまで生きている存在なのだ。
「グルルッ……」

 ――たくさん苦しませたくはない。
 だけど、送りだすすべがこれしか、おもいつかないから

 彼は羽ばたく。幽体達の根源である、隊長へと狙いを定めて。
 放つは呪われし魔弾。彼らを正しき場所へと送り出す、慈悲の一手。

 ――いんがに縛られしたましいたちよ。しずかに、そらへ。

 願う心は純粋で。天へと向かって吠えるのは――彼の意思そのもの。
 隊長の胸元。恐らくは心臓がある位置へと放たれれば、その身が砂の大地へ倒れ伏す。
 消える。消える。何もかも。
 古来より続いた亡霊達は、ついにその正しき終わりを迎えたのだ。炎が消えれば灰も残らず。
「――せめて、最期は黙祷ぐらいは捧げましょうかね」
「……ま。生前がどんな悪党でも、この世界の誰からも忘れ去られるなんて悲しいからね。
 私一人くらいは覚えておいてあげるわ」
 であればと。瞼を伏すは竜胆とイナリだ。
 死後も商人に何度も付き合わされたんでしょうし、これ位は良いだろうと――
 今度こそ彼らが死後眠りにつけるように。もう誰にも妨げられないように。
「待テ! カプロシーハ……カプロシーハドコニ!!?」
「あーそういえばカプロシー……ちょっと味わってみたいですね。ネフェルストの売店にでもいってみましょうか」
「ふむ。それは良いのう。丁度最近、料理に嵌っておってなぁ……
 かつての砂漠の黄金。味わってみるのも楽しみじゃ」
 依然カプロシー=プリンであると勘違いしているプリンは天へ慟哭し。
 チェレンチィとアカツキはカプロシーの味わいへと思いを馳せる。
 弔いも終わればラサの方へ戻ろうか。
 アルプストゥスは戦闘で高ぶった体を鎮める様に、砂遊びに勤しんで。
「グルルルゥ……」
 小さく吠えて――弔いの言葉の様に。
 過去の者達へと、紡いだのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 どれ程の黄金もいつかは朽ちるのでしょうか……

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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