PandoraPartyProject

シナリオ詳細

最弱スライム:ピノクリファ討伐

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●最弱スライム増殖中

 ぬるり、ぬるり――地下道に粘性の水音が響く。
 
 意志を持つように蠢く粘液。それはスライムだ。
 そのスライムは色を持たない。自らの存在を可能な限り消すことで命を生きながらえさせる。臆病――否、慎重なのだ。
 自分より弱いものを徹底的に狙い、自分より強いものに狙われないように影に潜む。そうやって少しずつ自らの成長を促していた。
 今もまた、地下道を徘徊する小動物を取り込みその身体の粘液を増殖させていた。
 色を持たない最弱のスライム。人はそれをピノクリファと呼んだ。

 ――ピノクリファは夢を見る。いつか最強の存在になることを――。


「――というわけで、猟奇的な事件が続いてる中でも魔物の討伐依頼はあるものよ。この依頼は最弱で有名なスライム討伐依頼になるわ」
 情報屋の『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が依頼書をヒラヒラ動かす。
 リリィが語って聞かせたスライム――ピノクリファの話は、実に最弱と呼ぶに相応しいものだったが、熾烈な生存競争を考えればその生き方は正しいように思う。魔物も生きることに必死なのだ。
「最弱と言っても魔物だし、スライムに呼吸器官を塞がれれば窒息だってするわ。弱そうな魔物だからって油断は禁物よ」
 リリィの言うように粘性の液体であるスライムはその身体を張り付かせるようにして捕食する。顔を狙われ鼻や口を塞がれれば命の危険もあるだろう。
「とはいえ、ピノクリファは本当に弱くてね、嫌なのは服が溶かされるとかくらいで、肌に張り付かれても軽い火傷を負うくらいで済むはずよ。……服が溶かされるのはイヤねぇ……」
 自分の着る真っ黒な服を大事そうに抱きながらリリィは身震いする。
「――そうそう、相手が相手ということもあってこの依頼はまだローレットでの活動経験が少ない方が優先になってるわ。経験豊富な方はピノクリファと共に発見された魔王スライム――ゼノクリファ討伐を検討してみてね」
 そう言ってもう一個の依頼書をヒラヒラさせるリリィ。魔王スライムとはまた大層な名前がついたものだ。
「魔王スライムは最弱のスライム、ピノクリファが成長した魔物だと言う話よ。とっても危険なスライムなの。だからピノクリファの内に退治するのはとても大切ということね」
 最弱が、最強クラスまで成長する。そうなるまでにどの程度の期間を要したのかは知れないが、先の事を考えればリリィの言うようにピノクリファを此処で始末しておくのは重要なことだろう。
「それじゃ、依頼の方お願いね。そうそう、服はホントに溶かされちゃうから気をつけてね。替えの服をもってないと帰りが悲惨よ、きっと」
 くすくすと他人事のように笑うリリィは何を想像しているのだろうか。やれやれと首を振ったイレギュラーズは依頼書を手に取った。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 最強へと至ろうとする最弱のスライム討伐依頼です。
 不穏な芽は今のうちに摘み取りましょう。

●依頼について
 本依頼はLv3以下のイレギュラーズが対象です。
 Lv4以上の方は『魔王スライム:ゼノクリファ討伐』をご検討ください。
 ※連携シナリオではありませんので、依頼中に別の依頼の方と遭遇することはありません。

●依頼達成条件
 ・最弱スライム、ピノクリファの討伐

●情報確度
 情報確度はAです。
 想定外の事態は起きません。

●ピノクリファについて
 色を持たないカラーレススライム。
 徹底的に弱いものを狙いながら日々増殖を繰り返しています。
 その身体は服を溶かす程度の弱酸です。ちょっぴりヒリヒリします。
 物理攻撃に耐性を持ちますが、頑張れば物理でも倒しきることは可能です。また捕らえどころのない粘液のため、ブロック・マークが無効となります。
 イレギュラーズならば問題なく倒せる相手ですが、油断は禁物です。
 身体に張り付いてくる他、顔へと飛びかかる『張り付き』を使用します。
 『張り付き』(物近単・窒息)
 
 足が遅いので逃走の心配はありませんが、隠れるのが上手です。
 うまくおびき出すなり、見つける方法が必要かもしれません。

●想定戦闘地域
 ある街の地下道になります。ある程度の広さがあり戦闘は問題なく行えます。その他目に付く障害物はなく戦闘に支障はでないでしょう。

●着替え
 着替えは持ちましょう。ないとハレンチなことになってしまいます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 最弱スライム:ピノクリファ討伐Lv:3以下完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月25日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ
十六女 綾女(p3p003203)
毎夜の蝶
ノノ・メル・ネヴィステル(p3p004646)
うさぎのおうじさま
梶野 唯花(p3p004878)
ターンオーバー・アクセル
リーゼル・H・コンスタンツェ(p3p004991)
闇に溶ける追憶
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ファナ・リルフィーヌ(p3p005054)
忘却の騎士
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏

リプレイ

●地下道探索
 その街の地下道は、過去に備蓄庫として使われていた古い坑道だった。
 湿り気の帯びた空気、どこからか漏れ出る地下水が水滴となって地下道に音を響かせる。
 黒洞々としたその洞穴の入り口に、依頼を受け集まったイレギュラーズが立ち並ぶ。
「さてと、着替えはこの辺りに隠して置きましょうか」
「ちょうど良い岩陰があるわね、あそこにしましょう」
「では私も一緒させてもらいますね」
 久住・舞花(p3p005056)と、『忘却の騎士』ファナ・リルフィーヌ(p3p005054)が荷物を下ろし、岩陰に忍ばせる。十六女 綾女(p3p003203)もそれに倣い袋を一つ隠し置く。
 その中身は――わかりきってはいるが、着替えだ。これから戦う相手、最弱のスライムピノクリファは服を溶かす弱酸で構成された不思議生物だ。
 情報屋のアドバイス通り、イレギュラーズはしっかりと着替えを用意していた。
「準備はできたか?」
 ハンカチをマスク状にして口元を覆う『金狼の弟子』新道 風牙(p3p005012)が声を掛ける。
「こっちは大丈夫です!」
 リーゼルの武器”クレイヴ・ソリッシュ”を手にした『ターンオーバー・アクセル』梶野 唯花(p3p004878)がバッグを肩に掛ける。
「おやキミは荷物を持っていくんだね?」
「いやー入り口まで戻る間に着替えとかがないと不安そうで……」
 『うさぎのおうじさま』ノノ・メル・ネヴィステル(p3p004646)の問いかけに唯花が頭を掻く。
 暗い地下道とはいえ、明かりを持って侵入する。スライムに服を溶かされたとあっては、たとえ同じギルドに所属する身であったとしても恥ずかしいものだ。唯花の不安はよくわかった。
「……これ。人数分用意したから。必要になったら言って」
 人数分のローブを用意した『夜鷹』エーリカ・マルトリッツ(p3p000117)が荷物を示し仲間に伝える。
「さてと、なにか良いエサはいるかね?」
「それなら用意しといたぜ」
 『闇に溶ける追憶』リーゼル・H・コンスタンツェ(p3p004991)が囮にするエサを探そうと思えば、風牙が用意した蛙を取り出す。
「ひぇ……本当にカエルだっ。っていうか、大きい、大きいですよ!」
「ひひっ、結構な大物だろ? これなら食いつきも良いだろうぜ」
 手早く蛙にヒモを括り付け、そのヒモを釣り竿のような棒に括り付ける。足跡の囮棒の出来上がりだ。
 風牙はリーゼルにその棒を渡すと、自分の荷物をチェックして立ち上がる。
「よし、いこうぜ」
「……その。ぶらーんって垂れ下がってる……、か……蛙が……苦手なのに……うぅ……っ……!」
 苦手なのに囮を注視しなければと真面目に蛙を見つめるファナが若干青ざめながら口元を押さえる。
「いくぜ」
 こうして、囮役であるリーゼルを先頭にイレギュラーズ達はスライムの潜む地下道へと足を踏み入れた。

「スライムなんて魔物、この世界には本当に居るのね」
 生物として成立していることに疑問を持ちながらも、その身体の殆どを水で構成しているくらげをたとえに、そういう生物もいるのかもしれないと舞花は思う。
「スライム。
 オークと同じく、女性騎士にとっての天敵と教わっているわ。
 衣服を溶かすなんて辱めはぜったいに受けないから……!」
 自らの身体を抱くようにして守るファナの言葉に、一同は視線を向ける。その視線は――これから起こる可能性を予感して――同情のように受け取れた。
「……なによ。ふらぐというモノでもないから。――ないわよ!?」
 口に出してしまう時点でそれはフラグと呼べるのかも知れない。
「しかし、成長すると厄介になるスライム、ね……」
 姑息に逃げ回り徹底的に弱者を狙って成長を待つ。その生き方を理にかなっていると思うリーゼル。ただそのような生き方をしていたとしても、生存競争からはずれることはありえないのだ。残念ながらスライムにはこれから自分達の糧になってもらうのだと、囮の蛙を左右に振った。
「最弱が最強目指して努力し続ける。その生き方は尊敬するぜ」
「今日の最弱が、明日の最強か……」
 風牙とノノの言葉に唯花が頷きつつも、
「最弱でもなにか光るものがあるかもしれない!
 油断はするべからず! いきますよ!」と、拳を握る。
 自分達だって、経験豊富とは言えないパーティだ。最弱とは言わないけれど、力を求める気持ちは理解できる。
 とはいえ、その成長の果てに力を振りかざす暴君となるのであれば、早くにその芽は摘んでおかなければならない。
 これも生存競争なのだ。
「おっと、こいつは近いな」
「……粘性の痕跡。近くにいる……?」
 リーゼルの見つけた痕跡を確認したエーリカが深く被ったフードの中から鋭く視線を周囲に向ける。
 耳を澄ますと、砂利を引き摺るような背筋を振るわせる深いな小擦れ音が微かに聞こえてくる。位置は――反響して特定できない。
 イレギュラーズは口元に指を当て息を潜めると、カンテラの明かりを閉じるとゆっくりと歩き出した。唯花は持ってきた荷物を通路の岩陰に置いていく。
 リーゼルは囮の蛙を振りながら、自身も足を引き摺るようにして歩く。弱り切った一般人が迷い込んでしまったかのように。
 全方位を警戒しながらイレギュラーズが進む。ゴクリとファナの喉が鳴る。
「……別に緊張してるわけじゃないから。ふん」
 恥ずかしそうに顔を背けるファナは実戦が始めてだ。事前にした打ち合わせをよく思い出しながら盾を構えた。
 ――鼓膜を響かせる音が近くなる。もう、すぐ傍にいるはずだ。緊張を感じながらゆっくりと忍び、歩く。
 水音が鳴る。
 漏れ出た地下水か? リーゼルの疑問はしかし続く粘り気を帯びた音で掻き消える。地下水の水音ではない。これは――。
 瞬間、身も毛もよだつ盛大な水音と共に、蛙が棒ごと飲み込まれた。
「――! かかった!」
 天井から突然振り降りてきたスライムに驚愕しながらも、仲間に向け声を上げる。
 駆けつけた風牙が、荷物から石灰の粉を取り出しスライム目がけて振りまく。唯花がリーゼルの武器を渡し、綾女が羽織ったマントを後方へ投げ捨て戦闘態勢を整える。
 カンテラのシャッターを上げ明かりを灯せば、石灰の粉を浴びたスライムが、濁った不透明の身体を晒し、慌てるように身体を震わせる。その動きは鈍く遅い。
「わっ、うごいた。獣を狩るのとそう変わらない……そう、思っていたのだけれど」
「思った以上に大きいわね」
 エーリカと舞花がスライムを見て呟く。その大きさは直径にして一メートルを越えている。小柄な女性なら丸呑みされてもおかしくないサイズだ。
「なんにしても倒すのみ! これはオレたちとお前の生存競争だ!」
 大剣を構えた風牙の思いは地下道に響く。
 未だ怯え逃げようとするスライム――ピノクリファにイレギュラーズ達が襲いかかった。

●最弱の戦い
 粘性の身体を持つスライムは物理攻撃に耐性もつ。最弱と呼ばれるようなピノクリファであっても例外ではない。
 イレギュラーズの振るう攻撃は、半分が物理攻撃であり、バランスよく逃げ惑う(遅い)スライムにダメージを与えていった。
 とはいえ物理で殴るメンバーはその不思議な手応えに、
「うわ、確かに効きづらいですよこいつ! でもなんか柔らかいボールみたい!」
 などと声をあげたり。
 ほどほどに弾力のあるピノクリファの感触は確かな手応えを感じない。しかし、殴り続け、ダメージを与えることでわかってきたことがある。
 攻撃を与えるごとに、破裂し飛び散るピノクリファの肉体(?)。その飛沫が飛び散ったあと粘性だけを残して蒸発していくのだ。
 よくよく見れば、ピノクリファの身体も徐々に小さくなってきているように思える。その思いは攻勢を掛けるほどに確信へと変わっていく。自分達の攻撃は確かに効いているのだと。
「――つまり投げ続ければいつかダメになっちゃう! いけます!」
「いけるよ! 追い詰めて!」
「おいおい逃げんのか? こんな上物のエサを逃したら『魔王』への道が遠のくがいいのかい?」
「そっち行ったぞ! 回り込め!」
「わ、わわ、こっち、こないで!」
 互いに声を掛け合いながらピノクリファを追い詰めていくイレギュラーズ。
 だが、ピノクリファも逃げられないと悟ったのか反撃に出始める。
 攻撃されると同時に武器を伝ってその身体に巻き付き、身体へと張り付こうと蠢く。
「この――」
 張り付かれる前にマントで叩き落とす舞花。マントは直ぐさま溶け落ちていく。振るったロングソードで飛沫が飛べば、その飛沫が蒸発しながら服を溶かしていった。
「――何なんですか今どきゲームでもあんまりいませんよ!?」
 なんで異世界に来てこんな目にー!! と半泣きで叫ぶ唯花は、蹴り技メインのためか、その服がどんどん溶かされていく。
「服は治癒魔法じゃ直せませんから……きゃっこっちに!」
 前衛を抜け出たピノクリファが綾女に襲いかかり、瞬く間にその服を見るも無惨に溶かしてしまう。
 ひりつく肌の傷みより、恥ずかしさが上回り、綾女はその場にしゃがみ込むと、放り捨てたマントを拾って素肌を隠す。
 そんな女性陣達のあられもない姿が目に入れないように忙しそうに瞳を動かすノノ。
「ま、まあ! ボ、ボボボクは常に冷静だから女性の衣服の乱れくらいで
それに目を奪われどどど動揺するなんてことは無いん、だだだけどね!」
 振り抜くサイズは胡乱な角度。虎の子の魔術はピノクリファの傍を通過する。いっぱい動揺していた。
 自身の容姿を見られることを嫌うエーリカはとにかく近づかれないように魔力を放出する。飛沫が飛んできても、フードだけは死守するように、腕や外套でかばい耐えていた。
 性別不明なリーゼルと風牙は、服が溶けることなど気にもせず、攻撃を浴びせる。
 そして散々フラグを立てていたファナは、鉄壁とも言えるガードでスライムの張り付きを防いでいた。
「はあぁ――!」
 裂帛の気合いと共にしっかりと盾でガードし、近距離術式で反撃する。その気合い込めた攻防は、衣服を絶対に溶かされてなるものか、という強い想いが感じられた。
 ――イレギュラーズはピノクリファを追い詰めていく。
「くらえ!」
 身体強化の魔術を纏う風牙が刹那の足捌きで、深い間合いへと踏み込むと一刀の元にピノクリファを両断する。激しく飛び散る飛沫が服を溶かしていくが歯牙にもかけず大剣を振るう。轟音響かせながら叩きつけられる鉄塊がその粘性の身体を磨り潰す。
「……細切れにでもすれば、死ぬのかしらね」
 風牙と入れ替わるように一気に駆け寄った舞花が攻撃を集中させる。両断せしめる一刀は確かな手応えとともにピノクリファの肉体を抉る。飛沫によって服は溶かされ肌に微かな痛みを覚えるが、それに怖じ気づく暇はない。返す剣がもう一度ピノクリファを削り飛ばす。
「……無駄に抵抗しないで」
 エーリカは最後の魔力放出を行い、続けて遠距離術式に切り替えながらピノクリファを大打撃を与える。魔力的な耐性をもたないピノクリファに対してダメージディーラーとなっていたのはエーリカであろう。
 同様にダメージを稼ぎだしていたのはノノだ。
「燃やし尽くしてあげる!」
 サイズを振るう斬撃に、エーリカ同様の遠距離術式を放つノノは、ピノクリファを的確に追い詰める。女性の素肌が目に映し動揺しなければその活躍は計り知れなかったかもしれない。
「ペットのスライムなら可愛げもあって遊ぶにはいいのだけれど……これは飼い慣らすのは無理ね」
 服を溶かされながらもマントを羽織り後方で支援に当たるのは綾女だ。仲間が張り付きによる窒息の目にあえば、すぐさま天に祈りを捧げ、小さな奇跡を起こす。
 飛び散る飛沫にマントも徐々に溶かされはじめてはいるものの、ギリギリのラインで耐えていた。顔は紅潮しているが。
「そら、こいつはどうだ――!」
 魔術によって一時的に身体能力を強化するリーゼルが、愛用の蛇腹剣を連続で振るい、ピノクリファを細切れにする。苛烈な連続攻撃は確かな手応えをリーゼルに感じさせていた。その分飛び散る飛沫も盛大で、
「わー! こっちまで飛んできた!」
 と、踏み込もうとしていた唯花が悲鳴を上げる。
 服を溶かされてもまるで気にもとめないリーゼルは力の続く限り剣を振るった。
「もーさっさと倒して着替えるー!」
 飛沫を受けながら飛び抜けた加速で肉薄する唯花は、身体能力のギアを一段あげる。加速した電光石火の蹴りがピノクリファに突き刺さり飛沫を血飛沫のように弾けさせる。
「うわ-ん! 溶ける-!」
 まさに自殺行為とも呼べる捨て身の蹴戦は、ピノクリファの粘性の身体を大きく削り取り、その大きさを大きめのボール台にまでするのだった。
 ――その代償に、唯花の胸部と臀部を覆う布が著しく消滅したのはいうまでもない。
「あとは任せなさい! これで終わりよ――!」
 駆けるファナに、追い詰められたピノクリファが飛びかかる。顔を狙ったその一撃を盾で防ぎきると地面に叩きつけるように弾き飛ばす。
 間髪いれずに発動する近距離術式がピノクリファに直撃する。
 飛沫を飛ばしながら休息にしぼんでいくピノクリファ。しっかりと飛沫を盾でガードしたファナは、じっくりと待ってから、盾を下ろす。
「やった、の――」
 小さな水たまりのようになったピノクリファを見下ろして、ファナが大きく息をはいた。
「ふ、ふふん。私達の勝ちね」
 服を溶かされなかったことに安堵しながら勝ち誇るファナが、水たまりを槍でつつく。仲間達も安堵の息をつきながら近づこうとして――。
「え――?」
 ピノクリファの残骸の水たまりが、身震いしたかと思うと、盛大に大爆発した。
「きゃああ――!」
 ピノクリファの命を賭した最後の一撃は、最後の最後で気を抜いたファナの服を溶かし、憧れの騎士を目指す少女は悲鳴をあげるのだった。

●後始末
「……散々な目にあったわ。ふん」
「でもダメージのない自爆でよかったですよー。服だけで済んだ事を幸運に思わないと、ですよ」
「男性陣には……見た責任取ってもらおうかしら?」
「ふぅ……服はボロボロね。これはもう使えそうになさそう」
 戦い終わって、イレギュラーズの面々は地下道入り口まで戻ってきていた。
 道中はエーリカの用意したローブを纏い、普通に戻ることができた。若干スースーしていたのは言うまでも無い。
 男性陣(不明含む)はさっさと着替えて待機中。女性陣はべと付く身体を拭きながら着替え中。
 ほとんど服を溶かされなかったエーリカは女性陣を守るように見張りに立ち、乾いた布や水筒の水を渡す。飛び散った飛沫で肌が荒れるかもしれないからね。
「泉でもどこでもいいから水浴びかお風呂入りたいー! どこか近くにないんですかもーー!!」
 唯花が声を上げる。この際だから帰る前に街によって温泉でもないか探してもいいかもしれない。
(――へんないきものだった)
 エーリカは思う。それでも未来の魔王が日の目を見ることはなかったのだから、これでめでたしめでたし、なのかもしれない。
「そういえばアレの成長した魔王スライムも今いるという話よね」
「経験豊富な方々が討伐に行ってるみたいですけど、大変そうですね」
 ピノクリファが成長した姿――ゼノクリファ。強敵だという話だが上手く倒せただろうか。
 着替えを終えた女性陣が物陰から姿を現して、男性陣と合流する。
 いつか自分達もそういった強敵と戦うことがあるかもしれない。
 その時のために、今日のように少しずつ経験を積んでいこう。
「そうそうファナ、実はまだコイツが残ってて、後で一番美味しいところご馳走するぜ? ひひっ」
「ひっ……か、蛙……? なんでまだ残って……うぅ……っ……!」
 ファナの災難はまだ続くようだ。イレギュラーズは顔を見合わせ笑みを零した。
 地下道の外は眩しいほどの陽光が降り注ぐ。その光に目を細めながら、イレギュラーズは依頼完了を報告しに街へと戻るのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

澤見夜行です。
依頼成功です。お疲れ様でした。

最後の爆発は演出のようなものですが、フラグは回収するものということでご容赦を。
まずはゆっくり身体を休め、次の依頼へと挑戦していただければと思います。
ご参加ありがとうございました。

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