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シナリオ詳細

<禍ツ星>天の原 ふりさけ見れば 春日なる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 それは日も暮れ、夜空に星々が瞬く時刻。最も今宵は地上が明るく、普段よりは星も見えにくいかもしれない。あるいは空から見下ろした地上の方が星々のように明るく瞬いて見えるかもしれない──そんな夏祭りの夜だった。

 太鼓が力強く腹に響く。
 笛の高き旋律が辺りに響く。

「おっ、あっちからだ」
「これ食べたら行こうぜ」
 夏祭りによる騒めきの中でも消えないそれは、人々が踊り舞うための音楽だ。屋台をめぐって飲み食いし遊ぶ人々もその旋律を聞けば『夏の風物詩』と人だかりを作る。飛び入りで踊り始めた人々の間を舞うのは、祭具たる扇を手にした舞手。
「おかーさん、あのひとおどってるー」
「きれいだよお」
 子供たちがきゃっきゃとはしゃぎ、母親らしき人物が指を差してはいけませんと窘めて。そんな会話は舞手にも聞こえているのだろうが、その表情は鍛えられているのかぴくりとも動かなかった。
 音楽に合わせ、決められたように舞い踊る。神へ見せるものであるが故、かなり以前から練習に練習を重ねた舞いだ。辺りの喧噪も聞こえこそするものの、それらに心乱されるようなことは起こり得ない。
 ぴいひょろろ。ぴいひょろろ。
 いくつもの音が混じりあい、いくつもの気配が混ざり合う。良いものも、悪いものも混ざり合って、交じり合って。

 ──その中で狂い始めたのは音楽か、舞いか、はたまた人か。



 海洋王国とカムイグラの間には絶望の青──今は静寂の青と呼ばれている──が大きく横たわっている。越えるのも難関な海だ。イレギュラーズを始めとしてその海を突破し、カムイグラへ渡ったのはつい先日と言っても良い。この夏、合同祭事を執り行うことで2国は交流の1歩目を踏み出そうとしていた。

「賑やかなものだな」
 『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)は祭りの通りを歩きながら小さく笑みを浮かべる。彼が生じた銀の森は比較にならぬほど静かだっただろうが、このような雰囲気も嫌いではなさそうだ。
 フレイムタンとイレギュラーズたちの歩く通りはカムイグラから出された露店の他、海洋王国の露店もあるらしい。新鮮な雰囲気ながらもどことなく見覚えのある感じがするのはそのせいだろう。こうして見ると『表面上は』友好が築けそうである。
 しかし油断してはならない。ヤオヨロズとゼノポルタの確執は深く、またカムイグラ上層部は闇に包まれている。実際、腹の内がどうなっているかなどわかったものではないのだ。
 けれどもそれも上層部に限った事。カムイグラに住む多くの民に上のような思惑はないだろうし、イレギュラーズたちを始めとした西の者が誠意ある対応を見せれば、次第に態度も軟化していくことだろう。実際、夏祭りではどこ出身であるなど関係なく皆が笑顔を見せ楽しんでいる。
「我もあまり馴染みがない。貴殿らが勧める場所があるなら──」
 教えてくれ、と続くはずだった言葉は悲鳴にかき消された。イレギュラーズたちがはっとしてその方向を振り向くと、数人の男女が一目散にこちらへ向けて走ってくるところだった。道の両脇に後ずさった者たちはぽかんと口を開けてその背中を見ているか、ぶつかりそうになった彼らへの怒りで顔を真っ赤にしているか。けれども後から続く惨状に気づいた面々は同様に逃げ始めた。
「我らがいる意味もあったというものか……いや、本来ならば意味などない方が良いだろうが」
 フレイムタンの言葉にイレギュラーズは頷き、隠し持っていた武器を構える。有事の際はカムイグラと海洋王国、両国の友好関係に早速ヒビを入れないための警邏。何事も起こらなければただ祭りを楽しむだけの依頼。不幸にも有事は起きてしまったようだが、今なら早期解決に当たれる。
「──行くぞ!」

GMコメント

●成功条件
 凶暴化した民を鎮静化させる。

●情報精度
 このシナリオにおける情報精度はBです。嘘はありませんが、不明点もあります。

●エネミー
・舞手×6
 広場で踊っていたヤオヨロズの舞手です。男女混ざっており、一様に祭具である扇を持っています。突然の凶暴化により周りの人々を襲い始めました。
 祭具たる扇は丈夫で、打撃にも使用できるようです。また扇を媒介に神秘攻撃を放つこともあります。
 いずれも神秘攻撃と回避に長けており、防御技術はそれほどでもありません。

祝詞:神遠範:その声に反応して空より天罰が下ります。【麻痺】【乱れ】
守護:神自付:神秘を身におろすことで防御力を上げます。

・一般人×10~
 広場にいた、あるいは逃げ惑っていた一般人です。どういうわけか、舞手たちと同様に凶暴化して周囲の人間を襲い始めています。これは増える可能性があります。
 回避には劣るものの、HPに優れています。数でイレギュラーズたち歯向かってくる者や、逆に戦闘意欲のない者を攻めるでしょう。

大いなる壁:2つの対象までブロック、あるいはマークで選択できます。
暴れん坊:物特特:暴れまわります。周囲の露店破壊による二次災害が見込まれます。【体勢不利】【出血】【自分以外を対象とした、自分から2レンジ範囲まで】

●フィールド
 夏祭りの会場です。夜ですが祭りの明かりがあるため、全体的に明るいでしょう。
 所々では人々が逃げた際に明かりが倒れ、消えてしまっています。それでも目が闇に慣れてくればさほど支障もありません。
 両脇には露店が並んでおり、全員が横並びで戦うことはできません。さらに進めば太鼓などが設置された広場があります。

●NPC
・『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)
 精霊種の青年です。至近~近距離アタッカー。そこそこ戦えます。
 イレギュラーズから指示があれば、可能な限り従います。

●ご挨拶
 愁と申します。
 夏祭りで突如暴動が起こりました。凶暴化した民の生死は問いません。折角の大航海から繋いだ縁、必ずや守ってみせましょう!
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • <禍ツ星>天の原 ふりさけ見れば 春日なる完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月06日 22時38分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
マヤ ハグロ(p3p008008)

リプレイ


「友好関係を築こうという時に……いや、そんな時だからこそ、か」
「でしょうね。何も起こらなければと思っていたけれど」
 そう易々とはいかないらしい、と『救いの翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)の言葉に『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は頷く。ここにいる仲間の誰もが祭りを楽しみ、用意していた武防具も使用しなかったというケースが最良であったが、起こってしまった以上は出番である。
「ま、折角のお祭りに騒ぎを起こすなんて……とは思うけれど」
 スキットルを懐から取り出した『海賊見習い』マヤ ハグロ(p3p008008)は栓を開けるとそれを呷った。ラム酒が喉を焼き、胃を焼き。酩酊の高揚はそのまま戦闘に対する高揚に変わる。ニッと笑みを浮かべたマヤは片手に持ったリボルバーを空へ向けて発砲した。
「私は海賊マヤ・ハグロ。貴方達に警告するわ! 今すぐここを離れなさい!」
 それは言葉通りの警告。ここに残るのであれば、その者は容赦なく戦いに巻き込まれ、怪我をすることとなるだろう。そうすることも辞さないという意を示したマヤに、しかし目の前の人々はどこかおかしい。
「……正気ではないな」
 マヤの警告に動かぬ人々を見て、『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)はそう呟いた。イレギュラーズとて観察していれば気づくだろう。彼らの目は露店や人々を見ているようで、どこか違うところを見ているような──焦点が合っていない、ということに。
(ただの喧嘩にしては、迷いも見境も無さ過ぎますものね?)
 『never miss you』ゼファー(p3p007625)は素早く視線を巡らせる。露店を破壊し、悲鳴をあげる子供を殴りつけ。逃げ惑う男女へ体当たりを仕掛ける様態はまさに狂気というべきだろう。
「さあさあ、喧嘩の相手が欲しいならこっちに来なさいな!」
「私も相手だ。そう易々倒されはしないよ」
 その中へと躍り出たゼファーへいくつもの視線が集まる。ミニュイも未だ破壊活動を続ける者へ肉薄すると挑発し、なるべく敵視がこちらへ集まるようにと立ち回る。今まで襲われていた人間──恐らくは正気である一般人──が恐る恐る、加害者が見向きもしないことを確認すると一目散に走り去った。
(それで良い)
 自分たちはいくらか戦い慣れており、手元に武器もある。けれどもただのヒトは戦う術など持っていない。なるべく逃がしてやるべきだ。
「皆! 注意が逸れたら振り向かずに、落ち着いて逃げるんだ! あとは私たちに任せて!」
 これ以上混乱を広げてなるものかと発した『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)の言葉に、人々は少しずつ動き出す。時には大丈夫なのかという視線を向ける者もいるが、ここで引いたからといって彼らが引く保証もないだろう。マリアが再度指示を出せば大人しく従って、なるべく広場から距離を取るように去っていった。
 2人が引きつけたど真ん中へ飛び込んだ『魔法騎士』セララ(p3p000273)は瞬時に力を溜め、慈悲のこもった回転斬りで狂気に陥った人々を圧倒する。
「お願い、正気に戻って! 君達は夏祭りを楽しみにしてたはずだよ」
 その声が届いているのか、否か。人々は注目の的となったゼファーたちへ立ちはだかり、動けなくして暴れまわる。露天に当たった手から嫌な音が響き、同時に露店の支柱が曲がって崩れ落ちたとしても顔色ひとつ変えやしない。
「少しは大人しくしてもらえないかしら」
 槍を振るうゼファーはそれを見てやれやれと肩を竦める。自分たちとて決して不死身でもなんでもないが、鍛えていない人間ほど脆いものはない。
「無理だろうね。気を飛ばすしかない」
 ミニュイは相手の攻撃を受けて顔を顰めながら返す。ただの武器を持たない一般人だと思ったが、何らかの影響で少しは強化されたのか。イレギュラーズに対する脅威とはならないだろうが、防御に不安がある彼女の身からすれば早いところ空まで逃げてしまいたいところである。
「手加減には骨が折れそうだ」
 フレイムタンは肉弾戦で1人ずつ敵を相手取り、セララが弾いた者を確実に落としていく。しかしあらぬ方向からの声に視線を向けた彼は、思わず顔をしかめた。
「……増援のようだ」
「避難は間に合ったかな」
 視線を素早く走らせれば正気の人々は見当たらず。これならば増援が来たとしても、誰かを巻き込むことはないだろう。ミニュイは自らの翼を大きく広げた。
 一方、ヒトという壁を抜けた仲間たちは舞手へ向かっていた。天罰とも呼べるような落雷に『祖なる現身』八田 悠(p3p000687)はすかさず大号令を放ち、味方の体勢を整える。
(やれ、タチの悪いことをしてくれたね)
 誰が仕組んだのか、仕組まれたことなのかもわからないが。狙ってのことであれば、嫌になる程に有効な手立てだ。
 何も無くしてこのような事態は起こりえない。作用させる物か、人か。そういった存在があるはずだと悠は視線を巡らせる。
 舞手の持つ扇か。奥に見える太鼓か。聴こえていた音から察するに笛もあるのだろう。あるいはそれらの1パーツ。はたまた──魔種のような者。
(怪しいのは祭具の扇でしょうか)
 『冷たい薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)もまた悠とともに味方を押し上げながら、視線をそこへ留める。舞手が豹変したこと、そして未だそれを持ち続けていること。他が怪しくないわけではないが、まずは目先のものから潰していかねばならないだろう。
「さっさと大人しくなってもらいます!」
 光の聖歌から祈りの歌へ。守から攻へ転じたラクリマの魔力が蒼の剣を形どって舞手を襲う。舞手の衣を裂いたそれへ畳み掛けるが如く、アルテミアの放つ青の剣舞が舞手を翻弄した。その狙いは舞手自身ではなく扇だが、その動きはどうしてなかなか。ひらりひらりと衣と薄皮1枚犠牲にしつつ、決定打にはあと1歩届かない。
「なら、舞比べといこうじゃないか」
 悠もまた味方を鼓舞するように生命力を削る。捧げる供物は自分自身、その恩恵は前で戦う仲間たちへと。マヤは自分へと向かってくる舞手へ向かってリボルバーを向ける。戦場となったここは若干の閉塞感を感じさせるが、場所に翻弄などされるものか。
「この海賊、マヤ・ハグロに正面から立ち向かおうなんて勇気あるじゃない!」
 好戦的な笑みと共に贈られる銃弾。迫りくる舞扇が雷を呼ぶが、海賊たる者ここでへばってなどいられない。
(しかし、このままではどうなるかもわからない……)
 ラクリマは視線を巡らせ、戦況は予断を許さないと判断する。少しでも間違えば国の友好関係にヒビが入りかねない。幸いであるのは、仲間がしっかりと人々を引き付けてくれたおかげでこちらが舞手に集中できることだろう。
 舞手よりほんの少し多いばかりの人員で挑めど、狭い戦場だ。両脇の露店が倒れてくる可能性も考えればあまり派手に動くこともできない中、イレギュラーズたちは蝶のように舞う舞手にくらいついて行く。
 アルテミアの放った真っすぐな青の一閃が舞手へ赤の筋を付け、マリアはドリームシアターの幻影に自らのリソースを割かず完全に攻撃へと転じた。戦闘中にイメージを固める余裕などなく、加減する余裕もまたなさそうだ。
 ──不意に、イレギュラーズたちの後方から長細いものが突き出された。
「ハーイ、お待たせ! こっちも盛り上がってるかしら?」
 口調は軽いが、その手捌きは止まらない。ゼファーはそのまま味方の脇をすり抜けて前線へ出ると、舞手へと攻め立てた。空からミニュイが放つ羽嵐が舞手の余裕を削り、肉薄するセララの剣に雷が落ちる。
「さあ、その扇を離してもらうよ!」
 雷光を纏った聖剣が舞手の扇を弾き飛ばす。高く宙を舞った扇は、落下の衝撃で留め具が壊れたのかバラバラになった。
 合流した彼女らも疲弊はあるが、悠とラクリマがすぐさま傷を癒していく。舞手もまた疲弊し、倒れ始めているのだ。ここで負けるわけにはいかない。
(そろそろ舞い続けるのも辛いだろうね)
 悠が視線を向ければ、そこにはなお舞扇を持って舞う姿がある。けれどもそれは最初より精彩を欠いて、傷も増えてきているようだ。相手とて本能的な危機感を感じたのか、神秘をその身に厚く纏う。
「関係ありませんよ」
 しかしラクリマが歌うオスティアスはそのベールでさえも貫いて、舞手へと魔力の刃を届かせんと振り下ろされる。よろけたそこへすかさずマリアが打撃を迫らせ翻弄し、畳みかけるようにマヤの銃弾が薄く朱を散らせた。そして天雷を受けた聖剣でセララが神秘の守りを打ち払う。
 意識していないまでも、戦い続ければそのダメージは確実に蓄積する。それはイレギュラーズも舞手も同じことだ。アルテミアは狙って扇を斬りはらい、弾き飛ばす。舞手がとっさに手を伸ばすも、その動きが遅れたのは疲弊故か──青き乱撃が扇を巻き込んで襲いかかり叶わない。舞手の意識が暗く沈んでいく間にも演算化した思考でアルテミアは『次』を考える。
「さあ、最後は貴女だけね?」
 歌うように、踊るように槍が舞った。ゼファーは標的をその手に持つ祭具と定め、スキあらば率先的に槍を向ける。それを握る手へ、指へと狙うのは紅の雷を纏ったマリアだ。
「いい加減に目を覚ましなさい!」
「お願い、狂気になんて負けないで!」
 マヤが発砲した直後にギガセララブレイクで畳み掛けるセララは、尚も舞手へ語りかける。だって舞扇を持つまでは普通の人間だったはずなのだ。祭りに悲しい思い出など作りたいと思うはずもない。だからこそ、自分の意思で抗ってほしいという願いを込めていた。
 けれども舞手は顔色ひとつ変えやしない。その意思は雁字搦めに封じ込められているのか、それとも──。
「……気に入らない」
 呟いたのはマリアだ。裂華の攻撃は1度、そして回り込むようにしてもう1度。鮮烈な体裁きを見せるマリアだが、その顔に浮かぶのは苛立ちか。
 誰が黒幕かも、どう仕組まれているのかもわからない。けれども一般人を巻き込み、怪我をさせるようなやり方は決して看過できるものではないのだ。
「もう終わりですよ」
 ラクリマの白薔薇が舞手に絡み、苦痛をもたらし、吸い上げる。ミニュイの羽吹雪が舞手を空から襲い、最後の一手と悠はその生命力を奪い取った。よろめいた舞手が扇を落とせば、それは地表を滑って止まる。舞手が起き上がるより先に拾い上げたゼファーは、相手の奪還を許さない。
「悪いけどこいつは没収ね」
 舞扇をはらりと開き、笑みを浮かべるゼファー。舞手は欲するように扇へ手を伸ばすも、槍による峰うちでぱたりと力尽きた。



 戦いの音が止み、めでたしめでたし──と言うにはあまりにもな惨状にイレギュラーズは思わず顔を見合わせる。
「怪我人を治療しましょう。こちらに集めてもらえますか?」
「ええ、手伝うわ」
 ラクリマの言葉にアルテミアを始めとした何人かが頷く。それじゃあと壊れた露店に視線を向けたのはセララだ。
「残った人たちはボクと一緒にこの辺りの片付けや修理だね!」
 誰も彼もがダウンしている中、これらを放置して進むのも気が引けるというもの。それに早く楽しい祭りが再開されて欲しいという思いは皆同じだ。フレイムタンはこちらを手伝おうと折れた支柱に手をかけた。
 ラクリマのルックス・エテルナが優しく静かに響き渡り、集められた者の傷を癒していく。内の1人が小さく呻き、ゆっくりと瞼を押し上げた。
「大丈夫? 今さっきの記憶はあるかしら?」
「記憶……?」
 ぼんやりとした様子の女性は、しかし周囲の惨状に目を丸くした。一気に現実へと引き戻されたようだが、勢いよく立てば血の気も引いて座り込む。
「無理はしないで」
「ええ、そうするわ……」
 同じ場所へ座った女性は先ほど呪具を持っていた舞手の1人だ。アルテミアが舞扇の出所を伺うと、女性は少し考える素振りを見せる。
「ええと……そう、去年まで使っていた舞扇が壊れてしまったの。それでどこからだったか新しい物に交換したのだったか……」
 眉間に皺を寄せる女性。恐らくまだ記憶も曖昧なのだろう。アルテミアがダメ元で先ほどの状態で何か感じたことが無いか問うてみたが、やはりそこの記憶はすっぽりと抜け落ちているらしい。
(少なくとも、去年までとは違う物を使ったことは確かみたいね)
 更に調べるのであれば他の舞手が目覚めるのを待つのも1つの手だろう。そう判断して視線を上げた先では、雪のような光を舞い散らせるラクリマがいた。
「あ、そこ! 倒れそうだから気を付けて!」
「む。……感謝する」
 セララに指摘され、不安定になっていた屋根を外すフレイムタン。上手く修理をすればまた使うこともできそうだ。
「そういえば、祭りに舞いは必須なのだろうか」
「うーん……このお祭りには必要なんじゃないかな? さっきの事はあったけれど、それまでは凄く盛り上がってたみたいだし」
 でも、とセララはラクリマやアルテミアたちがいる方を見る。あの状態では舞手たちが再び舞いを見せることは難しいのかもしれない。そうなると代役が必要だ。
(ボクにもできるかな?)
 ほんの少しばかり首を傾げるけれど、きっと大丈夫だと思いなおす。運動神経が悪いわけでもないし、舞手がいなくなってしまうよりはずっと良いはずだ。それで少しでも楽しい祭りが取り戻せるのならば、時間が足りなかろうとセララは全力を尽くすのみである。
(……敵の目的は何だったんだろう)
 そうして少しずつ復旧が勧められていく中で、悠は頤に指をあてる。こんな騒ぎを起こして、その先に何を見たと言うのか。
(民と僕らを反目させる……けれど解決すればそれは結び付けるきっかけだ)
 悠の中で『敵』と定められたものはこの国の上層部だ。彼らは──決めているのはごく一部だろうが──カムイグラでの活動を許可したり、かと思えばこのような仲違いしかねない事件を起こしたり。まだこれらが上層部の仕業と確定しているわけでもないが、つまるところは『この先何が起こるか分からない』のだった。
(結局自国は衰弱するだろうし──)
 ふつりと悠の思考が途切れる。目を瞬かせて、顔を上げて。そこには祭りの復旧を手伝うイレギュラーズと、ラクリマによって回復した民たちの姿がある。

「……まさか、メインはそっちとか?」

 零れ落ちた小さな呟きは、夜風に乗って。誰に聞こえることもなく、誰が応えることもなく、空へと舞い上がっていったのだった。

成否

成功

MVP

セララ(p3p000273)
魔法騎士

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 皆さんのおかげでお祭りの再開まで漕ぎ着けられたようです。幸いに人々へ大きな傷跡を残すこともなく、この日を無事に終えられたでしょう。

 またのご縁をお待ちしております。

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