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シナリオ詳細

再現性東京 ~ラーメン再現記~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ラーメンの鬼、出現!!
「駄目だな、この味では東京ラーメンの再現なんざひとつもできてないよ」

 ここは練達の再現性東京――。
 その一角にあるラーメン屋のカウンターで、麺もスープも残されたどんぶりを置いた男は言い切った。
 その男、只者ではない。
 年の頃は30代後半に見えるが、頭はつるりと禿げ上がっている。カミソリできれいに剃ったのだろう。
 銀縁のメガネの奥には、痩身にもかかわらず対面した相手を圧倒する何かがある。

「ウチのラーメンの何がいけねえっていうんだ! 再現された東京ラーメンをちゃんと出しているだろう……!」

 その店『再らぁ軒』の大将は、禿頭のその男に向かって凄んでみせた。黒シャツに前掛け、タオルを目深なはちまきにしているガタイのいいおっさんである。
 その大将を前にして、怯まずに歯に衣着せぬ物言いをする人物が、只者であろうはずがない。

「では、店主。ひとつひとつ指摘させていただこうか」
「うっ……!?」

 鋭い眼光が、威勢よく乗り込んだ大将を睨みつけていく。
 逆に、凄んでいる大将のほうが虚勢を張っているように見えるほどだ。

「まず、再現すべき東京のラーメンの定義から聞こうか? 東京という都市は、全国津々浦々のラーメンが集まっているはず。その中で何を再現した? この店内のラーメンポエムや威勢のいい掛け声が東京のラーメンの再現なのか?」
「も、もちろんだ!」
「とんこつ醤油にマー油という、横浜家系と言われるスタイルに熊本ラーメンの見た目というチグハグなスタイルで、東京のラーメンを再現した、と?」
「そ、それは……」

 痛いところを突かれた、そんな顔になってしまう。
 それらしいラーメン店のスタイルを真似てみただけになってしまったのは、この禿頭の男が言うとおりである。

「もっとも、そういう店も確かに東京にあったかもしれない。しかし、それを再現することが目的なのかね? それがこの店のラーメン哲学なのか?」
「…………」

 大将は黙るしかなかった。
 黒シャツに前掛け、目深のタオルはちまきというスタイルからして形から入ったにすぎない。

「東京ラーメンを再現した店だと期待して暖簾をくぐったが、煮干し醤油でも荻窪ラーメンでもなかった。もっとも、それが東京ラーメンなのかは疑問だがな」

 湯気で曇った眼鏡を吹きながら、ハゲのラーメン男は呟いた。
 大将は、徹底的に打ちのめされたようになっている。
 もはや立ち上がる気力もなく、膝をついていた。

「また来る。もう一度食わせてもらってから、答えを出すとしよう」

●再現性東京ラーメン
「……そんなわけで、助けてください!」

 ギルド・ローレットにやってきたのは、再現性東京でラーメン屋『再らぁ軒』を構える大将である。いかつい容貌の彼であったが、すっかり憔悴しきってた。

「あのラーメンハゲに言われて、東京ラーメンを再現しようといろいろ試しているうちに迷走しちまって……」

 困り果てた大将は言う。
 そもそも、ラーメンというのはシンプルなようで定義が難しい。
 特に、東京という地域性があるようでない巨大都市のご当地ラーメンを改めて定義しようとすると味の迷宮にはまってしまう。
 昔懐かしい煮干し醤油ラーメンが東京のラーメンなのか? それとも、進化を続ける最新のトレンドが東京のラーメンなのか?
 これも答えるのは難しいだろう。

「助けてほしいんです! どうにかして東京ラーメンを再現して、あのメガネハゲを見返してやりたいんでさあ!」

 大将の意気込みは本気のようだ。
 だが、意気込みだけでうまいラーメンができるとは限らない。
 これぞ東京のラーメンというものを再現し、謎のメガネハゲを唸らせる一杯を用意できるラーメン通はいないだろうか?

GMコメント

■このシナリオについて
 皆さんこんちわ、解谷アキラです。
 再現性東京で、東京ラーメンを再現しようとするシナリオです。
 戦闘はありません。ラーメンを作り、あるいは啜り、東京ラーメンを再現することが目的となります。

・東京ラーメン
 オープニングでも書いたとおり、東京ラーメンというものを定義するのは議論があり、難しいかと思います。
 しかし、この再現性東京で再現されるに相応しい、東京の味というのはあるのではないでしょうか?
 大将へのアドバイス、実際にレシピを開発する、ラーメンを作っていく、とりあえず食べて感想を言うなど、さまざまな方法で大将をサポートしてあげてください。

・大将
 46歳既婚。3人の子供がいます。冒険者から一念発起して再現性東京でラーメン店『再らぁ軒』を開きました。
 ただ、東京のラーメンというものは実食したことがなく、伝え聞く範囲で再現しています。
 そのことも、料理人としてのコンプレックスです。

・再らぁ軒
 カウンター10席、テーブル席12席にひと通りの設備が再現されたラーメン店です。
 材料はわりと揃います。バイトもいますが、そんなに役に立ちません。
 店には「うめえ一杯を愚直に目指すことしかできねえから」というラーメンポエムが書かれています。

・謎のメガネハゲ
 どうやらラーメンの知識はかなりあるようですが、謎の人物です。
 彼が来店する一週間後に合わせ、これぞ再現性東京ラーメンという一杯を用意してください。
 
 事前情報は以上となります。
 役割を分担し、味の方向性、ラーメンにおける技術、哲学がプレイングで揃っていると成功度は上がるかと思います。
 それでは、どーんとラーメンを作りましょう!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●再現性東京(アデプト・トーキョー)とは
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 その内部は複数のエリアに分けられ、例えば古き良き昭和をモチーフとする『1970街』、高度成長とバブルの象徴たる『1980街』、次なる時代への道を模索し続ける『2000街』などが存在している。
 イレギュラーズは練達首脳からの要請で再現性東京内で起きるトラブル解決を請け負う事になった。

  • 再現性東京 ~ラーメン再現記~完了
  • GM名解谷アキラ
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年07月30日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
志屍 瑠璃(p3p000416)
遺言代筆業
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
丑三ツ 猫歩(p3p008711)
夜は誰のもの

リプレイ

●東京ラーメンとはなんぞ?
「お、俺はどうすりゃいいんだ……」

 『再らぁ軒』の大将は行き詰まっていた。自分のラーメンの何が東京を再現しているのか? そもそも、うまいのか? しかし、この味がうまいと主観的に思っていても、他人に取ってどうなのかを考え始めるとさっぱりわからなくなり、迷走し、悪循環する。

「いいじゃないっすか。あんなメガネハゲの言うことなんて真に受けること、ないっすよ。東京ラーメンの味なんて、どうせ混沌じゃ誰にもわかりゃしないんすから」

 軽薄そうに言うのは、大将の手が足りないので雇ったバイトくんである。
 吟遊詩人志望の若者で 飲食業をやるのに長髪を茶髪に染めていたくらいにやる気もない。
 今は、なんとか切らせてタオルを巻かせている。

「違う、それじゃ駄目だろうがっ……!!」

 大将の言葉は、血を吐くようであった。
 溜め込んだ苦悩を漏らしたような風である。

「話は聞かせてもらったわ」

 その途端、勢い良く店の扉が開いた。
 この『再らぁ軒』の危機を救うために現われた選ばれしラーメンイレギュラーズのひとり、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)である。

「おお、来ていただけましたか!」
「一念発起でラーメン屋、良いじゃない。家族を養う新しい覚悟、応援させてもらうわ」
「私だけじゃないわ。神がそれを望まれる」

 一杯のラーメンにも神が宿る、かどうかはさておき他のイレギュラーズたちも席についている。

「冒険者からラーメン屋とは、また変わった経歴だね。その意気込みは嫌いではないよ。私も東京出身として、出来る限りの手伝いはしよう」
「えっ!? あなた、東京出身なんですか……!」

 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)の言葉に、大将は脂汗まで浮かべた。
 一念発起して東京ラーメンを再現すると店を出したはいいものの、実のところその東京ラーメンを食した経験が一度もないがないというのが、大将のコンプレックスであった。
 しかし、練達には再現性東京が再現されるほどに東京出身者あるいは東京の概念が流れ着く。
 そのうえ、『崩れないバベル』のおかげで、なんとなく東京のニュアンスが伝わる。

「東京ラーメン、頭を下げられたはいいものの一体どんなラーメン……!?」

 もちろん、カウンターに座ってメニューの『東京ラーメン』をまじまじと見る『鉄壁鯛焼伝説』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)のようにまったく知らないという者もいる。
 『再らぁ軒』には食品サンプルもないので、食べたことのないものを想像するしかない。

「何を批評するにしても、いまの味を、食べてみないことには、はじまりませんの……」

 『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)の意見もまた当然であった。どのようにアドバイスするにせよ、食さねば方向性は見えない。
 半透明のゼラチン質を尾で、器用にカウンター席に座っている。

「話を聞くにそのラーメンメガネハゲ? 自分の言う通りにしたら、絶対文句言うタイプだと思うんだよね」
「ほんんと、男の人っていつもそう! 理屈ばっかりだにゃん!」

 『月光』ロゼット=テイ(p3p004150)と『夜は誰のもの』丑三ツ 猫歩(p3p008711)も同じカウンターに座り、大将のラーメンに理屈ばっかり言って大将を追い込んだメガネハゲについてあれこれを話し合っている。
 味というものは、食した本人しかわからない主観的なものだ。大体、ラーメンというものは食べ物であって情報ではない。東京ラーメンという情報を味わいに来たのだったら、迷惑な客でしかない。

「人のやることにはねちねちねちねち粘っこく文句を言ううえ、言うこと聞いたら聞いたで、やれ自分が無いだの志しがないだの、そんな覚悟ならラーメン辞めろだの言い出す……クレーマーというか文句を言うのだけが生きがいです、みたいな奴!」
「そうそう、料理は精巧な機械ではなく、芸術作品であるべきですにゃ。料理は絵や、音楽と同じ、表現物ですにゃ。製作者の自己満足ですにゃあ。溢れるパッションですにゅあ。ならば、情熱とこだわりが一番大事だにゃ」

 彼女たちも彼女たちで、ラーメンという食に対して熱く自論を語り合った。
 ラーメン好きが店に集まると、こういう光景はよくあるのかもしれない。

「まずは食べる人の分だけラーメンを頂きましょうか。食べた感想は、できるだけはっきりと記録しておきましょう」
「へい、さっそく! 8人前、ご注文ありがとうございまぁす!」
「8名様、ありがとうございまぁす!」

 『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)の注文に、大将とバイト君が異様に威勢いい声で応える。食べてみないとわからない、そりゃあそうだと皆が納得する。

「そのとおりです。大将の気持ちが本物なら、我々でそれを形にしましょう」

 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)も同意見であった。まずは味わい、そのプロデュースの方向性を決めるつもりだ。

●実食そして白熱ラーメン議論!
 そして数分後――。
 まずまずの手際で大将のラーメンが8人前できあがって並んだ。

「お待たせ、いたしぃましぃたぁー!」

 妙なところに力を込めるアクセントのコールとともにどんぶりが並んでいく。
 『再らぁ軒』のデフォルト、味玉、海苔、ネギ、チャーシューに茹でほうれん草の青み、黒いマー油という、トッピングの追加がない『再らぁめん』である。
 スープは白濁スープに醤油だれを合わせた茶色系の醤油とんこつである。
 皆、ふぅふぅと覚ましながら、まずは一口――。

「……い、いかがなもんでしょう?」

 大将も、青湯スープを飲み干すような勢いで固唾をガブ飲みして見守っている。
 一方で、バイト君には相変わらず緊張感がない。

「わたしにはちょっぴり熱すぎますけれど、すごい濃くて力強いお味だと思うのです」
「でしょう!」
「けれども……わたしには、東京も、ラーメンも、わかりませんから、これが、東京ラーメンなのだと言われれば、信じてしまいますの」
「ラーメンとか麺類は、熱々の麺を啜ってこそです。で、これが東京ラーメンというもので、僕たちはこれを作ればいいんですね」
「…………」

 ノリアといベークが率直な感想を言う。味への評価自体は、それほど悪くはない。
 だが、大将の表情はどうにも冴えない。

「うん。ちょっと重いけど、パンチのある横浜家系のおいしい醤油とんこつラーメンじゃないかな」

 東京出身のゼフィラも、味についてはまあまあであることを指摘した。だが、これが東京ラーメンであるという感想はない。
 濃厚でコクのあるスープと縮れ太麺、そこに足された香ばしいマー油のアクセント。
 好き嫌いが分かれるかも知れないが、好きな人なら好きだという味となっている。
 だが、それだけなのだ。

「私はおいしいと思うんだけど。でも、味は濃いしクセも強いから、苦手な人もいそう」

 そう、ある程度は美味しい。
 しかし、瑠璃の感想は、大将が心中で抱く迷いの正鵠を射たのであった。
 苦手な人がいる、好きな人にはおいしい。
 当たり前のことであり、味にこれと言った特徴がなく、予想どおりの味ということだ。
 好みに合えば美味しく食べられ、これぞ東京ラーメンであると言われて出されてしまうと知らなけければ東京ラーメンを食べたと評価してしまう。

「そうね。予想どおりよ。レシピは圧倒的にディテールが足りない。豚骨醤油にマー油を使うなら、バランスひとつつ変われば臭みや油っぽさが出てしまう」

 厨房の動きをメモしながら見守っていたイーリンは、どんぶりを置くと感想を述べた。
 実際、イーリンの一杯はバイト君が仕上げたものだ。
 濃厚な味は誤魔化しやすいがゆえに、バランスが崩れると途端に“誤魔化した味”になってしまう。
 また、この店の店主にしか出せない味というのは、料理人への褒め言葉に思えるが、ラーメンはバイトでも作れないと安く早く出せない。ラーメンがレシピこそすべての料理といわれる由縁だ。

「ラーメンってどういうものなの? こういう味なの? 大将さんの思いを聞かせてほしいな」
「そ、それは……」
「そうだにゃあ。大事なのは何を作るかではなく、何を作りたいかだにゃん」
「ぐくっ……!」

 ロゼットと猫歩の言葉が、ダメ押しとなった感がある。

「お、俺には、作りたいラーメンなんてなかったんだ……。再現性東京でまだない東京ラーメンを作れば、冒険者よりも稼げて女房子供にも楽をさせてやれる……。客のために本物の東京ラーメンを真剣に作っているってのも、後付の理由でしかねえ。自己満足にも至ってねえんだよ……!」

 大将は、ここに来て内心を吐露した。
 東京のラーメンを食べたことがないが、まだこの街でも再現されてない東京ラーメンを真っ先に出せば儲けを得られる、そういう安易な見通しで始めた商売であった。
 しかし、東京ラーメンの味のイメージを聞いても再現しようがなく、結果としていろいろ誤魔化していくうちに誤魔化しが効きやすい濃厚なラーメンへとなし崩し的に形を変えていった。

「もし、このラーメンが東京ラーメンに似て非なるものに、なっていたとしたら……それはきっと、本物を知るかたにとっては、このうえない侮辱に、ちがいありませんの」
「そ、そのとおりだ……」
「そればかりか……はじめて味わって、東京ラーメンはいいものだと信じてくれた、お客さんさえをも、裏切って、恥をかかせてしまうことに、なりますの」
「そうだ、透明尾っぽのお嬢ちゃんの言うとおりだ……」

 ノリアの言葉は、大将の心の深いところへぐっさりと刺さった。
 東京ラーメンを出すと言いながら、再現できないことのコンプレックス。味のわからない客を誤魔化しているということへの罪悪感、良心の呵責。それをラーメンメガネハゲに指摘されてしまったと思い、逆ギレした自分……。

「なのに、そうと言わずに、皮肉ばかりだなんて……そのお客さんも、失礼な、かたですの!」
「えっ……?」
「どうせ、『今日のが本当の東京ラーメンだと思えばいいのか?』とでも、おっしゃるんですの!」

 想像上のラーメンメガネハゲを想像して、ノリアはぷりぷり怒っている。
 熱々だったのが、わりとラーメンは好みに合ったらしい。
 
「こうすりゃ多分旨くなるだろうじゃないわ。こうだから旨い、まで持っていくわよ。この一週間で」

 イーリンは指摘する。このラーメンに足りないのは、どうすれば美味くなるかか? ではない。
 食するに至る美味い理由がないのだ。もちろん、突き詰めれば「おいしい」という理由が最善だ。

 しかし、味の好みは、千差万別である。味の好みや好き嫌いがあるのは当たり前だ。
 そのうえで……いや、だからこそ、それでも食べるという理由が必要となる。
 言葉を変えれば、人は好みに合わず、まずくても食べる理由がさえあれば口に入れる。
 健康になると言われれば食べるし、ここでしか食べられないと言われれば食べる。懐かしくても食べるし、東京に来た記念という理由でも食べるのだ。
 それを突き詰めるのが、ラーメンの哲学である。

「愚直に美味いラーメンを目指せばいいんです。それがそのまま、再現性東京ラーメンになる。ラーメンメガネハゲに我々がプレゼンします」

 『再らぁ軒』に足を運んで食べる理由が見つかれば、プレゼンしてプロデュースすればいい。
 新田 寛治の方針は固まった。

「まず大将が作るラーメンと似た系統のお店で味のいいところを十件程度回って情報収集ですね」
「大将、貴方も食べ歩いてきなさい」
「お? 俺もですかい?」
「そうよ、味が想像つかなきゃ盗んできなさいよ。食べ歩きも仕事よ? それで余分な味を引いて、必要な味を足す。料理は足し算であり、引き算よ。旨味が欲しけりゃそのラードをお玉いっぱいぶちまけてやりなさいよ。貴方が目指す一杯は、そんな物?」
「あ、その前にオプションマシマシのをもう一杯ください」

 シンプルな再らぁめんとは言え、軽く一杯を平らげた瑠璃が、マシマシの一杯をお代わりする。
 さらに食べ歩きに回ろうと大将を連れた瑠璃のグループと、レシピや調理のオペレーションを立て直すイーリンとベーク、内装を担当するゼフィラに分かれて『再らぁ軒』の立て直しにかかった。

●そしてラーメンメガネハゲの実食
 そして一週間後――。

「いらっしゃいませえー!」
「ほう、少しは落ち着いた雰囲気になったな」

 ラーメンメガネハゲの再来店であった。
 眼鏡の奥の目が、ぎらりと光ったように思える。どこか刃物のような鋭さがあった。
 店内はゼフィラの意見でもう少し落ち着いた内装になり、例のラーメンポエムは壁から消えてメニューの脇に書かれている。
 自信がないから虚勢を張って大声でごまかす行為だと気づいた大将がみずからそうしたのだ。
 だが、主張は間違っていないので小さくした。
 当たり前に目指す姿勢を、張り上げて威嚇しているようで恥ずかしくなったということだ。

「お客さん、なんにします?」
「では、再らぁめんを頼もうか」
「へい、再らぁめん一丁!」

 シンプルなやり取りの中、厨房では研ぎ澄まされたような心地よい緊張がある。
 それでいてカウンターやテーブル席に座るイレギュラーズたちにはどこか安心がある。
 新聞や長編スナイパー劇画も置いてあり、肩肘張らなくていい。
 この辺、ゼフィラがかつて東京で見たラーメン屋の雰囲気に近づけたのだ。

「大将、東京に抱くイメージをラーメンに落とし込むだけだにゃ!」
「さあ、『これがこれからの東京ラーメンなんだよ』ってブッ込んで!」

 ロゼットと猫歩の声援を受け、大将も張り切る。

「もちろんでさあ! おい、バイト、手順はいいな?」
「はーい、大将」

 相変わらずバイト君はやる気がなさそうだが、それでいいのである。ベークの手伝いものと、できる下準備を先に回し、オペレーションを簡略化した結果、余裕ができたのだ。

「ゼフィラさん、味見をお願いします」
「……うん、あの時食べたラーメンも、こんな感じだったのかな?」

 大将は小椀に盛って、東京のラーメンを知るゼフィラに味見を頼んだ。
 過去に味わった記憶を呼び戻し、OKが出た。

「お待ち! “横浜家系風東京ラーメン”、再らぁめんです」
「いかにも、です。この辺食べ歩いたんですが、そういうラーメン出す店、まだありませんからね」
「で、俺はこれを本当の東京ラーメンだと思えばいいのか?」

 やっぱり言ったと、ノリアも憤慨している。
 しかし、大将は怖じけずに言った。

「そのとおりです。東京でしか食えない東京ナイズされたご当地系カスタムラーメンです」
「なるほど、これがこの店の“理由”か」

 東京にあるご当地ラーメンは、本家本元とは違い、東京でしか食えない。
 マー油の量を少なめにして、好きな人がどハマリする方向性から万人受けする方向性にしてある。
 美味いよりもっと好かれる味にするための調整、まさに東京ナイズされた醤油とんこつだ。

「『東京ラーメン』は、スープや麺の種類等で定義されるべきものではありません。なぜなら、ラーメンという料理は現在進行系のジャンルだからです。一切の決まりごともセオリーもなく、あるべき形など存在しない。常に変化し、進化し続けていく。そこに固定観念があってはならない」

 厨房の奥から、プレゼンのために控えていた寛治に現われる。

「やれやれ、恐れ入ったよ。うんちくを語る中年サラリーマンまで再現するとはね」
「お食事の邪魔をするつもりはありませんので、お望みなら下がりますが」
「いいや、続けてくれ。マニアの語るうんちくも時には正論がある」
「では――」

 寛治は咳払いして続きを語る。

「東京は全国津々浦々のラーメンが集まる地です。誰かが理想のラーメンを作り、それを食べた別の誰かが改良や変化を加えてまた別の理想のラーメンを作る。その進化の当事者として『最先端を目指して走り続けている姿勢』こそが、この<再現性東京>で『再現』すべき姿なのだと考えました」
「だが、東京のどこでも食える家系ラーメンというのが答えだったら、とんだ思考停止だ」
「お聞きしますが、本当に思考が停止していた味でしょうか?」
「……いや、ほのかな煮干しの味わいがあった。たしかに、これはこの店でしか食えない東京ラーメンの要素だ。だから何だ、というほどだがね」
「明日はもっと美味しく、あるいは、新しいラーメンを目指して。そんな情熱を持って実践する『本物のラーメン屋』が提供するラーメン。それこそが『再現性東京ラーメン』です。『再らぁ軒』は本物のラーメン屋だと自負しております」

 寛治にはビジョンがあった。プロデュースとプレゼンのみだけではない。
 地元のダチコーを通じて仕入から検証し、スープの材料も店内処理、豚骨も腕や脛からゲンコツや豚頭に変えて下処理を徹底、よりクセをなくした万人受けする東京ラーメンである。

「やれやれ――」

 ラーメンメガネハゲは、胡椒とにんにくを利かせ、勢いよく麺を啜り、どんぶりを空にした。
 水を一気に飲み干し、おもむろに食券をカウンターに置いて立ち上がる。

「いつかお客様の店にも呼んで下さい。楽しみにしてます」
「ああ、また来る。そのときに決めさせてもらおうか」

 そう言い残し、店を後にする。
 この一杯が彼にとって美味いかまずいかは、わからない。東京の再現ができたのかさえも
 だが、再訪するという。

「ねぇ、家族にも食べさせてあげたいって思う一杯はできた?」
「このラーメンを食わして、このラーメンで食わしてやろうって誓ったんですからね」

 イーリンの笑顔に、大将も笑って答えた。ラーメンで一発当てて家族を養う。
 それもまた、東京ラーメンを再現するのと同様に尊い目標なのだ。

成否

成功

MVP

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚

状態異常

なし

あとがき

 あえてごちそうさまでしたと言わせてもらいます!
 皆さんのラーメンへの思いがこもったプレイング、採用させてもらいました。
 そういうものが溢れんばかりのリプレイとなってしまいました。
 ラーメン、食べたいですよね。私も好物です。
 ラーメンメガネハゲはまた来るかも知れませんので、その時はよろしくお願いします。
 大将の秘めた心情にばっちり言葉を突きつけながらも、フォローまでした『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)にはMVPを進呈したいと思います!
 それでは、また!

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