シナリオ詳細
皮膚の剥がれる音を聞く
オープニング
●海底よりの使者
曇り空の海辺。海鳥をすれ違い、老人が釣り竿を担いでいる。
古びたベンチに座って酒を飲む男たちが、こんな海で釣りなどできないとはやし立てた。
見れば確かに海がざわついていて、釣り人など一人もいない。
だが老人は彼らを無視して桟橋の先まで歩いて行った。
木製の小さな椅子を置き、釣り糸を垂らす。
水面をみつめれば、青黒い影があった。
魚がよぎったのか。それにしては大きい影だ。
目をこらせばまた影がよぎる。
背びれのようなものが見えた。
しかし巨大な、2mはあろうかという影だ。
ぞくりと老人の背筋に何かが走ったその途端、老人は釣り竿もろとも海の中に引きずり込まれてしまった。
老人が海に落ちたと笑う酔っ払いの男たち。
だが桟橋の周りに真っ赤な色が広がってまで、笑顔が続くことなどなかった。
手にしていた酒瓶を取り落とし、ベンチから立ち上がる。
ばしゃん。と、桟橋に何かの手がかかった。
老人のものではない。
青黒く、指の間に水かきをもった、人とは思えぬなにかの手だ。
そのすぐ後に、深海魚のごとき恐ろしい顔面が水面から飛び出したことで男たちは悲鳴を上げて逃げ出した。
男の中の誰かが言う。
「魚人(イプピアーラ)だ!」
ドルフィンキックで桟橋へと飛び出す『魚人』。水浸しの足で着地すると、そのまま凄まじい速度で男たちへと走り出す。
一体だけではない。二体三体と次々と現われ、桟橋を走り始めた。
酔った足取りで走る男の背にぐんぐんと近づき、振り返った男の顔を――水かきの手が掴んだ。
後日、顔面の引きはがされた男の死体が海辺で見つかった。
捜査にあたったハンチング帽の男は深く深く息をつき、このように言った。
「魚人(イプピアーラ)だ」
●閉鎖神殿を防衛せよ
ドアベルのかららんという音に、『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)が振り返る。
「あら、よく来たわね。例の仕事、受けるつもりになったのかしら。そう、それはとってもサーモンピンクね」
どこかうっとりと笑うプルー。
椅子を引き、あなたは席についた。
テーブルに並んでいるのはフィッシュフライやポテトフライ。そして人数分のカップである。
「もう聞いている人もいるでしょうけど、事件の背景から説明していくわね」
プルーは頬杖をついた。
「最近、幻想バルツァーレク領の港町で連続した通り魔事件が起きたのは知ってるかしら」
テーブルに並べたスクラップ記事。ルミノス港、ザンブラ港、ティーリスアイリス港……被害者こそバラバラだが、共通して港近くで数人が通り魔に襲われる事件が起きていた。
共通した周期。身体の皮が凍結し引きはがされるという死体の特徴。しかし家々は荒らされていないという事実。
これらに加えて目撃証言や現場検証から絞られた事件の原因は、『魚人(イプピアーラ)』であった。
「魚人(イプピアーラ)は人間に近いシルエットをしている亜人系モンスターよ。
手足には水かきがあって、背びれがついている。身体は青黒く鱗に覆われていて、頭は魚そのものよ。
普段は海の底に暮らしていて、船から落ちた人間を食べると言われているけれど……今回みたいに港に出てくるケースもないわけじゃないわ」
しかし連続するのは珍しい。
その原因を、バルツァーレク領のある貴族は証言した。
はらりと一枚のスケッチイラストがテーブルに置かれる。
何重にも不思議な鎖が巻かれた扉と、ほとんど朽ちたようなシルエットのこぶりな建物。
小屋と言っても差し支えないサイズだが、あちこちの魚を模したオブジェは何かを祀る意図が見えた。
これを現地の人間たちは『封鎖神殿』と呼んでいる。
「襲われた港は南から順に『この場所』へ向かっているの。
次に襲われる港は間違いなくここよ。
住民の避難は先に済ませるそうだから、皆は現地で彼らの侵入を防いで頂戴。
より具体的に言うなら、『封鎖神殿』を開かれたらアウトよ。
「投入されるであろう戦力は断片的にだけど予測がつくわ。
魚人(イプピアーラ)は氷を爪や剣や棍棒といった武器にして装備しているはずよ。
個体ごとにばらつきはあるけれど、戦闘力の低い個体と高い個体は外見から区別がつくようになっているわ」
そこまで説明して、プルーは一連の資料をまとめた。
「人を襲うモンスターが躍起になって狙おうとするものが何なのか……それは興味のわく話だけれど、触れない方が無難よね。決して、楽しいオブジェには見えないもの」
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/5089/12b668a1ada1828ba795332f419d4ef7.png)
- 皮膚の剥がれる音を聞く完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年04月25日 21時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●イプピアーラ
地球。日本。とくにアマゾンという言葉になじみあるウォーカーならこの単語にも聞き覚えがあるかも知れない。
「イプピアーラ……か」
『ShadowRecon』エイヴ・ベル・エレミア(p3p003451)は手早くバリケードを構築しながらぼそりと呟いた。
確か大河に住まう半魚人を意味する原住民の伝承……であったように記憶していた。今回の個体は海から上がってくるらしいので、恐らくは似た言葉を知っていた者が外観から名付けたのだろう。メロンとスイカを混同させるようなものだろうか。
「作成は任せた。儂は馬を置いてくる!」
路上に馬車を放置し、馬だけを逃がすルア=フォス=ニア(p3p004868)。
仲間たちで持ち寄った樽やらロープやら馬車やらで、簡単なバリケードをこさえるつもりだ。五分しかないが、逆に言えば300秒もある。インスタントヌードルを作って食べて片づけるほどの時間だ。
一方で『銀翼の歌姫』ファリス・リーン(p3p002532)は上空からイプピアーラの上陸を待っていた。いち早く仲間に知らせるためだ。
「…………」
ファリスは内心、イプピアーラたちに『封鎖神殿を開く』という目的とは別の意図を感じているようだった。
もしそれが示威や侵攻といった意図であるなら……。
「『それは不可能だ』と示す必要がある」
バリケード作成を手伝っていた『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は、縄結びに苦戦しながらも海側をみやった。
「彼らにもきっと理由があるのだと思うけれど……これまで犠牲になった方々のことを思えば、決して見逃すわけにはいきませんわっ!」
こっくりと頷く『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)。
どこからともなく鮪包丁を取り出した。
「封鎖神殿には一指も触れさせません。今日はここで刺身になって頂きましょう」
バリケードの構築は(ほとんどエイヴの手際で)完了した。イプピアーラの直線ルートをしばらく制限することができるだろう。
連中の到来を告げるかのように、生臭い風が海側から吹き付けてくる。
腕組みをした『雷迅之巫女』芦原 薫子(p3p002731)と『マッチ売りの魔女』志々宮・火雅美(p3p005091)は、それぞれ遠い世界と過去を思った。
(懐かしいですね……前もこんな感じで向かってくる奴らその悉くを屠ってきましたが……)
「ふふ……今のわたしでどんな殺し合いができるのか、楽しみです」
「同感ね。今の私の炎がどこまで通用するようになってるのか……試させてもらおうじゃないの」
上空のファリスが歌い始めた。到来の合図だ。
薫子は刀の鯉口を、火雅美はブックマッチの封をそれぞれ親指で切った。
ドルフィンジャンプで海面からはね、桟橋へと次々に立つ人型シルエットの群れ。
それぞれ手には氷の武器を持ち、鋭い牙やいびつな顎からうける印象は深海魚のそれである。
今にも人を食いそうな顔で、目をぎょろぎょろとさせていた。
顔を引きつらせる『こそどろ』エマ(p3p000257)。
「うへ、イプピアーラがあんなに……。あの神殿、どうせ貴族がなんか悪さしたんじゃないですか?」
エマがナイフを抜くと、『遠い海からやってきたトド』北斗(p3p000484)がふわりと浮かび上がった。
「でもぉ、悪さするようなのにぃ、重要なのは渡せないですよぅ。ともかくとしてぇ、おいらも、頑張るよぅ」
「封鎖神殿、破壊されたら強大なモンスターが出てきてきっと世界がピンチ! 皆の笑顔を守るため、魔法騎士セララ出撃だよ!」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)は剣を抜き、助走をつけて飛び上がった。
イプピアーラたちも駆け出し始める。
互いに倒さねばならぬ相手と見定めた。
ゆえに、平穏無事な結果など考えられない。
殺し合いの始まりである。
●イプピアーラの侵攻
「要は、魚顔フルコースをまるっと片付ければいいんじゃろ? 問題ない、任せるといい!」
ルアは先進的なリボルバー拳銃のようなものを背部パーツから引っこ抜くと、金と銀のボディを左右水平に構えた。
吹っ飛べ、とばかりに雷撃を発射。反動に乗るようにして大きく後退し始める。
そこへファリスが低く滑空するようにして飛び込んでいく。
勇壮のマーチを歌い、『我に続け』を付与しながらだ。
彼女の付与を受けながら、北斗とヴァレーリヤがそれぞれイプピアーラに殴りかかっていく。
氷でできた棍棒に殴られても尚突き進み、相手を殴りつける北斗。
剣を儀礼剣で受け止め、殴りつけるヴァレーリヤ。
「さあ、覚悟なさい!」
「それにしてもぉ、話しの通じないのがいて困るんですよぅ」
彼らがぶつかり合ったのは港の端。イプピアーラが海から飛び上がってきた直後での衝突である。
ヴァレーリヤと北斗が押さえ込んだ二人を、滑空するファリスが突き飛ばすようにして払っていく。
転がったイプピアーラの上をまた別のイプピアーラが飛び越え、神殿めがけて走り出す。
それを邪魔するのはセララの役目だ。
「セララスペシャル!」
飛行状態のまま剣を突き出し、ぶつかっていくセララ。
イプピアーラは反撃のために氷の槍を突き込むが、槍の冷気はセララの加護によって打ち払われた。
「きかないよ!」
セララの剣がイプピアーラを貫き、放り投げるようにうち捨てていく。
その下を駆け抜けていく薫子。
下げた大太刀が石の地面を削り、振り払おうと振り回したイプピアーラの槍をかわしていく。強引に槍を打ち上げ、大胆な蹴りによってイプピアーラを突き飛ばした。
バウンドして転がる二人のイプピアーラ。
そうしている間にも、ルアやファリスによって焼かれたり切り裂かれたりしたイプピアーラがうつ伏せに倒れ、その上に重なるように北斗とヴァレーリヤの殴り飛ばしたイプピアーラが倒れた。
一方、バリケードの裏からアンチマテリアルライフルを構えるエイヴ。
三脚をたて狙いをつけ、仲間たちの間を駆け抜けようとしているイプピアーラめがけて引き金を引いた。
「わざわざ陸にご足労頂いたわけだし、盛大に歓迎するとしよう。海に帰すつもりはない、そのまま陸で土に帰ってもらう」
直撃したイプピアーラが撥ねられたように飛ぶ。
その隙に、幻は杖を振った。
「全ては夢幻泡影。お客様の願いも命と共に泡と消える運命。さぁ、走馬灯というショーをご覧下さい」
どこからともなく現われた無数の包丁が飛び、イプピアーラへと突き刺さった。刺さったと思ったら夢のように消えていく。
エイヴはリロードをかけ、空薬莢を飛ばした。
「弾(AP)は温存しなくていいのか」
「ええ、今は」
幻が杖を再び振れば、さらなる幻影が現われる。
だがそのリロードタイムを突くようにして詰め寄ってくるイプピアーラがいた。
高速で走り、バリケードを飛び越えようと跳躍する。
――が、飛び上がった個体はそのまま宙に現われた炎にまかれてしまった。
バリケードの裏から現われ、焦げたマッチ棒を捨てる火雅美。
新たなマッチを手に取ると、バリケード素材の木片でこすった。
「随分といい臭いをさせるじゃない」
炎が更に燃え上がり、イプピアーラを包んでいく。
氷のナイフを振りかざし、なんとか反撃を試みるイプピアーラだが、彼の後ろに忍び寄ったエマの存在に気づかなかった。
「えひ……」
笑い声がした時には、既にナイフが首に突き刺さっている。
ナイフを抜き、次なる標的に備えるエマ。
「次まで余裕はあるかしら。例え来たとしても、正面から燃やすだけだけど……」
「足を止めての殴り合いと言うのは性に合いませんが……今回は陣形と言うものがありますからね」
たん、たん、と足踏みを始めるエマ。
数十秒の間を置いて、追加のイプピアーラたちが飛び出してくる。その中には、身の丈3mにいたる巨大な怪物……グレートイプピアーラの姿もあった。
●グレートイプピアーラの進撃
「君達がいくら来ようと無駄だよ。平和の守護者、魔法騎士セララがいる限りね!」
聖剣を手に立ち塞がるセララ。
二人ほどのイプピアーラは彼女の挑発に乗せられ、氷の剣を手に襲いかかる。
その一方でグレートイプピアーラや複数のイプピアーラは彼女を無視して神殿へと突き進んでいった。
「――!」
『怒り口上』を一発撃ち込んだ程度では効果を期待できない、とセララ悟った。彼女自身の能力からすると期待できるのは三発想定からといったところだろうか。
だが拠点防衛(タワーディフェンス)にとって空振りは死活問題につながる。
急いで方針の変更にかかった。
氷で武装した巨腕を振り上げ、咆哮と共に突進をかけるグレートイプピアーラ。
「そっちに――!」
「問題ない」
エイヴは帽子の下で目を細め、しっかりと狙いをつけたアイアンサイト越しにグレートイプピアーラの頭部を見た。
引き金を引く――と同時にファリスが飛びかかり、格闘攻撃を仕掛けた。
ファリスのハルバードがグレートイプピアーラの肩に食い込み、格闘戦が始まる。
振り回した腕がファリスを掴み、遠心力でもって建物の壁へと投げつけられる。
対するファリスは空中で翼を広げ、激突の寸前でブレーキをかけきった。
油断はできない。
足の速いイプピアーラたちが神殿目指して走り出したのだ。
途中で分散し、三つの通路を進む。
誰かが倒されても残るイプピアーラが神殿へたどり着こうという考えだろうか。
そうはさせまいと展開する北斗たち。
「よくわかんないけどぉ、この魚人を倒せばぁ、被害にあうひとも減るかもしれないんですねぇ?」
そんなことを語りつつ、北斗は正面から来るイプピアーラに接近して喧嘩殺法による戦闘を仕掛けた。
棍棒の打撃と北斗の打撃が激しく交差する。
その一方で、幻と薫子は左右に分かれ、それぞれの通路へと割り込んでいく。
紅の雷を纏い、民家の間を滑るように駆け抜ける薫子。
「……ふぅ、これでなくては。殺し合いは楽しくないと」
ブレーキなどかける間もなく壁を駆け上がるようにカーブし、剣を繰り出すイプピアーラと激突する。
逆サイドでは舞うように蝶のはねを羽ばたかせた幻が巨大な包丁の幻影を生み出し、通路を駆け抜けようとするイプピアーラを横から撥ねた。壁に激突し、ぎろりと幻をにらむイプピアーラ。
「そうです。足を止めて、どうぞご観覧を」
即席のバリケードがグレートイプピアーラの突進によって破られた。
セララやファリスたちが押さえているのとは別の個体。仮称グレートイプピアーラβが氷の腕を叩き付けたのだ。ロープや樽がはじけ飛んでいく。
その中を、防御姿勢で飛びかかるヴァレーリヤ。
「鉄騎のしぶとさ、見せ付けて差し上げますわっ!」
交差した腕にパンチが浴びせられる。吹き飛びそうになるところを、ヴァレーリヤは足を踏ん張ることで耐えた。短く詠唱した回復術式が痛みを僅かに取り去っていく。
一人では抑えきれない。が、複数で襲いかかればすりつぶせる。
ルアが拳銃型制御機を乱射してグレートイプピアーラに雷撃を浴びせまくっていく。
暴れるグレートイプピアーラ。横転して滑っていく馬車。
「やらせはせ――儂の馬車ァ(新品)ー!」
直後、馬車の影から滑り出たエマがグレートイプピアーラの背後に回り込み、組み付いてナイフを突き立て始める。
ぐらりと傾くグレートイプピアーラ。
それを飛び越えて走るイプピアーラに、火雅美が立ち塞がってマッチを擦った。
「我が無念のマッチが生み出す炎、リメンバー・ヒートで火葬にしてあげるわ、感謝して焼けなさい」
炎が上がり、渦を巻いていく。
かつての力をほんの少しだけ思い出した火雅美だが……。
だが、まだだ。こんな炎じゃまだ足りない。
それに……。
「打ち止め、か」
高火力なマッチは尽きた。火雅美は大量に用意した安価なマッチを取り出し、戦闘を継続する。
なぜなら、未だ元気なイプピアーラたちが彼女の左右を駆け抜けていくからだ。
●封鎖神殿
鎖に剣を叩き付けるイプピアーラ。
そんな彼らをはねのけるべく、ファリスが襲いかかった。
神殿の開放を一旦諦め、振り返るイプピアーラたち。
一方で、海からは複数のグレートイプピアーラが上陸を始めていた。
戦線を下げるか、上げるか。分けるか、固めるか。
その判断を一旦捨て、急務である神殿周辺のイプピアーラの排除を初めていく。
幾度もの打ち合い。
その末にイプピアーラを派手に切断するファリス。
が、そこへ突っ込んできたグレートイプピアーラの腕が、ファリスへと叩き付けられた。
「こうなったら――時間をかせぎますわっ!」
グレートイプピアーラへと組み付くヴァレーリヤ。
振り払おうと叩き付けられた腕に、彼女は気合いでしがみついた。
幸い【氷漬】の効果を受けるほどのヒットには達していないが、ダメージ量は結構なものだ。
故に回復は追いつかない。防御を固め、ダメージを軽減し、少しでも長く耐えしのぐのだ。
そう。5体ものグレートイプピアーラを相手に。
「私が――最後のバリケードでしてよっ!」
ヴァレーリヤは両腕を広げ、かかってこいとばかりに目を輝かせた。
消耗。混乱。そして焦燥。
イレギュラーズたちは神殿を背に複数のグレートイプピアーラと戦うと言う窮地に追い込まれていた。ただでさえ氷の腕でひとなぎにされるあの攻撃を、何度も受ければリカバリーは追いつかない。時には【氷漬】の効果を受け、より劣勢に陥ることもあった。
「貴様等、纏めて舟盛りにしてくれるわ!」
黄金銃を突き出すルア――を横殴りにしていく。
派手に回転しながら宙を舞い、ルアは回転の中で二丁拳銃を突き出す構えをとった。魔力の大半は枯渇した状態だが、魔力を弾にして放つくらいはできる。とにかくありったけを叩き込んでいった。
そこへ幻が飛び込み、衝術を発動。突如巻き起こった凄まじい衝撃が、グレートイプピアーラを吹き飛ばした。
そこへ後ろから駆け寄る薫子。
「ふふっ、ぞくぞくしてきます」
刀を繰り出し、グレートイプピアーラを派手に切断した。
まき散らされる血。
眼鏡の端に付着した滴を指でぬぐい、薫子は不敵に笑った。
さらなる個体が殴りかかってくる。
繰り出す刀。走る衝撃。
北斗がグレートイプピアーラへ殴りかかる。
消耗しきった彼に派手な攻撃を繰り出すスタミナはない。
反撃に繰り出された拳に押しつぶされそうになるが、ぎりぎりの所で持ちこたえ、流れる血を無視するようにして再び殴りつけた。
諦めない彼の攻撃がグレートイプピアーラを転倒させ、もろともに倒れていく。
この期に及んでまだスタミナや弾を残していたのはセララとエイヴだけだ。
エマも身体を酷使しすぎて足や手に震えがでている。火雅美に至っては火花を散らすので精一杯だ。
だが、それでも。
「…………」
倒れたグレートイプピアーラたちの死体を横目に、吠える最後のグレートイプピアーラ。
仲間たちは倒れ、状況は1体4。
背後には神殿。負ければ終わりの一発勝負だ。
エイヴはとっておきの弾をこめ、最後の一発をグレートイプピアーラの背へと発射した。
銃声。
と同時に飛び出す三人。
セララはドーナツを無理矢理飲み込み、聖剣を腹に突き立てる。
火雅美の起こした火花が顔面に散り、思わず目を閉じたその瞬間に、エマが剣と方をステップにして駆け上がる。
眼球を貫くように突き立てたナイフ。
えぐり込まれた剣。
苦し紛れに振り込まれた氷の巨腕。
まるで爆発のような一瞬は、しかしそれを最後にして静寂を生んだ。
むくりと起きたエマ。
仲間たちは倒れ、意識ある者もギリギリといった様子だ。
だが最後に立っていたのは、自分たちだった。
目の前に立ち、エイヴが手をさしのべてくる。
「依頼は完遂した。帰投しよう」
とても短く、しかし濃密な時間は、港町にイプピアーラの死体大小20体あまりと、何かの残骸と、わずかに傷付けられた封鎖神殿を残した。
この後、イレギュラーズたちの進言によって依頼主は封鎖神殿とその中身を移転するという。
だがきっと、その際にもイプピアーラたちの妨害は行なわれるだろう。
イレギュラーズたちに再びの依頼が寄せられる日は、近いはずだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete!
――congratulation!
GMコメント
【オーダー】
成功条件:魚人(イプピアーラ)の襲撃に耐えきる
失敗条件:封鎖神殿が開かれる
余談になりますが、この件は港の警備を行なっている組合からローレットへ依頼されたものです。
住民避難はその組合が行なっているため、かなり円滑な避難が済んでいることでしょう。
【依頼特徴】
・定点防衛:定点『閉鎖神殿』を防衛します。定点に設定された耐久値がゼロになった時点で依頼失敗となります。
・ウェーブ(3):敵は三段階のウェーブに分けて襲撃をしかけてきます。
・漁港:桟橋が複数設置された港です。漁業を行なうためのスペースが設けられており港付近は広く平らな場所が多いでしょう。
【定点防衛】
魚人は海から現われ、『閉鎖神殿』を目指して侵攻します。
進路上の無視できない範囲にPCがいた場合戦闘を優先するでしょう。
閉鎖神殿は港からやや離れた場所に位置しています。
(目安としては魚人を発生から6ターン放置すると対象にたどり着く程度です)
魚人は閉鎖神殿にとりつくと攻撃を開始し、封鎖している不思議な鎖を破壊しようとします。これが破壊されきったら依頼失敗の扱いになります。
【ウェーブ(3)】
敵は3回のウェーブに分けて襲撃を行ないます。
PCたちは先んじて現場で配置を整えることができますが、この猶予は5分程度となっています。
流れは『第一ウェーブ開始→一定時間経過で第二ウェーブ開始→一定時間経過で第三ウェーブ開始』となります。次ウェーブまでの時間は把握できていないものとします。
前ウェーブで敵を倒しきれなかった場合かなり厳しいことになり、逆に早めに敵を倒しきれれば回復の猶予をとることができます(ヒーラーがいる場合配分に気を遣ってみてください)。
ウェーブごとの戦力は以下の通りです。
・第一ウェーブ:魚人×8
・第二ウェーブ:魚人×8、大魚人×2
・第三ウェーブ:大魚人×5
【エネミー】
甲:魚人(イプピアーラ)
魚の亜人系モンスター。氷を武器とし、爪や剣や棍棒として振るう。
短所:回避、防御技術、HP、攻撃力
長所:反応、機動力
→使用スキル
氷の武器(物至単【凍結】【ショック】):氷の武器で格闘攻撃をする
乙:大魚人(グレートイプピアーラ)
魚人より更に大きく全長が3mある固体。
両腕を氷の巨腕にしており、それを用いた殴りつけが主な攻撃手段。
短所:反応、機動力
長所:攻撃力、防御技術、HP
→使用スキル
振り回し(物近列【氷漬】):氷の両腕を振り回します
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
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