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シナリオ詳細

<禍ツ星>桜の歌姫と高天の三妖

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●遥かな新天地よ――
 遥かな大海原を越え、待ち受けていた『冠位魔種アルバニア』を、『滅海竜リヴァイアサン』を乗り越えたイレギュラーズと『ネオ・フロンティア海洋王国』。
 その遥かなる先にて存在していた新天地『カムイグラ』は、政権の中枢を魔種の毒牙に蝕まれていた。
 更には八百万――混沌大陸では『精霊種』と呼ばれる者達――と鬼人種の身分差別、正体不明の『疫病』や妖怪達の存在など、問題は山積していた。
 そんな最中、海洋王国とカムイグラは共同で夏祭りの開催を宣言する。
 イレギュラーズを――そして変化を忌むような天香・長胤と彼が庇護する巫女姫の、不自然なほど易々としたその快諾により、祭り自体は何の滞りもなく行われようとしていた。

●鎮座まします彼の宝珠こそは
 ――高天京の一角。
 夏祭り開催のその日。夏祭りの会場たる神ヶ浜だけではなく、都たる高天京でもその影響がないとは言えない。
 多くの人々が待ちに待った夏祭りに浮足立った様子で歩いていく。
 浴衣に身を包んだ者、普段の和装のままの者、様々だがその顔は皆、一様に晴れやかなものだ。
 そんな彼らの行く道を眺める様に、ぽつんと、一つの祭具が鎮座していた。
 平均的な男性のお腹辺りまである直方体の上に、紫色の座布団のような物が敷かれた更にその上。
 それの形は、小さな宝珠であった。
 日の光だけではなく、まるで自ら光を帯びているかのような不思議な宝珠が、じんわりと内側に影を帯びる。
 ぐるり、ぐるり。影が渦を巻き、やがて宝珠の隙間を全て埋め尽くした頃――カッと光が放たれた。
 それは黒き輝き。邪悪な気配を帯びた輝きが、やがて獣の形を取っていく。
 最初に姿を現したのは、2mほどの狼だった。
 ソレは辺りを見渡し、ぎょろりと人々に視線を向けた。
 輝きが収まった後、今度は玉の中から黒い煙がもうもうと溢れ出てきた。
 ずるり、宝珠の中から、ずるりと、それは滑るように姿を現す。
 まずボサボサな黒い糸――いや、あれは髪か。
 続いてひたり、ひたりと両手が零れ出る。
 煙の中を揺蕩うようにずるりと全身を曝したソレの容姿はあまり分からない。
 煤けたぼろきれのような衣服、胸の膨らみから恐らくは女性体だろう。
 しかし、風貌に関しては全く分からない。
 全身さえ包み込むような多量の毛髪がまるっきり隠していた。
 ぶんやりと、髪の間から1つだけ瞳の光が見える。
 そんな女? のその後ろ、宝珠の中からぴょんと天に何かが飛び上がり、くるくると回転しながら着地した。
 それはすらりとした男だった。
 片手には軽槍を、もう片手には片手サイズの槌を持ち、ちらりと周囲を見て――動いた。
「うわ!? なんだ!? ぐあっ!?」
 通りすがりの八百万が気づいたその瞬間、飛び込んだ男が片手に握る槍で八百万を貫いた。
「う、うわぁああ!?」
 一人の八百万が叫ぶ。その足元には黒い塊――いや、大量の毛髪が蠢いていた。
 毛髪は八百万に巻き付き、やがて体をそって彼を包み込む――その時だった。
 どこからか飛んできた矢が、髪を一直線に切り裂いた。
「ご無事ですか?」
 声と共に駆けつけてきたのは、桜色の髪をした女性――光焔 桜だった。
 桜は作り出した矢を使って八百万に絡み付いていた髪を切り裂くと、その背中を軽く押した。
「どうぞ、お早くお逃げください!」
「あ、あなたは桜の……! わかりました!……うわぁ!?」
 残っていた髪に足を取られ、倒れる。
 ――その瞬間、それまで動いていなかった狼が信じられない速度で走り抜け、八百万に牙を剥く。
 桜はそれに体当たりをかまして八百万から引き剥がすと、体勢を立て直す。
(妖の類……今の狼は送り狼、あの女は恐らく毛倡妓、あっちの男は槍毛長というところでしょう。
 1体ならばともかく、3体相手となると……間合いの調整が難しいでしょうか)
 刹那の内に考えを纏めながら、他の人々に攻撃を仕掛けようとする男――槍毛長へと桜の矢を撃ち込み、ちらりと体を起こした八百万に向ける。
「すいませんが、ローレットへここに妖怪が現れたと伝えてきて頂ませんでしょうか?」
「は、はい!」
 逃げ出した八百万へ追撃を仕掛けようとする送り狼へ矢を撃ち込みながら、敵の出方をうかがっていく。

●夏祭り前の大掃除
 イレギュラーズを集めたアナイス(p3n000154)は直ぐさま依頼の要件を伝えていた。
「夏祭りの最中ですが、高天京の中で妖が出現しました」
 そう言いながら、3体の妖怪の情報が書かれた資料を君たちの方へ差し出していく。
「3匹は外見や行動から送り狼、毛倡妓、槍毛長と推察されます。
 まったくの別種の妖怪が3体……何故これらが同時に高天京で出現したのかは分かりませんが、
 各地で起きている同系統の話から推察するに、恐らくは魔種が仕掛けた呪具から出現した物と思われます」
 天香・長胤が『巫女姫』のご慈悲と評して『妖避けの祭具』を民草に配布した物が呪具の類であるという情報は確かだった。
 恐らくはこの3体が生じた物もそれらの祭具――あるいは呪具の一つなのだろう。
「現在、以前にもイレギュラーズに救援を要請してきた光焔 桜さんが足止めをしているようです。
 至急、そちらへ向かってください。
 桜さんの武器は弓、射程を考えれば3体を足止めするのは容易ではないはずです」
 その言葉を聞き終えるのとほとんど同時、イレギュラーズはすでに走り出していた。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。

えらいこっちゃでございますね。
こちらの依頼では複数体の妖怪達の撃退をお願いします。

●オーダー
送り狼、毛倡妓、槍毛長の討伐。

●戦場データ
高天京の一角。見晴らしがよく、戦闘に支障はありません。
ただし、避難はまだ完了しておらず、人々が多少は見受けられます。
誘導するもよし、3体に皆さんで張り付いてしまうもよし。
安全を期するならば、誘導をした方がよろしいでしょう。

●敵データ
【送り狼】
2mほどの大きさをした狼型の妖怪です。
体勢を崩した者(乱れ、崩れ、体勢不利)に対して優先的に攻撃する性質があります。
高反応、高回避、物攻型。

<スキル>
・呪牙:物至単 威力中 【猛毒】【呪い】
・呪爪:物近列 威力中 【呪縛】【呪い】
・突撃:物遠単 威力中 【万能】【飛】【崩れ】【移】

【毛倡妓】
大量の毛髪で容貌が良くわからない女の妖怪です。
神攻、高命中型。

<スキル>
・呪髪貫:神遠貫 威力中 【万能】【体勢不利】【不吉】
・呪髪帯:神遠範 威力小 【万能】【体勢不利】【呪縛】
・呪髪刺:神至単 威力中 【呪い】【呪縛】【崩れ】

【槍毛長】
片手に軽槍、片手に小槌を握る男の妖怪です。
物、神両面、バランス型。

<スキル>
・呪槍撃:神中貫 威力中 【万能】【ショック】【致命】
・呪槌撃:物至単 威力中 【不運】【呪縛】
・呪双連:物中単 威力中 【致命】【呪縛】【連】

●味方NPCデータ
『桜の歌姫』光焔 桜(こうえん さくら)

ユーリエ・シュトラール(p3p001160)さんの関係者さんです。
前回、桜の歌姫、奏でるは月の夜の夢(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3609)での作戦の後、
嫌な予感がすると都に来ていましたが、その予感が的中してしまいました。
イレギュラーズの到着時、既に会敵済みであり、消耗が見られます。

戦闘においては『例えどんなに遠くにある的でも正確に当てる』と評される弓の腕を武器に、
中~超遠距離までをカバーする他、歌によりバフ、ヒールを行なってくれます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <禍ツ星>桜の歌姫と高天の三妖完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年08月05日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
蔓崎 紅葉(p3p001349)
目指せ!正義の味方
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
ヴァージニア・エメリー・イースデイル(p3p008559)
魔術令嬢
三日月 杏(p3p008721)
月の巫女

リプレイ


(……もうじき、先程の人が神使の方々に連絡を入れてくださったはず……
 なんとしても保たなくては……)
 桜は今日何度目かになる矢を空に向けて放った。
 桜色の輝きを引いた矢が送り狼と槍毛長を巻き込んで降り注ぐ。
 しかし、送り狼の方には当たらない。
 ぐるると呻く狼に意識を向けながら、足元に近づいていた毛髪を跳んで躱す。
 その身体は少なくない傷が増えていた。
 そんな桜の視界に彗星のごとく少女が現れ、毛倡妓めがけて突撃した。
「さぁ、地獄で閻魔様に懺悔する言葉は用意してますか?」
 衝撃のあまり蹲る毛倡妓へそう告げたのは『目指せ!正義の味方』蔓崎 紅葉(p3p001349)だ。
 グローブをはめなおして構えを取れば、呻くような声で毛倡妓が彼女を見据える。
「お祭りを楽しみにしている人達の邪魔をしようなんて許せない!
 貴女を抑えるのが私の役目! 自由にさせるわけにはいかないよ!」
 紅葉に続くように毛倡妓の前へ立ちふさがった『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は本の形をした魔導器を起動させる。
 天使の羽根の舞い散る美しき風景のその中心で、スティアは魔術を行使した。
 花開くは美しき純白の花。終焉を齎す氷結の花である。
 毛倡妓の命を映した花は、どこからともなく吹き荒れた風に煽られるように舞い踊りながら散り始めた。
 胸元を押さえた毛倡妓が発狂し、スティアに憎悪に満ちた視線を向ける。
 スティアはそれに合わせるように意識を毛倡妓に集中させた。
「――化生共、次の相手は私達です!」
 威風堂々名乗りを上げた『月下美人』久住・舞花(p3p005056)は特に視線を槍毛長へと向けた。
「むむ、娘、腕利きのようだな……よかろう、お相手いたす」
 そう言った槍と小槌を握る男――槍毛長がぴょんと高く跳躍し、そのままの勢いで舞花の眼前に立ちふさがる。
(……槍毛長は確か槍の付喪神の一種。
 槍と小槌を持った妖怪……成程、確かに槍毛長と呼称するに相応しい)
 神速の突きが走る。舞花は自らの身を躍らせて穂先から離し、強かに打ち据える柄の部分を愛刀と合わせて防ぎながら間合いを詰める。
 反撃に撃たれた紫電迸る剣閃が微かに槍毛長を裂いた。
「以前よりも強力そうなのが三体も……それにまだ逃げ遅れている人も沢山!
 私は、あの送り狼を相手します!」
「ユーリエさん……! 神使の方々ですか!」
 体勢を立て直した桜の方へ『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)が駆け付けると、桜がほっとしたような声色で言う。
 ユーリエはヴァルハラ・スタディオンで自らに一時的な大幅強化を齎すと、手を送り狼の方へ向けた。
 濃密な鉄の匂いと鮮血のような魔力があふれ出し、やがて赤黒い血の鎖となって送り狼へと駆け抜ける。
 送り狼も自らの回避能力を駆使して逃れようとしたが、尋常じゃないほど研ぎ澄まされたユーリエの正確な魔力コントロールもあり、ぴしりと縛り付けられる。
「一人で三体の妖怪を足止めするなんて、すごい人だね……見習いたいな、その強さも、心も」
 駆け付けたマルク・シリング(p3p001309)は桜の下へ。
 そのまま大天使の祝福を齎し、彼女の身に刻まれた多数の傷と状態異常を治癒していく。
「いえ、私があれを抑えていれば貴方達がきてくれると信じていましたから」
 そう言って微かに笑みを浮かべ、女性が静かに立ち上がる。

「あのよくわかんないやつらはこっちで押さえてるわ。今のうちに逃げなさい、早く!」
 怯える民衆を叱咤する『木漏れ日妖精』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)はその一方でこの戦場に残る僅かな精霊達に声をかける。
「お願い、この混乱の地にまだ残ってくれているのなら、助けてほしいの」
 そう言われた精霊たちが微かな輝きを見せながら人々を安全な地へと照らしていく。
(それにしたって、一人で足止めなんて……かっこいいことするじゃない?
 気に入ったわ、手伝ってあげようじゃない!)
 ちらりと桜の方を見て、オデットは微笑を浮かべる。
(妖から民を守り、桜さんの手助けをする……初戦を飾るにふさわしい舞台です。
人に仇なす妖は一欠片も残しておけません……月の神の名の元に……ぶっ潰して差し上げます)
 やる気を見せる『月の巫女』三日月 杏(p3p008721)だが、その一方で彼女は自らがまだ非力であると考えていた。
 前線はひとまず仲間たちに任せて、杏は逃げ遅れた人々の救出に集中していた。
「そこのおねえさん、大丈夫ですか?」
 屋台の陰に隠れていた20代の女性を人助けセンサーで見つけ出せば、直ぐに彼女に逃げてもらえるように声をかける。
(桜様はまた無茶をなさっておいでなのですね……
 人々を護るのは構いませんが、自らの身も案じていただかなければ……)
 以前にも同じように桜が先行していた案件を知る『魔術令嬢』ヴァージニア・エメリー・イースデイル(p3p008559)はそう考えつつ人々の誘導に当たっていた。
「皆様、落ち着いて避難してください!
 私たちがお守りしますから、ゆっくり、落ち着いてお逃げください」
 超聴力で周囲の状況をつぶさに聞き取りつつ、少女の叫びは続く。


「おっと、私を忘れちゃこまりますねぇ」
 紅葉は疾走して幾度目かとなる拳を敵目掛けて叩き込んだ。
 青き彗星の如き猛攻が槍毛長の身体をぐらつかせる。
 そのまま後退して身を隠そうとした紅葉だったが、見晴らしの良いこの戦場において容易く身を隠せる場所などそうありはしない。
「くはははは! 強烈な一撃の割には――逃げを打つにはいささか速すぎるな」
 返すように放たれた強靭な槍さばきが腹部を貫き、直後には小槌による殴打が貫いた槍を更に深く抉り取る。
 致命的に開いた傷と、行動を阻害する呪縛が身体を締め付ける。
「――さて、儂から倒すのであろう? いざや次の者は誰だ」
 泰然と立つ妖がぎらりとイレギュラーズを見渡した。
「それじゃあ、私がお見舞いしてあげるわ!」
 フォールーン・ロッドを握るオデットは自らを中心に魔方陣を多重展開させた。
 種別、属性様々な魔方陣に収束した魔術が一斉に放たれる。
 それは多段的に槍毛長へと叩き込まれていく。
 紅蓮の炎が、苛烈な毒の霧が、空気を奪う呪いが、一条の雷撃が、連続して撃ち込まれていく様は圧巻というべきか。
「くはははは! 見事な手腕よ!」
 土埃舞う戦場の奥で敵がそう笑っているのが聞こえてきた。
「さあ……潰れて、月神様の元へ召されるのです……」
 杏は敵を見ながらぎゅっと霊樹の大剣を握り締める。
 生命力に満ち溢れたファルカウの加護深き大剣は薄く光を帯びている。
 振るわれた小槌を霊樹の大剣を盾代わりに防ぎ、そのまま勢いに任せるように叩きつける。
 強烈な反撃の一撃が強かに槍毛長を痛めつける。
「くははは、面白い、面白いな!
 まったく、こんなところでこの数の兵どもと争えるとは!
 我が槍が震えておるわ!」
 らんらんと輝く敵の瞳はまるで戦意を失っていない。連撃と猛攻に確実に傷は増えているのにもかかわらず。
 ヴァージニアはその様子を見つめ、魔導書を媒介に魔力を乗せた超えて号令を発した。
 最も長く槍毛長を抑えていた舞花や、紅葉の状態異常を回復させる号令である。
「――これで決めましょうか」
 舞花は愛刀を鞘におさめた状態で敵に至近する。
 バチバチと放たれる紫電が鞘におさめられた刀身を鮮やかに彩る。
 槍毛長もそれを流石の手さばきで防ごうとするが、刀身を爆ぜる紫電がその肉体を焼きつける。
「はっ――やりおるわ……」
 ぽたりと血が流れ出る。ゆっくりと後退した槍毛長の身体が、不意に文字通りに崩れ落ちた。
 まるで土くれか、そうでなければ煙かなにかのように四散した。

 ――槍毛長の消滅と同じころ
 スティアは毛倡妓を真っすぐに見据えてセラフィムの能力を展開する。
 ふわふわと舞い散る天使の羽根に指向性を持たせ、手を毛倡妓へ向ける。
 舞い散る魔力の残滓が鋭利な刃となって毛倡妓を切り刻み、焼き払う。
「ぁぁあぁぁあ!!!!」
 悲鳴とも雄叫びともつかぬ声を上げる毛倡妓の髪が針か何かのようになってスティアを貫かんと迫る。
 スティアはセラフィムを握る手に力を籠めた。舞い散る花びらが微かに盾のようになってそれを防ぎ、威力を殺す。
 ユーリエは後ろに向かって跳躍する。
 尋常じゃない速度を有する狼の攻撃はしばしば英霊の籠を越えてくる。
 それを血の鎖で何とか捌きながら、ユーリエは拳銃を核に形成した弓に意思の力を収束させる。
 神秘術式の加護を得たまま、弓を引いた。
 光り輝く矢が風を切って送り狼の肩口を貫いた。
 桜が空にめがけて矢を放つ。矢は空中で破裂し、桜吹雪のようになってイレギュラーズに降り注ぐ。
 桜の花びらが触れた場所の傷が癒え、気力が充実していく。
 マルクは壁役を買って出た3人が射程に入る場所に移動して聖域を展開する。
 輝かしき祝福に満ちた癒しの領域は3人の傷を瞬く間に癒していく。

 桜の歌が戦場に響いていた。
 温かいその歌声がイレギュラーズを包み込み、温かな祝福をもたらし、状態異常と疲れを癒していく。
 毛倡妓へと仲間たちの猛攻が引き続く中、スティアはセラフィムに手を翳していた。
 構築される魔力を読み取り内包される秘められた力を放出し、魔導器が持つ力を最大限に活用する。
 舞い散る天使の羽根が輝きを増し、より鋭利に、より過酷にその力を増幅させていく。
 それはまるで天使からの宣告であるかの如く、毛倡妓へと放たれた魔力の残滓は彼女の髪を切り刻み、その容貌を照らし出す。
「ぁああぁぁ!! 見るなぁ! 見るなぁぁぁあ!!!!」
 落ちくぼんだ瞳をした痩せこけた女の顔が歪む。
 放たれたのは束ねられた髪の束。
 遠くまで伸びるそれを断ち切った舞花はそのまま毛倡妓へと刀を走らせる。
 まっすぐに伸びた一刀がその身体を切り裂いた。
「妖精お得意のいやらしい魔法を喰らうがいいわ」
 毛倡妓と送り狼の立ち位置が変化し、ちょうど巻き込めるような位置へと移動したその瞬間、オデットは魔力を込めた杖を地面に突き立てた。
 それは熱砂の精を呼び寄せる魔術。
 ふわりと出現した1つの影がぐるぐると回転を始め、2体を巻き込む砂嵐となって戦場を包み込む。
 ヴァージニアは魔力を込めていく。
 魔導書を媒介に最適化させたそれは魔力を純粋な破壊力としてぶつける魔術である。
「例え他国の民であろうとも、無力な者を死なせるわけにはいかないのです。ここで消えてもらいます」
 可視化できるほど高密度に形成されたそれを放出すれば、毛倡妓の髪を焼き切りながら迸る。
「あぁぁああぁあああ――――私の髪がぁ」
 杏は毛倡妓の前へと身を躍らせた。
 足元に広がる毛髪に足を取られながらも、お返しとばかりに叩き込む一撃が更に毛倡妓の髪に傷を付けた。
 送り狼が雄叫びを上げる。
 疾走した身体がユーリエへと叩きつけられ、その身体が後ろへと吹き飛ばされた。
 ユーリエの身体に刻まれた傷は少なくない。
 怒りの付与もあって引きつけこそ成功しても、高い反応速度によりほぼ常に先手を取られていたのが主な要因といえる。
 回復体制が整っていなければ、危険な状況に陥っていた状況もあったが、充実したサポート体制が彼女を救っていた。
 どこからか取り出したショートケーキを口に放り込む。
 甘い生クリームとふんわりとしたスポンジが口の中で踊り、疲労感に落ちていた集中力を取り戻す。
「気を取り直して……貴女は私がお相手し続けます」
 真っすぐに見据えた双眸に気力を充実させ、再び形成した血の鎖を狼へと迸らせる。
 身体をぐるぐると抑えつけられた送り狼の視線は常にユーリエの方に集中していた。
 マルクによって形成された聖域の輝きがそんなユーリエやスティアーー壁役を担っていた2人の傷を大きく癒していく。
 殆ど最前線で行なわれる安定したマルクの支援は戦線の確保に何よりも寄与していた。


 戦いはいよいよ終盤といえる状況にあった。
 毛倡妓が地面に倒れ、髪の沼の中にとけるようにして四散し、敵は送る狼一匹になっていた。
 桜色の矢が一本、送り狼へと放たれた。
 精密なコントロールで放たれ、まっすぐに駆け抜けたその矢は送り狼の身体に突き立ち、動きを阻害する。
 ユーリエの下へ駆けつけたスティアは縛り付けられた送り狼へと天使の羽根の如き魔力を放ち、浄化の炎を巻き上げた。
 舞花は送り狼の下へ走り抜ける。手に握る愛刀を鞘におさめ、踏み込みと同時に居合の要領で剣を走らせた。
 まっすぐに駆け抜けた紫電の太刀を受けて送り狼が悲鳴を上げた。
 オデットは自らの集中力をもう一度高めると、再び魔方陣を多重展開する。
 怒涛の如く放たれた連続する魔術に送り狼がたたらを踏む。
 杏はそんな仲間たちの猛攻の合間を縫うように走り、シールドバッシュを叩き込む。
 ちょうど身体を横に向けて隙を見せていた狼へと刻まれた傷は決して浅くない。
 ヴァージニアはユーリエの方へ手を翳す。
 浮かび上がった魔方陣から放たれた輝きがユーリエの傷を癒していく。
 ユーリエは深呼吸と共に恐らくは最後になるであろうヴァルハラ・スタディオンを自らにかけた。
 手に握る銃に自身の意志の全てをかけていく。
 あふれ出した意志の力がまばゆいばかりの輝きへと変質していく。
 炎神が如き光輝の全てを矢に収束させ――放たれた。
 まっすぐに突き進んだ光の矢は送り狼の脳天に直撃すると同時に炸裂し、その肉体を吹き飛ばした。


 ――ぴしり、音が鳴る。
 オデット、スティア、マルクの3人は妖怪たちが呼び出された状況から推察した位置にて鎮座する1つの宝珠を見つけていた。
 禍々しいオーラを放つそれがただの祭具などであるはずもなく、持ち帰ることができれば何より――そう思っていた。
 しかし、宝珠の方はまるでイレギュラーズの手に渡ることを畏れるかの如く内側から罅割れ――パリンっと音を立てて周囲へと四散した。
 これではとてもじゃないが宝珠の事を探るのは難しい。
 ユーリエは桜の下へと駆け付けていた。
「桜さん、またお一人で頑張って持ちこたえてくれたんですね。
 そういったお姿が鬼人種への意識を変えるかもしれませんね!
 私も何かお手伝いが出来ればよいのですが……」
「いえ、本来なら私の役目でしょうから……
 私もかつては兵部省に身を置いておりました。
 民を守るのに理由などいりません」
 ユーリエに対して桜がほほえみを浮かべる。
「それに、ユーリエ様には――神使の皆様には助けられております」
 そう、かみしめるように言って、女性がユーリエを見つめる。
 祭りの囃子は近い。
 まずはこの囃子の鳴る方へ帰ろう。
 戦いで終わらせるにはあまりにも寂しい夏祭りなのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ユーリエ・シュトラール(p3p001160)[重傷]
優愛の吸血種
蔓崎 紅葉(p3p001349)[重傷]
目指せ!正義の味方

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。
お見事な連携でございました。

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