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シナリオ詳細

鳴かぬなら_______ホトトギス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●望郷
 かえりたい?

 部屋の中には、鎖につながれた妖怪が鎮座している。
 大きな亀は、肯定するように体を動かした。
 鎖がじゃらじゃらと鳴る。

 そう、かえりたいのね。
 気持ちは分かる。
 捕まって、見世物にされて、面白くもなんともないでしょう。
 でも、帰るところなんて、もうないのよ。
 それでも、かえりたい?

 がちがちと歯をむいて、妖怪は確かな殺意を向けた。
 私はとっとと、部屋を出る。

●望郷、その2
 ここはアルマジロ座。
 見世物ショーをして回る、少々うろんな旅芸人たちの一座である。
 その中で私は、ふふっ、”予言の巫女”だとかいう触れ込みで、占いという名のでっち上げをするのが仕事だった。
「あー、かえりたい」
 化け物の世話を言いつけられている下働きのガキは、仕事もせずに部屋の隅で足を抱えて土をいじくっていた。
「どうしました、サジ。何か嫌なことでもありましたか?」
 私は笑って、目線を合わせる。
 優しいでしょ?
 私は、言葉だけ丁寧だけど、内心はコイツのことを馬鹿にしきっている。甘ったれたガキ、それが私の感想だ。
「ユリ子じゃん。何? 俺はだまされないから」
 かわいくないガキだ。
「ああ、もうやだ、こんなとこ、早く出て行きてぇ」
 外へ出て行ってどうしようっていうのかしらね?
 あんた、親に売られたのよ。
 私は生まれてからずっとここだったから、ここから出たことなんてないけど、こんな環境だって、ないよりはマシ。
 縛られてないだけ、あの亀よりは、ずっとマシじゃない?
「あんたもさ、予言だ何だって言って、別に見えてないんでしょ、未来のことなんか」
 その通りだけど?
 首をかしげて微笑む。
 私には、神通力なんてものはない。
 でもね、そうしないと居場所はないんだよ。
「わかりますよ」
 そう、どれだけ取り繕ったってこれだけは分かる。
「あなた、このままだと死にます」
 サジは引きつった顔を見せた。

●道行く旅芸人
『豊穣郷』――神威神楽(カムイグラ)にて。
 道行くイレギュラーズは、賑やかな旅芸人の一行と出くわした。
「さあさあ、よってらっしゃい見てらっしゃい、他じゃ見れない一夜の夢。
 火を噴く男に、予言の巫女だ!
 達人鬼人の剣舞はいかが?
 さあさあ、そこの旦那方、お嬢様方。いかがですか、本日の目玉は大妖怪!
見なきゃ損、見なきゃ損だよ!」
 アルマジロ座、と名乗る一行は、どうやら、見世物の呼び込みをしているようだった。
「あら、……神使様ですか」
 一座の一人とおぼしき少女が首をかしげた。
「ぜひ、いらしてください。今日はきっと面白いものが見れますよ」
 不思議と引っかかる物言いに思えた。
 少女の渡したチラシには。
『ー』
 横一文字に、真っ赤な線が引かれていた。

●フェイクショー
 単に楽しみに来たのかもしれないし、少女の態度がひっかかったのかもしれない。
 ともあれ、夜。
 イレギュラーズたちはアルマジロ一座の巡業の見世物小屋へとやってきた。
「おい、よく見えないぞ!」
「押すな、押すな」
 たきしめられた、妖しげな香の匂い。
 意図的に絞られた灯りの下。
 奇妙な風体をしたものたちや、一芸を持った人間が技を披露している。
 剣を飲み込む男や、火を噴く男。
 ……なんて、この世界では別に珍しくはないかもしれない。
 ”奇妙な見た目をした者”というのも、たまたまバグ召喚されたよそものであったり、単なる芸達者であったりする。
 未来を見通すという占いも、ちょっと勘の良いトリックだった。
 いわゆる、コールドリーディング。相手の反応を見て、言い当てているかのような様子を見せているだけだった。
 目の肥えた者には、単なる取るに足らないフェイクである。

 しかし、ホンモノの脅威もある。
「う、うおおおおおお…………動いた」
「今日の目玉は、なんと1万年生きたと言われる、此岸ノ辺の化け亀だよ!」
 5mはあろうかという巨大な亀が、鎖につながれ鎮座している。
「大の大人が10人がかりで捕まえた妖怪さ。さあさ、寄っておいで、見ておいで!」
 ガキン。と、牢屋に噛みついた。
「ひい!」
「どうですどうです、すごいでしょう! さあ、もっと前へ。どうぞ!」

GMコメント

●状況
 見世物にやってきたイレギュラーズ。
 案の定ですが、化け亀が暴れだしますよね。
 化け亀の退治が目標です。

●登場人物
・予見の少女(ユリ子)
 半紙に占い(予言)を綴る少女。
 生まれてから一座で過ごしています。
 穏やかに見えますが、内心は苛烈。
 相手の反応を伺ってそれっぽいことを言っているだけで、未来余地の力はありません。
 意味ありげなもメッセージを渡したことについても首をかしげるのみです。

 真意としては、甘ったれたガキ(サジ)がなにかやらかすのを感じ取り、たまたま通りがかった腕の立ちそうなイレギュラーズを頼ったというところでしょうか。
 サジについてはちょっと痛い目に遭えばいいのに、と思っています。さすがに死ねとまでは思っていませんが。

<占い>
 それっぽい占いを出力してくれるかもしれません。
 内容はプレイング指定可能。
 なぜか占い不能、などお好きにやっちゃってください。
 おまかせの場合はPC設定からそれらしい紙を出力しますが、プレイングで指定しなければ知らないことは知りません。(例:大切ななにかを失ったとか、辛いことがあったとか、生きていたらありそうなレベル)。

・サジ
 つっけんどんな少年。
 最近アルマジロ座に加わったばかり。
 イレギュラーズには無愛想に接するが、珍しいものが好きで、内心はイレギュラーズの生き方に憧れています。
 この一座は良くも悪くもパッとせず、インチキじみているので、ホンモノの憧れる対象は居ないと思っています。
 ショーの最中に化け亀の鎖を解き放とうとしています。騒ぎに乗じて逃げ出してやろうと思っています。
 それが引き起こす重大さを知らない幼い少年です。

 彼がここにいるのは口減らしのために親に売られたからです。
 おそらくこのまま逃げたとしても、行くあても食うあてもなく、よい結末は望めないだろうと思われます。
 どう導くか、あるいは放っておくのかは自由です。

・アルマジロ座と座長
 相応に金にがめつく、また、相応に横暴ではありますが、行き場を失ったはぐれものたちの居場所でもあります。こき使ってはいるけど。

●敵
<千年亀>
 大妖怪といっているのは口上で、せいぜいが巨大化した亀といったところ。
 防御力が高く、甲羅はダメージの一部を跳ね返す。
 また、攻撃は客にも無差別。
 噛みつかれるとかなり厄介。

 凶暴であり、和解は叶いません。逃がしても二次被害を生むだけでしょう。
 命が潰えようとしていることを悟ると、故郷のあった方か、水場を求めて這い、息絶えます。故郷を思ったのかもしれない。

●流れ
・事が起こるまで、若干の猶予があります。
 楽しみましょう。
・ステージでゲストとして一芸を披露することもできます。
・サジの様子を悟って、止めることはできますが、化け亀はすでに手に負えない状態であり、暴れ出すのも時間の問題です。
 そのうち、鎖を引きちぎって暴れ出します。
・ただ、サジを上手く止められたら鎖はついたままのため、客が逃げる猶予も生まれることでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 ひっかけはないのですが、まあ嘘というか、依頼の全貌を言わないのは不親切ですね! そういう意味です。

  • 鳴かぬなら_______ホトトギス完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月28日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
彼岸会 空観(p3p007169)
鏖ヶ塚 孤屠(p3p008743)
日々吐血
無明(p3p008766)

リプレイ

●アルマジロ一座
「へえ、ショーハウスかい? せっかくだし見ていこうか、騒がしいのは好みなんだ」
『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)は白い歯を見せて笑う。
「……正直、嫌いな催しなのですが。何故だか胸騒ぎがするので、ちょっと立ち寄ってみましょうか」
『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は頬に手を当てて、ため息を一つ。
「格別な意図がなければ、こんな変なサインを客引きには使わないでしょうし」
「まあ、少なくとも行って退屈するということは無さそうなのです」
『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は招待状を指ではじいた。
 かくして、イレギュラーズはアルマジロ一座にやってきた。

 火を噴く芸人。
 火力は弱く、黒煙が多い。
 分かっていない。そうではなくて……。
 クーアは少し距離を置いてこの喧騒を眺める。
 やはり、騒がしいところは好きではない。

 次の演目は怪力男。
「ミーにもできそうだな」
 思いがけないゲストの登場に、観客は沸き立つ。
「目立つのは大好きなんだ、分かるだろ?」
「待って下さい、あれはもろく作ってあるんです。仕込みがないとケガをしてしまいます!」
「ノープログレム!」
 貴道は拳を構え、振りぬいた。
 刀剣が真っ二つに割れる。
「ミーの拳に半端な刃物なんざ通らねえしな、HAHAHA!」
「こ、これは?」
 客席から持ち込まれた小刀。
「ふんっ」
「うおおおお!」
 場は沸き立ち、コールが響き渡る。
 この後でか……とひきつった顔を浮かべている芸人に、貴道はサムズアップをする。
 何事も挑戦だ。
「では、私が」
『鏖ヶ塚流槍術』鏖ヶ塚 孤屠(p3p008743)が舞台へ上がった。
「何でもいいので硬い物を持ってきてください! その全てに大きな穴を穿ってみせましょう!」
 鍵槍が、投げられた皿を貫いた。皿は砕けず、ただ、一点を貫いてそこだけが欠けた。
 針の穴を通すような芸当である。
「ど、どうなってるんだ!? 仕掛けがわからないぞ!」
「うおおお、ご加護があるに違いない!」
「あっ、私のだぞ!」
 武器や皿の破片を、客が取り合っている。

『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は機械の両腕を組んで座った。
「楽しんでいただけていいるといいのですが」
「悪くはない」
 キラリと光るオッドアイ。ゼフィラの瞳は美しい。
「知らぬ景色が見えます。多くの道を自らの力で切り拓いてきたのでしょうね」
 ユリ子はするすると書をしたためる。
「私に不可能はないからな」
「……先へ先へと、止まることはないのでしょう。新たな景色がお待ちですわ」
 ゼフィラはきっと自分が見たこともないようなものを見るのだろう。

「未来予知! そんな芸当が出来る方がいるなんて!」
 孤屠はウキウキと占いの席に座る。
「でしたら占ってもらいましょう! 題目はそうですね、「私は長生きするか」。本当に気になるんでグエー」
「ひあああ!!」
 孤屠は吐血し、占いの半紙が赤に染まる。
 ……。
 ややあって。
「コホン。……な、長生きでしたか……」
「はい!」
 にこにこと返答を待つ孤屠。
「戦うのを、おやめになるつもりはないのですね?」
「これでもずいぶんと……楽になったのですよ」
 ユリ子は少し考えるそぶりを見せる。
「満足のいく生ではあることでしょう」
「つまり長生きできるでしょうか? うれしいですね! ゲホッ」
 慌ててたらいを配置する。

「HAHAHA、なにやら血の匂いがするな! ファイトでもあったのかい?」
「いえ、そういうわけでは」
 次にやってきたのは、貴道だ。
「こういうのは何を言われるか分からないのが面白いよな。ま、何を言われたところでミーは何も変わらない。我が道を行くのが、この郷田貴道だからな、HAHAHA!」
 なるほど、先ほどのステージの喧騒っぷりはここまで聞こえてきていた。
 あれはどういう仕組みだい、と客から尋ねられて、さあ、とごまかしたばかりである。
 貴道の傷だらけの拳は、まるで金剛……いや、それ以上のものに思われた。
「争いが多く見えます。しかし、それは誇りある戦いでしたね。……『待ち人来たり』とありますわ」
「チャレンジャーか? 待つのは性に合わないな」
 貴道の頭に浮かぶは強敵の姿。
「いいかい、未来を選ぶのは自分自身なのさ!」
 ああ、強い人。
 あの子にも聞かせてやりたいとユリ子は瞑目する。
 覚悟も、今までくぐってきた修羅場の数も違う。

 明かりを落とした占い小屋。
『Knowl-Edge』シグ・ローデッド(p3p000483)が柔和な笑みを浮かべる。
「あなたは、本当は誰よりも心優しいのでしょう。世界の悲劇に、心を痛めておりませんか?」
「そう見えるだろうか?」
 ユリ子はわずかに眉を下げた。
 底知れない深み。
 たやすく読み取れたかに思えた印象が、暗がりに紛れる。
 先ほどまでの空気はもうそこにはなく、優し気な青年はいなかった。
 怜悧な声。
 作ったものであったのだと気が付く。
「成程。『知識』は得させていただいた。感謝である」
(あら、見抜かれてしまいましたか……)
 この場を乱さず立ち去るのだから、筋を大切にする人物ではあるのだろう。ただ、理が違うような、不思議な感触。

「少々迷ってしまいまして」
 ヘイゼルが迷ったというのは建前であり、内部を見回っていたというのが正しい。
 順路などを悠々と回って、あらかた構造を確認し、ついでに占いというわけだ。
「あなたは、特別な力をお持ちですね」
 当たり障りがなく、客が喜びそうな言葉。
 ユリ子はそういった言葉を舌に乗せてきた。
「おや、私はただの旅人ですよ」
「大切な相手がいらっしゃいましたね?」
 なるほど、とヘイゼルは思った。
 答えは重要ではない。
 答えたことそのものが、このショーがまやかしだということを示している。
 視えているのであれば。
 ヘイゼルの正体はComplex Ω<参照することができない>。
 故にこの目の前の少女は、本物の神掛かりに非ず、というわけだ。
「ありがとうございました」
 種を明かすような野暮はせず、ヘイゼルは黙ってその場を去る。

 次のお方。
 呼ぶ前に、部屋の中には男がいた。
 暗がりから、まるで最初からそこにいたかのようにだ。
「……あんたには、俺が何に見える?」
 14歳くらいの少年、だろうか。
 ユリ子は、小さく息をのんだ。
 少年……サファーは死と血の匂いを強く纏う。
 なんとか動揺は表には出さなかったと思う。ただ、心臓は早鐘のように早く打っていた。サファーはそれを見抜いているようだ。
「へぇ。お姉さん中々胆力あるじゃん」
 この場で見抜かれているのは自分の心か。
 自分自身を見透かされるのはげに恐ろしきことなのだ。
「誰かを『憎い』と思うなら、憎しみと共に俺の顔を思い出せ。俺はそこに――現れるからね」
 憎しみ。
(私があの子に抱いているのも……そうなのかもしれません)
 サファーが去っていってからも、しばらくぼうっとしていた。
 自分は、恐ろしいものを呼び込んだのかもしれない、と。

●迷う少年
 一人の少年が、テントの裏でサボっている。そこへ、クーアはひょっこりと姿を現す。
「な、なんだよ……」
(帰り着く先が他にないのと、そこが帰り着く先として良い場所であるというのは全く別の問題……)
 クーアの瞳に、一瞬、美しい炎が浮かぶ。
(ええ、私はサジさんを責める気にはなれないのです)
 炎の景色、美と救済。
 だが、浮かべた景色はかき消える。

 慰めなど、おそらく意味をなさない。
 ヘイゼルはただ、サジを一瞥するのみだった。
(親に棄てられたという身の上が何かの言い訳になると考えているのでしたら、今回を抜けても先は知れておりますし、そのことに自力で気付けない様でも、やはり、先は知れているのですよ)
 行き着く先は、袋小路か。
 それとも、道を拓いてやればそちらへ行くだろうか。

●鉄錆
「剣を呑んだり火を噴いたり! こうした芸は見ていて楽しいですね!」
 孤屠は拍手をする。2度ほど吐血し、騒ぎになりかけたが、本人があまりにけろりとしているため、「そういう見世物では?」と思われているようである。
 ガキン、と何かが鳴り、孤屠はとっさに袖を引っ込めた。
 千年亀が、檻の中からかちかちと歯を鳴らしている。
(……これが目玉でしたか。暴れたりしません?)
 いい気味だとでも言いたげに見ているサジ。孤屠がつかつかと歩いてきたのは予想外だった。
「危ないですよサジ君。ほら、見てくださいあの亀の動き。本気で人を嚙み殺す勢いですね。例えばサジ君ならひとたまりもないです」
「そ、そんなヘマは」
 しねぇよと言ったのと同時に孤屠が吐血した。
「う、うわああああ!」
 赤い鮮血の水たまり。
 孤屠の細い手が、がしりとサジの手首をつかんだ。
「気を付けてくださいねサジ君。行動というのは責任が伴うものです、その結果がどうであれ」
 思った以上に、強い力だった。

「やれやれ」
 一仕事終えて戻ってきてみれば、無明(p3p008766)が、サジのいつもの息抜き場所にいた。
「あんた誰?」
「名前はない。強いて言えば、必要なときは”無明”と」
 少年の顔に少し驚いた様子が浮かび、納得したようだった。ほんの少しの仲間意識、だろうか。彼もまた一座から名前をもらった。
「ここはつまらないかい?」
「せまいしさ、自由じゃない」
「うちには、ここの一座はけっこう、すごいと思うけど。芸は身を助く。少なくとも、ここは生きるために、頑張ってる」
「頑張ってるだけだ」
「でも、獄人のうちじゃ、芸を覚えても誰も笑ってくれないしねぇ」
 少年の視線が揺らぐ。
「海の外から来た神使たちはすごいよね。色んな冒険して、危険を止めて。嫉妬するくらいすごいよ」
「ずるいよ」
 ぽつりと漏らされた言葉。
 無明は、サジの頭をぽんと叩く。
「考えて」
 時間はあげるから、と。

●鎖は放たれ
「さて、珍奇極まりない『剣となる人』、見て見たくはないかね?」
 タイミングをみはからい、ステージに立ったのはシグだった。
「アレだろう、剣みたいにスパスパ何かを斬るんだろう。鬼人だってほら、武器を出すだろう」
 シグの体が、文字通り刃へと変わる。
 美しいひと振りの剣。驚愕のため息があちこちから漏れた。
「文字通り、種も仕掛けもなく……検証してみたい者は後にするがいい」
 ステージはまさに最高潮。
 次の出番は、千年亀。

「亀を放つのですか?」
 少年の後ろに、彼岸会 無量(p3p007169)が立っていた。
「止める? 否、好きにすれば宜しい」
 手には外れかけた鎖。
 あの血を思って、足がすくんだ。
「但し逃げるのは自分が何をしたかを見てからになさい」
 迷っているうちに、亀が緩んだ鎖を引きちぎる。
 千年亀が首を振り上げた。
「まずいね、あの妖怪が牢屋を破る。直ぐに離れ給え! この場は我々が受け持つ!」
 素早く観客と亀の前に立ったのは『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)。客が異変に気が付いたよりも、その声の方が早い。
 観客はどよめいた。
 どうやらホンキだと分かると、一斉に逃げ出す。
「さあ、存分にやってくれ!」
 ゼフィラの保護結界があたりを包み込む。
「よっと」
 クーアのふぁーれ。
 こげねこメイドの光弾が亀の注意を引いた。
 のろまな動きは、クーアには止まって見えるくらいだ。
 黒色に輝くプラズマ砲。一撃が甲羅に焦げあとを残す。クーアは弾かれるように距離をとった。
 避難の最中、ユリ子は、その目を見た。
 無量の額の目を。
 射貫くような目を。
 見抜かれることは、かように恐ろしい……。
 無量は観客が逃げる方向とは逆方向へと走る。
「HAHAHA、デカい亀だな! 食ったら美味そうだ!」
 貴道は正々堂々、拳を打ち鳴らし、腰を落とした。
 痛打。
 小気味の良い重低音が、鐘のごとく響き渡る。
 あの巨体な亀が反動で後ろにずり下がっている。
「うわあっ、すげえ!」
「馬鹿、止まるな!」
 一瞬、歓声が悲鳴を凌駕した。
 応えるように貴道が連打を加える。
 亀が首をもたげる。
「出口はこちらではない。戻り給え」
 シグのショウ・ザ・インパクトが、亀の巨体を吹き飛ばした。
 時間を稼いで惹きつけるに十分。
 ヘイゼルの朱い巣。甲羅の隙間の隙間を縫って。一撃、当たらなかったと思うや否やその軌道は残像を残してぶれ、確定した結果だけを残す。
 シグが悠々と舞台から降りる。
「さて、ロックさせてもらうとしよう」
 空間がゆがむ。黒い剣が幾重にも重なりあい、亀の動きを封じ、狂気を駆り立ててゆく。
「ひ、ひい」
 ふらつく座長を、すかさず無明が支えた。
「とっとと逃げろ! ここの長なら、それくらい出来るだろ! 今は、命だ」
 座長はようやく我に返ったようだ。
「やむをえないか。おい、サジ!」
「あ、お、俺は……」
「話はあと、立てるなら避難誘導だ。できねぇならガキは引っ込んでろ!」
 無明が狙うのは、甲羅に覆われていない箇所。
 狙いすました一撃が、柔らかいところをとらえた。
「さあこっちです、サジくん!」
 ぴゅう、とアニキカゼが吹く。孤屠は、しっかりと立っている。
 サジは、足がすくんで動けない。

●攻防
 まず結果だけがある。
 ゼフィラによって、亀が大きくのけぞったという結果。
 まず光が、そして音。
「さあ、あとはキミだけだ」
 観客が避難し終えたところで、ゼフィラのゼフィロスフロースが一瞬、着地のために加速を解いた。
「いきますよ」
 クーアが、再び黒炎弾をぶつける。亀が振り向けど、そこにはもうクーアはいない。めいど・あ・ふぁいあの残像があるのみ。
 ヘイゼルは、千年亀から目をそらさない。
 顎の力、振るわれる一撃を、華麗に避けた。ヘイゼルの指輪から紡がれる魔力糸が、再び亀を捕らえる。
 その瞬間。無量の瞬天三段が、すさまじい早さで亀の急所をとらえる。
 反動に、立ち止まりはしなかった。
 さらなる攻勢を重ねる。
 鬼渡ノ太刀が、数多の太刀筋をみせ、いくつもの可能性を描く。
 ここだ。
 ただし反動はあるだろう。
(威力を反射されようが構わない。貴方はもう此処で死ぬしかない。だからこそ私も全力で命を賭け対峙しましょう)
 無量はその太刀筋を選ぶ。
(そしてその上で此処に居る誰一人として殺させない)
 甲羅にひびが入った。
(サジさんがこれから生きていく上で、今此処に在る事を負い目とさせてはならない)
 救うために、斬撃を振るう。
 亀の甲羅は固い。だが。
「歪曲の力と白の夢蝶の前には……その自慢の甲羅も大した効果を発揮しないとは思うが、な」
 シグの異想狂論「歪理黒光剣」。ダークマターが周囲の空間を歪める。
 それは異形の、剣技とも言い難い斬撃だった。
 その身が剣であるがゆえに、ただ斬撃だけがある。
 スローモーション。
 貴道は相手の致命的な一撃をかわし、踏み込み、一撃を加える。
 極度の集中がもたらす超感覚。
 人を超え、人智を超えた一撃が、亀の横っ面を吹き飛ばす。
「さあ、フィニッシュだ!」
 武器はその肉体と拳。鋭くとぎすまされた一撃が、槍となって亀を貫く。
(この槍術と戦うなら鎧は捨てろ)
 孤屠の鏖ヶ塚流が、舞うような足取りを踏ませる。息はあがり、体は悲鳴を上げている。けれど、戦う術はある。いま、この手の中に。
「いきますよ」
 孤屠はくるりと旋回し、一撃。
 亀を穿つ。

 ゼフィラの天使の歌が仲間を立ち上がらせていた。
 クーアの黒炎弾が飛来する。
 追う力もなく、亀の動きは、だんだんと鈍くなっていた。
「済みません、貴方の事も助けて差し上げられなくて」
 無量は謝るしか出来ない己を恥じた。
 一撃。
「けれど、その命が散る事を無駄にはさせません」
 亀の最後の猛攻をかき消す、ヘイゼルのミリアドハーモニクス。
 シグの具現された無数の白き蝶が、亀を覆った。

 それが最後の一撃だと知ると、ヘイゼルは、最後の攻撃の手を止め、見届ける。
 亀はゆっくりと体の向きを変え、静かに体を横たえた。

●後始末
「サジ、お前……!」
「違います。元々千年亀の力で鎖が千切れかけていたのです」
 クーアの言葉に、サジは驚愕して目を見開いた。
「彼はそれを止めようとしただけ。そうでしょう? 報告しなかったのはよくありませんでしたけれどもね」
「こういう時には痛い目にあって覚えるのも大事なのさ。そうだろう?」
 貴道のげんこつがさく裂する。
「これで勘弁ならないっていう奴がいるなら出てきな、罰にならないかどうか身を以って分からせてやる、HAHAHA!」
 すごい音がした。

 医務用テントにて目覚める。
 痛かった。
 そのせいか、思いのほか責められずに済んだ。相変わらず居場所があった。
「ま、今回は失敗だが、被害はナシだ。儲けものだと思っておきたまえよ」
 ゼフィラがぽん、とサジの肩を叩く。
「動く前に存分に考える事だ。自由は――同時に『自己責任』でもあるが故に」
 シグの言葉が耳に痛い。
「別に難しく考える必要はないさ。現状打破を考えるのは悪いことではない。今回の手段では駄目だっただけさ。次はもう少し考えれば良いとも」
 次なんて、考えもしなかった。
「しかし……この亀を殺したのはサジさんです。その命を絶ったのは私達ですが、その原因となったのは貴方です。亀は大人しく捕まっていれば、縛られてはいても生きて居られたでしょう」
「う…」
「いつかは帰る所等無くとも、自由になれる日もあったのかも知れません」
「それを貴方が解き放ち、殺した」
「零では無かった可能性を、貴方が殺したのです」
 無量の刺すような言葉は、必要なものだった。
 安易な行動をしたサジにとって。
「此処を出て我々の様に生きますか?」
 無量はするりと僧衣を脱ぐ。
 サジは息をのんだ。己の背中に残る凍傷の痕と胸の間に残る刺し傷。
「幾度も死を迎える心算は、おありですか? 自身の持つ可能性を殺す覚悟は、ありますか?」
 まっすぐに目を合わせ、逸らすことを許さない。
「貴方はまだ幼い。この一座で世の中を見てから決めても遅くはない筈。その答えが出るまで、ローレットは貴方の事をお待ちしておりますよ」
「で。そんな神使たちの生き方に憧れる君は、どんな生き方がしたい?」
 無明が目を合わせる。
「わかんなきゃ、まず力を付けて、カッコつけようぜ」
 何か温かいものが流れ込んでくるように思えた。
 次があるなんて思っていなかったから。

「現実とは並べて理不尽なものなのです。ならば理不尽に救われるということがあっても、たまにはいいじゃないですか」
 こげねこメイドがしれっと言った。
『世間一般で言うところの』、……クーアにとっては主観にとっては美と救済のおすそわけとして、悪行をぐるぐる振りまくクーアである。悪因悪果でことが終わることは是としない。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

鏖ヶ塚 孤屠(p3p008743)[重傷]
日々吐血

あとがき

というわけで、死人を出さずにハッピーエンドに至ったようです。
お疲れ様です!
イレギュラーズのみなさんの芸のおかげで一座は盛り上がり、しばらくはアレを見せろとてんやわんやでたいへんだったようです。
芸人も負けじと技を磨いているようです。
また、書くスペースがありませんでしたが、残った亀の大甲羅は人気を博したとか。

イレギュラーズのご活躍によって、サジも居場所を失わずに済みました。
痛い目をみたので、もうめったなことをやらかすことはないでしょう。
神使やイレギュラーズが来る度に何かと理由をつけて見に来るようになったようで、不必要に掃除を始めるので、よく邪魔だとあしらわれています。

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