シナリオ詳細
怨霊の森に咲く花は
オープニング
●二人の少女
村のはずれにある墓地。その一つの墓石の前で、二人の少女が手を合わせている。
片や、幼き童女であり、もう一人は、15、6の少女であった。二人の顔はよく似ていて、血縁関係――姉妹であることを、伺わせた。
実際、二人は姉妹である。少女の名は『すず』。童女の名は『やえ』と言う。二人は3年ほど前に母を亡くし、以来二人で暮らしてきた。村の者に手を借り、村のものの手伝いをして、何とか二人、ここまで生活していたのである。
二人が手を合わせる墓石は、母のものである。父は不明であったし、母も話さなかったから、最初からいないものとして扱った。少し寂しかったが、村の者は皆暖かかったので、辛くはなかった。
「……いこっか」
すずが声をあげる。やえは、笑って「うん!」と頷くので、すずはその手を優しく握って、手を引いた。
二人でのんびり、帰り道を行く。村の反対には、鬱蒼とした黒い森が見えて、一瞬、二人は其方に目を向けたのだけれど、すぐに目をそらした。
そこは、怨霊が住むとされる魔の森である。いや、かつてはそうではなかった。青々とした木々と美しい花が咲く、清浄なる森であった。
その森が変貌を遂げたのは、1年ほど前だっただろうか。突如として何処からともなく現れた怨霊が森を占拠し、怨霊が怨霊を呼び――今はその支配をほしいままにしている。
「おっかさんに、またお花をあげたいな。おっかさんの好きな、黄色い花」
やえが、眉を八の字にして呟く。母の好きな花。それは、今は怨霊の森と呼ばれる場所に裂く、美しい黄色い花だった。確かに、その班が咲く時期は今頃だ……だが……。
「だめよ。もうあそこの森には入れないんだから」
すずが言った。否定の言葉だったが、やえの気持ちは分かった。黄色い花は、家族の思い出でもあった。まだあの森がキレイだったころに、皆で花を摘んで遊んだ。母の笑顔を思い出せる……優しい笑顔。
「帰ろ。今日も村の畑の手伝いしないとね」
「……うん」
二人は少し足を速めて、帰路を急ぐ。
その後ろ姿を、森から見つめる気配があることに、二人は気づかなかった。
「いやぁ、長閑な村なのですね!」
『不揃いな星辰』夢見 ルル家 (p3p000016)があたりを見回しながら、そう言った。
豊穣、カムイグラ――その地勢を調べるために、イレギュラーズ達は方々の村々を回っていた。
「とは言え、長閑なばかりとは言えないみたいだね。村の西方には、怨霊の森なんてものがあるよ」
マルク・シリング (p3p001309)が言う。村のものの話によれば、突如として現れた怨霊たちが、森を乗っ取ってしまったのだという。
とはいえ、緊急性を擁する案件ではないようだ。怨霊たちは森から出てこないし、村の生活にも森の存在は必須ではない。
だから、京の方でも、「異変アリ。サレド緊急性ナシ」と、優先度の低い案件扱いされているようだ。
「まぁ、確かに、怨霊を全滅させるとしたら大掛かりな部隊が必要だろうな。京の鬼人種にも手伝ってもらわないと……うん?」
『Unbreakable』フレイ・イング・ラーセン (p3p007598)が声をあげる――それは、此方に向ってかけてくる、1人の少女の姿を認めたからだった。
少女は必死の様子で、此方へ向かって走ってくる。
「神使さま! 神使さまでいらっしゃいますか!?」
少女は息を切らせながら、叫んだ。
「神使……つまり、イレギュラーズ(ボクたち)のことですね。まだ慣れない呼ばれ方ですけど……たしかに、そうですよ」
『小さな決意』マギー・クレスト (p3p008373)が頷くのへ、少女は息を整えながら、言った。
「わ、わたしは、すず、と申します。この村に住む者で……じ、じつは、やえが、妹が! 怨霊の森へ行ってしまったようなんです!」
「……なんだって? 一体、どうして……?」
『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ (p3p006562)が尋ねるのへ、すずが答えたのはこうだ。
昼頃からやえの姿が見えなくなり、方々を探したところ、怨霊の森の方へと向かうやえの姿を見た、と言う目撃証言があったのだという。
どうやら、母に捧げるための黄色い花。怨霊の森にのみ咲くと言うその花を探しに、やえは森へと踏み入ってしまったという事の様だ。
「昼頃……となると、まだあまり時間はたってないわ。今すぐ探しに行けば間に合うはず!」
『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス (p3p001981)の言葉に、
「ギャウ。ギャーウ!」
『煌雷竜』アルペストゥスが同意する。
「わかった。すぐに探しに行こう。すず、君は村で待っていてくれ。大丈夫だ、かならずやえは見つけ出す!」
『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)はそう言って、すずを安心させるように頷いた――。
●
「おいで……おいで……」
「綺麗な花が咲いているよ……」
森の奥から声が聞こえる。
優しげな声だった。温かな声だった。
やえはその言葉に従って、森に足を踏み入れる。
……その声が、偽りの温かさであることを、知る由もなく。
- 怨霊の森に咲く花は完了
- GM名洗井落雲
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年07月31日 22時55分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●森へ
此処が怨霊の森、と呼ばれるようになったのは、いつの頃からだろうか。
かつては穏やかな木漏れ日の差す、温かな場所であったこの森は、今やその日の光すら拒否し、昏い淵を這いまわる、怨霊たちの住処と化してしまった。
そんな怨霊はびこる森に、一人の童女、『やえ』が入り込んでしまった。そんな情報を得たイレギュラーズ達は、『やえ』を見つけるために、後を追って怨霊の森へと足を踏み入れたのだ。
「グルルルゥ……」
『煌雷竜』アルペストゥス(p3p000029)があたりを見回しながら、声をあげる。
「うん……薄暗くて、まるで夜の様だ。これも怨霊の力なのかな」
頷く『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)。その言葉通りに、日中だというのに辺りは薄暗く、ねばつくような霧があたりを漂っている。
「気を付けて……しかし急いでいきましょう!」
目薬を差して、目をぱちぱちさせる『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)。霊水と薬草の力が、ルル家に暗視の力を与えた。その手には、やえの姉、『すず』から借りた、やえのてぬぐいがあった。
「犬並、とは言いませんが、それなりの嗅覚は持ち合わせているつもりなのです。てぬぐいを手掛かりに、拙者がやえ殿を探します!」
「お願いね、ルル家さん。きっとまだ間に合うはず……、手遅れになる前に見つけ出すわよ!」
『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)が力強く頷く。仲間達も、その言葉に頷いた。時は一刻を争う。怨霊たちも、やえをいつまでも放っておいてはくれないだろう。
「俺が先頭に立とう」
『Unbreakable』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)が言った。
「皆は後ろから……だが、方向の指示は頼む。前は任せろ、そう簡単に倒れたりはしない」
「では、俺がしんがりを務める」
『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が言う。つまり、前衛を任せられる人物を前後に配置し、中央を守り、敵の奇襲を防ぐための陣形だ。こうすれば、前後何方から、あるいは挟み撃ちを受けても対応が可能である。
そしてイレギュラーズ達は、分散せずに、一塊になって行動することを選んだ。少々捜索の手は狭まるが、無数の敵がひしめく中、孤立してしまうのも二次被害を招いてしまう事になるだろう。
と、考えれば、これは適切な行動だったといえる。
「こんな暗い森の中で、一人なんて……きっと心細いに違いないです」
『小さな決意』マギー・クレスト(p3p008373)が言った。やえは、マギーの弟と同じくらいの年齢なのだという。そのことが、マギーに強い心配の心を生まれさせている。
「全ての怨霊を倒すのは無理でも、黄色い花を墓前に供える所までは達成したいね」
マルク・シリング(p3p001309)が言った。この戦力だけで、怨霊を全滅させることは無理に近いだろう。だが、やえがこの森に入ってしまった原因……墓前に供える黄色い花を見つける事も、イレギュラーズ達は目指していた。
可能ならば、やえの想いを成就させてあげたい。
「そうだな」
と、マナガルムは言った。あるいは同じ立場ならば、自分もそうしたかもしれない。そんな思いが、マナガルムの中にあった。
……だが、きっと彼女の母親は、娘が危険な目に合ってまで自分に花を供えることを良しとはするまい。なればこそ、マナガルムが……イレギュラーズ達がやるべきことは、決まっている。
「なんにしても、やえを見つけることが先決だ。急ごう、余り時間は掛けられない」
その言葉に、仲間達は頷き――鬱蒼と生い茂る森の中に、その一歩を踏み出したのである。
●霧の森林
「やえ殿ー!! 素敵な神使が助けに来ましたよー!」
あたりに響き渡る、ルル家の声。スピーカーボムで拡張された音声が、半径100mの範囲を震わせる。
「怨霊に見つかるリスクもありますが、それは許容です。とにかくやえ殿をみつけませんと!」
「そうね……でも、その前に招かれざるお客様よ!」
ルル家の言葉にアルテミアが刃を抜き放つ。
「グルルルルッ!」
アルペストゥスが唸り声をあげて、視線を前方にやった。ふと、霧に紛れるように、かすむ幽体の身体が、5体ほどにじみ出てくる。
「オオオオオォ」
「ニクイ……ニクイィ……」
口々に呻き声を恨み節をあげるのは、怨霊の類だ。かすかな体に、手にしたボロボロの刀がぎらつく。そのいで立ちから見れば、戦死者の類なのかもしれなかった。
「あなた達の事情は知らないけれど、生者を傷つけようとするなら、それは許せないわ!」
アルテミアがきっ、と怨霊たちを見据える。敵も抜身の刀をゆっくりと構えた――同時。動き出した双方。しかし怨霊より先に刃を振るったのは、アルテミアだ。
がきり、とアルテミアと亡霊の刃が交差する。そのまま打ち合う――一度、二度。
残る怨霊たちが仲間達へ殺到するのを、立ちはだかったのはフレイである。黒い影の盾を展開し、フレイは怨霊たちの斬撃を受け止めた。
「あまり時間はかけてられない! 一気に決めるぞ!」
叫ぶフレイの腕に、幻痛がはしる。ギフトによって見せられた、戦いによって発生する傷の予知が、それを感じさせたのだ。
「ちっ、楽にはいかなさそうだな……!」
苦笑しつつ、フレイが盾を使って怨霊たちの刃をはじく。そのまま後方へ跳躍――残る怨霊たちを、ウィリアムの操作する雷の鎖が激しく叩きつけた。
ばぢり、と空気を焼くにおいが森に漂う。雷に叩かれた怨霊たちが呻き声をあげてその身を震わせる。
「マルク!」
「了解だよ!」
ウィリアムの叫びに、マルクは頷く。杖を掲げれば、聖なる裁きの光が生み出され、次々と怨霊たちを討ち貫いていく。雷と、聖光。その連続攻撃に、怨霊たちはなすすべなく消滅していく。
「アルテミア!」
マナガルムの叫び――怨霊と切り結んでいたアルテミアが小さく頷き、飛びずさった。そこへマナガルムの短槍が煌き、怨霊の胸を貫く。
「ギャアアア!」
怨霊が叫び声をあげる――すかさず放たれた、アルペストゥスの呪われた魔弾が、怨霊の頭部を吹き飛ばした。同時に、霧に消えるように、その身体が雲散霧消していく。
「ギャアゥ」
アルペストゥスが雄たけびを上げる――ひとまずは片付いた。が、それもこの森に巣食う多くの怨霊の一角に過ぎない。
「こんな恐ろしい怨霊たちが……」
マギーが胸に手を当てながら不安げに声をあげた。思うのは、この森を一人でさまよう、やえのことだ。
「本当に、急がないと……やえさんが心配です」
マギーの言葉に、仲間達は頷き、再び森の中を行くのであった。
ルル家の嗅覚、そしてウィリアムの自然会話と精霊疎通により、一行は少しずつ、しかし確実にやえへと追い付きつつあった。敵の奇襲を最大限に警戒し、敵対心を持つ怨霊や、ステルス技能を持つ怨霊をマギーやアルペストゥスによって察知し、対策はしていたものの、しかし戦闘事態が避けらぬ場合もあり、現れる怨霊たちと数度遭遇し、戦い、一行は確実に傷ついていく。しかし、一行はそんな障害に負けることなく、一歩一歩確実に歩を進めて行った。
「むむっ、この感覚……」
ひくひくと、ルル家が鼻を鳴らす。すぅ、と息を吸い込むと、スピーカーボムをのせて、叫んだ。
「やえ殿なのですね!? 近くにいらっしゃいますね!?」
ルル家の声が響く。
「ご安心ください、拙者たちはイレギュラーズ……神使なのです。お迎えに参りました!」
がさり――と。草木を踏みしめる音が響いた。
霧の奥より現れたのは、今度は怨霊ではない。少しおどおどとした様子で現れたのは、一人の童女――間違いない、やえの姿だった。
「あ、あの」
やえが口を開く――と同時に、飛び出したのはマギーだった。マギーはやえにかけよると、
「大丈夫ですか? けがはありませんか?」
と尋ねる。それへ、やえは、
「う、うん。大丈夫……」
と、申し訳なさそうに答えた。
「よかった……」
マギーがほっとした様子を見せる。
「一人でこんな所に来るのは、無謀だった。お姉さん……すずに、心配させてしまったんだぞ」
フレイがあえて、厳しい口調で言った。相手は子供だ。時に間違った判断もするだろう。そんなときにしっかりと叱るのは、大人の役目であるはずだ。
やえはしょんぼりとした様子で、頷いた。
「しっかりと反省するんだぞ……それから、無事でよかった」
厳しく……しかし、優しさを感じさせる口調で、フレイが言う。
マギーは優しく手を握って、続けた。
「お姉さんの所に帰ろう?」
「でも……おっかさんに、お花、あげたいの」
ふむ、とイレギュラーズ達は唸った。流石危険な森に足を踏み入れただけあって、それでも、という意思は残っているようだ。
「ならば……一緒に取りに行ってあげようか」
マルクが言った。
「すずさんから、花の咲いていた場所の事は聞いてるよ。此処からならそう遠くもないはずだ」
「ふむ……」
マナガルムが唸る。しばし考えるそぶりを見せたのちに、言った。
「そうだな。だが、すこしでも危険だと判断した時は迷わず撤退するぞ。第一に、やえの無事を確保しないとならないからな」
「ええ、もちろん」
マナガルムの言葉に、アルテミアが言った。
「ええと……?」
きょとん、とやえが小首をかしげるのへ、
「ギャウ、ギャウ」
アルペストゥスがやさし気に鳴いた。
「一緒にお花を採りに参りましょう! やえ殿!」
ルル家がそう言ってにっこりと笑った。
●怨霊の森に咲く花
「さて……話によれば、この辺りだけれど……」
マルクがそう声をあげる。と、周囲の木々がひらけて、明るい日差しの当たる、広場が見えた。
今までの鬱蒼とした雰囲気が嘘であるかのように、その広場は日差しが差し込み、明るさと生命の息吹を感じさせる。その中心にはいくつもの花が咲いていて、なるほど、そこには小さいながら可憐な、黄色い花が群生してた。
「ここ……おっかさんと、一緒に遊んだんだ……」
やえが、寂しそうにそう言うので、マギーはやさしく、その手を握ってあげる。やえもつよく、その手を握り返してきた。
辛いだろうな、とマギーは思った。この年で、お母さんを亡くして……。
「ギュルル、キュウ」
慰めるように、アルペストゥスは鳴いた。
「ありがとう、龍さん……かな」
やえが少しだけ微笑んで、アルペストゥスに礼を言う。
「さて、あまり長居するのも危険だ。手早く花を回収しよう。アルテミア、フレイ、一緒に周囲を警戒してくれ。マギーとアルペストゥスはやえの守りを。残りのメンバーで、花を採取しよう」
マナガルムの言葉に、一同は頷く。
「見張りは任せて。綺麗な花、いっぱい摘んできてね?」
アルテミアが、やえの頭を、優しく撫でた。やえはうん、と頷いて、笑った。
「この黄色い花、か……さて、どれくらい摘んだものかな?」
ウィリアムが声をあげるのへ、
「あ、拙者、根っこを残して採取したいのです!」
ルル家が手をあげる。
「そうすれば、安全な場所に植えかれられますし! 森の外、村の方に植え替えられるなら、今後も安全という訳です!」
「そうだね。それは僕も考えていたよ。事前に資料も読み込んでおいたから、植え替え作業に関してもバッチリだ」
マルクが頷いた。
「じゃあ、鉢植え……はないから、この袋に土ごと入れておこうか。根っこごと、となると、あまり数は持って帰れないから、元気そうな花を二つ三つ、って所かな?」
ウィリアムの言葉に、さっそくイレギュラーズ達は採取作業を開始した。ルル家がばばばっ、と土を掘り返し、マルクとウィリアムが丁寧に花を回収、袋へと移し替える。一方で、やえはマギーとアルペストゥスと一緒に、幾つか花を摘んでいた。沢山とはいかないので、これも2~3っつ。小さいけれど、母の笑顔を思い起こさせるような明るく黄色い花が、やえの手の中で揺れていた。
「よかったです!」
マギーが、やえと視線を合わせて、にっこりとわらった。やえもまた、嬉し気に、マギーににっこりと笑って返すのだった。
作業自体は10分ほどで完了した。その間、幸いなことに、敵の襲撃はなかった。もしかしたら、母の思いが、今この時、この地を守っているのかもしれなかった。だが、木々の奥から恨めし気な視線を感じることは多く、その都度アルテミアとフレイ、そしてマナガルムは緊張感を高めることになった。
「よし、そろそろ戻るか?」
フレイの言葉に、やえ、そして仲間達が頷く。やえを守る様に陣形を組み、再び森の中へと侵入する――それを待ち構えていたかのように、一行を囲むように現れた怨霊たち!
「ニガサン……」
「カエサナイ……」
恨みがましい声をあげる、怨霊たち……やえが、その身体を怯えるように震わせるのを、
「大丈夫、ボクたちが、守りますから!」
マギーが、ぎゅっと力強く、やえの手を握る。信頼するように、やえはその手を握り返してくれた。
「(あくしゅみだ。弱いものからひつようのない簒奪は、ないほうがいい)」
ガァウ、と、アルペストゥスが威嚇するように鳴いた。やえを覆い隠すように、翼を広げる。
「(それでも望むなら、ぼくがあいてになる )」
アルペストゥスが吠えた――同時に、仲間達もまた、武器を構える。
「その通りよ。貴方たちにどんな理由があろうと、この子を傷つける正当性なんてない!」
アルテミアが叫んだ。
「恨みつらみは理解できるが、それを八つ当たり気味にぶつけられちゃな。たまったもんじゃない」
フレイは影の盾を展開し、皆の前に立った。
「いくぞ皆! 最後の仕上げだ。必ず全員で、この森を脱出する!」
マナガルムの叫びに、仲間達は頷く。そして、森を脱出する為の戦いの火ぶたは切って落とされた。
●突破・脱出
「私が道を切り開くわ! 走って、皆!」
アルテミアが振るう刃――その先端から蒼き焔が巻き起こり、さながら朱雀、火の鳥のように一直線に飛び、舞う!
焔の鳥に焼かれた怨霊たちが、苦痛の声をあげながら消滅していく――アルテミアを先頭に、イレギュラーズ達は走った!
「やえちゃん、大丈夫ですか? もうすぐですからね……!」
マギーがやえへエールを送るのへ、やえは健気にも息を切らせながら頷いた。一方、怨霊たちの襲撃は止むことは無く、挟撃するかのように四方八方から襲い掛かってくる。
「ギャウ、ガァァッ!」
アルペストゥスの放つ呪弾が、怨霊を消し飛ばす――その端から現れた怨霊を、
「邪魔は……させないっ!」
ウィリアムの雷霆が焼き焦がした。ばぢばぢ! 空気を焼いて、怨霊を焼いて、雷が森をほとばしる。
イレギュラーズ達は走る――怨霊を下し、地を踏みしめて。敵の攻撃は激しくなっていったが、しかし森の出口は徐々に近づいてくる。
「ちぃっ……しつこいなッ!」
フレイが影の盾で、怨霊の斬撃を受け止める。合わせる様に放たれた怨霊の呪詛の弾丸が、フレイの腕を切り裂いた。舌打ち一つ、しかしかざした盾は揺るがない。
「あと少しなんだ……邪魔はさせないよ!」
マルクの放つ神光が、昏き森林を薙ぎ払った。悪しきものを打ち据えるその聖なる光が、這い寄る怨霊たちを根こそぎ薙ぎ払う。
「諦めるな! このままの勢いを維持できれば脱出できる!」
しんがりのマナガルムが叫び、その手にした短槍を怨霊へと叩きつけた。ぎゃあ、と悲鳴を上げて怨霊が消滅していく。
「走れ、走れ! 後ろは振り返るな!」
叫び、怨霊と格闘するマナガルム――何をしてでも本隊を守るという気迫が、そこに在った。
「もう少しよ、皆、諦めないで……っ!」
アルテミアが、再び蒼き朱雀を解き放った。朱雀はイレギュラーズ達を導くように、一直線にその青い翼をはためかせて飛んでいく。
立ちはだかる怨霊たちを焼き尽くし、そこに一筋の道を作った。
「今よ、皆!」
アルテミアが叫んだ。イレギュラーズ達は、必死に、その道を走り抜けた――。
出迎えたものは温かな陽光。
静かな鳥の囁き。
怨霊の森とは違う、温かな静けさ。
「脱出……できたぁ……!」
はぁ、とルル家がへたり込んだ。流石に皆、疲労と傷が深い。
「やえちゃん、大丈夫?」
マギーが尋ねるのへ、やえは息を切らせながらも、
「うん……!」
と頷いたので、マギーはぎゅ、とやえを抱きしめた。
「ギャウ、ギャ」
嬉しそうに、アルペストゥスも鳴いた。
「さて……少し休んだら、村に戻らないとな。やえ、アンタを心配してる奴がいる……誰だかは、分かるだろ?」
フレイの言葉に、やえはこくり、と頷く。大切な家族が、姉が、今もやえを心配しているはずだ。
「それから……お花は、どこに植えようか?」
ウィリアムが尋ねるのへ、
「僕は、やえさんのお母さんが眠っているお墓の近くに植えてあげたいと思う。きっと、綺麗に育つと思うよ」
マルクが言った。
「そうね……きっと、そう」
アルテミアも同意する。きっと、この地に眠る母の思いを、花も受け取ってくれるはずだ。
「さて……そろそろ行こうか。それから。もう、こんな危険な事はしないでくれよ?」
マナガルムが、やえの頭をなでながら、優しくそう言った。
やえは、少し申し訳なさそうに、うん、と頷いてから、微笑んだ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リクエストありがとうございました。
皆さんのご活躍により、やえは無事救出されました。
採取された黄色い花は、やえとすず、二人の母の墓石の近くへと埋められました。
きっと、来年には、沢山の綺麗な花を咲かせることでしょう。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
此方は、イレギュラーズ達への救いを呼ぶ声(リクエスト)により発生した事件となります。
●成功条件
『やえ』の救出
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
怨霊の森とされる、魑魅魍魎の跋扈する広大な森――。
怨霊に騙され、呼び寄せられるままに、『やえ』は森の中へと足を踏み入れてしまいました。
このままでは、怨霊の餌食になってしまう事は避けられません。そうなる前に、イレギュラーズの皆さんは森へと侵入、やえを救出し、森から脱出してください。
作戦決行時刻は午後。ですが、森の中は怨霊の力により薄暗く、薄いながらも霧も発生しており、視界はあまりよくありません。
注意して進行してください。
●エネミーデータ
怨霊 ×???
森の中を徘徊している怨霊たちです。数は不明で、全滅させることは難しいです。
遭遇する個体により特性は違いますが、おおむね神秘属性の攻撃を使う事は共通しています。
なお、怨霊の全滅自体は依頼成功条件に含まれません。
●NPCデータ
やえ
怨霊の森に迷い込んでしまった童女です。戦闘能力はもちろんありません。
イレギュラーズの皆さんが森へ侵入した時点ではまだ襲われていませんが、着実に森の奥へと向かってしまっています。
速やかに救出してあげてください。
以上となります。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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