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シナリオ詳細

祀熊祭。或いは、獣獣奉る宴の夜…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●10年ごとの催事
 山の麓の古びた社。
 祀られているのは、周辺の地を治めるという神獣である。
 曰く、その本性は熊だという。
 祀熊様と呼ばれるその熊は10年に1度目を覚ます。
 その度に、近隣の村人たちは社に集まり宴を開いた。
 祀熊様がその地で眠っている間、近隣の村の農作物はよく取れる。
 また、山菜や果物、食用となる獣もよく育つのだ。
 そんな祀熊様が10年ごとに起きる理由は食事のためだ。
 腹を空かした祀熊様は、目を覚ますと食糧を求め何処かへ出ていくとそう伝承されていた。
 祀熊様が出て行ってしまえば、農作物の収穫量は大幅に減る。
 そうなっては堪らないと、いつしか近隣の村々は10年ごとに社で宴を開くようになった。
 各村々から持ち寄った大量の野菜や米、そして祀熊様の鉱物である猪肉を食すのだ。
 踊り、歌い、祈りを捧げ祀熊様に感謝の言葉を奉納する。
 この地域のみで細々と続けられている、ごく小規模な催事であった。
 けれど、しかし……。
「困ったな。今年の猪は我らの手に負えないぞ」
 カムイグラで相次ぐ騒ぎの影響か、それとも祀熊様の力を浴びた結果か。
 今年、山で見かける猪たちは例年のそれより強大な力を持っていた。
 それこそ、村に常駐する1人の武者だけでは討伐することも敵わないほど。

●祀熊祭
 通りすがりのとある村。
 困ったような表情で、実に申し訳なさそうに声をかけてきたのは1人の武者だった。
「もし……イレギュラーズの皆さまとお見受けするが、いかがか?」
 両手を肩の位置に上げているのは、敵対の意志がないことの現れだろう。
 いかがか? と、問いかけたものの武者は彼らがイレギュラーズであることを既に知っていた。
 この日この時、彼らが村の近くを通りかかるという情報を得たからこそ、こうして待ち構えていたのだから。
「ほんの一時で構わない。頼みがあるのだ……引き受けてはくれぬか?」
 と、武者は告げた。
 語られるは、近隣の村々に伝わる伝承。
 祀熊様を奉る催事についての物語。
「依頼の内容は社で宴を開くこと。野菜や米は村々で持ち寄ったものがあるのだが、問題は祀熊様の好物である猪肉だ」
 曰く、今年の猪は例年にな」いほど強い力を秘めているとのことだった。
 その突進には【ブレイク】の効果が付与される。
 また、地面を踏みつける衝撃により【崩れ】の効果を周囲にばらまく。
 体重は200キロ近く、サイズも通常の猪よりも1.5~2倍ほどもあるという。
 そして、そんな猪を最低5頭は捕獲しなければならないそうだ。
「正直、某や村人だけではどうしようもなく……」
 かといって、宴を催さなければ祀熊様の加護を得られない。
 そうなっては、近隣の村はひどく苦しむことになる。
 どうにかして宴を開催するためにはどうすれば良いか……悩んでいたところに通りかかったのが、イレギュラーズたちだった。
 苦渋の決断として、この年の宴は彼らに託そうと、そんな風に取り決めて。
 こうして近隣の村を守護する1人の武者が、代表して依頼に訪れたのだ。
「どうか、頼まれてはくれないか。某とて人の子……苦しむ村人たちの顔はできれば見たくないのだ」
 頼む、と。
 武者は刀を地面に置くと、その場に伏して頭を下げた。
 けれど、その額が地面を擦るその寸前……。
「国は違えど、貴殿も1人の騎士なのだな。その想い、しかと受け止めた」
 ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は、手を伸ばし武者の肩を抑えた。
 武者が頭を下げる必要性を、ベネディクトは感じなかったのだ。
「村人のためというなら是非もない。その仕事、ぜひ俺たちに任せてくれ」
 と、そう言って。
 ベネディクトを先頭としたイレギュラーズたちは、各々の武器へと手を伸ばす。

GMコメント

●ターゲット
・魔猪×5~
何かしらの影響で強大な力を手に入れた猪たち。
巨大な身体を有しており非常に狂暴。
祀熊様の加護が及べば、夏が終わる頃には村人たちでも狩れる程度の猪に戻る模様。
 
猪突:物近単に中ダメージ、ブレイク


猛進:物中範に小ダメージ、崩れ


・祀熊様
山の麓の社に祀られている神獣。
10年に一度目を覚まし、食事を終えたら再び長い眠りにつく。
祀熊様が眠る土地は豊かになり、農作物や山の幸が良く取れるという。
好物は熊。
社で宴を開いていると、人の姿をとり宴に紛れ込むという。
祀熊様の姿が確認されれば、催事は成功となる。


●場所
カムイグラのとある山中。
山の麓には社があり、祀熊様が眠っている。
今回の任務では山中に分け入り、猪を狩って来る必要がある。
足場は悪く、生い茂る木々のせいで視界も悪い。
進路も木々で塞がれているため、
猪も、イレギュラーズたちも全速力ではまっすぐ移動することができない。

社には村々から集められた野菜や米が置かれている。
宴を開くためには調理も必要。

  • 祀熊祭。或いは、獣獣奉る宴の夜…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラサフカ・ミハイロヴナ・コロリョワ(p3p000292)
あやしい香り
セルウス(p3p000419)
灰火の徒
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
リズリー・クレイグ(p3p008130)
暴風暴威
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ヴァージニア・エメリー・イースデイル(p3p008559)
魔術令嬢
バスティス・ナイア(p3p008666)
猫神様の気まぐれ
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ

●牡丹狩
森の奥、手元の地図に印をつけながら『アイオンの瞳第四席』クラサフカ・ミハイロヴナ・コロリョワ(p3p000292)は周囲の地形に目を凝らす。
「民の生活を守り、健やかに暮らせるよう手配するのは我々貴き者の仕事です。さぁ、任務を開始しましょう」
 現在地点と川までの距離を確認して、クラサフカは地図を仕舞った。
そんなクラサフカの隣では、『灰火の徒』セルウス(p3p000419)はカンテラをそっと持ち上げた。
「祀熊様だっけ? 真偽のほどはともかくとして、土地が痩せたら事情を知ってる方としては寝覚めが悪いし、美味しいものも食べられるなら協力しない手はないよね」
 カンテラの中に浮かぶのは、微かに光る1つの指輪。
興味があるのか、『新たな可能性』笹木 花丸(p3p008689)はその指輪を見ながらも、さらに山奥へ向け歩を進めていく。
「運搬道具も借りられたし、猪の縄張りや肉の加工方法もバッチリ聞けたし、後は1頭ずつ確実に仕留めていくだけだね」
 タンク役は任せてよ、と腰の刀に手を添えて花丸はふふんと胸を張る。その身には包帯が巻かれているが、もとより荒事を生業としてきた彼女だ。その程度の怪我、意にも介した様子はなかった。
「えぇ、行きましょう! ちょっと大きくなったくらいなら大丈夫!」
同じように志気を高めた『白雀』ティスル ティル(p3p006151)も、愛用の魔剣を抜いて空へと掲げた。

 静寂を切り裂く轟音と、ティスルの悲鳴が木霊した。
「ねえ、ちょっと大きいなんてレベルじゃないじゃん!?」
 2頭の猪に追われるティスルが山の斜面を駆け降りる。
 それぞれ体重200キロを超えるであろう、通常の猪を凌駕する巨体を備えていた。空気を切り裂き、地面を揺らし、細い木であれば薙ぎ倒しながら疾駆する。
「こりゃあ、不意打ちも何もあったもんじゃないね」
「火力は俺が担おう。リズリー、止めれるか」
「そのために来たんだからね。それに、あれを狩れば宴を楽しめる上に周りの村も苦しまないんだろう? 断る理由がないってもんさ!」
剣と盾を構えた『荒熊』リズリー・クレイグ(p3p008130)が前に出る。その間に『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)はまるで曲芸のような身軽さで、手近な木の枝へと飛び乗った。
 猪は、縄張りに侵入されたことで怒り狂っているようだ。
 猪の動きは短調だ。けれど、2頭ともをリズリー1人では受け止めきれない。
「これだけ大きいと魔猪と言われるのも納得できるね……それで、もう1頭はどうするの?」
戦闘に巻き込まれないよう、『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)は急ぎ後衛へ下がる。包帯を巻かれたその手には、淡い燐光が灯っていた。傷ついた仲間を癒すために、回復術の発動準備を整えているのだ。
「そっちは花丸ちゃんに任せて! 大丈夫、コイツならあのの突進だって受け止められる!」
猪のブロックに名乗りを上げたのは花丸だった。妖しいオーラを放つ刀を引き抜き地面を擦るような足取りで、彼女は前衛へと上がる。
花丸の背後に控えた『魔術令嬢』ヴァージニア・エメリー・イースデイル(p3p008559)は、向かって来る猪を視界に捉え、その手の中に魔力を灯した。
「幻想の民ではないとは言え、困っている方がいるのを放っておくことはできませんからね。私も全力を尽くしましょう」
 その手の中に現れたのは、魔力で形成された1本の縄だ。まるでそれ自体が意志を持つようにうねり、猪の脚へと巻き付いた。
 瞬間、猪がその足をもつれさせる。
 地面を抉りながら迫る猪へ向け、花丸は刀を振り抜いた。
 ガキン、と硬い音が鳴る。花丸の刀と猪の牙とが衝突したのだ。一瞬の沈黙の後、花丸の身体が浮き上がる。
「え、わわっ!?」
「っと、これは狂暴だね」
 弾かれた花丸を援護するべく、セルウスは【シャロウグレイヴ】を行使。顕現した怨霊が、怨嗟の声とともに猪へ迫る。

「おぉ、らぁっ!」
 盾を掲げたリズリーは、猪の突進を真正面から受け止めた。踏みしめた両足が土の中へと沈んでいく。
 さらに加速しようと地面を蹴った猪を見て、リズリーはギリと歯を食いしめた。剣を振り下ろすが、それは猪が顔を振り、鋭い牙で弾き飛ばす。
 どうやら狂暴なだけでなく、それなりに知恵も兼ね備えているらしい。
 だが、リズリーも負けていない。猪の頭部が逸れた瞬間、手にした盾で素早く、そして鋭くその側頭部を打ちのめしたのだ。
「えぇ? 盾で……いえ、今はそれどころではないですね。遊撃の役割を果たしましょう」
 ひらり、と蝶のそれに似た翅をはばたかせ、クラサフカはゆっくりと地上へ降下。その手には魔力で編んだ青白い一条の帯。それを振るい、猪の目元を強かに打つ。
 猪は悲鳴をあげ、大きく身体を仰け反らせた。その瞬間……刹那の隙を穿つように、ベネディクトは跳んだ。
 纏うは稲妻。雄々しく突き出す軽槍が紫電を散らす。
 跳躍の勢いを乗せた一撃は、猪の眉間を刺し貫く。バチ、と周囲が白に染まるほどの電閃。白目を剥き、煙を吐き出す猪の巨体が地に落ちた。

●宴の支度
 山の麓の古びた社。
 祀られているのは、周辺の地を治めるという神獣である。
 曰く、その本性は熊だという。
「豊穣を司る聖なる熊……土着の地母神の一柱なのかな?」
 赤く染まる水面を見ながら、バスティスはそう呟いた。
「えぇ、この土地にはそのような伝承が伝わっているのですね……」
 バスティスの呟きに、ヴァージニアはそう言葉を返す。
 猪2頭を仕留めた一行は、現在近くの川辺へとやって来ていた。仕留めた猪を捌き、内臓と血を抜くためだ。
「5頭仕留めたら、猪を運搬しないとなんだよね」
 チラ、と川岸に停めた荷車を見やりバスティスは言う。猪1頭あたり200キロとして……。
「まぁ、力仕事なら俺も十分に役に立てるだろう」
 バスティスの視線を追ったベネディクトはそう告げた。
 同じく、一行の中では力の強いリズリーも任せろとばかりに腰に手を当て笑っている。
「うん、じゃあ問題ないね」
 なんて、黒い瞳を細めて笑う。
 そう、死の国生まれのアンデッドは呑気なのだ。

 川辺から少々離れた茂みの中で、花丸とクラサフカは地面にしゃがみ込んでいる。
「クラサフカさん、これは?」
 と、そう尋ねる花丸の手には2本のキノコ。一見して同じように見えるが、クラサフカはそのうち、左手に握られていた方を捨てるように指示を出す。
「よく似ていますが、別種ですね。無毒化できないものは弾いておきましょう」
 そのようにして、2人は野草やキノコを採取していた。
 宴に1品、山の幸を追加するためである。

「前は何か見えるかなあ。君も何かあったら教えてね」
 獣道を覗き込み、セルウスは頭上のティスルへと声をかけた。
 翼を広げ宙を舞うティスルは、周囲をぐるぐると旋回しながら猪の影を空から探す。
 やがて……。
「あ、いた!」
 ティスルの目は、川辺へと迫る巨大な影を捉えた。その数は3。血の臭いに誘われたのか、まっすぐに川辺へ……仲間たちの元へと迫っている。
「でかいけど……うぅん。来るのが分かってれば、大きくてもなんとかなる!」
「それじゃ、戻ろうか。僕、力仕事得意じゃないからさあ、それ以外の所でお役に立っておくよ」
 カンテラに魔力を通しながら、セルウスはそう告げた。
 元来た道を引き返すセルウスに先行して、猪の接近を知らせるためにティスルは加速し、川へと降下していった。

 剣の柄を打ち付け、盾を鳴らすリズリーは獣のような笑みを浮かべてベネディクトを見やる。
「なぁ、一番いいのは気絶させて村で捌くことだよね?」
「うん? あぁ、それができれば何よりいいが」
「だよね! とはいえ残り全部は難しいだろうし、挑戦するなら最後の一体だね!」
 剣を構えたリズリーと、槍を手にしたベネディクトは猪を迎え撃つべく前衛へ。
 戻って来た花丸やクラサフカ、セルウスも戦列へと加わった。
 戦意は十分。体力もまた回復している。
 そうして一行は、意気軒高に猪狩りへと赴いた。

 ヴァージニアの放った魔力の波が、猪の意識を刈り取った。ゆらり、と猪の体勢が崩れた瞬間、ティスルの剣がその首筋を深く切り裂く。
 討伐した猪はこれで2体。残る1体は、仕留めないよう残る面々が対応中だ。
 猪に【怒り】を付与した花丸が、その注意を惹きつける。花丸を追う猪の進路は、盾を構えたリズリーと、セルウスの怨霊が封鎖した。
 猪の動きが止まった瞬間、飛行していたクラサフカが降下。猪の首へ魔力による衝撃派を叩き込む。
 一瞬、猪が白目を剥いた。気絶まであと一息を行ったところだろうか。
 リズリーの盾が、猪の側頭部を叩く。
「よし、効いているぞ!」
 そう叫び、ベネディクトは駆け出した。
 紫電の軌跡を引きながら、猪の懐へと潜る。突き出す槍は鋭く、けれどそこに込められた力は最小限。 
 ベネディクトは槍で顎を打つ。
 バチ、と爆ぜた音がして猪の意識は刈り取られた。
「これで5体っと。後は調理するだけなんだけど、料理の腕に秀でた人がいないんだよね」
 リズリーに回復術をかけながら、バスティスはそう呟いた。

 社の周辺には、近隣の村から多くの村人が集まっていた。
「中々の大物だと思うのだが、どうなのだろう? また今回の様な事があれば、力は貸す。是非言ってくれ」
 村人へ向け、ベネディクトはそう告げる。
 既に猪の一部は、村人や仲間たちにより調理が開始されていた。
「宴席のための調理は……申し訳ありませんが、心得がなく……家では使用人の方におまかせしておりましたから……」
 村人の女性に指導を受けながら、野菜を刻むヴァージニア。明らかに慣れていない手付きに、村人たちも苦笑気味。けれど、誰もそれを迷惑に感じてはいないようだ。
 包丁の握り方から、食材の切り方まで親切に教えてくれている。
 そんな村人たちの優しさに応えようと、ヴァージニアもまた真剣な目で食材へと向き合った。猪の肉も、野菜や山菜も、どれも自身の糧となる。
 料理の第一段階である「食材への感謝の念」は、既にその胸の内に備わっているようだ。
「加工なんかも手伝えることがあれば手伝うよっ!」
「うん。血抜きもばっちりだし、急ぎ仕事の割にはなかなか上出来じゃないかね?」
 村の男性と共に、花丸とリズリーは猪の解体に取り掛かっていた。解体された猪肉は、ティスルが指定された場所へと運んでいる。
「素朴で野趣ある祭料理、期待しています」
「……僕は火加減を見ておくぐらいしかできないけどね」
 刻んだキノコを鍋へと入れるクラサフカへ向け、セレウスは苦い笑みを返す。セレウスの傍らに積まれた木々は、どれもしっかりと乾いていた。セレウスのスキルにより「燃えやすい」ものばかりが集められているのである。
 そうして……村人とイレギュラーズ総出で宴の用意は進められた。

●祀熊祭
「では、乾杯!」
 杯を掲げ、ベネディクトがそう告げる。
 暗い空に、炎の灯りが揺らめいた。夜が来たのとほぼ同時、祀熊祭は始まった。
「さぁ、宴だー!」
 スープを片手にバスティスは叫んだ。
 社の周囲に漂う香り。温かく、野趣のある山の幸独特のにおい。空腹も限界に迫っていたのか、バスティスの音頭とともにそこかしこで歓声が上がった。
「料理とかはからっきしだから、あまり役に立てなかったけどね。いや、本当に料理だけは勘弁してください!」
 近くの村人へ礼と謝罪を述べながら、花丸は手にした器へ猪鍋を注ぎ込む。
 最低限の調味料で味付けされた猪鍋だ。肉を噛めば、じわりと肉の味が広がる。猪特有の獣臭さも、場の雰囲気と合わさって空腹を刺激するスパイスとなる。
「さあ、村の方々、花丸ちゃん。食べてるかな? 呑んでるかな? そこの料理はあたしも手伝ったんだ、食べていってよ」
 器に注がれた酒を煽って、バスティスは花丸の肩へ手を回す。
 バスティスが指さした先には、塩焼きされた猪の肉。
「バスティス様はお料理ができますのね。私も……少しずつ、できるようになっていかなければ」
 小さく切った肉を頬張り、ヴァージニアは真面目な顔をしてそんな言葉を口にした。
 見ればヴァージニアの白い指には、細かな傷が無数にあった。料理の手伝いをしようとして、失敗したときに付いたものだろう。
 もしかして、とバスティスは花丸へと視線を向けた。
「むむ? これは……見たことのない野草だね」
 恐る恐るといった様子で野草を啄む花丸の手にも細かな傷。料理が苦手な彼女たちが、それでも精一杯に宴の準備を手伝った証だ。
「仕方ないなぁ」
と、そう囁いて。
バスティスは若干焦げた猪肉をヴァージニアと花丸の皿へと取り分ける。
 それと同時に、ほんの少しの回復術で2人の傷の治療した。 

「この山には、食べられる野草やキノコが豊富に生えていましたね。それも祀熊様とやらの権能なのでしょうか?」
 皿に注がれたキノコを食みながら、クラサフカはそう呟いた。
 彼女が今食べているのは、毒性の強いキノコである。だが、適切な処理を施せば、毒素だけを取り除き、滋養強壮のある食材へと転じるのであった。
 そのほかにも、クラサフカの傍には薬効のある野草が積み上げられていた。どれもこの山で採取してきたものばかり。
「食物だけでなく、薬も作り放題ですね」
 周辺の村人たちは、薬草のことを知っているのか。
 そんな疑問を抱きながらも、箸を操るクラサフカの手は止まらない。

 社から幾分離れた位置で、セルウスは1人静かに酒の杯を傾ける。
 傍らに置かれたカンテラが、セルウスの周囲を淡く照らし出していた。
「お仕事なら何でもやるけど、良い事は気分がいいねえ」
 杯の中身は、澄んだ色をしたカムイグラの地酒であった。
 どことなく甘い香りのする酒で、セルウスは唇を湿らせる。
「乾杯」
 と、囁くようにセルウスは言う。
『おう』
 なんて、応じる誰かの小さな声がセルウスの耳朶を震わせた。
 その声は女性のようでもあり、男性のようでもあり……また、子供のものとも、老人のものとも判別がつかない。
 一瞬、呆けた顔をして……。
「はは、そっか……依頼は成功ってことでいいのかな?」
 誰にともなく、そう告げた。

 料理の乗った皿を両手に、ティスルは縦横無尽に駆け回る。
「ほら、料理が冷めないうちにどうぞ!」
 空いた皿に肉を乗せ、乾いた杯には酒を注いだ。
「飲んでます?」
 なんて、鎧を着こんだ武者の手元へ小さな杯を差し出した。それを受け取った武者は、深く頭を下げ「かたじけない」と、礼を述べる。
 見れば、ティスルたちに猪狩りを依頼して来た武者ではないか。
「ところで御仁、ゆっくりと宴を楽しまれてはどうかな? 猪狩りで疲れておろう。給仕はほかの者に任せて……」
「うぅん、いいの! 私はお料理が出来ないからね。その分しっかり配ってみせるよ。ウェイトレスだって必要な役だもの!」
 武者の言葉を断ち切って、ティスルはその場を飛び去った。
 そうして彼女が向かった先には、社の正面で胡坐をかいて酒を飲む浅黒い肌の妙齢の女性。女性にしては大柄で、どういうわけかリズリーと肩を組んで大笑いしていた。
 その手には大きな朱塗りの盃。強い酒精の香りが漂う。
「あれ? こんな人いたっけ?」
 猪肉を頬張る2人を一瞥し、ティスルはこてんと小首を傾げた。

「失礼、これは何処へ持っていけば良い?」
 木の板に乗せられた生のままの猪に肉を両手で抱え、ベネディクトはそう問うた。
「うん? あぁ、そこのな、社の中に置いとくれ」
 応えを返したのは、リズリーと肩を組んでいた妙齢の女性だ。
 にぃ、と笑った口元からは鋭い犬歯が覗いている。
「やはり、貴女は……」
 女性の指し示した先には祀熊様を奉る社があった。しっかりと閉じていたはずの戸が、どういうわけか僅かに開いているのが見える。
 女性はそっと、赤い唇に人差し指を押し当てて「黙っておれよ」と、そう告げた。
 ベネディクトは黙礼すると、肉を社の中へと奉納。戻って来た彼の眼前へ、その女性はそっと盃を差し出した。
「ありがたく頂戴いたします」
「硬いのぅ、異国の人よ……随分昔に、お主に似た者と会ったことがある。その者は、えっと……なんて言っておったかの?」
「ベネディクトだよ、ベネディクト。ベネディクト=レベンディス=マナガルム!」
「リズリー、随分と酔っているな。それは俺の名であって彼女の言う〝その者〟とは違う」
 酒豪の彼女が、ここまで酔うとは珍しい。
 赤ら顔のリズリーを呆れたように一瞥し、ベネディクトは盃を受け取った。
 その様子を見て女性は何かを思い出したようである。
「その者は確か侍……否、騎士と言っておったかの。お主もそうか? そうであろう? たしか騎士には何とか言う敬称が付くのではなかったか?」
 なんじゃったかな、としばし考え……。
「そうじゃ。郷じゃ! お主、ベネディクト=レベンディス=マナガルム郷であろう!」
 覚えたぞ、とそう言って。
 女性……祀熊様は、いつの間にか消えていた。
 驚きに目を見開いたベネディクトだが、やがてくすりと笑みを零して、社へ向けて盃を翳す。
「乾杯」
 コツン、と。
 盃の端が触れ合うような、微かな音が何処かで鳴った。

成否

成功

MVP

ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
無事に猪を奉納し、祀熊様にも宴を楽しんでもらうことが出来ました。
依頼は成功です。
以降10年、近隣の村々が食に困ることはないでしょう。
村の住人たちにとって、皆さんの活躍はまさに英雄と呼ぶにふさわしいものでした。

この度はシナリオリクエスト、ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?
お楽しみいただけたなら幸いです。
もし縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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