シナリオ詳細
再現性歌舞伎町1980 永遠の泡
オープニング
●今日も札束の雨が降る
黄金色の街がある。その街はいつまでも明けぬ夜とネオンサインに包まれ、一万円札が花吹雪の如く飛んでいく。
ボディコン衣装の女性が跳びはねながら札吹雪に手を伸ばし、グレーのスーツを着た男立ちが地面につもったそれらをかき集めている。
パープルカラーのスーツを着た恰幅のいい男はオープンカーのボンネットに腰掛け、肩掛け電話を自慢げに見せびらかしている。
ここは再現性東京1980歌舞伎町ナイト。短縮して歌舞伎町1980とも呼ばれる『はじけないバブルの街』である。
今日もホストクラブではシャンパンのコルクが天井めがけて――。
ドウ、という鈍い音と共に男の顔面に拳が入った。
歯が吹き飛ぶほどの勢いに、男は泥水の裏路地に倒れた。
「金を借りるのはいい。期限までに返さねえのも、返済額の割増選んだオマエの自由だ。だがな――」
倒れた男のネクタイを掴んで無理矢理引き起こす。
そして、厳めしい顔を鼻先まで近づけた。
「オンナをソープに沈めて返そうってのは、どうだ。それじゃあ……」
「なんだよ、何が悪い! どうせあいつだって」
もがいて逃れようとする男の顔面に、再びの拳がたたき込まれた。
「それじゃあ筋が通らねえ」
汚水と虫と野良猫ばかりの裏路地を出ると、野外に垂れ流されるディスコミュージックとピンクチラシだらけの電話ボックスが出迎えた。
更に明るい方向へ歩いて行けば、ギラついたネオンだらけの表通りへたどり着く。
客引きのボーイ、札束をちらつかせるナンパ男、道ばたで吐いている眉の太い女。すべてこの町の日常だ。
男は通りを抜け、路肩に停車されている黒塗りの高級車を見つけると足早にその後部座席へと寄った。
開く窓の先でニッと笑う眼帯の男。
「鮫島の兄貴……」
「よーぉゼンゾーちゃん。調子どないや? 儲かっとる?」
手をかざし、ニヤニヤと笑う鮫島という男。
――九美上興和会 二次団体 鮫島組 組長
――鮫島 五浪
鮫島は膝の間に立てた金属バットのグリップにトンと手を置くと、窓から軽く身を乗り出した。
「…………」
「相変わらず無口やのぉー。でもワイには分かるでぇ……?」
ちょいちょいと人差し指で手招く鮫島。
ゼンゾーと呼ばれた男は示された通りに顔を近づけたが、大して鮫島は目をカッと見開いた。
「ゼンゾーちゃんが、ごっつい奴やっちゅうことがな」
「……買いかぶりすぎです」
ゼンゾーは懐から万札を百枚ほどとると、それを鮫島へと着き出した。
「謙虚やのーお。ホイ、ゴクローさん」
鮫島は笑って、札束を受け取った。
●弾けたことを知らぬ街
あなたが高級な木の扉を開くと、部屋はひどく暗かった。
どういうことかと首をかしげながら立ち入ると――。
「よぉーこそー!」
「「鮫島組へー!」」
突然部屋の灯りがつき、クリスマスめいた三角帽子を被った厳ついアロハシャツの男たちが一斉にクラッカーを鳴らし紙リボンや紙吹雪を撒いた。
その中央。右手を胸に当て左手で斜め上の空を掴むようなナナメポーズでニカッと笑う眼帯の男。
彼こそが今回の依頼人。鮫島五浪である。
目だけを動かしてイレギュラーズたちの反応を一通り見たあと、スッと真顔に戻った。
「まあ、スベる気はしとったわ」
「今回やって貰うんは借金回収や。
ワシんとこはココで建設業を営んどってのお。たまーにシュミで金貸しの手伝いをしとんねん。
ここはええでえ。誰も彼も欲望ドッサリ! 金遣いガバガバ! それに憧れて移り住む奴は軍資金ほしさに金を借りる。
でもってそんなかによぉー現れるクズを、バットでボッコボコにすんのがワシのシュミやねん」
必死に散った紙吹雪やリボンを掃除しまくっているアロハたちをスルーして、一人がけソファーに腰掛けた鮫島は語った。
「金融のヤツらかて無限に金を引っ張ろうってハラやない。金に汚いクズは大事な大事なお客様や。
生かさず殺さず毎日ちゃーんと利子をもろおて、みんなニコニコウィンウィンやで」
ダブルピースをちょきちょきしながら笑う。狂犬のような目と眼帯をした彼が笑うと今にも人を殺しそうだが……。
「せやけどたまぁーに金を借りるだけかりてまーーったく返さへん不届きモンがおる。
中には返さへんどころか取り立て人を殺して踏み倒そうっちゅーダッサい輩もおんねん。
そういう輩をボコすのがスッキリできて楽しいんやけど……ンー」
目を瞑って空を仰ぐ。
「ワシの鮫島建設がごっついタワーの建設を請け負ってもうてな。遊んどる暇がのうなってもうてん。
せやから。名声も上々、腕っ節もバツグンのローレットにオモチャを貸したろおもてな!」
鮫島が提示した『取り立て先』は二箇所。
どちらも夜逃げ寸前の廃業ホストクラブやスナックである。
ホストクラブはスタッフたちを使って取り立て人を暴力的に追い払い、スナックはチンピラを用心棒に雇って追い払っているらしい。
「どっちか片方でええ、両方できたら尚ええ。
ちょっくらそこへ行って、金と金になりそうなモンを取り立てて来て欲しいんや」
簡単な話……のようだが。
鮫島は目の奥のギラギラとしたものを隠さなかった。
「けど、ホストクラブのほうはちぃと事情がちゃうで。
ゼンゾーちゃんっつーごっつい『取り立て代行』の男が今まさに取り立てに行っとんねん。
あっちこっちから金借りとったんやのお。他とカチあったんやろな。
ウチらのルールじゃ先に取り立てた方が勝ちや。三つ巴の争奪戦やで」
ソファーのそばに立てかけていたバットを手に取り、たちあがる鮫島。
「さーぁプレイボールや! 世の中楽しんだもん勝ちやでー!」
ブンとスイングするバット。すっぽぬけていくバット。高そうな絵画に突き刺さるバット。
「……あ」
- 再現性歌舞伎町1980 永遠の泡完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年07月26日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●札束の雨にうたれて
「なるほど、この御仕事――」
夜のアスファルト道路の真ん中で、黒いスーツを纏った『狐です』長月・イナリ(p3p008096)が蛇皮の革靴を鳴らした。
黒いティアドロップタイプのサングラスを額へと押し上げ、にいっと笑う。
「借金取りってやつね!」
「なんですその格好は」
『Black rain』鵜来巣 冥夜(p3p008218)は細い紫と白のストライプネクタイをきゅっと締め直し、眼鏡の位置ををどこか几帳面そうになおした。
「モチロン借金取りルックよ」
金の時計に金のネックレス。ついでに頭部を完全獣化することで狐獣要素を増してみせた。
「たしかにいかにもですが……よく売ってましたね、そんな時計やネックレス」
「そこの店で100万円で売ってたわよ?」
ちなみにこの街での一万円札一枚が1G以下で取引されているのでこの時計実はすさまじい安物である。しかも今回は経費扱い。
「ふむ……」
冥夜は少しだけ、この町の仕組みが分かった気がした。バブルが弾けないのではない。弾けたことに誰も気づいていない世界なのだ。きっとこの時計も狐に化かされたかの如く、街を出た途端ガラクタに成り下がることだろう。
しかしだからこそ、永遠に夢を見せ続ける人間がここにはいて、それを必要とする人々が暮らしているのだろう。
「ホストクラブは夢を売る仕事。それが夢だと気づかないほど幸福にしてこそのホストだというのに……」
フフ、と小さく笑い冥夜は反射した眼鏡の奥で目つきを鋭くした。
「スジの通らねぇやり方でホストの名を語るバカどもにはヤキ入れてやらねぇとなぁ!」
「じゃあ、私が先に入って一悶着起こすから、後から来てもらえますか?」
「りょ」
『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)と『もうイケメンに恋なんてしない』ハナ(p3p008591)はジェスチャーを交えて話し合っていた。
どうやらホストクラブには先に『目指せ!正義の味方』蔓崎 紅葉(p3p001349)が客の振りをして潜入しているらしいので、そこにつなげていくつもりのようだ。
ウィズィニャラァムは持ち前のハンサムさを最大限に活かしつつ、バブリーでセクシーな衣装で背中とデコルテラインを見せつけていた。
この先の作戦で説得力と迫力を出すためだ。一方のハナはいつも通りのラフスタイルである。
「ま、私はスカしたイケメンぶん殴れればなんでもオッケーだから。コレで」
かついでいたギターケースから抜刀でもするようにブルーのギターを取り出すハナ。
「おっけおっけ。じゃあ、始めますか」
ウィズィニャラァムは両手で頬を叩くと、深呼吸をしてからホストクラブのドアに手をかけた。
●金で買った平和
「いやぁ……カッコいい男の人ばかりで緊張しますねぇ、なんてへへへへー」
紅葉はホストたちに囲まれながら、カラオケをしたりソフトドリンクをいれたりといった遊びをしていた。
彼女には知らされていないが、席に座った時点でチャージ両としてとんでもない金額が請求されることになるのだが……その心配はもうないだろう。
「ここの責任者の方、いらっしゃる?」
どこか気品ある手つきで扉をあけたウィズィニャラァムが、集まる視線を浴びながら三歩、店内へと入った。
閉まる扉。髪を払うウィズィニャラァム。
「あのときの女が会いたがってる……って伝えてほしいの」
「いやあ、ちょっとオーナーはね」
「お呼びしますので遊んで行かれては……」
顔だけで笑って詰め寄ろうとする男たちに、ウィズィニャラァムは相手の襟を掴んで直してあげるようにしながら分厚い封筒を懐へとさしこんでやった。
「おねがい」
「……あ、あー。そういえばまだ控え室にいたかな」
胸に手を当て、足早に裏へと消えていく男。
しばらくして奥からオーナーらしい人物が出てきたところで――。
「どーも」
ハナがギター片手に入店した。
「私、顔に自信無くてさ、あんたたちみたいに顔の良い男がうらやましいよ」
突然語り出した彼女にホストたちもオーナーも怪訝な顔をするが、かまわず続けた。
「けどさ……そこに胡坐かいてふんぞり返ってる男には腹立ってしかたねーんだよ」
紙袋越しにもかかわらず、ハナがギラリとにらみつけたのがわかる。
ギターを両手で握りしめて走り、テーブルを飛び越えるハナ。
「借りた金も返せなくて何が男だ! 今日こそは耳揃えて返してもらうぜ!」
その発言から借金の回収だと察したホストの一人がすぐ近くのシャンパンボトルを採って立ち上がるが、それよりも早くハナのギターによるフルスイングが謎の衝撃を纏って炸裂。
シャンパンが瓶ごと砕け散り、顔面にギターを食らった男は観葉植物へと叩きつけられた。
「ステージがケバすぎるな。一発やっとくか!」
テーブルに足を乗せ、ギターを演奏し始めるハナ。
幻影の炎が部屋中を舐め始め、ホストたちはそれが幻覚と分かっていても思わず立ち上がってしまった。
「わー! 助けてー!」
紅葉は困惑したふりをしてシャンパンボトルを握り、強そうなホストの男の後頭部へと叩きつける。
「痛っ――てめえ!」
振り向き紅葉へ掴みかかる男。
頭から流れた血にも気づかないほどキレていたが、彼の振り上げた拳が紅葉へと届くことはなかった。
なぜなら。
「ホストが客の女に手を上げるな」
いつの間にか現れていた冥夜が男の手首を後ろから掴み、襟首を掴んで地面へと投げ落とす。
マウントをとってから眼鏡のブリッジを指で押すと、ホストの男を見下ろした。
一度呼吸を整え、穏やかな表情へと戻る冥夜。
「水も滴るいい男……と言うには、貴方がたは性根が腐りすぎている。贖いの雨に沈みなさい」
高く掲げたシャンパンボトルを逆さにすると、黒く変色した酒が男の顔へと浴びせられる。
「よし、準備万端!」
追って入店してきたイナリが、魔力障壁と破邪結界をそれぞれ纏って手近なホストめがけて革靴で蹴りを入れた。
「チィ、どこに雇われたか知らねえが……タダじゃ済まさねえぞ!」
ポケットナイフを取り出しイナリめがけて突撃してくるホスト。
しかし刃が彼女に刺さることはなく、イナリはエーテルコーティングされた手で刀身を掴むとホストの脇に膝蹴りを入れた。
「危ないわね。怪我したらどうするのよ」
とりあげたナイフを放り投げると、剣に革鞘をかぶせてひもでぐるぐると固定した。
「大けがする前に謝ることを薦めるわ!」
にらみ合うホストたちとイナリたち。
そこへ。
飛んできたナイフをキャッチし、パチンと畳んでレジカウンターへと置く男がいた。
「こいつは、どういう状況だ?」
激しく乱れた店内の様子と、既に殺し合い状態となったホストとイレギュラーズの有様を見て、大柄な男が首をかしげた。
――借金回収代行人
――ゼンゾー
「俺はこの店が負ってる借金の取り立てにきた。トラブルなら後にしろ」
「口で言ってきかねぇ相手に筋もクソもあるかよ。これは暴力という名の話し合いだぜ?」
ギラリと目を光らせて振り向くハナ。
ウィズィニャラァムもまたすぐ近くのホストの襟首を掴むと――。
「鮫島組の取立てじゃワレェ!」
指輪をした拳を顔面にたたき込み、ホストを殴り倒した。
わずかに目を細め、眉間に皺を寄せるゼンゾー。
「鮫島の兄貴が……? どういうことだ」
「筋が通らねェってんなら、良いでしょう……」
ウィズィニャラァムはゼンゾーをにらみつけ、地響きが聞こえるかと思うような力強い一歩で詰め寄った。
「無理を押して、通してこその筋よ!」
●スナック『愛シャドウ』
ホストめいた服に着替えた『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)が、襟をきゅっと正す。
ここは再現性歌舞伎町のスナック街。細く入り組んだ道の中に狭くてちいさな店が建ち並ぶ。警察も法律もあってないようなこの街で、ここはひときわアンダーグラウンドな場所だ。
「オレは思うんだ。チンピラたちだって金で雇われてるわけじゃないって」
「まあ、借金踏み倒してホスト狂いしとるママさんやもんなあ」
積み上げたビールケースを椅子がわりにして足を組む『化猫』道頓堀・繰子(p3p006175)。
いつものラフスタイルからヒョウ柄ジャケットとグリーンのタンクトップというちょっと入れ替わったような服装に着替えていた。下はレザーのパンツにショートブーツ。なかなかにビビっとした格好である。
「きっとはみ出し者に愛情かけてくれるママだから守ってるんじゃないかな」
「……ほおかあ?」
否定するでも肯定するでもないふんわりしたニュアンスと顔でかえす繰子。
「まあ、なんでもいい。借りたものを返すなんて当たり前だろう。返さぬのならば力づくでやらせてもらうまでだ」
黒のパンツスーツをビシッときめた『筋肉最強説』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)が、窮屈そうにブラウスの胸元ボタンを外した。
剣はベルトに通すタイプの固定具に収め、全体的にクールにまとめていた。
「じゃ、先に行かせて貰うぜ。連中は任せた」
一悟はビッと二本指を立てると、スナックへと入っていった。
「ママ、ミルクを一杯。ストローはなしで」
席について注文をする一悟。その左右ではニヤニヤとしたチンピラが酒を飲みながらのぞき込んでいた。
「あんたどっからきた? こんな店はいってミルクかよ」
「そういえば、名乗ってなかったな」
一悟は胸ポケットから出した名刺をママさんへと突き出した。
「オレ、一悟。ヨロシク」
「オイコラァ!」
無視されたことにキレたチンピラのひとりが立ち上がり、一悟へと掴みかかった。
「テメェ舐めてっと――」
にらみをきかせようとするチンピラ。
その頭髪を、店に突如入ってきたブレンダが掴んで店の壁へと叩きつけた。
元々脆くなっていたのか隣の店へと壁を突き破って転がり、チンピラが頭を抑える。
突然のちん入者に同じくスナックを経営していたであろうママさんや客が悲鳴をあげて店を飛び出していった。
「なんだアンタたち!」
「おう、邪魔するでー!」
繰子はポケットに手を入れて店に入り、何かを手に取ろうとしたママさんめがけてハイキックの高さで壁を蹴りつけた。
頭のすぐ横。肩の上。壁ドン的位置に足をかけられたママさんがびくりと動きを止め、繰子はガムを噛みながらニイっと笑って見せた。
「無い袖は振れんっちゅう話やったら鮫島の組長さんにアンタを突き出すだけやねんけどなー。
歳いってても1つぐらい売れる内蔵もあるやろ。
なぁ? 死ぬまで『健康』でおりたいんやったら、ここらで誠意っちゅうんを見せとかんと次はあらへんで?」
悲鳴をあげて逃げようとしたママさんの頭を刈り取るように蹴り倒す。
ママさんはカウンターに頭をぶつけてそのまま気絶した。
「テメ――」
「殺してへんで。そこの連中は知らんけどな」
言うがはやいか、椅子から立ち上がった一悟が近くの酒瓶をチンピラの顔面に叩きつけた。
「借りたものは返す。子どもでも知っているぞ? そんなことは。それができないなら借りるな阿呆! 取り立ての時間だ! さぁ来い粋がる雑魚共!!!」
隣の店というか壁を抜けた先では、ブレンダがチンピラのマウントをとってひたすらに顔面を殴り続けていた。
血のついた拳をそのままに、ゆらりと立ち上がる。
「貴様らが暴力を使ってくれてありがたい。こちらも暴力を使えばいいからな。覚悟はできているんだろう?」
「自分ら殺されへんと勘違いしとらんか? 言っとくけど生殺与奪はうちらが握っとるんやで?」
同じく拳を鳴らしながら振り返る繰子。
「ヒッ――」
あまりに暴力的な彼女たちの振るまいに、チンピラたちは一目散に逃げ出した。
フウと息をつき、倒れた椅子を直して座るブレンダ。
「……で? その女はどうする」
気絶したママさんを指さした。
しばらくして目を覚ましたママさんは、店の惨状と繰子たちを目の当たりにして再び悲鳴をあげた。
その肩を叩く一悟。
「すまなかったな。銀玉やホストにつぎ込む金、オレたちに貢いでくれねぇかな。チンピラたちのためにもさ」
そう言って、ブレンダが見つけてきた権利書らしきものを手に取った。
「じゃ、これは貰っていくぜ」
●勧善勧悪
ソファが水平にスイングされ、ウィズィニャラァムへと激突した。
思わず転倒し、高級な絨毯を転がるウィズィニャラァム。
と同時にすぐ近くにいたホストが直撃をうけて吹き飛び、テーブルをなぎ倒しながら店の壁に激突。バウンドして地面に転がった。
ゼンゾーはソファーをその場に放り投げると、店の奥で震えるオーナーへと歩いて行く。
「待て!」
すぐさま起き上がり、構えるウィズィニャラァム。
「さあ、Step on it!! 逃げずに見ろよ、これが私だ!」
既に背を向けていたゼンゾーは小さく振り返り……。
「アンタとやり合う気は無い。俺は金を取り立てにきただけだ」
「一度始めた喧嘩だ、やり通すのが筋だろうが!」
後ろから殴りかかるウィズィニャラァムの攻撃を、ゼンゾーはかする形で回避して向き直る。
「何なんだ。邪魔をするな」
その一方で、紅葉とハナは協力してホストを殴り倒していた。
スタンガンを装備したホストの攻撃をしのぎ、ギターと蹴りによって転がす。
「ふいい……そろそろキツいですね。後は任せていいですか?」
紅葉は血の流れた肩を庇うように押さえると、手を振って店を出て行く。
「紅葉ちゃん打たれ弱いですからね! これ以上はね!」
「ん」
そういうことならとハナは別のホストに向き直るが、できることならそろそろ帰りたかった。疲れも痛みもだいぶかさんできたところである。
「ホストくずれがネバりやがって」
一方でイナリはナイフを装備したホストと向かい合っていた。
鋭い突きをギリギリのところで剣で払うようにして回避し、その勢いのまま回し蹴りを繰り出す。
ホストは蹴りによって倒れるが、素早く起き上がってナイフを投げつけてきた。
胸を庇うようにかざしたイナリの腕にナイフが刺さる。
ナイフに込められた何かの術によって障壁がブレイクされたことに気づいたイナリ。
さらなる追撃をかけようと突撃をしかけるホスト――だが、次の攻撃がイナリに届くことはなかった。
再び障壁を張り直したイナリによって攻撃が阻まれたのである。
「残念だったわね」
剣で殴り倒すイナリ。
決着がついた――と思われたその時、イナリの後ろ襟を誰かが掴んだ。
激しい音をたて、高級なテーブルが砕け散った。
イナリと冥夜が投げ飛ばされ、絨毯の上を転がる。
ホストとゼンゾーの両方を同時に相手にすることになった彼らはそれだけキツい状況にあったが、しかし冥夜は余裕の笑みを崩さない。
かなり鉄壁の防御能力をもつイナリが追い詰められ、足止めを担当していたウィズィニャラァムが突破されるという状況。『全員殴り倒して解決』という戦闘力依存に振り切った作戦ゆえに、戦闘力が高く要求されたのかもしれない。
それゆえ、うかうかしていたら逃げ帰るのは自分たちということにもなりかねないキツさになってきた。
冥夜は途中から作戦を変更。
立ち上がり、ホストのオーナーへと振り返った。
「話し合いませんか。これ以上店が壊れては再建が難しい」
見回せば、テーブルもソファーも激しく壊れ、シャンパンのボトルはことごとく割られていた。
冥夜が保護結界を施していたとはいえ、直接つかんでぶん投げていてはこの有様である。
「借りたオモチャを壊したままでは申し訳ない……というのは建前ですがね」
ちらりとゼンゾーのほうへも振り返る冥夜。
「この店から金を回収するだけではホストも行き場を失います。
ここは『再現性歌舞伎町』。混沌世界になじめなかった者たちがバブル経済の熱狂の泡へと引きこもった街です。はじき出されればどうなるかわからない」
「……どうするつもりだ」
ゼンゾーの問いかけに、冥夜は眼鏡の位置を直してキラリとレンズをひからせた。
「私が再建します。彼らを雇い、店を修繕し、まっとうなホストクラブとして……街の人々に夢を見せ、夢を守っていく所存です」
一度は撤退していた紅葉が入り口からチラリと顔を見せ、傷だらけのハナも立ち上がって状況を見守る。
冥夜の式神である黒髪ホストが、イナリのカラスと共に店内へとやってきた。
もう戦いの雰囲気ではない。
そう察したウィズィニャラァムはナイフと帽子をしまい、成り行きを見守ることにした。
いや、見守るだけではまだ弱い。加勢せねば。
「どうでしょう。再建した後、その稼ぎからそちらに返済するというのは」
ジェスチャー交じりに話に加わっていくウィズィニャラァム。
「それなら筋も通るのでは?」
「……かもな」
ゼンゾーはゆっくりと冥夜へ歩み寄ると、彼のつま先から頭までを観察するように見た。
「わかった。太宰府ファイナンスには話をつけておく。この店にも『通わせて貰う』が……それでいいな?」
「ええ。歓迎いたします」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
――スナック『愛シャドウ』からの回収に成功しました
――ホストクラブ『ブランド』からの回収に一部成功しました(回収金をゼンゾーと折半しました)
――ホストクラブ『ブランド』は鮫島組をケツモチとした新しい店に入れ替えられました。
――仮に新オーナーのコアからとって『シャーマナイト』としています。
GMコメント
■オーダー
二つの店から借金を回収する。
基本的には武力で解決することになる模様。
どちらか一方だけでも回収に成功すれば依頼は成功扱いになります。
が、双方ばっちり回収できたなら(その回収度合いによっては)ボーナス報酬がでることがあります。
両方解決したい場合、チームを二手にわけて挑んでください。途中合流は不可となります。
●ホストクラブ『ブランド』
半グレのホストばかりを集めた店。
ホストクラブとは名ばかりでぼったくりを主な資金源にしており、店員達の暴力によってそれを実現している。
店を建てるにあたって金を借りたが返す気がないらしく取り立て人を店員達の暴力によって追い払っている。
回収時、戦闘することになるのは主にホストたち。
その辺の酒瓶を武器にしたりナイフやスタンガンを武器にするが、(混沌ルールもあって)戦闘力はそれなりに高め。
人数がさほどではないので、しっかり戦えば大丈夫、かも。
・ゼンゾー
他社の借金回収を請け負った代行人。利害の関係である種敵対することになる。
再現性歌舞伎町でフリーの『代行屋』を務める。
『筋が通らねえ』が口癖で、どんなに条件がよくても筋の通らない仕事は受けない主義。
なので彼が受けている時点であちら側の筋も通っていることになる。(鮫島談)
個人戦闘能力が高く、その辺にあるものを使って暴れ回る戦法をとる。好きだらけだがまっすぐなので、物理的ないし精神的な足止めが通じづらいタイプ。
彼がどのタイミングで関わってくるかは行ってみないとわからない。
●スナック『愛シャドウ』
チンピラを雇って借金を踏み倒し続けたスナック。
40台後半のママが一人で経営しているが、基本的にパチンコやホストで金が消える。
店の金もだいぶちょろまかしているため経営的にもかなりワルい。
複数の金融から金を借りたが、割と昔から慕っているチンピラたちが店を守っているため回収できていない。
今回一本化して鮫島組が回収を代行することに。
チンピラたちはドス(短刀)やチャカ(拳銃)を主な武器とし、猛烈な戦い方をします。
ゆうて混沌は素手のヤクザが戦車を粉砕することのある世界なので、武装の規模はあてになりません。
戦闘力はだいたい拮抗している筈なので、『ナメられたら負け』の精神でいきましょう。
精神的に勝てば大体勝てる、くらいの感覚です。
■再現性東京(アデプト・トーキョー)とは
練達国内に存在する区画のひとつで、主に地球世界の日本出身のウォーカーや彼らに興味を抱く者たちが作り出した『再現された現代日本』です。
再現性歌舞伎町はこのうちの『1980街』の一部にあたり、バブル景気の歓楽街が広がっています。
一万円札が1GOLDで取引され、街の中では札束をばらまくように暮らすのが普通です。
今回はローレットとたまたまコネをもっていた鮫島からの依頼で仕事をすることになりました。
好みのスーツでビシッと決めて飛び込んでみましょう。
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