シナリオ詳細
高天京の怨霊騒ぎ
オープニング
●この頃京に流行るもの
この頃 京に流行るもの 夜討ち 夜盗 怨霊騒ぎ
咎なくて死す 長恨の 報い 呪いのたぐいとて
身に覚えありとぞ ひと知るを 震えて眠れぬ 夜を明かし
恨みつらみを 重ねてたり その白髪の
染まる長さは 三千丈 落つる覚悟の 畜生道
以上は、高天京(たかあまのみやこ)に書き綴られて口さがない人々の間で話題の俎上に登っている落書である。
これが式部省の中納言・諸宮上春(もろみや・かみはる)との政争に破れ、高天京から追放の憂き目に遭い、配流先で失意のうちに病没した師名原宣直(しなはら・のりなお)の無念を示唆していることは明らかであった。
「大方、宣直卿の名によって麻呂を当てこすって怯えさせようという魂胆であろうの」
上春は、高天京各所に書き殴られたという落書について、せせら笑うように言った。
京では、怨霊騒動が相次いでおり、これが上春を批判する口実に使われている。
彼は、怨霊ごときで怯えるような真っ当な人物ではない。
しかしながら、怨霊騒ぎを利用する政敵の存在について放置するような性格でもない。
「しかし、中納言たる麻呂を陥れようという謀議があるのなら、放置もできぬな。そも、京の人々を怨霊騒動で騒がせ、帝のお心を煩わすなど言語道断の所業でおじゃる。早々にその目を摘んでおいてくりゃれ、花扇殿」
「はい、承りました――」
花扇は上春にうやうやしく頭を垂れ、怨霊騒動の調査と解決に当たることとなった。
●怨霊騒ぎと落書の件
「以上が、こちらの事情です――」
花扇は、名門細川家の娘で才女と評判の女官である。そんな彼女が、なんとも言えぬ表情でイレギュラーズたちに事情を説明するのだった。
高天京で流行しているのは師名原・宣直の怨霊が復讐に現われるというものだ。
「実を言えば、宣直卿の怨霊というものには心当たりがあるのです。だとしたら、悪戯ではすまないでしょう」
花扇は、説明する。
高天京より追放の憂き目にあった宣直卿の怨霊については、目撃例と卜占によって魔術的に感知されているらしい。
「この高天京の結界が、何者かによって破られているのが確認されています。怨霊の仕業ではなく、人の手によるもの。……つまり、他ならぬ人が怨霊を手引して京に引き入れた、私はそのように思います」
なるほど、怨霊は魔除けやまじないのたぐいには触れられぬが、人ならば。
書き殴られた落書も、怨霊の仕業というよりも怨霊の存在によって人々を――特に中納言・諸宮上春を怯えさせようというのなら、合点もいくところである。
「その人の手の方にも、心当たりがございます。宣直様は、ご息女を残しておられます。それが今年で齢十五となる薫子様です。父君の無念のことで、中納言様を大層恨んでおられるそうですが……」
師名原宣直の娘、薫子――。
この怨霊騒動が彼女の仕業であるとなったら、ただではすむまい。
「中納言様は、怨霊を恐れるようなお方ではございません。ですが、もし薫子様が高天京を騒がしたことが明るみに出たなら、京の人々を騒がせた罪を着せられてしまうでしょう。亡き宣直様のことを思うと、なるべく穏やかにすませたいのです」
花扇は、一拍おいて集まったイレギュラーズの顔をあらためて見回した。
内々のままにして置けるかどうか、その信頼を託していいのかを判別したのであろう。
「そこで、宣直様の怨霊をお鎮めいただき、もし薫子姫が本当に騒動を起こしているのなら……どうか今のうちにお諌めしていただけないでしょうか?」
- 高天京の怨霊騒ぎ完了
- GM名解谷アキラ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年07月26日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●怨霊騒ぎ
時は、草木も眠る丑三つ時。
高天京の往来には、人の気配はない。
「権力争いに破れた人が怨霊となっているって話だけど……本当にそうなのかなあ」
落書の真相を暴こうと、往来を監視するのは、『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)である。
「いろいろ気になることもあるし、みんなで手分けして調べて、真相を明らかにしたいね」
「そうだな。しかし、発端は政治屋同士のいざこざか……ファッキン面倒くさいな。ぶっ飛ばせれば簡単な話だが、そうもいかねえ」
『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)も落書きの調査に加わっている。
結界について探れるわけでもなく、判断もつかない。
ただ、落書きの内容からは何かを感じる。権力闘争で破れた側の怨念、無念の想いがひしひしと伝わってき。
「で、どうだ? 何かわかりそうかい?」
「……うん。やっぱり、この落書も薫子さんの筆跡のようだね」
花扇から受け取った薫子の筆跡と、壁に書かれた落書を明かりで照らし、見比べて津々流が判断する。
ただ、その歌から伝わる怨念の無念は、15の娘のものではないだろう。
歌人文人としても知られた、父親が囁いた言葉を書き写したかのようである。
津々流の発した言葉の意味を、皆は悟っていた。
「陰湿で嫌な貴族の依頼ってのも正直複雑ですがこれもお仕事ですからね!」
『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)も落書の調査に同行していた。
「復讐に囚われた娘ってのも気になりますし、頑張りますよ!」
やはり、無念のうちに配流先で亡くなったという師名原宣直の娘、薫子が気になる。
都の落書も、その娘によるものではないか?
イレギュラーズたちの見解は以上のとおりである。
問題は、薫子もまた怨霊に取り憑かれている可能性がある、ということだ。
●破られた結界
「公家の世界は権力闘争、権謀術数の舞台と申しますが……高天京でもそれは同じようで」
ため息交じりに『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)は言った。
「権力争いか~、なるほどね。怨霊も怖いがそれ以上に怖いのは弱くてずる賢い人間どもだ。事の真相を突き止めてやるぜ」
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は、高天京の結界の調査に赴いている。
「まずはこの件を穏便に収め薫子殿の安全を確保すると致しましょう。焦りは禁物、刺す時は必殺のタイミングで……です!」
「必殺のタイミング、ねえ」
ぐっと拳を握るるる家に、 ジェイクも少し引いてしまいそうになる。
言葉に力はこもっているが、薫子の説得という点では共通している。
「拙者、呪術的な事はわかりませぬが、結界を破ったからにはそこからの侵入を意図したのだと想像します!」
それがるる家の推理である。
落書の調査とは別に、結界を破った痕跡の調査に向かっている。
帝がおわす都となると、霊的な守護も万全を期さねばならない。さまざまな魔から、国家を鎮護する者たちが施した魔除けが、至るところにあるのだ。
「やっぱりか……」
高天京の北東、入り込む魔を退けるための社の注連縄が断ち切られていた。
落書きといっても、都の貴族を当てこすったものだ。思っている以上に危険な行為である。
だとしても、結界を破るような必要はない。
つまり、落書きの主は結界を邪魔だと考えているようだ。
「な、結界ってそもそも15歳のガキが大した下準備もなしで破れるモンなのかい?」
その様子をジェイクの背後から覗き込んだ『放蕩無頼 』晋 飛(p3p008588)が言った。
「破るのは簡単かもしれないが、わざわざ破る必要があるとしたら……やっぱり怨霊を都に連れてやってきているってことじゃないか」
ジェイクは普 飛に答えながら、視線を足元に落とす。
ジェイクのハイセンスと獣の嗅覚ならば、足跡の形状、匂いまでも見分け、嗅ぎ分けられるのだ。
「権力闘争ってか。下らねぇとは言わねぇ。だが、役人の本分ってなそれじゃねぇ。足の引っ張り合いがそれに繋がんのかよ」
役人というのは帝のお考えを受けて民草を安んじるためにいるものであり、偉くなるのも本来は上意下達のためにいるものである。
それを忘れて権力争いに明け暮れるというのは、意義を申し立てたくなるというものだ。
「はれ、まぁ。都にはずいぶんと粋なもんがはやっとんのやね」
『神使』陰陽 秘巫(p3p008761)は、例の落書きの意味を解きながら歩いていた。
「ほんまに大層なお覚悟やこと。震えて眠れんのは、はて、誰なんやろなぁ?」
その探索の中で、落書への返歌を仕上げていたのである。
積もりてし ながき愁いの 秋霜に
夜一夜あかさむ 汝やいずこ
訳:秋霜のように髪が白く染まるほど恨みつらみを募らせてしまったあなた
眠れぬ夜を過ごしているだろうあなたはどこにいるのですか?
私はその夜のような憂いを明るくして差し上げたいのです
「こないな風流、応えたげなあかんわな」
「恨み言にも歌を返すってのは、風情があるな」
「な、風流やろ? おんなじ秋浦歌から引っ張って詠んだもんや」
落書は、まるで日を追って上春の屋敷へと迫っているようであり、秘巫はその先にある壁にその返歌を書き綴った。
感心する飛に、秘巫はくすりと笑ってみせた。
もちろん、風流を競おうというものではない。
落書の主に対し、その恨みを解する心を伝え、会おうという提案の返歌である。
教養あるものならば、きっと応えるはずだ。
●怨念とともに
事態が動き始めたのは、明け方であった。
といっても、まだ日が昇りきらぬうち。
薄暗い中、墨壺を持ったまだ年若い少女が現われる。
師名原宣直の一女、薫子である。
自分の恨み歌に返歌を返す物好きがいたことに面食らっていた。
「わたくしに、会おうというの? この無念を、知ってくれるというの……?」
薫子の胸は、そぞろざわめいていた。
父の無念を晴らす、その一心で都に舞い戻り、夜を彷徨って落書を残したのだ。
残された返歌は、孤独な彼女に響いたのだった。
「娘よ、我が娘薫子よ……。咎なくて死した無念を、晴らすのじゃ……」
「と、父様……」
彼女の背に張り付き、無念を囁く何かが取り憑いていた。
その怨霊こそ、師名原宣直その人であった。
「本当に、父親の霊に取り憑かれていたようね……」
皆と離れて様子をうかがっていた『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)がその様子に真っ先に気づいた。
ゼフィラは、中納言諸宮上春への復讐に加担し、薫子を利用しているものがいるのではないか? その可能性も視野に入れて待機していたのである。
どうやら、今のところその心配はなさそうだが、たとえ実の父であろうと怨霊となって娘に取り憑いているのを放置するわけにもいかない。
ゼフィラは、仲間たちを呼び寄せて怨霊を鎮める準備に取り掛かった。
「あんた、娘に取り憑いてこんな事をやらせたのか?」
ゼフィラの合図に、すっとジェイクが現われる。霊魂疎通の能力で宣直に語りかけた。
「実の娘に取り憑いてまで晴らしたい怨念もわからなくもない。だが、権力闘争に巻き込んでもいいものかな?」
ゼフィラも語りかける。
父の無念を晴らすという気持ちは、当然ものではある。
たが、それが度を越した怨念であったなら、娘も必ず巻き込まれよう。
「望みは何だ? 上春への復讐か? だったら現世を生きている娘を巻き込むな」
「わ、わたくしは、父様のご無念を晴らすために進んで都にやってきて……」
「おおう、良い子じゃ。父の仇を討たぬ子があろうはずがない」
怯える薫子の背で、満足そうに笑う怨霊。
その歪みきった表情から、娘を苛んでいるのは明らかであった。
「あんたの気持ちもわからないでもない。だがあんたは死んでいるんだ。ここは俺たちに任せてくれないか? 悪いようにはしない約束をする。だからこの場を収めてほしい」
「……任せる? 無念を晴らす復讐をか? この手で晴らさずして何が復讐か!」
怨念の波動が、ジェイクに浴びせられる。
銃を持つ手を交差させ、その衝撃をしのいだ。
「そりゃそうさ、復讐するにはそれなりの理由ってもんがあるからな。だから代理で果たしてやるぜ、このミーが約束しよう」
「……代理だと? うぬらも上春の手の者であろうがぁぁぁぁっ!」
駆けつけた貴道にも、容赦なく怨念が浴びせられる。
ビリビリと痺れ、内側から怒りが湧き上がるかのような気持ちが同調しそうになる。
「……お前さんがよ、てめぇを失ったことで悲しんでる娘のためにしてやる事がそれなのかよ! 頭冷やしやがれ大馬鹿野郎!」
怨念の波動は、範囲に渡った。
飛も吹き飛ばされそうになるのを必死で絶えながら、これを上書きするかのような怒りで叫んだ。
「妾なら受け止めたるからね、思う存分暴れはったらええ」
そんな中でも、秘巫は進んで身を晒した。
湧き上がる無念と怨念を、受け止めようというのだ。
「ほら、妾はここやよ。ぜぇんぶ妾にぶつけはったらええ」
周囲の怨霊たちまでもが宣直の怨念によって支配され、群れとなって秘巫に襲いかかる。
しかし、そうして狙いを惹きつけることこそが秘巫の狙いであった。
「殴るだけちゅうんもつまらんやろ? こっちも反撃したるわ」
引きつけるだけ引きつけ、捨身の一撃を放つ。
人を呪わば穴ふたつ、込めた怒りが大きければ大きいだけ、その反動も大きかった。
「ぐおっ……!?」
さしもの怨霊も怯んだ。
「復讐するのはいいですけど、娘さんを巻き込むのはやめましょう? それに娘さんも消されてしまったら、本当に貴方の恨みを晴らす人いなくなっちゃいますよ?」
「……だ、そうだ」
その怯んだ宣直に、ジェイクがしにゃこの言葉を伝える。
相手は権謀術数に長け、中納言に上り詰めた上春だ。
都の人々を騒がせる呪いの言葉を落書したことが明るみに出れば、薫子もまたその餌食となってしまう。
「……それでも、わたくしは遠様の無念を晴らすのです!」
「でも、今暴れても貴女が処されるだけです……たぶん、パパさんもそれは望んでないと思います!」
「ゆ、許さぬ! 上春ぅぅぅ……!」
怨霊に身をやつしたとはいえ、薫子までもが上春の策略にかかることは望んでいない。
しかし、生前とは違い、無念と怒りによって理性を失っている状態にある。
「……怨霊って弾効くんですかね!? とりあえずお経でもよみながら攻撃してみます!?」
怨霊相手の物理の弾丸が効くかは未知の領域だったが、ライフルを向けて狙撃する。
「お、おのれえぇぇぇぇ!!」
しにゃこのクリティカルスナイプは、効果があったようだ。
霊体であれど、物理攻撃が通用する点を見つけたのは、僥倖であった。
「この拳で跡形も無く消し飛ばしてやるよ、あの世で反省しな? いくら恨みがあるからって超えちゃならない範疇ってもんがあるからな!」
すかさず貴道のストレートが決まった。
弾丸が効くなら、拳が効く道理だ。
「……生憎と私は君に同情も何もないのだが、君を捕まえるようには言われていない。まだ諦めきれないなら、次の機会をうかがいたまえ」
一拍の間を置いて、ゼフィラのバーストストリームが炸裂した。
怨念を鎮めてやるつもりもないが、上春を守るつもりもなかった。
閃光による混乱によって、せめて退けようとするゼフィラの慈悲でもあった。
「父御殿も愛する娘の身を危険に晒してまで復讐は望まぬと存じます。ここはどうか、花扇殿を信じて今は雌伏の時と堪えては頂けぬでしょうか?」
「ぐううう!」
「父様、薫子はもう……」
銀河旋風殺にて怨霊を叩き落としたるる家の言葉に、薫子は本心を吐露した。
父の無念を晴らす、それも彼女の望みであった。
しかし、日増しに募っていく父の怨念は娘の思い出を蝕みつつあった。
厳格だが、教養深く時に優しい父――。
それが怪物へと変わっていく。
その怨念が、違う形で晴れるというのなら。
「このような怨霊騒ぎは止めましょう。誰も幸せになるようには思えません」
津々流は秀麗な顔立ちを歪めていった。
落書の歌は、優れた教養を感じさせるものであった。
それが恨みの歌となるのも、悲しむべきことであった。
「もし、上春様の策謀を明らかにできるのであれば――」
怨霊とイレギュラーズのやり取りを見守っていた、花扇が姿を顕わす。
朝日が昇り、薫子の頰を露のように伝う涙を輝かせた。
●怨霊騒ぎの顛末
「……以上が、落書と怨霊騒動の結末にございます」
上春の屋敷、膳と酒を味わっているこの家の主人に花扇は報告した。
「ふん、父の怨霊を騙って麻呂を恐れさせようとは、浅はかな娘でおじゃるな」
顛末を訊いて、せせら笑う上春であった。
謀略によって追い落とした政敵が、無念のあまり怨霊に落ち、娘まで身を滅ぼそうと言うのは酒の肴としてはまずまずの話である。
人の不幸は蜜の味――。
まして父娘ともども自分に叶わず敗れるというのは彼にとって極上の愉悦である。
「それでその娘にもきついお仕置きがあろうの?」
「そのことにございますが、上春様のお心を騒がせた不届き者ですので、おんみずから処置をなさるのがよろしいかと」
「ほう! 麻呂の手ずから仕置をすると! それはよい趣向でおじゃる。さすが、花扇殿はわかっておる」
にんまりを好色めいた表情を浮かべる。
このような人物に、まだ年端もいかぬ薫子を差し出そうというのだ。
「このお屋敷に連れてきておりまする。さっそくお目通りさせましょう」
花扇が言うと、イレギュラーズたちに引っ立てられる形で薫子が差し出された。
悲しみと怒りの視線が、上春を睨めつけるが涼しい顔で受け流している。
「ほっ! 怖い怖い。そんな目でにらみつけるとはやはり血は争えぬのう。ほほほ……」
「そうやって、父様を笑いものにしたのですか?」
「人聞きの悪い。あれは宣直殿の粗相でおじゃる。いや、麻呂も少しばかり手を回したがのう」
「やはり、おぬしの手が回っていたか――」
「そ、その声!? まさか宣直……!」
ぼうっと怨霊となった宣直の姿が浮かぶ。
笑い声を上げている上春の声が蒼白となった。
「花扇殿!? お、怨霊騒ぎは片付いたのであろう……!」
「はい、片付きましてございます。この薫子様の悪戯でございました」
「な、何を言う!? 宣直の怨霊が、そこにおるではないかっ!」
「はて、私には見えませぬ。上春様ともあろうお方が、怨霊騒ぎを真に受けるとは」
「なっ――!」
騒動の怨霊ごときを恐れる上春ではなかった。
だが、こうして目の前に現われるとなると話は別だ。
怨霊など存在しない、花扇はそれを通すつもりらしい。
「わしを陥れた悪事、洗いざらいしゃべらねば末代まで祟ってくれよう……!」
「ひ、ひいいいいいっ! ゆ、許してくりゃれ! み、皆が宣直殿を疎ましいと言うから、麻呂が一役買っただけで……」
怨霊に腰を抜かした上春は、宣直を追い落とした謀略をぶちまけ始めた。
恐怖は、時に人を正直にする。
その様子を、花扇は涼しい顔で見守っている。
「とうとうぶちまけやがったな! 俺は普 飛! お前のその陰険なやり口が気に入らねぇ!」
最初から暴れるつもりで普 飛は薫子の脇にいたのだ。
15歳の少女を苦しめた陰険な爺を許しておくわけにはいかなかった。
「ええのん? 花扇はん。あなたの上役やありませんか」
「とはいえ、悪事を白状さないましたので」
同じく脇にいた秘巫に、花扇が答える。
そう言っている合間に、普 飛の気合の入った一撃が上春の顎を捕らえた。
「へっ、悪ぃな花扇ちゃん。他を関わらせるわけにゃいかねぇ。バカなチンピラのせいってことでまとめてくれや」
「ご安心を。上春様も表沙汰にはしないでしょう。ジェイク様からの提案がありましたが、宣直をこの地の守り神として祀りましょう」
こうして――。
後日、上春の屋敷の敷地に社が建立されることとなった。
その御神体は配流先で病没した宣直を模した像であり、朝夕に上春が必死に拝む姿が目撃されるようになったという。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れさまでした!
以上で怨霊騒ぎは終了となります。
上春には手が出ないとする予定でしたが、判定とEXプレイングを加味してこうなりました。
オープニングでは想定しなかった結果となります。
まとめるためにアドリブも入れましたが、いかがでしたでしょうか?
怨霊なんていない、信じていなくてもやっぱり怖いもんですよね。
それでは、またの機会にお会いしましょう。
GMコメント
■このシナリオについて
皆さんこんちわ、解谷アキラです。
高天京で起こっている怨霊騒動について解決してほしいという依頼です。
しかし、依頼主である花扇の意向で、少し特殊な条件がつきます。個別の説明を踏まえて、その背景を説明します。
・師名原・宣直
教養深い貴族でしたが、政敵である諸宮上春の策謀で失脚し、配流先で無念のうちに病死しました。怨霊となって高天京に現われているのは事実のようで、これは中務省よって感知されています。
・薫子
師名原・宣直の娘。父の配流にともない京を離れ、最期を看取ったと言われています。
その無念を晴らすべく、怨霊騒動を起こしているものと思われます。
生身の人間なので、悪霊や怨霊に効果を与える呪物や呪いからは影響を受けません(魔法や魔術が効かないとか、そういうわけではありません。あくまでも怨霊除けが通用しないという意味です)。
落書も彼女の仕業で、父の無念を晴らそうとしているものと思われますが、彼女もまた父の怨霊に取り憑かれている可能性も考えられます。
・諸宮上春
陰湿で嫌な貴族ですが、今のところちょっと手が出ません。
それでも直接懲らしめる場合は、悪名も覚悟してください。
上春にかまいすぎると、依頼の解決にも差し障るので失敗もありえます。
前置きの情報は以上となります。
それでは、どーんといらしてください。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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