PandoraPartyProject

シナリオ詳細

夜啼禰古末

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●にゃんころにゃんころ
 怨霊、怪奇、魑魅魍魎。ことカムイグラの地ではそういう話に事欠かぬ。
 今までの混沌世界――例えば幻想で言う所の魔物だのモンスターだのと言われる存在と根本的には変わりないが――さて。向こうと比べれば『おどろおどろしさ』をより強く感じるのは文化が違ったからか隔絶されていたからか。

 そして今宵もまた怨霊の類は闇夜を走る。

「化け猫」
「へ、へぇ。実はソレが出ると噂のお屋敷がありやして……」
 高天京とは異なる街……その甘味場にて。
 男が一人と、怯えた様子ながら言葉を紡ぐ一人の小男がいた。
 どうにも何か相談があるらしく――話はこうだ。とある屋敷……なんでもそれなり程度の地位に付いているヤオヨロズの屋敷らしいが――そこに夜な夜な猫が現れるのだとか。無論、ただの野良猫の話などしていない。それは妖。猫の姿をした、人を害する悪鬼羅刹。
「いや何ね。まだ誰それが犠牲になったとかいう話じゃないんですが……
 日が変わる頃になると猫の声が聞こえてくるんでさぁ、どこかから」
 それは天井から。或いは軒下から。
 廊下の端から、床の下から或いは或いは――背後から。
 声はすれども姿は見えぬ。されど夜を経るごとに近付いて来る影は確かであり、声を聴いた者は一人に非ず、二人三人……段々と舌なめずる音も届けばついに屋敷の主は恐怖を感じて。
 いずれ牙を剥く。そんな妖怪が確実に家にいる――ならば。
「して、それをどうにかしてほしいという訳ですか」
「へぇ。幸いと言うべきでしょうか、当家の主人は高天京へ暫く出るご用事があるそうで。その間、空いた家にて化け猫を退治と……」
「そんなら兵を配置すればよろしい。腕自慢などそこいらにいましょう」
「いやいや。実はですね、一点だけ問題がありやして……」
 その屋敷を壊されては困るらしい。私財を投じて作り上げた自慢の屋敷――修理に至ればまた幾銭積み上がろうか。
 唯の腕自慢では困る。屋敷に気を遣えた上で、化け猫を確実に討伐出来る者達が……
「ふむ」
 男は一息。悩む様に顎に手を当てれば。
「でしたらアレだ。ほれ、外のお歴々を呼ばれてみては」
「外の――もしや神使の」
「最近ご活躍がある様子。彼らの内であれば快く引き受ける者もいましょうぞ」
 と言っても楽であるかは話が別だが。例えば保護結界を用いれば多少の損壊は免れようが――あれはあらゆる攻撃に対し万全たる訳では無い。戦闘が激しくなれば余波で砕けるモノもあろう。
 色々と『気を使いながら』戦う必要がありそうだ。尤も、屋敷の主もある程度の被害はやむなしと考えている様で、全く被害をゼロにする必要はないとの事だが……
 さてさて化け猫退治。如何なる様相を紡ぐ事か。
 外では雨が――降り始めていた。

GMコメント

■依頼達成条件
 化け猫の撃破。
 そして極力『戦場』に被害を出さない事。

■戦場
 とあるヤオヨロズの和風屋敷です。
 それなり程度の広さがあります。屋敷の主は暫く出かける用事があるそうで、シナリオ開始時に主は勿論の事、使用人の類もいませんので一般人に気を使う必要張りません。

 ただし『屋敷の被害』には気を使ってください。ある程度の損害は構わないそうですが、例えば複数の部屋が無茶苦茶になってたり、調度品の類が複数に渡って損壊していると失敗になる可能性があります。

 とはいえ一個でも破損したら即失敗……などではありませんので、徹底的に気を使う必要はありません。極力、出来る限りで気を使ってください。

 時刻は真夜中。外は雨が降っており、結構暗いです。
 皆さんは夜になって屋敷へと訪れます。化け猫が出てくるまで多少時間の猶予がありますので、屋敷を巡って警戒していても構いませんし、その他何がしか準備などを行っても構いません。

■化け猫×1
 にゃー。
 サイズは人よりほんのりデカイ程度の化け猫。
 HP・EXA・物攻に優れます。あと丁度いい柱とか見つけるとバリバリします。

 鋭い爪や噛みつき攻撃を駆使してくるようです。また非常にすばしっこく動きますので複数の方向からブロックしなければその動きを完全に止める事は難しいでしょう。にゃーご。

 夜になると屋敷のどこかに出現します。具体的な位置は不明ですが日を経るごとに(力も含め)大きくなっているらしく、今退治せねば後々どれだけの被害を出すか分かったものではありません。今夜、必ず退治してください。んにゃー。

  • 夜啼禰古末完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月27日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
アエク(p3p008220)
物語喰い人
一条 夢心地(p3p008344)
殿
紅迅 斬華(p3p008460)
首神(首刈りお姉さん)
アシェン・ディチェット(p3p008621)
玩具の輪舞
ドミニクス・マルタン(p3p008632)
特異運命座標
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ


 ばりばり、んにゃー。

 どこからかそんな音と鳴き声が聞こえた気がするが――いや気のせいだ。
 なぜなら『まだ』その時間ではないのだから。
 いやその気持ちは分かる。分かるぞ? だがやってはいけない事なのだ。
「同じ猫として十分、十分ばりばりしたくなる気持ちはよく分かるが……
 それとこれとは話が別だ。やがて人を害するというなら、滅さねばなるまいよ」
 柱に手を置き爪を微かに。おっとっとと『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)はついぞうっかりの習性が出てしまう。
 彼女は元の世界では仙狸――つまり化け猫の系譜であった。
 故に今宵の敵は同類。気持ちは分からないでもないのだが、立場が違う。
 退治すべきものは倒す。その為の容赦はせぬと、屋敷をぐるりと見て回る。

 化け猫がどこに出てくるかは分からぬ――分からぬ、が。
 何処であろうと『戦いやすい』場所というのは存在する。

 広い部屋があればそこが良い。ふむ、と『蒼海の語部』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は顎に手を当てながら見取り図を作って。
「この部屋を四番、次の部屋を五番とするでござる。猫を発見次第部屋に追い込んで……」
「ああ。となるともしこちらの方で現れた時は二番の部屋に……
 出現するとすればここの柱などを起点として現れるかもしれない」
 その図を見ながら『情報食い』アエク(p3p008220)は指をさす。
 化け猫が出現しそうなポイントはどこか、現れたとしてどの辺りに走ってきそうか。
 戦略的な観点から追い詰める場所を予測する――可能な限り被害は減らさばならぬから。
「む。それはそうと……汝にはこれを渡しておこう」
「おっと、これは――」
「汝が使うのが一番よろしい。故に汝に託そう」
 そして話している最中。アエクが咲耶に何か渡したようで……
 さて。それのモノの仔細は後程――だが。
「戸は空けて、向こう側まで見れる様にしておいたほうが良いかしらね。
 あちらとこちらと……それから、ええと。向こうの方にも戸があるのかしら」
 アシェン・ディチェット(p3p008621)は戦う際の事を考えて各所の戸を開けておくように。風が吹き、そして同時に多くの視界を紡げば――遠方用の攻撃も届かせやすいというものだ。
 その上で自らはどこに布陣するか。どの部屋に入っておくべきか……
「たく。まぁ化物退治はいいがよ……屋敷壊すなってのは中々無茶言いやがるなぁ。
 だからこその依頼ってのはあるんだろうけどよ、中々骨が折れそうだぜ」
 これはよ、と『特異運命座標』ドミニクス・マルタン(p3p008632)は屋敷を見ながらヤオヨロズのブルジョア共への愚痴を吐く。猫の好みそうな所はどこなのか、把握しておかねばならないが――どこに出ても被害なしとはいかなさそうだと。
「……ま、その為の依頼で、その為の花丸ちゃんだしね。依頼を引き受けたからには確りやりますよっと。化け猫ちゃん出ておいで~」
「そうですよ♪ 化っけ猫さん、首を出してくっださいな♪」
 しかしだからこそ自分達が来たのだと『新たな可能性』笹木 花丸(p3p008689)はむしろ気合が増し、そして『首神(首刈りお姉さん)』紅迅 斬華(p3p008460)は鼻歌を歌うかの様に猫の出現を求める。
 ドミニクスと共に仕掛けるは鳴子――音を鳴らす鳥威しの一種だ。
 金持ちの家であればこれぐらいあろうと、仕掛け仕掛けて死掛けと成す。
 音が鳴ればそちらの方へ。柱の近く、屋根裏の所、せーまい所へあちこちと。
 一方で花丸は皆と分担し屋敷のあちこちへ。
 柱に布団を巻きつかせ、いざ猫が現れてもその被害を軽減できるようにと奔走する。
「よ、いしょっと! ふー流石に全部とはいかないけれど、主な場所にはやれそうだね」
 外れぬ様に縄で縛って。サイバーゴーグルも身に付ければ暗所への視界と成す。で、あれば。
「うむ、うむ。化け猫怨霊、魑魅魍魎。鳴家に髪切、天井嘗め……
 妖の一体や二体出てこそ一流屋敷の証明と言えよう。これぞ正に和の国風物詩!」
 あいやいや、ほっほっほと。
 扇子を広げて高笑うは『殿』一条 夢心地(p3p008344)である――
 化け猫? 実によろしい! かような珍妙、出てこその『もの』であろう!
 さあどこぞより舞い出る? ぴたっと身を潜められる家具と家具の間か? 良い爪研ぎプレイスか? 床の下か屋根裏か? どこぞよりも至るがよい。身内と共有し、万全を期しようぞ。
「鍋島の騒動もかくやの化け猫退治をキメれば、一族繁栄待ったなしじゃ! 良かったのう~。雨降って地固まるとはよく言ったものよ。あとはこの麿に任せておけばオールオッケーじゃ。な――っはっはっは!! な――っはっはっはっはっは!!」
『んにゃ~ご』
 と、その時。出てかもしれぬと予測を張っていた箪笥の上に陣取ろうとすれば。
 その夢心地の更に上からなにやら猫の声が。
 んなっ? とばかりに笑いながらそちらの方へ視線を向ければ――

 目と目が合う運命の瞬間。

『な――ごっ!!』
「ほあ――!!」
 直後に落下。夢心地を襲う巨大なもふもふ。
 件の化け猫が――出てきたのであった。


 音が鳴る。各所に設置した鳴子が渇いた響きを。
 雨の、空気がぬかるんだ中でも確かに。
 夢心地を踏み台に駆けるは妖。もふもふの塊――化け猫である。
「あらあらあら、なんとまぁ可愛らしい♪ でもこれもお仕事♪ 可哀そうですが、できるだけ迅速に、被害なく刈ってしまいましょう♪ 妖怪は首♪ 化け猫は――首♪」
 あなたも首♪ とばかりに。
 指笛一吹き、皆へと確かに『出現』が伝わる様にと斬華は行動を。
 化け猫の出現は敵意を察知する術に引っ掛からなかった――成程、突如として現れるというのはこういう事か。しかし早急に見つける事が出来たのは幸いで、皆に通知を。ふふん、お姉さんは賢いのです!
「さぁ――そちらは駄目ですよ♪」
 内部の、狭い部屋の方へと入ろうとしていた化け猫――
 それに対し紡ぐは斬撃。
 得物は必要ない。ただ『首』がそこにあるのならば手刀が名刀ともなろう。
 あるいは、もしかすれば『意思』だけでも――その首に届くのかもしれない。
「ふふ。うすら寒い静かな雨の夜に誰もおらぬ立派な屋敷……
 まるで夏の怪談が如きこの状況。
 少し面白くなってきたと思えば――主役もご登場の様子」
 さてはてと。口端が思わず吊り上がる状況に、咲耶は斬華と同じく笛を吹きながら。
「猫ならば追いかけっこは得意でござろう? さぁ、逃げる忍びを捕まえられるか!」
『んにゃ? にゃにゃにゃ!!』
 こんなこともあろうかと、アエクが用意していたマタタビを借りて化け猫を誘導せん。
 先程手渡されていたのはこれだ――猫の気質を携えているのであれば、反応もあろう?
 そして優れた聴力で素早く出現の音を聞き取れたからだろうか、彼女の行動は早かった。化け猫の前へと出て、自らを餌に。更に自身へと注意を引くために――放つは呪いの手裏剣だ。
 鬼さんこちら。いや、猫さんこちらと言うべきか。
 往くは広い部屋へ。
 どの道ある程度の被害は出るのであれば、狭い所よりも広い所の方が有益だと。
「恨みはねえが、しょうがねぇわな。猫っつってもよ、化物じゃあな」
 直後。射線を捉えたのはドミニクスだ。
 研ぎ澄まされた集中。狙撃手としての矜持が射撃の精度を高めて――
「人に被害が出る前に退治させてもらおうか」
 言うなり、射撃。引き金を絞り上げて穿つは化け猫の足で。
 なるべく屋敷に被害を齎さぬ様に気を張る。外さぬ様に、穿っても開いた戸を突き抜けていくように。
「うむ! このまま大広間に誘導するのじゃ! 奴めは奔放で、気紛れで、うにゃうにゃよ。自由に動き回らせてはいけぬ――貴奴めのにゃごにゃごさが激しさを増す前に追い詰めようぞ!」
「すごいわね。何を言ってるのか分からないのに、何を言っているのか分かる気がするわ」
 顔に肉球マークの付いた夢心地が後方より追いつき、猫を広き間へ誘導しようと。
 さればお屋敷の重要そうな品を安全な場所へ移動させていたアシェンが前より。
 彼女は出入り口を抑える。不意な逃げや、唐突な動きを相手が見せようと、最悪出さなければなんとかなるのだ。その上で紡ぐのは――射撃だ。
 必中を期するライフルが敵を見据える。まずは足、その機動力を奪わんと。
「――皆さんが多少でも追い縋りやすくなれば、幸いね」
 射撃音。ドミニクス同様、味方には当たらぬ様に。なるべく部屋へ誤射せぬように。

『んなッ――!! な――ごッ!!』

 されば逆立つ化け猫の毛。なんだにゃお前ら邪魔するにゃ。
 鋭き爪が振舞われる。うっかりとすれば肉を抉る、その威力。
「流石同類だ。討たねばならぬのが残念ではあるが」
 決めた事だと汰磨羈は駆け抜け。
「例え同じ系譜であろうと――退治すべきものは倒す」
 それが。
 『厄狩』としての生き様。
 遥か昔。とうの果てに決めた自らの『これから』なのだから。
 ――柱を庇う。大体どれを目当てにしそうかは既に調べていたのだ。
 爪を捌き、放つは拳。電子を纏い雷撃の一閃と成りて、猫を――飛ばす。
 闘いやすき場所へ。
 大広間へ。
「可能な限り早急に片付ける。畳み掛けるぞ!」
「あぁ……猫なれど、化生となれば致し方なし――人に害成す存在は許されない」
 されば、汰磨羈の言に続くのはアエクだ。
 唯の猫であれば良し。柱を削るのも愛嬌があろう。
 しかし只の猫でなく、柱を削るはおろか人も削るのであれば放っておけぬ。
 討伐せねばならぬというのなら。
「それに従うが我らが使命といったところだろう」
 いざや猫退治。化生よ滅びろ。
 攻の一手。暗き場所すら見据える目薬の加護が、猫の姿を確かにその目に捉え。
 撃つ。暗がりの果てより猫へと。
「……然し、あれだな。向こうからすればこちらが暗がりにぼんやりといる筈。
 視界の果てに微かな灯りで立っている我は――些か化生よりも化生じみているのでは?」
 いかん。深く考えると怖い話になってきそうだと、頭を振って戦場を見据え。
 真実本物の化物へと相対す。
 猫は大広間に誘導され、四方から攻撃を重ねられつつあるが――戦況はこれからだ。
 奴めの動きは夢心地言語の通り縦横無尽。気を抜けば突破されるやもしれぬ。そうでなくとも余波で屋敷が傷ついて行けば流石に焦りも出てくるかもしれず――
「でも……そういう訳にはいかないから、ね!」
 しかしそこは花丸の保護結界が対応した。
 彼女の結界が不意なる傷を防ぐ――完全に、とはいかないがそれでも大分マシだ。意図した攻撃以外は無効化するのだから。可能であれば庭に誘導できるのが一番だったろうが……
「流石に猫と言えば狭い場所の方を好む、か……ううん! でも想定済みさ!」
 駄目なら駄目で構わない。元よりどちらでも良きように心構まえていたのだ。
 優れた五感と直感が、暗闇の中の猫の姿も見据えて。
 出さぬとばかりに各所を固める。放つ拳が猫の腹を捉えて。

「――さーて、お猫さん。花丸ちゃんと楽しい楽しいダンスを始めよっか?」

 一時過ごそうと、言の葉を紡いだ。


『な――うッ!!』
 うるさい奴らだにゃーばりばりさせろにゃー!
 猫は苛立っていた。自らの快楽を妨害しに現れた、敵に対して。
 自らはちょっと柱と人の肉をばりばりしたかっただけの善良な化け猫のなのに、どうしてこのような事をしてくるのか――
「ほっほっほ。汝が胸に、いや肉球に聞いてみると良いぞ?
 まぁかような隙も与えぬがの――ほれ、ほれ、ほれほれほれほれ――っ!!」
 特に目の前の殿は、刀を揺らして惑わしてくる。
 その動きはまるで猫じゃらしの如く。変幻自在のゆらゆら剣術。
 思わず放つは猫ぱんち。にゃんこの習性か、右へ左へゆーらゆーら。屋敷のあれそれに興味を抱かせるよりも、刀の動きそのものに興味を抱かせ、被害を軽減せんとしているのだ――ゆらゆら。
「全く。動くだけで畳が擦れるなんて、迷惑な子よね……!」
 そしてその背後よりアシェンの一撃が放たれる。
 どれだけ丁寧に戦おうとも、やはり少しは散らかる。ああなんて猫だ。
「……大人しく観念するんだにゃあ。抵抗しなければ楽にしてやれるにゃあ」
「そうそうそうですよ~♪ 首を出して頂ければすぐに斬り落としてあげますからね~♪」
 語尾にゃんアエクの温和な口調と、斬華の温和そうに見えて物騒極まりない言が混ざり合う。アエクは傷ついた味方に治癒の術を飛ばし――斬華はくっび~♪ くっび~♪ と首首首首。こわいよぉ。
 しかしその動きは洗練とされている。小さく鋭く、最小限の動きは建物を躱し猫のみへと。
 それは神秘なる術ではない。重心移動と腰の捻り、正中線を中心にその場の『捻転』でだけでエネルギーを造り出しているからだ。大きな構えや準備動作など不要。その場で自らを刃とし、相手に叩きつければそれで仕舞いよ。くび。
「さぁさささ! 怖くないですからね~♪
 ちょっと、サッと首を斬るだけですからね~すぐサッと済みますからね~♪」
 斬華お姉ちゃんこわいよぉ。猫もなんとなし察してるのか、爪を繰り出しながら飛び退く様に。
 ああ。ああ。もう駄目だ。妨害され続けてきたが、柱を、柱をばりばりしたい――!
「――そう来るだろうと思っていた。故に」
 と。その時――放たれた声は汰磨羈のもの。
 柱を削らんとした猫が花を歪ませる。思わず更に飛び退く化け猫。
 察したのは妙な臭いが染みついていたから。これは――ッ!

「そう。それはミントの香りだ。苦手だろう――? 分かっている、私も同じだからな!」

 効けば御の字。そう思っていたが、やはり化け猫にも効果があったようだ。
 所有していた香水の香りが猫の苦手分野。いや人以上に鼻の利く動物であれば、とかく香水の類は『効く』だろう。この柱なんかはまずいな――そう思っていたモノに振りかけていた甲斐があった。
 鼻を歪めたその隙を逃さない。側面から距離を詰め、薙ぐ手足。突き込む掌底。
 水行のマナを大渦の様に。流れの如く、叩き付ける変幻自在の連撃。
 拳、踵、膝、肘。ここが攻め時であると、勝利を見定め。
「逃がさないよ……ダンスの途中で退席なんて、あんまりじゃないか」
 更に花丸の一撃も追随する様に。
 右から左から強烈な勢いが化け猫を襲う。思わず怒り狂い身を回して爪撃を舞わす。
 素早い動きと複数回に渡る猫の攻撃は脅威だ――下手をすれば体力が一気に持っていかれる。
 が、それでももはや趨勢は変わるまい。
 ドミニクスとアシェンの射撃――夢心地の刀撃――
 斬華の首狙い――花丸の打撃――それらをアエクの治癒術が支援し、万全。されば。
「お主はまだ人を傷つけておらず罪は無いが……しかしそれでもその生は許されぬ。
 これも世の為にござる……しからば、御免!」
 そこへ――咲耶の刀が一閃される。
 深々と、その心の臓へ突き刺さる様に。深々と、その命を抉る様に。

『――!!』

 甲高い声。絶叫か、断末魔か。
 さていずれであっても結果は同じ――化け猫の身体が、まるで砂の如く散って行く。
 各所の開けていた戸が風を齎し。更に掻き消す様に外へ外へと。
 雨振るう。庭の方へと散ってしまえば、もはや欠片も分からなくなり。
「人を驚かさず、昼寝と毛繕いだけしときゃ良かったのにな」
 完全な討滅を確認すればドミニクスが戦闘態勢を解いて。
 部屋を見据える。大広間は各所に傷が残っている――が、左程大したことは無さそうだ。これぐらいなら討伐を頼んだ主も文句は言うまい。いやむしろ、この程度で済んだことに感謝しそうなぐらいだろう。ほとんどの柱は無事。畳や戸は入れ替えれば元通りになる故に。
「あぁ♪ 首が消えてしまいました……ちょっと残念です♪ 化け猫の・くびっ♪」
「ま、倒せたから良しとしましょうかね。
 ……さて。せめて後は動かした物は元に戻したり、戸締りはして帰りたいかしら」
 虚空に手刀を叩き込む斬華。そんなに首が欲しかったのか……ともあれアシェンは皆と協力しての仕事はこれが初めて。怨霊が開いてとも効いて些か緊張もしていたが――
「上手く出来たと言っていいかしらね」
 全て終わればほっと一息つけるものだ。
 化け猫。見れば見る程ちょっと大きな猫であった。その内に携えた心は知らぬが。

「人と相容れぬ妖異は退治される。それは最早、宿命だ」

 汰磨羈は言う。外見はさして重要ではない。
 重要なのはその在り様。その魂。
 ――妖怪は。怪異は決して許されてはならない。いつか必ず害をなすから『妖異』なのだ。

 外を見据える。見れば雨は未だ降り、むしろ強くなる様子を見せているか。
 この闇の果てにもまだ多くの人を困らす妖がいるのだろう。
「はっはっは。ともあれ今宵はこれで仕舞いよ。うむうむ。良きかな良きかな!」
 夢心地は扇子を開いて大きく動かし。
 平穏取り戻し屋敷にて――夏の雨の音を堪能する。
 最中。はて、気のせいか、気のせいでないか。

 どこかで、野良猫の鳴き声が聞こえた気がした。

成否

成功

MVP

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式

状態異常

なし

あとがき

 にゃーご! 依頼お疲れさまでした!

 如何に可愛らしい外見だろうと妖怪は妖怪……危険なモノ達なのです。
 皆様のご活躍によりこの屋敷にも平穏が戻った事でしょう。
 MVPは猫の特性の対策を色々施していた貴方へ。

 それでは、ありがとうございました!!

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