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シナリオ詳細

咲々宮と二匹の猫海賊たち

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●書棚はいつも紙だらけ
 梅雨の季節は木が香る。
 豊穣郷カムイグラで使われる木は、なぜだか彩柯の故郷のそれに似ている気がした。
 ホームシックとはだいぶ違う。遠い海向こうの土地で故郷と似た料理の味を知ったときのような、懐かしさと安堵。そしていいようのない不安。
 軋む木目の床を裸足で歩き、『咲々宮 彩柯』は書棚から封書をひとつ取り出した。
 天香家の印がおされたそれは何より優先して処理されるべき案件であり、刑部省といわず七扇全省で所員に冷や汗を流させうる印であった。
 こと彩柯にとっては、なおのこと。
 書をひもとけば、美しい字で彩柯への司令が書かれていた。
「…………また、面倒ごとを放り投げられたわね」
「どうしましたニャ?」
 木床をぺたぺたと鳴らし、二人の小柄な猫獣種たちが部屋に入ってくる。
 ラフな海賊めいた格好をした、クロネコ獣種のクロとキジシロ獣種のキジシロである。
「だめじゃない。仕事部屋に入ってきちゃ」
「ボクたちもお手伝いするニャ」
「ニャ、お茶がはいったミャー」
 仕事部屋と言う名の狭い離れ小屋を割り振られた彩柯の様子からも知れるとおりに、刑部省は肩身の狭い場所である。
 しかし彼女の『目的』を考えるならば、ここ以上に都合のよい場所はない。
 今ではこんな風に世話(?)を焼いてくれる猫チャンもいることだし……。
 『ありがとう』と微笑んで湯飲みを受け取る彩柯。
「難しいお仕事かニャ?」
「ボクたちにもお手伝いできますかミャー」
 左右からシンメトリーに首をかしげてのぞき込むクロたちに、彩柯はうーんと考え込んだ。
「できる、というか……クロたちにしかできないことかも」
「「ニャニャ!?」」
 目をキラキラとさせる二人。
 彩柯はその反応に笑って、そして内心ずきりと胸を痛めた。
 書の内容を簡潔にまとめるとこうである。

 ――咲々宮殿の預かっている白黒の妖憑を、夏祭り前に故郷へ帰すように。
 ――人員はローレットを用いること。資金人員の持ち出しを禁ず。

●運命の交差点、再会のツナ缶海賊団
「濡烏な依頼書ね」
 『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)はどこか悲しげにつぶやくと、集まったイレギュラーズたちへと振り返った。
 所変わって、城下町の茶屋でのこと。
 忙しく行き交う人々の様子を横目に、依頼書を畳んだプルーはあなたへとそれを突き出した。
「七扇刑部省からの依頼よ。簡単に言うと、海洋王国からこの国に召喚された人々の返還手続きね」
 旧『絶望の青』が踏破されるまでは互いの存在を正しく認知できていなかったが、こうして船での行き来が可能になった今、バグ召喚によってカムイグラへ飛ばされた人々が元の国へ帰りたがるというケースも少なからずおきていたようだ。
 中には豊穣国内で一定の役職についたり家庭を持ったりした者もあり、定住を望むこともまた少なくないようだが……。
「今回のケースはちょっと複雑ね。飛ばされてすぐに刑部省の下請役人に捕まった二名の獣種を強制帰国させるというものよ。
 けど、安心して。捕まったといっても文化がわからず罪人扱いされそうになったところを、その役人さんが保護したっていう形らしいから。それに……」
「アクセルぅー!」
「アクセルだミャー! 久しぶりだミャー!」
 茶屋へ突撃してくる二人の獣種。クロとキジシロ。
 話をおとなしく聞いていたアクセル・ソート・エクシル(p3p000649)はギョッとしてお茶を吹き出した。
「クロ! キジシロ! 二人ともこんな所にいたんだね! あ、そうかリコリスクジラの神隠しってたしか……」
「そうね」
 神隠しの正体はバグ召喚、というのは最近わかった事実である。うっかり大海を越えることになったが、アクセルはツナ缶海賊団ソマリ船長との約束を今こそ果たせるというわけだ。
「ボクたちこっちではおとなしくしてたミャー」
「よくわかんない理由でつかまっちゃったけど、彩柯さんが助けてくれたニャ。それから彩柯さんのおうちでお世話になってたニャ」
「ほう、そんな親切な者が――何ッ!?」
 そば茶おいしいって顔して湯飲みに口をつけていた咲々宮 幻介(p3p001387)がぎょっとして吹き出した。
「その者、もしや『咲々宮 彩柯』という名ではあるまいな」
「そうニャ?」
「知り合いさんかミャー?」
「う、ううむ……」
 説明しよう。
 咲々宮 彩柯とは幻介の姉であり、おそらくは彼を死ぬほど鍛えたとされる人物である。
「修行の途中で消えた故、心配をかけたとは思っていたが……まさか同じように召喚されていたとは、奇遇で御座る」
「ニャ?」
「ミャ?」
 揃って首をかしげるクロキジシロ。
 プルーは『なにやら事情がありそうね』といった顔で黙っていたが、しばらく待ってから話を続けた。
「皆の仕事は、ここからフェデリア島への護衛ね。
 海には船を狙う妖怪も出るから、それとの戦闘と快適な船旅がお仕事よ」
 未だ難しい顔をしている幻介に、プルーはウィンクをした。
「気になることがあるなら、あとでまた来れば良いわ。そこまでは依頼の範疇じゃないから、あなたの判断に任せるわね」
「うん、今はまず、クロとキジシロを国へ送り返してあげなくちゃ!」
 オイラたちに任せて! と胸を叩くアクセル。
 クロたちはニャーといって諸手を挙げた。

GMコメント

■オーダー
 ツナ缶海賊団のキジシロとクロを船に乗せ、海洋王国までの中継基地であるフェデリア島まで護衛します。
 そこからは海軍の人達が護衛についてアクエリアを経由しつつゆっくり王国まで行ってくれます。イレギュラーズと違ってワープが使えないのでこの方法しかないのでした。

 道中では戦闘パートと船旅パートがあります。それぞれ大事なので順に解説していきます。

・クロ&キジシロ
 『自称海賊』ツナ缶海賊団の二人です。ソマリ船長のもとに帰る約束をしていました。
 海賊を名乗っていますが戦闘力は皆無で航海経験もほぼほぼないので、彼らに航海の楽しさや戦闘の迫力を教えてあげるのもよいかもしれませんね。

■戦闘Aパート
 カムイグラを出てすぐ。『船幽霊』たちが船を沈めようと襲いかかってきます。
 主に呪縛や呪殺といったBSを使って攻撃してくる幽霊たちです。
 数はそう多くないので、実力行使で乗り切りましょう。

■船旅パート
 ながーい間ゆったり船旅をすることになります。
 とはいっても乗組員は皆さんとクロキジシロしかいないので、美味しい料理を作ったりお掃除をしたり、時には遊んだりして船旅を可能な限り快適なものにしましょう。
 快適になればなるほど、そして休憩ができればできるほど、このあとの戦闘パートの出目に影響します。

■戦闘Bパート
 フェデリア島周辺はまだ安全とは言い切れません。
 厳密にいうと安全確保が完全にできていないうちからクロキジシロの送還命令が出た形になります。
 ここで敵対することになるモンスターは『ブラッドドラゴンゾンビ』です。
 かつて海に流れ出たリヴァイアサンの血に魔力が残留し、ちっちゃいリヴァイアサンのような姿で海上のあらゆる船に襲いかかるという知能の低いモンスターです。
 ミニリヴァイアサンといっても元がとんでもないサイズだったので、船を頑張れば沈められる程度にはデカくて強いモンスターになっています。
 口から出す本気ビーム、尻尾でなぎ払う広域ビーム、ヒレ嵐などで攻撃します。

 これに勝利すれば海洋海軍とはれて合流でき、クロキジシロたちを預けて依頼終了です。

■事後報告、するかしないか
 今回の依頼人である『咲々宮 彩柯』はイレギュラーズたちに依頼書をだしただけで、直接顔を合わせていません。
 ですので実弟である幻介さんの存在を知らないままでした。
 このまま知らないままにするか、直接報告にいって存在を知らせるか。どちらかを選択することができます。
 なんとなくですが、本人の意思次第ではないかなと思います。相談時に『どうする?』と聞いてあげるとよいかもしれません。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

  • 咲々宮と二匹の猫海賊たち完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
三國・誠司(p3p008563)
一般人
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き

リプレイ

●隔てられた再会
「クロ、キジシロ! ほんとうに無事で良かったよ!」
「ニャニャー!」
 両腕にクロとキジシロをぶら下げて、『猫さんと宝探し』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)はくるくると回っていた。
「ソマリのところまで無事に送り届けるからね。ついでに、オイラたちの仕事もみせてあげるよ。紹介するね、彼らはオイラの仲間で……」
 順番に紹介され、『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)はクロたちの背丈まで腰をかがめて頭をなでてやった。
「ふふ。クロ君にキジシロ君か。可愛い子達だね。皆今回はよろしく!」
「てれるにゃー……」
 顔を手で覆ってもじもじするクロたち。
 マリアがくすくすと笑うと、その両サイドで『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)と『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)がステレオでしゃべり出した。
「二人とも神隠しに巻き込まれるだなんて、災難でしたわね。
 でも安心して頂戴。貴方達は、私達がしっかり責任を持って送り届けてあげるから。文字通りの大船でね!」
「オーッホッホッホッ! その通り! このわたくし!」
  \きらめけ!/
  \ぼくらの!/
\\\タント様!///
「‪──‬が!皆様の無事を保証しますわー!」
 タント、ヴァレーリヤ、マリアの三人組でキティプリティオネスティポーズをとるのを、アクセルは『うちの名物だよ』と紹介した。

 港には行政から手配された船にくわえ、『素人に毛が生えた程度の』三國・誠司(p3p008563)の持ち込んだ船がそれぞれ停泊していた。
「まぁそうだよね、普通はこうやって苦労して海渡るよね……」
 ゲートからの転送で素早く世界各国を移動できるイレギュラーズが特殊なのであって、豊穣海洋間を移動するだけでもかなりの時間、人員、物資その他諸々のコストをかける必要があるようだ。
「…………あれ? だとしたら、いくらクロたちをいち早く里に帰したいからってここまでのコストをかけるのって過剰なんじゃ?」
「ほう、いいところに気づいたのう」
 『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)が木箱の上にこしかけ、キセルを片手にのんびりと波を眺めていた。
「豊穣と海洋が敵対していないとはいえ所詮は他国。なにかをすれば何かが起きるのは道理じゃ」
「……どういうこと? 具体的には?」
「さあ? わしの知ったことではないのう」
「…………」
「なに。理由はどうであれ久しぶりの船旅じゃ。優雅に楽しませてもらうとしようかの」

「ゲンスケ。呼ばれて来ては見たが……」
 竜の如き大鎧が中にぷかぷか浮かんでいた。
 胸部分にハマっているエメラルド色の魔法石によるものである。
 鎧は……というより鎧に内包された生きた炎、『彷徨う赤の騎士』ウォリア(p3p001789)がゆっくりと反転して振り返る。
「船旅にオレを起用するのは人選ミスではないか?」
「いやいや大事な役目なんでござるよ。この中ではウォリア殿にしかできない重要な仕事があるのでござる」
 地平線をじっと見つめる……というかできるだけ何かを考えないようにしていた『咲々宮一刀流』咲々宮 幻介(p3p001387)が軋むように震えながら言った。
「ふむ……」
 幻介たちはそれぞれ担当する船へと乗り込み、碇をあげて帆を張った。
 風を受けて滑り出す船。
 目指すはフェデリア。
 国と国を繋ぐ船旅が始まる。

●こっちへおいで
「船の航行を邪魔する妖怪がいるとは聞いていましたけれど……」
 カムイグラの港から船を出してすぐのこと。
 海中から次々と柄杓を手にした幽霊たちが浮きあがってはこちらを手招きしはじめた。
 彼らが手招くたびに船が少しずつだがずぶずぶと海へと引かれ沈んでいく。
「思ったよりも深刻そうな妖怪ですのね! 皆様! 皆様ー!」
 スクランブルですわー! と叫んで頭の上でおたまとフライパンをがんがん鳴らすタント。
 ついでに全身をぺっかぺっか点滅させてすごいアラート感を出していった。
「わ、ほんとだ一杯居る。クロとキジシロは中に入ってて。危ないからね!」
「「アイアイニャー!」」
 アクセルは戦闘態勢をとると、タントの回復支援をうけながら魔術砲撃を開始。
 光によって作られた沢山の音符が船幽霊たちへと飛んでいき、霊体を破壊していく。
「リヴァイアサンですら止められなかった私たちの船がたかだか船幽霊に止められてたまりますか!」
 既に船旅気分で酒瓶を握りしめていたヴァレーリヤが、後ろから『う゛ぁれーりやくんこっちこっちー!』といってメイスを両手でかかげて後ろから走ってくるマリアにばっと手を伸ばした。
 投げてパスされたメイスを鋼のブラックハンドでキャッチすると、既にはじめていた詠唱に祈りを込める。
「――『永き眠りのその前に』!」
 突き出したメイスから衝撃波が生まれ、船幽霊たちを次々と破壊していく。
 船幽霊のほうもただ破壊されてばかりではないようで、一部が船をよじ登って甲板へと乗り込んできた。
 手にした柄杓をひっくりかえすと、一杯分とは思えないほど大量の海水がばしゃばしゃと甲板へと流れ出ていく。
「船を水で満たして沈めようという魂胆か。案外考えているな……」
「感心している場合ではござらんぞ。この手の妖怪は拙者の国にも同様の言い伝えがあるでござるが、これを放っておけば彼らの仲間入りでござる」
 ウォリアが感心したように頷くと、幻介が腰の刀に手をかけて椅子から立ち上がった。
「……対処法は?」
「底の抜けた柄杓を渡せば永遠と海をすくいつづけて終わるでござる」
「知能があるのかないのかわからんな……」
「あいにく底の抜けた柄杓は無いが……まぁ、斬れば同じで御座ろう」
「……概ね……理解した」
 ウォリアはこの日のために持ち込んでいた豊穣式武者鎧に炎をうつすと、仮面の奥から炎をギラリと光らせた。
 三日月型の髭飾りをついっとなで、野太刀を手に立ち上がる。
「この船旅、オレの役割は『清掃員』ということだな」
 船幽霊たちに急接近をかけると、野太刀を振り回して一気に彼らを切り払っていく。
「そ、あ、うん、そうでござるよぉ?」
 幻介は軽く挙動不審な様子を見せると、刀を収めたまま船幽霊へと滑るように接近。抜刀と同時に相手の柄杓を切断すると、返す刀で本体を袈裟斬りにした。
「咲々宮一刀流――羽前椿」
 左右に残像が生まれるほどに素早いスライド移動をかけながら刀を払い、並んだ幽霊たちの首だけを的確に切り落としていく幻介。
「ふむ、ふむ……」
 戦う様子をしばらく観察していた瑞鬼は椅子の上で足を組み、キセルを再びくわえた。
 くわえたまま口の端からフウと吐き出した煙が意思もつ大蛇のようにうねりあがり、船幽霊へと食らいついていく。
「こんなところにおらんでお前たちははよ幽世へ行け」
 煙にまかれ前後不覚に陥った船幽霊を見てから、船の運転に集中していた誠司に向けて『やれ』のジェスチャーをした。
「よしきた。冥府へ落ちろォ!」
 御国式砲術伍の型・炎獄発破。
 誠司の世界に伝わる高等砲術である。
 具体的には片膝だけ妙に斜めに伸ばした屈み姿勢で肩にキャノンを担ぎ水平撃ちをするデスペラード射撃法である。嘘である。
 蒼い炎を纏って飛んだ砲弾が次々に爆発をおこし、船幽霊を焼き殺していく。
「落ちたな」
「それじゃあトドメ!」
 マリアはクラウチングスタートの姿勢をとり、船室のハッチをちょっとだけ開いて様子を見ていたクロ&キジシロにウィンクをすると、立ち上がりの瞬間すらわからないほどの速度で飛び出した。赤い稲妻だけを轍のごとく残して飛びかかったマリアは船幽霊に強烈なドリルスピンキックを繰り出し、相手のボディを貫いて甲板をスライディングした。
「お掃除終了っと。休憩しよっか」
「マリア! まだですわ!」
 カッて振り返るヴァレーリヤ。
 彼女の鬼気迫る表情にハッと顔をあげるマリア。
 まだ敵が!? 閉じかけた意識を再び鋭くすると、周囲に気をめぐらし――。
「私の芋焼酎!」
 メイスをゴッて足下に放り投げたヴァレーリヤが、甲板を転がる酒瓶を指さした。
「あ、うんいまもってくよヴァレーリヤ君!」
 素早く拾い上げて走って行くマリア。
 アクセルはそれを指さし、『あれもうちの名物だよ』とクロ&キジシロに紹介した。

●海をあるくすべ
 たとえば地球世界において、人類が航海という技術を発見したとき、船という限られた足場にどれだけのものを持ち込むべきか考えた。
 水や食料はいいとしても、この実質的に閉鎖された空間にいったいどれだけ閉じ込められることになるのか。それに耐えうる精神力はあるのか。もしそうでないなら……。
 ということで、彼らは楽器を持ち込んだと言われている。
「「ニャニャー!」」
 アクセルの奏でるバイオリンの音色にのって、陽気に踊るクロとキジシロ。
 楽しそうな彼らのもとへ、シーツを被ったタントが『がおー』と言いながら飛び込んだ。
「リヴァイアサンですわー!」
「でたニャ、竜ニャ!」
「こんもすかビーム!」
 謎の姿勢から放たれたビームで爆発四散するリヴァイアサン。
「ひゃあああああ! 我が息絶えても第二第三の我が……」
「あれ? あの戦いってこんな感じだっけ?」
「違うと思いますけど……」
 扉を開いたヴァレーリヤが、毛布を人数分持って手招きした。
「クロ、キジシロ。マストに案内しますわ。船の特等席ですのよ」

 きらめく海。沈む太陽が茜色に波を踊らせるさまを、ヴァレーリヤはクロ&キジシロと共に眺めていた。
 暖かいココアをちびちびと飲みながら、冷たい海風に目を細める。
「すごいミャー……」
「いつか僕らもこんな船が欲しいニャー」
 目をきらきらとさせるクロ&キジシロ。
 ふと見下ろすと、船のデッキで釣りをする者たちの姿があった。

 甲板の手すりによりかかるようにして、釣り糸を海にたらす誠司と瑞鬼。
「ところで、海釣りってどうやるんだ? 糸をたらしとけばかかるわけじゃないんだよな?」
「さあ?」
 瑞鬼は首をかしげてから煙草をぷかぷかとふかした。
「自信満々にやってるから経験者かと思ったのに……!」
「よかろう? 魚がとれなかろうと困りはせんのじゃ」
「それはそうだけども……」
 途中まで考えて、まあいいかと空をあおぎみる。
「船に揺られながらの釣りというのは、乙なものじゃのう」

 夜。
 結局なんだかんだで一匹か二匹釣れたらしい魚はコンパクトな調理場に持ち込まれ、マリアはフライパン片手にうーんと唸った。
「皆の為に料理も作ろうと思ったけど……ヴァレーリヤ君は何が好きかなぁ。ん?」
 静まった夜の甲板。椅子を並べて二人の男(?)が並んでいた。
「はぁぁぁ……憂鬱で御座る。
 姉上の事だから、今の体たらくを見たら再修業とか言い出しかねぬで御座るし……また死ぬ様な修業は懲り懲りで御座るなぁ」
「…………」
 頭を抱えてぐねんぐねんする幻介と、その横でじっと沈黙するウォリアであった。
「出来れば会いたくないが、先のヴァレーリヤ殿とアナスタシア殿を見ていると……。
 とはいえ……やはり恐いで御座るなぁ~、はぁぁぁ」
「……恐怖か」
 顎をわずかに上げるウォリア。
 幻介は頭を抱えてうずくまったまま、ぐねっと振り返った。
「どうしたらいいでござろうか。どうすれば後悔せずにすむのか」
「決めるのはゲンスケだ。『後悔しない選択』など……おそらく無い」
 ウォリアの、ともすれば冷たい言葉に、幻介はハッと目の覚める思いをした。
「ただし……『選択をしなかった』という後悔は、それに勝ることがある」
 幻介は立ち上がり、手すりに手をついて遠く黒い地平線をみつめた。
「そうでござるな。拙者はいま、選ぶことができる。できなかった……しなかった者たちとは、決定的に違う」
 目を瞑り、何かを考える。
 ウォリアは上げていた顎を戻し、ただ沈黙した。

●海を越えて
 唐突に、そして前もって結果を述べておこう。
 フェデリア近海における『ブラッドドラゴンゾンビ』との戦いに、イレギュラーズたちは難なく勝利しフェデリア島へと到着。
 待機していた海洋海軍と合流し、クロ&キジシロの受け渡しに成功した。
 今回はあえて、戦いをダイジェストでお送りしよう。

「買ったばかりの船を壊されちゃたまったもんじゃねえ。やべー敵はさっさと倒すに限るよな!」
 船に接続したキャノンを舵の隣にセットしたレバーの操作で乱射していく誠司。
 砲撃によって吹き飛ばされ先制攻撃のチャンスを乱したブラッドドラゴンゾンビ。
 そこへ猛烈な先制攻撃をしかけたのはマリアであった。
 船の柱を駆け上がり、柱を蹴って飛び出したマリアは激しい連続回転ムーンサルトキックによってブラッドドラゴンゾンビの胴体を削り始める。
 彼女を追い払おうとヒレで嵐を巻き起こすが、ウォリアが鎧から吹き上げた炎がドラゴンとなって襲いかかる。
「滅海竜とはまるで比べ物にならんが……十分に脅威となるだろう。だが、それを征してこそ『戦士』だ」
 血のドラゴンと炎のドラゴンが真正面からぶつかり合い、絡み合って暴れる。
「おお、臭い臭い。死体なら生者の邪魔をするでないわ」
 そこへ瑞鬼が『黄泉返し』の妖術を行使。誠司のキャノンと合わせて連続で吹き飛ばされることになったドラゴンと、あえて距離をあけるように船を動かした彼らによってドラゴンからの反撃を阻止。
 実質的なヒットアンドアウェイをしかけた。
 タントはそんな船の一隻に乗り込み、船に回復支援効果を広げながら二隻で同時に突撃。
 二隻の間にはっていたロープがドラゴンを絡めるかたちで拘束し、逃がさないように近接距離にとどめたところでアクセルが魔術砲撃を開始。
 ドラゴンを弱らせつつ、ドラゴンの反撃をタントの回復と防御によって凌いでいる間にヴァレーリヤと幻介が準備を完了させた。
「リヴァイアサンの残滓。ここで終わりにしますわ!」
 メイスから繰り出す炎がリヴァイアサンを打ち抜いていく。
 燃え上がる肉体が暴れるなか、幻介は甲板を走り抜けて大きく跳躍。
「咲々宮一刀流――唐竹」
 飛び込み大上段からの堂々とした打ち込みが、ドラゴンの肉体を左右真っ二つに切断。
 そのまま幻介は落水したが、無事にドラゴンを倒したのであった。

●そして運命は回り出す
「今日は元気でも、明日もお互いそうかは分からぬもの。
 家族であればなおさら、会っておくのが良いかと思いますわ」
「そうだな。こんな異世界にとばされたんだ。
 家族や知り合いがいるなら、会っておいていいと思う」
 カムイグラへと戻る船の中。ヴァレーリヤと誠司はそんな風に幻介へと語った。
 当たり前に過ごしていた友と悲しい運命によって引き裂かれてしまった者。
 当たり前の日常が突然の召喚によって消えてしまった者。
 彼らからすれば、幻介のように遠い世界に飛ばされながらも再会できるという事実は何事にも代えがたい奇跡なのだ。それはもしかしたら、クロ&キジシロがソマリと再会するよりももっと奇跡的な出来事なのかもしれない。
 それ、ゆえに……。

「彩柯、改めてだけど、クロとキジシロを保護してくれてありがとね!」
 アクセルは首都へとおもむき、自ら出迎えた咲々宮 彩柯へあらためて感謝を述べた。
「いいえ。私は仕事をしただけだから……」
 彩柯はといえば、あまり嬉しそうな様子ではなかった。
「二人の様子はどうだった?」
「楽しそうだったよ。きっとすぐにソマリとも再会できるし、そうなったらまた教えるね」
「そう……」
 彩柯はほっと胸をなで下ろすような顔をすると、穏やかに微笑んだ。
「よかった。ほんとうに」
「……うん?」
「それはそれとして」
 と、突然。彩柯の様子が急変した。
 穏やかなお姉さんから人間を瞬殺するマシーンに変わったかのような、それはそれは激しいスイッチであった。
 ウォリアの後ろでびくりと肩をふるわせる幻介。
「……オレにしかできないことというのは、隠れるための壁であったか」
「ウォリア殿だいじょうぶ? 姉上拙者ころさない?」
「……ううむ」
 ウォリアは顎を上げ、彩柯を観察――しようとして、既に彩柯が視界から消えていることに気がついた。
「――!?」
「幻介」
 ぽん、と幻介の肩に背後から手を置かれる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
 ババッと振り返るタントとマリア。
「お、おちおちおちつくのですわ幻介様恐いお姉様といえどまさか人前でそんな蛮行には」
 その瞬間には幻介を肩に担いで背骨をへし折ろうとしていた。
「修行中に消えたかと思えばこのていたらく。まだ修行が必要なようね」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
「及んでる! もう及んでる!」
「くっくっく……思った通り、面白いものが見れたのう」
 慌てて駆け寄るマリアと、こらえきれずに笑う瑞鬼。
 その場はどこか賑やかに、そして楽しげに幕を閉じた。
 この選択がいかなる未来を呼ぶのか、まだわからぬままに。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――To be continued

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