PandoraPartyProject

シナリオ詳細

懐かしき日の記憶、懐かしき日の声

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●勝手知ったる
 高天京の郊外、ある山麓に小さな村が作られている。
 日が昇る僅か名前には外に出て、裾を踏まぬようにしながら、かつん、かつんと井戸の方へ水を汲み。
 やがて日差しが稲穂の金を照らし出すころには、今日も日中の仕事を始めるのだ。
「お、おい! ありゃなんだべ!」
「熊だべ熊! なんだって人里なんぞに……」
「おい待てや。熊がひとんみたいに歩くかや!」
「んだべ……あやきっと妖憑だ……ちょっと話しかけてくる」
 一人の農民がそういうと、すたこらと熊の方へと歩いていく。
 そして、その歩みは徐々にだがゆっくりになっていく。
 対して、熊の方は男のことなど気にせずきょろきょろと周囲を見渡し――やがて男を見下ろすように視線を動かした。
「お、おい……なんか、拙くねえか?」
 その言葉を言ったのは誰だろうか。そしてその嫌な予感にも似た呟きは現実を帯びる。
 パァンッと、艶やかな華が咲いた。
 熊の前にいた男が――いや、男だったモノが、ぐらり、と動き、崩れ落ちる。
「あ、ありゃあ妖憑なんかじゃねえ! ありゃあほんもんの妖さ! 鬼熊だべ!」
「お、おい、家畜、家畜を出せや! わしらを食らわれちゃたまんねえ! いったんは家畜で……」
「いや、待て……あれ……」
 震える声で一人の男が言う。
 その視線の先では、ついさっきまで男だった肉をまるで人のようにひょいと担ぎ上げ、これまた人のようにくるりと身を翻す鬼熊の姿。
「……玄ちゃんにはすまねえが今日はあれで勘弁してもらうべ……」
「んだでも、次の時はどうするべ……」
「……神使、神使の人らにお願いするべ! お上は当てにならんけんど、
 あの方らならきっと、相手にしてくれるべ!」
「そうだ! そうするべ!」
 そういう彼らの悲痛な便りが、ローレットへと届くのは翌日、ちょうど『金星獲り』すずな(p3p005307)がローレットに訪れた時の事だった。
「それじゃあ、私が!」
 妖怪、悪霊の討伐はかつての世界での生業。
 ある種、勝手知ったる敵との久方ぶりの戦いである。
 少しばかり気分の高揚を感じるのもさもあらんというところだ。
 続く様に続々と集まってきた仲間たちと共に、すずなは村へと足を運ぶ。

●かつて知りたる
「神使の方々だか! おお、本当に来てくださるとは!」
 村に到着するや否や、イレギュラーズは歓待を受けていた。
「ありがとうございます、ありがとうございます。これで玄も浮かばれましょう」
 老若男女、様々な人々がイレギュラーズに取り付く様にそう言って町の中でも比較的豪華な家に通してくれる。
「今日は一晩お眠りください。
 おそらく、明日の明朝には鬼熊も現れるでしょう」
 そういうのは、村の長だという老人だった。
「ありがとうございます」
 そういうすずなに、老人は頭を振る。
「どちらにせよ、我々にはこの程度の事しかできませぬ故……」
 そう言ってため息を一つ。その口ぶりからも疲労が感じられた。

 翌日の朝、まだ日ののぼらぬ頃の事。
 イレギュラーズは鬼熊が出るという山の裾野まで歩を進めていた。
「……あんた、見覚えがあると思ったら、くそワンコじゃない」
「私は狼――……だ……って……?」
 反射的に叫びながら、振り返る声に力が抜けていく。
 その声は酷く懐かしいものだった――

GMコメント

さて、今晩は春野紅葉です。
こちらは『金星獲り』すずな(p3p005307)の関係者依頼を兼ねた純戦依頼となります。

なお、こちらの依頼は相談期間が『6日』となっております。
ご注意くださいませ。

それでは、さっそく詳細をば。

●オーダー
鬼熊の討伐

●戦場
山の裾野、鬼熊の住処から村へと通じるちょうど間。
向かって正面には木々が生い茂り、
イレギュラーズがいる場所自体はある程度整地された農道のようになっています。

●エネミーデータ
【鬼熊×2】
体長4mほどの直立二足歩行が可能な熊型の妖怪です。
時を経た猫が猫又に、狐が妖狐に変ずるように、時を経た熊が妖となった代物です。

尋常じゃなく膂力が強く普通の農民程度であれば、
腕を振るえば肉が破裂するほどです。

一般的な熊と同じように、非常に筋肉質かつ俊敏であり、
驚異的な物攻を筆頭に、HPや防技、反応などに秀でています。

1体目の登場から数ターン後、
帰りが遅いのを心配するかのように2匹目が出現します。

●NPCデータ
本名、永倉肇。元の世界でのすずなさんの仕事仲間でした。
元の世界ではすずなさんと良くぶつかっていたようです。

最近になって混沌へ召喚され、今まではラサを拠点に傭兵稼業に従事しているとか。
今回は皆様と別口に依頼を受諾し、鬼熊を討伐するために着ました。

偶然か必然か訪れた共同戦線。ですが問われればきっと
「別にあんたのことを見に来たんじゃないわ。
 わたしはわたしで依頼を受けただけだから!」
なんて答えることでしょう。

吸葛と銘打たれた大小二振りの妖刀を武器に、
華奢な体からは思えぬ豪快で力強いパワーファイトをしかけます。

●その他
今回、心情多めでも大丈夫なように、EXプレイング許可を入れてあります。
もし言いたいことなどあり、文字数が足りなければどうぞ。
関係者さんの追加はちょっとだけ難しいかもしれません。

なお、戦闘終了後は報酬の他に村の方から熊鍋(ちゃんと普通の熊のやつ)が提供されます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 懐かしき日の記憶、懐かしき日の声完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月17日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
すずな(p3p005307)
信ず刄
篠崎 升麻(p3p008630)
童心万華
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き
泰舜(p3p008736)
鏖ヶ塚 孤屠(p3p008743)
日々吐血

リプレイ


「誰がワンコですか! 私は狼――えっ……?」
 振り返る『金星獲り』すずな(p3p005307)は唐笠帽子を持ち上げ、こちらを見る少女を見て、目を見開いた。
「嘘……はじめ、ちゃん……?
 なんで? どうしてこんな所にはじめちゃんが……?
 此処、混沌ですよね? 混沌の、神威神楽の筈なんですけど!」
「なんでって、私も仕事を頼まれたからに決まってるじゃない」
 混乱しっぱなしのすずなに対して、あまり驚いた様子を見せないはじめは落ち着いたものだ。
「――え、まさか召喚されていたのですか、はじめちゃんも……!」
 この世界に来てから、奇しくも2人目の、同じ世界での知り合いとの再会に動揺を隠せないすずな。
 一方の肇は視線を他のイレギュラーズに向ける。
「あんた達も、今日はよろしく。
 遅れは取らないわ」
 少しぶっきらぼうにも取れる言い草ではあるものの、不思議と嫌な感じではない肇に他の面々も返事を返す。
「ぶはははっ、威勢のいい嬢ちゃんだな!」
 豪快に笑う『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は、その一方で不意にぴたりを動きを止める。
 伝わってくるのは『空腹』の感情。
「やっこさん、近づいてきてるみてぇだな」
 ぽつりとゴリョウはつぶやく。
「……はっ! そうでした、はじめちゃんばかりに気を取られる訳にはいきませんね。
 今回は妖怪退治! 似たようなお仕事は元の世界で慣れっこですし、
 不本意ながらはじめちゃんも居るなら百人力です!」
「すずなさんのお知り合いも見ている前で、無様な戦いはできませんね!
 早速行きましょうか!」
 そういうのは『朝を呼ぶ剱』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)だ。

 先手必勝と森の中へ入り、感情探知の向く方へ進むイレギュラーズ達。
「猫や狐は聞きますが熊の妖……初めて見るかもしれないです」
 草や葉を踏みしめながら進む『協調の白薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)はぽつりとつぶやく。
 そう感じるのはラクリマだけではない。『特異運命座標』篠崎 升麻(p3p008630)と『鏖ヶ塚流槍術』鏖ヶ塚 孤屠(p3p008743)も同じように考えていた。
 特に孤屠に関しては家で食べてたのに!と驚いている。まぁ、食べてるから妖怪になると知ってるとは限らない気もするが。
 一方、鬼は鬼でも熊な今回の敵とは違い、鬼人種たる『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)は、格の違いを見せようとやる気満々だった。
 同じく鬼人種の泰舜(p3p008736)はどこかで鬼熊の事を聞いたことぐらいはあったようで。
(えらく力の強い妖だと聞く。んな化け物に鉢合わせるとは……亡くなったモンは気の毒だったな)
 亡くなった農民の事を思う泰舜はどうやら今回が依頼として受ける物は初めてであるようで。
「こういった紹介での仕事は初だが……まあ、しっかりやるとするかね」
「そうですね、被害が出て農家の方々も怖がってますし早く倒さなければ!」
 同じく初めてらしい孤屠もそう言って張り切った所で、突然コパっと血を吐いたりしていた。
 そして、ちょうどその時だった。先を進んでいたゴリョウがふいに立ち止まる。
 ハンドシグナルで広がるように指示を出すゴリョウの身体に、ビッグブルーに青いエルフ鋼を融合させた水戦特化型駆動全身鎧、駆動大青鎧『牡丹・海戦』が装着される。
 飛び込むように草むらの向こう側へ走り抜けたゴリョウが、雄々しい雄叫びを上げる。
 その瞬間、村の方へと歩みを進めていた巨大な熊の動きが止まり、ゴリョウの方へと視線が向く。
「ぶはははっ! おい熊公、相撲と行こうじゃねえか!」
『グォォォ!!』
 二足歩行のままに突撃してきた熊の腕によるしばきを天狼盾『天蓋』にて防ぐ。
 夜空のような艶やかな漆黒と星のような金の粒が散りばめられた盾が、熊の一撃で微かに軋む。
「頼りにしてますよ、ゴリョウさん!」

「熊だろうと妖だろうと、やる事は同じ! ――この刃で、断ち斬るのみです!
 ほら、行きますよ、はじめちゃん! 合わせるくらい、出来ますよね……!?」
 竜胆を抜き放ち、間合いを詰めるすずなは、振り返りながら挑発。
「誰に言ってんの! あんたこそ遅れないでよねくそワンコ!」
 ほぼ同時に走り出していたはじめが競うように間合いを詰める。
 妖気と霊気――相反するべき2つの力を併せ持つ名刀は、鬼熊の目元めがけて目にも止まらぬ速さで滑る。
 斬り、払い、その驚異的な速度はそのまま第二撃へ――
 もう片方の目にめがけてほとんど変わらずの速度ではじめの双刀が伸びる。
 手数で推し進めるすずなの太刀筋とは真逆に、その華奢な体からは想像できないほどの力で、押し込むような連撃が鬼熊を切り刻む。
 煙管から煙を燻らせてその様子を眺めていた瑞鬼は、2人の連撃がひとまずの収束を見るタイミングをはかって「ふぅ」と息を吹きかける。
 煙が鬼熊の身体を包み込むと、熊はそれを振り払おうと顔を振り回す。
 ラクリマは蒼穹のグリモアを開き、氷晶のタクトを握ると、そっとそれを振る。
 そのリズムに合わせる様に歌うは賛美の生け贄と祈りの歌。
 言の葉に乗った魔力は鬼熊の真上で複数本の蒼き剣となり、頭部からくし刺しにせんと降り注ぐ。
 痛みからか大きな隙を見せた鬼熊へ続くように動いたのはシフォリィである。
 ディアノイマンによる自らの戦闘能力を一時的に引き上げ、サーブル・ドゥ・プレーヌリュヌーー透き通るような白銀の片刃剣を構えると、それを真っすぐに振り下ろす。
 口元を浅く裂いた一撃に鬼熊が震えるように後退する。
「体の構造自体は、普通の熊と大差なけれりゃいいんだが……にしてもデケェな!?」
 熊の背中側に回り込んだ升麻は思わず叫ぶ。
 そのおかげというのもなんだが、足への攻撃がしやすそうだった。
 気力を籠め、足をへし折る勢いで叩きつける。
 防御などさせようはずもない強打が鬼熊の脚部を震わせる。
 一方の泰舜は鬼熊から伸びてきた手を絡めとるようにして払い、お返しとばかりにブロッキングバッシュを叩き込む。
 綺麗に入った一撃は鬼熊の脇辺りに突き刺さる。
「鏖ヶ塚流にとってそれぐらいの強靭さなど塵芥ですよ?」
 孤屠は鍵槍をぐるりと振るう。静かに構え、狙うは一撃。
 踏み込みと同時、突き刺した一撃は熊の喉あたりへと突き立った。
 文字通りの血反吐が出るほどの鍛錬により磨かれた純粋な槍さばきは熊に防御の隙を与えない。
「ぶはははっ! まだまだ俺ぁ倒れてねぇぞ熊公!」
 笑うゴリョウは自らの身体に侵されざるべき聖なるナニカを降臨させる。
『グォォォ!』
 対する鬼熊は雄叫びを上げて答えた。

 実際問題、鬼熊のタフネスっぷりはすさまじいものがある。
 もともと、熊の時点でかなりタフな生き物ではあるが、長寿によって得た妖力はそれを加速させているようだ。
 応酬が数度にわたって繰り広げられた頃――一同の知らない方向から、がさりと音がして――咆哮。
 それは、もう一匹の鬼熊であった。
「お任せください!」
 孤屠はそれを見た瞬間、本日何度目かになる血を吐き出した。
 血は飛沫から赤い煙へと転じ、辺り一面へと拡散し始めた。
 その結果、動物の名残か鼻の感覚を失ったように鬼熊が動揺を見せた。
「ほぉれ、鬼さんこちら手の鳴る方へ」
 ふぅ、と息を吐いた瑞鬼は、そんな鬼熊めがけてふぅともう一度息を吹きかけた。
 煙に込められた不可視の力が、鬼熊をもう一匹から引き離すように吹き飛ばす。
「おい、こっちだ!」
 泰舜はその辺にあった木の枝を拾い上げると、飛ばされた鬼熊めがけて叩きつけた。
 頭部へと当たった木の枝に反応し、鬼熊が泰舜を見る――と共に、大口開けて突っ込んできた。
「はっ……」
 強烈なパワーに身体が少し後ろへ下がる。
「おうっ……と、いつをゴリョウは一人で受け止めてるんのか? はっ、まったく。海の向こうにゃあ猛者がいて頼もしいねえ!」
 押し返すようにしながら、からりと笑う泰舜には、口に出せるだけ余裕があるともいえる。
(にしても鬼熊ってのは、マジに馬鹿力だな? 踏ん張ってるってのに死ぬかと思ったぜ)
 足を少し曲げ、ばねのように弾き、体勢を立て直す。
 構えを取って、ふと思いなおす。
(……そういや、俺たち(いれぎゅらあず)はそうそう死に切れんのだったか?
 はは、こちとら仏門だってのに、なかなかどうして因果な存在になっちまったなぁ)
 思わず漏らした笑みを挑発とでも思ったのか、鬼熊が雄叫びを上げた。
 もう一匹の登場をちらりと横目に見たゴリョウは自らへの聖躰降臨を掛けなおし、銃旋棍『咸燒白面』を叩き込む。
「ぶはははっ! 俺が倒れてねえのに相方を見るのは早いだろ、熊公!」
 鬼熊が猛烈な一撃を叩き込むのを見たラクリマはゴリョウに向けて舞い散る幻の雪を降り注がせる。
 優しき光と白き歌にその傷が癒えていく。
「これは手短にした方が良さそうですね!」
 シフォリィは自らの枷を解き放ち、大きく踏み込んだ。愚直な剣捌きが熊の心臓部付近を切り裂き、自らの気力と体力を注ぎ込んだ刃を返すように叩き込む。
 連撃を受けた鬼熊の肉体から血が流れだす。
 孤屠は相手との間合いを整えて、再度の突きを放つ。まっすぐに放たれた突きは、シフォリィの切り刻んだ部分を刺し貫いた。
『グルゥアァア!!』
 雄叫びか、断末魔に似た声を上げた鬼熊の後ろ、升麻は左腕に魔力を込めていた。
「こいつぁどうだ!」
 手刀を作り、背中側から内臓を抉り取るような一撃が炸裂し、がくりと鬼熊の体勢が崩れた。
 仕留めきれる、そう判断したすずなは愛刀を構え、間合いを詰めた。
「良いのですかはじめちゃん! モタモタしてると今回“も”私が先に仕留めちゃいますよ――?」
 得意げに笑って、ちらりと視線をはじめに向ける。
「ハァ? あんたこそ、ちんたらしてたら私が叩き潰すわよ! 見てなさいな!」
 割と勝手に乗ってきてくれていたが、良い一撃が入るたびに得意げに笑ってやっていた効果は抜群だった。
 挑発に乗ったはじめは自らの二振りの刀を合わせ、強烈な踏み込みと同時に鬼熊の目元辺りへ刃を走らせる。
 そのまま技量というより力で反対側の刀を振り上げる。連撃を受けた鬼熊が大きく傾いたその瞬間、すずなは刀を走らせた。
 がら空きの心臓への突き、そしてそのままの斬り降ろし。
 ぐらりと身体を後ろに下げた熊が、そのまま倒れていく。
「よし、このままもう一匹だ!」
 升麻の声と共に、ゴリョウはのしかかり気味に倒れる鬼熊を押し返し、二匹目へと走り出した。


 イレギュラーズは鬼熊との戦いを終えて、村へと戻ってきていた。
 二匹目との戦いはスムーズだった。勝手を分かってきたこともあって、一匹目よりも的確に戦えたのもあるのだろう。
「おお! 神使様方! どうでしただ? 鬼熊は無事に倒せたでしょう……って、
 ありゃ? 神使様、そいつは……!」
 イレギュラーズを迎えた村人の1人は、9人の無事を確かめほっとしつつ、視線をあるものに向けて息をのむ。
「ん? ぶははははっ! こいつぁ、例の鬼熊だ!
 どうせならこいつも食ってやろうと思ってよ!」
「な、なるほど……ですが神使様……流石に鬼熊は止めといたほうが……一応妖怪ですし、
 熊とはいえ云千年以上生きとらんとそうはならんっちゅー話ですだ……
 多分、だいぶ渋いですぞ? いや、儂も食うたことはありませんが……
 熊鍋でしたら普通の熊が採れてますだ、それの方がいいと思います」
「そうかい? じゃあ、そっちで調理させてもらうか!」
「神使様自らの手で!? そ、そんな、よろしいのですか!」
「ぶははははっ! ちょうどこいつと戦って腹が減ってるとこだ!」
「そ、それでしたらどうぞこちらに……!」
 そう言って村人に案内されたゴリョウはそう言って調理場の方へ歩いていく。
「熊鍋やるんだって? いいねえ、酒もあけていいか? いいだろ? よしいいよな!」
 準備が進められる最中、宴会場風に用意された部屋へ通されたイレギュラーズのうち、泰舜が真っ先にそう言った。
「もちろんでございます。片田舎ゆえあまり上等なものでもございませんが……」
 村人の一人はそういうと少しばかり席を外した後、再び戻ってくる。
「すまぬが、わしにも酒を注いでくれぬか?」
 そう言って瑞鬼はその村人を呼び寄せる。
「っか~、一仕事終えたあとの一杯は美味えな! 格別だ」
 受け取った酒を陶器から注ぎ、グイッといった泰舜の横、瑞鬼も持ってこられた酒に舌鼓を打つ。
「やはり、仕事終わりの酒は良い。何がなくとも酒は美味いものじゃが……」
 孤屠は運ばれてきた熊鍋に食らいついていた。
 鬼熊の肉を持ち帰ろうと思っていた孤屠はゴリョウと同じように「止めといたほうがいいと思われますぞ……」との村人の意見を受けてしまっていた。
 その代わりと言っては何だが、今並べられている熊鍋で使いきれなかった肉の幾らかを貰い受けている。
「んー、美味しいですね! お出汁が良く効いてて、調味料もなんだか違うような気がします」
「ぶははははっ! 鏖ヶ塚の嬢ちゃん、もっと食いな! おめぇさん、血吐いてただろ?」
 ゴリョウから再びよそわれたお肉を受けてちょうど口に肉を入れたばかりだった孤屠はひとまずぺこりとお礼をする。
 ラクリマも熊肉にかぶりついている。
 ちょっとだけテンションおかしいレベルのはしゃぎ様だが、お肉好きの彼の幸せそうな表情を見れば微笑ましいものだ。
「ささ、肇さんも折角なのでとどんどんいっちゃってください! ゴリョウさんのお料理の腕はすごいですよ!」
 シフォリィは楽しそうにはじめにお肉を進めている。
 友人の元戦友とくれば仲良くしたいのだろう。
「あ、ありがとう……? って、ほんとに美味しいじゃない……!」
 ほとんど初対面であろう女性からにこにこで進められて若干戸惑っていたはじめも、一口食べて目を見開く。
「というか、私がいるって知ってたなら教えてくれてもよかったのに!」
 いつも何かと突っかかってきた年下の友人が今まで自分とは違うところで活動していたと知って、なんだか複雑な表情を浮かべるすずなだった。
 さて、朝食なのか昼食なのか分からない時間ではあったものの、熊鍋で腹を満たし、泰舜が被害者の供養を行なって後。
 小休止を挟んでいた時の事。ふと、はじめが立ち上がる。
「はじめちゃん、もう行くんですか?」
「私は私の依頼主に報告しないといけないもの」
 荷物を纏め、唐笠帽子を被って出立しようとするはじめを、すずなは呼び止める。
「……良かったじゃない。新しい仲間が出来て。それに……なんでもないわ」
 そういったそっぽを向いた少女の横顔が少し寂し気に見えたのは気のせいだろうか。
「はじめちゃん、寂しいんですか? まぁ、向こうでも皆と喧嘩してましたもんね!」
「別に寂しくなんかないわ! それよりくそワンコ! あんたを倒すのは私なんだから!
 死ぬんじゃないわよ!」
「ふふん! 私だってこっちに来てからちょっとずつ強くなってますからね!
 はじめちゃんこそ死なないでくださいよ!」
 混沌肯定――いわゆるレベル1での弱体化は2人にある。
 複数の死線を潜り抜け、ゾッとするほど強い敵と戦い抜いてきたすずなの方が、今は強い。
 それでもそれは『今』なのだ。かつての力が双方ともにでなくとも――先に進まなければ追い抜かれるだろう。
 そんな言葉の応酬を投げかけながら、どことなく懐かしく思いながら、やがて訪れた沈黙。
 くるりと背を向けたはじめの姿が遠く、小さくなっていく。
「おや、すずなさん、はじめさんは先に帰られたんですか?」
 その声を聴いて振り返る。ひょっこりと顔を出したシフォリィが不思議そうにこちらを見ていた。
「はい! 私達とは別に仕事を受けたからって」
「そうでしたか。私たちもそろそろ帰りましょう。ローレットへ」
「はい!」
 微笑を浮かべるシフォリィに頷くすずなの表情は明るい。
 空に昇った陽が、これからを見守る様に明るく照らしていた。

成否

成功

MVP

鏖ヶ塚 孤屠(p3p008743)
日々吐血

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした!

無事の成功と、肇さんとの再会、あと熊鍋会でした。

MVPは今回ある意味で一番身体を張っていた貴女へ。鉄分……大事……

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