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シナリオ詳細

原罪のκύριος
原罪のκύριος

完了

参加者 : 10 人

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オープニング


 主よ、私を懲らしめてください。
 ただし、正しい裁きによって。


 天使は天界を追われ、その翼を奪われることは無く、只の異形と成った。
 地上に降りた天使は、その穢れ無き純白の両翼を、穢れ切った赤黑い血で染めた。
 堕ちた天使は、正しく神を背く代行者となった。


 一日目に天使は訪れた。
 二日目に天使は啓示した。
 三日目に天使は粛清した。


 欷歔する声が呪歌の様に風に乗り、村を包んでいた。
「何故」
 何故、何故。問うこと三度。
「天使様は、我々を殺めるのですか」
 辺りに充満する血肉の薫り。
 だが彼の鼻は当の昔に効かなくなっていた。
 赤で満たされた嘗ての我が家の中で、彼がそのか細い正気を保っている為には、何かの機能を犠牲にするしかなかった。根源的な生存本能であった。
 彼の問いに、天使は答えない。天使は微笑を携えて、服従の姿勢を見せる彼を、ただ見下ろしていた。
「天使様、私どもは貴方を崇めましょう。
 私どもは何時だって神に従いましょう。その生涯を祈りに捧げましょう。
 天使様、どうか―――」
 懇願を続けた彼の、その先の言葉は紡がれることが無かった。
 鈍く重い音が代わりに響いて、床に大量の朱色が流れた。
 天使の躰は、白いレース状のワンピースが纏わっている。
 純白の髪、純白の肌、純白の翼、純白の服。
 今ではその全てがその何処かを赤黑く染め上げ、今この時も、その染みの数を一つ増やしたばかりだった。
 天使は無言で、家を出る。
 村にはやっぱり欷歔の声。
 やがてその声は、天使を称える無言に変わるだろう。
 全ての村人を葬ったその後、天使は移ろい始める。
 彼女の生まれた意味。
 彼女のここへ来た意味。
 彼女のこれからの目的。
 全ての答えは、生命体を最小化する代行の使命に内包される。

 ―――ああ、あるいは。
 愛情深き者が、その昔、彼女をきちんと抱きしめてあげられていたのなら、彼女が地に堕ちることもなかったのだろうか?

●ローレットへの依頼
 比較的緊急度の高い依頼がローレットへ舞い込んできた。
 ≪幻想≫郊外の小村ケデシュにおいて、村人全員が惨殺されるという凄惨な事件が発生した。
 管轄貴族の調査によると、同様の被害はケデシュのみでなく、付近のゴラン、シェケムにおいても観測されているという。
 管轄貴族は早速自衛部隊を投入し警戒にあたらせていたのだが、今度はパトロール中の部隊が消息を絶った。それも一つや二つの部隊だけではない。
 しかし、瀕死の状態で陣地へと帰ってきた一人の兵士から、漸く目撃情報を得ることが出来た。彼は、次の言葉を残し、息絶えた。「―――天使が、来た。」と。
 その後も、幾つか今回の事件について知り得た情報を持って、所轄貴族は、ローレットへと依頼を持ちかけた。
「天使を殺してほしい」
 凡その人には分からない様な小さな震えが、所轄貴族の唇を濡らしていた。
「ケデシュ、ゴラン、シェケムベツェル、そして自衛部隊の最後に連絡の取れた場所……。
 それらから、”この村”は極めて位置的な相関がある。
 村人には逃げるように告げた。しかし、彼等はまだこの話を信じ切っていないらしく、動きが鈍い。兵士たちは恐れ、誰も村を助けに行こうと出来ない。そもそも”この村”を助けに行く動機が……どうしても薄い。そして、それを……、叱責する勇気も、この私に無かった」
 事の異常性に、貴族はただただ畏怖している様子が見て取れた。
 憔悴しきった彼は、続けてぽつりと呟いた。
「ケデシュ、ゴラン、シェケムベツェル、そして≪この村≫(ベツェル)は、罪人の村。
 だが、住民の命に軽重は無い。何とか我々を助けて欲しい―――」


 まるで天使の歌声が聞こえる。
 一人の村人が、その美しい音色に導かれて、家の外に出た。
 空は夕刻。穏やかな橙色を背景に、純白に包まれた、ただただ絶佳なる少女が歌っていた。
「あなたはカミサマを、信じますか」
 その歌同様に、ハープが鳴る様な美声で、少女は突然問うた。
「は、はい。信じます」
「そうですか。あなたはアイを、信じますか」
 戸惑いながら首肯した男は、続く問いかけに、
(……アイ? 愛?)
 一瞬首を傾げて、それからより戸惑ったように「はい。信じますけど……」と答えた。 その返答に、少女はにこりと破顔する。男はそのあまりの可憐さに、思わず喉を鳴らした。
「ありがとうございます。それでは、あなた達はえらばれましたね。
 神の啓示を与えましょう。
 私は天使。やがてあなた達を救うもの―――」

●何処かの世界の、何かの誕生
 天使の誕生のとき、それを皆が歓迎した。美しい天使だった。
 だが、母親は天使を生むとと同時に息絶え、父親は妻を失くした悲しみにくれた。
 父親は娘を憎み、愛を与えない事で心の平穏を保った。
 やがて相反する様に天使は大きな力を宿し始め、神を脅かす存在になる可能性を内包した。
 神は天使から神性を奪って、彼女を地へと堕とした。
 父親は、いっそその翼をもがなかった神を恨んだ。
 天使は人の地で迫害されるだろう。
 父親は悔やんだ。
 ……彼女をきちんと抱きしめてあげられていたのなら、彼女が地に堕ちることもなかったのだろうか?

GMコメント

●依頼達成条件
・『天使』の撃退
 ※撃退なので、撃破しなくても成功になり得ます。


●情報確度
・Bです。OP、GMコメントに記載されている内容は全て事実でありますが、
 ここに記されていない追加情報もありそうです。
 ただしそれは調査・推理によって明らかになる物語的な追加情報であり、
 攻略難易度へ悪影響を及ぼすものではありません。


●現場状況
・≪幻想≫郊外の小村、ベツェル。聖堂(中央集会場)。
・時刻は夕方です。特にデメリットはありません。
・シナリオはベツェル村中心にある聖堂の中で天使と相対する時点からスタートします。事前自付与可能です。
・五十名ほどの村人達は危機の接近に気が付いていません。戦闘の被害が出る可能性がありますが、達成条件には関係ありません。


●敵状況
■『天使』
【状態】
・無名の白い天使。≪連続殺人鬼≫(シリアルキラー)。
・人間に例えると十代後半程度に見える少女。種族不明。
・純白の髪、純白の肌、純白の翼、純白の服。

【傾向】
・感情、思考能力があります。会話が可能です。
・彼女自身の行動指向に従い、極めて強力な殺傷能力・行動特性を発現します。

【能力値】
・高EXA、高CTです。特にEXA値はとても高く、複数回行動を多く取ります。
・下記攻撃欄に記載の通り、混乱系統の状態異常が多く、要注意です。また超射程の攻撃が多いのも特徴です。

【攻撃】
 1.天使の歌声(A神超遠域、ブレイク、混乱、狂気)
 2.Alea jacta est(A神近域、HA回復、魅了、飛)
 3.代行執行(A物近単、不運、出血、連、大威力)
 4.罪と罰(A物超遠域、出血、流血)
 5.アイとアイ(A神至貫、HP回復、防無、封印、出血、連、大威力)

●備考。
・『天使』に名前はありません。プレイングでは適宜それと分かるように記載して頂ければ十分です。

・ケデシュ、ゴラン、シェケムベツェル、ベツェルは何れも軽度の罪人の居住地として使用されていたそうです。住人全てが前科ありではなさそうです。

・本シナリオに登場する『天使』は便宜上設定された呼称(識別コード)です。混沌世界(幻想)に特異的に発生した敵対生命体であり、『魔種』とは異なる存在です。また他シナリオに登場する『天使と呼称されるもの』とは異なる独自の概念であります。

皆様のご参加心よりお待ちしております。

  • 原罪のκύριοςLv:2以上完了
  • GM名いかるが
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年04月28日 21時15分
  • 参加人数 10/10人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
レナ・フォルトゥス(p3p001242)
森羅万象爆裂魔人
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
高千穂 天満(p3p001909)
アマツカミ
プティ エ ミニョン(p3p001913)
chérie
メルナ(p3p002292)
青の十六夜
ラ ラ ラ(p3p004440)
螺羅乱
竜胆 碧(p3p004580)
叛逆の風
オロチ(p3p004910)
悪党
アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015)
煌きのハイドランジア

リプレイ


 無実の天使も、生まれてしまった以上、地に堕ちざるを得ない。


「随分としおらしいでは無いか、天使様。
 それとも何か。神の御前で改心でもしたというのかな―――」
 口の端を歪めた『正直な嘘つき者』リュグナー(p3p000614)が、何処か皮肉を孕んだ口調で言った。
 彼がそう言うのも無理はない。会敵早々にまず立ち位置を気にしたイレギュラーズだったが、彼等の動きを余所に、天使は何ら抵抗をしなかった。
 『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)、『兄の影を纏う者』メルナ(p3p002292)、『螺羅乱』ラ ラ ラ(p3p004440)が天使を中心に置いた正三角形の頂点に。
 リュグナー、『森羅万象爆裂魔人』レナ・フォルトゥス(p3p001242)、『天津神の末裔』高千穂 天満(p3p001909)、『cherie』プティ エ ミニョン(p3p001913)、 『叛逆の風』竜胆 碧(p3p004580)、『悪党』オロチ(p3p004910)、『特異運命座標』アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015)の七名が天使と前衛三名を取り囲む幾許の距離を保持した円周上に位置している。
 天使は今、縦長の聖堂の丁度中心に立っている。従って、イレギュラーズの陣形はほぼ理想的な形と云って良かった。
(翼以外は人間なのに……なんだろう、この違和感。
 肌に刺すような雰囲気―――というか。対峙してるだけで、人とは違う絶対的な何かだって伝わってくる様な……)
 メルナの視線の先で、美しい天使はリュグナーの問いかけに無言を返した。
 理想的な陣形。なのに、胸騒ぎが止まらない。
 天使は、イレギュラーズ達を気に留める風でもなく、ただその聖堂を見回した。亡とした視線は、何を見るのだろう。少なくとも碧には、その感情は分からなかった。
「―――”血塗れの天使”たぁ、ムービーのヴィランみてぇじゃねえか。
 何のつもりか俺にゃ分からねえが、テメェのやってる事ぁ大層トサカに来やがる。
 ぶちのめしてやるぜ!」
 オロチの鋭い眼光が天使を穿つ。弱者を蹂躙するモノも、筋を通さないモノも、―――悪辣なモノも、全て彼の気に障る。
「うむ! なるほど強敵であるな!
 吾が美少女魂がうずくのである!
 早速だが、御手合わせ願おう!」
 オロチの声に触発されたかのように百合子が満面の笑みで腕に力を籠める。
 拍子抜けではあるが、今回の戦いは、短期決戦に持ち込まなければ勝機は無い、というのがイレギュラーズ達の見立てだった。であれば、これは願っても無い展開だった。
 天使の視線が穏やかに百合子に戻る。百合子は、天使の眼前に立ち、一瞬の内に至近距離にまで踏み込むと、その隆々たる右腕を極めて軽やかに打ち込む。
 飛来する拳を眺めた天使は、己の相貌に着弾するその瞬間、その拳が白き羽に包まれるのを、見た。
「ふむ―――何と奇怪な」
 目の前で己の拳が無数の天使の羽に覆われ防がれたた百合子は呟く。その衝撃は、極めて穏やかで、
「咲花、次が来るぞ!」
 天満が言った。百合子も分かってはいた。
 天使はその一点だけ赤い虹彩を百合子に充てる。至近距離で対峙する二人の間には、永遠の様な一瞬が流れて、
「あなたはカミサマを、信じますか」
「吾は信仰を理解せぬ」
「―――ああ、それは」
 困った様な天使の顔を、百合子が認識した後、天使の右翼が全て鋭利な刃へと変貌し、たわやかに羽ばたいたその右翼が、彼女の躰を突き刺した。
「これは、」
 痛いわね。思わず零したレナの感想は、数秒後に、百合子から激しく飛沫する血液となって具現化した。
「……うむ、実に良い。実に素晴らしい一撃だ」
 己が体躯から吹き荒ぶ血液をものともせず、百合子が破顔すると、
 ―――天使の左翼が、連続して百合子の体躯を串刺した。
「百合子嬢、ポーションを!」
 すかさず碧がスペシャル・ポーション・ディフェンスを展開する。激しく出血を続ける百合子を彼女が癒すと「忝いである!」と百合子が返した。
「攻撃の手を緩めないで!」
 その極めてショッキングな初手にプティは動揺せず、天凱光弩弓を構えた。其処から放たれるのは七支刀にも似た矢。
 天使と百合子が弾かれる様に距離を空ける、が、天使の方は無論メルナとラララが二手で捕えている。
 プティの矢をやはりその羽でいなした天使だが、ラララが次いで捨て身の如く肉薄し、蹴撃を放つ。また羽が舞う。攻撃の衝撃は小さかった。
「おぬしが天使か。余はラララ。天使とやらを一目見とぅてここまで参った。
 成る程、中々艶美なる出で立ち。しかし、”再度余に問う”がよい」
 天使は一瞬沈黙した後、その言葉を理解した。
「あなたはカミサマを、信じますか」
 にやり、とラララの口が歪んだ。
 感情は知らぬ。
 喜怒哀楽を持たぬ。
 されど、愉快だ。そして何より―――、滑稽だ。
「道を妨げる全てを撥ねる。余こそが神よ!」
 天満が遠距離術式を展開するとほぼ同時に、アリスの周囲を蒼のオーラが纏う。彼女の魔力が圧縮され、暴虐的な一撃へと変換される証しだ。
(……あの子が何でこんな事をするのか、私には分からない。
 でも、それでもあの子が間違いを犯してるのは分かるから)
 アリスの独白の間に、天満の一撃が放たれる。今度はラララと距離を空けた天使がその羽をもがれる。どうやら攻撃が効いていない事は無さそうだ。
 そして、続けざまに。高濃度の魔弾が冷徹に放たれた。
(誰だって、いつかどこかで間違えるから。
 ―――だから、誰かが止めないと。声を掛けないといけないんだ……!)
 その一撃は蒼い軌跡を描いて、天使の体躯に直撃した。ばさり、と激しい音が鳴る。天使を包み込んだ白い羽―――いや、今では百合子の血飛沫で赤く染まった赤黑の羽が、無数に舞った。
「私達は貴方の望むような存在じゃないのかもしれない」
 アリスの声が、舞い散る羽飛沫の中、天使の視線と交錯した。
 赤と金。二つの視線も、交錯した。
「『貴女は間違っている』って。
 貴方にそう言ってあげることが、きっと。
 ”私達”が―――”私”が、此処に居る理由だと思うから……!」
 その言葉に、天使は何を感じただろう。
 聖堂に舞う赫黑い翼。
 差し込む赤い日差し。
 ―――ああ、きっと彼女が生まれ堕ちた日も、こんな場所で。

 きぃん、と高い音が聖堂の中に充満した。
「これは……」
 近距離に位置するメルナがその違和感を強く認識すると、
「……来るぞ、構えろ!」
 リュグナーと叫びにオロチも強く頷いた。特に、メルナ、ラララ、百合子の三人は……。

 神は賽を振るう。
 その目が何であろうと、人々は一喜し、一憂する。

 刹那。
 爆発的な衝撃が、眩い閃光と共に。
 天使を囲んでいたメルナ、ラララ、百合子の三人を襲った。

●暗転
 ラララは揺蕩っていた。
 それは、神であった頃の世界かも知れない。

 百合子は揺蕩っていた。
 それは、美少女で溢れていた頃の世界かも知れない。

 何れにせよ、この世界に生み落された。
 生まれた以上は、堕ちるしかない―――。


 事前に得られていた情報から、イレギュラーズ達は互いの間合いを気にしていた。
 特に前衛たる三名は注視して其処を気を付けていたに違いない。特にメルナはその立ち位置を常に気を掛けていた。だから、天使の攻撃が結局の所は、ぎりぎりメルナを捉えなかったのは、彼女らの機転の御蔭であった。
 一方。逆に言えば。
 ラララと百合子の二名は非情にもその攻撃を、しかも会心の一撃として被弾した。
 前衛だった立ち位置から凡そ十メートル、後方へと吹き飛ばされた。
 陣形は崩れる。結果、前衛はメルナだけだ。彼女が優れたファイターであったとしても、一人で抑え込むことの出来る相手では無かった。
「ふん。ようやってくれたわ。余を灰塗れにするとは、償いの心構えは出来ておろうな?」
「カハハハハッ! 実に強い! だからこそ良い!」
 立ち上がったラララと百合子。そう、しかしながら幸運だったのは、彼女らが二人共精神耐性を有している、という事実だった。
 天使の爆発的オーラは人の心を掻き乱す。
 だが。彼女らにその異能は、通じない。
「今度は、貴方が断罪される番。これ以上……村の人達はやらせない!」
 前衛一名になったメルナは、しかし、一切の怖れを見せない。
 月の呪いが彼女を覆う。ギフトは彼女に、戦えと宣告する。
「―――っ!」
 一閃。メルナのグレートソードが鋭利な太刀筋を帯びて天使へと迫る。
「出し惜しみは無し! 今の私の全力で……!」
「……」
「―――貴方を止める!」
 ざん、とその筋が天使の羽を斬り払った。
「弾幕張って後方支援と行くか!」
 メルナに続けと、オロチがリボルバーの銃口を天使に捧げる。
 闇より出る、銀色の弾丸。
 そう、だから。彼の銃弾は、決してターゲットを逃さない―――!
「止まって見えるぜウスノロォ!」
 引き金をひく。精密射撃が天使の頭を捉えると、
「っ!」
 プティが軽く息を飲んだ。オロチの銃弾は羽によって阻害されず、そのまま天使へとすり抜け、そして―――彼女の頭が、大きな音、衝撃を伴って、爆ぜたのだ。
「痛かろうな」
 天満が他人事のように呟く。遠くでリュグナーが「……ああ」と頷いた。
 だが彼等を驚かせたのはその被弾では無かった。
 風船が割れるように天使から噴き出したのは―――、赤ではなく、”漆黒の血液”だった。
 天使の頭がだらんと下がり、そこから噴き出す黒い雨。異様な光景だった。天使は、その純白に包まれていた体を、漆黒それ自体へと染め上げていく―――己の血液によって。 ぐい、と不意に天使の頭が上がった。右眼が潰れている。オロチの射撃は人としては急所に違いない眼を正鵠に撃ち抜いたことを意味していた。
「正に『終末の天使』さながらですわね。」
 レナの目には、それが異常な姿に映った。
「―――イタイ」
 天使の右眼から黑が溢れる。
「―――イタイ」
 天使の右眼から愛が溢れる。
「―――イタイ」
 天使の右眼から*が溢れる。
 ―――気が付けば天使は、黑を垂れ流し、碧の眼前に立っていた。
「―――イタイ」
「痛い、でありますか」
「―――イタイ」
「虚しいでありますね」
「ムナシイ?」
「我、神を信じておりません。
 もっと云うと、何も信じてはおりません。
 さらに言うと、この己ですら、信じるには値しないであります。
 そういう意味で、貴女は」
 我に似ています。そう続けた碧の表情は、あくまで無感情で、けれど、言葉には感情が乗っていた。それがどのような感情なのかは、碧本人にしか知り得ないが。
「―――似ている。ワタシと、アナタ」
 その時点で、天使の攻撃対象から”碧は外れた”。そうでなければ碧は、天使の腕により貫かれていた筈だったのだから。
 天使の歌声が、突如聖堂を支配する。碧の正面で、天使は歌い始めた。

 無実の天使も、生まれてしまった以上、地に堕ちざるを得ない。
 純真な天使も、生まれてしまった以上、地に堕ちざるを得ない。
 孤独の雨が、天使を穿つ。
 無限の雨が、天使を穿つ。
 絶え間ない罰が天使を苛み。
 何れ天使は、悪魔となる。

 碧は咄嗟に天使の手を握ろうとした、が、間に合わなかった。すり抜けた小さな細い手はゆらりと揺蕩い、彼女は宙に浮いた。
 天使の歌の下に、イレギュラーズ達の付与効果は消失した。
 オロチ、レナ、メルナは、己の自我を喪った。
 飛行した天使はその翼から無数の羽を刃と化してばら撒いた。その一つ一つがイレギュラーズへと向けられ、特にラララ、天満、アリスの体躯からは激しく血飛沫が噴き出した。
「大ピンチ、ってやつだね……!」
 プティがその状況に思わず笑みを零した。何時でも単純明快で明朗快活な彼女らしい感情の発露だった。
「でも、諦められない!」
「うん!」
 アリスが返すと、プティは頷いた。プティが矢を打ち、アリスが魔弾を打ち込むと、その支援を持ってラララと百合子は天使の近くへと復帰するが、自我を喪ったメルナからの攻撃を暫く警戒する必要がある。プティやアリス、天満も同様だ。リュグナー、レナは通常攻撃で自身達を射程に抑えているのだから。
「貴様は天使などではない。貴様の持つ「アイ」は「愛」に非ず――≪穢≫(アイ)だ。 この穢れた存在め」
 リュグナーが天使を謗る。ラララ、百合子らへの天使の意識を削ぐ心算だ。
 プティが後衛から前線へと詰める。躰は傷だらけだが、火力は十分だ。
「……」
 少しだけ宙に浮いた天使は今では全てが黑い。
 碧の懸命な療術が、このギリギリのパーティを何とか保持させている。いつ瓦解しても可笑しくない。碧が居なければ戦線は持たない。
 この黑き天使は、紛れも無く―――強敵だった。
「扨て、天使とやら。おぬしの天は何処に在るか。おぬしの神は何処に存ずるか」
 ラララが問う。背後では、百合子がメルナの攻撃を受け止めていた。天使は飛行を止め、地面へと降り立った。
「天は堕ち、神は死にました」
 明瞭な発音で、天使は返した。
「成らば―――おぬしは何ぞや」
「私は」
「正しき人の愛は流星の如く瞬きながらに、眩いと聞く。おぬしが求めるのは、何ぞや」「私は」
 その続きは、天使の口から紡がれることは無かった。
「私は……」
 懊悩するかのごとく美しい相貌を歪めた天使は、己の躰から再度翼を降らせる。
 攻撃は止まない。強力な彼女の攻撃は、熾烈で、そして何より、切実だった。
「……神性を失ったとは言え神使は神使。余が神格を得る足掛かりとしようではないか。 ―――あまり、落胆させるでないぞ」
 ラララと同じく神性を持っていた過去を有する天満。彼女の魔弾が抵抗する様に天使を削ぐ。その内に、オロチ、レナ、メルナは、魅了から回復した。
「私は負けない。負けられない!
 例え貴女に敵わないちっぽけな存在だとしても、貴女が止まらない限り、絶対に!」
 天使の攻撃は凄絶さを増す。前衛も後衛も、既にそのリスクは変わらなかった。
 暴虐的な被弾。
 天使が振り撒くのは、既に絶望に近い。
 それでもアリスは、自身を奮起させた。
 私は知っている。
 私は貴女が抱きしめられなかったことを知っている。
 私は貴女が傷つき続けてきたことも知っている。
 ……ああ、だから。アリスが立ち位置を変え、前衛へと出ようとするのを百合子は視認した。その上で、百合子は天使へと問う。
「吾には愛も信仰もわからないのである……実在するのは知っておるがな。
 吾にとって戦闘は会話も同じ、しかしどれだけ切々と訴えられようと知らぬものは理解できぬ。
 ―――さて問おう、愛とは何ぞや」
 其れは先ほど口にされなかった言葉。百合子の拳が、熱く天使を穿つ。
 天使はそれを、正面から受け止めた。痛い。しかし、熱い。百合子は、その天使の心意気を、気に入った。今度は天使が左腕を振るうと、百合子の顔に被弾した。―――天使の拳もまた、感情が籠っていることを、百合子は理解した。

「……愛とは、この拳の様なもの。
 其処に姿は無く。其処に形も無く。
 其れは甘美で。其れは痛い。
 其れは己を充実させ。其れは相手を充足させます」

 天使が吐き出す様に言うと、百合子は頷いた。
 そしてアリスは、天使の眼の前に立っていた。多大なリスクは承知していた。
 アリスは無言で天使を抱え込む。天使の躰の無数の羽は、既に知っている様に、刃の様に鋭い。アリスが天使を抱きしめれば、それはアリスの躰を無数の刃が刺さることを意味していた。アリスは歪みそうになる顔を懸命に笑顔で押し込めて、強く天使を抱きしめた。
 傷だらけになったとしても、抱きしめてあげたいのだ。
 嘗てこの子を抱きしめてあげられなかった、誰かの代わりに。
「だから、これも”愛”だよね?」
 温かい。天使には体温があった。
 温かい。アリスの躰から大量の血が流れ出る。
 温かい。やがて天使とアリスは、黑で覆われる。
「ねえ、天使君」
 プティが、その傷つき血で汚れた顔で、けれど微笑みを浮かべて、天使へと問う。
「正しい裁きも君達の教義も分からないけど、悔い改めてれば全ての罪は許されるってさ。
 神は信じてないけど、愛は信じてるし―――、天使君も信じたいから。
 この”アイ”を、信じてくれないかい?
 ぴたり。アリスと同様にプティが天使に抱きついた。
「……」
 三人を覆う黑は次第にその濃度を薄くしていき。
「……」
 やがて天使は、鮮血に染まったその姿へと、戻っていった。


「どんだけ悪事を働いても、神は裁いてなんてくれねえのさ」
 天使が立ち去るその後ろ姿を苦々しく見遣るオロチが小さく呟くと、リュグナーも「全くだ」と頷いた。
 レナは。次こそは彼女の浄化を願うけど。


 ……その後天使は、アリスとプティを突き放すと、発作に見舞われたかのように苦しみ始めた。
 彼女を苛むのは、彼女自身だけでは無い。彼女は既にその身を呪われている。
 彼女を地に追い遣った神は、彼女に終生の罰を化した。彼女自身には、罪など無いのに。
「……ありがとう」
 振り絞るように言ったその言葉を置き土産に、天使は飛び立った。
 少なくとも彼女は”愛”という”アイ”を知った。
 彼女の罰は、まだ終わらない。
 けれど暫くの間は。―――ああ、幾許かの時だけは。
 彼女は、只の少女に戻り、愛に浸るのであろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

咲花・百合子(p3p001385) [重傷]
白百合清楚殺戮拳
プティ エ ミニョン(p3p001913) [重傷]
chérie
メルナ(p3p002292) [重傷]
青の十六夜
ラ ラ ラ(p3p004440) [重傷]
螺羅乱
アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015) [重傷]
煌きのハイドランジア

あとがき

皆様の貴重なお時間を頂き、当シナリオへご参加してくださいまして、ありがとうございました。

 陣形の工夫で多大な努力をされたとお見受けします。合理的で、精緻で、機能的な陣形を構築できたことは、一歩間違えば失敗に繋がり得るハード難易度で、成功となるのに十分な根拠であったと認識しています。
 また精神耐性を多く組みこんだことも、非常に有用な対策でありました。
 唯一の療術者となった碧さんがかなり苦労されていましたが、攻撃一点というハイリスクな戦術の中で、何とか天使の撃退に成功したことは、皆様のプレイングの素晴らしさ故であると感じます。
 他方、陣形が乱された場合の対処については、記載の有無に個人差があり、そこまで踏み込むと大成功判定に近づいたのかなと思いました。
 重傷者の方が何名かおります。次の仕事に向けてご自愛ください。

ご参加いただいたイレギュラーズの皆様が楽しんで頂けること願っております。
『原罪のκύριος』へのご参加有難うございました。

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