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シナリオ詳細

<八界巡り>ランドウェラの世界

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●世界を身体は覚えている
 新天地発見に主要七カ国が沸く中、それでも黙々と自分の研究を続ける練達の研究所。
 広い人工公園がすぐ隣に見える窓によりかかり、コーヒーの入った紙コップを見つめるランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788)。
「僕は、作られてから五年ぽっちで混沌に召喚されちゃったからね。あそこのことはよく知らないんだ。星の裏では大変なことになってるとか、知らない場所で自分がどう思われているのかとか……」
 今回も『彼ら』は異界研究のためこの施設に集められていた。
 シュウンと音をたてて開いた扉。
 眼鏡をかけた男性――という以外の特徴がまったく頭に残らない、なのになぜか存在感の強い、奇妙な男が現れた。
 一連の依頼人。白亜工業のエージェントである。
「今回もよろしくお願いします。世界情報の抽出が今回は弱いので、侵入時の状況には注意してください」

 介入手続きを行ないます。
 存在固定値を検出。
 ――桜咲 珠緒 (p3p004426) 、検出完了。
 ――上谷・零 (p3p000277) 、検出完了。
 ――リュグナー (p3p000614) 、検出完了。
 ――ランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788) 、検出完了。
 ――清水 洸汰 (p3p000845) 、検出完了。
 ――マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス (p3p002007) 、検出完了。
 ――藤野 蛍 (p3p003861) 、検出完了。
 ――ジェック (p3p004755) 、検出完了。
 世界値を入力してください。
 ――当該世界です。
 介入可能域を測定。
 ――介入可能です。
 発生確率を固定。
 宿命率を固定。
 存在情報の流入を開始。
 ――介入完了。
 ようこそ。今よりここはあなたの世界です。

 三度目である。細かい説明は省こう。
 『イデアの棺』によって八人が追体験することになった世界。
 それは――。
「『ホシ』、と彼らは呼んでたかな」
 その世界を知る人間、ランドウェラはそうつぶやいた。

●ホシを守る者たち
 インタビューの中でランドウェラがその世界を『ホシ』と呼んだことから、世界はその名で呼ばれるようになった。
 ホシとは科学文明の発達した人々と、その裏に隠れた凶悪な神や悪魔といった異常存在がすまう島である。
 地球と酷似した惑星の、大西洋アゾレス諸島付近にあることから地球系世界のひとつだと考えられているが、ランドウェラがホシ外の知識に乏しかったことや肉体に世界の記録があまり残されていなかったことから、再現される世界はホシ内部……それも裏寄りの状態に限定された。
「うおっ!? これホントに地球なのか!? ファンタジーだなあ……」
 巨大な怪物が空を飛んでいく風景を前に、清水 洸汰 (p3p000845)は帽子を被り直した。
「マカライトさんと同じパターンかな。文明がどこかで分岐したとか」
 藤野 蛍 (p3p003861)は、周りの風景にちらちらと存在している、自分でも理解できる建物や乗り物を見てこくこくと頷いた。
「その割には島に限定されているんだな。島の外にもこういう怪物はごろごろいるのか? そもそも、連中はどこから来たんだ。昔から地球にいたとは思えんが……」
 マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス (p3p002007)がウンウンとうなり始めたので、ランドウェラは苦笑して肩を叩いた。
「できれば解説したいけど、あいにく僕は知らないんだ。正直、僕自身どうやって生まれたのかすら、ね」
 肩をすくめるランドウェラに、ジェック・アーロン (p3p004755)がガスマスクをスッと外して肩をすくめ返した。
「けど空気はおいしいよ。島以外の人類が絶滅したとかいうパターンじゃないんじゃない?」
「え、なに、そんなパターンありうるの?」
 上谷・零 (p3p000277)がげっそりとした様子で自分の両肘をさするように身を細くした。
 手を左から右へとスライドさせるようにして仮想ウィンドウを開く桜咲 珠緒 (p3p004426)。
「どうやら……この世界での私たちは、『異世界から侵入した異常存在』であるらしいですね」
「ふむ、ミッションは?」
 いつのまにかその辺のビールケースをひっくり返して腰掛けていたリュグナー (p3p000614)が話に加わってきた。
「『化物の捕獲』とだけ。位置情報は細かくマーキングされているので行けばわかると思いますけど……」
 ちらり、とランドウェラの方を見た。
 頬をかくランドウェラ。
「『ホシ』の連中は異常存在が自由に行動するのを認めてないからねえ。僕らを補足し次第捕まえにくるだろうね。保護して収容するのが彼らの使命みたいなものさ」
「ふむ、ふむ……」
 リュグナーは腕を組み、トントンと指で肘を叩いた。
「この仮想世界で収容された場合どうなる」
「別に死にはしないだろうけど……珠緒?」
 解説を求められて、珠緒は再びウィンドウを読み始めた。
「『可能な限り逃走せよ』とありますね。逃げ切ることじゃなくて、逃走を試みること自体がミッションのようです」
「う、なんだか嫌な予感がしてきた……」
 蛍がげっそりとして眼鏡の縁に指をつける。
「今までの世界だとすごいパワーが付与されたり異能が備わったりしてたけど、今回そういうのを全然感じないし……もしかしてヤバい機動部隊に死ぬほど追い回されたりしないよね?」
「その発言、完全に『される』フラグだよね」
 零のつぶやきに、洸汰がハッとして振り返った。
「ま、何はともあれ……お仕事をこなしちゃおうか。あとでドーナツ食べたいな」
 ジェックはライフルを肩に担ぎ、意気揚々と歩き出した。

GMコメント

 ご用命ありがとうございます。
 こちらはVRマシンを用いて異世界を仮想体験するシナリオシリーズ<八界巡り>です。
 これまでのシリーズはこちら
 https://rev1.reversion.jp/scenario/replaylist?title=%EF%BC%9C%E5%85%AB%E7%95%8C%E5%B7%A1%E3%82%8A%EF%BC%9E

■世界:ホシ
 ランドウェラさんの世界、というか彼の脳内情報と肉体から抽出できた限定的な世界情報であります。
 ちなみに白亜工業が割り振った世界名はA0173地球世界。その太平洋上の島が舞台になっています。
 皆さんはこの島の第二階層通称『裏』にて、異常存在の確保と、同じく異常存在の確保・収容・保護を目的とした集団から逃げることがミッションになっています。
 『裏』は異常な特殊空間となっていて、常識では考えられない広大さときわめて無秩序でバラバラな風景でできています。
 (裏世界という表現が割と近いですが、ピンと来ない方のためにもうちょい解説します)
 雨上がりの草原や、植物だらけの住宅街や、永遠に階が続く廃墟ビルや、どこに繋がるかわからないエレベーターや、不可思議しかない無人駅といった……地球にありそうだけれど明確にオカシイ空間の連続体です。
 空間どうしは繋がっていますが、距離感覚がいちいち変動するのでマップやマーカーが意味をなしません。そして今回のミッションの性質上『表』へ帰る必要がないので、出入り口や地理を気にする必要はありません。
 行き当たりばったり感覚で強気に散策していきましょう。

■ミッション
 世界情報抽出のために、皆さんはこの仮想世界で二種のミッションをこなさねばなりません。
 それぞれ優先度の高い順に説明していきましょう

●『異常存在の確保』
 皆さんは裏空間にて異常存在を発見、確保しなければなりません。
 といっても、五感をブーストしたり高い空から見渡したり草花に尋ねたりしてもほぼほぼ無意味なので、そういう存在がいそうなスポットへ手分けして行ってみるのが良いでしょう。(手分けする意味は別のミッションに関わるのでそのとき説明します)
 スポットは以下の通りです。何が出てくるかわかりませんが、大抵は自力で手に負えないヤバいもんと戦うことになるでしょう。
 分散パターンは2チームでも4チームでも構いません。『何体確保せよ』みたいなノルマはないので、好きな形で好きな場所に行ってください。

・雨上がりの草原
 爽やかな風と草のかおりが吹き抜ける美しい草原です。
 身体に風を感じるのになぜだか背の高い雑草は微動だにしていません。
 すねまで浸るほどの水たまりがあちこちにあります。あるんだけど、水たまりとそうでない場所の境目がなぜか不明です。
 精神干渉系の異常存在の発生が報告されています。
 割と一撃で窮地に陥るタイプの存在が現れやすいので、覚悟して乗り込みましょう。

・植物住宅街
 巨大なタンポポやゼンマイが道ばたにはえている住宅街です。
 見たところ古くも新しくもない普通の住宅街ですが、全くの無人であるにも関わらずつい一秒前まで人々が普通に生活していたような痕跡があります。
 見るたびに植物の位置が変わっていたり、植物に対して奇妙な親近感や感情移入を起こすことがあるそうです。
 ここでは畏怖を用いてこちらに接触をはかる異常存在が報告されています。
 自分にとって尊敬(畏怖)の対象や、絶対的に怖い(畏怖)の対象を思い浮かべておくとプレイングがスムーズです。

・無限廃墟ビル
 どこまで登っても廃墟がひろがっている雑居ビルです。
 ずーっと昔に何かしらの用途で使われていたようなフロアがあり、階段でのみ移動が可能です。
 雑にクリアリングしながらどんどん階を上っていくのがお勧めの探索方法です。
 ためしに廃墟の雑居ビルを散策している自分を想像してみてください。
 ドアをあちこち開いて、開いたドアのすぐそこで、貴方を見ている知らない人がいたらそれが異常存在です。

・虚数階エレベーター
 ボタン配置が常に入れ替わり続けるエレベーターです。
 階層をしめす数字も解読不能なので、適当に押して行くしかありません。
 到着した階層を散策し、異常存在がいないかどうかを確かめましょう。
 何がおこるか、どんな存在が現れるかは不明です。
 そもそも報告されている情報が少なすぎるようです。唯一それらしいものとしては……三回目に到着したフロアでは遠くから女性が早足でエレベーターへ迫ってくるが絶対に乗せてはならないとだけ言われています。

・不可思議無人駅
 この駅へ向かっていると、その方法や過程にかかわらず必ず電車に乗った状態で駅に到着します。どの時点でどう列車搭乗状態に切り替わるのかは不明です。そしてどうやってそこへ来たのかも分からないため、帰る方法もわかりません。
 電車を降りると以下の存在と遭遇する可能性があります。
 ☆顔が真っ黒に陰った男子小学生
 ☆首からさきが無い犬を抱い身なりのいいた成人女性
 ☆胸部と頭部に大きな穴が開いたサラリーマン
 ☆大きなゴミ袋に入った肥満体の成人男性
 ☆解読不能な言語でよく喋る青年

●異常存在との戦闘について
 皆さんはリアル(混沌世界)での戦闘能力や非戦スキルをそのまま保有した状態でこの裏空間にいます。
 特殊な能力や異能は付与されていませんので、いつも通りに戦ってください。
 尚、現れる異常存在は大抵の場合ヤバい何かです。それでもかなりマシなほうで、もっと危険なエリアになるともはや百人規模でも対処不能なバケモノがごろごろしだすそうです。上に挙げたような異常な空間ができあがっているのも、彼らのおかしな能力や干渉のせいだと言われています。

●『組織』からの逃走について
 表空間の組織はエージェントを度々裏空間へ送り込み、異常存在の確保と収容を行っています。それぞれのトップの間での決めごとらしきものが関係しているようですが、大体のところは不明です。
 分かっているのは、彼らに発見されたら確実に襲われるということです。
 ちなみに敗北すると殺さずに捕まえてどこかへ連れて行かれます。どこに連れて行かれて何をされるのか不明ですが、少なくとも捕まった時点でログアウト処理が行われるので安心ですね。
 組織の能力は不明ですが、ヤバい場所へヤバいものを捕まえにくるくらいなので多分こいつらもだいぶヤバい筈です。
 倒すとか戦うとかせずにできる限り逃走をはかりましょう。

  • <八界巡り>ランドウェラの世界完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

上谷・零(p3p000277)
恋揺れる天華
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ジェック・アーロン(p3p004755)
神翼の勇者

リプレイ

●虚数階エレベーター
「うーん……初めて見るな!」
 『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は目一杯に背伸びしてから、深呼吸がてらすがすがしそうに叫んだ。
 果ての見えない草むら。二分ごとに色と天候の変わる空。エレベーター扉しかないコンクリートの壁。
 ここは『裏』世界。
 ホシの中でも制御不能の人外魔境である。
 この場所に生息(?)している存在も規格外なら空間も規格外。立ち入るならば一切の保証は得られないという場所だ。
 ……が、極論すると、ランドウェラを含め全員にとってここは完全に所見の場所。
「自分のいた世界でありながら役に立たない僕だが今回もよろしく頼むぞ!」
「ふむ、いいではないか。未知。実に面白い」
 『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)は結局の所ほんとうに命を落とす危険が無いことを理解してか、コンクリート壁に寄りかかって笑った。
 いや、もしかしたら本当に命の危機がせまっても彼はこんな風に余裕ぶって見せるのかもしれない。
「奇妙な感覚の空間に、予想の出来ぬ異常存在……そして、我々は捕まえる立場であり、捕まえられる立場でもある。やはり面白そうだ」
「そ、そうかあ? まるっきりホラーじゃねえか。常識が通じない場所ってこええんだよなあ……」
 ぶるりと身を震わせ、『出張パン屋さん』上谷・零(p3p000277)はエレベーター扉の横に設置されたボタン群を観察した。
 丙とΣを混ぜ合わせたような意味不明の文字の隣に、禄の字を部分的に入れ替えたようなこれまた意味不明の文字がある。
「これ、どっちかが開くボタンってことで良いんだよな? で、その上が階層なんだろうけど……」
 数字……なのだろうか。まるで解読不明な文字が並び、しかも文字自体が細かくぐちゃぐちゃと動いているせいで判別どころではない。
「押してくれ」
「どこでもよいぞ」
「ええ!? 俺ぇ!?」
 零はおそるおそる、適当なボタンへ人差し指を近づけた。

 エレベーター内にはおよそ三つのものがあった。
 文字が常にぐちゃぐちゃと動き続けている操作パネル。
 現在の階層を示しているのかミミズの群れがのたくっているのかわからないような表示板。
 そしてその横には、エレベーター内を斜め上の監視カメラから見た映像が表示されている。
 ディスプレイを見上げる零と、壁によりかかるリュグナー。ミサイルポッドを構えてドアの前に陣取るランドウェラ。その三人が映っていた。
「ねえランドウェラ。本当にここのこと何も知らないのか?」
「僕があった事あるのは大人しいのばっかりだったからなぁ。
 強い奴は……ヤバイ奴はやばいって聞いてた。知ってるのはそれだけだ」
「ヤバイ奴はやばい……」
「ヤバイ奴はやばい」
 二人は顔を見合わせて頷きあって……そして同時に「「なにもわからん」」とつぶやいた。
 ややあって開く扉。
 開いた先に見えたのは長い長い通路であった。
 団地の一階層なのか、表札のついたドアが等間隔に並んでいる。
 ドアから漏れ聞こえる形で、誕生日を祝う歌が聞こえた。
 それも、『全てのドアから』全く同時に聞こえたのである。
「どこの家も誕生日パーティーかー、偶然だなー」
 はははと空笑いしながら、零はポンと通路にパンを投げた。
 地面に落ちた、その途端。
 全てのドアが開いて人間が飛び出し、パンへと群がっていった。
 開いた扉から未だに、そしてより大音量で聞こえるハッピーバースデー。
 落ちたパンにかじりつこうと歯をがちがちと鳴らす『彼ら』。
 相手の眼球をえぐりだしてでもパンを奪い合う『彼ら』。
 その彼ら全員が、零と全く同じ顔をしていた。
「「――ッ」」
 ふと、全員が一斉にこちらを見る。
 零は反射的に『閉』らしきボタンを連打した。

「お、おい……」
 閉じた扉。上か下かわからないが移動しているエレベーター内。
 つぶやくランドウェラに背を向けたまま、零は首を大きく横に振った。
「いや無理無理無理無理! あれ絶対無理なやつだよ無理! 生き死に以前の問題だよ!」
「そうかなあ」
「いや、だって…………」
 零はフランスパンを握りしめ、本能的に歯をがちがちと鳴らした。
「まあいいではないか。次の階層を探索することにしよう」
 リュグナーがそう述べ終えたと同時に、ベルの音と共にドアが開いた。
 賑やかな祭り囃子。
 日本語ではあるが明らかに意味のおかしい単語が並ぶ、そこは歓楽街のようだった。
「二人で探索。一人がエレベーターに残る。……だったな?」
「じゃ、じゃあ俺は残ろうかな」
 『開』のボタンを押し続けたまま道を空ける零。
 ランドウェラは一応武器を構えたまま、リュグナーもまた鎌を両手でしっかりと握りしめた状態で歓楽街らしき場所へと出た。
 入ってみると分かるが、歓楽街のようでいてそれはあくまで見せかけの『通路』であった。
 半二階建ての店舗らしきものが並び、高い天井は夜空のようなペイントが施されている。
「まるでテーマパークだな」
「異常存在が出るって雰囲気じゃないけど……」
 ランドウェラが首をかしげた、その途端。
 ぎゃあという悲鳴が後ろから聞こえた。

 零は見た。
 何気なく、見た。
 室内監視カメラの映像に、自分が『二人』映っていることに。
 背後に立った『もう一人の自分』が、自分の首に手を伸ばしていることに。
 悲鳴をあげ、振り返る。
 誰もいない。
 そして、ボタンから自分の手が離れたことに気がついた。
 すこしも待つことなく閉じ始める扉。
 驚いた声に振り向いたランドウェラは扉の周辺に操作盤らしきものが『一切無い』ことに気がついた。
「まずい。走れ!」
 リュグナーによびかけて走り出すランドウェラ。
 が、周囲全ての扉から巨大な眼球や大量の黒い手のようなものが現れ、ランドウェラたちへと掴みかかる。
 最悪のタイミングだ。
 しかしリュグナーは素早く鎌を振り回すとランドウェラを解放し、そしてその場に立ちはだかった。
「行け! 我に構わず先に閉じよ!!」
 切り取った(まだ動いている)手をランドウェラにパスし、リュグナーは声を上げる。
 問答をしている暇は、どうやらない。
 ランドウェラは、閉じかけた扉をすり抜けるかたちで、エレベーター内へと転がり込んだ。

 流れる沈黙。
 ランドウェラは取り出した袋に(未だびちびちと動いている)手を押し込み、くちを縛った。
「これでいい」
「リュグナーは……?」
「戻るのは、まあ、不可能だろうな……」
 息をつく暇も、どうやらないようだ。
 ベルの音と共に扉が開き、長い長い長い長い通路の向こうから女が足早にやってくるのが見えた。
「ひっ――!」
 零は『閉』であろうボタンを連打したが、一向に扉が閉まる気配がない。
 ボタンを改めて見ると、全てのボタンが『開』の文字になっていた。
 更に文字がぐにゃぐにゃと変形し『い』『れ』『ろ』の羅列へと変わる。
「ぎゃー! パン喰って上手い事吹っ飛んでくださいお願いします!」
 零は『《Breadbullet》』を、ランドウェラは『衝撃の青』を放って吹き飛ばしを試みたが、『女』はそれを強引に突き抜ける形で急接近。
 ドンと音をたて、エレベーター扉の両淵に手をかけた。
「あ――」

 そこから先の記憶は、ない。

●植物住宅街
「異常存在って、そもそもなんなんだー?」
 洸汰のあまりにも正直な問いかけに、マカライトは思わず足を止めてしまった。
 彼にとって『異常な存在』とは邪神をさし、それ以外が正常な世界でありそれを取り戻すないしは守ることが人類全体の目標のようなものだったからだ。
 しかし改めて聞かれると、異常と正常の線引きはひどく曖昧なものなのではないか……とも、思えた。
 まして今目の前に広がる、あまりにも生活感がありすぎる町並みを見てしまっては。
「異次元に入るってのは俺のとこではタブーだったからなぁ、もしかするとこういう風景なのかもしれんな」
 なので、あえて答えにならない答えを返した。
 倒れた自転車はゆっくりと前輪を回し、子供用のオプション席のそばには子供用ヘルメットが落ちている。
 まるで幼稚園にでも向かう親子が自転車走行中に突如として肉体だけ消失したかのような、そんな『余りかた』をしていた。
「こんな空間が普通に現れるのか……人のことは殆ど言えないが」
「ん? とにかく、この先は油断大敵、って事だな!」
「まあ、そうなる」
 彼我の戦力差がはっきりしている(極論すれば勝利がある程度担保されている)ローレットでの戦闘作戦とは根本的に異なる状況。
 安心材料などひとつもなく、自分たちがまるでシャボン玉のようにあっけなく破壊されてしまうことだってありうる世界だ。
「まずは、油断せずに進もう」
 マカライトは自分と一緒に生成されていたティンダロスに、洸汰は同じくPAC-Automaticにまたがって住宅街を進み始めた。

 住宅街はあまりに異様だった。
 もちろんながら、マカライトも(おそらくは)洸汰も、日本の閑静な住宅街をちゃんと見たことがないだろうから元々異様に見えてはいるが、それ以前に『植物』との調和がなさすぎた。
 強烈な生活感と、それゆえの雑多さ。しかしその中にあまりにも忽然と、割り込むように存在している植物たちのありさまが異様なのだ。
 たとえば舗装された道路の真ん中。
 点滅しかけの横断歩道の上。
 倒れた自転車のそば。
 スチール階段の途中。
 半開きの扉の間。
 もとからそこにあったにしては不自然すぎる、植物たち。
 洸汰はなぜか植物たちから声が聞こえたような気がして、メカパカおをとめて下りた。
「どうした?」
「うーん……ちょっと……」
 植物を凝視する。
 と。突然。
 周囲の植物全てが人間に見えた。
 どころか人間たちは自分を無視して歩いたり語らったり、日常生活を送っている。
 そしてどういうわけか、洸汰は身動きがとれなかった。
 腕も頭も、どころか目すら動かない。
 いや、目などあっただろうか。
 口も鼻も、手や心臓だって元からなかったのでは。
 そうとも自分は大きな植物で、もとからそうだったはずだ。
 なんの不思議もない。さあ光を浴びてビタミンをとろう。

「――た! ――しろ――た」
 かすむ視界。
「しっかりしろ洸汰、『組織』の連中だ!」
 頬をたたかれ、意識を取り戻した洸汰。
 反射的にすぐそばにあった草に手を伸ばすが、その時になって初めて気がついた。
 大量の巨大な草花が、自分を取り囲んで、見下ろしていた。

 この後、二人はおそらく異常存在であろう草を回収してから組織の走行車両から猛スピードで撤退。多少の犠牲をはらいつつも、無事ミッションを達成したという。

●無限廃墟ビル
 灰色の空虚。
 埃と塵と、風だったもの。
 ガスマスクを装着しなおして、『お姉チャン』ジェック・アーロン(p3p004755)はうっすらと目を細めた。
(こういう廃墟の中にいると、なんか懐かしい感じするな。空気は綺麗なのに……)
 ジェックはかつて暮らしていた世界の荒廃しきった風景に重ねて述べたのだが、奇妙なことに『二人でひとつ』藤野 蛍(p3p003861)や『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)にも同じような感覚があった。
「なぜでしょう。初めて見るのに、懐かしい気がします」
「そうだね。こんな場所しらないのに。変な感じ」
 そう言われて、ジェックは肩を本能的にふるわせた。
 ずっと昔から自分はここにいたような。
 ここで生まれ育ったかのような。
 知らない場所なのに知っていて当たり前であるかのような、あまりにも奇妙な感覚におそわれたからである。
 無論、ジェックはここが未知の場所であることを知っている。疑いようもなく、こんな場所は知らなくて当然なのに……。
「違和感」
「うん……」
 蛍はバンドにくるんだ教科書を両腰にさげ、いつでも『抜書』できるように構えた。
「同じ地球でもここまで違うなんて。『イデアの棺』での経験は本当にボクの世界を広げてくれるわ。
 こんなにもボクの知らない地球があって――そんな無数の分岐の中で珠緒さんと出会えた奇跡と幸せを、改めて感じちゃう」
「蛍さん……」
 珠緒は頬に手を当て、ぽっと赤くなった。
 最近倒れたり吐血したりということが少なくなった分、蛍とこういうふれ合いをしていることが増えたようにも思えた。
 変化と呼ぶには些細な、成長と呼ぶにはあまりに大きい……。
「私たちはこの世界にとっては異常存在。
 この世界ごとの正常さから外れれば、確かにそうなのですよね。
 そのような差を越えて手を取り合い幸福を得る……希少なさいわいですね」
「珠緒さん……」
 みつめあう二人。
 それを若干離れた位置から見守るジェック。
 なんとなく、彼女たちの言わんとすることが自分にもわかるがゆえの見守り姿勢である。
 さておき。
 三人はそれぞれの技術を駆使して廃墟のクリアリングを続けていた。
 壁に阻まれた場所は蛍の透視で、暗い場所はジェックの暗視で、おろそかになりがちな後方の監視は珠緒が。
「指をさして、よし! と言うようなものですね」
「指さしカクニンって大事」
「けど、『壁に阻まれていて暗い場所』はさすがにのぞき込めないからね。部屋のクリアリングには気をつけないと」

 たとえば、こんな行動や想像をしたことがあるだろうか。
 いま家の中にいるのなら、まず全てのドアを閉じていく。
 全て閉じきったことを確認したら、目を閉じて今度は全ての扉を開いていくさまを想像する。
 普通なら誰も居ないか家族のいるさまを想像するものだが。
 もし扉を開いたさきで全く知らない人物が存在していたなら。
 その場所はもしかしたらあなたにとってとても危険な場所かもしれない。

 ――という、呪術がある。
 行動と空想によって人の恐怖を縛るおまじないである。
「人はね、禁止されたことやダメだと唱えたことをつい想像してしまうっていう習性があるの。『ダメで育てちゃダメ』っていう教育学の要素だね」
 蛍は扉にあらかじめ透視をしかけ、更に温度視覚によって熱源体ひいては血の通った生物がいないかどうかを調べてからドアノブに手をかけた。
「ここも無人。けど一応警戒しておこうね」
 ドアのぶをひねる。
 いや。
 ひねろうとして、向こう側から素早く回された。
 ――がちゃり。
「――ッ」
 反射的にドアに体当たりをかけて開かないようにすると、蛍は珠緒とジェックの名を呼んだ。
「誰か居る!」
「離れテ」
 蛍と位置をかわり、扉に向けてライフルを構えるジェック。
 開くのを待つことなくドア越しに二発連続で発砲。
 それ以上音がしなくなったことを確認すると、足で蹴るようにしてドアを開いた。
 真っ暗な部屋の中には誰も居ない。
 ジェックが顔をしかめた、その途端。
 ――がちゃり
 その階層にある、全てのドアが一斉に開いた。
 そして、特徴のなさ過ぎる、誰ともわからぬ人間達が一斉に現れ、こちらを見た。

 階段をかけあがる。
 ジェックは振り向きながら発砲。
 蛍は時折桜吹雪の魔術で階段を追いかけてくる『知らない人々』を追い払い、珠緒の手を引いて走る。
「どうにもならず逃げるのみ……あまりない事態ですねっ」
 同じく熱風の魔術を放って牽制をかける珠緒。
 彼女たちは無限に増え続ける相手を牽制しながら上へ上へと登り続け。
 そして。
「おや、おや……」
 おそらくは上の階層からやってきたであろう人物と、鉢合わせた。
 あまりにもランドウェラに似た男であったが、彼が『彼』でないことは直感で分かった。
 即座にライフルを発砲するジェック。
 即座にエネルギーソードから飛ぶ斬撃を放つ蛍。
 彼女たちを守るように治癒の魔方陣を地面に叩きつけるように描く珠緒。
 しかし相手はそれらをあまりにも容易に突破して、ジェックと蛍それぞれの首に手をかけた。
「……いや、『違う』な。はやく帰りなさい。こんなまやかしに、魂まで囚われることはない」
 『彼』は皮肉げにわらうと、蛍たちから手を離した。
 それきりだ。
 それきり、続きはなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――ランドウェラの世界、介入終了。
 ――データの取得に成功しました。

 ――データに異物を検出しました。正体不明。分析中です。

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