PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ムーンシャインに潰されたような笑みで

完了

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オープニング

●天使来たりて
 愛と呼べば何でも許した。
 泣き喚く母も、身体の痣も。

 責めるのはいつも自分の事ばかりで、
 その日も私は頭を庇った。父が振り上げたウィスキーの酒瓶は、しかしーー身体を打ち据える事はなく。

「大丈夫かい?」

 固く閉じた瞼を開くと、父が足元に倒れ伏している。
 痩せた膝の少女が声のする方を恐る恐る見上げると、そこには天使が立っていた。

ーー天使が降った日から数年後。
 少女は誰もが振り向く程うつくしい女性(ひと)になった。
 彼女の傍らに立つのは気弱そうな天使の青年。だが、その姿を知る者は彼女以外に誰もいない。

「ーー」
 ゴウン、ゴウン……。
 排気ダクトの駆動音がいやに五月蠅い。
「派手に動きすぎたかしら。駄目ね、自然死に見せたかったのに」

 積み上がった屍はいずれも屈強な若い男達で、いずれも背中から白い翼が歪に生え伸びていた。

「エイダ。この街にも、もう居られないね。"天使病"だなんてまた新聞で取り上げられたらーー」
「あら、クライヴ。恐れる事なんて何もないのよ? もうすぐこの病は世界中に広がるんだから」

 天使の青年が目を見開く。瞳に映る赤いルージュは歪に緩んだ。

●ムーンシャインに潰されたような笑みで
「ムーンシャインを知ってるか?」
 潜入先のバーで制服を纏ったまま、『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)は集まった特異運命座標へ話を続ける。
「実は密造酒の俗語なんだ」

 とある世界で、政府がウィスキーに重い課税を課した時の事。
 農民たちは山間に逃れ、バレないようにひっそりと、月光のもとで酒を蒸留したのだという。

「どこで誰が酒を密造しようと、正直知ったこっちゃない。
 最初は静観していたんだが……そうも言ってられないような事件が起きちまってなァ」

 巷でまことしやかに囁かれていた密造酒『月光の雫』。
 その噂に便乗し、悪意ある者が呪いのかかった酒を闇ルートで売り裁いているらしい。

 見た目は深い青色で、匂いはベリーのように甘酸っぱい。

 香しさに惹かれてそれを一口含めば最後ーー破滅の道を転がり落ちる。

「『月光の雫』は飲めば他にない心地よさを味わえる代わりに、その人間の"天使病を促す"酒なんだ」

 天使病ーー名の響きは美しいが、その症状は残酷だ。
 病にかかった者の背へ無垢なる白い翼を、頭上に浮かぶ光の輪を出現させる。
 しかしそれらは、病にかかった者の生命力を吸い上げて出来た代物でーー。

「大人ってのは色々ある。疲れりゃ酒に溺れるような日もあるさ。そういう弱みに付け込むようなやり方が、俺は気にくわなーー」

 赤斗の話はそこで途切れた。彼の背中に突如、その神秘が降ったからだ。
「なッ……!?」
 淡く輝く真白の翼は美しく、カウンターに倒れ込んだ赤斗の命をじわじわと蝕んで、徐々に大きさを増していく。
 外から香るベリーの香りに、まさかと特異運命座標が店を飛び出すと……街のそこかしこで青色のスライムが蠢いていた。


「お酒は嫌いよ。パパをあんなに狂わせたもの……だから、ねぇ。人殺しに使っても、何も心が痛まないわ」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 酒は飲んでも飲まれるなとは言いますが……。

●目標
 被害を最小限に抑える

●重要
 この依頼ではキャラクターが《天使病》という病にかかり、徐々に天使のような姿へと変わっていきます。
《症状例》
 ・天使のような翼が生える(※鳥種の場合は黒や白など天使らしい羽色に染まる)
 ・天使の輪が頭上に現れる
 ・神秘的な輝きをその身に帯びる

 いずれも病にかかった者の生命力を奪うため、普段通りの立ち回りをするのも苦戦するかもしれません。
 また、今回は揮発した酒によって病にかかるため、酔ったような症状も出る場合があるようです。

●戦場
 異世界《エンゼルナイト》。現代風の建物が並ぶ街です。
 時間帯は夜。街中パニックに陥っています。

●できる事
 発生しているスライムの討伐や、天使病にかかった人達の救護など。
 この世界で特異運命座標が死んだ場合は境界図書館に戻されるので、儚い散り際を体験する事も可能です。
 その他やりたい事があれば挑戦してみてください。

※ただし、この章ではエイダ、クライヴともに攻撃を仕掛ける事は出来ません。街の被害を食い止める事が優先となります。

●エネミー
 青色スライム
  街中に大量発生したスライム。動きは緩慢ですが、身体が呪いのお酒『ムーンシャイン』で出来ているようで、身体を揮発させ辺りに病を振りまいています。
 近距離~中距離への攻撃手段を持っているようです。

 説明は以上となります。
 それでは、よい旅を!

  • ムーンシャインに潰されたような笑みで完了
  • NM名芳董
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月20日 13時57分
  • 章数2章
  • 総採用数10人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

 逃げ惑う人の波に逆らうようにして、イーハトーヴは大通りを歩く。
 その足取りは覚束ず、病の予兆を示していた。
「何これ、何が起こっ……」
 発症は唐突に。ザン、と背中の方で音がしたかと思えば、背に現れた真白の翼にバランスを失う身体。
『――!』
「っ……大丈夫、だよ、オフィーリア。ちょっと、眩暈がしただけ……」
 どんな状況に陥ろうと傍らには彼女がいる。
 オフィーリアーー。イーハトーヴの、大切なうさぎのぬいぐるみ。彼女をもふりと抱きしめれば、怖れの感情も和らいでいく。

(状況は……人が、襲われてる。助けなくちゃ、待って、あのスライム達を倒すのが先……?
……駄目だ、頭がくらくらして、思考が纏まらない……)

「……ねえ、オフィーリア。やっぱり俺、今ちょっと、大丈夫じゃない、かも」
 霞む思考のままに、広げた翼は白い羽根を辺りに舞わせ――熱に浮かされながらも、決意に満ちた双眸が道の先を鋭く見据える。
「だからね……俺がちゃんと戦えるように、ナビゲート、してほしい」

 彼の意志は揺らがない。そう悟ったオフィーリアは神経を研ぎ澄ませた。長い耳に届いた誰かの悲鳴。救いを求める声を、ひとつでも多く彼の元へ!

「――そこだ!」

 現した黒い匣がスライムを包みきる。
 次の瞬間――中の得物は千切れ去り、アスファルトに滴った後、動かなくなった。

「やったよ、オフィーリア!」

 大丈夫じゃないけど、大丈夫。まだ倒れない、戦える……!

成否

成功


第1章 第2節

ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜

 悪魔さえも慈悲深い天使サマに変えちまうって?
「ははっ! なんだその酒は……悪趣味にもほどがあるだろうが。
 だけどいいんじゃね? 弱みに付け込むのは基本中の基本……」
 普段は饒舌なペッカートも、突然の事態に一瞬言葉を失った。尻尾も角も幸い健在。代わりに背中へ、疼くような違和感が。
「嘘だろ、おい」

 舌打ち混じりに飛び出した街は噂通りの香りに満ち、あのスライムが元凶かと、分かった瞬間飛びずさる。
「冗談じゃねぇ、あんな呪いにかかってたまるかよ!」
 伸ばした掌には漆黒の悪意。ファントムチェイサーが迫りくるスライムを鋭く貫く。
 殺った、と息をつく間もなく襲い来るそれらを潰して、穿って、砕いて、裂いて。
「一匹残らず駆逐してやる!」

 深き闇に染めてゆく――しかし。
 
「なんか、くらくらするな。さっきのバーで飲みすぎたか」
 甘酸っぱい香りが思考を、姿を、狂わせる。
 突然背中に感じた衝撃は何処からの攻撃ではなく己自身。この事件の主は堕天使にでも仕立てあげたつもりか、皮肉にも生え伸びた翼は黒く。
「……あああ! くそっ…この呪いにはぜってぇかかりたくなかったのに!
 屈辱過ぎて死にそうだ……だがこの状況で死ぬわけにはいかねぇんだよ」
 苛立ちを影に乗せ、シャドウオブテラーで眼前に迫るスライムを切り裂く。
 飛び散った破片を踏みにじり、強く歯を噛みしめた。

「これが終わったら、記憶が飛ぶくらい酒を飲んでやる……!」

成否

成功


第1章 第3節

白鷺 奏(p3p008740)
声なき傭兵

「何なんだよ、これ……!」
 悲鳴が聞こえる。嗚咽が聞こえる。
 誰も彼もが己の身を守る事に精一杯で、他人を構う余裕もない。

 足を挫き、アスファルトの上に倒れ込んだ男は、迫りくる異形の脅威に怯えの色を滲ませた。
 男を丸のみしようと大きく伸びあがったスライムは――刹那。

 ガゥン!! と響いた銃声と共に、大穴が空いて崩れゆく。
「……へ?」
 何が起こったのか飲み込めず、ぽかんと口を開ける男。
 彼の前に白い羽根がふわりと舞った。そして現れるは声なき天使。
 夜風にさらりと揺れる編み髪。街灯に照らされた身体は女性的な曲線を描き、流れるような動きでガンブレードを振るう。間近に迫るスライムを一刀両断し、怯む事無く引き金を引けば――刀身が雷撃を帯び、バチィッ! と爆ぜる音を立てて襲い来る悪意を焼ききった。 

 辺りに敵の気配が無くなれば、得物を降ろし男の方へと近づいて、救いの手を差し伸べる。
「ありがとう、アンタは命の恩人――ッ!?」
 その手を男が取ろうとした瞬間、彼女の身がぐらりと揺れた。背中に生えた真白き翼が命を無慈悲に蝕んでいく。
「おいっ、大丈夫か!?」

 熱に浮かされるような感覚。羽根の付け根に広がる痛み。
 それでも彼女は微笑んだ。
 男の手を引き助け起こして、"ここは任せて"と背中で語る。
「――ッ! ……ありがとう」
 振り絞られた言葉を受けて、奏は再び駆け出した。
 一人でも多く、嘆く誰かを救うために。

成否

成功


第1章 第4節

木南・憂(p3p008714)
やまぶき

「人を病にする酒、でありますか。
 それはもうほとんど毒なのではないでしょうか」

 阿鼻叫喚が響く街。海向こうの新しい世界に想いを馳せて訪れてみれば、このような事態である。
「……とにかく今は被害を減らさなければいけませんね」
 言葉にしなくても分かる、助けを求める命の叫び。辿って着いた先には幼げな少女が座り込み、目の前のスライムを泣きながら見上げているところだった。
 恐怖に見開かれた大きな瞳。あどけなさのある顔は、妹と同じ年頃の――。
(このままでは……間に合いません!)
 伸ばした手は届かない。それでも諦めずにはいられない。
「俺は……無辜なる混沌が選んだ奇跡。木南・憂であります!」
 名乗り口上に気を取られたスライムがこちらに引き寄せられる。一気に距離を詰めると、己が手にした盾を前へ。
「はあッ!!」
 ドッ!! と体重をかけて盾越しにスライムを押し切り、再生する間を与えぬようにとシールドバッシュを繰り返す。
 倒した。そう確信した直後――熱をもって疼く背中。ゆっくりと手を伸ばすと、柔らかな羽根が指先に触れた。
(俺も病にかかってしまったのですか?)
 建物の窓に反射して映る己の大翼は、それが命を犯すものと知りながらも見目美しく。
(でも……綺麗だなぁ……)

「ありがとう」
 現実に引き戻してくれたのは、憂が救ったあの少女。
(そうでした。見とれていてはいけません……まだまだやるべき事はありますから!)

成否

成功


第1章 第5節

ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す

 境界案内人は特異運命座標をサポートするのが仕事だ。しかし――それ以上の力が無い事も事実であり。
「もういい、置いていってくれ。このままじゃお前さんまで感染しちまう」
「構いません」
 赤斗の手を引きながらヴィクトールは即答する。

 とにかく彼を安全な所へ。見渡すと分かった事だが、スライムの歩みはさほど早くない。街の外まで逃げる事が叶えば、彼が境界図書館へ戻る時間くらいは稼げるだろう。
 隣町への一本道を見つけると、立ち止まり手を離す。

「苦しい思いをさせてしまってすみません。もうすぐ安全な場所に着きますから。
……振り向かず、この道を真っすぐ進んで」
 一緒に来ないのかと赤斗が問うよりも前に、集まって来たスライムの方へとヴィクトールは歩み寄っていった。
「……さあ、こっちにおいでなさい」
 差し伸べた掌は機械的でありながらも優しさを帯びている。
「どうか安らかに」
 放たれるは破滅を呼ぶ一撃の赤。ルージュ・エ・ノワールの業火を浴びたスライムは、たちまち身体が燃え上がった。その光景は討伐というにはあまりにも神々しい。
 酒で造られた魔物であるならば揮発するのは必然で。熱風を受ける彼の身を病魔が無慈悲に蝕んでいく。

「やめろ……やめてくれ、それ以上は死んじまう!」 
「今のうちに逃げて下さい、ボクが食い止めているうちに」

 柔らかく微笑む彼の、纏う衣は聖法衣、揺れるはストラ。
 真白き大翼を背に現した姿はまさに――。

成否

成功

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