PandoraPartyProject

シナリオ詳細

華戦ぐバル・マスケ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「それで――?」
 神妙な顔をして、リンツァトルテ・コンフィズリー(p3n000104)は問いかけた。
 天義は聖騎士団の詰め所にて、リゲル=アークライト (p3p000442)は妻であるポテト=アークライト (p3p000294)と子のノーラ (p3p002582)と共にリンツァトルテに仕事の依頼を運んできたのだ。曰く――アークライト家として見過ごす事の出来ない事件が起きたとの事だ。
 人員を集めるが為、リゲルはポテトとノーラに直ぐにローレットへ向かってほしいと指示をし、詰め所へと足を運んだらしい。どうやら『そうするまでもなかった』らしく、詰め所の外で歓談していたイル・フロッタ(p3n000094)とコロナ (p3p006487)にまずは声を掛けたらしい。
「先輩、事件だそうですよ!」
「……聞いている」
 相変わらず『騎士らしくない』後輩にリゲルは頭を抱えた。任務にあたるならばもう少し落ち着き払った様子で対処してほしいものだが――どうにも彼女は天真爛漫なのだ。
「ふふ、事件よねぇ。あんまり見過ごせない事だと思うし、直ぐに向かいましょう?」
 潜入捜査が必要だとアーリア・スピリッツ (p3p004400)は事前に化粧品や衣装をアークライト家に揃えておいたと口にした。潜入捜査と言う言葉にイルがごくりと息を飲んだが、コロナは「緊張してはなりませんよ」と穏やかに返すだけだ。
「えっと、事件についてお聞きしても良いですか?」
 潜入捜査。それも、化粧や衣装が必要となるとなれば、どのような場所であるのか。
 ノースポール (p3p004381)がワクワクしたように問いかければリゲルとリンツァトルテは頷いた。
「サントノーレ・パンデピスより正確な情報が得れた。
 復興に乗じて入り込んでいた別国でも暗躍する組織の者と、隠れ潜んでいたマスケティアや私兵部隊の残党が手を組んだそうだ。
 盗品や貴重品、それから――ラサではよく見られるそうだが奴隷売買等を行うオークションを開催しているらしい。それも、騎士団に見つからぬ様に相当厳重な警備をして、だ」
「警備を? ……それだけ『お金になる話』なのかな?」
 天義の貴族として見過ごせないとスティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)が憮然と告げればサクラ (p3p005004)も大きく頷く。ヴァークライトとロウライト。どちらも『因縁』ある家名ではあるがその跡取り娘たちは仲良く過ごしているようだ。
 どちらも母国の復興と、そして、これからの為に力を尽くすことは厭わない。
「それじゃあ、そのオークションに入り込めばいいのかな。
 ……一先ずはオークションをぶち壊せばいい、みたいだけど。規模が大きいなら、全容を掴む情報収集兼ねて潜入捜査をして混乱を来してオークションを中断させるのがいいのかな」
 その日のオークションを台無しにして、一先ずは事なきを得たいという訳か、と推測するサクラにリンツァトルテは頷いた。
「ああ。全容を把握しきるまで泳がして置きたかったのだが、今日は奴隷が商品に出るらしい。
 何でも……金の髪をした乙女だそうだが、彼女が悪人の手に渡ってからでは足取りも早々つかめないだろう。一先ずは救出と、騎士団での保護を考えている」
 リンツァトルテの言葉にスティアとコロナは頷いた後、「金の髪」と呟いた。
 その存在を『天義』で認識されるアークライト家の次世代ポテトや羅針盤の聖女コロナは『囮』になることは出来ない。ならば――
「ねえ、イルちゃんとリンツァトルテさんをお誘いするのって、貴族としての振る舞いが完璧だからでしょう?」
 リンツァトルテが「は?」という顔でイルを見た――気のせいではない。
「それで、金髪……なら、イルちゃんが『奴隷の女の子と変わる』のがいいのかもしれないわねぇ……。
 それから、奴隷イルちゃんを奪還するフリをして戦闘を起こして混乱の儘に離脱……ってどうかしら?」
 アーリアの言葉にイルが「わ、私に務まるだろうか」と不安そうに呟いた。
 確かにそうすれば奴隷少女の保護は簡単に行える。事前に奴隷商人を斃して置き、奴隷役と商人役がステージに上がり、その奴隷役を救う為に一芝居打てばいい。
 仮面を付けている者達は顔が割れることを厭う。そこで一悶着起こったならばすぐに会場を後にし、オークションは中断することとなるだろう。
「成程、ならばその路線で行こう。イル、良いかな?」
 リゲルの言葉にイルは悩まし気な顔をした。自身にその大役が務まるか――が不安なのだ。
「……イル。無茶はしないように。アーリア達に任せればお前も淑女として、綺麗に着飾れる。元は悪くはないのだから、しっかり用意してもらいなさい。
 後、分かっているな。大人しくするように。
 お前が無茶をしては守り切れるものも守り切れない。イレギュラーズと俺がお前を必ず守ろう」
 ――『綺麗』『お前を必ず守ろう』の言葉にイルの頬に熱が上がり、スティアの背後に隠れた様子にリゲルは小さく笑う。
「リンツァ、イルを頼んだ。……それじゃ、潜入捜査に向かおうか」

GMコメント

 夏あかねです。つまり、イルとリンツァトルテの恋の進展狙いなのですね!?

●成功条件
 ・裏オークションに混乱を起こして開催を中断させる
 ・金の髪の『奴隷少女』の保護
  +一応、イルちゃんを守り切る(裏オークションからの脱出)

●裏オークション
 割と規模が大きいようです。各国またにかける闇商人とマスケティア、私兵部隊の残党が手を組んで天義で開催されています。
 規模が大きすぎるために今回は『開催されるオークションをめちゃくちゃにする』為に皆さんで向かっていただきます。
 仮面をつけて誰かも分からないように、と言うのがオークションのルールです。
 参加者は顔が割れるのを厭う為に、オークションで戦闘が始まれば離脱する者も多く居ます。
 ある程度、混乱を作り出してから離脱してください。奴隷少女を保護して騎士団の詰め所まで送り届ければ何とか成功です。

●奴隷少女『???』
 名前はナンバーで呼ばれているためにない様です……。金の髪の可愛らしい少女です。
 年齢は10歳そこそこでしょうか、非常に痩せこけています。

●奴隷商人*3
 奴隷少女を本日売り出そうとする闇商人です。こうした裏社会に生きているためにまあまあ程度の戦闘能力はあるようです。
 黙らしておいて奴隷少女を先に確保し、イルを商品としてステージに上がらせましょう。

●『仮面』
 裏オークションではどの誰かが露見すると都合が悪い物も多いようです。マスケティアの残党たちだけのようにも思えましたが……どうやら、貴族然とした者も居るようですね?
 参加する皆さんも此処に出入りしているという噂が出るのも不味いので、【仮面 + 美しく着飾る】事でどこかの貴族の振りをしてください。因みに、天義での名声が70以上ある場合は彼らも『詳しい』為に『素顔を見れば』もしかすると誰かが分かるかもしれませんね……

●イル・フロッタ
 身代わりの金髪。非常に明るく元気で子供っぽい騎士見習いです。
 リンツァトルテ先輩に恋をしています。(拙作『見習い騎士と大切なメモリア』で自覚)
 貴族の礼儀作法は一応憶えており、リンツァトルテに『大人しくしろ』『俺が守る』(※そこまで言ってない)と言われたことで物凄い大人しいです。借りてきた猫です。
 ドレスや化粧などはどのようなものかは指定&着せ替え人形んしていただいて構いません。

●リンツァトルテ・コンフィズリー
 イル・フロッタの先輩。コンフィズリー家当主。不正義と呼ばれた家名を立て直すために騎士として切磋琢磨してます。
 やや視野狭窄気味ではありますが正義に対しては信頼できます。イルの事は子ども扱いです。
 皆さんの指示に従います。指示がなければ奴隷イルを『売る』役を護衛を兼ねて行います。服装に関してもご指定下さい。なければ自分でしっかりと整えるみたいです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 華戦ぐバル・マスケ完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年07月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ノーラ(p3p002582)
方向音痴
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
コロナ(p3p006487)
ホワイトウィドウ

リプレイ


 裏オークション。潜入捜査となれば、それなりの重責を感じられずには居られない。だが――ドレスアップをし裏の社交界へと足を運ぶという又とない機会に『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は心を躍らせていた。ドレスアップが楽しみという気持ちを隠せぬのは皆同じだ。
 アークライト邸の一室を貸し出し、ある程度のドレスアップを行おうと『ハニーゴールドの温もり』ポテト=アークライト(p3p000294)は椅子に腰掛けて緊張した様子のイル・フロッタの髪のリボンをそっと解く。
「イルは奴隷役を任せてしまって済まない。指一本触れさせないし、リンツァが責任もってきちんと最後まで守るから安心してくれ」
 穏やかに微笑み長い金髪に櫛を通すポテトの言葉に、リンツァトルテは「ああ」と肯く。今回のイルの守りはリンツァトルテにかかっている――というのは、実は彼女らの『ちょっとしたサプライズ』が絡んでいた。
「じゃあ、リンツさん。女子は着替えるから、あっちでリゲルさんとお着替えしてきてね」
 にんまりと微笑んだ『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は「素敵になったイルちゃんをお楽しみに」と揶揄うようにそう言った。人を奴隷として商品の如く扱うことは許せない――売る方も売る方で、買う方も買う方だ。しかもここは聖なる教えを尊ぶ国だというのに、と憤慨するスティアは準備段階で心を躍らせる。
「スティアちゃん。さっさと着替えちゃおうか。……天義にもまだまだ不埒な輩がいるみたいだね。
 真面目に頑張っている人たちのために少しでも正せるように潜入の為の努力は怠らないようにしないと」
 此度は仮面をつけて『身分を隠したオークション会場』へと足を運ぶこととなる。『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)はドレスや髪型のおしゃれは『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)にお願いしたいと考えていた。そう言われれば心が躍る彼女は「任せて頂戴ねぇ」とウィンク一つ。
「パパとママとトリさんたちとお出掛けだー!!
 でも悪い人から女の子助け出すのが目的だもんな。僕も頑張るー!」
 ふんす、とやる気満々の『方向音痴』ノーラ(p3p002582)の様子に胸が温かくなり、『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)はにんまりと笑みを零す。
「人身売買なんて……酷いオークションは台無しにしないとですねっ。ふふ、ノーラ三も頑張りましょうね!」
「頑張るぞ! ええっと……けど、どれすあっぷするのか?」
 首傾ぐノーラにアーリアは「そう。幼けな恋を応援する可愛いドレスアップよ」とノーラの髪に櫛をお通して囁く。
「こい?」
「ええ。恋を応援し、心を満たし、そして――この国をあるべき姿に導くのですよ」
 微笑む『ホワイトウィドウ』コロナ(p3p006487)の言葉はまだ幼げなノーラには難しいかもしれない、だが――こく、と肯いたノーラは「頑張る」とやる気を漲らせたのだった。


 別室――楽しげな女性陣の声が聞こえる中で、リゲルはリンツァトルテの服も自身が選ばせてくれと微笑んだ。コンフィズリー家の人間である彼にとってもドレスアップは手慣れたものだろうが、彼自身は実直すぎるきらいがあるそれならばと、アイスブルーのタキシードに身を包んだリゲルは「リンツァの服を選んだんだが、どうだろうか」と白い衣裳を取り出した。
「俺の勝手なイメージかもしれないが、リンツァと言えば普段は黒いイメージが強い。
 白を基調にした王子様風の衣裳も似合うかと思って用意してみたんだが……」
「確かに、潜入捜査となれば俺と分からない方が良い。リゲルがそう言うイメージを抱いたのであれば勿論、白を着用しよう」
 大きく頷いたリンツァトルテに府立隊で首元を飾って赤いベストで引き締めるんだ、とリゲルは次々に彼の服をセレクトしていく。さながら着せ替え人形となりながらリンツァトルテはふと、胸元に挿された薔薇を見て瞬いた。
「ローズピンク?」
「ああ。可愛い色だろう。リンツァが救い出すお姫様の色だよ」
 そう微笑んだリゲルは勿論、愛娘のノーラには大きなリボンとフリルで飾ったすみれ色のドレスをあつらえ、青薔薇を飾ったという。最愛の妻も青薔薇を飾ったロングドレスをセレクトしたという彼に「お姫様」と考え込んだリンツァトルテは自身が守る役割を担った『後輩』を思い出し、どこか居心地の悪そうな表情を見せたのだった。

 女性陣達は今も大騒ぎだ。『叔母様セレクト』だというヴァークライト家の威信を賭けた――とエミリア・ヴァークライトは考えたことだろう。彼女にとって姪は命に代えても良い程に愛らしいのだ――ドレスと仮面。姪の大人っぽいドレスというリクエストに応えた濃紺のロングドレスはシフォン素材のリボンで幾ばくか愛らしさを見せている。蝶々を思わせる仮面を手に「似合う?」とサクラに問いかけるスティアへとサクラはアーリアセレクトのドレスに頬を赤らめながら「似合うよ」と呟いた。
 普段は結い上げた髪を下ろして巻き、赤を基調としたふんわりしたフリル多めのドレスを身に纏う。
「サクラちゃんは可愛いね! 今日は私の方がお姉さんっぽいかな?」
 ドヤり。スティアの自慢げなその表情にサクラは「くっ……スティアちゃんめ!」と呻き緊張したように仮面を手にする。
「でも今日は確かにスティアちゃんの方がお姉さんっぽい格好……! でも私は18歳だもんね! 私のほうがお姉さんだもんね!」
 きょとんとしたノーラは「お姉さんだぞ!」とにんまりと微笑んでいる。
 蜂蜜色と黒を使用した和風テイストのロングドレス。肩を大胆に見せた大人っぽさは普段のノースポールとは一風変わって見える。武器はレッグホルスターへと仕舞い込み、和風美人の風貌である彼女へとノーラは驚いたように瞬いた。
「トリさんお姉さんだー! 普段と全然違う! 凄いぞ!! 綺麗!!」
「えへへ。実はルークの色を参考にしました。ノーラさんも可愛いですよ!」
 見てみて、と母を呼ぶノーラにポテトもぱちりと瞬く。「これはルークもびっくりしそうだ」と褒めるその言葉にノースポールはえへへと照れたように笑みを浮かべる。
 コロナは自身が聖女と思われないようにとワインレッドの胸元の開いたドレスを着用した、アームカバーで義手を隠し、仮面は黒い色をセレクトする。
「似合いますか?」とイルへと問いかけるコロナとぎこちなく肯いたイルと言えば――アーリアの着せ替え人形なのである。
 事前にスリーサイズを測った際に「おや……意外と……」と呟いた事でイルは頬を赤くしたままだったのだろう。
「恋せよ乙女。恋は女の子の栄養なのですよ。さて、決まりましたか?」
「ええ、決まったわぁ! やっぱり、女の子は好きな床の人の色に染まりたいものでしょう?
 だから――イルちゃんにはあの人の黒い色で背伸びしましょ。折角だもの、誰よりも可愛くなくっちゃ」
 にっこりと微笑んだアーリアは深い緑色のマーメイドドレスに身に纏う。胸元の大きく開いたドレスを見て、イルはぺた、と自身の胸元に触った。何時か、似合うようになりたいものである。
 アップにした髪が揺れ、笹紅を目尻と唇に引いた蠱惑的なアーリアの美貌に憧れるイルを見てノーラは「イルお姉さんはお姫様で、リンツァお兄さんが王子様か」と無垢なる笑顔で呟いた。

「お兄さま、お姉さま。本日は宜しくお願いします」
 ちょこん、とカーテシーを一つ。ノーラがそう告げれば特異運命座標はオークション会場へと向かうこととなる。
「お化粧と服も整えて雰囲気を変えればイル様も騎士ではなくお姫様のようですね。王子様も気合いが入りますか?」
 コロナの問いかけにリンツァトルテはイルをまじまじと見てから「ああ、愛らしいな」と言った。
「―――!」
「でしょう? リンツさん、ドレスは慣れてないと走りにくいから逃げる時はお姫様抱っこしてあげてね」
 スティアがこっそりと伝えたその言葉にそういうこともあるかというようにリンツァトルテは肯いた。ポテトやリゲルから見ても、まだまだ彼は『イルをそういった目で見ていない』か。鈍く、そして、コンフィズリー家の再興にまっすぐな彼に少しでも意識させたい物だとアークライト夫妻は顔を見合わせたのだった。


 コネクションを使用してオークション会場の間取り、そして脱出経路を割り出したリゲルは人気無い広めの場所を確認するべく内部の探査を行っていた。
 奴隷商人を呼び出す場所とするが為の調査を行う中、ぴしり、と背を伸ばしたノーラへとポテトは「一人にならずにお嬢様でな?」と優しく声を掛ける。愛娘とてイレギュラーズ、一人でだって戦えることを知っているが――それでも気にするのが母の心という物か。
「分かった!」とふんすと胸を張ったノーラはノースポールに「お姉様」と声を掛ける。
「ええ。ノーラさん。良い感じです。それじゃあ、『行きましょうか』」
 会場に両親に連れられてきた姉妹を思わせるノースポールとノーラ。もじもじと身を縮ませて――本当は動物たちへと合図を送っている――お手洗いへと向かいたいという旨をこそりと告げるノーラにノースポールは肯く。
「ノースポールお姉さま、手を繋いでもよろしいでしょうか?」
 ここで迷子になっては戻る自信が無いノーラ。「ええ」と微笑んだノースポールは普段よりもお上品に振る舞いながら、そっとその手を繋いだ。仮面をつけたオークション客は二人を怪しむこともない。お手洗いは何処でしょうと言う会話を交え手扉を開いたりとチェックを繰り返すノーラとノースポールは『合図』を待った。

 アーリア、スティア、ポテトは美しい三姉妹を装って奴隷少女を今日、競売に掛ける事となる奴隷商人達の元へと向かっていた。
「商人の方でしょうか? 私、皆様にお願いしたいことがあるのですが……少しお時間頂けませんか?」
 儚き花たるポテトのその言葉に奴隷商人達は「何だテメェら」と値踏みするような視線を送る。うっとりと笑みを浮かべたアーリアは一歩前へと歩み出す。スティアは「お姉様」と囁いた。
「うふ、心配性ねぇ。……お噂はかねがね聞いているわぁ。
 お金は相場以上に支払うから、商品の少女を数人先に私達に譲ってもらえないかしら?」
 そっと、アーリアは商人へと体を寄せた。『不思議と帳簿に載っていないお金』をちら、と見せたアーリアはその笹紅にさえ視線が往くような距離で仮面越しに瞳を揺れ動かした。
「――どうして買いたい?」
「私たちは姉妹は世話役を探しているんだ。けれど、『アリア』姉様に似合う美しい娘が良い」
 そう告げるポテトに「ポプラお姉様」とスティアはそっと寄り添った。どこか不安げな末の娘は姉背より顔を覗かせたのだ。
「どうしてもダメしょうか……?」
 ティア、と呼んだポテトの声にスティアは上目遣いで交渉は向こうで行いましょうと指を引く。姉の欲しがる物をなんとしても手に入れたいという姉妹の様子に商人達は――多少の下心を隠すことなく――リゲル達の待つ場所へと赴いたのだった。
 その様子を遠巻きに眺めていたコロナとサクラ。サクラはゆっくりと唇に『ポラリス』という響きを乗せた。ノースポールの本来の名を耳にして、彼女が顔を上げればノーラは肯く。
 そのなが合図だったのだろう。奴隷商人の誘い出しに成功したならば、それ以上の探索は不要だ。
 人気無いその場所で奴隷商人を相手取り、直ぐさまに構成に転じる特異運命座標。油断しきっていたこともあっただろう。商人達は直ぐに地へと伏せる。
「私達はあなたを助け、この場を台無しにするために来ました」
 奴隷少女を救い出すに至ったノースポールはその背中をそっと撫でる。ここから逃げて温かいココアを飲もうと提案するポテトに少女は静かに泣いた。
「……イルは姿も美しいが、その努力の姿勢こそが美しいよな。
 今日のイルを見て、リンツァはどう思うかい?」
「皆が聞くと、その――どう答えるべきか分からなくもなるが、アレの努力はよく知っているつもりだ」
 リンツァトルテは求められた返答が出来ていなかったならば申し訳ないとリゲルへと返す。リゲルはゆっくりと首を振り「イルを頼む」と小さく告げた。
「責任重大ですね王子様♪」
 小さく微笑むコロナのその声にリンツァトルテは重々しく肯く。どこか緊張したイルのその様子を見て、コロナはそっとイルの背を撫でたのだった。


 イルの競売が始まった――
 奴隷少女に関しては壇上へと向かわぬ特異運命座標が見ると事となる。
「人混みではぐれたら大変ですから、イルちゃんの手をしっかりと握って絶対に離さないようにしてくださいね!」
 イルへ絶対リンツァトルテが助けてくれるから、と励ましを掛けたサクラの言葉にリンツァトルテは肯いた。
「ああ、必ず離さない」
 その心は、と問いたくなったスティアは頑張って、と静かに声をかけるとそっと、オークション会場に紛れた。
(さて、参加者は……? 元マスケティアやエルベルト縁の貴族でも居ますか……?)
 コロナが見た限りでも、それは存在しただろう。成程、と伺うような視線を向けていたコロナは登場したイルを見て、一気に値をつり上げる。重なった拘束具が今は自分とリンツァトルテを繋ぐ物に思えて縋るようにぎゅ、と握る。
 カン、と落札を知らせる音がしたと共に、ノースポールは隠れて狼煙を炊く。火事だ、と叫ぶ声と共に慌ただしく室内を後にする者達を見送りノースポールは奴隷の少女を背負い上げた。
「トリさん格好良い!! 今度僕もやってー!!
 はっ、最後までお嬢様持たなかった! でもみんな無事ならそれで良しだー!」
 ノーラの『お嬢様』も崩れてしまったが、それはそれ。物陰で聖夜ボンバーで『どかん』と音立てたアーリアは先程までの蠱惑的な『アリアお姉様』ではなくどこか楽しげだ。
「逃げるわよぉ!」
 走り出すアーリアの背中を追いかけるサクラは目を丸くした後、スティアと笑った。
「あれ、スティアちゃんのアドバイス?」
「え? うん! だって『二人にはこれくらいしないと』!」

 時は遡る――
「本当はこの一大事件、神気閃光でも撃って暴れたいところですが、今はこんなところにしておきます。目的が違いますからね」
 早く、と脱出を促すコロナにリンツァトルテは肯いた。先程、サクラに手を、と言われていたがリンツァトルテは作戦開始前にスティアが言っていたことを思い出す。

 ――ドレスは慣れてないと走りにくいから逃げる時はお姫様抱っこしてあげてね。

「イル」
「――ぇっ!?」
 突如として、イルを『お姫様抱っこ』したリンツァトルテ。その様子に、にまりと笑ったリゲルは「避難を!」と声を掛け、狼煙の煙の中に隠れるように逃げて仰せた――

 奴隷少女を乗せた馬車の中、彼女の事を聞いて見れど、どうやら一時的なショックで記憶を失っているようだ。教会に預ける事をコロナは提案したが、不安げにノースポールの服をぎゅう、と握ったまま少女は首を振り続ける。
「ローレットで一度保護しませんか? もしかするとショックも収まって記憶も戻るかもしれませんし」
「そうだな。それが良いかもしれない。ココアでも飲んで今はのんびり落ち着いてくれ」
 穏やかに微笑んだポテトの傍らでは疲れた様子でうとうととするノーラが目を擦っている。
 一件落着かしら、と微笑んだアーリアはそっと、その視線をどこかぎこちない雰囲を醸す方向へと向ける。
「スティアちゃん、策士だね」
「えっへん」
 サクラの言葉にスティアはまた胸を張ったのであった。

「さて、リンツ様、綺麗なイル様を独り占めしていた時間はどうでしたか?」
 コロナのその言葉にイルがぎょっとしたようにコロナのもとへと飛び付いた。「わあ」と慌てた声を上げるイルを背後からぎゅ、と抱きしめてスティアは「ダメー」と揶揄った様に笑う。
「リンツさん、どうだった?」
「……イルはそちらの方が似合っているな」
 慌ただしく、騒がしいそんな彼女の方が自分の後輩らしいのだと言う様にリンツァトルテはぽん、とイルの頭を撫でた。頬を赤らめて、イルが「子供っぽいと言うことですか」と拗ねたように言ったが――不思議そうな顔をしたノーラとにこにこと見守るノースポールの視線を受けて、リンツァトルテは小さな咳払い一つ。
「姫君を独り占めして悪かった。光栄だった」とその頬を撫でた――尚、そうされた瞬間に「ぎゃ」と声を挙げて伏したイルに前途多難だとコロナは息を吐いたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした!
 イル・フロッタさんの心臓がそろそろ止まりそう。

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