PandoraPartyProject

シナリオ詳細

とある商人の”ひとりごと”

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●阿久戸屋、松の間にて・・・・・・
「デカい方に10倍の銭!」
「俺はちびすけに賭けるね!」
 やんややんやと、下賤な声が響き渡っている。

 今日の催し物は、使用人の鬼人種(ゼノポルタ)を馬に見立てた競馬だった。

 ここは阿久戸屋(あくどや)。
 カムイグラのなかでも、いわゆる大店(おおだな)と呼ばれる店だった。
 しかし、店構えと品格は必ずしも一致しないものであり、この阿久戸屋も、強引な手口で成り上がった店である。
 人民から搾り取り、私腹を肥やし、発展してきた店だ。
「はいよ! はいよ!」
 鬼人種たちに米俵を引かせて、趣味の悪い賭け事をしているのだった。
 もっとも、賭け事というよりは見世物といったもので、いわばへたって動けなくなる下賤の民を眺めるのが目的となっていたが。
「ぐ、ぐええ……」
 一人の鬼人種がへばって倒れた。
「どうした! また飯抜きにされたいのか!? ああ!?」
「ぜえ……ぜえ……旦那様。だめです、もうこれ以上、一歩も動けません……」
「どうします、旦那?」
「それだと賭けにならないだろうがっ!」
「もっとひかせろー!」
 客席からのブーイング。
 ペナルティとして追加される米俵。
 倒れた鬼人種7番は、真っ赤な顔をして動かない。

 催しが終わっても起き上がってこない7番。
 米俵につぶされた鬼人種を店の主人は一瞥したのみ。
「また新しい馬を仕入れねばならぬのか。元手もただではないというにのう」

●商人の耳
 鳩が店へと舞い込んだ。目ざといものは、その鳥が小さな筒を付けていることに気が付いたかもしれない。
(人攫いの襲撃ねぇ……)
 豊穣郷カムイグラの旅商人、甚九郎は書簡を読み終わると、畳んでに懐に滑り込ませる。
”鬼人使い”が荒いことで有名な阿久戸屋の下働き、鬼人種が一人亡くなったという。 
 近々、近場から補充されるだろう、とのこと。

「で、八つぁんよぉ。あんたを大店の下男にどうだっていう話があるんだがねぇ。金子ははずむと言っているんだがねえ」
「んーん」
 スカウトに声をかけられている人の良さそうな鬼人種……八つぁんは、欠けた歯で笑う。
「おらは今の生活で十分だよ。年老いたおっかあもいるしな。おっかあは足が悪い。おらが働かねば畑がだめになっちまうからな。んじゃ、これ、大根だ」
「まいど」

 去っていく八つぁんが見えなくなってから、スカウトは気の毒そうに首を横にふった。

「気の毒に。今、うんと言えば……せめて、親御さんに金も残せたろうに」

(へぇ、なるほどね)
 次に狙われるのはあの鬼人種か。
 だが……。
 見るからに銭を持っていないし、甚九郎の欲しい情報も持っていないだろう。
(あっしも商人、人助けだけじゃ腹は膨れねぇ)
 とはいえ、このままにしておくってのも寝覚めが悪いとは思う。

 ならば、あの腕の立ちそうな客人たちの試金石とするか。

 もしも見捨てるというのなら、理解できる。
 見返りもなく慈善で助けるというのなら……対等な取引相手とするには不足か。
(さて、異人さんはどう出るでしょうかね……)

●ひとりごと
「あっしは甚九郎。この国で商いをやらせていただいておりやす、ただの商人でございやすとも。今日は何をお探しで?」
「景気が悪くていけねぇや。これはあっしのひとりごとなんですがねぇ」
「なんでも、最近はここいらで鬼人種の人攫いが多くってねえ」
「あの若造なんか、体格もよくて健康そうだ。絶好の的でしょうねえ」
「誰かひと泡吹かせてくれないかと、思ってるわけですがねぇ」

GMコメント

●目標
 さあてどうしましょう……、というところですがこの依頼の目標は”誘拐の阻止”です。

●報酬について
 依頼人、というかターゲットが非常に貧しいのが悩ましいところです。
 下手をすると(あえてする場合もあるかもしれませんが)、報酬がもらえないかもしれません。
 無理して借金を背負わせると、結局京に行ってしまうかもしれません。
 ただ、それでも誘拐を阻止できれば成功です。

●状況
 使用人狩りのためにとある鬼人が目を付けられている。
 今晩ごろに夜襲を受けるだろう。

●登場人物
八兵衛
 八つぁん。体格は良いが気は小さめ。
 母親思いで人が良い。
 考えるのは少し苦手。
セツ子
 狙われている息子の母親。
 足を悪くして以来、屋内で針仕事をしている。
 出ていった人間が帰ってこないことからうさんくさく思っているが、もしかすると自分のせいで息子を家にしばりつけていやしないかと気に病んでいる節があるようだ。

甚九郎
「勿論あっしも商売人。機とありゃ敏に動かざるをえませんが──それだけの価値をあっしに見せてくれるなら、その話、乗っからせて貰いましょ」
 狼の獣種の旅商人。
 売り物は調薬した薬や、旅先で手に入れた物など様々な物。そして、”情報”だ。
 鳩を使った鳥文ネットワークで集める情報はかなりのもの。
 もちろん、相応に渡す相手を選んでいる。
 本来は大きな商家の跡取りで、店を継ぐ筈なのだが今はまだ修行中の身の為、自らの足で地域を回って見聞を広めているらしい。
 この一件で、イレギュラーズが対等な取引ができる相手かどうか見極めようとしている。

●敵
覆面の男×6(リーダー1)
「新調したこの刀の威力を見せてやる!」
「ヒュー! お頭ぁ!」
 阿久戸屋に金でやとわれた悪漢。鬼人を攫って売り飛ばし、無理やり使用人にしている。
 いずれも善人ではないが、下っ端である。負けが込んでくると逃走の可能性アリ。
 目いっぱい懲らしめればこれからも安泰と思われる(加減はおまかせ)。
 はったりをきかせているのか、装備はなかなかに立派なものだ。

●田舎っていいなあ
 八つぁんの家は農家。とくに大根がたくさんある。
 八つぁんの家に行けば、母親が料理を振る舞ってくれる。
 冷や麦交じりの玄米、質素なみそ汁とごはんと野菜の漬物といったような質素なものだが、素朴に美味しいことだろう。
 危険を伝える場合、京に行くことをいやがるが、イレギュラーズたちに渡す金がないというのを申し訳なさそうに伝えてくる。
(なので、頼ることができないと)。
 逆さにふっても金の気配はない。

 今晩ごろに家に悪漢が押しかけてくる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • とある商人の”ひとりごと”完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
マギー・クレスト(p3p008373)
マジカルプリンス☆マギー
ロト(p3p008480)
精霊教師
豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)
鬼子母神

リプレイ

●助けるか・どう助けるか
「あら、大変! 八兵衛ちゃんが狙われてるの!?」
 買い物中に偶然にも通りがかった『鬼子母神』豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)。思わず甲高い声を上げる。
(セツ子さんとはママ友だし、その子の八兵衛ちゃんは私の子も同然!)
「ああっ、豪徳寺さん、お品物ぉ!」
 店の主人が呼び止めたが、すでに嵐のように去っていった。
『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)は、放り出された買い物かばんを手にする。
「で、八兵衛ちゃんってやつの家はどこだ?」
「お兄さん、豪徳寺さんのお知り合いかい?」
「まあ、目的は同じみたいだな」

(ひとりごと、ね。
値踏みされるのは、正直好きじゃないな)
『救いの翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)は、家屋の屋根の上から話を聞いた。
 誰かの思惑に沿って、いいようにあしらわれるのは本意ではない。
 ただ、善悪は別だ。
 許せないことはある。
 ミニュイもまた、利害の一致をみた。
 この一件は、豊穣での足がかりとなるだろう。
 ミニュイは静かに空へと飛び去っていった。

(何処でも悪い奴等が徒党を組んで、健やか平和に生きてる人等が、何時も被害に喘いでる)
『今日も良い日だ』コラバポス 夏子(p3p000808)は、肘をつき、往来を行く人々をぼんやりと眺めている。
「しかし……うん、この国の鬼人種への扱いは不思議だよねぇ、興味深いなぁ」
『特異運命座標』ロト(p3p008480)は目を細める。
「無論八百万の皆が皆という訳ではないのでしょうが、八百万の専横、目に余るものがありますね………」
『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)は帽子をくるくると回す。
 かつての世界で、宇宙警察忍者であったルル家。理不尽も幾多も見てきた。
 だが、世の非道に心が動かないわけではない。
 それはまた、争いを望まぬロトも同じことだった。
「鬼人種の人攫いか……俺としては、見過ごしたくは無いな」
『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)がはっきりと言った。
「こちらでも使用人使いが荒い等話があるので……どこにいこうとこのような話があるのは
当然といえば当然なのでしょうが。だからといってやはり、気分のいいものではありませんね」
『小さな決意』マギー・クレスト(p3p008373)は目を伏せる。口ぶりからして、人を使う立場なのだろう。
「上に立つからこそ、主人たる品格が必要だというのに……こうまで下劣なのは、見過ごせませんね」
 主がすべて、このようであれば。
(よくあること、と切り捨てるのはカンタンだけど、それでも)
 自然に、「助ける」、と言う。
「悲しい結末にならないよう、全力で頑張りますよ!」
「あはは、僕なんかが悪漢達に何処まで通じるかは分からないけれど、出来る事は精一杯、頑張らせて貰うよ」
 正義の味方、というわけでもないが、どうせなら後味のよい結末の方がいいはずだと夏子は思った。
「じゃ、行こっか」
(出来れば根絶したいけど、今は手の届く所から……)
 まずは、ここから。

●稀人こぞりて
 畑仕事をしている八兵衛の前を、ふらふらと誰かが通り過ぎる。へらりと笑った旅人……夏子はそのまま体勢を崩す。
「ど、どうしたぁ!?」
「今ぁ……特別腹が減っててぇ……行き倒れてしまいそうでぇ……困り申してゴンス~あ……目眩……」
「そりゃたいへんだ。オラのうちにおいでな!」
「え? い……良いんですか!?」
 慌てて肩を貸す八兵衛。
(まあ、鍵くらいは、かけてもいいよねー)
 いくら田舎とはいえ、このご時世だ。
「気を付けて」
 警告したのは、ミニュイだった。
「おお?」
「誰しも善良なものばかりとは限らない」
 ぶっきらぼうながら、真剣にこちらを心配していることがわかる。
「……戸締りには、気を付けて」

 八兵衛の家には美鬼帝がいた。
「あらあら! お二人とも元気? 八兵衛ちゃんはまたいい男になったわね!」
「ああっ、ミキティだっぺか! っと、今はそれどころじゃねぇな、とりあえず白湯でも……」
 夏子はずず、と白湯をすする。
「はぁ~……心底ありがたい~命の恩人~」
「おーい」
 と、そこへ。一悟が美鬼帝の忘れ物を持って、八兵衛の家にやってきたのだった。
「んまあ、わざわざ届けてくれたの!?」
 美鬼帝はぱあっと顔を輝かせる。
「ついでに一晩屋根を貸してもらえないかってな」
「どうかしら、セツ子ちゃん?」
「場所だけはたくさんあるでなあ」
「よかったわ! あら、ほかにもお客さんね」
 そこには、マナガルムとマギー、そしてルル家がいた。
「あのっ、こんにちは! ボクたち……」
「突然の来訪、誠に申し訳なく思う。私達の話を聞いてはくれないか」
 美鬼帝は思わず息をのむ。
 ここに居るのは、あの時、あの場にいたものたちだ。
 夏子が片目を瞑ってみせる。
(……そういうことなのね)
 思わずじんとしてしまう。
 依頼料が払えるほど、親子は裕福ではない。
 だから、こうやって、依頼という形ではなくて、影に手助けしようというわけだ。
「遠慮なくミキティと呼んで頂戴!」

「……それでなるべく用心してほしいというわけだ」
「です。世の中、物騒ですからね!」
「ああ……物騒だべなあ……あんまし考えたくねぇけど、そうだな。用心に越したことはねえよなあ」
「そうなの。二人の言う通りなの」
 美鬼帝は、真剣な表情になる。
「実はね、次はここら辺りが狙われそうなの。だから……私達が来たの」
「あんた、まさか、孤児院で忙しいのにそんなことでわざわざ……」
「今日あたり何があっても表に出ちゃ……駄目よ? ママとの約束よ。……なーんて、ちょっと湿っぽくなっちゃったわね。折角、来たし大根を使った料理が食べたいわよね、皆?」
「そうだ。俺もあいさつ代わりに酒樽を一つ持って来ているんだ、良ければ頂いてくれ」
 マナガルムの豪華な手土産に、親子は思わず腰を抜かした。
「この家だけでなく、村の住人にも分けてやるのも良いだろうさ」
「きっとそれがいいや。母ちゃん、近所に配ってくるよ」
「あ、食材ならちょうど良いのがある」
 一悟は 返事の代わりに持ってきた物を出す。
 焼酎や昆布、砂糖である。
「おおっ、鍋かなー」
 夏子が顔をほころばせる。
「食べます、いただきます」
 ルル家が幸せそうに椀を受け取った。

●これからのこと
 真の敵は、貧困。
「おおっ、美味しそうだなあ」
 一悟の仕込みを手伝う八兵衛。
「豊穣食材か~、良し悪しは分かる心算よ」
 夏子がうんうんと頷いている。
「ありがとなあ」
「腐ってないけど八百屋の息子さ」
「ああー、そうなのけ? 嬉しいなあ、仲間だべなあ」
「いろいろ加工したら、もうちょっと高く売れんだろ?」
 一悟が用意しているのは、「たくあん漬け」と「べったら漬け」だ。
(大根が沢山あるなら、それを生かさねぇ手はないよな)
「あ、いいなー」
「オレのばあちゃん直伝だ」
(といっても売りもんになるまでには時間がかかる)
 さて、どうしたものかと考えて、ぽんと手を打った。
「よし、『つぼ漬け』も作るか」
 干した大根を一口大に細かく切り、混ぜてひと煮立ちさせた調味料と混ぜて、壺に入れて重石を乗せる。
「一日で浸かるのか。明日が楽しみだなあ」
「ああ。楽しみにな」
 明日もまた、この日常を。

(作付面積はこのくらいで、収量はだいたいこのくらいか)
 畑を見て回るロトは、ふと、固有種の虫を見つけてかがみ込む。
(今後の事を考えると情報屋の甚九郎さんとの繋がりは欲しいね。かと言って、八兵衛さんの無い袖も振らせたくない)
 財産、それも無理のない範囲で、となるとこの野菜である。
(美味しい作物が広まるのは喜ばしいことだろう)
 土地の精霊たちは、嬉しそうにざわめいた。
「タダ働きはしない。だよね?」
 ミニュイがいた。風にそよぐ植物と一緒に、どことなく、気持ちよさそうでもある。
 いつ悪漢が来るとも限らない。今も見張っていたのだろうか。
「ああ、ためにならないからね。セツ子さんたちから、差し入れがあるらしいよ。どうだい?」
 ロトが考えているのは販路のことだった。

●内緒の夜話
 日が少しずつ暮れていくのだった。
「針仕事ですか?」
 マギーはそっとセツ子の手元をのぞき込んだ。
「これくらいしかできないんだよ」
「すごいです。ボクは苦手なので、どうやったら上達するのかなあって」
「ふふ、きっとあんたにはもっと得意なことがあるのさねえ」
 針を進めては、少しばかりため息をつくセツ子。
「心配事って言葉にしたら、少し楽になりませんか?」
 セツ子はややためらった。マギーは、言葉を待つ。
 ぽつりと、言葉をこぼした。
 自分が息子の負担になっているのではないか、ということ。
 いっそ都の方が幸せになれるのではないか、と思う日がないわけでもないこと。
 マギーは静かに、それを聞いていた。

「八兵衛さん」
 マギーが、おずおずと八兵衛を呼び止める。
「その……上手な言葉で伝えられないですし、でも、言っておきたいことがありまして。お母様について……」
 マギーは、小さく息を吸うと、意を決したように八兵衛を見る。
「ボクは諸事情で自分に与えられた役目を果たせず両親とも話をせず家を飛び出しましたが、だからこそ……貴方には後悔しないようにお母様とお話をしてほしいなって」
「話、話か」
「貴方の素直な気持ちを伝えた方が良いと思います。そしたら、その望みを叶えるためにボク達も頑張るので!」
 マギーの真剣なまなざしに、八兵衛は思わず言葉につまった。
「……そう、だな。オラはここが好きだ。畑が好きだ。おっかあのつくる大根が大好きだ。オラ、ずっとここにいてえと思ってる」
「八兵衛……!」
 セツ子の目に涙がにじむ。
「八兵衛殿、その優しい心をどうか大切に。セツ子殿、彼がこの様な立派な方に育てられたのは他ならぬ貴女だ。私は母を失い、親孝行という物は出来ませんでした。故、貴女と言う存在が彼を支えているという事もどうか頭の片隅に置いてやって頂ければ、幸いです」
「騎士様、どちらへ?」
「見回りに」

●襲撃
 ゆらりと、暗闇の中に灯りがきらめく。
「へっへ、素直に受けてりゃいいものを」
 集うならず者たち。
「そうはさせん」
「何っ」
「……此処で俺達に出会った以上、覚悟を決めて貰うぞ」
 マナガルムは名乗りを上げ、グロリアスペインを構える。
 相手は荒事に慣れているとはいっても有象無象。ならず者たちは、武器を抜く頃には、陣形を乱されている。統率はない。
「ぐあっ」
 後ろを振り返った男は、大火力の砲撃で吹き飛んだ。
「……」
 ミニュイのカルネージカノン。
 浮かぶ一対の黄金色が、男たちを鋭く見据えている。
 羽ばたき。風はまるで鉄扇のように振るわれる。地表に倒れた男を押さえつけるように、羽嵐が通り過ぎていった。
 そして、続けざまに。
「!?」
 一悟のオーラキャノンが暗闇をつんざいた。
 男の刀が弾き飛ばされ、ふっとんで地面に突き刺さる。
「どんなに立派な得物でも、使い手が三流だったらガラクタも同然」
「てめぇら! 立て、立て! 稼ぐぞお!」
「悪事に手を貸すということは、それ相応の覚悟があるということですよね?」
 マギーはしっかりと相手を見据える。いち、にい、と数えて、呼吸を整える。距離をとって、狙いをつけて、一撃。
 追いかける男の手を、マギーの一撃が振り払った。
 くるりとふりかえり、三つ編みが揺れる。
(なんだ、急に、あたらねえ……!)
 ロトの手助けのせいだった。
「できる限りやってみようか」
 ロトは戦場の中心で、仲間たちに付与をする。付与はロトの得意とするところ。仲間たちの動きが、確かなものとなる。
 ばあん、と。爆竹でも撒いたかのような音。
「恩者に仇成す不届き者を 見逃す程には不義理じゃない」
 闇を劈く音。それは、堂々たる夏子の登場だった。
「ぐっ……」
 男たちは、自らが檻にいるのだと悟るだろう。
 美鬼帝がずいと前に出る。
 攻撃はしない。両腕を広げ、優しく語りかける。
「わかったでしょう。もうこんな悪い事しちゃ駄目よ! 今ならまだ間に合うわ。反省して真っ当に生きなさいな」
 慈愛の言葉を無碍にして、自棄か、無謀か。斬りかかる男。
「ざっけんなコラー!」
 美鬼帝は避けすらしなかった。
 素手で日本刀を受け止め、放り投げた。
「ひ、ひいいーーー!」
「堅気に迷惑掛ける悪い子は仕置きじゃけぇの! 調教じゃ!」
 ドスの効いた声が地を揺るがす。
「こ、コイツら、ただもんじゃねぇぞ! 何者だ!?」
「拙者達は通りすがりの……何でしょう? 追い剥ぎですかね?」
 ルル家は徒手空拳、と見せかけてハニーコムガトリングを取り出した。秘密の宇宙警察忍者武器。
 なんだかんだ殺意のない攻撃に油断していた男たちには相当に効いた。
「げえっ、ホンキだぞ!? やべえやべええやべえっ、死ぬっ」

●ぱあん、ぱあんと雀が落ちる
「ひ、ひいっ」
 ガトリングにびびる男を、夏子が蹴飛ばしてかばうのだった。もちろん、ルル家は相手を見て加減したのであるが。
「いっけねいっけね。商品は大事だな?」
「しょ、商品?」
「そ言えば我々の領地も人足必要だったね?」
「おっとっと、そうでした。領主様は、人使い荒いですからねえ。一体水なしで何日もつことやら?」
 ルル家が適当に話を合わせる。
「飯は三日に一度かあ」
 そんな事実も、する気も無いが。
(売られる側の気持ちでもどぞ)
 というわけで、夏子はにやりと笑ってみるのだった。
「君等のやり方良いね 試してみよう君等で」
 パアン、と。これは、ただの破裂音なのだ。泡を吹いて気絶してちゃ世話ないだろう。
「ぐっ、貴様らあああ!」
 斬りかかる相手は、マナガルムの遙か格下だった。
 経験が足りない。覚悟も。
 マナガルムは相手の一刀を受け流す。
「ひっ……」
(殺しはせん、だがもう二度としようと思わぬ様には痛めつけてやろう)
 青の眼がすっと細められる。
 舞うような、華麗な一撃。
 マナガルムのブレイブラッシュが、男を無駄なく斬り伏せ、無力化する。
 ロトの無の只人(ヘキサリオン)が、駆狼幻魔を描く。
 一悟が、その陣を突き抜けて走る。
 フレイムバスターがいっそう燃えさかった。
 一撃、覆面が燃え上がる。
「ひ、ひえええ」
「おとといきやがれ!」
 ミニュイの羽嵐が吹きすさぶ。
 鋭い風は、炎を消し去り、再び夜の闇へと戻す。息の詰まるような風。刃。
 だが、その風は、必要以上に悪漢を傷つけることはなかった。
「おっと、駄目です」
 死んだふりをして、そっと戦場を去ろうという男。だが、マギーは。
(ボクだったら、ここから逃げる時にどうするか……)
 おびえる表情。呼吸。
 マギーは、戦う相手をよく観察していた。自分なら、手薄なところから、こっそりと。
 だからマギーに、そんな真似は通用しない。
「どこへ行こうとしているんでしょうか?」
 黄金のような、至上の微笑み。威嚇射撃が男を無力化する。
「儂を美鬼帝と知ってて逃げんかァ、ワレ!」
 美鬼帝が鋭く悪漢を一喝する。
 圧。
 圧倒的な圧が男を縛り付ける。
「あ、あっちだ、あっちににげれば……」
 死沼へ誘う鬼火が、ぬっと目の前に現れる。
「ひっ」
「いやいや、こっちですよこっち」
「えっ!? なっ、あれ!?」
 ルル家の、多重銀河分身。せーの、ガトリングがリーダー格の男を向いた。
「ほいほい、逃がさないよっと」
 夏子が巧みに位置をとる。
 気がついたときには、マナガルムの槍の石突きが男をつらぬいていた。
「おや」
 二人、逃げだそうとしている。ロトは男の色彩を奪う。虚構術:アイン。もう一人は……仲間たちは、対処の必要がないと判断した。
 なぜなら。
 ミニュイが飛んでいた。

(逃げる? 私から?)
 暗闇の中。
 ふわふわと悪い夢でも見ていたかのような心地。
(うっ、ひどい目に遭った気がする……)
 男は、重力に気がつくだろう。
「へっ、へええええええ」
 ミニュイは男をつかんで、空を飛んでいた。
「知っていることを話してもらおうか」
「あわ、私はなんにも、ひええ、話す、話します。あくっ、阿久戸屋です! あの連中がっ」

●戦後処理
「カツアゲじゃないよ。今後彼らが心を入れ替えて真っ当に生きていく上で不要な物を回収するだけだよ」
「わっかるー」
 夏子が頷いた。
 美鬼帝の手によって、男達は追剥の如く丸裸にされていた。
「……もう人様には迷惑を掛けないようにね! ママとの約束よ?」
「ひいいいいっ、ごめんなさい、ごめんなさい」
 ダン、と威嚇の拳が地面にめり込んだ。
「出てきたら、ママが真っ当なお仕事紹介してあげるから……悪い事から足を洗いなさいね」
 なんだかんだ、慈悲深いお人なのである。
「我々は自前の獲物あるんで ご相伴のお代替わりに、ってことでどうだろ?」

「この者らじゃろうか」
 ルル家に呼ばれ、やってきたのは島 宗滴。
 刑部省の役人だ。
「普通にしょっぴくもよし、締め上げて阿久戸屋を検めるもよし。使い方は宗滴殿にお任せ致す」
「ふむ、あいわかった。……親子のことも、見回っておこう」
 何か言いたげなルル家に、小さく頷く。
「それで、ちょーっと聞きたいんですが、……狼の商人をご存じですか?」

●何でもない朝
 何事もなかったかのように、一同は朝を迎えた。
 一悟の作ったつぼ漬けは絶品だ。
「あ、美味い」
「ですねえ、お代わりしても?」
「商人さんがねえ。なんだかうちのお野菜を仕入れたいって言いに来てなあ」
 ロトと一悟が顔を見合わせる。販路を探っていたのは、他でもない彼らだ。
「……何かあったのかい?」
「いえ」
 マナガルムは首を横に振る。
「近くに来たら、いつでも寄っておいでねぇ」
「はいっ、お世話になりました」
 マギーは美しい一礼を見せた。
「また、近くに来たら顔を見せておくれねぇ」

 かの商人は、待っていた。
 最初の場所にいたようだ。
「用件は、これだ」
 マナガルムは武器を広げる。
「へえ! こりゃまた立派な獲物で。どちらで?」
「フフッ、とぼけちゃって! 何だかんだで八兵衛ちゃんを助けようとしてくれたんでしょう?」
「はてさて、なんのことやら」
「それで、貴方の目線からして我々はどうだったのかな?」
 マナガルムの言葉に、甚九郎はにやりと笑う。
「そりゃもう、どれも素晴らしい品々で。ええ、お代はこちらに」
「いえ。拙者としては今回の依頼は甚九郎殿とのパイプを得られるというだけで非常に美味しいです」
 ルル家は、じっと商人を見る。
「その上得物は売れ、拙者の店の調達も出来ましたから」
「なるほど、縁ですか。それもいいでしょう、是非、取引先として……」
「情報というのは千金に値します」
 一瞬の真顔。
 鋭く品物を見極める商人の目。ほんの少し、面白がるようでもある。
「何故甚九郎殿が情報を売っていると知っているか……ですか? さて、その情報には如何ほどのお代を頂けるので?」
「なるほどねえ」
「こんど、うちの義娘も紹介するわ」
 美鬼帝の口ぶりから、同じ道の情報屋、ということだろう。
「我々神使には倒す必要のある相手がこの豊穣の中枢に居る事が解っている」
「……覚悟は、そこまでのものですか」
「今後も良き関係でありたいものだな、甚九郎」
「ごひいきによろしくお願いいたします」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)[重傷]
鬼子母神

あとがき

甚九郎さんはイレギュラーズに一目置き、今後も協力したいと考えているようです。
親子のこれからについても、いろいろと気を回してくださったおかげで、おそらく安泰だと思われます。
それでは、またご縁がありましたら……ごひいきによろしくおねがいします!

PAGETOPPAGEBOTTOM