シナリオ詳細
ようこそ聖剣の里へ!
オープニング
●聖剣『サナ・ギーク』の伝説
幻想から東に位置する小さな村に、ある日ひとふりの剣が現われた。
どこから現われたのか、いつからあったのか、誰も知らない剣でしたが、円形の柄に『サ・ナ・ギ・ク』と掘られていたことからサナ・ギークと呼ばれるようになりました。
サナ・ギークは大地の岩に突き刺さり、柄から刀身までの美しい姿に魅入られた旅人たちはこの剣を引き抜こうとしましたがそこからがまあ大変。
剣は何人がかりで引っ張ってもまるで抜けないのです。
やがて『抜けない剣』の噂を聞きつけた力自慢たちがやってきては剣を引っ張り、中には沢山の馬で一度に引っ張らせた者も現われましたが、どういうわけかまるで抜けずに刺さったまま。
そのうちフランクフルトやシュワシュワ飲料を売る者が現われ有料馬車を出す者が現われ酒場を作る者や記念撮影を請け負う写真屋が現われ気づいたときには聖剣ストラップや聖剣まんじゅうが売り出され集まった人々はなんやかんやで小さな村を作るに至ったのでありました。
これが聖剣『サナ・ギーク』の伝説。
そしてこちらが、サナ・ギーク観光村。
●抜けないならいっそ観光資源にしちゃえのパターン
「観光予算が底を突くのです」
黒縁眼鏡にビジネススーツという、この辺りではとんと見ない格好をした男がそうのべてやると、お茶の湯飲みを持ったはげ頭の老人が『ほう』と言って手を止めた。
「では貴族のエラブリン殿にまた出資を願えばよろしいのでは?」
「既に願って参りましたが、これがひどい門前払いで」
「門扉の前に居座ればよろしい」
「一週間居座った次第でございます」
「なるほどそれで膝が汚れていらっしゃったのか」
『それでどうなりました』と老人が湯飲みに口をつけると、眼鏡の男は中指でブリッジを押した。
「エラブリン殿は村を解体するとおっしゃいました」
「ベッファァッ!?」
老人がお茶を吹き出した。
「そんなわけでして」
「なんとかなりませんかな?」
扉の前に正座して、眼鏡の男とはげた老人が懇願の限りを尽くしていた。
エラブリン邸前、ではない。こちらは幻想王都のギルド・ローレット前。
気分転換にカフェにでも行こうかしらと扉をあけた『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)を捕まえて、事の次第を(ほぼ無理矢理)聞かせたところであった。
異様にネバり慣れしていた、とは後のプルーの発言である。
●サナ・ギーク観光村解体の危機
ローレットに対して『村の解体をどうにかなりませんか』というひたすらにフワッとした依頼をしてきた二人の男。
ビジネススーツに眼鏡の男が名刺(名前と役職の書いてある紙)を差し出せば、サナ・ギーク観光協会のハイソン・ツブレールという名前だと知れた。ちなみにはげた老人の方は会長である。
「我々のサナ・ギーク観光村は一時期『抜けない聖剣』の話題で有名になり各地から観光客が押し寄せておりました。
しかしそれも過去のこと。ごらんの有様なのです」
町の大通りはさんさんたる有様だった。
ゴミがあちこちに落ちている道路。古くなりすぎて文字が読めない看板。
『ようこそ聖剣の里へ!』と書かれたゲートはあちこちが壊れ『うそ剣里!』になっていた。
ご当地ゆるキャラ『せいけんくん』の顔出し看板は色あせ、目の塗料が流れて黒い涙を流してる。
剣の周りは一応賑わっていたが、それは昼間っからおっさんたちがベンチに座って避けとピーナッツに浸っているだけという悲しい賑わい方だった。もはやタダの公園である。
それでもというべきか、噂の聖剣は美しい刀身をそのままに、何百人という手に握られたはずの柄は不思議と美しいままだった。
「この村は観光業だけでやってきた村です。その資本は幻想貴族のエラブリン殿に頼っていたのですが、このたび出資を打ち切られまして。このままでは解体されてかまぼこ業者に吸収されるとのこと」
ハイソンはきびすを返し、イレギュラーズたちへと向き直った。
「我々は観光業に生涯を捧げて参りました。ここではいそうですかと諦めるわけにはいきません。これが最後……最後のチャンスなのです。我々もできる限りのことはいたします。どうか、お力を貸してはいただけないでしょうか!」
90度の深い礼。ハイソンは命の限り頭を下げた。
- ようこそ聖剣の里へ!完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2018年04月21日 20時45分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●サナ・ギーク観光村へようこそ
正面ゲートをくぐって『聖剣ひろば』へやってきた10人のイレギュラーズ。
彼らは村のさんさんたる有様に言葉を選んでいた。
「これが噂の聖剣の村……あ〜……これはなかなかだね!」
選んだ上での、『大賢者』レンジー(p3p000130)の発言である。
よく砂漠にオアシスがあると町に育つなんて話があるが、村の段階で水が涸れればこうもなるだろう。もっとデカく、自力で回転できるくらいの規模になればまだ地盤の形骸化だけで済んだろうに。
しかし本当にオアシス(聖剣)は枯れているのだろうか? まだこんなに美しいというのに。
「きれいなせいけん! すごい! みんなにしってもらって、人がいっぱいのたのしい村にしよう!」
顔を『(>ヮ<)』みたいにしてぴょんこぴょんこ跳ねる『人 工 無 能』Q.U.U.A.(p3p001425)。
テンションこそ違えど『魔剣使い』琴葉・結(p3p001166)も同意見なようで、魔剣ズィーガーを手にこっくりと頷いた。
「今じゃすっかり寂れちゃったけど、何とかしてお客さんが来るようにしたいわね」
「何にせよ、助けを乞われたからには手助けをするのが僕の流儀というものなのだよ」
どっしりと腕組みをしてみせる『白仙湯狐』コルザ・テルマレス(p3p004008)。
今にも拳を突き上げそうな勢いで、ひろばの真ん中で声をあげた。
「みな、協力して道を切り拓こうではないか!」
さて、何かやるにもただ走り回るだけというわけにはいかない。それはもうハイソン氏がやった作業だ。
ゆえに……。
「村の皆様には、自分たちも何かしなければという気持ちになってもらいたいですの」
宙を泳ぐように進んでまわっていた『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が振り返った。
「何をお手伝いしたところで、皆様がやる気をとり戻してくれなければ、意味ありませんの」
たしかに、と頷く『年中ティータイム』Suvia=Westbury(p3p000114)。
「わたしは飲食関係でがんばってみるつもりです。やっぱり飲食関係がイマイチだと客の入りがよくありませんしね。うふふ」
足下では犬のアッサムくんがニヒルにキリッとしていた。
「いい考えだわ。聖剣の里の主役はもちろん聖剣だけど、それだけじゃ駄目だものね」
髪をかき上げて思案顔の『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)。
「聖剣参りや聖剣詣でみたいに、他にもついでに楽しめるものがないと魅力は半減だし、リピーターは得られないと思うの。そのためには出資頼みじゃなくて、地元のやる気も大事だわ」
「そっちのカードが揃ったら妾に任せるがよい」
『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)が限界まで胸を張る。思わず飴ちゃんを献上しはじめる観光会長。
「妾はエラブリンを説得して、出資の継続をするぞ」
説得はカードゲーム、なんて言葉がある。
手札を揃えて、相手が場に出したり伏せたりしているカードを殺していくのだ。今の手札はほぼ無いが、探せばあちこちから出てくるかもしれない。
その希望に『魔法少女プリマジュエル』明日乃 ひかり(p3p004493)も気づいていた。
「皆、お酒を飲むにしたって聖剣の周りに集まっているじゃないか。それってやっぱり愛着があるんだよ」
だからボクは此処を無くしたくない。ひかりが強く言い放った。
寂れた観光地に見慣れぬ人が10人近くやってきたことで、ひろばで飲んだくれていた人たちがなんだなんだと寄ってくる。
そこへずいっと前へでる『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)。
「話は聞かせてもらった、この村は破滅する!」
10人の中でぱっと見のおかしさがダントツだったR.R.なので、周囲の人は一旦定型句の一種として受け取ったようだ。そこへ、こうも続ける。
「だが任せろ、俺は破滅を滅ぼす事にかけては宿命レベルの専門家だ。滅びゆくこの村を救って見せよう」
どうやら彼は村の破滅をかなり盛大に聞き取ったらしい。
見た目の怪しさに反してとっても頼もしいことを言う彼に、ハイソン氏は拳を握りしめた。それまでほけーっとしていた会長と顔を見合わせる。
「会長、この方々ならいけるかもしれません」
「ですな……」
そして二人は改めて、深々と頭を下げた。
「皆さん、この村をよろしくおねがいします!」
●諦めるのをやめたとき、はじめて明日がやってくる
さびれた村を歩く一人と一匹。Suviaとアッサムくん。
「村のために、さわやかな香りがするブレンドティーを作ってみるつもりですの」
感涙を流す準備をしておいてくださいませとお土産店に入っていくSuvia。
Suviaが試みたのは村のグッズ開拓である。
「敢行しに来た人がお土産に買って帰って楽しいものや、貰って嬉しいものを作りましょう。その点茶葉は優秀ですよ」
Suviaの得意分野である紅茶を中心として、日持ちしやすいクッキーなどの商品を試作していった。
「ドライフルーツやナッツを使って、一年中仕入れが安定するようにしています。それにハーブを使って香りをよくして……」
パックを開いた時、シナモンのようなふんわりとした甘い香りが漂う。
ナッツやドライフルーツがちりばめられた大判のクッキーで、これ単体でも人気が出そうな一品だ。
「更に」
Suviaは『せいけんくんカード(手書き)』をパックにすぅっと差し込んだ。
「カードが次回からのクーポン券になっています」
「リピーターの確保ですか、なるほど……」
眼鏡をキラリとさせるハイソン氏。
「この調子で色々作って試しましょう。次はグルメです!」
Suviaが商品開発に精を出す一方、エスラは観光地として復活した際の宿泊問題の解決に動いていた。
「私は民泊を推し進めるわ。地産を生かした料理なんかを提供してもらえる感じの。寂れた里にいきなり宿屋みたいな十分な宿泊施設は確保できないし、空き家を生かすことにも繋がるの。何より住民に直接お金が入るから、観光で地元にお金が入る感覚を里の皆に実感してもらえると思うわ」
幸いというべきか、サナ・ギーク観光村には空き家が沢山あった。
栄えていた時に拠点として建設したが寂れたことで捨てていった家屋だ。そのぶん生活感も少なく民泊化もしやすかった。
「この村を破滅に導く一端、その汚れを滅ぼし尽くす!」
そんな活動をお掃除という形で手伝うR.R.。すごくキリッとしているが、清掃員の格好をしているのでとてもシュールだった。
「あとは権利関係だけど……」
サナ・ギーク観光村自体の権利関係がガバガバだったので住居の権利も無いも同然。一応出資者であるところのエラブリン氏が土地の管理をしているので、氏のOKさえとれれば発足が可能だった。
「次にガイドね。地元の人をガイドにして料金を稼ぐ仕組みを作りたいわ。周辺の地図を作りましょ」
「ふむ……」
ファミリアーした鳥を空に飛ばすのを見て、R.R.が小さく頷いた。
「例えば……この村の一帯には水産資源が採れる地点があるのでは?」
「川や海? 近くにはないわね……」
観光資源しかない土地。逆に言えば人が集落を築く理由の無かった土地だ。自然な資源は見当たらない。
そんな話をしたところで、二人はふと疑問に思った。
接収先が何故かかまぼこ業者だという疑問だ。
これはおかしいと首をひねるR.R.。
この土地を接収する業者は、この土地で魚を効率的に調達する方法に気づいているのではないか。
エラブリン氏をフックにして業者を突き止めるか、この土地そのものを観察して同じ発見に至るか……。
自ら動き出そうかと思案したR.R.だが、破棄されてごちゃごちゃになった家々を見て首を振る。
「俺はこの家屋の破滅を滅ぼしていく。『そちら』は頼んだぞ」
問題解決に乗り出しているのは一人だけじゃあない。
空を見上げ、二人は仲間たちに想いを託したのだった。
そう、破滅を滅ぼしているのは彼らだけでは無い。
ノリアは聖剣ひろばやゲートの周りをふよふよ泳ぎながら、村の清掃にはげんでいた。
「お掃除と、修理の道具のあるところを、教えてほしいですの」
「それなら……」
『うそ剣里!』になっているゲートを修理すべくその辺の人に尋ねてみると、専門的な工具や機材を貸してくれた。
「けど、修理してもしょうが無いと思うぞ。ゲートなんて今更直しても……」
不安げに言うおっさんにお礼をして、せっせと修理にはげむノリア。
しかし悲しいかな、修理がうまく出来ずにいるようだ。
「ああっ」
パネルをつけ直そうとしてうっかり落としそうになった所で、後ろからパネルを押さえるおっさん。
「……やってやるよ。暇だし……」
ふと見ると、その辺でたむろしていたおっさんたちも清掃道具を手にしていた。
せっせと頑張るノリアの姿に、かつてバリバリ働いていた頃を思い出したのかもしれない。
顔は汚れ、制服は皺だらけになったが、目の輝きだけは戻っている。
ノリアはこっくりと頷き、おっさんに工具を手渡した。
あちこちの看板や標識を立て直していたコルザにも影響が現われた。
「温泉の一つでもあればいい資源になるのだけれど、そうやすやすと見つかるものではないのだよね……」
元々資源のない土地。ゼロから何かを生み出すのは、温泉マイスターであるところのコルザの手にすら余るものだ。ので、まず清掃である。
「廃墟として売り出すならばともかく。観光というからには綺麗な土地であることも大事だ」
「そうだな……」
清掃に参加しはじめたおっさんたちが、コルザと一緒になって看板の修理や道の清掃を始めて行く。
どうやら彼らは元々清掃員として働いていたらしい。
『観光は「来る者を待ち続ける」ことではなく、「我が村の魅力はこういうことだ!」と胸を張って、そしてその魅力を損なわないように維持していくことが大切なのだ』と、休憩の中でコルザがぽつりと述べた。
それが、きっと真理なのだろう。
イレギュラーズたちが活動を開始してから数日。
村はかつてないほどに勢いをつけていた。
何か確証があったわけではない。
ただ、村のために動くイレギュラーズたちの行動に感化された人々が『ダメならダメで、やるだけやってみるか』という気持ちになったところもあるようだ。
そんなこんなで随分と綺麗になっていったサナ・ギーク観光村。
結も掃除のかたわら、村の人々との交流を重ねていた。
「なあその剣、ペンチや馬車みたいにならないのかい」
「ごめんね。武器だけなのよ。今できることと言ったら私たちをからかうことだけね」
いつもの軽口をたたくズィーガーを黙らせるべく柄をぱしんと叩く結。
「そういえばレンジーは? 資料館にいたと思うんだけど、今日は見えないのよね」
「それなら……」
村人に聞いてやってきたのは『聖剣ひろば』だ。
レンジーは聖剣を撫でたりつついたり、息を吹きかけたり水をかけたりと色々やっていた。
「ふむふむ? これは……むむむ……?」
「どうしたの? 観察はもうやったでしょ」
「まあ、観察はね……」
レンジーは初日のうちに聖剣の観察を終えていた。
その後は村人たちに聞き込みをして周り、資料館なるものに籠もって数日の間資料あさりを続けていた。
わかったのは『いつ聖剣が現われたか誰も知らないこと』『聖剣サナ・ギークと呼んだのはその辺のおっさんであること』。
あとは皆が村の由来や伝説を聞かされたあの内容そのままだ。
資料館にあるのは『村ができるまで』みたいな資料ばかりで剣についてはすごくフワッとしていた。
「おかしいんだ。誰も何も知らない」
「それっておかしいの?」
「知らなすぎる。こんなに特殊なものが突き刺さったなら、少なからず痕跡があるはずだ。栄えた当時は有名だったのに、持ち主が探しにくることもないし、『刺さる以前』の様子がまるでない。まるで生えてきたかのようだ」
「生えて……木や花じゃあるまいし。ズィーガー、何か感じる?」
『オイオイ。いきなり何か感じるかと聞かれてもな……探査系の能力はまだ戻ってないから良く判らん』
「……まって、今なんて言った?」
がばっと身体を起こすレンジー。
「調査系の――」
「その前」
「ズィーガーなにか感じる」
「その前」
「木や花じゃあるまし」
「……それだ」
つん、と柄をつつくレンジー。
「掃除の様子を見ていて不思議だと思っていたんだ。村がここまで汚れているのになぜ剣だけ汚れない? 試しに泥を塗ってみたが普通に汚れた。なのに翌日には綺麗さっぱりだ。なのに誰も掃除していないという。新陳代謝をしているんじゃないかと、わたしは考えたんだ」
「まってまって、今の話、総合すると……」
「うん」
「あれは剣ではない!」
胸を張ったデイジー。ティーカップの周りにやたら献上されたマシュマロやキャンディ。正面で目を丸くするエラブリン氏。
その一つをもぐもぐとやってから、もう一度胸を張った。
「あれは植物じゃ。地底深くに広く根を張り、栄養を独り占めにする強固なる植物。剣状の物体は光合成をするために地上に出ておるのじゃ」
思えば不自然な土地であった。
特に理由も無く自然資源が枯渇していて、そのくせ建物を(いい加減に)大量に建てても地盤が悪くなって沈むようなことがない。
「現に、Suviaやエスラが自然会話を試みたら自らの存在を木だと主張したそうじゃ」
話を聞いていたエラブリン氏と現場についてきたひかりはぽかーんとしていた。
いやだって、みんな聖剣だって言うし、見た目も剣だから、そりゃあ木だなんて思わない。
「さて、そこで効いてくるのが『かまぼこ工場』じゃ。変じゃと思わんか、こんななーんもない土地にいきなりかまぼこって」
「言われてみれば……」
考え込むひかり。
メリットなんてひとつもない。
「業者の者は知っていたのじゃよ。聖剣が木であることと……その地下に巨大な地底湖が存在することをの」
そこから、デイジーは村の復興計画を説明した。
剣の正体を広く喧伝し、地底湖でひたっすら大量にとれるという地底魚を資源とすること。かまぼこ業者がズルしてがっぽり設けようとしていた利益を発掘しようという計画だ。
「どうじゃ」
眼鏡(ハイソン氏から奪ってきたやつ)をくいっとやるデイジー。
しかしエラブリンは渋い顔だ。
「利益が出るとはいってもな……」
理屈で納得しても感情で納得できていないようだ。
だが逆に言えば、もう一押し。
「このままではもう一つ推しに弱いのはお察しの通りじゃ。故に、妾たちは卿の助力を請いたいのじゃ。幻想に轟くエラブリン卿のお名前を借り受けたい。この美しき伝説の聖剣(木)を目にとめ出資を行ったのは、エラブリン卿である! と卿のお名前を頂戴し王都中に宣伝をうちたいのじゃ。さすれば、村にやってくる皆々は聖剣と共に卿の偉大さを褒め称えるという寸法なのじゃ!」
「偉大さ……」
「聞きました。貴方が偉いって言われたがっているって。でも貴方は違う。それだけの人が、自分のお金で誰かの為になる事はしない」
ぴくりと動いたエラブリンに、ひかりが更に詰め寄った。
「貴方のその生き方は、きっとボクがなりたいと願った正義の味方に似ているんだ。だから他の誰でもない、貴方だけにもう一度あの村を再興するチャンスを貰いたいんだ」
さあ、ここからはトントン拍子だ。
出資を渋っていたエラブリンは新たな契約書にスタンプを押し、村はたちまちに様変わりし、人々がごった返した。『え、あれ木なの!?』と。
それを王都で喧伝して回ったのはQ.U.U.A.だ。
『せいけんくん』の着ぐるみをきて駆け回り、ビラをまき散らしたのだ。
「ほんものはもっときれいだよ! アトラクションもあるし、いちどきてみてねー!」
跳ね回って蛍光色にぴかぴか光る、歩くネオンサインみたいなQ.U.U.A.の宣伝効果はなかなかのもので、リニューアルオープンの日にはサナ・ギーク村にもやってきた。
「にぎやかな村、さいこう!」
ぴょんぴょんはねるきぐるみQ.U.U.A.。
隣ではハイソン氏がむせび泣き、R.R.は『破滅を滅ぼすと心が満たされる』といつもの調子で言い、ノリアはおっさんたちと手を取り合って喜んでいた。
「ハイソンおじさん、なまえかえよう! オキャク・アツマールとかにしよう! 『名はタイを釣る』っていうしね!」
「名は体を表わすね」
「海老で鯛を釣るのと混ざっとる」
「あと名前変えるとややっこしいからやめ――ハイソンさん名刺書き換えないで! やめて!」
どやるQ.U.U.A.。両サイドから突っ込みを入れるレンジーとデイジー。名刺をマジックで書き換えようとするハイソンと、それをとめる結。
エスラやSuviaは新作グルメを振るまい、コルザは地底湖からくんできた水を軽く温泉にしてから『効能がやばい』みたいなことを言う。
「じゃあ折角だし、聖剣チャレンジしてみようかな!」
まあ抜けはすまいと笑顔で見つめる人々の中心で、ひかりが聖剣(木)の柄を握った。
「「せーのっ」」
剣が三センチほど抜けた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
おめでとうございます、イレギュラーズの皆様。
少しメタな話になってしまいますが、このシナリオは『頑張れば頑張るほど効果をもたらすシナリオ』として設計されておりました。
例えば地底湖の存在はあらゆる方向から調べるルートが存在していて、地質調査、不自然なかまぼこ業者、エラブリンへの猛烈アタック、その他諸々……。
他にも観光地に残っている住民ほ殆どが行き場をなくした元清掃員や大工であったり、エラブリン氏が押しに弱かったり、ハイソン氏がごり押しに強かったり……。
そんな中で、皆様のがんばりがしっかりと通り、村の復興を実現することができました。
新たなスタートをきったサナ・ギーク村は、これから観光地として栄えていくことでしょう。
この土地を舞台にした敢行イベントシナリオなんかができたら、素敵ですね。
GMコメント
【オーダー】
成功条件:サナ・ギーク観光村のためになにかしらがんばる!
依頼主のハイソン氏も『これでダメならおしまいよ』の覚悟でできることを片っ端からやろうとしている最中でありローレットへの依頼もその一環なので、何かしら決定的な成果が出なくても成功判定となります。
強いて言うなら積極的に村を解体したり後味が悪くなりすぎるようなえげつねえ悪行を働くと、ハイソン氏が依頼を打ち切ってしまう(失敗判定になる)恐れがあるくらいでしょうか。
【解説】
●ハイソン・ツブレール
もともと居場所のなかった流れ者だが、観光業がさかんだったかつてのサナ・ギーク観光村へやってきて観光業の仕事についた。キャリアは実に20年。
基本的な仕事は事務と営業、そして偉いひとに頭を下げること。
長所は真面目なところ。短所も真面目なところ。
●会長
剣が見つかった頃からいた人。
村が村じゃなかった頃からいたため生き字引みたいに扱われている。
けれど剣がなんなのかとかどうしてここにあるのかとか、そういう肝心なところは何も知らない。
●エラブリン
幻想貴族。王都近くに領地を持つ貴族。すごくでっぷりしていて不細工。
偉そうにするのが趣味で、孤児院に寄付したり観光業に出資したりして日夜人に偉い偉いと言われたがっている。
サナ・ギーク観光村に人が来なくなり、うまみが無くなったことで出資を打ち切った様子。
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
Tweet