PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<月蝕アグノシア>HEART of LABYRINTH

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●己への恐怖。世界への恐怖。そして生まれる、心の鎧。
 ――私は、どうして生まれたのでしょうか。
 ――私は、どうして作られたのでしょうか。
 ――私は、どうして戦わなければならないのでしょうか。
 ――異能だけを手にして、何もないまま生まれた私を、誰が守ってくれるでしょうか。
 ――私は。
 ――私は、たったひとりきりです。

 妖精郷アルヴィオンへとついにたどり着いたローレット・イレギュラーズは、妖精たちから改めて依頼を受ける形で妖精女王と妖精たちを助け出すための戦いを各地で始めていた。
 フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)とて例外ではない。
 かつて絆をもった妖精グラコフィラスの依頼を受け、彼女の親友である妖精アドプレッサ、フランチェティイ、コリアケウス、ダンメリ、ベニシタンの五名を助け出すべくみかがみの泉のほとりにあるという『鏡の迷宮』へと挑んだのだった。
「安心して! 迷宮なんて言ってるけどずーーーっと昔に力を失ったの。魔法の鏡は全部なくなって、ただちょっと広いだけのホールよ!」
 『だからゴーゴー!』と拳を突き上げてフィーネの肩で叫ぶ妖精。
 フィーネはほんのり小さく笑うと、仲間達と共に鏡の迷宮跡地へと踏み込んだ。

 踏み込んだ、はずだ。

●ハートオブラビリンス ~迷宮心想(めいきゅうしんぞう)~
 立っていたのは広い銀河の上だった。
 立っていたのは果て無き泥の大地だった。
 立っていたのは雲でできたダンスホールの上だった。
 立っていたのは巨大なおもちゃ箱の中だった。
 立っていたのは花咲く無限の園だった。
 一緒に立ち入ったはずの仲間の姿はそこにない。
「分断……させられたんでしょうか」
 きょろきょろとまわりを観察するフィーネ。
 そんな彼女の視界の端。灰色の尻尾と耳をした少女が見えない壁の向こうへと消えていった。
 本能的に追いかける。
 視界の端でこちらをのぞき込む少女。
 視界の端で鞠を転がして遊ぶ少女。
 視界の端で足をぶらぶらとさせる少女。
 視線を合わせようとすれば消えてしまう不思議な少女達がそこにはあった。

「ここがどこだか、知りたい?」「ここがどこだか、おしえてあげない」

 後ろから誰かがそっと耳打ちをする。振り返っても誰も居ない。

「ここはね、心でできた迷宮なの」「ここは、迷宮でできた心なのよ」

「私たちが閉じ込められているの」「私たちは閉じ込もっているの」

「自分が分からなくて怖がっているの」「自分が分かって恐ろしいのね」

「私をみつけてね」「私をさがしてね」

「私は」「私は」

 ほんの一瞬、あなたの胸に指を当て、灰色のフィーネが恐ろしく微笑んだ。
「「あなたのそこにいるから」」
 もう、どこにもいない。

GMコメント

■オーダー
 妖精たちを助けるべく迷宮へと突入したあなたは、どうやら迷宮にとらわれてしまったようです。
 この迷宮から脱出することがあなたに課せられた最大のミッションです。

 脱出方法は『不明』です。

●仲間との分断
 あなたは仲間と分断されてしまいました。
 たった一人だけになってもいいですし、何人かと一緒でも構いません。
 誰かと一緒にいたい場合はプレイングにその旨を記載してください。あまり迷子にならないようには気をつけますが、互いにコンセンサスがとれるように相談だけはして置いた方がいいかもしれません。

●脱出方法を探ろう
 仲間と話し合ったり、自分なりに考えたりして脱出方法を探りましょう。
 ……といっても、ノーヒントクイズにしてはしょうがないので、PLにだけ重要なヒントを教えておきます。

ヒントA:PCが真に恐れているものはなんですか? その恐怖との戦い方はなんですか?
ヒントB:アルベドフィーネたちは何かを怖がっています。なにを恐れているのでしょうか。

 PCどうしでこれらについて話し合ってみてもいいですし、自分の中にだけしまっておいてもいいでしょう。もしかしたらそうしたやりとりの中に答えがあるかもしれません。

■補足情報
・アルベド(タイプフィーネ)
 フィーネの遺伝子情報と白い人工生命体、フェアリーシードに加工された妖精、そしてちょっとしたアイテムをあわせたことで完成した特殊なアルベドです。
 戦闘力はおろか記憶や人格すらもたぬまま、異能だけを無理矢理製造された固体のようです。
 こうした理由からタイプフィーネにはほとんど戦闘能力がありませんが、心理状態や想いを現実に影響させる『迷宮心想』という能力を持ちます。

・迷宮心想
 タイプフィーネが作り出した心の迷宮です。
 この中では沢山のフィーネの精神体が存在しており、侵入者になにかしらの干渉をすることがあります。けれど決して侵入者に協力したり、脱出の手段を直接教えてくれたりはしないようです。それにはちゃんとした理由がありますが、その理由に気づいたときにはどのみち協力は必要なくなっていることでしょう。

 なお、この迷宮の中に長い間とらわれていると心を蝕まれ気を失ってしまいます。
 一応の救済措置として『パンドラ消費による復活』を行うことでギリギリ脱出の手がかりがひらめくことがありますが、ひらめかないこともあります。

・フェアリーシード
 タイプフィーネに埋め込まれている核です。中には妖精が入っており、これを破壊することで妖精もろともアルベドを抹殺することが可能です。
 この核部分だけを取り出して妖精を救出できるということが確認されています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <月蝕アグノシア>HEART of LABYRINTH完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月16日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (6人)

主人=公(p3p000578)
ハム男
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
森の善き友
すずな(p3p005307)
血雨斬り
白薊 小夜(p3p006668)
名残の花
フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)
支える者
ハンス・キングスレー(p3p008418)
虚刃流直弟

リプレイ

●花咲く海に雨は降らない
 正方形の波が交差する海のまんなかで、『ハム子』主人=公(p3p000578)は水面に立っていた。
 花開いては枯れながら沈んでいく蓮の花々。
 どこまであるいても果てがない海のなかで、公はついに歩くのを辞めていた。
「どうしたものかな……破壊もうけつけないし」
 はじめは鏡の迷路よろしく風景の映った壁があるのだろうと走りまくったり魔法を撃ちまくったりしてみたが、魔法は空や海にただ飛んでいくのみで、壁らしい壁などどこにもなかった。
 これ以上動き回っても手がかりらしい手がかりは得られない。唯一の手がかりは、迷宮に舞い込んだ時に見た、あの『灰色のフィーネ』だけだった。
「まだそこにいる? 聞こえてるかな?」
 見えない、触れられもしない、どこにもいない少女に向けて、公は独白を始めることにした。

「旅人のボクはこの世界に呼ばれたときに元の世界の自分の記憶をなくしてるんだ。
 この姿も自分のものでは無く、好きだった物語の主人公を借りたもの
 こっちに来てからしばらくしてボクは不安に襲われたよ。
 お話の主人公の真似をしながらふらふらと目についた仕事をしているだけだったからね」
 呼びかけるが、応答はない。
 それでもなにもしないよりマシだろうかと考えて、公は独白を続けた。
「拠り所となる確固たる技術も、信仰もなく。こちらでたまたま得た力を振るって人に認めてもらいたいと自身の欲求のために偽善を行う。
 こんな自分はいつまでもニセモノで、決して本物には成れないんじゃないかって……。
 でも多くの仕事を通じて人々と関わるうちに気付いたんだ。
 自分が何者なのかなんて、本当にわかっている奴なんて居ないんじゃないかって。
 皆なりたい自分になるために、色んな不安を押し殺しながら生きているんだって。
 今の自分に出来ること、大切な人にしてあげられることを一つ一つやって行っているんだって」
 視界の端を、少女が駆けていったように見えた。
 振り向いても、誰も居ない。
「よければ君たちも一緒に来ないかい?
 ここを出て自分に何が出来るか、何になれるかを探してみよう。
 それで死ぬまで何か見つけられればそれでいいんじゃないかな」
 視界の端を、また誰かが走って行く。
 もう一度振り返ると。
 そこはもう、迷宮の外だった。
「……ボクも手伝うから」

●涙で泥は穴だらけ
 泥だらけの切り株。水と草と、虫のにおい。
 なじみはあるが、見も知らぬ、『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)は暗い森の中でひとりきりだった。
「完全にはぐれちゃったか……」
 森の中を探索したり、大声を上げたりしてみたが、まるで変化は起きなかった。
 もしかしたら一生このままなのかもしれない……なんて気持ちが足に絡みつく。
 それでも、前に進むしか無い。
 ルフナにはなぜだか、そんな確信があった。

「僕の故郷、絶望の青、そしてここでも」「もう進まなくていいよ。ひとやすみしよう?」
「頑張らなくてもいいと、停滞や澱みは甘く僕を誘って来る」「これ以上探索したって、いいことなんかないよ」
「思考停止していれば楽だよね。自分の世界に閉じこもってれば安心できるよね」「本当は外の世界も妖精たちも、他人だもんね。どうなっても、関係ないよ」
「知らない場所に一歩踏み出すことすらも怖いよね」「故郷の森に帰ろう? 外に出る必要なんてどこにもないよ」
「終わりを意識するのは恐ろしいよね」「世界の破滅なんて手に余るよ。どこかのすごい人がやってくれるよ」
「でも、進むしかないんだよ」「帰ろう? 終わりにしよう?」
「考え込んで立ち止まるよりは、がむしゃらでも歩き出さなきゃいけない」「この先に進んで痛い思いをするかも。怖いことがあるかも。友達に嫌われちゃうかもしれないよ」

 無意識にも考えを口に出すたび、視界の端に立つ灰色のフィーネが呼びかけてきた。
 泥だらけの森にありながら、彼女の靴はすこしもよごれていない。
「ここにいよう? ここは安全だよ」
「かもしれないね」
 泥を踏み、ルフナは振り返る。
 灰色のフィーネと目が合って、フィーネはきょとんと目を丸くした。
「でも、人は動かなくてはいけないんだよ」
 迷う時間は一秒も無かった。
 ルフナはまるでそうすることがはじめから決まっていたかの如く、どこからともなく現れた巨鳥の暴風を起こしながらも灰色フィーネの身体めがけて手を伸ばした。

●散る花こびとのティータイム、雲聞け歌え夕焼けのソナタ
 12秒ごとに日が暮れては日の出を繰り返す空の下。
 大きな大きなテーブルクロスの上に『金星獲り』すずな(p3p005307)は立っていた。
 自分の背丈ほどもあるティーカップ。自分を見下ろすティーポット。
 ショートケーキとマカロンの森を抜け、フォークのくびれで一休み。
「どうなっているんでしょう……皆さんの無事もわかりませんし……」
「きになるの?」
 声がして振り返ると、巨大な灰色フィーネがすずなの座るフォークを取り上げた。
 咄嗟に飛び退いて刀に手をかけるが、その時にはすでに灰色フィーネの姿はなかった。
「知りたいの?」
 後ろで声。素早く反転したすずなをまるで意に介さないように、灰色フィーネは巨大なショートケーキにフォークを立てていた。
 すくいあげて、ああむと口にほうばる。
 イチゴとホイップクリームとふかふかのスポンジケーキが混じり合ってきっと幸せだろうに、しかし灰色フィーネは悲しそうに眉をよせた。
「あなたは……」
 声をかけようとした途端、灰色フィーネは消えてしまった。
 まるで幻に取り囲まれたかのような感覚に、すずなはふうと息を吐く。
 こういうとき、見えるものにたよってはならない。そんな本能と経験から、すずなは目を閉じた。
 目を閉じたにもかかわらず、すずなはお菓子とお茶の並ぶテーブルについていた。
 テーブルを挟んだ正面には灰色のフィーネが腰掛け、テーブルをじっと見つめている。
 つられてテーブルを見ると、目を瞑った小さな小さな自分がそこに立っていた。
「これは、一体……」
 手を伸ばそうとして、びくりとすずなの身体が芯から震えた。
 目を瞑って棒立ちする自分の背後から、見覚えのある人影がゆっくりと歩み寄っているではないか。
「時雨姉様!?」
 目を見開いて振り返る。
 そこにあるのは巨大なティーカップとシフォンケーキ。
 振り抜いた刀が誰も居ないテーブルクロスで空振りした。
「えぇい、迷うな私! こういう時は……!」
 刀を収め、両頬をしたたかに叩くと、すずなは再び目を閉じた。

「どうなると思う?」
 テーブルを挟んだ向かいから、灰色のフィーネが問いかけてくる。
 見下ろせばまた、テーブルのうえに小さな自分。
 目を閉じた無防備極まりない自分の背後に、『あのひと』が歩み寄る。
 抜き身の刀が首へ添えられ、刃が首筋に当てられた。
 すずなは息を荒げながら、その光景に――。

●空が落ちてきた日のこと
 紫色の炎が羽虫の群れのごとく飛び交う空。
 あまりに巨大な謎の影が空をまたぎ、自分は腐り落ちた雲と砕けた星と、溶けて広がった青空のなかに――『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)は立っていた。
「……困ったなあ」
 どこまで歩いても同じ空。飛び上がろうとはまるで思えない空。
 黒く染まった羽をなでて、ハンスは小さく首を振る。
 時折、問いかけがあった。
 ーー私は、どうして生まれたのでしょうか。
 答えようと振り向いても、そこには誰も居ない。
 ーー私は、どうして生まれたのでしょうか。
 繰り返し続く問いかけに、ハンスはとりあえずながら答えることにした。
「タータリスク、あの錬金術師の魔種に作られたからだよ」
 ーー私は、どうして作られたのでしょうか。
 問いかけは続く。
「さあね、知らない。アルベドでもここまで特殊なのは聞かなかったけど」
 ーー私は、どうして戦わなければならないのでしょうか。
「そう定義されているから? 違うのに戦うって言うなら、それは僕らをどうにかしたいのかな」
 ーー私を、誰が守ってくれるでしょうか。
「残念ながら、その誰かはいないよ。……オリジナルとは違うんだ」
 ーー私は、たったひとりきりです。
 問いかけの意味が変わったような気がした。
 こんどは問いかけではなく、自己の表明であるように思える。
 いわば『答えの無い問答』である。
 ハンスは少しだけ考えてから、自分の考えを述べることにした。
「奇遇だね。僕もそう思ってたよ、召喚されるまで」
 そこまで語ってから、ハンスはこの声が『誰か』のものでないことに気がついた。
 どうして生まれたのか。
 どうして作られたのか。
 どうして戦わなければならないのか。
 誰が守ってくれるのか。
 それはきっと、すべての人がもつ問いだ。
「僕は……僕は何が怖かった?」
 置いていかれたとき。
 大切なものがどこかへ行ってしまったとき。
 はっとして空を見上げると、恐ろしい空の先に灰色のフィーネの姿があった。
「貴女達の『怖い』、ちょっとだけわかるかもしれない」
 ハンスは真っ黒な翼をひろげて、ぬかるんだ大地を蹴り飛ばした。
 飛ぶ。
 いや、空へと落ちていく。
 あらがえない逆自由落下に翼が折れそうになるけれど。
 ハンスは空から――灰色フィーネから目をそらさなかった。
「だから、ごめんね」
 手を、伸ばす。

●ねえ神様、気づいてしまったの
 そこにはなにも無かった。
 白とも黒ともつかない、空間とも呼べないような場所に、上下左右の区別もなく、浮かぶように立っていた。
 『支える者』フィーネ・ヴィユノーク・シュネーブラウ(p3p006734)はその光景が、わかる。
「何かしら……フィーネ以外の気配を感じなくなってしまったわね」
 『椿落とし』白薊 小夜(p3p006668)がその異常な感覚に、極々わずかな戸惑いや恐れを抱いているのが、フィーネにはわかった。
「小夜さん」
 問いかけに、安堵がよぎる。
「……あの。手を繋いでも、構いませんか?」
「ええ、勿論よ」
 微笑む小夜に、もう恐れや戸惑いはなかった。
 フィーネは手を一生懸命伸ばして、届くか届かないかという距離にある小夜の手に触れた。
 たぐるように伸ばして、フィーネの手を包み込む小夜の手。
 触れた手を中心に、ぽっと暖かい光のようなものが見えた気がした。
「動けるかしら」
「……多分」
 と、その時。
 二人はフッとどこかへ投げ出された。
 否。空間に上下左右の区別がついて、なかった重力が突然生まれたかのような状態だった。
 自由落下するフィーネを抱き寄せて、くるりと回転して足から着地する小夜。
「間違いなく、あの影響よね。迷宮に入るときに視界の端にあった……」
「はい……」
 小夜の手を借りて地に立つと、フィーネは周囲のなんともいえない風景を改めて見回した。
「きっと。あの娘達は、お姉様に出会わなかった私なのでしょう、ね」
「…………」
 小夜は何も言わず、握った手にわずかな力を込める。
 吐露すべき感情なのかどうか、それは解らなかったが。
 黙っているより良い気がして、フィーネはあえて口に出した。
「私と同じ……傷つく事を、傷つけられる事を、傷つけてしまう事を恐れて。
 孤独に苛まれるくせに、人に寄り添う事が恐ろしい。
 矛盾している事にも気づかずに、自分を雁字搦めにして。
 拒絶を恐れて拒絶する、変化を、未来を――世界を拒む心の鎧。
 この迷宮は『今』だけを望む停滞の具現。
 きっと、振り返っても道は無いのでしょうね
 あの娘達には……」
 そこまでの話を聞いて、小夜はずきりと胸に痛みを感じた。
 なんの痛みか解らず、本能的に手を当てる。
 同時期、彼女の脳裏によぎったのはこうだ。
 『アルベドを斬れば妖精を助けられる』
 仕込み杖から刃を抜いて、灰色のフィーネを袈裟斬りにする自分の姿。
 フィーネを摸した物体に湧き上がる感情と、それを喚起させたものへの憤りと、それを制御しようとする理性。
 三つのものが混ざり合って、小夜は自らの胸をがり……とひっかいた。
「……小夜さん?」
「大丈夫よ。怪我はしてない。フィーネは?」
「はい、私も……」
 そんなときである。
 フィーネの気配が二つに増えた。
 正面から近づいてくるように、それは感じられた。
「フィーネ、正面に――」
「正面に、なんですか?」
 首をかしげるフィーネの息づかいと声のトーンから、小夜はフィーネには何も見えていないことを察した。
 本能的に刀にかけた手に、さらなる力がこもる。
 だがそれに留まらず、フィーネの気配が三つに、四つに、五つに。たえず増え続けては取り囲み、こちらへと歩み寄ってくるように感じられた。音もにおいも、気配の全てがフィーネと全く同じなにかが、近づいてくる。
 斬らねばならないという本能と、それを押さえつける理性と、もうどこかへまるめて閉じ込めたはずの名前無き感情が交じり合い、小夜の首筋から額にかけてをわぁっと怖気のようなものが這い上がった。
 そして。
「お姉様」
 と。
 正面に立つフィーネが言った。

「お姉様、それは――」
 フィーネは見た。
 小夜が灰色のフィーネとしっかりと手を繋ぎ、刀を握りこちらに構えているさまを。
 そのことに小夜ははたと気づいたのか――。
「――――――――――――!」
 ついに声なき声をあげた。

 小夜の手から刀が落ち、膝をつく。
 そのまま倒れてしまう寸前に、フィーネが彼女を抱き留めた。
「お姉様」
 小夜の震えがわかる。
 汗にぬれた背や胸がわかる。
 だから、フィーネはその背をゆっくりと叩いた。
「本当の事を言えば不安です。
 私から産まれたと感じる……あの娘達の心の内を、正しく理解できているとは、とても……。
 そもそも、ここから脱出できるのか、どうかすら」

 小夜の周りには、今も無数の気配があった。
 フィーネと、それに類するもの。
 だがどれが本当にフィーネで、どれがその偽物なのか、小夜は確信が持てずに居た。
 いま自分を抱きしめて、背を叩く誰かが、フィーネであるとどう証明するのか。

「それでも。それでも私は。歩みを止める事はできません。したく、ありません」
 フィーネは小夜の長い髪に頬を寄せて、そして目を瞑った。
「立ち止まってしまえば。お姉様の隣へ、永遠にたどり着けませんから」

 ぱ、と。
 道が見えた気がした。
 真っ白な、曲がりくねった細い道。
 小夜はその瞬間なぜだか、自分を抱きしめるフィーネに『だけ』色がついているように感じられた。

 同時に、フィーネにもそれが見えた。
 閉じたまぶたのさきに、細い道があるのがわかった。
 何も見えず怖いけれど、さまようにように伸ばされた小夜の手を握ったその時だけは、道をはずれずに歩くことができるように思えた。

 そして道へ二人で歩み出したとき、背後で灰色のフィーネが見つめているように、おもえた。
 振り返りはしない。
 そうするべきでないと思えたから。
「貴女達も、共に来ませんか?」
 フィーネの問いかけに、灰色フィーネも、そして小夜もまた驚いたように思える。
「その身体は妖精さんに返してあげてほしいんです。
 その代わりに、私が。貴女達の心と共に居て――未来を見せます」
 フィーネが、小夜と共に一歩を踏み出す。
「もう――」




 気づけば、フィーネと小夜は迷宮の外に居た。
「ここが、外」
 つぶやいたのは、二人の背後に立っていた灰色のフィーネ――アルベド・タイプフィーネだった。
 今度こそ振り返り、頷くフィーネ。
 空いた手を、灰色フィーネへと伸ばす。
 しかし灰色フィーネは小さく首を振った。
「先に、やらなければならないことがあるから」
 灰色フィーネは笑って、そしてすぐに、その場から消えてしまった。

●種
 後日談ではない。
 迷宮からいつの間にか脱出していたイレギュラーズたちの手には、合計二つのフェアリーシードが握られていた。
 それが何を意味するのかは、確信がもてない。
 けれど……きっと……。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete
 true end 3――『灰色の約束』

 ――妖精ベニシタン、ダンメリの二人を救出しました

PAGETOPPAGEBOTTOM