シナリオ詳細
<月蝕アグノシア>正義の魔法少女、登場!
オープニング
●さぁ、彼女の名を呼んで
魔種、タータリクスと名乗る錬金術師の仕業により、未曽有の危機を迎えた妖精郷。
エウィンという町の近くに存在するこの小さな集落も、タータリスク麾下による魔物たちの襲撃を受けていたのである。
「だれか! 誰か助けて!」
妖精たちが、怯え、逃げ惑う――老若男女問わず、すべての妖精が、魔物たちによるターゲットだ。妖精たちは格好の研究材料であるし、『アルベド』と呼ばれる錬金術モンスターの、文字通りの心臓にもなるからだ。
「いや……いや……!」
一人の妖精が、疲れ果てて地に落下する――それを追う、息を荒らげる、狼のような錬金術モンスター! その鋭い牙が、妖精に噛みつくのは時間の問題と思われた――そのとき。
「待ちなさい!」
凛とした声が、集落に響く――途端、無数の流星が降り注ぎ、錬金術モンスターに着弾! 次々と爆砕して行く!
「この私がいる限り、皆に手出しはさせない!」
くるり、と空中で華麗に一回転。妖精たちの前に降り立ったのは――白い。白い肌の人物であった。
白い肌――いや、そう言ったレベルではない。肌というか、すべてが、白い。白で形成された生物である。しかし、その姿は――紛れもなく、『悪徳の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)のもの。
となれば――これは、アルベドだ! タータリスに従うはずの怪物が、何故、妖精たちの味方を?
「あ、あなた、あいつらの味方なんじゃ」
妖精が声をあげるのへ、アルベド・ことほぎはウィンク一つ。
「目覚めたのよ――正義の心に」
「せいぎの」
「こころに」
妖精たちが唖然とする――まぁ、それも無理はあるまい。相手は立派な怪物であるが、なんかそれっぽい事を言って味方をしてくれている。
とはいえ、これも決して、ふざけた事ではないのだ。アルベドに自我が芽生えることはよくある。元となった本人にそっくりに形成されることもあるが、コアとなったフェアリーシード……妖精の自我の影響を深く受けてしまう事も、ままあるのだ。
今回は、そう言ったケース。つまり、コアとなった妖精が、ヒーロー願望アリアリの魔法少女志望だったのである!
「さぁ、来なさい、悪の手先め! この正義の魔法少女、極楽院ことほぎがまとめて相手してあげるんだから!」
ぴっ、とかわいらしくポーズを決めつつ、アルベド・ことほぎは手にした魔法のステッキを振るった――!
●討伐せよ、正義の魔法少女
「だからと言って、放っておくわけにもいかないのです」
深緑にて、妖精たちの手当をしていた幻想種の一人が、イレギュラーズ達へとそう告げる。
――魔種、タータリクスの陰謀により、妖精郷アルヴィオンとの通路が途絶えて幾日か――。
大迷宮ヘイムダリオンを踏破したイレギュラーズ達は、ついにアルヴィオンへと足を踏み入れることに成功する。
しかしてそこには、魔種の配下により侵略を受ける街の姿があったのだ――。
といった事情があるわけだが、それはさておき。
「アルベドは、あくまでもタータリスに従う魔物ですし、それに、フェアリーシード……核となった妖精の問題もあります」
核となった妖精は、アルベドを動かすために生命力を吸われている。つまり、このままアルベドが活動を続けていれば、妖精は死ぬのだ。
となれば、それを見過ごすわけにはいかない、と流れになる。
「……ですが、その、このアルベド、今や集落の守り神みたいになってまして……討伐するにも、あまり反応がよろしくないというか……」
それ故に。
この依頼が、『悪属性』とされたわけなのだろう。
つまり、妖精たちからしてみれば――コアとなった妖精が死ぬというデメリットに目をつむれば――イレギュラーズ達は、正義の味方を討伐しに来た悪者に映るわけだ。
とはいえ、放っておくわけには、もちろんいかない。
「という訳ですので……どうか、このアルベドを無力化し、フェアリーコアを回収してきてはくれませんか?」
幻想種の言葉に、イレギュラーズ達は頷いたのであった――。
- <月蝕アグノシア>正義の魔法少女、登場!完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年07月17日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●えっ痛くね??? と彼女は言った
妖精の村へと迫る、錬金術モンスターの群れ――狼のような生き物が、息を荒らげながら地を疾駆する。
果たしてこのまま、妖精の村は蹂躙されてしまうのか!?
いや、そんなことは無い! なぜならこの村には! 正義の魔法少女が居るからだ!
「待ちなさい! と言ってもまたないわよね!」
ぴっ、と大きな木の枝から飛び降りるその姿――それは、真っ白な肌をした、『悪徳の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)である――!
「なんどめの襲撃なのか、数えるのも嫌になっちゃった! でも、この私が居るからには、お前たちにこの村を襲わせはしないんだからっ!」
きゅぴーん、と効果音が鳴りそうな感じのポーズを決めることほぎ。ことほぎは手にしたステッキを振るうと、光り輝く流星をステッキから生み出し、可愛らしく、しとやかに、それを解き放つ!
果たして解き放たれた魔法の流星は、次々と狼たちに着弾! 可愛らしくも派手な爆発音とともにまとめて狼たちを吹っ飛ばす! 狼たちは悲鳴を上げながら爆発! おっと、跡形もなく吹っ飛んだので、グロい感じの死体は残らないぞ☆ 正義の魔法少女なので、その辺のイメージ戦略もばっちしなのだ!
「よーし、今日も私の大勝利!」
ぴっ、とピースサインを目元にかざしつつ、可愛らしくポーズを決めることほぎ。そう、彼女は正義の魔法少女である。かつては悪の手先によって生み出された彼女は、ある日突然正義の心に目覚めた。そしてそれから、その正義の心の赴くまま、悪を退治――やがてこの妖精の村へとたどり着いたのだった。
「受け入れてくれた皆のためにも、もっと頑張らなきゃね!」
ことほぎは、うん、と頷く。今日も明日も頑張るゾ☆ そしていつか悪の親玉をやっつけて、妖精郷を平和に導くんだから!
正義の魔法少女極楽院 ことほぎ。その戦いは、未だ始まったばかりなのだ――!
完。
「完、じゃないんだよなぁ」
げんなりした様子で、『ことほぎ』が声をあげる。その眉は分りやすくひそめられ、キリキリと痛む胃に、思わず右手でお腹を擦った。
現れた『ことほぎ』――その肌は白くはない。そも、肌から何まで白い方が異常であるのだ。で、あるならば、正義の魔法少女を自称することほぎの方こそ、異端であると考えるのが自然だ。
それはそうだろう。本人の述懐どおり、正義の魔法少女のことほぎは、悪の錬金術師に作られた人造生命――アルベドなのだから。
ことほぎは、うっ、と思わず口元を覆った。
「何? オレまわりから見りゃあんななの? えっ痛くね???」
「いや、大丈夫大丈夫、ことほぎちゃんはああいう系統じゃないから。でも、正義のことほぎちゃんかぁ……いや、何でもないよ? 大丈夫大丈夫」
にこにこと笑ってそう返すのは、『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)おにーさんである。ことほぎはとっさにヴォルペの胸ぐらをつかんでがっくんがっくんと揺さぶった。
「やめろ! なんか痛々しいのを精一杯フォローされてるみたいじゃねぇか!」
「ははは、おにーさんを信じなさいよ。大丈夫だから、気にしない気にしない」
がっくんがっくんと揺さぶられながらも、ヴォルペはペースを崩さない。
「あなた……オリジナルの魔法少女なのね!」
と、此方の姿を認めたアルベドが、此方へと片手をあげならすたすたとやって来る。妙にフレンドリーな所が、また本人とのギャップを醸し出して辛い。
「会いたかった! あなたも正義の魔法少女なんでしょう!? これで今日からダブル魔法少女、一緒に頑張りましょうっ!」
きらり、と屈託のない瞳でことほぎを見つめるアルベド。なんかキラキラした自分の顔を見せられるのが、たまらなく辛かった。
「せーぎのまほうしょーじょ……! せーぎかぁ……ぷぷぷ、ごめんごめん。でも……せいぎ……あははははははは!」
もう我慢の限界だ、と言わんばかりにケラケラと笑い声をあげるのは、『クノイチジェイケイ』高槻 夕子(p3p007252)だ。
「ごめん、むり、まぢむり! しんぢゃう! あははははははっ!」
じたばたと足を揺らして、腹を抱えて笑う夕子。
「至近弾と腹筋ダメージで精神的パンドラが弾けそう……」
笑いだすことは抑えたものの、口元を押さえて若干ぷるぷるしてるのは『こむ☆すめ』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)である。
「くそー、こいつらめ……!」
思わず、ぎりぎりと手を握り込む、ことほぎである。
「いやいやいや。冷静に考えたらあーしのニセモノも出るかもしんないじゃん。タータ何とか許すまじ」
ふと真顔になる夕子である。ニセモノに、自分と真逆の行動をとられる、なんて言うのはごめんだ。
「……なんなのですこの面妖な状況は?」
思わずぼやいてしまう『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)である。そう思うのも無理はない。と言うか、今回の敵、管理体制が雑過ぎないか? 思わず呆然とするクーアであったが、コホン、と咳払い一つ。『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)へと目くばせする。寛治は「ええ」と頷くと、実にフレンドリーな様子でその両手を広げた。
「おお、素晴らしき正義の魔法少女、極楽院ことほぎ様! その正義を生み出す心、フェアリーシードは貴女の何処にあるのでしょうか。やはり正義の炎が燃える胸でしょうか?」
横でことほぎがすっげぇ嫌そうな顔をしていたが、無視した。アルベドは上機嫌な様子で頷くと、ぽん、と胸の中央を拳で叩く。
「もちろん! わたしの燃えるハートはいつでもここに!」
言っちゃうんだ! おもわず胸中でツッコミを入れるイレギュラーズ達である。なるほど、こいつ馬鹿なんだなぁ、とも思ったが、これはまぁ、ある程度は仕方ないだろう。何せ向こうは、此方を正義の魔法少女同盟か何かかと思い込んでいる。ならば、此方にわざわざ嘘をつく必要もないという事なのだろう。
その認識がそもそも間違いなのであるが。
「では、私から、質問を一つ」
クーアが声をあげるのへ、アルベドが頷く。
「貴方、自分がフェアリーシードとなった妖精の命を食い潰す存在だということを自覚していらっしゃるのです?」
ぴし、と。
音を立てて、和やかな空気がひび割れた。
「……え?」
目を真ん丸にしてアルベドが声をあげる。
「ですから。貴方の活動が、貴方の核である妖精さんの命を搾り取っているということ、本当に理解しているのです?」
アルベドが、その胸に手をやった。どうやら、ブラフなどではなく、本当に、胸部中央にフェアリーシードは存在するようだ。
「……嘘よ」
アルベドが、絞り出すように、声をあげた。
「嘘じゃないよ……」
『帰って寝たい』矢都花 リリー(p3p006541)が返事をした。しゅ、と懐から取り出したのは、『図解、フェアリーシードとアルベドの関係』、などと書かれたポスターの類である。
「大体ねぇ、ノーリスクでそんな夢みたいに正義の味方になれるなんてこと、あると思うわけぇ? そもそもぉ、そっちは悪の手先じゃん」
「だから、正義の心に目覚めて……!」
「そも、貴女の『正義』とやらは、核となっている妖精の命を犠牲にして成り立っています。ああ、正義のためなら、妖精の命の一つや二つ、必要な犠牲ということですか。これはこれはご立派な『正義の味方』ですねえ」
にこり、と寛治は言い放つ。あえて、その行動を称えるように。相手の心を抉る様に。
「……嘘よ! 嘘! 私を騙そうとしているのよ!」
「まぁ、そうなるだろうさ。正義正義ってうるさいガキみたいな奴なんだ。認めたくない現実突きつけられりゃあ、そうやって喚くしかないだろうぜ」
ことほぎは意地悪気に笑った。ぞっとした表情で、アルベドが声をあげる。
「何なの……あなたたち……」
「あ? 見て分かんねぇか? 悪ーい、奴らだよ」
その言葉を受けて、アルベドは後方へと跳躍する。そのステッキを構えて、中空に魔法陣を描く。
「やっぱり! 私をだまして、この村を乗っ取ろうって言うのね! そうはいかないわ!」
「むー、わるいのは、ようせいのこをかえさない、あなたなの!」
『リトルナイト』リリィ=B=ストライプ(p3p002591)が言う。状況的には、確かにその通りだろう。
「ようせいのこをかえしてくれるなら、ゆるしてあげるの。でも、いやなら……やっつけるの!」
その背に背負ったな大剣を構え、リリィが声をあげる。
「いや! あなた達のいう事なんて、聞かないんだから!」
「はっ、我がまま娘が。だが、やる事はシンプルだ!」
ことほぎはごき、と指を鳴らして、言った。
「ボコる! そんで取り返す! ……なんか性には合わねぇが、行くぜ皆!」
その言葉を合図に、イレギュラーズ、そしてアルベドは一気に動き出した!
●『正義』の魔法少女と『悪徳』の魔女
「まとめて薙ぎ払うんだから! スター☆シューター!」
アルベドがステッキを振るう。可愛らしい効果音と共に発生したきらめく星々が、流星めいてイレギュラーズ達へと降り注ぐ!
「おっと、可愛らしい名前だけど、威力は充分だねぇ」
ヴォルペが手甲をかざし、破邪の結界を展開した。降り注ぐ流星を受け流す――がきん、と音を立てて逸れた流星が、地に突き刺さり爆発を巻き起こした。
「さあ、正義の味方ちゃん? おにーさんと遊ぼうか!」
名乗り口上を一つ、ヴォルペは自身へと攻撃を引き付ける。展開した破邪の結界が、降り注ぐ流星を次々とそらし、地に落着させていった。
「正義とかはあれだけど、あーしがサクッと倒してあげるわ!」
夕子が駆ける――夕子はいつでもやばたにえん! そんな心持が夕子の身体能力を強化して、一足飛びにアルベドへと接敵する!
「すーぱーJKきーっく! あ、ぱんつ見えた!? 見えてないよね!?」
丹田付近に刻まれた赤い紋様が身体に熱を巡らし、爆発的な力を生む。放たれた飛び蹴り、すーぱーJKきっくがアルベドを吹き飛ばした!
「く……うっ!」
「はっ。所詮あなたの力は借り物なのよ。自分の力で立てないくせにえらそうにいうな!」
蹴りの勢いを借りて後方へと跳躍する夕子――フリーになったアルベドに、飛来するのは、足元を狙うクーアの光弾だ。光弾はアルベドの足元を粉砕し、その機動力を殺いだ。
「鬼ごっこの類なら負けないのです――ましてや、正義の味方気取りの駄々っ子、捕らえられないわけがないのです」
「くっ……負けないっ!」
何とか離脱を試みるアルベドであったが、続くメーヴィンの一矢が、
「実際問題、こちらとしてはことほぎ殿が増えて魔種殲滅手伝ってくれるなら嬉しいけどね」
解き放たれ、アルベドの腕を貫く。白い液体を血液めいて吹き出し、アルベドが悲鳴を上げた。
「再び傀儡になる可能性は元より、中の妖精、あと私の腹筋と精神パンドラへのダメージは見過ごせないってわけだ」
「私は、悪の手先には戻らないもの……!」
「いや、分かんねーだろ。って言うかさ、オレって悪名アホほどあるんだが。イレギュラーズじゃなきゃ指名手配されてるレベルでさ。ソレと同じ見た目ってセイギ的にどーなの?」
ことほぎが声をかけるのへ、アルベドはむっとした表情を見せた。
「重要なのは見た目と過去じゃないわ! 正義の心があれば誰だって――」
「へぇ、ご立派」
放つ悪夢の銃弾が、アルベドの腕を再び貫いた。苦痛にうめくアルベド。
「オレはそんなに立派じゃねーからさぁ?」
「今からでも、皆遅くないの。正義の心に目覚めれば――」
「では、その正義の心に則り――今、貴女が正義を成すに当たり、最適の方法を教えて差し上げます。自らの体を割いてコアを取り出し、妖精を助けてその生命を終えることです。自分で出来ないなら、特別に私達が正義の執行を手伝って差し上げますよ。核の位置は教えていただきましたから、後はこちらで対処します」
寛治の言葉に、しかしアルベドは頭を振った。
「騙されない! そんな事……っ!」
「あー、正義正義詐欺じゃん……。自分の心地いい事だけ聞いて、そうじゃない事実は無視する……いや、あたいもニートだからさぁ、そう言う気持ちもわかるんだけどさぁ……結構、目の前でやられると鬱陶しいねぇ……」
リリーもうんざりした様子で、バールを放り投げた。直撃したバールが、強かにアルベドの腕を打ち据えた。
「おら、コア吐けだよぉ……」
「くっ……!」
腕を引きずり、立ち上がったアルベドへ、大剣を持って飛び掛かるのはリリィだ。
「わるいひとは、だめなのっ!」
その大剣を、軽々と振り回すリリィ。斬撃がアルベドの肩口を切り裂いた。
「ようせいさんをかえすの! ようせいさんがしんじゃうのは、だめなのよ!」
「う……うっ……!」
イレギュラーズ達の攻撃と、舌戦。それが徐々に、アルベドの体力を、精神力を、削っていく。徐々に弱々しくなっていく、攻撃の手。しかしそれでも、流石はことほぎのコピーと言った所だろう。イレギュラーズ達も相応の傷を負っていく。
「正義……ね。正義って何だろうね?」
そんな攻撃の応酬の中で、ヴォルペはふと声をあげた。
「誰かを護ろうとする……その意思はとても素晴らしい事さ。でもね、自分の身を犠牲にしてまで、という覚悟がないなら止めておきなよ。そのせいで誰かが泣く事になっても構わない、って言うのならそれは結局……おにーさんと同じ悪側の考え方でしかない」
今、君がすべきは。
ヴォルペが言う。
「本当の自分に戻る事だ。そんな歪んだ力を持たなくとも、君の美しい心があるだけで救われる子たちがいる。その子達の笑顔を護る事こそ、本当の正義の味方ってもんじゃあないかい?」
駄々をこねる子供に、言い含めるように。ヴォルペは、穏やかに――そう言い聞かせた。
「うう……うう……」
だらん、と、アルベドが、その両手を投げ出した。度重なる攻撃と口撃が、その体力と心を摩耗させ――この瞬間。その心をついに、へし折ったのである。
「それじゃあ、フェアリーシードは、返してもらうのですよ」
クーアがゆっくりと、アルベドへと近づいた。言霊を唱える――とたん、アルベドの胸がゆっくりと陥没していって、やがてそこから宝石のようなもの――フェアリーシードが姿を現す。
「私……今度はホントの正義の味方になれるかなぁ?」
ぐすり、とアルベドは泣いた。だからヴォルペはにこやかに笑った。
「うん。きっと君ならば、素敵な正義の味方になれるよ」
クーアがゆっくりと、フェアリーシードその両手に抱える。途端、アルベドはばしゃり、と白い液体に溶けて、そのまま地にしみて、消えていったのだった――。
●さよなら、正義の魔法少女
「……よく言うのです。正義、なんて微塵も信じてないくせに」
クーアは腰に手を当てて、ふむ、と唸った。その視線の先にはヴォルペが居て、表情を欠片ほども変えず、肩をすくめてみせた。
「嘘も方便、ってね。実際、上手く行っただろう?」
飴と鞭の、飴を担当したわけだ。双方を上手い具合に与えた方が、心をおるのも容易いという事なのだろう。
「あーし、今度はホントの正義の味方になれるかなぁ?」
両手を重ねて、ウルウルとした瞳で夕子が言って――たまらず吹き出した。
「だって! さすがにすごい絵だったってゆーか! 笑わなかったの褒めて欲しーし!」
「あー、うるせー! オレが一番ダメージ受けてんだよ! なんだあの絵面! なんでオレがヴォルペに向って潤んだ瞳で語りかけてんだよ! マジで心臓止まるかと思ったぞ!」
たまらず地団駄を踏むことほぎである。とはいえ、結果的に依頼は成功裏に終わったわけである。喜ばねばなるまい――素直に喜べないかもしれないが。
「あー、だめ、やっぱり腹筋と精神的パンドラごりっごりに削れてる。ふふ、もう笑っても良いよね。ふふふ」
メーヴィンが思わず吹き出す。
「くそ! 殺せ! いっそオレを殺せーっ!」
ことほぎが頭を抱えてぶわんぶわん振り回した。精神的パンドラの減り具合なら、ことほぎも相当なものだろう。
そんな様子を見ながら――ふと、メーヴィンは真面目な表情を見せた。
「……まぁ、結果として正義の味方が一人減っただけになるんだ。私達がちゃんと守れば関係ない。そ、やることは変わらんのさ 」
ふむ、と嘆息する。その在り様はさておいて、アルベドが、少なくとも正義の味方として振る舞っていたは事実だ。如何な理由があったとはいえ、それを排除したのだ。
ならば、次はこちらが、正義の味方の真似事をする番なのかもしれない。
「さて、こうして無事に作戦は完了したわけです。どうでしょう、祝杯などは」
寛治の提案に、リリーが声をあげた。
「あー……いいと思うよぉ。なんか今回、無駄に疲れたしねぇ……」
へにゃ、と脱力するリリー。見ている方も相当疲れただろう。そう言う相手だったのだ。
「ごはんなの! たくさんたべるの!」
リリィが元気よく片手をあげるのへ、ことほぎは頷いた。
「よし! 呑むぞ! 酒でも飲まなきゃやってらんねー!」
かくして一行は、妖精の村を後にした。
……その後ろ姿に、ことほぎは小さく呟く。
「魔法少女も引退し時か……?」
その呟きは誰にも届かぬまま、風に乗って消えていった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
かくして、正義の魔法少女は討伐され、フェアリーシードは回収されました。
色々とダメージを負ってしまったかもしれませんが、お仕事は完了です。
お疲れさまでした。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
正義の味方を自称するアルベド。
彼女を撃退し、フェアリーシードを回収してくるお仕事です。
●成功条件
フェアリーシードの回収
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『深緑』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
●状況
突如正義の心に目覚め、悪を討伐し始めたアルベド・ことほぎ――。
とはいえ、彼女の活動をこのまま放置しておくわけにはいきません。フェアリーシードとされた妖精の命がかかっていますし、タータリスの術により、再び敵の手先に戻る可能性も否定できないのですから。
みなさんは、このアルベド・ことほぎを撃退し、何らかの手段を用いて、フェアリーシードを回収してください。
フェアリーシードの回収手段については……例えば、相手の正義の魔法少女としての心をべきべきに折って隙を作ってみたり……とかが考えられますが、割と自由です。
作戦決行時刻は昼。周囲には妖精の集落が広がっていますが、邪魔になるようなことは無いでしょう。
●エネミーデータ
アルベド・ことほぎ ×1
『悪徳の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)さんを元にして作られたアルベドです。元となったのはことほぎさんですが、その自我はコアとなった妖精に強く引きずられ、正義の魔法少女、と言った様子になっています。
ことほぎさんと同様に、様々な神秘系スキルを使いこなすアタッカーとして行動します。主に強力なのは遠・超距離ですが、近接範囲にもある程度は対応できるようです。
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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