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シナリオ詳細

<月蝕アグノシア>染まらぬ白

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●湖上で咲う花
 月を映した白が揺らめき、少女のつま先が湖面を撫でていく。
 シャララと歌った銀波が弾け、蓮の葉を揺らす頃には少女の姿も花の上にあった。
「よーせーさん、すっかりいなくなったのです」
 呟く声は淡々と。双眸も冷ややかに辺りを見渡す。少女の視界に収まるよう、黒く蠢く人のかたちがある。得体の知れぬ黒もまた、それぞれ蓮を渡り、畔を見やっては少女へ顔なき顔を向けてを繰り返した。
 いなくなった妖精の姿を辿り、月明かりの下で彼女たちは探し続ける。
 不意に畔で茂みが震えた。黒き人形が首を傾げつつ近寄ろうとしたのを、少女が一声で制止する。
 そして彼女は細腕に秘めた力を術式へ集わせ、茂みへ魔弾を撃ち込んだ。茂みは跡形もなく消え去り、そこに何かが本当に居たのかさえ確認するすべはない。途端に黒の子らが、諸手をあげてはしゃぎ出す。
「この程度、造作もねーのです」
 魔力の弾を撃った少女は、顔色ひとつ変えぬまま応える。異変はその直後に起きた。
 それまで感情を燈していなかったはずの少女が、みるみるうちに悲しげな色を顔へ刷いていく。
「大丈夫よレイニィ。皆きっと無事。だってあたし、まだ笑えるもの」
 声はそのままでありながら、音色は明らかに別の誰かのもの。重ねた両手を胸へ寄せ、少女は祈るように睫毛を伏せる。ああ、と零した息は今にも泣き出しそうだが、口端は精一杯の笑みを浮かべていて。
 けれど、ゆっくりかぶりを振った少女は、今しがた宿していた笑みも落とし、すっかり先ほどまで纏っていた静謐を取り戻す。どろりと滴る人形たちが、少女の様子を窺い、手を合わせる。かれらの素振りに、少女はそっと目を細めた。
「ボクを崇めるのですか? けんめーな判断なのです。幸せになれるかもですよ?」
 そう言って──ルリ・メイフィールドにあまりにも似過ぎた少女は、清かな月を仰ぎ見る。

●情報屋
「おしごと」
 イシコ=ロボウ(p3n000130) の声はいつも通り淡々としていた。
「もう話、聞いてる? 妖精郷アルヴィオン、いま大変なことになってる」
 予てより暗躍していた魔種が、配下である魔物を率いて妖精たちの村や城を蹂躙、占拠してしまったという。
 そんな火急の報せと、襲撃によって得た情報がローレットへもたらされた理由は、命からがら逃げ出せた妖精がいたことによる。当然ローレットとしても、魔種の動きは看過できない。何より、妖精たちを救いたい者も多いはずだ。
「……本題。錬金術で作られた、新しいモンスターがいる。これは逃げてきた妖精からの情報」
 スライムや土人形など、錬金術モンスターといっても多種多様だが、今回は。
「そのモンスター、イレギュラーズのうち、細胞情報を持ってかれた人にそっくり」
 今回イシコがイレギュラーズへ伝えたのは、見た目が『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)に似た存在だ。
 もちろん、細胞を強奪したときの情報そのままではない。
 錬金術で改良を重ねたらしく、体力なども大幅に上昇している。平たく言えば強敵だ。
「でも、みんなだって強くなってる」
 肉体的に己を高めた者もいれば、数々の修羅場をくぐり抜け、あるいは悲壮な光景を目の当たりにしたことで、想いを強めた者もいる。心が、身体が、武器が──強くなったものは、多いはずだ。
 かの者は『アルベド』という錬金術の成果で、仮初の命ゆえか核となる部分が存在する。
「核は『フェアリーシード』っていう、人間で例えると心臓みたいなもの」
 その核を破壊すれば、アルベドは完全に機能停止する。そうイシコは告げた。
 フェアリーシード。不穏な名にイレギュラーズは眉をひそめた。予感というものは、嫌なときほど当たるもので。
「そのフェアリーシード、妖精を素にしてる。つまり妖精が核にされてる」
 ならば次に気になるのは、誰が素となり、核を破壊した場合にどうなるかという点だろう。
「フェアリーシードを壊すと、アルベドは止まる。妖精は死ぬ」
 イシコは包み隠さず、まっすぐに答えた。そしてこうも話す。
「どうにかしてうまく核を取り出せれば、もしかしたら助けられるかもしれない」
 イレギュラーズの姿そっくりなアルベドから、どう核を取り出すのが最適かは、正直わからない。そもそも核はどのような姿で、どこに入っているのか。器となる身体から引きちぎる必要があるのか、傷つかないようそっと摘出する必要があるのか。それすら判明していない。
 あくまで可能性の話だ。妖精の救出に取り組むのであれば、相応に力を尽くす必要がある。妖精を諦めて撃破に専念する方が、救出を試みるよりも苦戦は強いられにくいだろう。
「核となった妖精は……レイニィさん。以前『凋まずの花』って呼ばれる花を探しに来た子」
 イレギュラーズの手助けの甲斐あって、目的の花を採取し、アルヴィオンへ帰還したのだが。
 ──その彼女が、フェアリーシードにされてしまっている。
 そこまで説明を終えたイシコは次に、アルベドが居た場所について話始める。
「エウィンの街の中心部に、『みかがみの泉』って呼ばれてる湖がある。すごく大きな」
 アルベドが目撃されたのは、そこだ。
 湖で育つ蓮を渡っては足を止め、空を見上げてはまた渡っていく。それを繰り返して、生き残りの妖精を発見次第、襲ったそうだ。
「あと、ニグレドっていう、アルベドになる前の人形を三体連れてたって」
 ドロリとした液状が、人のかたちを辛うじて保っている。そんな見た目の敵だ。
 フェアリーシードを埋め込まれていないがゆえにこの状態なのか、核もなければ喋りもしない。だがアルベドと同じく魔種の命令には従えないため、容赦なく襲い掛かってくる。
 一通り話を終えたイシコは、イレギュラーズの顔を見渡す。
「アルベドはただ戦うだけでも、強敵。どう動くにしても、油断はだめ」
 そして最後に、ちゃんと帰ってくるようにと念を押して、イシコは彼らの元を離れていった。

GMコメント

 お世話になっております。棟方ろかです。

●目標
 アルベド『ルリ・メイフィールド』の機能停止

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 時間は月がよく見える夜。戦場はエウィンの中央、『みかがみの泉』と呼ばれる大きな湖の一角。
 湖には『月夜の塔』という遺跡の建つ島があります。(塔には入りません)
 湖畔、湖の上、島の上、どこで戦うかはプレイングと展開次第です。
 畔には草花が咲き、そこそこ開けていますが、少し外れるとエウィンの住宅街です。
 湖では大小様々な蓮が育っており、葉や花は足場代わりに使えます。
 普段の湖面は穏やかですが、戦闘により荒れる可能性は充分にあります。荒れれば当然、蓮も激しく揺れます。

●敵
・アルベド×1
 思考や言動は妖精レイニィと、ルリ・メイフィールドさんのものを混ぜた、不安定なもの。
 スカイウェザーを模っていて飛行もできますが、使用頻度は低いです。
 武器は弓。使用スキルは魔弾、魔砲、ハイ・ヒール、ブレイクフィアー。
 スキル自体はPCが使うものと同性能ですが、アルベド自身の能力値は高いです。
 フェアリーシードを破壊するか、うまく取り出すことでアルベドの全機能が停止します。
 なお、フェアリーシードはアルベドがHP0になると自動で壊れます。

・ニグレド×3
 錬金術によって生まれた人型モンスター。見た目は黒くてドロドロ。
 喋りはしませんが金切り声のような、甲高く耳に障る声が出せます。
 この金切り声も立派な攻撃です。
 中距離射程内、ある一点を起点とした半径5m以内の敵にのみ、ダメージと感電を与えます。
 他、まるで幼い子どものように抱きつくことで、体力を減らすと同時に足止もしてきます。

●妖精レイニィについて
 身長30センチほどで、外見年齢10歳の少女。
 戦闘経験もなく、明るく好奇心旺盛ですが、言動は大人しめでした。
 イレギュラーズの武勇伝や日々の生活を聞いて、今度は普通に遊びに行きたいし、遊びに来てほしいと願っていた少女。

 それでは、ご武運を。

  • <月蝕アグノシア>染まらぬ白完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
ウォリア(p3p001789)
終縁の騎士
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
博徒
ルリ・メイフィールド(p3p007928)
特異運命座標
晋 飛(p3p008587)
はらぺこフレンズ
晋 飛(p3p008588)
マジ卍やばい
只野・黒子(p3p008597)
群鱗

リプレイ

●月の足元で
 無邪気な白が湖面をゆき、なりそこなった黒が蓮を揺らしていく。
 それを遠目に見やって『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)は顔を上げる。
(皆さんを守るために……)
 総身を駆け抜ける生命力を贄として、フェリシアは仲間たちの力を高めた。歌声を弾ませながら。
(好奇心を、刺激できれば……きっと)
 アルベドに、妖精にも届くと信じて。
 そして『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)は、吸い込んだ夜気に熱を含んで吐き出す。異様に冷たく感じる夜だと痛感していた。単に気温が低いなどという問題ではない。
(思うがまま謳歌するアルベド。そんな印象が原因だと思うぜ、この冷たさは)
 馳せたのは、湖上に咲く一輪花――仲間の姿を模った、錬金術による作品だ。
 彼らの吹きかけた息は、その真白き花ではなく手元の花へ寄せられる。蕩ける芳香が漂うと同時に、彼は口ずさむ。蝕まれた心を呼び、まどろむ月の誘いから覚ますための歌を。
 フェリシアたちの歌声が宙空に響き、やがてアルベドたちのつま先を向けさせる。
 一方で『はらぺこフレンズ』晋 飛(p3p008587)の双眸は、同じ名を持つ仲間を自然とさしていた。
「おかしな偶然だね」
 言われた『鋼鉄の冒険者』晋 飛(p3p008588)が肩を竦める。
 彼女のことは任せると飛が囁けば、風に乗った音を耳にいれて、AGに搭乗した鋼鉄の飛が顎を引く。
 遊ぼう、と飛の放つ念がアルベドを誘う。誘惑は花よりも馨しく、月よりも清かに。
(『君』を待っているから。一緒に花を探そう)
 歌を背にして届いた誘いは、核となった妖精の好奇心に触れる。表情こそ淡泊さを湛えたまま、アルベドが疼く興味のまま蓮を渡る。かの白につられて、ニグレドたちも続く。
 こぞって動く黒を捉えた『博徒』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)の足が、土を固く踏み締める。勝つ準備はした。覚悟は決めた。なら後は助けるだけだ。
「そこの黒い木偶の坊」
 色を伴う呼びかけは、ぬるりと揺れたニグレドたちに届く。
「アルベドのとこ行きたきゃ、俺を倒してからいきな」
 掲げる口上に、ニコラスの不敵さが募った。
 二種の存在が蠢く中、『群鱗』只野・黒子(p3p008597)が繰り出したのは衝撃を与えるための布石。
(なんとしても位置を特定しなければ。それも逸早く)
 アルベドの注意を誘引しながら、猛攻に備えて構える。
 その頃、ニグレドが『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)を発見し、近づいていた。
「ウォリアさん!」
「ああ」
 ルリが皆まで言わなくとも『彷徨う赤の騎士』ウォリア(p3p001789)が応える。
 ルリへ追い縋った黒の影を、ウォリアの渾身の一撃が留めた。闘争心を呼び覚ました彼が振るった戦斧は、幼子のごとき黒を震え上がらせる。
 直後、悲鳴にも似た金切り声が轟く。ウォリアめがけて放たれた甲高い音声は、反射的に耳を塞いでしまうほど意識を眩ませる。
「存外、煩くて辛抱ならぬ」
 そう言いながらも、堪えた素振りなき面差しで、ウォリアは片頬をあげた。
 そんな彼へルリはが癒しを招く。彼女の術は真っ直ぐ飛び、しかし彼女の眼差しは別のものを見ていた。
(あれが、アルベドとゆーやつなのですね)
 自分に酷似していても、不気味だとか怖いとは感じない。感じる必要もなかった。なぜなら。
(ボクはボクひとり。あのよーな存在は有り得ねーのです)
 彼女の言う有り得ない存在が、ニグレドへ施しを向けた。離れきっていない両者の間は、アルベドの治癒術を繋げる。
 だがアルベドの元へ駆けつけようとしたニグレドを、ニコラスが制止した。
「俺を放っておいていいのか? 見逃すと……」
 言いながらニグレドへ顔を寄せる。
「……俺が壊しちまうぞ」
 ぼそりと囁いたニコラスに、黒き人形が震えた。そしてニグレドは反射的に彼へ飛び掛かる。
 怒りか、恐れか、それとも戸惑いか。感情の名さえ、わからないまま。

●救出のために
 叩くための防御姿勢を崩さずにいた黒子へ、アルベドの魔弾が飛び込む。心身を弾かんばかりの魔力と相対し、かの真白の懐へ黒子が手向けたのもまた力の一端。
 迷いこそ持たぬ白き者の攻めに、ふ、と黒子が一笑した。
「やはり、ルリ嬢に比べて浅い」
 何がとは言わない。しかし黒子が口の端で象った笑みも、眦へ乗せた比較の色彩も、確かにアルベドは感知していた。
 別の場ではStarsが、天使の歌を口ずさみつつ神経を研ぎ澄ませていた。
 集中してみるが、真白きアルベドの身には彩りの違いもなければ、濃淡に違和感もなく。
「どこだ?」
 稔が眉根を寄せ、虚が忙しなく想念を辿る。
(どう探せばいい?)
 フェアリーシードの位置を。他のすべがいいのだろうか。別の手が。巡るのは考えばかりではなく、時間もまた――。
 そうしている間にも、思考の一部を自動演算化した鋼鉄の飛がアルベドとの距離を詰める。
 敵が得手とする手段を取り難くすれば、こちらに有利だ。だから鋼鉄の飛に躊躇はない。
「おじさんと遊んでくれや!」
 彼の声が賑やかに響く頃、フェリシアの空色の瞳が、仲間たちの姿を鮮やかに映していた。
 歌を紡いだフェリシアの唇が次に寄せたのは、悠久のアナセマだ。
 ニグレドを染め上げる破滅への音色が、侵食する呪いが、黒いヒトを貪っていく。
 そこで纏わりつくニグレドを蹴り飛ばして、ウォリアが目を細める。
(少々近すぎるか)
 この黒に、白の元へ走られては困る。だからこそウォリアは戦意を滾らせ、名乗りを上げた。
「敵わぬと知り、恐れを為したか。黒き子らよ」
 言の葉で貫けば、ニグレドが蓮の葉を蹴った。
 相手も速いがウォリアも心構えはできている。花から花へ、体幹を軸にウォリアが移乗していくものだから、ニグレドもすぐには捕まえられない。
 その間も、ルリはひらりひらりと立ち位置を変えていく。片手で術式を編み、ウォリアの痛みを回復しながら。
 こうしてニグレドがより離れれば、飛が動き出す。
(奇縁って、本当にあるものなんだね)
 巡り巡った縁に吐息だけで笑い、飛はエネミー情報をスキャンする。
 判明したのは、アルベドという錬金術の成果を構築する強さだけだ。素となったルリよりも高い能力は、改良を重ねられたためだろうか。
(錬金術って恐ろしいね)
 苦々しく唇を引き結んだ飛は、すかさず名乗りを挙げた。ニグレドの群れから、アルベドをより自分の方へ惹きつける。
 戦況の把握に努めていた黒子の眼差しが、そんな飛とアルベドを捉えていた。
 敷いた網に興味すら無く、躱わして進むアルベドの眸は飛を映す。咄嗟に盾となろうと身を翻した黒子へ、しかし飛から届いた所思は揺るぎなく。
(僕の事は気にしないで!)
 その分、全力で。
 彼の意思に肯った黒子は、敵から静を奪う。
 だが直後、アルベドの魔砲は夜を疾駆した。
 刹那の煌めきに戦場が眩んだものの、すぐさま光が射しこむ。ニグレドと対峙していたニコラスのものだ。手段を塞がれ白の元へ戻れないニグレドが、彼へ金切り声で訴えかける。悲痛な叫びに目もくれず、ニコラスが捧げた連撃の名は、ヘブン・セブンスレイ。優美なる七ツの光は、ニグレドを瞬く間に溶かし尽くした。
 同じ頃、耳障りな泣き声を立てたニグレドを眼前に、ウォリアの振り回した大戦斧は暴虐の風音を生む。
 アルベドに対する仲間たちの行動へ目を向けるまでもなく、肌身で感じていた。
 混沌へやってくる前から『造られた命』を殺す者だったかれには、思うところがある。
(オレは手心無く囚われている妖精も、殺してしまうだろう)
 己の存在意義ゆえに。
(それは同胞達にとって決して好ましいことではないと、オレは知っている)
 巡り沈む思考は、一歩踏み込むまでの僅かな間のできごと。
 やがてかれは重いひと振りを見舞う。水底にまで衝撃の余波が伝播するほどの。
「生まれる時を間違えた、哀れな命よ」
 崩れゆくニグレドへ手向けた言の葉は、ひとひらのみ。
「輪廻すら断ち切る焔の中で、眠るがいい」
 赤黒さがどよめくウォリアの身に照らされて、黒の人形は溶け落ち、消えていった。
 一方でフェリシアは、子守唄でニグレドへ終焉を与えようとしていた。蕩揺したニグレドに残された手段は、ただただ沈むだけ。呪いへと重なる呪殺の力が、ニグレドを見知らぬ白へ――月へと送る。
 その頃、治療の合間にルリがアルベドと顔を揃えていた。
 常人離れした腕力を有する彼女は、制御できる術式を会得するまで、人目を避けて生きる時間が長かった。だからルリは今でも、誰かとの接し方に迷う一面がある。
「レイニィさんは……そんなボクにできた大切な『友達』なのです」
 頬に熱を含んでルリが言う。奪われた存在の大きさを、目撃者でも感じ取れるほどに。
「ぜってぇ、ゆるせねーですよ」
 直視する双眸に燈った光。それはアルベドになくて、ルリにあるもの。
 彼女の話を耳にし、そっとアルベドへ近付いたフェリシアが想いを紡ぐ。アルベドという籠に囚われた、かの妖精へ語りかけるために。
「そこから、出て……おでかけ、しましょう」
 間合いは保ったまま、招くように手を差しのべる。
「お話もたくさんして……また今度のお約束も、して」
 たくさんしたいことがあると告げるフェリシアに、アルベドは首を傾いだ。
 そこへ、天使の福音を奏でていたStarsも呼びかける。
「信じて待つなんて馬鹿なことをしていたら、死ぬだけだぞ」
 飾り気のない言葉が、真っ直ぐアルベドを射抜く。
「生き残りたくばせいぜい足掻け」
(素直に頑張れって言えないんですかねーお前は!?)
 怖い想いをさせてごめんと平謝りする虚から、稔は気持ちの目線を外した。
 そのとき。
「レイニィ! テメェ、まだやりてぇことがあるんだろ!」
 ニコラスが内なる少女へ向け、声を張り上げる。
 迫る腕を、ニコラスは拳で受け止めた。とにかく今、アルベドに距離を取られてはならないと判断して。
「なら、声をあげやがれ!! テメェは何処にいる!!」
 白一色のアルベドの躯は応えない。
 そうですよ、とフェリシアが想いを連ねた。
「一緒に帰りましょう、ね。わたし達、そのために来たのです、から……」
「そうだ。俺たちが助けてやる! 物語みてぇに、お前を助けてやる!」
 だから声をあげろと、力の限りニコラスが叫ぶ。叫んだ途端、アルベドの双眸が潤んだ。
「……け……て」
 掠れた声が、ニコラスたちの耳朶を打つ。
「たすけて……ッ!!」
 胸を押さえながら返したアルベドの悲鳴は、間違いなくレイニィのものだった。

●月をも蝕む色
 ――あそこだ! 胸のド真ん中!
 飛が仲間たちへ次々と思念を送り、駆けた。
 両手で押さえていた胸部の中央、そこを示すかのように訴えたレイニィの言葉は瞬時に消え去ってしまう。後に残ったのは、感情乏しくイレギュラーズを認めるアルベドの姿のみ。
 かの者へ彼が組み付いた瞬間、魔弾が宙に踊り出る。
 攻勢に転じた黒子が、奪静の名に違わず平静をアルベドから剥ぎ取ろうと一手を加える。抗う少女が黒子の手を払うも、アルベドの心臓とも呼べるフェアリーシードを守ろうとはしなかった。己の心臓を守り、庇うといった意志など持たないかのように。
 勢い止まぬ内に、鋼鉄の飛が迫る。AG越しに見やった真白の人型は、今なお動揺も焦りも抱いていない。
(こっちは、妖精も救って敵もきっちり倒すって気持ちがあんのに)
 素知らぬ顔のアルベドに対して、思うところはある。だが。
「ヒーローってのは辛いねぇ」
 さして辛くもなさそうな軽さで言い終えるや否や、構築したのは手順を飛ばす短縮の技術。そして受けた情報を頼りに翼を撃ち抜けば、アルベドも為すすべなく均衡を失う。
 続けてフェアリーシードの取り出しにStarsも加勢し、接近しつつも肌身へ殺傷力の低い術を寄せる。コアが埋まっている箇所を、人体を模った錬金術の壁をこじ開けるべく、彼は術を注ぐ。間近だからこそ慎重に。
「ほとんど威嚇だ。これなら、足掻くぐらいはできるだろう?」
 Starsがふんと鼻を鳴らすも、アルベドの静かな面差しに変化はない。
(だから分かりやすく『頑張れよ』ぐらいにさあ!)
 咄嗟に虚が慌てふためくも、やはり稔の顔色は常のままで。
 だが、フェアリーシードに到る道は開けた。
 そうしてふらつくアルベドの眼前へ立ちはだかったのは、ニコラスだ。
「邪魔させるかよ」
 仲間たちがフェアリーシードを取り出すため尽力しているのだ。下手に動かれてはやり辛くなる。だからニコラスは間合いを詰め、アルベドから離れようとしない。
 すかさず後背へ回ったウォリアもまた、自身の後ろで動く仲間たちへ敵の気が向かないよう、視界を遮った。
 その間も、戦いの長さに凍てついた指先で、ルリが癒しを紡ぐ。
(まだ、まだ保てるのです)
 ルリ自身も仲間たちも、心折れてなどいない。躯も朽ちていない。
 だからルリは、皆の足へ順々に熱を送っていった。痛みによって動作が鈍りそうなときは、この熱が代わりに体内を巡り、苦痛を紛らせてくれる。
 そこへ。
(どうか、どうかお願いします、ね)
 祈りを喉に留めたまま、フェリシアが神子饗宴の加護を飛へ降ろす。
 たしかに此度の戦いは、飛にとって成り行きであった。縁が繋がったから立ち上がった。それだけのことだが、しかし。
「成り行きとは言っても、君を助けるのが全員の総意なんだ、だから……!」
 発した言も、篭めた情も、間違いなく飛のもので。
「だから『君』は、なんとしても助ける!」
 舞い続けるアルベドの少女を牽制し、歩みを止めさせる。
「ほら、大丈夫よレイニィ」
 ぽつりと呟いたアルベドの声は、僅かに震え――直後、まるで呟きさえも掻き消す勢いで、魔砲が放たれた。今しがた飛び込んだ飛だけでなく、Starsをも巻き込んで魔砲が戦場を疾駆する。
 しかし魔術が一筋の光を描く頃、別の方向から二人分の靴音がひっそりと刻まれた。
(今こそ好機……!)
 機を逸さず、瞬時に判断した黒子が、仕掛けた技でアルベドから冷静さを奪う。瞠目の果てに黒子へと逸れた、アルベドの視線と意識。
 続けて、AGから飛び出した鋼鉄の飛が見据えるのは、一点のみ。
「しゃんとしな、妖精ちゃん」
 言葉は短く、彼の伸ばした腕に沿って流れゆく。届かせるために。
「生きる! って意識を強くもちゃあ、なんとかならぁ」
 口の端で強気を模り、彼が掴んだのはアルベドの核たるフェアリーシード。
 どう摘出しようか、などと迷いあぐねる時間が惜しい。はじめから決めていた。
 鋭利さで切り離した直後、鋼鉄の飛が後方へ跳ぶ。随分と冷えきった核を躯から遠ざけながらも、彼が想うのは核を持つ手の加減。ありのままの暴力を振るえる身だからこそ、勢い余ってしまわぬようにと、抱えた命のことばかり考えて。
 後退して漸く彼も気付く。仲間たちの見つめる先はアルベドだが、当人はそんな彼らへ目線すら向けず、ただ天を望むように固まっていた。
 警戒を解かずに近寄った黒子が、大人しくなったアルベドの状態を確かめる。
「機能はすべて停止しています。もう動くこともないでしょう」
 それが、戦いの終わりを報せる合図となった。

 両膝を抱えて丸まったまま動かない妖精の名を、ルリが何度も呼ぶ。
 眠りに就いたときに似た静けさで、レイニィはぐったりと彼女の両手に掬われている。それもそのはずだ。アルベドに埋め込まれた不自由な状態で原動力とされ、戦いという尤も消耗するであろう時間を過ごしたのだから。だが。
「……ぅ」
 あえかな呼気に、音が混ざった。妖精の安否を見守る誰のものでもない。
 イレギュラーズは顔を突き合わせて瞬き、あるいは頷き、そしてレイニィへ視線を戻す。小さくも重たげな瞼が押し上げられたのは、そのときだ。
「妖精ちゃん!」
「レイニィさん!」
「レイニィ!」
 名を呼ぶ数々の声に囲われて、妖精が身を起こす。
 立ち上がる力も、翅を広げ羽ばたく力も無いらしく、ルリの両手を椅子にしたまま彼女は言った。
「ずっと……聞こえてた声……あなたたち、だったのね」
 疲労とまどろみを伴った表情で、イレギュラーズひとりひとりを確かめていく。
「レイニィさん、こうしてまた会えたのですから」
 すると再会を喜ぶルリの瞳が、月明かりを受けて揺らめく。
「お話をしましょう。今までの冒険のお話、たくさんあるのです」
 友からの名案に、レイニィは力無くもどうにか――笑った。
 傍で笑顔を目にしたフェリシアが、安堵のあまりよろめく。
「よかった、です。本当に」
 喜びを繰り返す言葉は夜気に掠れ、殆ど音を成さない。
 夢中になるあまり忘れていた喉の乾きを思い出して、飛は深呼吸をする。
(僕でも助けられる命がある。……嬉しいな)
 腹の底からじわじわと沸き上がる情は、格別のものだった。
 少しばかり後ろで、鮮紅に飾られた眼をそっと細めてウォリアも一息つく。
 戦い方も、信念も、歩んできた道さえ異にする者たちが集った、この戦いを思い返して。
(種々の強さが渦巻くがゆえの混沌。なれば、此の世界の色もまた……)
 ふと仰ぎ見た空で、真白の月はやはり何物にも染まらぬまま、ぽっかりと浮かんでいた。

成否

成功

MVP

晋 飛(p3p008588)
マジ卍やばい

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした! アルベドの機能停止だけでなく、妖精レイニィの救出も叶いました。
フェアリーシードの摘出も意識したことで、より難しい任務になったでしょう。
本当にお疲れ様でした。それと、ご参加頂き誠にありがとうございました。
またご縁が繋がりましたら、そのときはよろしくお願いいたします。

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