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シナリオ詳細

<月蝕アグノシア>きのこの森でお茶会を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「キャーッ!」
「助けて、誰か助けてええ!」
 そこかしこで妖精の悲鳴が上がる。
 穏やかな日差しが降り注ぎ、巨大なきのこが群生するとばりの森。そこは今や狩場と化していた。
 小さな体と羽根を懸命に動かし妖精は逃げ惑う。狩人は手足を備えた人間大のきのこの化物――マタンゴは、大きさと数の暴力で獲物を次々と捕まえてゆく。
「ふふ、ふふふ」
 狂乱の狩猟祭を、後方で見守る姿があった。
「妖精ちゃん、頑張ってね〜。追いかけっこは楽しくなきゃダメよ?」
 レースの縁取りの日傘を差したその人物は、ハーモニアの少女に見えた。種族を示す長い耳と、品のいい身なり。しかし『それ』には色が無かった。白と黒の濃淡のみがその身を彩る。
 錬金術により生まれたヒトガタの魔物――アルベドだ。
「ふふ、ふふふ」
 おかしくてしょうがない。そんな笑みをもらして、彼女は虚空から如雨露を召喚した。
 瀟洒な飾りが施された漆黒の如雨露には、なみなみと水が入っている。
「おいで〜、マタンゴちゃんたち〜」
 歌うように呼びかけて、如雨露を傾けた。キラキラした水滴が足元を濡らす。すると地面から小さなきのこが誕生した。それらはにょきにょきと育ち、人間ほどの大きさになり、ついでに手足も生える。一瞬でマタンゴの群れが完成した。
「そことここに、妖精ちゃんが隠れているわ。ちゃんと追いかけてあげましょう?」
 アルベドの号令に、マタンゴは大きな頭を揺らして散開した。指示された場所へと忠実に突進してゆく。
「キャーッ!」
 身を隠しきれなくなった妖精が飛び出した。逃げおおせたのは数メートル、次々と増えるマタンゴにあえなく捕まってしまう。
「隠れてサボっちゃうなんて、とってもつまらないわ〜」
 アルベドは顔をしかめてため息をつく。

 一方的な蹂躙の結果。
 静かになった森で、アルベドは空を見上げた。
「いい天気ね〜。終わったらみんなでお茶会をするのよね。御萩っていう甘いお菓子を食べるの。……?」
 自分の言葉にアルベドは瞬いた。
 みんな?
 お茶会?
 御萩?
 ……何の事だろう。知らない。けれど、とても温かい響きを持っていた。


「急いで妖精郷に向かって欲しいんだ。君たちのことだから状況は把握してると思うけど、簡単にまとめるね?」
 集まった特異運命座標を前に、情報屋のアンジェイ・ノヴァ・ヨン(p3n000138)は説明を始めた。
「妖精郷アルヴィオンが魔種に占拠されて、
 女王も捕まってピンチで、
 妖精の命から作り出された白い怪物(アルベド)が暴れている」
 以上。
 大幅に端折った。

「今回の目的は妖精郷の『とばりの森』にいるアルベドの討伐だ。ちょっとやりにくい敵だけど、お願い」
 目撃情報を総合すると、敵はレスト・リゾート(p3p003959)を元に造られたアルベド。黒い如雨露を使ってマタンゴの群れを作り出し、森に隠れた妖精を捕まえて回っているのだ。
「アルベドには『フェアリーシード』って核があって、それを壊せば完全に停止する。もちろん、素材となった妖精は死ぬけど」
 例え妖精が死のうとも、アルベド・レストを倒せば依頼は成功となる。
「妖精を助ける手段は?」
 あるんでしょ、とイレギュラーズが問えばアンジェイは頷く。
「フェアリーシードを傷つけずに倒せば、妖精を助けられる。隙を見てえぐり出すとか、核を傷つけずに倒すとか」
 言うほど簡単ではないが、試してみる価値はある。
「逃げてきた妖精によると、時々『お茶会』とか『御萩』とか呟いて考え込んでいるそうだ。情報を採取した前後の記憶が、強く残っているんじゃないかな」
 その時は妖精バターカップの護衛依頼だった。皆でお茶会をしよう、御萩を食べよう、と会話した思い出が残っているのだろう。
 キーワードを絡めてアルベド・レストに話しかけたり、聞こえるように独り言を言えば動揺を誘えるかもしれない。
「急いで御萩を用意したから、一応持っていって。美味しい御萩に心当たりがあったり、自分で作れるんだったら、そっちの方が効果的かもしれない。手強い相手だけど、君たちならきっと大丈夫。いってらっしゃい」
 アンジェイは手を振って、イレギュラーズを送り出した。

GMコメント

●成功条件
 アルベドの討伐

●敵の情報
・アルベド・レスト
 レスト・リゾート(p3p003959)さんの情報を元に造られた魔物です。ご本人によく似ていますが同じではありません。フェアリーシードは胸元に埋め込まれています。
 状態異常が効かず、高い体力を持っています。
 黒い如雨露できのこに水をあげて瞬時にマタンゴを生成したり、強化魔法でマタンゴをサポートします。

・マタンゴ×8〜
 人間ほどの大きさで、手足が生えたきのこ。
 命中に優れています。体力や攻撃力は低めですが、まれにアルベドの強化魔法を受けた強い個体がいます。
 体当たりで吹き飛ばし攻撃や、胞子を飛ばして敵を麻痺させます。
 無限に増殖します。アルベドを倒すと消滅します。

●地形
・とばりの森
 巨大なキノコが群生する森です。
 広さは十分、地面も平らです。

●その他
 イレギュラーズは情報屋が準備した『普通の御萩』を携行しています。
 美味しい御萩をご存知だったり、自作するよって場合はそちらをご持参ください。
 携行品を装備する必要はありません。プレイングに記載いただければOKです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


 こんにちは、乃科です。
 イレギュラーズが森に入ってすぐ、マタンゴの群れとアルベド・レストと遭遇します。つまり索敵や地形など考えずに戦闘や心情をたっぷり書いてくださいね。
 前回の依頼は『ラナンキュラスのドレス』を参照ください。(読まなくても大丈夫)

 それでは皆様、よろしくお願いします。

  • <月蝕アグノシア>きのこの森でお茶会を完了
  • GM名乃科
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月17日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

サイズ(p3p000319)
カースド妖精鎌
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
レスト・リゾート(p3p003959)
貯蔵食品の紅茶たいむ
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
深森の棲人
ジェラルド・ジェンキンス・ネフェルタ(p3p007230)
戦場の医師
太井 数子(p3p007907)
不撓の刃
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
ステラビアンカ店長

リプレイ


 気持ちのいい青空。緑の匂い――のかわりに馥郁たるきのこの香り。
 右を見るとパステルブルーにピンクの水玉のきのこ。
 左を見ると赤と緑のストライプきのこ。
 巨大でメルヘンなきのこの合間には、ぼんやり光る不思議な花の姿もある。
 ここは『とばりの森』。普段は妖精が散歩に訪れて、きのこの傘をトランポリンにしたりすべり台にしたり、気ままに遊ぶ平和な場所だった。
 ――今は妖精の悲鳴すら消えて、恐怖とマタンゴに支配されている。

「普通のきのこなら大収穫だが、マタンゴなら倒すしか用はないね」
「ンゴ! ンゴンゴ!」
 森に入るなり出くわしたマタンゴに、『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)は挑発の言葉を投げかける。きのこに手足が生えたシュールな姿のマタンゴ達は、怒りに手足をばたつかせて利一に殺到した。
 集まったところへ『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)がチェインライトニングを放つ。うねり、のたうつ雷撃に焼かれてマタンゴは消し炭になった。
「ンゴー!」
「キノキノキノ!」
 運良く直撃を免れたマタンゴが傘を左右に揺らし、足踏みして怒りを表現する。
 わらわら現れる増援を斬り、蹴り飛ばし……と着実に減らしていると、場違いな声が響いた。
「騒がしいと思ったら、マタンゴちゃんをいじめる悪い子ちゃんがいたのね~」
 片手に日傘、片手に如雨露。おっとりとした上品なモノクロームの少女――アルベド・タイプレストの登場だ。
「もう一人の自分がいるなんて……不思議な気分ね~」
 思わず、『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)は呟いた。同じ顔に同じ服。浮かべる表情もちょっとした仕草も既視感がある。
 アルベドの側もそっくりなイレギュラーズを眺めて、ふふ、と笑った。
「あら? そっくりね~。みんなは、妖精ちゃんを捕まえる邪魔をしに来たんでしょう? まとめて倒してあげるわ~」
「……偽物は偽物だな。ババァとそっくりな顔して酷ぇことしやがる」
『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)は忌々しげにアルベド・レストを睨んだ。本人をよく知る『エージェント・バーテンダー』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)も同意を示す。
「その通りだ。一見変わらないようだが、レスト御姉様は弱い者いじめはしないぞ」
 仲間とよく似た、十代半ばの華奢な少女――見た目のやりにくさこそ満点だが、並ぶと違いが際立った。上辺を真似た動きとしゃべり方。一瞬なら間違える余地はあるが、本質の在り方が真逆だ。
 紺色の羽根をひらりと揺らし、『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)はアルベドを油断なく観察する。
「とうとう出てきたか、イレギュラーズのコピー。まさか生きた妖精を燃料にするとは思わなかったがな……」
 生まれた世界は違うとて、サイズも妖精である。おぞましい錬金術への憤りはひときわ激しい。その産物たるアルベドをいかに倒すか、機会を伺いながら脳内で戦略を組み立てる。
「元になった人物の記憶と外見を借りた、人造の命……か。魂までもが他からの借り物、と」
『戦場の医師』ジェラルド・ジェンキンス・ネフェルタ(p3p007230)はアルベドの成り立ちを反芻した。敵だから倒さねばとか、妖精を助け出さねばだとか。やるべきことはわかっているが、一抹のしこりが胸に残る。
 アルベドは下品に笑って、ジェラルドの顔を下から覗いた。
「おばさん達アルベドを見ていると、いろーんなこと、考えたくなっちゃうかしら~。そうよ、体と命を他人から泥棒して、勝手に作り出されて、命令に従う、そーんな生き物よ~」
 歌うように、動揺を誘う下衆な話をする。
 けれどイレギュラーズ相手には逆効果だ。アルベドが作られた経緯はとっくに知っていて、葛藤が必要な者はもう悩んだ。悩んで心を決めたから、倒すためにここにいる。
 服に隠れたフェアリーシードの場所を見つめ、『不撓の刃』太井 数子(p3p007907)もといミーティアは拳を構える。
「見た目は一緒だけど全くの別物……うん、十分わかったわ。躊躇わずに倒して妖精ちゃんを助ける。まだ行方の分からないバターカップちゃんだって救い出してみせるわよ」
「バターカップ……ちゃん……?」
 アルベドは虚を衝かれたように呟いた。無意識に、如雨露を持つ手で胸元をさする。
「不思議ね。初めて聞く名前なのによく知っている気がするの」
 もしや、とイレギュラーズは思った。以前に縁のあった妖精・バターカップはまだ行方不明だ。捕まってフェアリーシードとなり、そこのアルベドの動力源になっている可能性も――ある。
「悪いけど、その核いただくよ!」
 やりにくい相手に覚悟を決めて、ウィリアムは宣言した。


「さあマタンゴちゃん、どんどんやっちゃって~」
 アルベドは如雨露を掲げる。なみなみと満たされた水が煌めきながら降り注いだ。
 とばりの森はきのこの森。あたりは胞子だらけで、どこに成長を促してもにょきにょきと手下のマタンゴが増える。
「偽物でも、世話になったレストを攻撃するのはな……マタンゴの相手は私が引き受けよう!」
 仲間そっくりの姿をした敵に普段通りのパフォーマンスで戦えるかというと、無理な人もいるわけで。
 適材適所、利一はマタンゴを引きつける役を買って出る。
「ンゴゴー!」
 クイクイっと指で挑発してみせる利一に、胞子を吹いて怒りをあらわにするマタンゴ。
 集団で突撃したところへウィリアムがチェインライトニングを放てば、味方の利一を残してみんな黒焦げになる。
「マタンゴBBQみたいだ」
 などと感想を漏らして二発、三発。マタンゴの無限増殖スピードに負けじと焼き払う。
 利一の挑発に乗らなかったマタンゴはそろりそろり、アルベドの加勢に向かおうとした――が。
「そっち行っちゃめぇでしょ~」
 目ざといレストが束縛のリボンを放つ。つやつやしたサテンのストライプリボンをプレゼントよろしく巻き付けたマタンゴは、電撃を食らってこんがり焼けた。
「キノノノノ!」
「ノッコノッコ!」
 怒り心頭のマタンゴが利一に体当たりする。
「おっと」
 吹き飛ばされるのも計算のうち。後方にいたマタンゴがふかふかクッションとなり、利一のダメージを肩代わりして倒れた。
 ちょうど敵だけが集まる場所が生まれる。
「今が使い所、か」
 攻撃手としてあまり優秀ではないから、と後方で支援の機会を伺っていたジェラルド。仲間は他を攻撃しているし、巻き込む心配もないのであれば、とヴェノムクラウドを放つ。
 有毒ガスの霧に包まれたマタンゴ達は、しおしおとしぼんで元気をなくす。強化個体だろうか、しぶとく元気なマタンゴが利一に向かうが、蹴飛ばされて動かなくなった。
「この調子、油断せず続けよう!」
 無限に増えるマタンゴが、アルベドの加勢にならぬよう。イレギュラーズは抑えに全力を尽くす。

 アランは息を吐く。二酸化炭素と共に思い込みを吐き出す。リミッターを外す。捨てる。限界の先へ。更なるスピードの高みへ。
 地を蹴ってアルベドに迫る。構える余裕など与えない。右手の紅き太陽と、左手の蒼き月輪をぶち込んだ。
「お前に恨みはねぇが…俺の前でババアの真似したのが間違いだったな…!」
 両足にざっくりと刀傷を刻む。
「いったぁい……」
 アルベドは水を撒きつつアランから距離を取る。肉の壁たるマタンゴが成長する――
「相手は一人じゃあないぞ!」
 妖精大の姿をいかして、マタンゴの隙間を縫ったサイズがアルベドに急接近。胸元のフェアリーシードに狙いを定めたが、庇うように日傘を構えたので剣魔双撃に切り替えた。
 格闘と魔術を織り混ぜた攻撃で、日傘とアルベドに小さくとも着実に傷を与える。
「もー、鬱陶しいったら!」
 アルベドは日傘でバシッ! と殴りつけたが、当たるようなサイズではない。機敏にかわしてさらなる追撃を加える。
「そうだ。俺とこいつらと、あっちのマタンゴ焼いてる奴らも全部。お前を倒して妖精を助けるためにいるんだよ!」
 さくさくとマタンゴを斬り捨てたアランが再びアルベドの前に立った。アルベドの胸元と体幹を避けて猛攻をする。
「むー……」
 アルベドは唇をとがらせた。
「キノ!」
「ンゴッゴ!」
 援護のマタンゴがタックルを試みるも。
「邪魔ァ!」
 得物を一閃。わずかな時間稼ぎにはなったが、彼の勢いを止めるには至らない。
 さらに、ぽこちゃかパーティでマタンゴの群れをめっちゃくちゃのぐっちゃぐちゃにしたミーティアもアルベドの相手に加わった。
「私達ね、ふっくら炊いたあんこがたっぷり乗った御萩……たくさん持ってきたのよね~!」
 御萩。
 その単語にアルベドが動揺する。サイズやアランの攻撃を避けそこねて、ざっくりと深い傷を負った。
「御萩って……何なの? おばさんは御萩もお茶会もバターカップちゃんも、ぜーんぜん知らないのよ~。知らないのに……すごく、欲しくなるの」
 成分を採取した時の記憶の欠片がきらきらと、アルベドの心の片隅で輝いている。レスト・リゾートはその先を知っていて、アルベドは知らないまま錬成された、素敵な『何か』を示す単語たち。
「御萩っていうのは、」
 攻防を続けながらミーティアは言う。
「大きな言い方をすると、食べ物よ。お菓子ね」
「そうだ。ふかした餅米を潰して丸め、餡子で包んだ甘い和菓子だ。ローレットには多種多様な旅人(ウォーカー)が集まるから、地域ごとの味もバリエーションに富んでいるな」
 回し蹴りを決めて、モカも説明に加わる。
 餅米も餡子もアルベドは知らない。しかし知識を得るごとに考え込み、比例して戦闘がおろそかになる。
「今日は手に入る最高級の材料で、御萩を作って来たんだ。甘さを変えて三種類用意したから、どれかが口に合うだろう」
「モカさんはStella Biancaの店長さんで、美味しいお菓子を作るプロよ! 御萩の味見はまだしてないけど、絶対美味しいに決まってるわよ」
「御萩……をみんなで、食べる……」
「それに情報屋が持たせた御萩と、そっちにいるジェラルドが作った御萩もある。よりどりみどりだ」
「食べたいでしょう? お茶にしない? お茶もね――」
「……め、よ」
 アルベドは眉間に皺を寄せ、自分に言い聞かせるように叫んだ。
「おばさんはアルベド、タータリクス様のために働くのよ。敵と仲良くお茶会なんて出来ないわぁ……!」
 如雨露の水をぶちまけるように。アルベドはがむしゃらにマタンゴを増やし、強化をかけて、その後ろに隠れた。


 攻防はじわじわと長引く。
 強化個体が多ければ競り負けていたが、動揺したアルベドはマタンゴへの支援がおろそかになっている。作り出したばかりのマタンゴの壁をぶち破り、アルベドを攻撃する場面も多かった。
 マタンゴの数だけは無限だが、他は有限なのだ。
 少しずつ体力を削られたアルベドは、ダメージが見て分かるボロボロ具合だった。
 レストとお揃いの上品なワンピースコーデもあちこち汚れて破れて、体の動きもぎこちない。

「あのね、白い子ちゃん。お茶会の事が気になるなら……やってみない?」
 攻撃の合間に、レストはアルベドを誘う。
 大事な戦いで倒すべき相手、そんなのはわかっているけど。勝手に作られて曖昧な記憶をずっと引きずっている姿を見ていると、少しだけ満足させてあげたい気持ちになるのだ。
「め、っていったらめー、よ。仲良くお茶会なんてしたら……イレギュラーズなんて全部全部、倒さなきゃいけないのよ~」
 口調とは裏腹に苦しそうな顔のアルベド。
 少しだけ援護の手が空いたジェラルドも、心理攻撃二割のお誘いの気持ち八割で声をかける。
「お茶の渋みに負けない、甘みの強い美味しいやつを作って来たんだ。さぁレディ、鬼ごっこはその辺にしてお茶にしませんか?」
「……めー」
「ノコノッコ!」
「ンンンンゴッ!」
 苦しげなアルベドに変わり、マタンゴが元気に否定して胞子を撒いたり体当たりをしたりと抵抗を示す。
 命令で動く単純な生命体には、葛藤する心がわからない。受けた指示をこなすのみだ。
「アルベドは悩むのか」
 サイズは本体である大鎌を振るった。戦闘の中で怪我を負っていたが、妖精を救いたい――いや、『妖精を救う』という強い意志が痛みを遠ざけ、身体能力を極限まで高めていた。
 振り下ろされる刃。庇った腕をすっぱりと飛ばし、アルベドに深刻なダメージを与える。
 間髪入れずにアランが逆の腕を落とす。積み重なったダメージに、さらに重ねた決定打。
 腕もろとも如雨露が飛んだ。弧を描く水が最後のマタンゴを生み出す。
「ああ……」
 嘆息、アルベドは如雨露を追ってイレギュラーズに背を向ける。
 モカは長い足を伸ばしてすねを払う。両腕を失ってバランスの狂ったアルベドは、簡単に転んだ。
なおも進もうとする姿に少しばかり哀れみを覚えるが。ミーティアは脚を狙って動きを止める。


 腕を失い、マタンゴを生成する術を奪われたアルベド。もう歩くのすらおぼつかない。
 勝敗はもう明らかだった。
 強化個体に少し手間取りつつもマタンゴを一掃して、イレギュラーズはアルベド・タイプレストを囲む。
 ウィリアムは荷物から御萩を出して、アルベドに差し出した。
「お茶会、するか? 御萩を食べてみたいんだよな? ちなみに場所や季節によってはぼた餅って言い方もする。ローレットに来て食べ比べてみろよ――とは言えないが、ここにも五種類あるんだ」
 アルベドは首を振る。
「お茶会なんて、敵と仲良くなんてめー、だけど、あのね……やっぱり、一口ね、ちょうだい?」
 複雑な顔で目を輝かせ。あーん、と口を開ける。ウィリアムはその通りにした。
 口に広がるもちもち感と甘み、餡子のざらりとした食感。ずっと引っかかっていた単語が、じわりと溶けて心を温かくしてゆく。
「白い子ちゃん、お茶もどうぞ~」
 一から淹れるほどの時間は残されていない。レストは紅茶の入ったのポットを取り出した。腕が無い子の口元にカップを添えて、手伝いをする。
 甘い和菓子と美味しい飲み物、そして思いやりの心が体にしみる。アルベドには、敵に施しをねだるなんてタータリクスへの裏切りに思えた。思えたけれど、嬉しくてたまらなかった。
「……もう、いいな?」
 やりとりが一段落したので、サイズは全員に告げる。アルベドに残された時間はわずか。それはフェアリーシードも同じこと。
 レストはあと一つね、と待ったをかけた。
「教えてくれるかしら。白い子ちゃん、捕まえた妖精ちゃんはどうしたの?」
「タータリクス様の下へ送ったわ~。たくさん使うのよ」
 何に、とまでわざわざ言わず、アルベドは目と口を閉じた。
 サイズはその胸に手を添え、フェアリーシードを掴み――一気に抜いた。


 助け出された妖精はひどく衰弱していた。
「妖精ちゃん! 起きて! 助けに来たのよ!」
 ミーティアの呼びかけにふるり、と震え弱々しく目を開ける。
「本当にバターカップが核だったんだね」
「あらあら、元気でよかったわ~」
 知己の二人が安堵の声をかける。
「ひ、ひどいめに……あったのよう……」
 ふにゃふにゃで半泣きの妖精は、しかしイレギュラーズの負傷具合に飛び上がる。
「怪我だらけえええ! 痛いわー! 見てるとあたしも痛いー!」
 いきなり大声を出して動いたせいでまたへにょっと倒れる。ミーティアが両手でキャッチした。
「助けられてよかったわ、おかえりバターカップちゃん」
「ただいまよ、ローレット・すっごくつよい・イレギュラーズさん!」
 元気な声に続いて腹の虫も鳴いた。顔を赤くしたバターカップいわく、エネルギーをぎゅんぎゅん吸われてお腹がぺっこぺこなのよう! とのこと。
「俺たちは、後は帰るだけだが。ここに山ほど御萩があって、バターカップは腹ぺこだ」
 ジェラルドはお手製の御萩と、相性抜群の緑茶をスッと取り出す。
 ごくり。腹ぺこ妖精が生唾を飲み込む音が響いた。
「また、お茶会どうかしら~?」
「沢山持ってきた御萩、好きなだけ食べて頂戴!」
 レストとミーティアの誘いに、バターカップは諸手を挙げて賛成した。
 地面に布を敷いて、皆で丸く座って。
 モカは使い捨てのコンロと野外用紅茶満喫セットでてきぱきとお茶の準備をする。魔法のような手さばきに口を開けて見入るバターカップ。
「こう見えても本職なのでね、お任せください」
 なんてお喋りする間に温かい一杯の出来上がり。
 依頼を終えて仲間と食べる御萩は、上品な甘さが体にしみた。

成否

成功

MVP

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者

状態異常

なし

あとがき

皆様の妖精を助けたい強い意志とお萩作戦で、依頼は無事成功しました。
ご参加ありがとうございました。

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