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シナリオ詳細

<月蝕アグノシア>色無くした瑠璃唐草

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 逃げなくちゃ。
 逃げなくちゃ。

 どれだけ足が疲れていても。
 どれだけ息が上がっていても。
 進まなければ、走らなければ、捕まってしまう。捕まって材料にされた『あの子』のように。

「ごめ、なさい……!」
 肩で息をしながら、足をもつれさせながら小人は謝罪の言葉を口にする。青い花束をくれた友人へ、助けに行くこともできない我らが女王へ。
 小人は、妖精は。外の世界からやってきた魔種やモンスターたちに対して、非力でしかなかった。対抗しようとすれば跳ね飛ばされ、踏み潰され。そしてあの白いモノの動力源にと埋め込まれる。
 花束をくれた友人も掴まって、小人を追いかけてくる白いモノ──アルベドの動力源にされてしまった。本当であれば逆の立場だったはずなのに──。
「うぎゃっ」
 でこぼことした道に足が引っかかる。疲労でロクに上がってもいなかったのだ、当然と言えば当然であろう。転がった小人へアルベドが手を伸ばして掴み上げるが、ぐったりとした小人はもはや抵抗するほどの気力も残されていなかった。
(ごめんなさい)
 言葉にするほどの力もない小人は、胸の内で再び謝罪する。庇ってくれたのに逃げ切れなかったことを友人へ。そして制止の言葉をかけてくれたにも関わらず飛び出したことを──ローレットの者へと。



「皆さん、誰でもいいんです、妖精郷へ行ってくれる方はいませんか!」
 ブラウ(p3n000090)の言葉がローレットに響く。見れば人型になった彼が大きく手を振り、自身の存在を主張していた。その表情は実に居心地悪そうであったが──。
「ひよこ姿だとたまに見失われるんですよ。そんな時間も今は惜しいんです!」
 急ぎなのだと言うブラウは羊皮紙をばさりと広げる。テーブルへ敷かれたそれに視線を向けると、ブラウは事のあらましを説明し始めた。
 始まりは少し前に遡る。
 妖精伝承(フェアリーテイル)の残る深緑では、今に至るまで各地で妖精との交流がされていた。しかしその際に妖精が潜り抜ける『おとぎ話の門(アーカンシェル)』を狙う魔物が現れたことにより、深緑の迷宮森林警備隊からローレットへ事件解決を依頼されるようになる。
 この事件は頻発し、その裏にはブルーベルなる魔種とタータリクスなるこれまた魔種が暗躍していることが発覚している。
「彼らがアーカンシェルをこじ開けて妖精郷へ向かい、ローレットは魔種討伐の為その後を追いかけていた……ここまでは大丈夫でしょうか」
 ブラウが見渡すと、イレギュラーズたちが頷く。その中には事件解決に関わり、またヘイムダリオンの踏破に尽力した者もいるだろう。
「現在、皆さんは自由に妖精郷と深緑を行き来できるようになっています。アーカンシェルも機能が回復したみたいで、向こうの妖精たちが逃げ出してきている状況です」
 深緑へと飛び出してきた妖精たちの嘆きで、妖精郷がどのような状況にあるのかは大まかだが把握できる。本来であればこちらに留まっていた妖精も向かうべきではないのだ──が。
「小人が1人、戻ってしまったんです。向こうに友人がいるんだ! って。
 あちらではアルベドという白い怪物の存在が確認されていますし、行かない方がいいとは言ったんですが、動きが早くて」
 捕まえる隙もなく走り出してしまったのだとブラウは苦々しい顔で告げた。
 アルベドは誰かの姿を模したものであり、体内のどこかには核として妖精そのものが押し込められているという情報が入ってきている。上手くすれば救出できるのかもしれないが、そのために手加減して失敗するくらいなら妖精諸共倒してしまった方が良いだろう。
 本来ならば妖精を助けたいと思うのは必然だ。けれどその難しさを思えばこそ──。
「もし見つかったらで構いません。ひとまずこちらへ逃がしてもらっていいでしょうか」
 ──そうなる前にと、頼まずにはいられないのである。



 アルベドは彷徨っていた。自らへの命令を果たすべく、その標的となる何かを探していた。

 妖精を見つけたら捕まえ、連れて行く事。
 イレギュラーズを見つけたら排除する事。

 与えられた命令はどちらも到底頷けるようなものではなくて、けれどアルベドに選択肢は与えられなかった。
 ──怖い。
 それは核(フェアリーシード)となった妖精の想いか。それともアルベドの自我か。
 死か。戦いか。それとも与え、与えられるだろう痛みと傷か──何が怖いのかもわからぬまま、されど恐怖と怯えをアルベドは感じていた。
 俯いた視界には白い髪が揺れ、合わせて月明りに照らされた自身の影が揺れる。アルベドは足音を耳にしてぴたりとその動きを止めた。
 潜められながらも、決して小さきモノではない足音。それを出せるのはこの妖精郷において魔種か、アルベドか、あるいは──敵であるイレギュラーズということになる。
 イレギュラーズであれば、排除しなくては。
「……倒す」
 呟いたアルベド(メルナ)は剣を抜く。腰のポーチから覗く青い花を揺らし、その瞳に怯えを滲ませながらも──与えられた命令を果たす為に。

GMコメント

●成功条件
 アルペド(メルナ)を倒す

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明な点もあるでしょう。

●エネミー
・アルベド
 メルナ(p3p002292)さんの姿を模した白き怪物です。どこかに妖精が核(フェアリーシード)として埋め込まれています。核を破壊すればアルベドは機能停止しますが、核となった妖精も死亡します。
 簡単な会話などは行えるようですが、そこまで高度ではありません。埋め込まれた妖精の性格もあるのか、その瞳に怯えの色を纏っています。
 戦法としては回避、防御を得意とした近接ファイター。反応はそこそこですが、それでも全体的なステータスとしてはPC単体より強く作られています。

Moon light:ムーン・ライト。刹那の月明りは此岸と彼岸を繋ぐでしょう。【瞬付】【必殺】
Halo:ヘイロー。煌めく光を宿らせた剣の一閃は、まるで月光環のように軌跡を残します。【流血】
Crescent moon:クレセント・ムーン。三日月型の斬撃を飛ばします。

●フィールド
 妖精郷の森です。夜です。月明かりが差しており、視界は良好です。

●ご挨拶
 愁と申します。
 メルナさんの写し鏡と遭遇戦です。怯える彼女の頭を割り、胸を裂き、腹を抉って──どこかに埋め込まれた妖精を探すのも構いませんが、きっとまとめて倒した方が色々と楽でしょう。
 OP中でブラウが頼んだ小人はこのシナリオにおいて見つかりません。が、PL情報に過ぎないため探すプレイングをかけても構いません。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • <月蝕アグノシア>色無くした瑠璃唐草完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月17日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
ヴァン・ローマン(p3p004968)
常闇を歩く
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
クリソプレーズ(p3p007897)
虹の橋を歩む者
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
流星の狩人

リプレイ


 時は少しばかり遡る。
「俺たちのニセモンまで出てきたか」
 進む『暴風』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)の顔は険しい。今回こそ知人たるイレギュラーズではなかったが、味方の姿をした敵を手にかけると思えば後味悪く、胸糞悪く。
「しかもその原動力は妖精……なんとも穏やかじゃないな。難しいかもしれないが、飛び出していった妖精だけじゃなくその妖精も助けたいところだ」
 杠・修也(p3p000378)の言葉に『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は頷く。ローレットから一同を送り出したブラウは大層急ぎという様子だった。アルベドの原動力にされてしまうと考えれば然もありなん、と言ったところか。
 不意にイレギュラーズたちは敵意へ触れた。刺すような視線。前方に小さく見えた、白い影。
「アルベド……あの、姿は、」
 月明かりに照らされたアルベドの姿に、ユゥリアリアは驚かざるを得なかった。それほどにアルベドは『青の十六夜』メルナ(p3p002292)と酷似して──いや、瓜二つと言って差し支えなかった。けれどそこに常のような明るさはなく、怯えや恐れが表情に滲み出ている。
 しかし、それでも。メルナを模したアルベドはやはりそっくりな剣を握り、イレギュラーズの眼前に立ちはだかっていた。
「……倒さねば探すことも出来ないみたいですわねー」
 戦旗を握るユゥリアリア。『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)がすぐさま、どこへと言うことはなく声を上げる。
「近くに誰か居たら、避難してください。あのアルベドの中にいる妖精の名前を知っていれば、教えて下さると助かります」
 心配する妖精も、怯える妖精もいるだろう。けれど近くで隠れていては巻き込まれかねない。イレギュラーズたちがここを引き受けるとあれば妖精たちもいくらか安心して背を向ける筈だ。そして妖精の名を知ることができるのなら──幾ばくか、妖精を救出できる可能性も上がるかもしれない。
 立ちはだかるアルベドの表情を見た『弓使い(ビギナー)』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)は小さく眉を寄せる。
(きっと悪いやつじゃないんだろうな)
 敵の手先ではあるが、本当にこちらを排除したいと思う者があのような表情をするだろうか。少なくともミヅハはそう思わない。
 けれどどのような心情だったとしても、敵である事実は変わらない。イレギュラーズに探したいモノが、助けたいモノがいる限りは倒す他ないのだ。
「……少なくとも、核は見えませんね」
「ええ。頭か、胸か……」
 『常闇を歩く』ヴァン・ローマン(p3p004968)の言葉に寛治が考える。命と同等の急所をおいそれと出されていても傷つけそうで怖いが、隠されていてもそれはそれで見つけられない。さあ、どのように探すべきか。
(あの、ポーチから見えている花……もしかしたら)
 ヴァンがアルベドの身につけたポーチから覗く青い花へ視線を向ける。あれは色がある……というより、アルベドから出来たものではないのだろう。その辺りに咲いていたか、或いは──フェアリーシードとなった妖精の持ち物か。
 それとの意思疎通を試みたヴァンは、しかし向かってきたアルベドに中断せざるを得ない。気配を消す暇もなく、鋭い一閃に対して体を屈める。ぶん、と空振りした剣の先でルウはにやりと笑った。
「さあ来いよ! この俺が相手になるぜ!」
 威勢の良い声にアルベドはびくりと肩を震わせる。その瞳に浮かぶ怯えの色は、ミヅハの放つ矢によってますます濃くなっていく。
(……どうして)
 瓜二つの偽物に、メルナは思わずにいられない。
(何に、怯えているの)
 ルウだけではない。何かに偽物は怯えている。或いは怖がっている。
 戦う事自体か。
 これから襲いくるだろう痛みか。
 それとも、自身が誰かを傷つける事か。
「……駄目、だよ」
 胸の内から膨れ上がったものが、小さくポロリと零れ落ちる。青の瞳が大きく揺らいだ。
 兄の代わりに召喚されたのだ。兄が──兄の代わりたるメルナが、たとえ偽物だってそんな姿を見せてはならない。
「メルナさま、お気を鎮めて」
 異変を察したユゥリアリアが声をかけ、メルナは意識的に呼吸をする。ゆっくり吸って、ゆっくり吐いて。そうでなければ胸の内の何もかもがすぐさま荒れ狂って出てしまいそうだった。
 ユゥリアリアは戦旗を翻し、舞い踊る。味方を鼓舞しながらもその瞳はまっすぐアルベドを見つめ、そこへ『虹の橋を歩む者』クリソプレーズ(p3p007897)がとん、と踊りの1歩を踏みしめた。
 メルナを象った悲しき疑似生物。望まれないまま生まれてしまった偽物。そんなものが生み出されてしまったことも、そして妖精が核に押し込められていることもクリソプレーズにとっては許しがたい。漆黒の大剣を握る手に力がこもった。
「──絶対に、救ってみせますの!」
 1歩、1歩に想いを込めるクリソプレーズ。逃げ惑うアルベドの腕を、的確な魔弾が撃ち抜く。悲鳴をあげるアルベドから銃口を下すことなく、寛治は発砲で僅かにズレた眼鏡の位置を正した。
「私、当てるだけなら得意なんですよ」
 腕を押さえて呻くアルベド。そこへ修也の魔力撃が追い打ちをかけ、彼女は必死に白い剣でいなす。急所となる中心縦一直線に合わせて庇う剣が、フェアリーシードは少なくとも四肢にない事をイレギュラーズへ知らしめていた。
 そこへ襲いくるのはメルナが放った正義の蒼炎。殺さないように、妖精を救出できるように。剣による防御すらも飲み込んだ炎はアルベドの表皮を焼いた。
(お兄ちゃんみたいに考えないと)
 弱き者を助け、誰かのために傷つける人。陽だまりのような温かい人。あの人ならどう動くか、それを模して動かなきゃ。
 ──嗚呼、なのに、どうして?
 ぎりりと食いしばった歯が鳴る。メルナの眉間には深い皺が刻まれていた。
 どうしようもないほどにイライラしていた。仲間の声を、言葉を聞きながらも止められないほどの苛立ちが、急速にメルナの中で膨らんでいた。
 今、この時。メルナは『陽の影』ではなく『月』だった。

 8人のイレギュラーズによる猛攻を躱し、受け流し。その瞳に強い恐怖を滲ませながら、なおもアルベドは戦い続ける。ヴァンの加速していく攻撃がアルベドの足をもつれさせ、追い詰めていく。
「なぜ、それほどの恐怖を抱えながら、あなたは戦場に出てきているのですか?」
 寛治の問いかけにアルベドは苦しそうな表情を浮かべると、ただ何も言わず首を振った。足を止めたクリソプレーズが傷つけたいわけではないのだと声を上げる。
「妖精さん、貴方を助けて逃げ出した子も探したいんですの!」
「悪いけれど、お前を助けてはやれないんだ。だからその代わりに止めてやる!」
 魔種の命令通りに動くお人形。自ら止まることはできないのだろうとミヅハはアルベドの足を狙う。勢いよく放たれた矢はアルベドのマントを裂いた。
(倒すだけなら、きっと問題はなくやれる相手なのでしょうね)
 ヴァンはアルベドへ肉薄して攻めながら、只々怯える白の少女を観察する。倒すだけなら容易かもしれないが、そこに秘められたフェアリーシードをすくうとなれば話は別。現にイレギュラーズたちはどこならば安心して壊せるか、攻めあぐねていた。
「ねえ、怖がらないで? 痛くしませんから」
 ユゥリアリアの冷たき一撃は嘘偽りなく、痛みを与えず二の腕へ傷を与える。温もりが戻ってやっとそこに傷ができたのだと知り、アルベドは顔を強張らせた。その至近距離から術によって魔力を纏わせた拳を振りかざす修也は、鋭い聴力をもってしても何も聞こえない事に眉を寄せる。
(やはり、そう都合よくいかないか)
 場所を変えれば聞こえやしないだろうか──そう思った修也は心の内で否定する。ここまで接近して聞こえぬのならば、恐らくどこから聞いても聞こえない。何より敵、疑似生命とは言え女性体に近づいて音を聞くという行為は、見ようによって通報案件なのだった。
「メルナ!」
 ルウが後方へと叫べば、応えるようにメルナがルウとアルベドの間へ滑り込む。蒼の視線とモノクロのそれが交錯した。
「次は私の番……!」
 苛烈に煌めく蒼は、しかし保てぬように揺らぐ。さながら、水溜まりで揺れる青い月のように。モノクロの瞳も同じように恐怖に揺らいでいるのを見て、メルナは殊更強く剣を握った。
(同じように? 違う、お兄ちゃんなら……!)
 真っすぐな迷いのない剣筋を見せるだろう。仲間たちと同じように妖精へ呼びかけるだろう。
 頭では理解していると言うのに、内なる想いが膨らんで言葉が出てこない。絞り出すように出てきたそれは、到底呼びかけとは言えなかった。
「……貴女は、何に怯えているの」
 重く問いかけるメルナにアルベドは睫毛を震わせる。その唇がゆっくりと開いて。
「全部。何もかもが、怖い」
 瞬間、月明りが目の前を煌めく。次いで目の前が真っ赤になったような錯覚。メルナは茫然として──不意に歯を食いしばった。その胸を嫉妬が焼き焦がす。それは修也の魔力によって傷が癒されたとて消えるようなものではない。
(本当は”私”だって、本当は……ッ!)
 どこかで置いて忘れていかれた自分が手を伸ばしているような気がした。けれどメルナはそれを振り払い、アルベドを睨みつける。こんな偽物、壊してしまいたい。フェアリーシードさえなければ、自らの理性が押しとどめなければ、見るに堪えない偽物なんて!
「恐怖。当然の感情ですよ。ならばその感情に従って、危険の無い妖精郷へ帰りたいとは思いませんか?」
「勇気を出すのは怖いでしょう。苦しいでしょう。けれどもあと1歩だけ……!」
 寛治の言葉が、クリソプレーズの言葉が内なる妖精の自我を一瞬でも呼び起こそうとかけられる。そしてヴァンが、修也が、イレギュラーズたちが妖精を見つけ出し助けようとする視線をアルベドはこれ以上なく感じ取っていた。
 自らより内なる命に重きがおかれていた。自らの存在が風に吹き飛ぶほど軽いものであっても、フェアリーシードたる妖精はそうでなかった。
 くしゃりと顔を歪めたメルナ(アルベド)は、一瞬だけ首に手を当てて。クリソプレーズの言う1歩を踏み出すように口を開く。
「──助けて」

 それが妖精の自我であったのか、アルベドの自我であったのかはわからないけれど。

「ええ。必ず安全な所へお連れします」
 寛治のステッキ傘がメルナの胴体へ向けられる。追いかけるようにヴァンの不意打ちたる攻撃とミヅハの放った矢がアルベドの余裕を削いでいく。
「さあ、もう少しですわー」
 アルベドの体は魔種の命令に逆らえなくとも、ユゥリアリアの号令がイレギュラーズの士気を押し上げる。核の場所が分かったのならば手加減する必要も無い。救出に全力を尽くすまで!
「もう少し耐えてくださいまし、妖精さん!」
 クリソプレーズはアルベドの内に閉じ込められた妖精へ声をかけながら華麗に大剣を振るう。直後、月光環のような軌跡がイレギュラーズを襲った。
「ッ……まだまだァ!」
 ルウはぎりぎりで耐えきると、アルベドの元まで突進して力いっぱいぶん殴る。足をもつれさせたアルベドは大剣による攻撃をモロに受け、地を転がった。
 どさり、と落ちたのはアルベドの腕。真っ白なそれは原型をとどめず崩れていく。苛立ちのままに振るったメルナの斬撃は蒼い炎を纏い、その傷口すらも焼いた。
 その、死角から。
「──痛いかもしれませんが我慢してください」
 ヴァンの剣が閃く。アルベドがどのような表情をしようとも、助けるために躊躇ってはならない。
 嗚呼、と吐息が漏れた。アルベドの傷口にユゥリアリアは手を突っ込み、こつりと硬い感触を指先に捉える。白い何かが絡みついてくるようにそれを引きはがそうとするけれど、ユゥリアリアは力に任せてそれをアルベドから引き抜いた。



 グズグズに白いモノが崩れていく。命たるフェアリーシードを失ったアルベドは、その形を保つこともできやしない。くしゃりと歪んだメルナの顔も、白に溶けて消えてしまった。
「これがフェアリーシードですわねー」
 ユゥリアリアが手にしたそれは薄青の球体。ぱっと光が弾け、球体に閉じ込められていた妖精が掌でぐったりと伸びている。彼女も混沌へ逃げてきたフロックスや助け出されたスノー・ホワイトのように、早急な手当てが必要そうだ。
「戻っちまった小人は……」
「……少なくとも、この辺りにはいないようです」
 辺りを見回すルウに、ヴァンは小さく頭を振る。辺りの植物たちは小さき命を見かけていないそうだ。アルベドの気配に遠くへ行ってしまったのかもしれない。
「でも、小人なら移動距離はそんなに遠くまでは行けないよな?」
 けれどミヅハはそんなわけないと頭を振る。いるならこの辺りだろうと。もっと探せば見つかると。その必死な視線は寛治へと向く。
「な、なあ新田さん……アンタなら分かるだろ、ま、まだ近くに居るって! もっと探せば──」
 ミヅハの言葉が切れたのは、寛治の表情に気づいてしまったから。そこに込められた意味を察してしまったから。
 保護した命を失わせるわけにいかず。飛び出した妖精が見つからない以上、無闇に探して掌の命を失うわけにはいかないのだ。
 踵を返したメルナは、しかし一旦立ち止まって空を仰ぐ。濃紺の空に浮かんだ月は、今ばかりはメルナを刺すようで。
(お兄ちゃんみたいに、ならないと……いけなかったのに……)
 なれなかった。ならない偽物(アルベド)に、自らの心にかき乱されて。

 ──羨ましいと、思ってしまった。

成否

成功

MVP

クリソプレーズ(p3p007897)
虹の橋を歩む者

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 無事フェアリーシードとなった妖精は保護されましたが、飛び出していった小人は見つからなかった模様です。

 太陽たらんとする貴女へ、称号をお贈りしています。ご確認下さい。

 またのご縁をお待ちしております。

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