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シナリオ詳細

唇に『秘』の薬
唇に『秘』の薬

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●慈善事業
 孤児院を燃やしてきて欲しい。端的に依頼内容を説明すると、そんなカンジだった。
「依頼主はミザール卿っていう幻想貴族でね。君達の……そうだね、率直に言うと『ガラの悪い』子なら1人くらい耳にしたことはあるんじゃないか?」
 『博愛声義』垂水 公直(p3n000021)は、聞く者が聞けば眉をひそめるようなことを平気で言ってのける。そういう男なのだ、こいつは。
 だが、とイレギュラーの1人は思い直すだろう、か。その貴族の名は主に裏社会で稀に聞く。なんでも『野菜の栽培』に精を出す男なのだとか。なぜ裏社会で流れるかは想像に任せよう。
「彼の『農園』が収穫直前に焼き討ちに遭った。管理棟に詰めてた職員も皆殺しさ。……酷いモンだよ」
 見るかい? と差し出された写真は、確かに耐性がなければきつかろう。縛られた腕や足、あらぬ方向に曲げられたそれらや、断ち切られた肉片、血が文字を刻んでいると気付ける者はよほどそちら方面に染まっていると言っていいだろう。
 幻想文字で『悪徳に裁きを』、と写真をなぞって読み上げた公直は、口の端を釣り上げた。
「下手人がその孤児院の子供達だというのが、状況証拠から明らかだ。それに、正確にはこの依頼はミザール卿単独ではなく、幻想の下級貴族の連名でね」
 要は警察機構を頼れない、ないしは『痛くもない腹を探らせない』という選択肢を選ぶ政治力のない連中だ。だが、新興組織のローレットにとって見れば十分に上客といえる。
「孤児院内の子供達の殺害はオプションだ。院長は絶対に首を持ち帰ってもらいたい。だがねえ、皆。考えてみてほしいんだけど」
 公直は言葉を切って資料を追加する。『練達』から調達されたであろう薬品の検査結果。切られた腕、曲げられた足、損壊された肉体から出たひとつの反応。
「生活反応、って知ってるかい? これら全部、生きたまま。子供が大人を、弄ったんだよ。その孤児院も、同じ穴の狢に見えないかい?」
 挑戦的な問いには、自明であってこそ。意地の悪い話運びに、気分を害さないイレギュラーがいれば、アウトローを名乗るに十分な資質である。

●孤児院にて
 おはなしをしましょう。
 院長先生の教えてくれる『ルール』通りに話を聞いて、行儀よく『話を聞き、受け止め、尊重』しましょう。
 苦い薬も美味しい食事もキチンと食べて、『礼拝』と『お参り』をきちんとこなして。
 週に一度だけお勤めを果たしましょう。積み木遊びを始めましょう。
 火遊びは年長になってから。今日も元気に遊びましょう。

GMコメント

 男たるもの一度は世界最強を目指すくらいに、一度は孤児院を焼きたいと思う三白累です。

●達成条件
・孤児院の焼き討ちに成功する
・院長を殺害し、貴族に首を差し出すこと(偽装不可)

●情報確度
 Bです。
 孤児の総数や実力の程度がやや不明瞭のため、見通しが甘ければ過剰なしっぺ返しを受ける可能性をご考慮ください。
 院長の能力に関してはA相当の情報確度が約束されています。

●院長
 クリム・フォン・ゼベックという名の初老の男性。細身のため力は弱いですが、老練の攻撃精度は侮れません。
 鞭と銃を主武器とし、オールレンジで戦える実力を持ちます。銃は通常レンジ3、実際のところ吐き出されるのは弾丸ではなく術式です。
・暴れ鞭(物近単・弱点・出血)
・蛇舞い(物中範・無・致命)
・シングルショット(神超遠単・呪い)
・タップショット(神超遠ラ・連)
・『シークレット』(自付・不吉・CT増加中・精神系BS無効):薬品投与です。

●孤児×?
 ミザール卿の農園を襲った面子の混じった孤児集団。孤児院焼き討ちの初動により増減しますが、最低でもイレギュラーの総数と同数程度はいるでしょう。
 武器は素手もしくはナイフ、戦闘開始後にターン進行に応じて追加。『シークレット』付与(投与)済みの状態で現れます。
 ナイフ持ちの最大射程はレンジ2ですが、小さいため狙いにくく、少しだけ素早いです。

●孤児院
 焼き討ちするにあたって火気や油などは用意されます。所要時間や成否のほどにより孤児の数は増減しますが、行動開始直後より院長との接敵可能性は高いものと見て結構です。
 当然、火の近くで戦えばダメージ等も入りますのでご注意ください。

●注意事項
 この依頼は悪属性依頼です。成功時、『幻想』における名声が減少しますのでご注意ください。

 皆さんの決意が孤児院を燃やすと信じて――!
 ご参加、お待ちしております。

  • 唇に『秘』の薬Lv:3以上完了
  • GM名三白累
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年04月21日 20時45分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鏡・胡蝶(p3p000010)
夢幻泡影
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
蒼の楔
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん
美音部 絵里(p3p004291)
たーのしー
シラス(p3p004421)
ラド・バウD級闘士
ルア=フォス=ニア(p3p004868)
Hi-ord Wavered

リプレイ

●夜討ち朝駆け悪の華
 世界は夜の帳に沈み、健やかな発達を経た少年少女は眠りに就いた。
 クリム・フォン・ゼベックの幸福は今この時にこそあるのではないか……彼はそう信じて疑わない。つつがなく終えた一日、孤児たちの幸せな表情、口々に漏れる祈りの言葉。
 そして何より、日々、世界から排除される悪徳の多さといったら!
 彼は善意で孤児を導いている。孤児達にとって一番幸せなこととは、未来において彼らの行く末を阻む邪悪を今のうちに摘み取っておくことだ。
 ――ゼベックは本気でそう考えている。
 だからこそだろうか。彼は、他人の悪意に敏感である。善意をもって世界に接し続けた反動は、触れることの少ない悪意を異物として捉える能力を彼に与えた。
 ゆえに、老齢にさしかかった今でも悪意にふれると身悶えしてしまう。ああ、浅ましき欲に裏打ちされた人々の汚い有様といったら!
 そんなものを子供達に見せるわけにはいかない。
 だからこれは、彼の手で。
 誰1人として起きてはならぬ。この夜を越えるのは、自分の『善意』でなければならぬ。

「詳しい事情は良く知らぬが。これは、所謂一つの『お前はやり過ぎた』ってヤツじゃな」
 ルア=フォス=ニア(p3p004868)は遠くに見える孤児院を視界に収めると、困ったものだとばかりに首を振る。今彼女がいる位置からは、孤児院の面影が見えるのみ。詳細な構造を見て取るには、『今の彼女では』直接現地で見聞するしかないだろう。
 しかし、と彼女は思う。随分と大胆なことをしでかしたものだ。しっぺ返しにしては痛すぎる気もするが、こればかりは自業自得ということだろう。――お互いに。
「貴族の領地が襲われたって噂は聞いたことがあるよ。ご愁傷様、ってトコロだね」
 『pick-pocket』シラス(p3p004421)は多少なり事情を聞き及んだのか、渋面を隠す様子もない。僅かばかり『そのテの道』を知りうるがゆえの表情。
 被害を受けた貴族も貴族なら、善悪の区別もつけられぬうちから悪逆を刷り込んだゼベックもマトモではない。義賊の真似事をするにしては、余りに人を殺しすぎなのだ。
「薬中殺人集団とか世も末って感じねぇ……まぁ、平和なばかりの世界なんてないものよね」
「孤児をあつめて暗殺や戦闘集団に仕立てあげる事があるというのは知っていたけれど、現実として見ると気分が悪いわね」
 『夢幻泡影』鏡・胡蝶(p3p000010)と『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)の両名は、噂話と現実とに差異がない、という事実にこそ不快感を示しているようだった。
 レジーナの『世界』でも、それらしい話はあったのだろう。珍しいというほどでも、ないのかもしれない。それに慣れろというのは酷だし、現実であってほしくはないのも事実。
 胡蝶から見ても明らかに常軌を逸した所業。成人ですら許されぬであろうそれが、よもや子供に施されているなどという、洒落にならぬ事実。
 いずれにせよ、女性から見ても、その愛情の注ぎ方は『歪』の一言で片付けられるだろう。そういう所業だ。
「仮に数の利があったとしても。ただの孤児に、そんな虐殺が可能なのでしょうか」
 『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)の疑問は尽きない。やれ薬だ洗脳だ、という仲間の話を聞いても、貴族からの依頼を吟味しても、彼女にはとてもじゃないが理解できなかった。
 子供というのは無邪気なものだ。だが、無邪気であるというだけで、それだけの所業が可能なのか……?
「可能かどうか、というより。もう一線超えちまってることが問題じゃねえのかなァ」
 対して、『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は極めて冷静に状況を理解していた。卵が先か鶏が先かの議論になるが、孤児達の能力に異常性が混じったのは、殺人という一線を無知のままに飛び越えたことが原因ではないか、と考えたのだ。
 他者を害すること、命を奪うことに躊躇がなくなれば、人は誰だってそうできるし、そうするであろう。
 なぜならば、それが正しいと刷り込まれたからである。
「ふふ、家が焼け落ちるまでに、子山羊をどれだけ平らげられるか……楽しみだね?」
「今回は、『お友達』をたくさん集められそうなのです。ふふーん」
 『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)と『トリッパー』美音部 絵里(p3p004291)の口から漏れたのは何れも、欲求の充足を期待する言葉だった。……グリムペインの言葉が額面どおりであるという理由はどこにもない。おおかた、自らが身を置いた世界の喩え話のようなものだ。
 絵里の言葉は、本人にとってはあるいは真実である、ということが、どうしようもない現実なのだが。

 依頼を受けて実行に移すまでの期限を考えるに、悠長に事前調査を行う暇など存在しなかった――ありきたりといえばありきたりな話である。貴族の性急さに嘆くべきか、刻一刻と被害を拡大するであろう孤児達を数日であれ放置できると踏んだイレギュラーズの愚を責めるべきかは定かではない。
 しかしながら、そのような瑣末事で手札を一枚のがしたところで、彼らが情報を得る手段などいくらでもある。……現に今、孤児院に近づきつつある彼らよりも先に動いているのはレジーナとグリムペインが放ったファミリアーだ。闇に沈んだ孤児院の外観からは、そこが狂気の住まう場所であるとはとてもではないが、考えづらい。
 鼠の使い魔が孤児院へと消えていく。子供の寝息と思われる密やかな息遣い。孤児院全体を包む……どこか甘く、濁った空気。
「随分と簡素な‥‥燃やしてくれと言わんばかりの構造なのだわ。一度火がつけばあっという間に回りそうな」
「燃えやすいところ……どこが、という感じではないねえ。強いて言えばどこも、だけど」
 使い魔を通して状況を把握した2人が、揃って驚きを隠さなかったのも無理はない。
 多少なり恨みを買うことを想定しているのであれば、それに相応しい対策を踏んでいて当然なのだから。
 逆にいうと。ゼベックは、はなから対策を放棄している?
「有り得るぜ。連中、ヤクに手を出してるんだろ? なら、あれこれと中身に手を加えて金をかけるくらいなら、自分達で『火消し』に回ったほうが得だ。最悪、孤児院を捨ててもいいなんて思ってるんじゃねえか?」
 シラスの指摘は突拍子もないようで、的を射ていた。狙われるなら狙わせればよい、処理をするだけの力はある。なるほど、傲慢だが簡潔な対処法だ。
(つまり、近づいてから声でのやりとりなど論外。そういうことじゃな?)
 ルアが察したように表情を固くする。ほんのわずかな手間でいい、楽な仕事。それを阻む住人達は、思った以上に厄介な手合であるのだと。一同が改めて認識するに至るには、ゼベックと遭遇してから、であった。

●正義と断じる、という悪
 孤児院の上空、50メートル‥‥油を持ったシラスが待機した位置は、狙撃されればひとたまりもない高度に達していた。尤も、彼を狙うには相手も飛ぶ必要があるわけで、よしんば狙える位置に達したとて、危険なのは互いに変わらぬだろうという事実だけがある。
(こっちは準備できたけど、そっちは?)
(他の連中が目立つように動いてくれたから、『釣れた』みたいだぜェ? さっさと油を撒いちまってくれ、ガキに起きられると困るんでな)
 シラスの問いかけに、レイチェルが応じる。どこか高揚した感情の波が感じ取れたのは、地上で跳ねた火花が少なからず影響している……のだろうか? 孤児達には願わくば眠りのままで死んで頂きたい、などという甘い考えを彼女が持っているとは考えづらい。
 あるいは、彼女も鉄火場の予感を楽しんでいる。その表情を目にした者なら、十中八九そう断定するだろう。

「君達は、悪だね」
 陽動を買って出たイレギュラーズ達を見るなり、ゼベックは開口一番、断罪するような声音でそう問いかけた。
「……院長さんから変わった匂いがしますね。くんくん、これは薬の匂い」
 なんて、と絵里が冗談めかして続けるより速く、ゼベックの腰から銃が引き抜かれる。正確な狙いと早撃ちを両立させた一射は、しかし彼女の反射神経を前に競り負ける。
 軽く掠めただけとは、よくよく運がいい、とゼベックは舌打ちする。寄る年波を思えば、なんとも醜悪な攻防だ、と。
 カス当たりであろうと当ててみせるとは、と絵里は戦慄する。この戦場において、身のこなしに最も長けた彼女に追いつこうとする魔術弾、その意味が分からぬイレギュラーズはここにはおるまい。
「子供を獣に仕立て上げるだけのことはあるわね。調教師としても優秀なのかしら?」
「あの子達が目的か。獣、とは言ってくれる」
 胡蝶は挑発とともに格闘戦を挑みにかかる。至近距離でゼベックに張り付けば、彼も無視はできまい。そうなれば攻撃手段を制御することも可能ではないかと踏んだ……何より、胡蝶にとってその距離こそが最適な間合いなのだ。
「物知らぬ子供に『やり過ぎる』までのことをさせておいて、しらを切るか。いい趣味をしておる」
 ルアは《金糸雀》と《銀椋鳥》、二丁のガンウォンドから魔術弾を連射する。二本の魔術の奔流が練り上げられ、一筋の矢となってゼベックに食らいつく。清々しいまでの手応え。挑発に乗ったことで、僅かばかり集中が切れていたのか、はたまた彼の戦闘力はこの程度なのか。
「いいや、あの子達に社会勉強をさせたのは私だ。不幸な意見のすれ違いだ、と言っておこう」
 肩に重い一撃を受け、しかしゼベックの腕は意志持つ獣のように反射的に持ち上がる。望み通りに、というわけではあるまいが。閃いた鞭の鋭さは胡蝶の身を這い回り、浅からぬ傷を彼女に与える。
「だが彼らは『悪』だ。あの子達のような不幸な子らを生むであろう悪徳だ。ならば私の後進の教育に役立てることこそ、社会正義ではないのかね?」
 ゼベックは興奮を隠さずに語る。その表情、その声、その主張はイレギュラーズの多くと相容れぬ。
 自業自得という単語は、相手に不条理な暴力を押し付けるための大義名分では断じてないのだ。
「ご大層な主張をご苦労様なこったぜ、じーさん。でもな、ソイツらにばっかりかまけてるアンタが、ガキ達に何かしてやれたっていうのかい?」
 響いたのはレイチェルの声。火付けに回っていた彼女がこちら側に現れたということは、状況が動いたことを意味する。
 次の瞬間、ゼベックの足元に魔術式が生み出され、孤児院に突き立った火矢を起点に炎の花が咲く。
 紙一重でレイチェルの術式の直撃を避けたゼベックは、燃え上がる孤児院と折り重なる悲鳴に目を見開いた。だが、何故だろう。
 ――彼の口元には、喜悦と余裕の表情が見えやしないか?

●燃えよ恨みよ、栄えよ悪徳
 炎に沈みはじめた孤児院を見やり、グリムペインは小躍りしたい気持ちであった。古来、児童文学において炎に飲まれるのは悪徳の女性か狼かと相場が決まっている。あるいは、それを織り込み済みでなお彼は炎の色に魅入られたのだろうか。
 そして、道理といえば狼が仔山羊を狙うこともまた道理だった。だから彼はハーメルンの笛を吹く。振るうのは斧で、吐き出されるのは乾いた風切り音だが、なに。『音』であることは変わるまい。
「あはは、鳩撃ちだぜ。気分がいいったらない」
 傍らに降り立ったシラスは、自らへ突っ込んでくる孤児に術式を放ち、叩き落とそうと試みる。たしかに、出る端から叩いていけば容易であろう。数を頼るならやり方はある。
 想定外があるとすれば。彼の術式を真正面から受けて、一瞬だけでも足を動かし、自らへ飛び込んでくるなどと。
 子供にあるまじきタフネスを見せたというただその一点に尽きるのだが。
「……なんですか、あれは」
 鶫は、シラスにのしかかろうとした孤児の喉へと矢を放つ。慮外のサイズを誇る弓から放たれた矢は頚椎を叩き折り、呼吸ごと首を断ち切った。だが、最後の瞬間まで敵意を失わなかった孤児の表情は、武力で勝る彼女をして心胆を寒からしめるものである。覚えがある。あの目、あの容赦のなさ、あの純粋さ。
「思ったよりも強力な薬のようね。でも予想の範囲内だわ」
 レジーナは、その一部始終を見ても驚くことはなかった。彼女の世界では、その程度が普通だったのだろう。洗脳されるというのは、そういうことだ。
 銃弾に倒れ、炎にくべられ、煙に撒かれて死んでいく孤児の中で、飛び込んでくる彼ら1人ひとりの能力はあなどれない。
 危地にあって生き残る才を持ち、敵を見咎め的確に襲いかかる。燃え上がる孤児院こそが、蠱毒の壺であるかのように。
(……まさかそれが目的だったなんて言わねえよな?)
 シラスは一瞬、脳裏を過った『馬鹿馬鹿しい考え』を否定する。余りに馬鹿げている。非効率的な戯言だ、と。

 ゼベックは、己の首筋に針付きの瓶を突き刺した。無針注射などという技術の粋は『幻想』にはない。原始的な投与方法で流し込まれた薬液は、彼の首筋から血と混じって流れ落ち、見開かれた目とともにその不気味さを強調する。
「院長さん、楽しそうなのです」
 絵里は彼の様子を端的に理解するとともに、攻撃の手を緩めない。胡蝶とともに間合いに踏み込んだ以上、逃がすつもりは毛頭なかった……とっておきの『友達』になりそうだ、と。彼女の直感はそう告げている。
「楽しい? 馬鹿な、最低の気分だよ」
 ゼベックは問いかけに対し、吐き捨てるようにそう告げた。嫌悪の表情を貼り付けた顔は、同時に薬による影響か、血管が浮き出て凶暴性が増しているようにも思えた。
 攻撃は苛烈さを増し、油断をすれば致命的な打撃を受けかねない威力にまで底上げされている。
 強いのだろう、この男は。少なくとも、胡蝶が近接戦を挑んで、それを正面から受け止めて見せる程度には。
「でも空虚ね。子供達を扇動することでしか自己実現ができないなんて、哀れだわ」
 胡蝶の憐れむような口調に、ゼベックは目を細める。直後、彼の横を掠めてルアが孤児の1人を撃ち抜いたのを見て、その怒りはいや増したように見えた。
「相応のことを成したのだろう。人として超えるべきでない域まで辿り着いたなら、因果応報。結構なことじゃ」
 ゼベックの喉を、怒りの咆哮が駆け上がる。だが、その言葉は吐き出されずに終わった。
 それよりも一拍早く、レイチェルの術式が、狼の幻影が彼の首に食らいつき、それを引きちぎったからである。
「……犯した罪も罰も、俺が背負おう。ガキの分までな」
 彼女は転がり落ちた首、その瞼を引き下げると、孤児院の側に視線を向けた。
 累々たる死体は次々と燃え盛る孤児院に投げ込まれ、炎にくべられるところであった。炎の中で戦わず死んだ孤児も含めれば、結構な数になったことだろう。

 炎を背に、くるりくるりと絵里が踊る。
 彼女にしか見えぬ多くの『友達』とともに、炎尽きるまで。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 炎の中から見つかった遺骸も含めて、孤児は二桁を下らなかった、ということです。
 対ゼベック戦闘において、また、孤児対応において多少の負傷者は出ましたが、後に残るほどの重傷ではなかった……ということで。
 なんだかんだで、文句の付け所があまりない、良い結果だと思います。
 でもこんなアレでソレなやり方の蠱毒なんて嫌だなあ。

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