PandoraPartyProject

シナリオ詳細

魍魎不遜

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 その日は雲一つない晴天。
 すでに日中は暑さすら感じる陽気となっており、絶好の野良仕事日和だ。
 地主である農作民の鬼人種、吾作は頭に角用の穴が開いた麦わら帽子、首に手拭いを巻いている。
 大概、彼はこのスタイルで野良作業をやっていることが多く、遠めでも吾作だと分かって農業仲間から大声で声を掛けられるほどである。
「ああ、今日も絶好の野良日和だなぁ」
 日差しを浴びた彼はクワを手にして大きく背伸びする。実にすがすがしい朝だ。
 彼はてくてくと気分良く歩いて畑へと向かう……のだが、自分の畑を前にして思わぬ事態にクワを手から落としてしまう。
「な、なんだこれは……!!」
 吾作が見ていたその畑、別段畑や作物には何ら問題はない。
 問題はその周りの空中に蠢くモノ達だ。
 ――ウラメシイ、ウラメシイ……。
 ――イキテイル、ソレダケデ、ウラヤマシイ……。
 それらは、顔を象った怨霊達。
 近辺の畑の周囲へと現れ、農作業をさせぬようにと蠢いているらしい。
「の、農作業の邪魔だ、あっち行ってくれ!」
 吾作はそれらを畑から振り払おうとするのだが、怨霊どもが吾作へと顔を大きくして邪魔し、彼に取りついて動けなくしてしまう。
 ――サギョウハ、サセヌ……。
 ――セイヲ、オウカナド、ワレラガユルサヌ……!
 それらは吾作の畑だけではなく、他の者の畑の周囲にも現れてでかい顔している。
 このままでは、作物の手入れができず、畑が荒れてしまう。
 怨霊どもは本気で、鬼人種達を飢え死にさせるつもりなのだろう。
「一体、どうすればいいんだ……」
 ようやく、動けるようになった吾作は、畑の周囲を漂う怨霊達を睨みつけつつも、どうすることもできずに呆然としてしまうのだった。


 豊かな恵みを得られ、黄金の穂が美しい場所として知られる豊穣郷カムイグラ。
 ローレットのイレギュラーズ達は、はるばるこの地まで此岸ノ辺を経由してやってくることとなる。
「私も初めて来たのですが、いいところですね」
 『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)は大きく息を吸い込み、カムイグラの独特な香りを胸に吸い込む。
 自然豊かなこの場所は実にのどかで、異国なのにどこか懐かしさを感じさせてくれる。
 だが、こんな場所でも、厄介事が起きている。例えば、怨霊による事件だ。
「話によると、とある農夫の方々の畑の周囲に怨霊が現れ、農夫達を畑に入れないようにしているのだそうです」
 どうやら、この辺りは古戦場であったらしく、戦いによって命を落とした無念の武者達が怨霊となり、楽しげに野良仕事を行う農夫達を羨んだらしい。
 仕事を奪うだけでなく、長い目で見れば畑が荒れて作物がダメになる。生きる糧も奪うという寸法のようである。
「この怨霊の群れを倒して、鬼人種の皆さんを助けてあげてほしいのです。上手くいけば、仲良くなることができるかもしれません」
 怨霊は畑に入ろうとすると邪魔をしてくるようだ。
 本気で入ろうとすれば、憑りついて体を縛り付けるなど本気で攻撃してくるようなので、引きつけ等に利用するといいだろう。
「ただ、畑を荒らさないように注意したいところですね」
 鬼人種とこんなところで仲違いはしたくない。できるなら、彼らが望む形でこの一件を解決してあげたい。
「どうか、よろしくお願いいたしますね」
 アクアベルは小さく頭を下げ、怨霊退治をイレギュラーズ達へと託すのである。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。

●概要
 畑の周囲を飛び回る全ての怨霊の討伐を願います。

●敵
○怨霊×8体
 全長40~150センチ。
 空気中を浮かぶ人の顔のような形のもので、任意にその大きさを変えられるようです。
 戦いで命を落とした無念の武者達が怨霊となって生きている者が生を謳歌しているのを羨み、畑に近づけさせぬようにして鬼人種達を困らせております。

 攻撃方法は憑りつき、呪弾、怨念。
 動きを封じたり、運気を下げたりなど、様々な状態異常に苛みつつ相手を呪い殺すのを得手としております。
 また、全く物理が効かないというわけではないですが、物理よりも神秘攻撃の方が攻撃は通りやすい傾向があるようです。

●NPC
○吾作……鬼人種男性、20代独身。農夫。
 戦闘能力は然程高くはありません。
 仲の良い女性がいるらしく、昼になったらおにぎりなどのお弁当を作りに来てくれるようです。

●状況
 鬼人種達を畑へと立ち入らせぬように怨霊達が顔を大きくし、あるいはスキルを使って動きを止めたりして邪魔をして来るようです。
 事後は吾作のところへとお弁当を作りに来てくれる女性から、からおにぎりをいただくことができます。
 具は梅干し、鮭、昆布、おかか。和風のものオンリーです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • 魍魎不遜完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月30日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

銀城 黒羽(p3p000505)
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)
黒鴉 拓哉(p3p007827)
!!すらがびた
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

リプレイ


 豊穣郷カムイグラまでやってきたローレット、イレギュラーズ達。
 その目的は……。
「怨霊の討伐か」
 些か無気力な物言いで、隻眼オールバックの男性、銀城 黒羽(p3p000505)がぼそりと告げる。
「怨霊かぁ、出るとこには出るもんだな。生者に嫉妬か? 嫉妬の冠位の影響かな」
「恨み辛みが死後も残って怨霊となる……世界共通なのかな」
 背に黒翼を生やすオッドアイの青年、『Unbreakable』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)が今回の状況を豊穣固有の事件と推察すれば、やや控えめな態度をした線の細い青年、マルク・シリング(p3p001309)は世界で共通の事例なのだろうかと考える。
「人の恨みつらみは、恐ろしいもので。死してなおそれが持続するというのも、もっと恐ろしいですね……」
 この世界にきて吸血鬼となった『慈愛の英雄』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は、背筋に寒気を走らせる。
 元は、この怨霊達も生前は強い想いを抱いて戦った武者だったはずなのだ。
「怨霊……何かを護る為に必死に戦って、その結果がこれじゃ悲しいっすよね」
 「正義の味方」に憧れる幼い少年、『!!すらがびた』黒鴉 拓哉(p3p007827)は物悲しそうに語る。
「……面倒な奴等だ」
 しかし、黒羽はばっさりとその考えを切り捨てる。
「無念の死を遂げたといっても、何の関係もない生者を恨んで……随分と自分勝手なことだ」
「戦いで命を落としたのは同情するがな。生きとし生ける者を妬み、あまつさえ飢え死にさせようなど言語道断」
 人形を連れた忍、『お嫁殿と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)は一定の理解こそ示すが、やはり黒羽の同じ意見だ。
「生きているのが恨めしいとは、怨霊らしい理由だね。でも、ただの八つ当たりなら聞く気は無い」
 深緑出身の少年を思わせる外見をした『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)も、手厳しい意見。
 怨霊の言い分を正当化する意見はローレット勢からは出てこない。
「ぶはははっ、日々をしっかり生きてる奴らの邪魔するとなりゃあ遠慮はいらねぇな!」
 黒い肌をした豚の獣人を思わせる旅人、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が豪快に笑いながらさらに続ける。
「だからこその怨霊なんだろうが、しっかりと成仏させてやんよ!」
 ゴリョウの言葉に、ユーリエが同意して。
「怨霊を倒して、負の連鎖を断ち切り。そして、農夫の皆さんを安心させましょう!」
「気持ちは分かるっすけど、成仏させてあげないと何時までも苦しいままっすよね」
 拓哉もまた、仲間達と意見を同じくすることを確認して。
「ちゃんと眠らせてあげるっすよ。全力で」
 その討伐に意欲を見せるのである。


 さて、イレギュラーズ一行がやってきた畑地帯。
 ――ウラメシイ、ウラメシイ……。
 ――イキテイル、ソレダケデ、ウラヤマシイ……。
 確かに畑のあちらこちらで、顔の形をした怨霊達が蠢いている。
「暗視の必要はなさそうですね」
 一応と対策の為にと拓哉はスキルも用意していたが、鬼人種達も視認できているほどくっきりと現れていた。
 地主である鬼人種達が畑へと立ち入れずに困り果てている。近づけばそれだけで動きを封じられたり、呪いにかけられたりしてしまうからだ。
 こちらにも、拓哉は対策としてしっかりと覚悟や意思を固め、気を引き締めていたようである。
 また、畑は雑草が生えて荒れかけている。早いところ手入れをしなければ、今育っている野菜にも悪影響が出始めてしまうだろう。
「畑が俺達の攻撃で荒れるのもいかんだろう」
 対処を始める前に、フレイが近場の畑へと保護結界を施す。これで、畑がダメになることはなくなるはずだ。
「ともあれ、畑を取り戻さないと死活問題だ。死者よりも生者をまず優先させてもらう」
「死者はおとなしく土の中で寝てろ」
 進み出るフレイと並び立つ黒羽も毒づきかけたが、すぐに止めて。
「……いや、俺は、俺の仕事をする。それだけだ」
 感情封印し、黒羽はネガティブな感情の一切を封印してしまう。
 今、自分に求められているのは、怨霊の注意を引きつけ、味方が動けるようにサポートするのみだと。
「ホント頼りになる奴らだぜ!」
 そんな2人もそうだし、後ろで攻撃準備を整えるメンバーも合わせ、ゴリョウは何とも心強いと感じながらも、彼もまたヘイトを集めるタンク役として最前線に並ぶ。
 そのゴリョウ達のすぐ後ろに、至近から攻撃役として攻める拓哉や鬼灯が位置取り、さらに少し下がってマルク、ウィリアム。ユーリエもその近くに立つ。
 実質的にほとんど近距離戦で対する布陣だ。
「先程誰か言っていたが、畑に入るのを邪魔して農作業を妨げるのは、残念だけど八つ当たりと変らない」
 マルクが改めて、タンク役3人が引き付ける怨霊へと言い放つ。
 とはいえ、彼もこんな力づくなやり方には気が引ける部分もあったようで。
「……どうか、少しでも彼らの魂が救われますように」
 せめて、マルクはそう願い、彼らが少しでも安らかに眠れるようにと祈る。
「……いつまでもこんな所にいないで、早く命の環に帰りなよ。力尽くになるけどごめんね!!」
 ウィリアムも謝りながら、退く気を見せない怨霊達を成仏させようと魔剣『グリムウッド』を握る。
『もう一回閻魔様に叱られて、しっかり反省するのだわ!』
「さぁ、舞台の幕を上げようか」
 さらに、鬼灯が抱く『嫁殿』という名の人形が叫んだ後、彼が淡々とした口調で語りかけ、式符を手に身構えるのである。


 ――ウラメシイ、ウラメシイ……。
 怨霊達はそんな言葉を繰り返し、ふわふわ宙に浮かびながら、時折、体を大きくしてその存在を示す。
 それでも、畑に近づくイレギュラーズ達へとそいつらは敵視し、呪弾や怨念を飛ばしてその身を苛もうと襲い掛かる。
「危ないぞ!」
「早く畑から避難するんだ!」
 農夫達が避難するよう叫びを上げていたが、メンバー達に退くなどという選択肢はない。
 聖骸闘衣をその身に纏うフレイは、近づいてきた怨霊達へと轟音を響かせて黒き稲妻を叩きつけていく。
 物理が多少効きづらいという怨霊だが、全く効いていないというわけではなさそうだ。
 それに、フレイとしては戦線維持の為に攻撃しており、少しでもダメージを与えられたら問題ないと考える。
「攻撃は任す。守るのが俺の役割だ」
 ゴリョウもまた後方メンバーの為にと身を張り、聖躰降臨によって自身の身体へと聖なるかなを降ろして。
「ぶはははっ、テメェらも生前は農夫が作ったメシ食ってただろうに逆恨みも甚だしいな!」
 ゴリョウもまた存在感を示し返し、怨霊達の気を強く引いていく。
 隣の黒羽もまた纏鎧の闘気法【剛毅の型】を展開し、纏った闘気によって強靭な鎧を形成する。
 後はその闘気を鎖状にして操り、黒羽は向かい来る怨霊の体を縛り付けようとしていく。
(俺は一切攻撃しない。受け続けるだけだ)
 こうして3人はチームのタンクとなり、怨霊の攻撃をその身に浴び続ける。
 何より、状態異常に苛まれるとそれだけで攻撃の手は止まる。
 彼らはそれを避ける為、身を挺することにしていたのだ。
 その分だけ他のメンバーが皆、攻撃の手を強める。
 まず、鬼灯が式符で生み出した致命の毒蛇をけしかけ、拓哉が続けて突撃し、キルデスバンカーを打ち込んでいく。
「神秘攻撃がよく効くという話だし、今回は僕も攻撃を頑張るよ」
 マルクは怨霊達を捉え、一気に激しく瞬く神聖の光で怨霊達を灼き払う。
 なおも攻撃を集中させ、ウィリアムは攻撃の集まる怨霊へと空間を捻じ曲げ、思いもよらぬ角度と方向から斬撃を浴びせかけていく。
 仲間達が攻撃を開始したタイミング、ユーリエはまずは自分の能力向上の為に甘いスイーツ……スイートケーキを用意する。
 それを食したユーリエはスキルの使用効率を上げてから、英霊の魂を自らに卸して強化に当たる。
「しっかり見ますよー」
 集中力を研ぎ澄ましたユーリエは群がる怨霊達目がけ、光の術を展開していく。
「光に包み、負の連鎖を破壊する……ガーンデーヴァ!!」
 医師の力におって光の弓を具現化したユーリエは、光の弓矢を射放つ。
 強靭な意志の力を持つユーリエの一矢は、相手へと命中すると共に弾け、怨霊の体を破壊せんとする。
 だが、相手もまたそれだけで倒れはせず、強い意志の力で補い。なおも存在感を示して揺らめく顔を巨大化させていた。
 そこに現れるは、噂の神人の存在を聞いて駆けつけたピンクの髪の鬼人種女性、光焔 桜だ。
「……ふむ。光の弓を用いて戦を行う者もいるようですね」
 少し距離を取る桜は助太刀をと、花の矢を放ち、怨霊へ攻撃してくれる。
「死して尚、報われず生を求める怨霊達よ。この豊かな恵みの大地から立ち去るがいい!」
 空中を飛ぶ矢に射抜かれ、怨霊の1体が苦しむ。
 ――オオオオオ!!
 それを、鬼灯が見逃さず、生み出した虚無の剣で相手を切り裂き、1体をこの場から消し去ってしまう。
 その後も、順調に怨霊へと攻撃を繰り返して。
 マルクが神気閃光で数体の怨霊を灼き、1体を霧散させてしまうと、拓哉が確実に相手をつぶすべく、悪霊のど真ん中目がけてキルデスバンカーを撃ち込む。
 ――オア、アアアァァァ……。
 低い声で唸っていた怨霊1体がまた幾分か表情を和らげ、霞むようにして姿をかき消していったのだった。


 残る怨霊は5体。
 ――イカセテ、ナルモノカ……!
 ――オトナシク、ヒキカエセ……!
 体を張ってでも畑へと立ち入らせぬようにするのは、歪んでしまったその想い故か。
 長く死後の世界に縛られた武者の霊。彼らは何を思い残してしまったのか……。
 ともあれ、前線でその怨霊達を抑えるメンバー達を時折確認し、ウィリアムは攻撃を続ける。
 3人がかりと非常に厚い壁もあり、彼は心置きなく修羅殲刃で必殺の斬撃を浴びせかけ、さらに1体を切り裂いてしまう。
 ただ、前線のタンク役も相当にしんどさを感じる役であるのは間違いない。
 不吉、呪い、呪殺、呪縛……。
 それらに苛まれながらも、フレイは不滅を示すべく自らの異常を振り払い、黒き閃光を敵陣へと浴びせかけていく。
 その後ろ、ユーリエはマルクを支援するべく、スイーツタイムによって甘味を渡す。
 それを貰ったマルクは時折タンク役の仲間の回復へと当たりながら、敵陣へと再度神聖なる光を駆け巡らせて1体を始末する。
 後は今期の勝負。
 一切の感情を封印する黒羽はネガティブな想いを抱くことなく、これ以上好き放題やらせぬようにと縛鎖の闘気法で怨霊どもを纏めて縛り付けていく。
 おかげで、拓哉も相手から取りつかれることもなく、安心して敵へと突撃していく。
 特注パイルバンカーを振り回す拓哉は渾身の力を相手の体を貫き続け、ネガティブな思いと共に怨霊としての在り方を完全に否定してしまう。
「ぶはははっ! やはり頼もしいな、オメェさん達!」
 再び、自己強化したゴリョウ。
 そうすることで、ゴリョウは聖なる力によって攻撃した相手へと衝撃波として跳ね返すことができる。
「それでも攻撃せざるをえんだろう」
 怨霊達に退路などない。ただ、恨み辛みをぶつけてくるのみだ。
 数が減ってくれば、回復支援を行うユーリエも手隙となり、一気に再度光の矢を射放つ;
「……ガーンデーヴァ!!」
 空中を疾走する矢はまごうことなく怨霊の顔を穿つ。
 刹那安らぎの表情を見せた傍、最後残っていた怨霊が力を失い、その存在を希薄なものにしていて。
『悪い子にはお仕置きなのだわ!』
 畑には保護結界が張られている。その姫殿の叫びの直後、鬼灯は魔糸を鎖付きの鉄球に変形させて。
「無尽蔵の魔力から繰り出される忍にして黒衣の妙技。その目に焼き付けるがいい」
 鬼灯が放つ遠心力の加わった紫の光纏う鉄球に、怨霊はなすすべなく。
 ――オ、オオォォォ……。
 どことなく感謝を示すような表情を浮かべ、怨霊は虚空へと消え去っていったのだった。


 畑に現れる怨霊を全て討伐して。
「ありがとう、ありがとう」
「いや、助かった。このまま畑が荒れるのを見ているだけかと……」
 地主である吾作が百姓仲間と共に、ローレット勢へと感謝の言葉を表す。
「畑の傍でお騒がせして申し訳ありません。我々は、あの海の向こうから来た者です」
 そこで、マルクが丁寧に挨拶をする。
 イレギュラーズ達は皆、怨霊の弔いを望んでいるが、何せ豊穣での作法が分からないメンバー達だ。
「できれば、供養したい。この土地のやり方を教えてほしい」
 さらにフレイが続けると、吾作は後程神主を呼んでから魂を鎮めたいと語った。
 それもあり、この場は簡素なものでも弔いをしたいとのことで、鬼灯が呼んだ部下、神無月に供養を任せる。
「……ええ、わたくしでよければ、彼らの魂を供養させていただきましょう」
 念の為、作法の確認だけ行った神無月が自らの手法で簡単に供養を行う。
 そうして、この場は大きな墓石を作ったことで、ユーリエも納得したようだ。
「ゆっくりと眠っててくれ。だが、また起きてきたら叩き寝かせてやるぞ」
 戦いの前は辛辣な言葉を口にしていた黒羽だが、戦いが終われた手を合わせ、哀れな魂を仲間達と弔っていた。
「ゆっくり眠って欲しいっすよ」
 近場の手洗い場を借りて手を洗っていた拓哉もまた、両手を合わせて。
「この国の英雄たちに安らかな眠りを。そして願わくば、次に生まれて来る時は平和な世界で一緒に遊ぼうな」
 あの魂達が転生したなら、共に遊ぶ未来もあるのだろうか。

 続いて、ようやく畑仕事できるようになった鬼人種の農夫達だが、ここからが一仕事。
 なにせ、このままでは作物に悪影響が出てしまうのだから、穏やかではない。
 豊穣に練達の機械などは存在せず、基本的に手作業だ。
 それもあって、イレギュラーズ達も雑草取り。
 フレイやユーリエは丁寧に1本1本草取りし、綺麗に整地していく。
 拓哉や黒羽は雑草が無くなった畑を鍬や鋤で耕し、元の畑へと戻そうとしていた。
 ウィリアムは自然会話で作物に話しかけ、弱った場所がないかと尋ねる。
 畑の養分が足りないと嘆く作物が多い状況もあって、ウィリアムは式神使役によって人手を増やし、畑の手入れを急いで進めていく。
 その際、ウィリアムはゴリョウや吾作の指示に従って手直ししていたのだが、この2人が思った以上に意気投合していて。
「そういや、米を普及させたいのだがな。ぜひ、おメェさんの技術や知識について教えを乞いたい」
「喜んで協力させてもらおう」
 和食の魅力に取りつかれて稲作を行うゴリョウは豊穣というこの地に目を輝かせている。それだけに、本場の農業を是非とも学びたいと考えていたようだ。


 しばらく農作業をしていると、鬼人種の女性が姿を現す。
 彼女は普段から吾作の世話を行っているのだが、畑の問題が解決したことで、農夫の関係者と一緒になって沢山のおにぎりを用意してくれたらしい。
 マルクが挨拶を交わすと、改めて手を洗ってきた拓哉が嬉しそうに近付いてきて。
「おっにぎり、おっにぎり! どんな具があるっすかね?」
 拓哉が確認すると、バリエーション豊かな具材で食べる者を楽しませてくれる。
「おかかに昆布に鮭か」
 ウィリアムも折角だから全種類食べようと1つずつ手に取る。
 向こう……大陸の方でもおにぎりを食べたことがあるウィリアムだが、こちらの米は何となく味わいの違いを感じていたようだ。
「さて、最後は……グワー! すっぱい!!!」
 突然、ウィリアムが叫んだのに、みんな驚く。
 どうやら、彼は梅干しの味にびっくりしたらしい。
「ああ、でもこういう酸味も良いね。心の準備が必要だけど、ご飯によく合うと思うよ」
 とはいえ、いきなり食べる梅干しの味は、ウィリアムには衝撃が強すぎたようである。
「皆さんの笑顔がまぶしくて、とっても嬉しいです!」
 仲間達の笑う姿を見ながら、ユーリエもまた満面の笑みを浮かべる。お仕事のした後のご飯は実に格別だ。
「……久しぶりに米を食った気がする……」
 しばらく悩んでいた鬼灯が選んだのは梅干し入り。
『元の世界を思い出すわね、鬼灯君!』
「ああ、そうだな嫁殿。本当に豊穣は俺達のいた世界に似ているな」
 その味を噛みしめ、嫁殿と共に鬼灯は視覚でも故郷の懐かしさを感じていた。
「あ、そういえば、吾作さんたちはどんな具が好きっすか?」
「鮭は大好物だな」
 吾作に好物を聞いていた拓哉は塩にぎりも美味しそうに食べていたが、梅干しがあると嬉しそうに頬張って食べていた。
「一緒に飯食べて、話もして、にゃははっ、これはもう友達と言っても過言じゃないんじゃないっすかね?」
 拓哉は鬼人種の農夫たちとの交流を、存分に楽しんでいたようだ。
「仕事を終えた後の飯はやはり美味いな」
「こちらのおにぎりと交換して、食べ比べてみませんか? 作ったのはあちらの彼……ゴリョウさんですけれど」
「両方美味いに決まってるだろ。いやぁ、感謝感謝だ」
 そこで、マルクがゴリョウ手製のおにぎりを差し出すが、フレイは食べる前からそう語り、両方食べてそれを証明してみせる。
 そのゴリョウ本人もまた、自分の作ったおにぎりとどう違うか、スキル料理で鍛えた舌でしっかりと味わい、分析する。
「なるほど! モノも良ければ腕も良い、流石は豊穣の農家だぜぇ!」
 実にグルメなゴリョウに、鬼人種の農夫達もびっくりしていたようだ。
「あ、折角なので、今は……」
 拓哉の言葉を受け、簡単に作った墓標にその場のメンバーがおにぎりを供える。
 改めて、イレギュラーズも農夫達も、この地に眠る武者達へと鎮魂の祈りを捧げるのだった。

成否

成功

MVP

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク

状態異常

なし

あとがき

リプレイ公開です。
MVPは戦闘でのタンク役と合わせ、
稲作に並々ならぬ意気込みを見せるあなたへ。
今回はご参加、ありがとうございました!

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