PandoraPartyProject

シナリオ詳細

次が死んだら、また来るからね

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●山村にカラスは飛んで
「あああああ」
「あああああ」
 山村の上空である。その灰色の空を、カラスが飛んでいた。
 巨大なカラスである。
 その足には、奇怪なことに複数本の脚が生えており、その身体は異常なほどに巨大化している。
 その巨大な多足のカラスが、二羽、三羽――。ぐるりぐるりと空を回る。
 ふと――カラスは一件の家屋に向けて、急速に下降していった。その屋根に到着してから、その周りをぐるぐると旋回して、かあ、かあ、と笑い声をあげる。
「家人が死んだ!」
「家人が死んだ!」
 カラスが笑った。
「差し出せ! 差し出せ!」
「死体を差し出せ!」
「死体を出さねば、生者を喰らうか!」
「どちらを喰らうてもそれは美味」
「差し出せ! 死者を! 差し出せ! 生者を!」
 があ、があ、があ。カラスが歌う。
 がらり。戸が開けば、怯えるような眼を空へと向ける、1人の老爺の姿があった。老爺は、中空のカラスを睨みつけると、しかしすぐにおびえた表情へと変えた。
 怖いのである。
 あのカラスが。
 死者を出せ、とねだるカラスが。
 ――喰われるからである。
 死者を出さねば喰われる。
 己が――。
 喰われるのだ。
 だから。
 どさり、と――。
 老爺は、老婆を、扉の外に放り捨てた。
 長年連れ添った、愛しい妻であった。
 できれば手厚く葬りたかったが――。
 差し出さねば、己が食われる。
「すてたぞ! すてたぞ!」
「婆を捨てた!」
 カラスが笑った。すぐにカラスは死体に群がると、その巨大な嘴で老婆をつついた。その逞しい脚で、老婆をちぎった。
「うまいのう、うまいのう」
「お前の婆は極上の味じゃ」
 嘲る様に、カラスが笑う。
 老爺は思う。
 幾たび、このカラスに笑われたか。
 幾たび、このカラスに村の上を飛ばれたか。
 少し前のことのようにも、ずっと昔のことのようにも思えた。
 実際のところ、このカラスが村を見舞うようになったのは、ここ去年の同じ時期の頃だっただろうか。
 空に奇怪なカラスが舞った。
 カラスは村に呪いのようなものを撒き散らして、村人たちを次々と衰弱させていった。
 カラスたちは、一度に命はとらぬ。
 一度に取れば、肉体はすぐに腐る。食えなくなる。
 だから少しずつ殺して――。
 少しずつ、収穫するのだ。
 今やこの村は、カラスたちの食料貯蔵庫に過ぎなかった。
 もちろん、京へ、カラス討伐の陳情は、行った。
 だが、その声が届くことは、無かったのだ。
 京のヤオヨロズにとっては、うらぶれた村の存亡など、どうでも良い事なのだ。
 外の妖を討伐する鬼人種達も、昨今の妖の対策に、どうしても、この村まで、手を回すことができなかった。
 だから、耐えるしかなかった。
 耐えて……わずかでも、一人でも、生き永らえるしか――。
「ごちそうさま」
 ふと、カラスの声が聞こえた。
 喰い終わったのだ。
 老婆を。
 妻を――。
 食い荒らした。
「次が死んだら、また来るからね」
 カラスは言った。そうして、ばさりと、灰色の空へと飛び立っていった。
 老爺が扉を開ける。
 そこには、かつて老婆だったものがあった。
 今はただの、残飯であった。
「おお……おおおおお」
 老爺は呻き声をあげながら、うずくまった。
 何故先に、自分が死ななかったのか、と思った。
 同時に、自分が先に死ななくてよかった、とも思った。このような思いを、妻にさせたくはなかった。
 明日もきっと、誰かが死ぬのだろう。
 次が死んだら、また来るからね。
 その言葉通りに、カラスは来るのだろう。

 村民の一人が死んだ知らせと、京から『特異運命座標』なる一団がやってきた知らせが村に広がったのは、明朝の事である。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方は新天地『豊穣郷カムイグラ』での事件になります。
 村に呪いを振りまくカラスを討伐し、村を救ってあげてください。

●成功条件
 『偽・八咫烏』の討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 カムイグラの田舎にある山村。そこでは異常な変貌を遂げた三羽のカラスが、疫病を振りまき村人たちを衰弱させ、死んだ端から食料としていました。
 このような蛮行を許すわけにはいきません。
 皆さんは、この村を訪れたイレギュラーズとして、このカラスたちを討伐してください。
 作戦決行時刻は昼。死者が出た、ある村人の家の前での戦いになります。
 カラスたちは、死者が出たことを察して村へとやって来るため、特に探したりする必要はありません。
 待ち構え、確実に撃退してください。

●エネミーデータ
 偽・八咫烏 ×3
  ヤタガラス……とは名ばかりので、巨大で、複数の足を持つ奇怪なカラスです。
  カムイグラでは、普通の動物が異常な変質を遂げて魔物のようになる、と言う事件が発生しており、その一種であると思われます。
  その鋭い爪には『毒』が、その嘴から放たれる呪詛には『呪殺』が付与されているようです。
  なお、敵は鳥ですが、皆さんと戦うために低空飛行を行っているものとして処理します。

 以上となります。
 それでは、皆さんのご参加お待ちしております。

  • 次が死んだら、また来るからね完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年07月08日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
桐神 きり(p3p007718)
箕島 つつじ(p3p008266)
砂原で咲う花
源 頼々(p3p008328)
虚刃流開祖
糸杉・秋葉(p3p008533)
黄泉醜女
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし

リプレイ

●贄の村
 薄暗い。
 特異運命座標たちが村に到着して感じた印象と言う物は、おおむねそう言ったものだった。
 曇天の空がそう感じさせるのか。いや、きっと理由は、それだけではあるまい。
 村人たちはみな一様に生気がなく、病を患わっているかのようで、手足などは枯れ木のように細く痛々しい。いや、肉体面のみのダメージならここまで弱々しくは枯れないだろう。
 心が、痛めつけられているのである。
「……」
 『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は静かに目を閉じた。冷静に。冷静に。心を落ち着けようとは思うモノの、しかし意志とは反して現れたしっぽが、不快気に、ぶわり、と膨らむ。
 怒っているのだ――仲間のイレギュラーズ達にも、敵の所業に怒りを覚えていた者も居るだろう。
 ただのカラスが相手なら――ここまで怒る事はあるまい。弱肉強食、あるいは自然の摂理として考えれば、相手もタダ餌をとっただけ。放置しておけるかと言えばもちろん放置はできないが、まだ理解の及ぶ範疇である。
 だが敵は――神鳥を騙るカラスは、民を侮辱した。被害者を侮辱し、精神的に嘲った。生者を問わず、死者を問わず……尊厳を、踏みにじったのだ。
 それは、人語を理解し、操るものとして、やってはいけないことだ。
「行きましょう?」
 『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)が声をあげた。
「まずは、村の皆さんに事情を説明し、協力を仰がなくては」
「分かってます」
 ウィズィは頷いて、一歩を踏みだした。
 ――許すもんか。
 胸中でそう呟きながら。

「神使の皆さまでしたか……こんな辺鄙な所まで、よくおいでくださった……!」
 特異運命座標を出迎えた村の長は、感極まった様子で、その目の端に光るものを浮かべていた。
 相当に衰弱しているようだが、どうにかこうにか体を起こし、特異運命座標たちを迎え入れたようだった。
「まず、状況を確認したい。敵は、この村の死者を察してやって来る……それに間違いはないね?」
 あまり長居しても体に負担をかけそうであったから、単刀直入に用件を切り出した。『らぶあんどぴーす』恋屍・愛無(p3p007296)に言わせれば、これは人間を養殖し、収穫するというカラスの策略である。ならば収穫物が出た段階で、収穫に来るのが常と言う物。
「はい……間違いございません」
 事前情報通りの様だ。ならば、此方としても、迎え撃つに作戦がある。
「ふむ。今日の死者は……出ているようだね。村の方でも噂になっているようだが」
 愛無の言葉に、村長は静かに頷いた。すでに死者は出ているようだ。であるならば、カラスがやって来るまでそう時間はあるまい。となれば、速やかに作戦を実行に移すのみ。
「では、敵を迎え撃つにあたって……村人の皆さんの衣服を貸していただきたいのです」
 桐神 きり(p3p007718)の言葉に、村長は頷く。
「もちろん、構いませんが……何故に、そのような……?」
 村長が首をかしげるのへ、きりは安心させるように頷いた。
「作戦の一環ですよ。急にこう言っても難しいかもしれませんが、どうか信じてはいただけませんか? ……必ず、皆さんを救ってみせる作戦だと、約束します」
 真摯に語る、きり。その心に胸を打たれた村長は深く頷き、
「では、村の者に手配させます」
 そう言った。

「えっぐいカラスやで。村の人らもめっちゃ参っとるやん」
 犠牲者の出た家屋へと向かう道中、『花は散らず』箕島 つつじ(p3p008266)は辺りを見回しながら言う。遠巻きにこちらを見る村人たちの姿は、その誰もが憔悴しきった様子を見せていた。
 だが、今は、その疲れ切った眼のどこかに、特異運命座標たちに対する、期待のような光が宿っているのが見て取れた。
 安堵と、一抹の不安と、期待。
 神使(イレギュラーズ)たちが、この事態をどうにかしてくれるのだと――。
 そう、期待している眼だった。
「期待には、応えてやらなあかんなぁ」
 つつじが言う。其れに返事をしたのは、『黄泉醜女』糸杉・秋葉(p3p008533)だ。
「生者はもちろん、死者の期待にも、応えてあげたい」
 秋葉はぎゅっ、とその拳を握りしめた。霊魂疎通のチカラで聞き取ったのは、被害者たちの悲しみと悔やみ。
 死してなお侮辱され、死体を啄まれた苦しみと。
 生き残った者たちに、深い悲しみを残してしまったことへの苦しみ。
 そのような声が、秋葉の耳を、心を震わせていた。
「神鳥の名を騙る外道め……その罪、万死に値すると思え」
 ぎり、と奥歯をかみしめ、秋葉は決意を言葉とした。

「よーし、ここだ。この辺でいいだろ」
 持ってきていた馬車の荷車を設置して、馬は別の場所に預けて隠す。
 『虚刃流開祖』源 頼々(p3p008328)は荷車の具合を確かめると、ばん、と荷物を叩いて見せた。
「ここに隠れれば良いってものよ。しかし、ようやく鬼退治か。ローレットの立場を悪くせず鬼をぶち殺せるなれば、こう、張り切って来るってものであるなぁ!」
「鬼かい?」
 ボロボロの、村人の服を着て、『スモーキングエルフ』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)が声をあげた。鬼……が相手ではない。相手は、巨大な化けガラスだ。
「鬼であろう? 足が三本あるって事は、一本は角だ。だいたい、こんな外道な事を行えるのは鬼位なものだろう。だから鬼であるな」
「ま、外道な事してる、って所には同意するけどねぇ」
 ぷかり、と最後の一服を楽しんでから、煙草を消した。
「それより……頼んだぞ! 奇襲であるからな。囮は重要であろう?」
 頼々が笑って言うのへ、シガーもまた穏やかに笑った。
「はいよ。じゃあ、張り切って……死んでみますか」
 シガーが腹に手を当てる。少々空腹だったが、そのくらいが、これからの演技にはちょうどいい。
 そして、作戦が、始まる。

●偽りの神鳥
「あああ! ああああ! 死者が出た! 死者が出たな!」
「差し出せ! 差し出せ! 死者を差し出せ!」
 灰色の空を、巨大なカラスが周回する。数は三。その姿は、筋肉などが不気味に肥大化し、ぐるぐると回る眼が狂気のようなものを感じさせる。
 それは、豊穣に生まれた魔。偽の八咫烏を騙る魔鳥。
「なんじゃ! なんじゃ! すでに出ておる!」
「二つか! 二人も差し出したか!」
 がああ。がああ。カラスがあざ笑った。
「不幸じゃのう! 不幸じゃのう! 二人も死んだか!」
「喰いきれるか分からんのう! ご馳走じゃ、ご馳走じゃ!」
 ばさり、とカラスが下降する。その先には、二つの村人の遺体が、無造作に放られている。
「若いのが死んだのう!」
「あまり若いのから死んでくれるな! お前たちが絶えてはワシらが餓える」
「しかし若い肉は若い肉で美味じゃ! 美味じゃ!」
 カラスは舞い降りた。地に降り、その嘴で、死体を啄もうとする――。
 瞬間!
 周囲においてあったわらの山と、その中にあったダンボールを吹き飛ばして、一息に飛び出した一つの影。
「こんの、外道がぁぁっ!」
 真っ先に飛び出したのは、つつじである。一歩目で踏み出し、二歩目でさらなる加速。その加速を乗せたままの一撃が、カラスに不意打ちの打撃を与えた。
「ガァァ!」
 カラスが悲鳴を上げて、上昇。低空飛行を維持しながら、眼下を見やる。
「なんじゃ! なんじゃ!」
 困惑するカラスたちへ、立ち上がった死体――きりと、シガーが声をあげた。
「つまり、こういう事です。まんまと騙されましたね」
「残念ながら、大人しく喰われるつもりはねえよ」
 シガーは魔剣の刃を煌かせ、一刀両断に切り払った。斬撃がカラスの脚を斬り、赤黒い血をほとばしらせる。
「ぎぃ! ぎぃ! 謀ったか!」
 その声に応じるように、周囲の物陰や荷車から、特異運命座標たちが一斉に姿を現した! 囮二名を使った奇襲作戦は、功を奏したのである。
「次が死んだら、また来る……そう言ったそうね?」
 秋葉は『神刀「火之迦具土」』を構えた。刀身をほとばしる神炎は、まるで秋葉の怒りを表すかのように、激しく、燃え盛る!
「お前たちに、次などは、ない。冥神「黄泉津伊邪那美」様が巫女勇者「黄泉醜女」の糸杉秋葉……かの魑魅魍魎の外道共を誅します!」
「ほざけ! ニンゲンごときが! 神に逆らうか!」
「神――ですか? ご冗談を」
 鶫は、あえて嘲笑するような笑みを見せた。
「死肉を貪る下劣な鳥に、神鳥の名は相応しくありません。討伐した暁には、相応しい名を与えて差し上げましょうか。……火食鳥ならぬ屍食鳥とか、どうです?」
「その愚弄、後悔するがいい! 生きたまま身を、はらわたを、啄んでやろうぞ!」
 カラス――『屍食鳥』達が翼をはばたかせ、特異運命座標たちへと向けて飛翔する。
「来るぞ。迎撃の準備を」
 愛無がそう言うのへ、合わせて仲間達は一斉に構えた。
「状況開始――援護します」
 鶫がそう言い、
「さあ雑魚烏ども! 喰えるもんなら喰ってみろ! 私の肉は旨いぞ!」
 ウィズィの言葉を合図に、イレギュラーズたちが一斉に、弾かれたように動き出す。此処に戦端は開かれた。屍食鳥たちは、その巨大化した足と爪をぎらつかせ、特異運命座標たちへと迫る。
 ウィズィはその真正面に立って、屍食鳥たちを引き付けた。巨大なナイフを翻し、刀身で爪と斬り合いを披露する。一発、ナイフで振り払い、続く二匹目の爪を、返す刃ではじき返した。残る三匹目がウィズィに迫り、ウィズィはナイフを使って受け止める。ぎり、と力強く圧され、ウィズィの身体が悲鳴を上げる。
「美味そうな肉じゃのう! 喰わせてもらうぞ!」
「ウィズィさん! サポートします!」
 きりが紡ぐ回復の術式が、ウィズィに放たれる。刹那、萎えた手が力を取り戻した。
「ぶっ飛ばしちゃってください!」
 きりの言葉に頷いて、
「逆鱗に触れたと思え……これが! 私の! 怒りだ! 烏共ッッ!!」
 ウィズィはナイフを力いっぱいに振り払い、弾き飛ばす――体勢を崩した屍食鳥へ、連続攻撃。
 悲鳴を上げて飛びずさろうとする屍食鳥へ、続いて迫るのは頼々だ。
「その足、角だな!? 死体を貪る卑しい鬼共め! 我が空想の刃の錆となれ!」
 頼々が抜き放つ『空想の刃』。その刃が屍食鳥の脚を捉えた。三本の脚を、まとめて斬り捨てる。
「角! 足! まとめて貰うぞ!」
 ぎゃあ、と屍食鳥が悲鳴を上げて翼をばたつかせる――その脳天に、鶫のグレネード弾が叩き込まれた。接触と同時に爆発した銃弾がその身体に呪詛をまき散らし、衝撃と呪いが屍食鳥の命を奪い、地に叩き落した。
「因果応報という言葉は御存知ですよね? その意味を反芻しながら、逝きなさい」
 冷たく、鶫は言い放つ。因果応報。まさに屍食鳥にふさわしき末路である。
「さて……人の言葉を解するならば、丁度いい。自身の変化に際して、なんぞ知っている事があれば吐くが良い。礼に、楽に死なせてやる」
 愛無が屍食鳥に言葉を投げかけた。動物が、突如として魔物へと変貌を遂げる……そう言った事件に対して、何か情報があれば。そう言った考えからの言葉であったが、
「お前は、自分が生まれ落ちた瞬間の事を覚えているのか?」
 返ってきたのは挑発の言葉。語る気がないか、あるいはもとより知らないか。しかし、こうなってはもはやどちらでも良い。
「ふむ。所詮は小賢しいだけの鳥か。よい。では、食事の時間だ。楽には死ねぬと思えよ」
 ずぞぞ、と愛無の腕より粘膜がにじみ出て、変貌を遂げる。それは、巨大な甲殻類の鋏のような形状だ。
 ふっ、と息を吐いて、跳躍する。一足飛びで屍食鳥の眼前にまで移動した愛無が、その巨大な鋏を振るった。
 屍食鳥の翼の中ほど辺りを、ハサミが食らいつく。ばぢん、と音を立ててハサミが閉じれば、メキメキと屍食鳥の翼が、中ほどからへし折れて切り裂かれる。
「がああっ!?」
 屍食鳥が悲鳴を上げ、残る翼をバタバタと羽ばたかせながらどうにか飛翔する。斬り落とした翼の欠片を取り込みながら、
「ふむ、やはり、不味いな」
 愛無がぼやいた。
「餌だと思った人間に、逆に狩られる気分はどうだ?」
 シガーの刃が、飛びずさる屍食鳥を捉えた。愛無が食らいついたのとは反対の方、残る翼を、シガーが切って捨てる。
 あああ、と悲鳴を上げて、屍食鳥が地に落着する。切り裂かれた翼をばたつかせ、何とか三本の脚ではいずるその姿を見て、シガーはため息をついた。
「なんでだろうな? ちっとも可哀そうに思えん……ま、当然か」
 シガーはその刃を振り下ろした。一刀両断の刃が屍食鳥の生命を断った。
「馬鹿な! 馬鹿な!」
 最後の屍食鳥が、仲間達の死体を見て、呻き声をあげる。
「こんなはずがない! こんなはずがない!」
「じゃあ、どうするつもりやったんや! 言うてみい!」
 叫びと共に、放たれるつつじの斬撃が、カラスの肉体を切り裂いた。肉を切り裂かれたカラスが、ひい、ひいと悲鳴を上げながら身体をばたつかせる。
「お前らは、ただ人を食っただけやない……命を冒涜したんや! その応報を……ッ!」
「ひ、ひいっ!」
 つつじの叫びに、屍食鳥は悲鳴を上げて飛び回る――そこに、先ほどまでの人を馬鹿にしたような色はなかった。
「臆病風に吹かれたか! 所詮は神鳥を騙る紛い物。焼き鳥になるのが怖いらしい!」
 秋葉は刃を振るい、叫んだ。ぎぎ、と屍食鳥は、雄たけびを上げながら、秋葉へと突撃を仕掛ける! しかし、秋葉は静かに息を吸い込むと、その刃を高く掲げた――途端。刀身に纏う神炎は激しさを増し、巻き起こるそれは煉獄の炎へと変わる!
「ああ、未だこの地にとどまりし霊魂たちよ。お前のたちの怒り、悲しみ――我が煉獄の憤怒の炎で叶え慰めよう!」
 振るわれる、煉獄の炎。放たれたそれは、寸分たがわず屍食鳥を打ち貫いた!
「ぎゃああ!」
 屍食鳥が叫ぶ。怒りの炎は、まるで屍食鳥を地獄へと引きずり込むように、その身体を這いずり、嘗め回した。やがて屍食鳥の叫びがすっかりと消えてなくなったころには、骨の欠片すら残さず炎に焼かれ、屍食鳥はその姿をこの世より消滅させたのであった――。

●カラスは飛ばず
 悪逆のカラスは、神使(イレギュラーズ)たちによって討伐された――。
 その知らせは、瞬く間に村中に広がった。元より小さい村であったが、情報の伝播速度は、そのまま住民たちの驚きと喜びを表していた。
「ありがとう……ありがとうございます……!」
 村長の家へと戻った特異運命座標たちは、再び歓待を受けた。と言っても、せいぜいお茶とお菓子を出された程度の小さなものだ。あまり大げさなものは、村人たちの体調などを勘案し、遠慮していたわけなのだが。
「悪鬼どもはぶち殺した。これからは大手を振って村を歩けるぞ。良かったな」
 はっはっは、と頼々は笑う。機嫌がよさそうなのは、鬼(と決めた相手)を討伐できたからであろうか。とはいえ、頼々のいう通りである。これからは、空を見上げて絶望する必要などないのだ。
「これからは、死者を餌にする事も無い……疫病に関しても、原因のカラスが死んだ以上、じき治まるだろう」
 シガーの言葉に、村長は何度も頭を下げた。
 本音を言えば、もっと早く、助けてやりたかった。
 だがそれは、傲慢な思いかもしれない。そう考えたから、シガーはそれを口には出さなかった。
「それから……差し支えなければ、なのだけれど……」
 秋葉が声をあげる。
「皆さんの送り方とは違うけれど、私のやり方で、被害を受けた皆さんを送ってやりたいの。もちろん、そこは皆さんの意志に従うわ……けれど、よければ、どうか」
 秋葉の言葉に、村長はしばし、考えるそぶりをした後、言った。
「分かりました。村のものにも確認し、それでよいと言う者だけでも良ければ、お願いいたします」
 村長は深々と、頭を下げるのであった。

「我が神よ。彼らの来世に幸ある物となる様に見守りたもう。畏み畏み申す」
 黒い炎が、煌々と燃え盛る。
 村の広場を借りた秋葉は、家族の了解を得た被害者、その魂を送るための儀式を執り行っていた。
「……これで、亡くなられた方の尊厳を取り戻せたでしょうか」
 ウィズィが炎を見上げながら、呟く。
「大丈夫ですよ。きっと……きっと」
 きりが答えた。
 黒い炎が、空へ、空へと、高く燃え盛る。地に満ちた悲しみを、空へと飛ばして浄化するように。
「あの鳥たちに次は無くなりました。だから、ゆっくりお休みなさい」
 きりが呟く。どうか、心安らかに眠ってほしいと、そのように祈りを捧げて。
 燃え盛る黒い炎が、村中を照らす。そんな光景を見ながら、愛無は、「らぶあんどぴーす」と静かに呟いた。
「しかし、この国は些か、それとは程遠いようであるな。まだまだ問題は山積と見える」
 愛無が腕を組んで、ふむ、とうなる。
 特異運命座標たちは豊穣に到着したばかりであるが、どうにもこの国にも、様々な事件が勃発しているようだ。
「こんなに怪異が多いとなると……私達の出番も、まだまだ多そうです。忙しくなりそうですね。色々と」
 鶫の言葉に、つつじが続いた
「うん。これ以上の悲劇は防いでいかんとな 」
 その言葉に、仲間達は頷く。
 黒い炎が、灰色の空を照らす。
 それは、地に満ちる人々の安寧と、特異運命座標たちの無事を祈願するようにも思えた。

成否

成功

MVP

糸杉・秋葉(p3p008533)
黄泉醜女

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 神を騙る魔の鳥は全て撃破され、今は村にも平穏が戻っております。
 

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