PandoraPartyProject

シナリオ詳細

饗応するもの、見定める者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ぴちょん……ぴちょん……
 水滴の落ちる音が仄暗い空洞に反響し、発せられては消えていく。
 多分な湿気を含む空気は独特の香りと涼しさを帯び、岩肌は水気で微かに滑る。
 仄暗いその奥地で、ぼんやりと放たれる火の光は空洞の闇に吸い込まれていた。
 それは、光の元で静かに座していた。
 ゆらりゆらりと揺れる光の揺れに合わせ、それの影もまた揺れている。
 その姿はこの地においてはあり触れたもの。
 そして彼らの地では旅人にて似た容姿を持つ者こそあれど滅多に見受けられないそれである。
「姿を見せよ。ここに入ってきたことは分かっている」
「……ははっ、流石はカガミの君。無粋な真似をして申し訳ございませぬ」
 そう言って陰より現れたのは一人の男。
 軽薄そうにも見えるその男の衣装はこの国においては一般的なそれである幅広の袖とゆったりとした嵩の大きな――狩衣と呼ばれるものだ。
「貴様が無粋なのはいつものことだ。それよりも……私の座を妨げた理由を述べよ」
「なに、いつもの暇つぶしィ――ッ」
 言い放ったその瞬間、男は息をのんだ。
 何もなく、ただひり付いた空気を受けて、男はそのまま肩を竦めて笑う。
「全く、驚くほど冗談が通じぬお方だ」
「貴様が戯言をほざくからであろう。本題に入れ。何もないのであれば邪魔立てするな」
「ふむ……そうですな。実は龍神様が目覚め、また眠られたようで……」
「そうか。是非もあらんよ。あれは此方と彼方を閉ざしていたのだというが……手を合わせずに眠ってしまうとはな」
「やれやれ……これだから求道者様は困りますな……」
 おおげさに首を振り、笑って男はちらりと座す相手――カガミの君、求道者へと視線を向ける。
 笑みを抑え、すぅ、と目を細めると、男は口元に手を寄せて、コホンと一つ。
「まぁ、ともかく。こたび、それを成した者共
 ――外界では特異運命座標と呼ばれる者達がこの黄泉津に足を踏み入れたとか」
 一瞬、影の身体が揺らぎを見せる。不明瞭な、それでいて明確な意思表示に男は楽し気に笑う。
「せっかくですし、その者たちと遊んでみてはいかがか? とお誘いに参った次第でございます」
「たしかに、腕利きがよくいるだろうが……それだけであろう。
 それがしはこの地で道を歩む、ただそれだけよ」
「まぁ、まぁ、そういわず。彼らは未来を変える者、不可能を可能にする者共だと聞きます。
 きっとカガミの君が目指す道においても良き刺激になるのでは?」
「……よくいうものだ。要するに、仕事ということでだろう。
 おおかた、それにその特異なんとやらも混ぜて」
「その通りでございます。カガミの君。なに、別にどうという事もありますまい。
 ただ――――そう、ただ、この度は私の大切な宝を盗んだ阿呆どもを討つのみでござれば」
「有象無象の雑兵を……か?」
 直接的に言わずとも、言葉の端々から伝わる剣呑とした色は、不快さを示しているに等しい。
 大した敵でもない者を相手にさせるなと言わんばかりの声は、しかし。微かに険をおさめる。
「たかが雑兵、十や二十屠ってもつまらぬが……その特異なんとやらに関しては、確かに興味がそそられる。
 いいだろう……その仕事、受けてやろう」
 影が、静かに動く。男はその様子を見て、くるりと踵を返してそそくさとどこかへ消えていく。
 男が立ち去って行ったその方角を、じろりとカガミの君は一瞥しどこかへと姿を消した。


「さて、特異運命座標の皆様方。ひとまず、黄泉津へようこそ、といったところですかな」
 胡散臭い笑み――正確に言うならば、扇子で隠れた口元は見えないが、目元の細め方だけでも胡散臭い。
 ともかく、男が君たちに視線を向ける。
「私はこの黄泉津が八百万の一人といったところ。名乗るほどではございません。
 実はですな、先だって我が家に盗人めが入りおったのです」
 なんともはや、忌々しいと言わんばかりにそう言いながら、男は言葉をつづける。
「そやつらは我が家の家宝の宝玉を盗み出し、この高天京が外、廃村だったとある村に逃げ延びたようなのです。
 まぁ、私はどうでもよろしいのですが、同胞の中には皆様に忌避を覚えている者もおります」
 一つ、男は咳をして、君たちの方を向いて順繰りにその姿を視線でなぞっていく。
「そこで、しがないただの八百万ではありますが、皆様にお仕事を差し上げましょうかと。
 ほら、実績を積んでしまえば文句も言われますまい?」
 広げて口元に持って行っていた扇子をぽふんと纏めながら、男は君たちに笑っていた。
「なに、よくある盗賊退治のお話でございます。
 まぁ、ざっと30人程度おりますが、所詮はただの盗賊ども。
 あの龍神様を眠らせた皆様であれば、そう苦労はしますまい」
 こてん、と首を傾げ「ね?」といわんばかりに笑う男に、君たちの反応はどうであっただろうか。
 混沌の他の国々のそれに比べれば、かなりのゆったりとした印象を受ける衣服から、しゅるしゅると、音が耳に付いた。

GMコメント

さて、そんなわけで初めましての方は初めまして。
お久しぶりな方はこんにちは。春野紅葉です。

和風テイスト、新大陸! こりゃあ出遅れるわけにゃいかねえ!
というわけで、1本、いかせていただきました。

それでは、さっそく詳細をば。


●オーダー
盗賊団の追討、および秘宝の宝玉の奪還。
宝玉が取り返せない場合、追討に成功しても失敗判定になりますのでご注意ください。

●戦場
高天京から小さなお山を1つ超えた向こう側、捨てられた村。

木造のちいさな住宅がいくつか点在し、屋根の上に盗賊が見張りとして立っている建物もあります。
この村の中で一番大きな建物がどうやら根拠地の様子。

リプレイ開始時点で皆さんの襲撃に気づいた盗賊たちはすでに待ち構えています。

●味方NPC
【カガミの君】
本質的に敵なのか味方なのかは今のところ不明です。今回は意図的に本気は出してなさそうですが……?
とはいえ、少なくとも今回のシナリオ中は皆様の味方として活動します。
目深に被ったフードのような何かの付いた外套に身を包んでおり、その容姿はうかがい知れません。
武器は和弓と日本刀っぽい何かが外套越しでも確認できます。

基本的には好き勝手に動いて敵を倒そうとします。何かしてほしいことがあればお願いしてみてもいいかもしれません。

●敵NPC
【盗賊頭】
皆様と同程度の戦闘能力を有する盗賊のお頭です。

<スキル>
打ち下ろし:物中貫 威力中 【体勢不利】【万能】
薙ぎ払い:物中扇 威力中 【致命】【失血】
焔斬:神中単 威力中 【炎獄】【弱点】

【盗賊】×30
槍を持つ者が10、日本刀を持つ者が10、陰陽師っぽい者が5、和弓を持つ者が5人おります。

<スキル>
・槍使い
叩きつけ:物中貫 威力中 【麻痺】
突き:物中単 威力中 【致死毒】

・日本刀使い
斬撃:物近単 威力中 【失血】
刺突:物近単 威力小 【連】

・陰陽師
攻性式符:物中範 無し 【物攻小UP】【神攻小UP】
治癒式符:神中範 【治癒】

・和弓
扇射:物中扇 威力中 【崩れ】
狙撃:物中単 威力中 【崩れ】

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 饗応するもの、見定める者完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月29日 23時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アト・サイン(p3p001394)
観光客
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
羽住・利一(p3p007934)
特異運命座標
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
糸杉・秋葉(p3p008533)
黄泉醜女
ヴァージニア・エメリー・イースデイル(p3p008559)
魔術令嬢

リプレイ


「いやあ、『飯の種』ってのはどこに行ってもいるものだねえ」
 村の中を視認できる距離まで来たところで、『観光客』アト・サイン(p3p001394)は少しばかり伸びをする。
 既に村の中では盗賊共が武器を整えている様子は確認できた。
「あぁ、どこにも悪党はいるものだな」
「ええ、どこの国にもこういう輩はいるのですね……」
 同意するのは『特異運命座標』羽住・利一(p3p007934)と『魔術令嬢』ヴァージニア・エメリー・イースデイル(p3p008559)だ。
 ヴァージニアはその一方で余罪があるのかにも思考を向ける。
「この地、豊穣郷では私たちは異邦人だ。信頼を得るには戦力、知力、敵意が無い事、そして任務の確実な遂行を積み重ねていかねばならない」
 そういった『エージェント・バーテンダー』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は今まで通りの仕事とばかりに動きを整える。
「我が世界では盗賊などはボーナスキャラと言われてまして……ええ、割と稼ぎがいいものでした。
 つまり信頼を得る為にも、報酬的にもこの上ない獲物と言う事ですよ!」
 そう言って興奮気味な『黄泉醜女』糸杉・秋葉(p3p008533)は天魔反戈を抱える様に持つ。
(でも私こう見えて重傷なんですけど…盗賊共に襲われて辱められちゃったりとか…ハアハア)
 内心ではそんな結構業の深い性癖の片鱗を垣間見せていたが、直ぐに気を引き締めていた。
(30名程の盗賊団……というと、結構なものね。今のカムイグラは、その規模で武装した賊が堂々と活動してる位の治安という事かしら)
(少し数は多いですが、まあ何とかなるでしょう)
 敵陣の数を眺めて思案する『月下美人』久住・舞花(p3p005056)と、同じように思案しつつもそう判断したのは『悲劇を断つ冴え』風巻・威降(p3p004719)だ。
「拙者はローレットの如月という者。今回は宜しくお願いするでござる。……貴殿を強き御仁と見込んでお頼みしたい事があるのでござるが一つ宜しいか?」
 ふらりと現れ、イレギュラーズに合流したフードに身を包む誰かに対して、『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は声をかける。
「お初にお目にかかる。余人からはカガミの君と呼ばれていたりする」
 静かに何者か――カガミの君が答えると、咲耶は頷いて用意しておいた依頼を口にした。
「貴殿がもし先に盗賊の頭と会ったならば、宝玉の隠し場所を知っているやもしれぬので生け捕りにしては貰えぬでござろうか。何、貴殿の気が向いたらでかまわぬ」
「それは道理だな。そうさせてもらおう」
 カガミの君はそう言って微かに頷いた様子を見せる。
(あれって本当に人間なんですか? ……何か巫女勇者の勘的にヤバい匂いがプンプンするんですが……)
 秋葉は佇むカガミの君の気配に勘としか言えぬ異様な物を覚えていた。
(弓と刀。武芸者、それも相当な使い手と見える。
 どういう意図を持っているのかは兎も角……やはり居るものなのですね、飛びぬけた『使い手』というものは)
 同様に舞花もカガミの君の力をなんとなしに感じ取っていた。
 彼女に加え威降、モカといった面々はカガミの君の戦いぶりに微かな興味を持っていた。
「じゃ、村も見えたし手筈通りに行こうか」
「しっかりと、後腐れの無いように対処しましょうか」
 アトに対してヴァージニアもそう言って頷いた。

 一番に接敵したのは利一だ。
「敵襲!!!!」
 敵の弓兵、建物の上に立つそいつがそう叫ぶ。
 わかっていたように動きを見せる敵陣へ、利一は圧縮された空気を弾く。
 空気ゆえの不可視たる弾丸は敵陣を貫通しながら複数の対象の肉をえぐり取る。
 続くようにたどり着いたモカは撃ち込まれた槍をすらりと交わして至近すると、複数の敵へと蹴撃を叩き込む。
 残像を引く強烈な蹴撃は毒蜂の群れの如き鋭さを有していた。
 対する敵の動きは鈍い。迎撃態勢を整えている一方で、圧倒的数の優位に胡坐をかいているのであろう。
 奥にいる頭らしき男に至っては左右を固める槍を持つ盗賊2人で固めこちらを見て笑っている。 
 奥の方にいた陰陽師らしき者がぶつくさ言いながら呪符を放ち、イレギュラーズの前衛と相対する者達を強化していく。
 それを受けた日本刀を持つ者達が走り出し、槍兵達が槍衾を形成する。
「突出するのは控えて! 逆に突出させろ!」
 言いながら、アトは手にした黒坑人のピースメーカーに銃弾をこめる。
 自己複製の性質を持つ魔法を過充填させた弾丸を、空に向けてぶちまけた。
 強烈な熱量を帯びるそれから散った火花はアトのクロークに当たって消える。
 敵陣へと降り注いだ熱を帯びた弾丸達はその身を焼いておびただしい流血を齎した。
 アト自身の傷は、じゅう、と音を立てて癒えていく。
 (このぐらいなら……彼の方を気にしながらでも戦える)
 威降は敵陣の後方にいる陰陽師たちへと狙いを定めながら、あくまで自然体だった。
 しっかりと敵の方を見ながらも、こちらの出方を見るようなカガミの君の方へも意識を向けていた。
 両手にはめた鋼の手甲へ静かに収束する魔力はやがて疑似的な妖刀となっていく。
 それをゆるりと振り抜けば、まっすぐに一人の陰陽師を捉えた。
 それは呪いの斬風。受けた男はふらりと威降の方へと足を踏み出した。
「お相手願いましょうか……」
 舞花は迫りくる敵へと割り込むように身を躍らせた。
 刀身に帯びた『気』が紫電となって火花を散らす。
 槍兵が叩きつけんと振り下ろす穂先をまるで先が見えているかの如く躱せば、すらりと伸びた刃が紫の軌跡を引いてその首を跳ねた。
「この度の初陣、見事勝利の文字で飾って見せよう……さぁて、いざ参ろうか!」
 その言葉を残し、咲耶は一気に走り出した。忍の名に恥じぬ俊敏な動きで疾走した咲耶の手には一本の妖刀が握られている。
 一番近い場所にいた日本刀を構えるそいつを相対するや、一歩、前に押し込んだ。
 順手に握る妖刀と敵の日本刀が触れ合うその寸前、後ろ手に抜い隠密刀が敵の首筋を貫いた。
「どう見ても死地ですね……」
 複数の槍兵に弧を描くような布陣で出迎えられて呟くのは秋葉だ。
「……やってやるよ、オラァ!」
 若干涙目になりながら叫んだ秋葉が抜くは神の刀。刀身は鮮やかに赤く熱され、秋葉自身をもその熱に焼かれていた。
 それこそは創造神をも殺す文字通りの神の炎。唯魂までその全てを焼き尽くす神威を振り下ろす。
 圧倒的な熱量による一撃は、防御の体勢を示した槍兵を呑み込むようにして古くさい防具を物ともせず斬り――いや、焼き裂く。
 焦げ付く嫌な臭いがした。
「――ここならいけますね」
 ヴァージニアは押し合いの始まりつつある味方の立ち位置を見ながら、ふいに立ち止まった。
 媒介となる魔術書がバチバチと音を鳴らす。
 詠唱と共に放たれた一条の雷撃は、敵兵の一部を焼きながら貫通していく。
 一連のイレギュラーズの動きを見たカガミの君が、不意に動く。
 俊敏な動きと共に、前線を構築するイレギュラーズとは異なり、軽やかに壁を蹴って屋根の上へ。
 そのままイレギュラーズめがけて弓を引き絞る弓兵へと近づき、刀を閃かせて斬り降ろす。

 日本刀が振り上げられる。その手首辺りを掴み、利一は自らの身体に残る力を強引に活性化させた。
 因果を歪めるその力は敵の手首を一瞬にしてぐんにゃりを折り曲げた。
 しかし、適合者でない利一の身体もまた、その力の余波が襲い掛かる。
 利一は掴んだ手首を引っ張るようにして敵の懐に潜り込むと同時、掌底を叩き込む。瞬間、敵が震えながら後退し、ぱたりと崩れ落ちる。
 その穴を埋める様に、再び敵が姿を現した。
 モカは体の身動きが鈍った敵目掛けて回し蹴りを叩き込んだ。
 上段を刈るような美しき脚さばきが敵の顎辺りに炸裂し、砕く。
「私を辱めるのか! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!」
 秋葉が叫ぶ。声高な叫び声に反応した日本刀を握るいくつかの敵。
 秋葉は神刀をおさめ、瞬く間に取り出した天魔反戈を一番近くの盗賊に向けて押し出した。
 冥神の力を帯びた矛に貫かれた盗賊は、その身に強烈な不運と、残り火でありながらも苛烈な焔に焼かれていく。
 威降と咲耶は乱戦の中、いつの間にか近くにいた。
「こうも数が多いと、数えるのも面倒でござるな……」
「敵があまり強くないからマシだけど……」
 互いに頷きあい、走る。
 ほんの一瞬、咲耶は妖刀を閃かせた。合わせるように動いた盗賊の槍を絡めとるように走った一撃が相手の心臓を貫く。
 そのほとんど同時、威降も自らにめぐる『気』を変質させ、振り下ろされる敵の日本刀に手甲を合わせ――疑似的な妖刀とかして鋭さを増したもう片手で敵の腹部を貫いた。
 舞花は敵との間合いを整えていた。
 静かなほんの一瞬、敵が動く。突き出されつつある槍を追い越し、身を躍らせる。
 敵の両肩を切り落とし、縫い付けるような最後の一撃が腹部を貫いた。
 ふと視線を巡らせたところで、屋根の上にいたカガミの君が矢を放つのが見えた。
 まっすぐに別の屋根にいた弓使いの眉間を打ち抜いた。
 魔力をこめた魔導書が輝く。
 ヴァージニアは目を閉じて、深呼吸する。かすかに聞こえてくる敵の動き、その一か所めがけ、雷の矢を放つ。
 まっすぐに駆け抜けた矢は数人を巻き込みながら最後の陰陽師を貫いた。


 アトはちらりと敵の方を見た。
 圧倒的な数の利を有する盗賊だが、会敵してよくわかる。一人ひとりの実力は大したことはない。
「少しずつ前へ進んで! ひとまずは近接部隊を抑えよう!」
 そう言いながら再び銃弾をこめるアトは、もう1つ盗賊たちの弱点に気づいていた。
(実際のところ、こいつらは集団戦に慣れてない。数の利があっても押し返せるのがその証拠だ。あとは……敵の頭を狙えるところはどこだ……)
 少しばかり目を細めながら、敵の様子をつぶさに見る。
 実のところ、今回の面々はあまり持久戦に向かない。
 体力に自信のある猛者が多いとはいえ、専任のヒーラーがいるわけでもない。
 多勢を相手にすれば否応なく傷は増える。
 だからこそ、ある程度までで数減らしが終わせ、一気に頭を狙えなければ押し負ける。
(数減らしはある程度……前衛が頭を捕まえられればそれが一番……)
 そう考えるアトの目に、一筋の道筋が見えた。
「――そこだ! 敵左翼、薄いところがある! そこが一番、敵の頭に近い! 援護班、前衛をブロックして! 道を作るんだ!」
 叫ぶ。それに最初に反応したのは、利一だった。
「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ! 神使が一人、羽住利一此処にあり。盗賊風情にやられはしない!」
 利一は敵の多い場所へと移動すると、大喝した。
 反応したの敵は多い。
「風巻流小太刀術皆伝、風巻・威降! 雑兵ども、相手になってやる!」
 続くように威降も意図的にそれっぽくなるよう口調を変えて叫ぶ。
 出来上がった道筋の向こう側、盗賊頭の口がぽかんと開く。
「な、なななな!? 馬鹿な! て、てめえら! 俺を庇え!」
 最初に道を走り抜けたのはモカだった。3人の下へと疾走する。
「邪魔だ!」
 頭の指示に従うように立ちふさがってきた槍使いの盗賊へと更なる超加速からの蹴りを見舞う。
「異国の漢も案外小さいものよ。数で攻めねば虚勢も張れず、挙句の果てには一人だけ助かろうとは!」
 そう笑って、咲耶は手裏剣を放った。放たれた手裏剣は盗賊頭の身体に癒えぬ傷を齎し、その痛みに呻いた盗賊頭の意識が咲耶に向く。
「あなた様は、退いてください」
 モカに蹴られたのとは別の槍兵がイレギュラーズに立ちふさがろうと動く中、ヴァージニアはぽつりとつぶやき、詠唱する。
 放たれた青色の衝撃波がそいつを吹っ飛ばす。
「フハハハ! 死に晒せぇ! 死んだら我が神の許に逝くがいい!」
 巫女や勇者がおおよそ言わなさそうなセリフと共に、秋葉は両手に持つ武器を振るって盗賊頭めがけて突っ込んだ。
 天魔反戈による刺突が盗賊頭に傷を付け呪いを刻み付ける。
 舞花は体勢を立て直し損ねた盗賊頭へと踏み込んだ。
 次の瞬間、振り抜いた紫電が、大きく敵を切り裂いた。


 盗賊頭を切り伏せた後、イレギュラーズが振り向いたとき、既に残党のほとんどは四散しつつあった。
 逃亡し損ねた数人を捕縛した一同は、盗賊頭をかこっていた。
「ねっ、教えて下さいよ……それとも痛い思いをして吐かされるのがお好み?」
 火之迦具土を抜いて尋ねる秋葉の問いに、盗賊頭はすぐにぽろっと宝玉の在りかを告げた。

 宝玉を押収したイレギュラーズの方をカガミの君はじっと見つめている。
「こちらの頼みを聞いてもらって助かったでござるよ」
「道理であると思ったまで。無事見つかったようで何より」
 言葉数少なに語る言葉には一切の疲れは見えない。咲耶がこくりと頷くのに合わせるかのように、カガミの君がイレギュラーズを見渡した。
「少しばかり興味があった程度だったが……全く、面白い。特異なんとか――いや、覚えきらぬ単語では格好もつかぬし、こちらの言葉で言わせていただこう。神使諸君」
 そう言ったカガミの君の声色は、これまでと打って変わって明確に愉快げだった。
 興奮と歓喜に揺れ、堪えきれぬように笑うような、そんな言葉の後。
「別に集団戦を追求したわけでもなかろうに統一された連携、驚くべきことに誰一人として先駆けを尊ばず、一人ひとりでありながら軍のごとく。
 諸君らが合わせて尚、静めるに過ぎなかったという龍神もすさまじきモノであったのだろうな……」
 そこまで続けると、感嘆のように溜息を吐いたように思える。
「また会おう。次もまた共に戦えれば面白いが……そうでないのであれば、互いに全力を賭したいものだ」
 そういうや、カガミの君は先に踵を返そうとして――ふいに立ち止まる。
「あぁ――そうであった。そこのお嬢さん……あぁ、いや。見た目はなので気分を害させたらすまないが……」
 くるりと、もう一度イレギュラーズの方へ向いたカガミの君の視線は、まっすぐに秋葉を向いている。
「私です? ……何か」
 勘としか形容できぬもので警戒を解けない秋葉に対して、カガミの君は頷いた。
「そうだ。貴女が何を想定しているのかわからないが、まぁ――恐らくは、貴女が思っている類の化生ではないよ。
 安心したまえ……ただ、その警戒心は解かぬことだ」
 カガミの君は再び踵を返し――ぽつりとその言葉をつぶやいた。
「敵と思える者が味方で、味方に思えるものが敵である、などということもある」
 イレギュラーズがその言葉の意味を問い返す前に、カガミの君は開始と同様に見せた軽快な足捌きで遥か遠くへと駆け抜けていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

ドキドキワクワクの新天地、私からお送りするシナリオ第一弾はひとまず終了です。

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