シナリオ詳細
Mariée de juin
オープニング
●誰かの心
ここまで来るのに、どれほど回り道をしただろう。
眠れない夜もあった。飲まねばやれない日もあった。何度涙で枕を濡らしたかなんて、覚えていない。
張り裂けそうな胸へ金属のタガを巻いて、どうにか日々をやり過ごしてきた。限りなく絶望に近い道のりを、歩いてきた。
そして夜明けはやってきた。
この胸に燃え盛る炎が成就するその日が。
あふれそうな涙は今まで流した痛みとは違うもの。
重く冷たいタガは弾け飛び、本来の軽やかさを取り戻した。
あとはもう手を取り、踊るだけ。
●チャペルにて
雨が降り続いている。しとしと庭の紫陽花を濡らす雨はまるで涙のようだ。
「……せっかくの祝日だというのに残念ですメェ……」
礼服に着替えたムー・シュルフ (p3p006473)はチャペルの大きな窓から下界をのぞいていた。
暗雲立ち込める空は鬱々と重く、雨雲は去りそうにない。ここはBarPhantom近く、礼拝堂の三階にあるこじんまりとしたチャペル。晴れの日はまるで青空に包まれているかのような気分になれる。だというのに、梅雨、空梅雨は作物に影響がでるから自然の営みを考えればこれでいいのかもしれないけれど、せめて今日だけは晴れてほしかったと華蓮・ナーサリー・瑞稀 (p3p004864)は思う。
「本当にもうお天道様ったら間の悪い! 少しくらい顔を出してくれてもいいじゃないの!」
ついつい仏頂面になってしまう華蓮に、ポテト=アークライト (p3p000294)も重々しくうなずいた。
「華蓮のいうとおりだな。いくら天気予報通りとはいえ、今日のこの日くらいはと考えてしまう」
大きくため息をついたポテトにリゲル=アークライト (p3p000442)はつい笑みを誘われた。手を伸ばし、愛妻がため息をついたついでに少しずれてしまったドレスの襟元を直してやる。
「こればかりは運だからなんとも言えないな。天気に向かって恨み言を言っても始まらない。ここは俺たちでいかに盛り上げるかを相談しようじゃないか」
「そいつはありがたい」
背後からの声に、リゲルは振り向いた。そこにはウェディングコーディネーターを連れ、輝く真白のタキシードを粋に着こなしたジェイク・太刀川 (p3p001103)が立っていた。
「こんな天気だってのに、集まってくれてありがとうよ。礼を言うぜ」
「水臭いことを言うなよ、俺たちとジェイクの仲じゃないか」
そこまで言ってリゲルはふと表情を変えた。
「そうか。ジェイクがここに居るという事はもう式の時間なんだな。えっと、俺たちは席に座って待っていればいいんだったか」
「ああ、あとは神父役がうまいことやってくれるぜ」
「……式はチャペルで上げて、披露宴はBarPhantomでやるのでしたかメェ……」
ムーの言葉にジェイクはうなずいた。
「今日のために貸し切りだぜ。ドリンクもフードもいいものを吟味してある」
楽し気に言ったジェイクの言葉を皮切りに、皆次々と席へ座った。あとは花嫁の到着を待つばかりだ。
●楽屋にて
「寸法はどうだい?」
「ぴったりで御座います」
夜乃 幻 (p3p000824)は機嫌よく武器商人 (p3p001107)へ返した。
「僕の体に沿うかのようなライン。身の引き締まる思いです。素晴らしいドレスをありがとう御座います、武器商人様」
「その微笑だけで充分な対価だよ。歓びに頬を染めて装うキミは何にも代えがたい魅力を持っている」
「……ん…。…どんなメイクも…花嫁の輝く笑顔にはかなわない…。…俺にできるのは…ただ花を添えるだけだ……。」
化粧を担当したヨタカ・アストラルノヴァ (p3p000155)も、心からそう感じた。
さあ時間だ。今日と言う日をもってさなぎは羽化し蝶になる。
幻が立ち上がる。その時だった。窓から光が差し、幻はまぶしさに目を細める。雲間から天使の梯子が降りていた。
「……天気雨だよ、幻…ほら…虹が……。」
天からの祝福を受け、ウェディングドレスが神々しいほどの輝きを見せた。
- Mariée de juin完了
- GM名赤白みどり
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年07月04日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●セピアなんかじゃない
硬い靴音が廊下に響く。窓から見えるのは、虹。ジェイクは目を細めてそれを見上げた。
天気雨だった。さらさらと清い雨の音がチャペルを包み、青空には虹。控室の前に立つと話し声が聞こえてきた。
「大丈夫だよぅ。そんなにトラウマになっちまったのかい? 太刀川の旦那の狂言が」
「…うん、うん、不安だな…。…わかる…わかる…。」
胸の奥、ナイフを突きさしたかのような痛みが走った。
(幻……もしかして俺との式を躊躇してるのか? まさか、そんな……)
冷たい汗がジェイクの背に浮かび、ノブへ伸ばしたままの手が震える。迎えに来たはずなのに、どうしてもこの扉が開けられない。
「困ったね。ほらお守りに花冠をあげよう。安心おし。手前味噌だけども、ちょっと前ザミエルの旦那へ一泡吹かせたお墨付きだよぅ」
「……そんなに気になるなら…やりなおそうか……?」
なにを? 何をだ、一体! 幻!
「どういうことだ、幻!」
気が付くとジェイクは扉を押し開け、部屋へ踏み込んでいた。そこに居たのは……目が覚めるほど美しい花嫁姿の幻だった。白皙のきめこまやかな肌を包む優雅なスレンダーラインのウェディングドレス。たっぷりとしたドレープとクラシックレースが奏でるハーモニー。夢見るような面差しはそのままに、驚きに目をぱちくりさせている幻。魂が消えると書いて、たまげると読む。ジェイクは幻の可憐さに不安も焦燥も押し流されてしまった。
「ッ、ジェイク様。お待たせして申し訳ありません、まだ支度が終わらっておりませんので、その、見ないでくださいませ……」
幻はうつむき、顔を覆い隠したまま早口でまくしたてた。そんな仕草すら初心で清純な幻の一面を自分だけに見せてくれているような。引き潮のようにまっしろになっていたジェイクのもとへ、津波と化して感情が押し寄せた。抱きしめたい。今すぐ、この人を。
「……幻」
一歩踏み出すと、まるでおびえるように身じろぎする幻。ヒヒ、と笑われてようやくジェイクはその場へ武器商人とヨタカもいることに気づいた。
「……すまないジェイク…。…リップの色が決まらないんだ…。…そうなるとチークも変わってくるし、アイメイクも…俺はもっと目力盛ったほうがいいと思うんだが…。」
「いーや、そんなのただのいいわけさ。聞いておくれよ旦那。このプリンセスは急にマリッジブルーになっちまって、すっかり落ち込んでるのさ。ひとつ発破をかけとくれ」
「そうなのか、幻」
幻はしばらく震えていたが、やがて小さくうなずいた。幻にとって、ジェイクの言葉だけが自分を測る基準だ。それを踏み壊された恐怖がよみがえり、心は血を流している。その傷を塞ぐことができるのも、やはりジェイクだけなのだ。わかっていたから、ジェイクは幻へ寄り添った。
「綺麗だ」
本当ですか、と幻は蚊の鳴くような声音で答えた。子供じみたやり取りだけれども、これは必要な儀式なのだ。太陽が氷を照らすように、ジェイクは辛抱強く幻を褒めたたえる言葉をくりかえす。
「綺麗だ、幻。綺麗だ」
「本当に、本当ですか?」
「ああ、綺麗だとも。俺にはもったいないくらいだ」
「そんなこと言わないでください! 僕は、僕はジェイク様だけの花嫁になりたいのに!」
勢いよく顔をあげたあとで、幻は自分の放った言葉にぼっと赤くなる。再びその両手が帳になろうとするのを、ジェイクは優しくもしっかりと抑えつけた。
「キスも愛の言葉も、式のためにとっておくぜ。なに、少しくらい遅れたって構やしねえ。待ってるぜ、幻」
至近距離でささやかれ、幻は「はい」とうなずくしかなかった。
「ジェイク様」
「なんだ?」
「僕は……綺麗ですか?」
「ああ、天から降ってきたみてえだ」
「そう、ですか……誰よりも?」
「誰よりも、何よりも、綺麗だ。幻、おまえしか見ていない」
ジェイクの言葉が、じんわりとぬくもりをもって幻の心へ染み入っていく。うれしくてたまらないと、顔に書いてある。
「はい、ジェイク様。すぐに支度を終えますので。しばしお待ちを」
憑き物が落ちたように、幻はにっこりと無垢に笑った。再び現れた幻は、引きずるようなマリアベールを深くかぶり、白薔薇の花冠をしていた。ベールのせいで幻の顔はよく見えなかった。しかし喜びに包まれていることは一目で感じられる。ジェイクは手を差し出し、幻と腕を組んだ。
静謐な廊下を、二人、歩いていく。青空に包まれた景色は、空中庭園を思い出させた。
『Welcome to the wedding of Jake & Yume』
式場の前に置かれたウェルカムボードを見た時、二人は背筋の伸びる思いがした。丁寧な手書きのカリグラフィで綴られたウェルカムボードは、ムーの自信作だ。会場のセッティングを一手に引き受けてくれたのはムーだった。このボードも喜び勇んで作ってくれたのがわかる。ありがたいことだと視線を交わしあい。大きな扉の前に立つ。
「新郎新婦、入場」
凛とした声が響き、観音開きの扉が内から開かれていく。純白で統一されたチャペルは眩しいほどだった。きっちりとしたドレープをきかせた布で長椅子が飾られ、白薔薇と青薔薇で縁取りしてある。正面には神父役のリゲル。最前列の来賓席には義母の華蓮。列席者はポテト、ムー、先回りした武器商人とヨタカ。あたたかな拍手が沸き起こる。万感の思いが二人の胸を支配した。
「こちらへ」
黒いガウンをまとい、ロザリオを身に着けたリゲルがそう言う。やや張り詰めた声は、大仕事を任されたからなのかも。席にいる妻ポテトが、がんばれと穏やかな視線を投げかけている。慎ましやかなロイヤルブルーのカクテルドレスにシルバーのショールがよく似合っていた。
拍手に包まれたまま、ジェイクと幻はバージンロードを歩く。一歩、一歩、しっかりと踏みしめながら。緊張と多幸感でくらくらする。まだ式は始まったばかりなのに。
その姿を眺めていると、ポテトの胸にもこみあげるものがあった。
(幻とジェイクの結婚式か……。いろいろあったけど、今日の良き日を迎えられて良かった。あの美しい虹、二人の門出を祝うにはピッタリの日だな)
義母の華蓮もまたくすりと笑みをこぼす。
(素晴らしい日に素敵な新郎新婦、ふふ……ちょっと嫉妬しちゃうくらいだわね)
そう思いながらも華蓮の視線は柔らかい。
途切れることなく、両手が痛くなるほど拍手をしながら、ムーは号泣していた。
(…幻様が漸くご結婚されて…メェェェェ…。…一時は食事も取らず酒に溺れていた幻様が健康になって…メェェ…メェェェェ…。…本当はあんなダメ男は嫌ですメェ…。…でもふたりの門出を祝いますメェ…)
ヨタカも目元が赤い。鼻をすすり上げ、今にも泣き出さんばかりだ。
(……とうとう、幻とジェイクが結婚か…ここまでにいろいろあって、心配したけど……そんな荒波を乗り越えてきたのを俺は仲間として見ている……。…最高の…挙式に…ダメだ泣けてきた……。幸せな花嫁と花婿…俺もいつか…ああなりたい……)
目頭が熱い。隣の武器商人へヨタカは手を伸ばす。
「紫月、挙式中…手を握ってて貰えないだろうか…?」
「はい、はい……ちゃんとつないで手あげるよ、かわいい我(アタシ)の番」
ヨタカの手を握りしめ、武器商人は視線をジェイクと幻へ戻した。
(いつの時代も愛し合う二人が挙げる式というのは実に愛しいものだね。特にあの二人は此処まで来るのに一波乱どころの騒ぎじゃなかったし……廃滅病の件は……本当に、うン、我(アタシ)もその場に居たしね。……おめでとう、幸福な娘。白薔薇の花冠、アクセントに編み込んだ青薔薇が映えてるね。我(アタシ)が白薔薇を与えてやったあの娘と恋人のように、この二人も、この先も大丈夫さ)
拍手は続いている。喜びの涙も。拍手が終わった時、ジェイクと幻はリゲルの前に立っていた。リゲルは真面目な顔で、聖書を手に祈祷文を朗読し始めた。
「汝らは神の選びたもう聖なる者また愛せらるる者なれば、慈悲、仁慈、謙遜、柔和、寛容を忘るることなかれ。またもし責むべき事あらば互いに赦せ、神の汝らを赦し給へる如く汝らも然すべし。凡て此等のものの上に愛を加へよ、愛は徳を全うする帯なり。平和をして汝らの心を豊かならしめよ、汝らの召されて一対となりたるはこれが為なり、汝ら感謝の人となれ」
神妙な面持ちで説教を聞くジェイクと幻に、リゲルは「宣誓を」と伝えた。
「夫ジェイクは病めるときも、健やかなるときも、真なる愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「誓います」
「妻幻は病めるときも、健やかなるときも、真なる愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「……」
幻は押し黙っている。すわ何事かと会場中の視線が集まった時、幻は声を絞り出した。
「……ち、誓い、ます……」
涙声だった。そういうことかと察したジェイクは「ありがとな」、とリゲルへ耳打ち。リゲルは照れくさそうに笑った。
「さあ、ここからが本番だぜ、幻」
「……はい」
二人は向き合った。
「私ジェイク・太刀川は病めるときも、健やかなるときも、妻への感謝の気持を忘れず、生涯にわたり妻を支えて、共に幸せになることを誓います」
今日だけは紳士に、真摯に誓おう。
「私夜乃幻は病めるときも……うぅ…健やかなるときも…グスッ…夫への感謝を忘れず、生涯にわたり夫を支えて…ううっ…共に幸せになることを誓います…グスッ」
平然と笑って宣誓などできない。それだけの想いを、道のりを、歩いてきた。
「指輪の交換を」
リゲルに促され、ジェイクは幻の手を取った。カチカチに硬いその華奢な手に苦笑しながら、左の薬指へ狼と蝶をあしらったプラチナにダイアモンドの輝きを乗せたリングをはめた時、様々な思いがジェイクの胸を去来した。
思い出はセピア色だなんていうけど、俺の中であの瞬間は今でも鮮やかだぜ。幻。おまえの名のとおり、まぼろしかと思っちまったよ。ひっそりとした空中庭園で静かにたたずむおまえを目に入れた瞬間、世界が変わったんだ。よく覚えているとも。全身に衝撃を受けた俺はさぞかし間抜けなツラをしていただろうさ。だけど幻、あの瞬間俺は理屈じゃなく魂で理解したんだ。この人が俺の『運命の女』だと。幻、回り道、したな。辛い思い、させちまったな。あの時はそうするのが一番だと、それがおまえのためだなんて……おためごかしはやめとくぜ。幻、俺はただおまえの泣き顔を見たくなかっただけなんだ。俺のせいで涙をこぼすお前を、最期の瞬間この目に焼き付けるんだと考えるとやりきれなかったんだ。馬鹿なふりで馬鹿な芝居して、これで縁が切れたらなんて淡い期待抱いて、本当はおまえに本気で嫌われるのが死ぬより怖かったくせにな。身勝手なのはわかってるけれど、苦しかったぜ。幻、おまえのいない日々は驚くほど無機質で灰色だった。失って初めてわかるなんざ、我ながら笑えねえジョークだ。ああ、まったく、そうさ幻、俺はおまえに完敗だぜ。こんな俺をまっすぐに愛し抜いてくれる、なあおまえってばどこまでいい女なんだ? 俺の一挙一動に喜んだり悲しんだり、俺の一言に傷ついたり笑ったり、その真摯な瞳に俺が映るたびに、俺も変われたぜ。昨日よりも今日、今日よりも明日、幻、おまえを幸せにできる俺になりたい。
ぼろぼろと、涙をあふれるにまかせ、幻がジェイクの大きな左手の薬指へ結婚指輪を。
想い出はセピア色と申しますが、僕にとってジェイク様と過ごした時間一つ一つが美しく磨き上げられた宝石なのです。どうして色褪せることが御座いましょう。最初の一粒は、あの空中庭園のタイガーズアイ。振り向いたその瞬間、心臓を撃ち抜かれたのです。ジェイク様、あなたの瞳、あなたという弾丸、あなたそのものに。それからはデートへの期待そのままにキラキラ光る歓びのチトリーノ、夜道を歩くなんてことない時間を凝縮したパライバトルマリン、頭を撫でていただく時のジェイク様の笑みとぬくもりのピュアクリスタル……ひとときの別れのアレキサンドライト、夜ごとおぼれ涙を閉じ込めたアンバー、かの廃滅漂う海を思わせる歪なコーラル、そして共に進み共に戦ったあの日あの場のガーネット……今日のこの空のようなサファイア。不揃いで形もカットもバラバラなそれを、僕はティアラにして誇らしく戴きましょう。ジェイク様。僕は幸せです。ジェイク様さえお傍に居てくだされば、僕は幸せなのです。奇術にしか興味のない小娘かもしれないけれど、いつもどんな時でも精いっぱいをジェイク様へ捧げます。何故で御座いましょう。ああ、舞台の上、普段ならするすると言葉が口を突いて出るのに。今日は、今日だけは、僕たちのためだけに用意されたはずの舞台で、うまくしゃべれないのです。ふつつか者ですみません。けれどもこれからは、うまくいかない時も、ふさぎ込んだ時も、お互いに手を取り合い、共有し、新しい輝きを集めて参りましょう。
ジェイクがベールを上げた。もはや二人を隔てるものは何もない。
ほとほとと零れ落ちるなみだひとつひとつが愛おしく、ジェイクは幻を優しく抱きしめた。呼吸を合わせているうちに、固くなっていた幻の体が柔らかくなってくる。頃合いを見計らい、ジェイクは幻の頤をそっと持ち上げる。恥ずかしいのか、幻の頬へさっと朱がさした。
幻の唇はやわらかく、心地よく、いつまでもこうしていたい思いに駆られた。
「愛してる。もう二度と離さない」
「ジェイク、様、僕も…僕も…僕もです…ジェイクさま……」
夫の胸へすがりつき、声を上げて泣き出した妻を、夫は受け止め頭をなでてやる。
「今、この両名は夫婦たる誓いをせり。神の定め給いし約定、何人もこれを引き離す事あたわず」
リゲルが厳かに告げた。
●
「はい、じゃあちょっと巻きで行くわよ! 披露宴司会進行の華蓮よ、新郎新婦、入場!」
BarPhantomへ揃った一同は、お色直しをしたジェイクと幻に歓声を上げた。
ジェイクはカジュアルだが品格あるグレーのタキシード。幻はディープブルーへ青薔薇と青い蝶、そして星がちりばめられたフィッシュテールドレスに、引き続き白薔薇の花冠。生花を使っているはずなのに、不思議と新鮮で朝露に濡れているかのようだ。
テーブルの上にはポテトとムーの料理が満載だった。一同、しばらく会食にふける。海鮮のジュレ乗せに冷製スープ、夏野菜と白身魚のサラダ、ホタテのテリーヌとステーキはポテトの腕によるもの。
幻の好物ばかり作ったのはムー。ローストビーフに各種テリーヌ、野菜とチーズのタルト、ベリーのムースに琥珀糖、お客様用にはアップルパイと得意のカクテルを……そしてポテトと二人で作り上げた。ウェディングケーキ。
「ケーキ入刀!」
華蓮のはずんだ声に合わせ、二人は初めての共同作業に挑戦した。無事手作りケーキは切られ、ファーストバイトへ。スプーンに乗せたケーキを幻とジェイクが食べさせあう。幸せの絶頂はこんな感じなのだろうかと幻は思ったが、こんなのは序の口だった。
「おめでとう二人とも」
「ご結婚、本当におめでとう!」
「はは、うれしいぜ。ありがとうな」
「お二人のような仲睦まじい夫婦になります」
「感慨深いな……このペアワイングラスは光に応じて虹色に反射する。奇術師である幻さんに似合うと思ったんだ。ジェイクさん、幻さんの事をよろしくお願い致しますね!」
「私からはこの赤と白のワインセットを。良かったらリゲルのグラスで楽しんでくれ」
ふたりは厚く礼を言い、プレゼントを受け取った。
「…二人とも幸せになって下さいメェ…。ジェイク様、幻様を今度泣かせたらただでおきませんメェ…」
「肝に銘じておくぜ」
「ありがとうムー。いつも僕を見守ってくれて」
「…幻様が幸せならこれに勝る幸福はありませんメェ…」
ムーはまたハンカチで目頭を抑えた。店内へ低く流れていたジャズが途切れる。
「……ジェイク、幻…結婚おめでとう…旅一座の代表として…二人のために歌を贈るよ…聞いて欲しい。『この素晴らしき恩寵を』。」
ヨタカにあわせて武器商人もヴァイオリンを取り出したので、皆驚いた。ヨタカのソロから演奏が始まり、武器商人の奏でる旋律がシルクのようにそれを包み込む。
異世界の独特な旋律は、ヨタカの父母の結婚式でも演奏された思い出の曲だ。外つ国の歌詞は誰にもわからなかったが、そこへ込められた確かな祝福は二人の胸を打った。
「ありがとう団長、よかったよ。これからも夫婦共々よろしくな」
「団長、料理頑張ってください。武器商人様、団長をお願いします」
最後に、華蓮が二人の前に立った。
「幻さん、ジェイクさん、本当におめでとう。ここまで来るのに大変な道のりだったのを見てきた……そして私が見ていた以外にも沢山の試練があったのだと思うのだわ。今日という日を迎える事が出来たのは、二人の努力の結晶なのだわよ。これからの日々が輝かしい事を……どんな事があっても二人がそれを乗り越える事を……信じると同時に祈ります」
母の愛に感じ入った二人は言葉もなく、ジェイクすらも涙をこぼした。それはバーの床で円を描いていた幻の涙と重なり、溶け合った。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
なんでリプレイって7000字しかかけないの(あほのこ)?
それはともかくおめでとうございます! がんばった、超がんばったですね!
「おまえら尊いんじゃ、孫子の代まで呪ってやる幸せになれ!」と念じながら書きました。どうかおしあわせに。
GMコメント
リクエストありがとうございました。
えー、まずは
\おめでとうございます/
こういったPCさんの節目となるシナリオを任せていただけるのは、GM冥利に尽きます。
すっきりさっぱりしたOPになりましたが、そのぶんリプレイでじっくりたっぷり描写していきたいと思ってます。
流れ
1)青空チャペルで虹をバックに挙式(宣誓→指輪の交換→誓いのキス)
2)BarPhantomで披露宴(二次会→客賓からの祝福の言葉→余興があれば)
神父役はどなたか立候補してもいいですよ。
服装はプレへどうぞ。字数が許す限り描写します。
(なんとなくマーメイドドレスが似合いそうな気がする花嫁さん)
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